特許第6641057号(P6641057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6641057セメント混和材、膨張材、及びセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6641057
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】セメント混和材、膨張材、及びセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/06 20060101AFI20200127BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20200127BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20200127BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20200127BHJP
   C04B 103/60 20060101ALN20200127BHJP
【FI】
   C04B22/06 Z
   C04B28/02
   C04B22/08 Z
   C04B22/14 D
   C04B22/08 A
   C04B22/14 B
   C04B103:60
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-132910(P2019-132910)
(22)【出願日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年7月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】島崎 大樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】荒野 憲之
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−084413(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/114877(WO,A1)
【文献】 特許第6568291(JP,B1)
【文献】 国際公開第2012/105102(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離石灰、水硬性化合物を含有し、化学成分としてSrOを含み、無水石膏を含有せず、
前記遊離石灰の含有量が、前記遊離石灰と前記水硬性化合物との合計100質量部に対して、10〜98質量部であるセメント混和材。
【請求項2】
前記SrOの含有量が、前記遊離石灰と前記水硬性化合物との合計100質量部に対して、0.001〜5.0質量部である請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
化学成分としてさらに、ZrOを含んでなる請求項1または2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
前記ZrOの含有量が、前記遊離石灰と前記水硬性化合物との合計100質量部に対して、0.0001〜5.0質量部である請求項3に記載のセメント混和材。
【請求項5】
ブレーン比表面積が、2,000〜6,000cm/gである請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント混和材。
【請求項6】
体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30〜60体積%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5〜4.0である請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント混和材。
【請求項7】
前記水硬性化合物として3CaO・Al、3CaO・3Al・CaSO、3CaO・SiO、2CaO・SiO、4CaO・Al・Fe、6CaO・2Al・Fe、6CaO・Al・Fe、及び2CaO・Feからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のセメント混和材。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載のセメント混和材からなる膨張材。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有してなるセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、土木・建築分野において使用されるセメント混和材、膨張材、及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント・コンクリートのひび割れ低減は、コンクリート構造物の信頼性、耐久性、美観等の観点から重要であり、これらを改善する効果のあるセメント混和材、すなわち、セメント系膨張材のさらなる技術の進展が望まれている。
【0003】
これまで、少ない添加量で優れた膨張特性を有するコンクリート膨張材(特許文献1)や、遊離石灰の表面を炭酸カルシウムで被覆したセメント用膨張材(特許文献2)等が提案されている。また近年、膨張材と収縮低減剤の併用が提案されている(特許文献3)。
一方で、カルシアと酸化ストロンチウムの固溶体からなる耐消化性カルシアクリンカーが提案されている(特許文献4)。一方で、アルミン酸三カルシウム、せっこうと水が反応して膨張成分としてエトリンガイトを生成する膨張材が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4244261号公報
【特許文献2】特開昭54−93020号公報
【特許文献3】特開2003−12352号公報
