(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回路基板を含むワークと、レーザ光を透過する支持体とが、前記レーザ光の吸収で剥離可能に変質する分離層を介して積層される積層体において、前記ワークを着脱自在に保持する保持部材と、
前記保持部材に保持された前記積層体の前記支持体を透して前記分離層に向け、前記レーザ光としてパルス発振されるスポット状のガウシャンビームを間欠的に順次照射するレーザ照射部と、
前記レーザ照射部を作動制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記レーザ照射部からパルス発振される前記ガウシャンビームを、前記分離層に対する前記レーザ照射部からのレーザ照射位置が移動するように照射し、前記レーザ照射位置において前記レーザ照射部からの光照射方向と交差する二方向へ隣り合う前記ガウシャンビームの中心同士の間隔が、前記ガウシャンビームのビームプロファイルにおけるビーム径と照射強度の関係を正規分布とみなしたときに標準偏差の3倍未満にそれぞれ制御されることを特徴とするワーク分離装置。
回路基板を含むワークと、レーザ光を透過する支持体とが、前記レーザ光の吸収で剥離可能に変質する分離層を介して積層される積層体において、前記ワークを保持部材に着脱自在に保持する保持工程と、
前記保持部材に保持された前記積層体の前記支持体を透して前記分離層に向けレーザ照射部から前記レーザ光としてパルス発振されるスポット状のガウシャンビームを間欠的に順次を照射するレーザ照射工程と、を含み、
前記レーザ照射工程では、前記レーザ照射部からパルス発振される前記ガウシャンビームを、前記分離層に対する前記レーザ照射部からのレーザ照射位置が移動するように照射し、前記レーザ照射位置において前記レーザ照射部からの光照射方向と交差する二方向へ隣り合う前記ガウシャンビームの中心同士の間隔が、前記ガウシャンビームのビームプロファイルにおけるビーム径と照射強度の関係を正規分布とみなしたときに標準偏差の3倍未満にそれぞれ設定することを特徴とするワーク分離方法。
前記レーザ照射工程の後工程として、レーザ照射工程後の前記積層体から前記支持体を分離する分離工程と、前記積層体から分離した前記ワークに残留している前記分離層の残渣を洗浄液で除去する洗浄工程を含むことを特徴とする請求項3記載のワーク分離方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係るワーク分離装置A及びワーク分離方法は、
図1〜
図6に示すように、回路基板(図示しない)を含むワーク1と、レーザ光Lを透過する支持体2とが、レーザ光Lの吸収で剥離可能に変質する分離層3を介して積層されてなる積層体Sに対し、支持体2を透した分離層3へのレーザ光Lの照射によりワーク1から支持体2を剥離させる装置と方法である。WLP(wafer level packaging)やPLP(panel level packaging)のような半導体パッケージなどを製造することや、厚さが極めて薄い半導体ウエハ(以下「極薄ウエハ」という)の処理工程のために用いられる。
詳しく説明すると、本発明の実施形態に係るワーク分離装置Aは、積層体Sのワーク1を着脱自在に保持するように設けられる保持部材10と、支持体2を透して分離層3に向けレーザ光源21からのレーザ光Lを照射するように設けられる光学系20のレーザ照射部22と、を主要な構成要素として備えている。さらに、支持体2及び分離層3に対するレーザ照射部22からのレーザ照射位置Pを少なくともレーザ照射部22からの光照射方向と交差する二方向へ相対的に移動させるように設けられる駆動部30と、レーザ照射部22から支持体2及び分離層3の照射面までの間隔を測定するように設けられる測長部40と、レーザ照射部22及び駆動部30や測長部40などを作動制御するように設けられる制御部50と、を備えることが好ましい。
なお、
図1〜
