(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、タイル張付けモルタルの内部にメッシュシートを配設する場合、曲げ剛性は向上するがメッシュシートが剥離界面になるおそれがある。また、有機弾性接着剤は、変形追従性とタイルの膨張収縮による繰返しのストレスに対し耐久性があり、さらに熱劣化も起こりにくいが、雨水の浸透により付着強度が低下するおそれがある。
また、特殊ノズルを使用した吹付け機で高圧ジェット水により躯体コンクリートの目粗しを行う下地処理方法は、タイル張付けモルタルと躯体コンクリートの付着強度を向上するが、施工方法の簡略化には結びつきにくく、タイル張付けモルタルに変形追従性がないと長期付着耐久性が得にくい可能性がある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、環境条件の影響や地震による変形の影響を受けてもタイルの剥離、浮きが発生しない長期付着耐久性が得られるタイルの施工方法と外壁タイル張り構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者らは、タイルの施工方法と外壁タイル張り構造について種々検討した結果、(1)躯体コンクリートに下地処理を施し、次いで(2)セメント、ポリマー等を含む下地調整モルタル(a)を施工する工程、(3)下地調整モルタル(a)の表面に再度下地処理を施し、(4)セメント、繊維、ポリマー等を含有する弾性接着材(b)でタイルを張る工程、(5)さらにセメント、耐アルカリ性繊維、ポリマー等を含有する目地材(c)を施工する工程を行えば、優れた長期付着耐久性が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の[1]〜[5]を提供するものである。
【0010】
〔1〕次の工程(1)〜工程(5)を順次行うことを特徴とするタイル施工方法。
(1)躯体コンクリートに下地処理を施す工程、
(2)セメント、粒径1〜3mmの軽量細骨材を含有する細骨材、保水剤及びポリマーを含有する下地調整モルタル(a)を施工する工程、
(3)下地調整モルタル(a)の表面に再度下地処理を施す工程、
(4)セメント、有機材質の軽量細骨材、普通細骨材、保水剤、繊維及びポリマーを含有する弾性接着材(b)でタイルを張る工程、
(5)タイル間に設けた目地に、セメント、普通細骨材、保水剤、耐アルカリ性繊維及びポリマーを含有する目地材(c)を施工する工程。
〔2〕躯体コンクリートに施す下地処理が、散水または水性ポリマーディスパージョンの塗布である〔1〕記載のタイル施工方法。
〔3〕目地材(c)が、さらに、高性能減水剤若しくは高性能AE減水剤および撥水剤から選ばれる1種以上を含有する〔1〕又は〔2〕記載のタイル施工方法。
〔4〕目地材(c)における、耐アルカリ性繊維とポリマーとの質量比(繊維/ポリマー)が、0.25〜1.6である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のタイル施工方法。
〔5〕躯体コンクリート外壁として躯体と接する側から順に、次の(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)の層を有する外壁タイル張り構造。
(A)下地処理層、
(B)セメント、粒径1〜3mmの軽量細骨材を含有する細骨材、保水剤及び
ポリマーを含有する下地調整モルタル層、
(C)下地処理層、
(D)セメント、有機材質の軽量細骨材、普通細骨材、保水剤、繊維及びポリマーを含有する弾性接着材層、
(E)セメント、普通細骨材、保水剤、耐アルカリ性繊維及びポリマーを含有する目地材層。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境条件の影響や地震による変形の影響を受けても下地処理を施し、次いで下地調整モルタル(a)を施工し、硬化後再度下地処理を施し、弾性接着材(b)でタイルを張り、さらに繊維、ポリマーを含有する目地材(c)を施工することにより長期付着耐久性が得られる。