【特許文献4】特開昭57−205363号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】膨張コンクリートによる構造物の高機能化/高耐久化に関するシンポジウム委員会報告書、2003年9月19日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の膨張材は、材齢7日まで膨張する特性を有する。しかし、乾燥収縮挙動は膨張材を混和していない場合とあまり変わらないという課題があった。また、膨張材と収縮低減剤の併用は乾燥収縮の抑制に効果はあるが、長期強度発現性が低下する課題があった。
なお、上記特許文献4に記載の耐消化性カルシアクリンカーは、塩基性耐火物原料として用いることを目的としており、セメント・コンクリートのひび割れ抑制を目的とした膨張材として用いることについて何ら記載はない。
【0007】
以上から、本発明は、セメント・コンクリート打設後の初期材齢(例えば、材齢2日〜7日)にかけてセメント・コンクリートに大きな膨張を付与し、乾燥収縮ひずみを抑制し、長期強度発現性の低下を抑えることが可能なセメント混和材、膨張材、及びセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明者らは、遊離石灰、及び水硬性化合物を含有し、化学成分としてSrOを含有するセメント混和材により、当該課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] 遊離石灰、水硬性化合物を含有し、化学成分としてSrOを含むセメント混和材。
[2] 前記SrOの含有量が、前記遊離石灰と前記水硬性化合物との合計100質量部に対して、0.001〜5.0質量部である[1]に記載のセメント混和材。
[3] 化学成分としてさらに、ZrOを含んでなる[1]または[2]に記載のセメント混和材。
[4] 前記ZrOの含有量が、前記遊離石灰と前記水硬性化合物との合計100質量部に対して、0.0001〜5.0質量部である[1]〜[3]のいずれかに記載のセメント混和材。
[5] ブレーン比表面積が、2,000〜6,000cm/gである[1]〜[4]のいずれかに記載のセメント混和材。
[6] 体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30〜60体積%であって、100μm以下の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5〜4.0である[1]〜[5]のいずれかに記載のセメント混和材。
[7] 前記水硬性化合物として、3CaO・Al、3CaO・3Al・CaSO、3CaO・SiO、2CaO・SiO、4CaO・Al・Fe、6CaO・2Al・Fe、6CaO・Al・Fe、及び2CaO・Feからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する[1]〜[6]のいずれかに記載のセメント混和材。
[8] さらに無水石膏を含有してなる[7]に記載のセメント混和材。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載のセメント混和材からなる膨張材。
[10] [1]〜[8]のいずれかに記載のセメント混和材を含有してなるセメント組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント・コンクリート打設後の初期材齢(例えば、材齢2日〜7日)にかけてセメント・コンクリートに大きな膨張を付与し、乾燥収縮ひずみを抑制し、長期強度発現性の低下を抑えることが可能なセメント混和材、膨張材及びセメント組成物を提供することを目的とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るセメント混和材、膨張材及びセメント組成物について説明する。
なお、本明細書で使用する部及び%は、特に規定しない限り質量基準である。また、本発明で云うセメント・コンクリートとは、セメントペースト、モルタル、コンクリートを総称するものである。
【0012】
[1.セメント混和材及び膨張材]
本実施形態に係るセメント混和材は、遊離石灰、水硬性化合物を含有し、化学成分としてSrOを含む。
【0013】
(遊離石灰)
遊離石灰とは、通常、f−CaO(フリーライム)と呼ばれるものである。本実施形態に係るセメント混和材中に遊離石灰が含有されることで、膨張特性が付与される結果、乾燥収縮が抑制される。
遊離石灰の含有量は、遊離石灰と水硬性化合物との合計100部に対して、10〜110部が好ましく、15〜100部がより好ましい。10〜110部含有することで、長期強度発現性の低下を生じさせずに乾燥収縮の抑制効果を発現させることができる。
セメント混和材を作製する際の焼成において、その焼成温度を高くしたり、あるいはCaO原料以外の投入原料の配合量と粒度を適度に調整するなどによって、セメント混和材中の遊離石灰の結晶粒子径を大きくしたり、あるいは含有量を高めることができる。
【0014】
(水硬性化合物)
本実施形態に係る水硬性化合物とは、3CaO・Al(CAと略記)、3CaO・3Al・CaSOで表されるイーリマイト、3CaO・SiO(CSと略記)や2CaO・SiO(CSと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al・Fe(CAFと略記)や6CaO・2Al・Fe(CFと略記)、6CaO・Al・Fe(CAFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe(CFと略記)等のカルシウムフェライト等であり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。なかでも、CA、イーリマイト、3CaO・3Al・CaSO、CAF、CSうちの1種または2種以上を含むことが好ましく、CAを含むことがより好ましい。
特に、CAを含むことで、f−CaOの焼結を促進することができる。
【0015】
水硬性化合物の含有量は、遊離石灰と水硬性化合物との合計100部に対して、1〜100部が好ましく、2〜90部がより好ましく、さらに2〜85部がさらに好ましい。1〜100部であることで、高膨張特性を付与することができる。