図6に示されるように、保持部材10に対して積層体Sは通常、上下方向へ載置され、保持部材10上の積層体Sに向けてレーザ照射部22からレーザ光Lが下方向へ照射される。保持部材10に対する積層体Sの保持方向や、レーザ照射部22から積層体Sに向かうレーザ光Lの照射方向を以下「Z方向」という。駆動部30による相対的な移動方向であるレーザ光Lの照射方向(Z方向)と交差する二方向を以下「XY方向」という。
【0008】
ワーク1は、後述する支持体2に貼り合わされた積層状態で、回路形成処理や薄化処理などの半導体プロセスが供された回路基板を含むとともに搬送される矩形(パネル形状)の基板や円形のウエハなどであり、シリコンなどの材料で薄板状に形成される。ワーク1の具体例としては、例えば15〜3,000μmの厚さに薄化された基板やウエハが用いられる。特に極薄ウエハなどのようにワーク1の厚みが数十μm程度の場合には、ダイシングテープなどのようなテープ状の保持用粘着シートにワーク1の全面を貼り付けてサポートすることや、ダイシングフレームなどのようなリング状の保持フレームで外周部が補強されたテープ状の保持用粘着シートに対しワーク1を貼り付けることでサポートすることも可能である。
支持体2は、ワーク1の薄化工程や搬送工程などでワーク1を支持することにより、ワーク1の破損や変形などが防止されるように必要な強度を有するサポート基板やキャリア基板と呼ばれるものである。支持体2は、特定の波長のレーザ光Lが透過するガラスや合成樹脂などの透明又は半透明な剛性材料で形成される。支持体2の具体例としては、厚みが例えば300〜3,000μmの透明又は半透明のガラス板やセラミック板やアクリル系樹脂製の板などが用いられる。
分離層3は、支持体2を介して照射されたレーザ光Lを吸収することにより、接着力を低下させるように変質して、僅かな外力を受けると接着性を失い剥離するか、又は破壊し得るように変質する層である。
分離層3の材料としては、例えばポリイミド樹脂などのような接着性を有しており、ワーク1と支持体2とが接着剤からなる接着層を介装することなく貼り合わせ可能な材料を用いることが好ましい。さらにワーク1と支持体2の剥離後において、容易に洗浄除去できる別の層を積層することも可能である。また分離層3が接着性を有していない材料からなる場合には、分離層3と支持体2の間に接着剤からなる接着層(図示しない)を設けて、接着層により分離層3と支持体2を接着する必要がある。
【0009】
積層体Sは、XY方向のサイズが大型であるもののZ方向の厚みが薄い矩形(長方形及び正方形を含む角が直角の四辺形)のパネル形状や円形状に形成される。
図1(a)(b)及び
図2に示される例では、ワーク1として矩形の基板と、支持体2として矩形のサポート基板(キャリア基板)を分離層3で貼り合わせたパネル形状の積層体Sの場合を示している。
図3に示される例では、ワーク1として円形のウエハと、支持体2として円形のサポート基板(キャリア基板)を分離層3で貼り合わせた円形状の積層体Sの場合を示している。
また、その他の例として図示しないが、特に極薄ウエハなどのようにワーク1の厚みが数十μm程度の場合には、リング状の保持フレーム(ダイシングテープ)で外周部を補強したテープ状の保持用粘着シート(ダイシングテープ)に対しワーク1が貼り付けられた形態になった積層体Sも含まれる。
積層体Sの具体例としては、図示しないがファンアウト型PLP技術で製造される、ワーク1に複数の半導体素子が搭載され樹脂などの封止材で封止した封止体と、パネル形状の支持体2とが分離層3を介して積層されるパネル型積層体などが含まれる。複数の半導体素子を備えた封止体は、最終的にダイシングなどでXY方向へ切断した後に、再配線層などを介して電極取り出し部を取り付けるなどの最終工程を経ることにより、最終製品である複数の電子部品が製造される。
【0010】
保持部材10は、金属などの剛体で歪み(撓み)変形しない厚さの定盤などからなり、積層体Sの外形寸法よりも大きくて肉厚な略矩形又は円形などの平板状に形成され、積層体SとZ方向へ対向する保持面には、ワーク1の保持チャック11が設けられる。
保持チャック11は、ワーク1と接触によりワーク1を移動不能で且つ着脱自在に保持するものであり、積層体SとZ方向へ対向する保持面の全体又は一部に形成される。