長期の付着耐久性が要求される集合住宅、病院、公共構造物等の外壁タイルの施工に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイル施工方法は、(1)躯体コンクリートに下地処理を施す工程、次いで(2)セメント、軽量細骨材を含有する細骨材、保水剤及びポリマーを含有する下地調整モルタル(a)を施工する工程、(3)下地調整モルタル(a)の表面に再度下地処理を施す工程、(4)セメント、軽量細骨材、普通細骨材、繊維及びポリマーを含有する弾性接着材(b)でタイルを張る工程、(5)さらにタイル間に設けた目地に、セメント、普通細骨材、保水剤、耐アルカリ性繊維及びポリマーを含有する目地材(c)を施工する工程を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の工程(1)の下地処理は、下地調整モルタル(a)の水分が躯体コンクリートに過剰に取られドライアウトするのを防ぐため、下地処理として水またはポリマーディスパージョンを散布するのが好ましい。これらの下地処理としてはポリマーディスパージョン処理がドライアウト防止効果の点でより好ましい。
【0015】
ポリマーディスパージョンとしては、好ましくはエチレン酢酸ビニル共重合体、又はポリアクリル酸エステルなどを主成分とする例えば太平洋マテリアル(株)製「太平洋トフコンE」、「太平洋モルヒットエマルション」等を希釈して使用することができる。希釈倍率の目安は、吸水調整効果の点から、3〜8倍が好ましい。さらに、好ましくは4〜7倍である。塗布量の目安は、吸水調整効果、付着力の点から、100〜150g/m
2が好ましい。また、上記以外のポリマーディスパージョンも建築用やモルタル・コンクリートに使用できるものなら何れのものでも用いて構わない。
【0016】
本発明の工程(2)に用いる下地調整モルタル(a)は、セメント、軽量細骨材を含む細骨材、保水剤、繊維及びポリマーを含有する。
【0017】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントが使用可能である。
【0018】
細骨材としては、軽量細骨材を含む細骨材であればよく、軽量細骨材だけでも、軽量細骨材と普通細骨材を含んでいてもよい。普通細骨材としては、珪砂、石灰石のような細骨材が挙げられる。軽量細骨材としては、ポリエチレン酢酸ビニル発泡体、パーライト、スラグライト等が挙げられる。下地調整モルタル(a)の場合には、細骨材として最大粒径が0.09mmより大きいものを使用するのが、乾燥収縮によるひび割れ防止、剥離防止の点で好ましい。0.09mm未満の骨材を用いた場合、施工厚さが10mm以上で施工すると乾燥収縮によるひび割れが生じやすくなる。5mm以上施工する場合の好ましい骨材最大粒径は、3mmであり、さらに好ましくは2.5mmである。
下地調整モルタル(a)の場合は、施工効率を考慮すると工程(2)の施工厚さにより粒径1〜3mmの軽量細骨材を細骨材に含有する下地調整モルタル(a)が施工効率を向上し好ましい。施工厚さが5mm未満では、骨材の最大粒径は1.2mm以下にした下地調整モルタル(a)が良い。
軽量細骨材は、セメント100質量部に対し2〜10質量部用いるのが好ましく、3〜9質量部用いるのがより好ましい。また、軽量細骨材を含有する細骨材を使用する場合、軽量細骨材の配合量は、全細骨材に対し2.0〜7.0質量%が好ましい。
【0019】
保水剤としては、水溶性セルロース誘導体が好ましい。水溶性セルロース誘導体としては、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸エステル等が好ましい。
保水剤は、セメント100質量部に対して0.09〜0.20質量部用いるのが好ましく、0.12〜0.18質量部用いるのがより好ましい。
【0020】
ポリマーとしては、表面親水性ポリマー及び表面疎水性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。具体的には、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンアクリル共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル/アクリル酸エステル共重合体を有効成分とするポリマーが挙げられる。