【0016】
(SrO)
本実施形態に係るセメント混和材は、化学成分としてSrOを含む。SrOをセメント混和材(又は膨張材)に対して一定量固溶させると乾燥収縮(材齢7日以降)の低減が可能となる。また、貯蔵安定性を改善することも可能となる。
【0017】
SrOの含有量は、遊離石灰と水硬性化合物との合計100質量部に対して、0.001〜5.0質量部であることが好ましく、0.001〜0.5質量部であることがより好ましく、0.005〜0.5質量部であることがさらに好ましい。特に0.001〜0.5質量部であることで、乾燥収縮の低減効果がより良好となる。
【0018】
(その他の成分)
本実施形態に係るセメント混和材は、化学成分としてさらに、ZrOを含むことが好ましい。ZrOの含有量は、遊離石灰と水硬性化合物との合計100質量部に対して、0.001〜5.0質量部であることが好ましく、0.0001〜0.1質量部であることがより好ましく、0.0003〜0.05質量部であることがさらに好ましい。特に0.0001〜0.1質量部であることで、流動性を向上させることができる。
【0019】
本実施形態に係るセメント混和材は、ブレーン比表面積が、2,000〜6,000cm/gであることが好ましく、2,500〜5,000であることがより好ましい。ブレーン比表面積が、2,000〜6,000cm/gであることで、長期に渡る膨張でコンクリート組織が壊れるのを防ぐことができ、また、膨張性能を良好に維持できる。
なお、本明細書におけるブレーン比表面積値は、JIS R 5201 (セメントの物理試験方法)に準拠して求めることができる。
【0020】
また、スランプロスの低減、少量添加での膨張量確保、ポップアウト防止の観点から、体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30〜60体積%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5〜4.0であることが好ましい。10μm以下の粒子の含有率は20〜60体積%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)は1.8〜3.0であることがより好ましい。
なお、本発明書における粒子の含有率は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて、セメント混和材をエタノールに超音波で1分間分散させた後に、試料屈折率1.770、分散媒屈折率1.360の条件で体積基準で測定される粒度分布に基づいて算出される。
本発明のセメント混和材は、CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、CaSO原料、SrO原料、及びZrO原料を適宜混合して焼成して得られる。
【0021】
CaO原料としては石灰石や消石灰が挙げられ、Al原料としてはボーキサイトやアルミ残灰等が挙げられ、Fe原料としては銅カラミや市販の酸化鉄が、SiO原料としては珪石等が挙げられる。
【0022】
SrO原料は特に限定されないが、例えば天青石やストロンチアン石、酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム等が挙げられる。
また、ZrO原料は特に限定されないが、例えば酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、有機酸ジルコニウム、ジルコンサンド等が挙げられる。
なお、CaO原料、Al原料、SiO原料にSrOやZrOが含まれる場合は、SrO原料やZrO原料を新たに加える必要はない。
【0023】
これら原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO、MnO、P、NaO、KO、LiO、硫黄、フッ素、塩素等が挙げられる。
【0024】
セメント混和材は、上記原料を所望の鉱物組成及びSrOが所望の化学組成となるように配合し、適宜粉砕等してから、焼成を行って製造することができる。
焼成方法は特に限定されるものではないが、電気炉やキルン等を用いて1,100〜1,600℃の温度で焼成することが好ましく、1,200〜1,500℃がより好ましい。1,100℃未満では膨張性能が充分でなく、1,600℃を超えると無水石膏が分解する場合がある。
また、粉砕をする場合は、ブレーン比表面積が、2,000〜6,000cm/gとなるように公知の方法で行うことが好ましい。
【0025】
以上のようにして作製されたセメント混和材における鉱物の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることもできる。本実施形態では、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることが好ましい。
なお、化学成分の含有量は、蛍光X線により求めることができる。
【0026】
本実施形態に係るセメント混和材は、同一粒子中に遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏、及びSrOが存在する粒子を含有していることが好ましい。また、ZrOを含む場合はこれも同一粒子中に存在していることが好ましい。
遊離石灰、水硬性化合物、及びSrO、さらにZrOが同一粒子中に存在しているかどうかは電子顕微鏡などによって確認することができる。具体的には、セメント混和材を樹脂で包埋し、アルゴンイオンビームで表面処理を行い、粒子断面の組織を観察するとともに、元素分析を行うことで遊離石灰、水硬性化合物、及びSrO、そしてZrOが同一粒子内に存在しているか確認することができる。
【0027】
本実施形態に係るセメント混和材は、さらに無水石膏を混和させても良い。無水石膏の混和量は、セメント混和材100部に対して、3〜50部が好ましく、10〜40部がより好ましく、20〜30部がより好ましい。
【0028】