保持チャック11の具体例としては、吸引による差圧でワーク1が吸着保持される吸着チャックを用いることが好ましい。特に吸着チャックの中でも、多孔質材からなる吸着面によってワーク1が差圧吸着されるポーラスチャックを用いることが好ましい。ポーラスチャックの場合には、ワーク1の全体が部分的に撓むことなく差圧吸着可能となるため、均一な保持状態を維持することができる。
また、保持チャック11の他の例としては、吸着チャックに代えて粘着チャックや静電チャックを用いることや、吸着チャック,粘着チャック,静電チャックの中から複数を組み合わせて用いることも可能である。
なお、保持部材10の他の例として図示しないが、平板状の保持面に代えて複数の支持ピンによりワーク1を介して積層体Sの全体が固定(移動不能で且つ着脱自在に保持)される構造も含まれる。この場合には、複数の支持ピンの一部又は全部の先端でワーク1を吸着固定可能に構成することが好ましい。
【0011】
レーザ照射部22は、レーザ光源21からレーザ光Lを目標となるレーザ照射位置Pに向けて導く光学系20の一部として設けられ、保持部材10に保持された積層体SとZ方向へ対向するようにレーザ照射部22を配置して、積層体Sの上を走査(掃引)することにより、光学系20で導かれたレーザ光Lが積層体Sの支持体2を透過して分離層3の全面に照射される。
レーザ照射部22から積層体Sに向け照射するレーザ光Lとしては、支持体2を透過し且つ分離層3が吸収可能な波長であり、且つパルス発振されるパルスレーザ光が用いられる。パルスレーザ光Lの中でも、投影形状がライン(スリット)状のレーザ光よりは、高出力なレーザ光が容易に得られるスポット(点)状のレーザ光が好ましい。
これに対し、連続発振されるレーザ光(連続波レーザ)は、分離層3内に吸収されたレーザエネルギーによる熱の影響を受け易いために好ましくない。
【0012】
これに加え、レーザ照射部22から照射するレーザ光(パルスレーザ光)Lとしては、
図4(a)や
図5(a)〜(c)に示されるビームプロファイルのように、ガウシャンビームをパルス発振し、隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔Dを、後述する制御部50により所望の発振タイミングに設定可能にしている。なお、
図4(a)(b)及び
図5(a)〜(c)に示されるビームプロファイルにおいて、縦軸はレーザ光(パルスレーザ光)Lの照射強度(ビーム強度)Wを示し、横軸はパルス発振されるガウシャンビー
ムの分離層3に照射した位置(レーザ照射位置P)の間隔(距離)を示している。
ガウシャンビームは、ビームプロファイラなどの光学的な変換を行う必要がなく、そのまま利用して照射可能な従来から一般的に用いられる電磁波である。
またその他には、
図4(b)に示されるビームプロファイルように、回折光学素子(DOE)の使用によるレーザビームの形状変更で、ガウシャンビームのビームプロファイルを略四角形の疑似トップハットに変更することにより、略均一な照射強度のビームを照射させる方法がある。
これらガウシャンビームのビームプロファイルと、疑似トップハットのビームプロファイルを比較すると、
図4(a)のガウシャンビームは、ビーム照射の発振タイミングに僅かなズレが生じ、隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔Dがズレる事となっても、隣り合うガウシャンビームが重なり合った部分において照射強度(パルスパワー)が大きく異なることはなく、いずれのレーザ照射位置Pでも略均一な状態で照射される。
これに対して
図4(b)の疑似トップハットは、隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔Dが僅かでもズレると、隣り合う疑似トップハットビームが重なり合った部分では極端に大きな照射強度(パルスパワー)が発生して、この重なり合った部分に該当するレーザ照射位置Pでは部分的に温度上昇して発熱するおそれがある。
【0013】
光学系20及びレーザ照射部22の具体例として