ポリマーは、セメント100質量部に対して1.3〜4.3質量部用いるのが好ましく、1.5〜4.0質量部用いるのがより好ましい。表面親水性ポリマーと表面疎水性ポリマーを併用する場合には、表面疎水性ポリマー/表面親水性ポリマーの比率が0.18〜0.43が好ましい。
【0021】
また、下地調整モルタル(a)には、上記成分の他に、セメント100質量部に対して、撥水剤0.10〜0.30質量部および/又は繊維0.10〜0.25質量部を含有するのが好ましい。
【0022】
下地調整モルタル(a)の施工は、工程(1)の下地処理の後、すぐに行うか、乾燥後行うことができる。
【0023】
下地調整モルタル(a)の硬化後、工程(3)として再度下地処理を下地調整モルタル(a)の表面に実施する。工程(2)の下地処理は、工程(1)の下地処理と同様に水またはポリマーディスパージョンを散布することができる。工程(2)の下地処理においてもポリマーディスパージョン処理がドライアウト防止効果の点で好ましい。
【0024】
本発明においては、工程(2)の下地処理を施した後、次いで工程(4)として、セメント、軽量細骨材、普通細骨材、保水剤、繊維及びポリマーを含有する弾性接着材(b)でタイル張りを施工することにより付着耐久性を向上させることができる。
【0025】
弾性接着材(b)を用いるタイル張りの施工は、工程(3)の下地処理の後、直ちに行うか、乾燥後行うことができる。
【0026】
本発明で使用する弾性接着材(b)には、硬化成分としてセメントを含有する。本発明のセメントとしては、市販のポルトランドセメントが使用可能である。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントなどが使用できる。その他、高炉セメント、シリカセメント等の混合セメント、白色セメント、ジェットセメント等の特殊セメントも使用可能である。
【0027】
本発明で使用する弾性接着材(b)に用いる細骨材には、軽量細骨材及び普通細骨材が含まれる。普通細骨材としては、珪砂、寒水石、石灰砂、川砂、陸砂、砕砂等が挙げられる。細骨材の粒径は1.2〜0.09mmが好ましい。粗粒率は、1.4〜1.9が好ましい。細骨材(軽量細骨材及び普通細骨材)の配合量は、強度発現性及び変形追従性の点から、セメント100質量部に対し71〜115質量部が好ましく、71〜100質量部がより好ましく、85〜100質量部がさらに好ましい。
【0028】
本発明で使用する弾性接着材(b)に用いられる軽量細骨材としては、有機材質の軽量細骨材、特に断熱性及び防変性を付与するうえで、気孔率の高い軽量細骨材が好ましい。例えば気孔率40〜90%の軽量細骨材が好ましい。具体例としては、エチレン酢酸ビニル共重合体発泡体が挙げられる。軽量細骨材の粒子径は、施工性及び強度の点から0.09〜1.0mmが好ましい。
【0029】
軽量細骨材の配合量は、変形追従性、タイルとの密着性、曲げ強さ、躯体コンクリートとの付着性の点から、全細骨材に対し1.0〜8.0質量%が好ましく、より好ましくは1.0〜7.6質量%であり、さらに好ましくは、5.6〜7.6質量%である。
【0030】
使用する保水剤としては、水溶性セルロース誘導体が好ましい。水溶性セルロース誘導体としては、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸エステル等が好ましい。
保水剤は、セメント100質量部に対して0.15〜0.35質量部用いるのが好ましく、0.22〜0.33質量部用いるのがより好ましい。
【0031】
弾性接着材(b)に用いることができる繊維は、繊維長1mm以上10mm以下が好ましい。すなわち、タイルとの密着性、変形追従性、コテ作業性を同時に向上させるためには、ダレ防止、破断時の変形量の向上に有用な繊維長が1mm以上10mm以下の繊維を使用することが効果的である。市販の繊維には短繊維と収束型があるがどちらも使用可能である。かかる繊維は耐アルカリ性を有するものが望ましく、モルタルに混和可能な有機繊維やガラス繊維が挙げられ、併用も可能である。有機繊維としては、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル等が使用可能である。
【0032】