以上のような本実施形態に係るセメント混和材は、例えば、膨張材として使用することが好ましい。すなわち、本実施形態に係る膨張材は、既述のセメント混和材からなる。これにより、コンクリート打設後の初期材齢(例えば、材齢2日〜7日)にかけてコンクリートに大きな膨張を付与し、乾燥収縮ひずみを抑制し、長期強度発現性の低下を抑えることができる。
【0029】
[3.セメント組成物]
本実施形態に係るセメント組成物は、既述のセメント混和材を含有してなる。ここで、セメント組成物で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱などの各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)などのポルトランドセメントが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。なお、セメント混和材は本実施形態に係る膨張材であってもよい。
【0030】
本実施形態では、セメント、セメント混和材、及び砂等の細骨材や砂利等の粗骨材の他に、早強剤、急硬材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、凝結低減剤、水和熱抑制剤、高分子エマルジョン、ベントナイトなどの粘土鉱物、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体、高炉水砕スラグ微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などのスラグ、石灰石微粉末、シリカ質微粉末、石膏、ケイ酸カルシウム等の混和材料からなる群のうち一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。また、有機系材料として、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維等の繊維状物質との併用も可能である。
【0031】
セメント混和材(又は膨張材)の使用量(配合量)は、コンクリートの配合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材(又は膨張材)を含むセメント組成物100質量部中、3〜12質量部が好ましく、4〜7質量部がより好ましい。3質量部以上であることで充分な膨張性能が得られる。また、12質量部を以下であることで過膨張となることがなく、コンクリートに膨張クラックが生じるのを防ぐことができる。
【実施例】
【0032】
「実験例1」
CaO原料、Al原料、Fe原料、SiO原料、そしてSrO原料を表1に示す鉱物割合、化学成分としての割合となるように配合し、混合粉砕した後1,350℃で焼成してクリンカを合成し、ボールミルを用いてブレーン比表面積で3,500cm/gに粉砕して、セメント混和材を作製した。
このセメント混和材を使用して、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100質量部中、セメント混和材を4または7質量部使用し、水/セメント組成物比=50質量%、セメント組成物/砂比=1/3(質量比)のモルタルを20℃の室内で調製して、長さ変化率と圧縮強度の測定を行った。
また、セメント混和材について、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)を求めた。
【0033】
(使用材料)
CaO原料:石灰石
Al原料:ボーキサイト
Fe原料:酸化鉄
SiO原料:珪石
CaSO原料:天然無水石膏
SrO原料:ストロチアン石
ZrO原料:ジルコンサンド
砂:JIS標準砂
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
【0034】
(試験方法)
化学組成:蛍光X線から求めた。
100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B):HORIBA社製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。セメント混和材をエタノールに超音波で1分間分散させ、試料屈折率1.770、分散媒屈折率1.360の条件で体積基準の粒度分布を測定した。かかる粒度分布から100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bを求め、A/Bを算出した。
鉱物組成:化学組成と粉末X線回折の同定結果に基づいて計算により求めた。
長さ変化率:JIS A 6202に準拠して、材齢7日(7d)、材齢28日(28d)のそれぞれについて測定した。
圧縮強度:JIS R 5201に準じて4×4×16cmの試験体を作製し、材齢7日(7d)及び28日(28d)の圧縮強度を測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
「実験例2」
実験No.1−12において、さらにZrO原料を用いたり、SrOの量を調整したりして、クリンカ中のSrO量及びZrO量を下記表2に示すように変化させたこと以外は実験例1と同様の実験を行った。また、フロー試験を下記のとおり行った。結果を表2に示す。
【0037】
(試験方法)
フロー試験:JIS R 5201−2015「セメントの物理試験方法」に準じてモルタルを混練し、練り上り直後(0分)及び練上がりから60分後の各15打点フロー値を測定した。温度、湿度、モルタルの配合は、圧縮強度試験と同一にした。試験では標準砂を使用した。
【0038】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のセメント混和材により、コンクリート打設後の材齢2日〜7日にかけてコンクリートに大きな膨張と乾燥収縮ひずみの抑制を付与でき、長期強度発現性の低下がないので、土木・建築分野で幅広く使用することができる。
【要約】
【課題】コンクリート打設後の初期材齢(例えば、材齢2日〜7日)にかけてコンクリートに大きな膨張を付与し、乾燥収縮ひずみを抑制し、長期強度発現性の低下を抑えることが可能なセメント混和材を提供する。
【解決手段】遊離石灰、水硬性化合物を含有し、化学成分としてSrOを含むセメント混和材である。
【選択図】なし