図1(a)に示される場合には、レーザ光Lのレーザ光源21となるレーザ発振器で発生されたレーザ光Lを、ビームエキスパンダ23に通してビーム径が調整され、ステアリングミラーなどの反射鏡24,25でレーザ光Lの向きを変え、レーザ照射部22となるレーザスキャナに導かれ、超短パルスのレーザ光Lとなって、保持部材10に保持された積層体Sの目標位置に向け照射している。
レーザ照射部(レーザスキャナ)22は、
図1(a)などに示されるように、回転自在に設けられるポリゴンスキャナ22aと、fθレンズなどからなるレンズ22bと、を有する。ポリゴンスキャナ22aは、回転駆動する筒体の周囲に正N角形に配置されたミラー部を有し、入射したレーザ光Lが回転駆動するミラー部に当たって反射し、レンズ22bで積層体Sに対して略垂直な光路に変換することにより、積層体Sに対して走査(掃引)するように構成されている。ポリゴンスキャナ22aの回転駆動による走査は、正N角形のミラー部に対するレーザ入射方向(X方向)と平行な直線方向へ所定幅だけレーザ光Lを移動させている。
また、その他の例として図示しないが、ポリゴンスキャナ22aとガルバノスキャナなどを組み合わせることや、レーザ照射部22としてポリゴンスキャナ22aに代え、ガルバノスキャナにより反射鏡(ガルバノミラー)を動かして、X方向とY方向へそれぞれ所定幅だけ移動させるなどの変更が可能である。
【0014】
保持部材10に保持された積層体Sの支持体2及び分離層3に向けてレーザ照射部22から照射されるレーザ光Lの照射点配置や領域や順序などは、後述する制御部50によって制御される。
制御部50によるレーザ光Lの照射点配置は、
図6(a)〜(d)に示されるように、レーザ照射部22からパルス発振されるレーザ光Lを、分離層3の照射面に沿った直線方向へ所定間隔で間欠的に複数回照射し、これら複数のレーザ照射位置Pに照射されたパルスレーザ光L同士を部分的に重ねて連続させることが好ましい。ここでいう「直線方向」とは、レーザ照射部(レーザスキャナ)22の走査方向、図示例ではポリゴンスキャナ22aの回転駆動による走査方向(X方向)であり、走査方向(X方向)へ所定間隔をおいて間欠的に照射されたパルスレーザ光Lの一部同士が重なって直線状に連続させることが好ましい。
制御部50によるレーザ光Lの照射領域は、
図1(b)や
図2及び
図3に示されるように、支持体2及び分離層3の照射面全体を複数の照射領域Rに分割し、複数の照射領域Rに対してレーザ照射部22からレーザ光Lを各照射領域R毎(単位照射領域毎)に照射することが好ましい。
詳しく説明すると、複数の照射領域Rは、支持体2及び分離層3の全体面積よりも小さい面積となるように分割され、分割された各照射領域Rの形状を正方形などの矩形形状(四角形状)とすることが好ましい。複数の照射領域Rの分割方向(配列方向)は、後述する駆動部30による相対的な移動方向と同じX方向及びY方向に配列し、複数の照射領域Rのサイズは、後述する制御部50によって調整可能に設定することが好ましい。
複数の照射領域Rに対してレーザ照射部22からレーザ光L
を照射する順序は、任意に設定された順序でレーザ照射部22からレーザ光Lを各照射領域Rの全面にそれぞれ照射することが好ましい。
さらに、レーザ照射部22から積層体Sに向けて照射されるレーザ光Lの照射角度は、
図1(a)や
図2及び
図3に示されるように、保持部材10に保持された積層体Sの支持体2や分離層3に対して略垂直に設定することが好ましい。ここでいう「略垂直」とは、支持体2や分離層3の表面に対して90度のみに限らず、これに加えて、90度から数度増減するものも含まれる。
【0015】
駆動部30は、保持部材10又はレーザ照射部22のいずれか一方か若しくは保持部材10及びレーザ照射部22の両方を移動することにより、レーザ照射部22から照射したレーザ光Lが、保持部材10に保持した積層体Sの支持体2及び分離層3に対してXY方向やZ方向へ相対的に移動するように構成した光軸相対移動機構である。
駆動部30となる光軸相対移動機構には、主に積層体Sを動かすワーク側移動タイプと、レーザ照射部22を動かす光軸側移動タイプがある。
ワーク側移動タイプの場合は、