使用するポリマーとしては、再乳化形粉末樹脂、ポリマーディスパージョンが使用可能である。再乳化形粉末樹脂としては、JIS A 6203に規定されたものを使用でき、ポリマーディスパージョンとしては、同じくJIS A 6203に規定されたものを使用することができる。すなわち、前記再乳化形粉末樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステルなどを主成分とする粉末状の樹脂を使用することができる。また、再乳化形粉末樹脂の製造方法は限定されることなく、粉末化方法やブロッキング防止法などのいずれの製法によって製造してもよい。また、前記ポリマーディスパージョンとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、又はスチレンブタジエン共重合体などを主成分とする樹脂を使用することができる。また、これらのポリマーを2種以上併用することも可能である。
【0033】
ポリマーの配合量は、躯体コンクリートとタイルへの付着性、変形追従性、粘性、施工性(タイルずれ防止)の点から、セメント100質量部に対し固形分換算で2.00〜6.70質量部が好ましく、2.00〜5.00質量部がより好ましい。
【0034】
また、ポリマーを2種以上併用する場合は、変形追従性を向上するポリアクリル酸エステルを主成分とするアクリル樹脂を使用することが好ましい。アクリル樹脂のポリマー中の質量比率(アクリル樹脂/全ポリマー)は、0.13〜1.00が好ましい。さらに好ましくは0.14〜0.50である。
【0035】
本発明において工程(4)で弾性接着材(b)でタイルを張り付け、弾性接着材(b)が硬化した後、次いで工程(5)としてタイル間に設けた目地に、目地材(c)を施工する。
【0036】
本発明で使用する目地材(c)は、セメント、普通細骨材、保水剤、耐アルカリ性繊維及びポリマーを含有する。細骨材は最大粒径600μmとするのが、ポリマーを含有することで優れた施工性を得るとともに吸水性を抑制することが可能となることから好ましい。さらに、細骨材は粒径88μm以下が15〜70mass%であることが好ましい。ひび割れ抵抗性を向上し吸水性を抑制するためには、耐アルカリ性繊維とポリマーの質量比は0.25〜1.60が好ましい。
このような構成にすることで、ひび割れ抵抗性を向上し、吸水性を低く抑えることが可能となり、大型タイルの目地材として使用した際に耐久性を向上することができる。
【0037】
本発明で使用する目地材(c)に用いるセメントに制限はなく、市販の普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色セメント、アルミナセメント高炉セメントA種、B種、C種、フライアッシュセメントA種、B種、C種、シリカセメントA種、B種、C種、超速硬セメント等を1種または併用して使用することができる。意匠性を考慮すると白色セメントが好ましい。
【0038】
本発明で使用する目地材(c)に用いる普通細骨材は、最大粒径600μmの珪砂、石灰砂、川砂、山砂、海砂、砕砂等が使用でき、その他、高炉急冷スラグ骨材、高炉徐冷スラグ骨材、及び下水汚泥スラグ、都市ゴミスラグを微粉砕したもの等が利用可能である。普通細骨材の配合量は、施工性、練り混ぜ水量増加防止、ひび割れ防止、拭き取り性等の点から、セメント100質量部に対し150〜400質量部が好ましく、さらに好ましくは、200〜400質量部が良く、より好ましくは、210〜400質量部が良い。
【0039】
本発明で使用する目地材(c)に用いる保水剤は、セルロースの水溶性誘導体であればよく、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等のアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のヒドロキシアルキル・アルキルセルロース;セルロース硫酸エステル等のセルロースエステルが挙げられる。このうち、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びヒドロキシアルキル・アルキルセルロースが好ましく、特にメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが好ましい。
【0040】