図1(a)(b)に示されるように、保持部材10に駆動部30が設けられ、駆動部30で保持部材10をX方向及びY方向やZ方向へ動かすことにより、レーザ照射部22からのレーザ照射位置PをXY方向やZ方向へ移動させる。この場合の駆動部30としては、XYステージやXYテーブルなどが用いられ、モータ軸などからなるY軸移動機構31及びX軸移動機構32を有している。さらに必要に応じて保持部材10をZ方向へ動かすZ軸移動機構33を設けることが好ましい。
駆動部30の具体例として
図1〜
図6に示される場合には、ポリゴンスキャナ22aの回転駆動によるレーザ光LのX方向への走査(掃引)に加えて、保持部材10をXY方向やZ方向へ動かしている。
また光軸側移動タイプの場合は、図示しないが光学系20の一部のみに駆動部30を設けて、保持部材10が動かずにレーザ照射部22からのレーザ照射位置PをXY方向やZ方向へ移動させるように構成される。この場合においてZ方向へ相対移動させる場合には、保持部材10にZ軸移動機構33を設けるか、或いはレーザ照射部(レーザスキャナ)22を駆動部30によってZ方向へ動かす。
【0016】
測長部40は、レーザ照射部22から保持部材10に保持された積層体Sの支持体2や分離層3の照射面までの照射距離を測定する非接触式の変位計や変位センサなどからなり、保持部材10に保持された積層体SとZ方向へ対向するように配置される。
測長部40の具体例として
図1(a)に示される場合には、レーザ照射部(レーザスキャナ)22に測長部40となるレーザ変位計を設け、レーザ照射部(レーザスキャナ)22から分離層3の照射面までZ方向への長さを測定し、この測定値を後述する制御部50へ出力することが好ましい。
また、その他の例として図示しないが、測長部40としてレーザ変位計以外の変位計や変位センサを用いることも可能である。
【0017】
制御部50は、保持部材10の保持チャック11の駆動源と、光学系20,レーザ光Lのレーザ光源21及びレーザ照射部22と、駆動部30となる光軸移動機構と、測長部40にそれぞれ電気的に接続するコントローラーである。
さらに制御部50は、それ以外にも分離前の積層体Sを保持部材10に向けて搬送するための搬入機構(図示しない),光照射後の積層体Sから支持体2のみを保持して引き離す剥離機構(図示しない),剥離後の積層体S(ワーク1)を保持部材10から搬送するための搬出機構(図示しない)などにも電気的に接続するコントローラーでもある。
制御部50となるコントローラーは、その制御回路(図示しない)に予め設定されたプログラムに従って、予め設定されたタイミングで順次それぞれ作動制御している。すなわち制御部50は、レーザ光源21からレーザ照射位置Pに照射されるレーザ光LのON/OFF制御を始めとするワーク分離装置Aの全体的な作動制御を行うだけでなく、これに加えてレーザ光Lの各種パラメーターの設定などの各種設定も行っている。
制御部50によって光学系20のレーザ照射部22や駆動部30は、保持部材10に保持された積層体Sの支持体2及び分離層3を分割した複数の照射領域Rに対して、レーザ照射部22からのレーザ光Lの照射を各照射領域R毎に行い、且つレーザ光Lの照射角度が支持体2や分離層3の表面と略垂直になるように制御している。
これに加えて制御部50となるコントローラーは、タッチパネルなどの入力手段51や表示部(図示しない)などを有し、入力手段51の操作によりレーザ照射部22の走査距離や、複数の照射領域Rのサイズや、複数の照射領域Rに対するレーザ照射部22からのレーザ光Lの照射順序などが設定可能に構成されている。
【0018】
制御部50により設定されるレーザ照射部22からパルス発振されるレーザ光(ガウシャンビーム)Lの間隔、すなわち隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔Dは、後述する実験によって、ガウシャンビームのビームプロファイルにおけるビーム径と照射強度の関係を正規分布とみなしたときに標準偏差σの3倍未満に設定している。
光学系20のレーザ照射部22により走査(掃引)されるX方向と垂直なY方向について図示例の場合には、レーザ光源21のパルス制御と、ポリゴンスキャナ22aの回転制御によってX方向へ隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔D1が決められる。Y方向へ隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔D2は、レーザ光源21のパルス制御と、駆動部30による保持部材10の相対的な移動制御