保水剤の配合量は、保水性の確保、施工性、拭き取り性の点から、セメント100質量部に対し、0.10〜0.40質量部が好ましい。さらに好ましくは、0.19〜0.40質量部が良く、より好ましくは0.28〜0.40質量部が良い。
【0041】
本発明で使用する目地材(c)に用いる耐アルカリ性繊維は、目地材としての施工性を低下させないように、繊維長10mm以下が好ましい。市販の繊維には短繊維と収束型があるが目地部への施工性を考慮すると繊維径の小さい収束型が好ましい。さらに、好ましくは収束型の繊維長3〜10mmが良い。耐アルカリ性を有すればモルタルに混和可能な有機繊維、耐アルカリガラス繊維とも使用可能であり、併用することも可能である。有機繊維としては、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリプロピレン等が使用可能であり、ガラス繊維は耐アルカリ性を有するガラス繊維であれば何れのものでも使用可能である。耐アルカリ繊維の配合量は、セメント100質量部に対し0.5〜3.5質量部が好ましく、さらに好ましくは0.5〜2.9質量部が良い。より好ましくは1.5〜2.8質量部が良い。
【0042】
本発明で使用する目地材に用いるポリマーとしては、ポリマーディスパージョンと再乳化形粉末樹脂が使用可能である。ポリマーディスパージョンとしては、JIS A6203に規定されたものを使用でき、また、再乳化形粉末樹脂としては、同じくJIS A 6203に規定されたものを使用することができる。すなわち、前記ポリマーディスパージョンとしては、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、又はエチレン酢酸ビニルなどを主成分とする樹脂を使用することができる。また、前記再乳化形粉末樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステルなどを主成分とする粉末状の樹脂を使用することができる。また、再乳化形粉末樹脂の製造方法は限定されることなく、粉末化方法やブロッキング防止法などのいずれの製法によって製造しても良い。
【0043】
ポリマーの配合量は、吸水性の低減効果、施工性、目地部への充填性、拭き取り性の点から、セメント100質量部に対して、固形分換算で1.5〜10.5質量部が好ましく、さらに好ましくは1.5〜8質量部が良い。より好ましくは、3〜8質量部が良い。
【0044】
耐アルカリ性繊維とポリマーの比率(耐アルカリ繊維/ポリマー)は、ひび割れ抵抗性、吸水性の低減、タイル面にはみ出した本発明の高耐久性目地材の拭き取り性を高度にバランスを取るため、0.25〜1.60が好ましい。
【0045】
本発明で使用する目地材(c)は撥水剤を含むものが好ましい。用いる撥水剤は、特に限定されるものではないが、混和するため微粉末状のものが取り扱い易く、市販のものが使用可能である。例えば、ステアリン酸カルシウム(株)日油 商品名「カルシウムステアレート」、「ジンクステアレート」などが挙げられる。撥水剤の使用により目地部からの雨水等の浸透を抑止でき、浸食され難くなって耐久性が向上する。配合量は、撥水性、吸水量低減効果の点からセメント100質量部に対し0.7〜1.8質量部が好ましい。さらに、好ましくは0.9〜1.7質量部が良く、より好ましくは0.9〜1.2質量部が良い。
【0046】
本発明で使用する目地材(c)には施工性の改善を目的として高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが可能である。増粘剤と併用しても減水効果が失われず、良好な施工性が得られるものであれば使用可能である。例えば、主成分がポリカルボン酸系化合物である太平洋マテリアル(株):商品名「コアフローNF−200」、花王(株):商品名「マイティ21P」、ポリカルボン酸系水溶性高分子である竹本油脂(株):商品名「チューポールSD−100」、「チューポールSD−200」などが挙げられる。既調合品とする場合には、粉末状のものが取り扱いやすい。配合量は、セメント100質量部に対し0.03〜0.08質量部が好ましい。さらに、好ましくは0.03〜0.07質量部が良く、より好ましくは0.03〜0.06質量部が良い。
【0047】
本発明で使用する目地材(c)は、前記成分を配合し、常法に従い、水と混練した後養生することにより製造することができる。水の使用量は、具体的には、セメント100質量部に対し30〜90質量部が好ましい。