で決められる。
【0019】
X方向へ隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔D1として
図5(a)に示される場合には、ガウシャンビームのビームプロファイルにおけるビーム径と照射強度の関係を正規分布とみなしたときに標準偏差σの2倍に設定している。このため、レーザ照射部22からパルス発振されるパルスレーザ光(ガウシャンビーム)Lのレーザ照射位置Pが、標準偏差σの2.5倍の距離で同一の走査方向(X方向)へ位置ズレする。これにより、隣り合うガウシャンビームで合成された照射強度(ビーム強度)の擾乱がほとんど無くなる。
図5(b)に示される場合には、X方向へ隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔D1を標準偏差σの2.5倍に設定している。これにより、隣り合うガウシャンビームで合成された照射強度(ビーム強度)の擾乱が、照射強度の約90パーセント以内に抑えられる。
これに対し、
図5(c)に示される場合には、X方向へ隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔D1を標準偏差σの3倍に設定している。これにより、隣り合うガウシャンビームで合成された照射強度が激しく擾乱する。このため、照射されたパルスレーザ光Lの積算エネルギーが、分離層3の面内で不均一になり、部分的に過照射となった部位では、温度上昇して焼け焦げ、煤が発生するおそれがある。一方、照射不足となった部位では、その後の後述する分離工程において、積層体Sのワーク1から支持体2を剥離できないおそれがある。
上記の実験結果によって、隣り合うガウシャンビームの中心同士の好ましい間隔D1は、標準偏差σの3倍未満、詳しくは約2.5倍以内であることが判明した。
ここでいう「約2.5倍以内」とは、2.5倍以内のみに限らず、これに加えて、2.5倍よりも僅かに増えるものも含まれる。
また、Y方向の隣り合うガウシャンビーム同士の間隔D2においても、X方向の隣り合うガウシャンビーム同士の間隔D1と同様に、ガウシャンビームのビームプロファイルにおけるビーム径と照射強度の関係を正規分布とみなしたときに標準偏差σの3倍未満に設定している。
この場合も、実験結果によって、隣り合うガウシャンビームの中心同士の好ましい間隔D2は、標準偏差σの3倍未満、詳しくは約2.5倍以内であることが判明した。
ここでいう「約2.5倍以内」も、2.5倍以内のみに限らず、これに加えて、2.5倍よりも僅かに増えるものも含まれる。
さらに、Y方向の隣り合うガウシャンビーム同士の間隔D2は、X方向の隣り合うガウシャンビーム同士の間隔D1と同じであることが好ましい。
【0020】
さらに制御部50により設定されるレーザ照射部22から複数回の間欠照射されるパルスレーザ光L(ガウシャンビーム)の照射点配置、すなわちポリゴンスキャナ22aの回転駆動による走査方向(X方向)への走査間隔と走査回数は、
図6(a)〜(d)に示されるように、ポリゴンスキャナ22aの回転駆動によるパルスレーザ光Lの照射点を走査方向(X方向)へ僅かにズラしながら複数回の走査が行われて、各パルスレーザ光Lの一部同士を重ねて直線状に繋がるように設定している。
詳しく説明すると、各パルスレーザ光L(ガウシャンビーム)において、照射強度(ビーム強度)が低い外周部L1同士は重なるものの、照射強度が高い中心部L2同士は離隔して、その間の中間部L3同士を接触させることにより、複数のパルスレーザ光Lが直線状に連続するように制御している。
照射点配置の具体例として
図6(a)〜(d)に示される場合には、同じビーム径を有する複数(4つ)のパルスレーザ光Lを、その外周部L1のみが重なるように走査方向(X方向)へ複数(4つ)並べることで、中間部L3同士が接触するように連続させている。
また、その他の例として図示しないが、走査間隔と走査回数を図示例以外の設定に変更することも可能である。
【0021】
そして、制御部50の制御回路に設定されたプログラムを、ワーク分離装置Aによるワーク分離方法として説明する。
本発明の実施形態に係るワーク分離装置Aを用いたワーク分離方法は、保持部材10に積層体Sのワーク1を着脱自在に保持する保持工程と、保持部材10に保持された積層体Sの支持体2を透して分離層3に向けレーザ照射部22からレーザ光Lを照射するレーザ照射工程と、保持部材10に保持された積層体Sの支持体2及び分離層3に対するレーザ照射部22からのレーザ照射位置Pを、駆動部30やレーザ照射部(レーザスキャナ)22により相対的に移動させる相対移動工程と、積層体Sのワーク1から支持体2を剥離する分離工程と、を主要な工程として含んでいる。
さらに、分離工程の後工程として、分離層3から分離したワーク1に残留している分離層3の残渣を洗浄液で除去する洗浄工程と、洗浄工程後のワーク1を保持部材10で保持しながらダイシングなどで切断する切り離し工程と、を含むことが好ましい。
分離層3の残渣には、ワーク1と支持体2を接着する接着剤なども含まれる。
【0022】
保持工程では、搬送ロボットなどからなる搬入機構(図示しない)の作動により、分離前の積層体Sを保持部材10へ向けて搬入し、保持部材10の保持面において所定位置に分離前の積層体Sが保持チャック11で移動不能に保持される。
レーザ照射工程では、光学系20及びレーザ照射部22の作動により、保持部材10に保持された積層体Sに向け支持体2を透して分離層3に向け、レーザ光Lとしてパルス発振されたガウシャンビームを照射する。
相対移動工程では、
図1〜
図4に示されるように、駆動部30の作動により、保持部材10に保持された積層体Sとレーザ照射部22をXY方向へ相対的に移動する。
その際において好ましくは、支持体2及び分離層3の照射面全体よりも小さく分割された複数の照射領域Rに対し、レーザ照射部22からレーザ光Lを各照射領域R毎に照射している。これと同時に、レーザ照射部22から各照射領域R毎に照射されるレーザ光Lの照射角度は略垂直になるように保持されている。最終的には複数の照射領域Rのすべてにレーザ光Lが照射される。
これによって、レーザ光Lが単位照射領域R毎に満遍なく均一に照射される。このため、最終的には分離層3の全面に亘ってレーザ光Lが照射ムラを生じることなく照射され、分離層3の全面がワーク1と支持体2を剥離可能に変質する。
分離工程では、光照射後の積層体Sに対し支持体2を保持して離す剥離機構(図示しない)の作動により、保持部材10に保持された積層体Sのワーク1から支持体2を剥離して分離される。
分離工程の後は、搬送ロボットなどからなる搬入機構(図示しない)の作動により、分離後のワーク1が保持部材10の保持面から取り外されて搬出される。
それ以降は上述した工程が繰り返される。
【0023】
このような本発明の実施形態に係るワーク分離装置A及びワーク分離方法によると、保持部材10に保持した積層体Sに向けて、レーザ照射部22からパルス発振されるレーザ光Lで隣り合うガウシャンビーム同士の間隔Dを、標準偏差σの3倍未満にずらして照射する。
これにより、隣り合うガウシャンビームで合成された照射強度(ビーム強度)の擾乱が、
図5(a)(b)に示されるように、照射強度の約90パーセント以内に抑えられる。 このため、照射されたパルスレーザ光Lの積算エネルギーが、分離層3の面内で略均一になる。
したがって、積層体Sの分離層3に対してパルスレーザ光Lを均一に照射することができる。
その結果、パルスレーザ光のエネルギーが分離層を分離させるのに必要な量よりも過剰な状態で走査すると部分的に焼け焦げて煤が発生し易い従来のものに比べ、分離層3に照射エネルギーを過大に与えることがなく、レーザ照射に伴う発熱が最小限に抑えられるため、レーザ光Lの過照射による焼け焦げや煤の発生を防止でき、クリーンな環境で高精度なレーザ剥離が実現することができる。
これにより、ワーク1の回路基板に形成されているデバイスにダメージを与えることを防止でき、高品質な製品を製造できて歩留まりの向上が図れる。