【0048】
本発明のタイル施工方法により躯体コンクリート外壁として躯体と接する側から順に、次の(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)の層を有する外壁タイル張り構造が得られる。
(A)下地処理層、
(B)セメント、軽量細骨材を含有する細骨材、保水剤及びポリマーを含有する下地調整モルタル層、
(C)下地処理層、
(D)セメント、軽量細骨材、普通細骨材、保水剤、繊維及びポリマーを含有する弾性接着材層、
(E)セメント、普通細骨材、保水剤、耐アルカリ性繊維及びポリマーを含有する目地材層。
【0049】
得られた外壁タイル張り構造は、環境条件の影響や地震による変形の影響を受けても下地処理方法に優れ下地調整モルタル層、弾性接着材層、目地材層の変形追従性が良好であるため長期付着耐久性が得られる。
【0050】
図1〜
図5に、比較例(
図1及び
図2)及び本発明の実施例(
図3〜
図5)で得られた外壁タイル張り構造の概念図を示す。
図1は、下地処理を行なっていない例である。
図2は、弾性接着材を用いず、下地調整モルタルでタイル張りを施工した例である。
図3は、下地調整モルタルを躯体コンクリートの一部に施工し、弾性接着材でタイル張りを施工した例である。
図4は、下地調整モルタルを躯体コンクリート全面に施工し、弾性接着材でタイル張りを施工した例である。
図5は、弾性接着材を下地調整モルタルとして使用し、再度弾性接着材でタイル張りを施工した例である。
【実施例】
【0051】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0052】
まず、各種試験方法について説明する。
【0053】
[下地調整モルタル(a)のフレシュ性状の確認]
20℃、80%RHの試験室で実施した。
<フロー試験>
JISR5201に従って実施した。
<単位容積質量の測定>
JISA1171に従い、500mLのステンレス製容器を用いて実施した。
<フレッシュ性状の目標値>
フロー値の目標値は、「180±10mm」とし、単位容積質量の目標値は、軽量細骨材を使用するものは、「1.65±0.05kg/L」とし、軽量細骨材を使用しないものは、「1.95±0.10kg/L」とした(表1)。
【0054】
【表1】
【0055】
[下地調整モルタル(a)の硬化性状の確認]
20℃の試験室で実施した。
<曲げ強さ>
JISA6916CM−2に従い、4×4×16cmの供試体を用いて実施した。材齢7日で5N/mm
2以上のものを「良好」とし、5N/mm
2未満を「不良」とした。
<圧縮強さ>
JISA6916CM−2に従い、圧縮強さを測定した後の供試体を用いて実施した。材齢7日で24N/mm
2以上のものを「良好」とし、24N/mm
2未満を「不良」とした。
<静弾性係数の測定>
JISA1171に従って作製した各試料のφ5×10cm試験体を材齢7日でJIS1149により静弾性係数を測定した。試験はn=3で実施し、平均値を試験値とした。
<付着強さ>
JISA6916CM−2に従い、70×70×20mmのモルタル基板を用いて実施した。材齢7日の付着強さが2.0N/mm
2以上であるものを「良好」とし、2.0N/mm
2未満であるものを「不良」とした。
<硬化性状の評価>
硬化性状の各項目の評価結果がすべて「良好」であるものを総合評価が「良好」とし、1項目でも評価結果が「不良」であるものは総合評価が「不良」とした(表2)。
【0056】
【表2】
【0057】
[下地調整モルタル(a)のコテ塗り施工性の評価]
作製したモルタルに対し、温度20℃の環境下で次の方法によりコテ塗り施工性を評価した。即ち、60×120×6cmのコンクリート平板を地面に垂直に設置した。設置したコンクリート平板に5倍希釈液のアクリルエマルションを0.15kg/m