さらに、ビームプロファイラなどの光学的な変換を行うことなく、従来から一般的に用いられるガウシャンビームをそのまま利用して均一に照射できるため、光学系20の寿命が短くならず、シンプルな光学系20が形成できて、装置全体の構造を簡素化が図れる。
また、
図4(b)に示すような回折光学素子(DOE)の使用によりガウシャンビームのビームプロファイルを疑似トップハットに変更した従来のものに比べ、
図4(a)に示すようにレーザ照射位置Pが若干位置ズレしても、極端なパルスパワーが発生することがないため、いずれのレーザ照射位置Pでも略均一な状態で照射できて、レーザ光Lの過照射による焼け焦げや煤の発生などの不具合を低減化できる。
【0024】
特に、
図6(a)〜(d)に示されるように、制御部50によりレーザ照射部22からパルス発振されるレーザ光Lを、保持部材10に保持された積層体Sの分離層3に対して、分離層3の照射面に沿った直線方向(X方向)へ所定間隔で間欠的に複数回照射し、これら複数のレーザ照射位置Pに照射されたレーザ光L同士を直線方向(X方向)へ互いに部分的に重ねて連続させるように制御することが好ましい。
この場合には、レーザ照射部(レーザスキャナ)22によるパルスレーザ光Lの照射点を、レーザ照射部(レーザスキャナ)22の走査方向(X方向)へ僅かにズラしながら複数回の走査を行うことにより、各パルスレーザ光Lの一部同士が重なって直線状に繋がるように設定可能になる。
したがって、分離層3の同一ライン上に沿って局部的な発熱を抑えることができる。
その結果、レーザ光Lの過照射による焼け焦げや煤の発生を確実に防いで、よりクリーンな環境で高精度なレーザ剥離が実現することができる。
このため、より高品質な製品を製造できて更なる歩留まりの向上が図れる。
【0025】
さらに、レーザ照射工程の後工程として、レーザ照射工程後の積層体Sから支持体2を分離する分離工程と、積層体Sから分離したワーク1に残留している分離層3の残渣を洗浄液で除去する洗浄工程を含むことが好ましい。
この場合には、レーザ剥離後に行われる洗浄工程において、ワーク1に残留した分離層3の残渣を洗浄液で除去しても、煤のような異物が洗浄液に混入しない。
したがって、煤のような異物の混入による洗浄液の汚染を完全に防止することができる。
その結果、洗浄液の使用寿命が延び、更に洗浄液からゴミがワーク1に再付着することも防止できて、より高品質な製品を製造できて更なる歩留まりの向上が図れる。
【0026】
なお、前示の実施形態では、ワーク1と支持体2とが接着性を有する材料からなる分離層3で貼り合わせているが、これに限定されず、接着性を有していない材料からなる分離層3を用いた場合には、特開2018−006487号公報に開示されるように、分離層3と支持体2の間に接着剤からなる接着層(図示しない)を設けて、接着層により分離層3と支持体2を接着してもよい。
さらに図示例では、駆動部30となる光軸相対移動機構により主に積層体S側を移動させるワーク側移動タイプを示したが、これに限定されず、光学系20の一部のみに設けた駆動部30によりレーザ照射部22が動く光軸側移動タイプを採用してもよい。
この場合には、レーザ照射部22としてポリゴンスキャナ22aに代え、反射鏡(ガルバノミラー)を動かすガルバノスキャナが、光(レーザ光)Lの走査(掃引)手段として設けられる。駆動部30となるガルバノスキャナの作動より、保持部材10が動かずにレーザ照射部22となる反射鏡(ガルバノミラー)をポリゴンスキャナ22aの代わりに動かして、レーザ照射部22からのレーザ照射位置PをXY方向へ移動させることが可能になる。
回路基板を含むワークと、レーザ光を透過する支持体とが、レーザ光の吸収で剥離可能に変質する分離層を介して積層される積層体において、ワークを着脱自在に保持する保持部材と、保持部材に保持された積層体の支持体を透して分離層に向け、レーザ光としてパルス発振されるガウシャンビームを照射するレーザ照射部と、レーザ照射部を作動制御する制御部と、を備え、制御部は、レーザ照射部からパルス発振されるレーザ光において、隣り合うガウシャンビームの中心同士の間隔が、ガウシャンビームのビームプロファイルにおけるビーム径と照射強度の関係を正規分布とみなしたときに標準偏差の3倍未満に制御されることを特徴とするワーク分離装置。