2塗布した。乾燥後、5mm厚さで市販の金鏝を用いて塗り付け、下地調整モルタル(a)のコテ塗り施工性の評価を行った。容易に平滑に塗付けらたモルタルをコテ伸びが「良好」とし、コテ波ができたものを「不良」とした。また、使用した金ゴテにモルタルが殆ど残存していないものをコテ切れが「良好」とし、金ゴテに著しくモルタルが付着残存したものをコテ切れが「不良」とした。モルタル面が平滑に仕上がり、且つ塗付け24時間経過後に塗付けられたモルタルにひび割れが見られなかったものを仕上がり面が「良好」と判断した。コテ波ができ、且つ塗付け24時間経過後に塗付けられたモルタルにひび割れ発生したものを仕上がり面が「不良」と判断した。塗付け24時間経過後にモルタル面にひび割れが発生したものはモルタル面の平滑性によらず「不良」と判断した。これらの項目が1項目でも「不良」となったものは全てコテ塗り施工性「不良」と判断した(表3)。
【0058】
【表3】
【0059】
[弾性接着材(b)のフレシュ性状の確認]
20℃、80%RHの試験室で実施した。
<フロー試験>
JISR5201に従って実施した。
<単位容積質量の測定>
JISA1171に従い、500mLのステンレス製容器を用いて実施した。
<保水率>
JISA6916附属書によりろ紙5Aを用いて60分後の保水率を測定した。
<フレッシュ性状の評価基準>
フレッシュ性状の各試験項目の評価基準を表4に示し、総合評価基準を表5に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
[弾性接着材(b)の硬化性状の確認]
20℃の試験室で実施した。
<硬化性状の確認>
2−1.曲げ強さ試験
JISA1171に従って、20℃の試験室で作製した4×4×16cmの試験体を用い、材齢28日でたわみ量0.5mm/min一定で曲げ強さ試験を実施した。試験はn=3とし、平均値を試験値とした。
載荷は
図6に示すように中央集中載荷とした。
【0063】
曲げ強さの評価基準を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
2−2.割裂引張強さ試験
JISA1171に従って、20℃の試験室で作製したφ5×10cmの試験体を用い、材齢28日でたわみ量0.5mm/min一定で割裂引張強さ試験を実施した。また、
図7に示す位置にひずみゲージを張り、破断時のひずみを測定した。割裂引張強さ及び破断時の評価基準を表7に示す。
【0066】
【表7】
【0067】
2−3.静弾性係数の測定
JISA1171に従って作製した各試料のφ5×10cm試験体を材齢7日でJIS
1149により静弾性係数を測定した。試験はn=3で実施し、平均値を試験値とした。
【0068】
2−4.付着試験
JISA6916附属書Aにより20℃の試験室で太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍液を150g/m
2塗布した70×70×20mmのモルタル板に45×45×7mmの施ゆうタイルを各試料で張り付けた。材齢7日で付着強さを測定した。試験はn=3で実施し、平均値を試験値とした。
図8に試験体の縦断面図を示す。
【0069】
静弾性係数及び付着強さの評価基準を表8に示す。
【0070】
【表8】
【0071】
<硬化性状の総合評価基準>
硬化性状の総合評価基準を表9に示す。
【0072】
【表9】
【0073】
<施工性の確認>
コテ作業性とタイルとの密着性の評価試験
予め太平洋マテリアル(株)製商品名太平洋トフコンEの5倍液を150g/m
2塗布、乾燥させた450×900×60mmコンクリート板に各試料を4mm厚さで400×800mm塗り付け、表10の項目について確認した。
タイルと各試料の密着性は、各試料を塗り付け後、45二丁掛けタイルを張り付けて確認した。各試料をコンクリート板に塗り付け、10分間隔で40分まで45二丁掛けタイルを張り付けた。タイルと各試料と馴染ませた後、剥がす作業を繰り返した。タイル裏面とコンクリート板側に残った各試料の状態を確認し、付着性とオープンタイムの評価を行った。タイルを剥がし試料がタイル裏面に70%以上の付着している時間をオープンタイムとした。
【0074】
【表10】
【0075】
[目地材(c)のフレシュ性状の確認]
20℃、80%RHの試験室で実施した。
<フロー試験>
JISR5201に従って実施した。
<単位容積質量の測定>
JISA1171に従い、500mLのステンレス製容器を用いて実施した。
<保水率>
20℃の試験室で公共建築協会規格「既製調合目地材」に従い、5Aのろ紙による10分後の保水率を測定した。
<フレッシュ性状の評価基準>
フレッシュ性状の各試験項目の評価基準を表11に示し、総合評価基準を表12に示す。
【0076】
【表11】
【0077】
【表12】
【0078】
[目地材(c)の硬化性状の確認]
2−1.曲げ強さ試験
JISA1171に従って、20℃の試験室で作製した4×4×16cmの試験体を用い、材齢7日でたわみ量0.5mm/min一定で曲げ強さ試験を実施した。試験はn=3とし、平均値を試験値とした。
載荷は
図6に示すように中央集中載荷とした。
曲げ強さの評価基準を表13に示す。
【0079】
【表13】
【0080】
2−2.割裂引張強さ試験
JISA1171に従って、20℃の試験室で作製したφ5×10cmの試験体を用い、材齢7日でたわみ量0.5mm/min一定で割裂引張強さ試験を実施した。また、
図7に示す位置にひずみゲージを張り、破断時のひずみを測定した。割裂引張強さ及び破断時の評価基準を表14に示す。
【0081】
【表14】
【0082】
2−3.静弾性係数の測定
JISA1171に従って作製した各試料のφ5×10cm試験体を材齢7日でJIS1149により静弾性係数を測定した。試験はn=3で実施し、平均値を試験値とした。
【0083】
【表15】
【0084】
<施工性の確認>
20℃の試験室で、300×300×60mmのコンクリート平板にモルトップエマルジョンの5倍液を150g/m
2塗布し、24時間後に50角モザイクタイルを1シート本発明品のタイル張付けモルタルで張付けた。48時間後、ゴムゴテで塗りつけ、以下の基準に従って施工性を評価した。
1)コテ作業性・ダレの少なさ
◎: コテへ目地材が全く付着せず、コテ伸びが極めて良く、目地部へ充填後目地部の膨らみが全くない。
○:コテへ目地材がほとんど付着せず、コテ伸びが良く、目地部へ充填後目地部の膨らみが全くない。
×: コテへ目地材が付着し、目地部への充填性が悪く、充填後目地部が膨らむ。
【0085】
2)充填性
○:仕上がり面が平滑で、未充填部分もない。
△:仕上がり面が平滑でないが、未充填部分はない。
×:仕上がり面が平滑でなく、未充填部分もある。
3)拭き取り性
上記の施工性試験によって施工された壁面を清掃し、拭き取り性を評価した。
○:タイル面、目地部いずれにも拭き残りがない。
×:タイル面、目地部のいずれかに拭き取れない箇所がある。
【0086】
<外壁構造の変形追従性>
圧縮強度35±5N/mm2の10×10×40cmのコンクリート供試体の側面2面に45×45×7mmのJISA5209に規定するセラミックタイルを5枚、本発明の施工方法で張り付けコンクリート供試体が破壊する直前まで耐圧機を用いてJISA1108に従い軸力を加え、下地調整材、タイル張付けモルタル、目地材の変状を確認した(
図9)。
【0087】
<変形追従性の評価項目と評価方法>
【0088】
【表16】
【0089】
各材料に変状が発生しなかった場合を「○」、変状が発生したものを「×」とし、変形追従性の評価基準を表17に示す。
【0090】
【表17】
【0091】
表18〜表20に下地調整モルタル(a)、弾性接着材(b)及び目地材(c)の配合を示す。それぞれの組成物を用いて、前記の試験方法により性能を評価した。それらの評価結果も表18〜表20に示す。
【0092】
【表18】
【0093】
【表19】
【0094】
【表20】
【0095】
表18中、下地調整モルタル(a)中に参考品は軽量細骨材を含有しない例である。
表19中、参考品b11は、弾性接着材(b)中に軽量細骨材を含有しない例がある。参考品b12は、弾性接着材(b)中にポリマーを含有しない例である。参考品b13は弾性接着材(b)中に繊維を含有しない例である。
表20中の参考品c11は、目地材(c)中にポリマーを含有しない例である。参考品c12は、目地材(c)中に耐アルカリ性繊維を含有しない例である。
【0096】
次に、表21の処方(各組成物の配合は、前記の表18〜表20)の下地調整モルタル(a)、弾性接着材(b)及び目地材(c)を用いて変性追従性の試験を行った結果を表21に示す。
【0097】
【表21】
【0098】
表21から、本発明の工程(1)〜工程(5)のいずれかの工程の要件を満たさない方法でタイル施工をした場合には、優れた変形追従性を示さなかった。