(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天然黒鉛を用いた摺動部材は土状黒鉛の灰分を比較的多く含む。そのため、灰分の作用により被摺動部材に対する摺動部材の摺動性能が良好となる。しかしながら、天然黒鉛を用いた摺動部材では、灰分の含有量にばらつきが生じやすい。また、天然黒鉛が採取される鉱脈または山が異なると、灰分の成分が異なる可能性がある。その結果、摺動部材の摺動性能にばらつきが生じやすい。
【0006】
人造黒鉛およびタルクを用いた炭素質摺動材では、灰分が比較的少ないため、一定の摺動性能が得られると考えられる。しかしながら、本発明者が行った試験の結果によると、人造黒鉛およびタルクを用いた炭素質摺動材では、液体中で高い耐摩耗性が得られないことが分かった。
【0007】
本発明の目的は、摺動性能の均一性が確保されるとともに液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上された摺動部材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る摺動部材は、人造黒鉛のみを含む骨材と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含み、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛
92.5〜95重量部を含むものである。
【0009】
その摺動部材は、骨材として人造黒鉛を含むので、灰分の含有量が比較的少ない。そのため、灰分の含有量および成分のばらつきが小さい。それにより、摺動性能の均一性が確保される。また、骨材にカオリンが添加されることにより、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上される。
【0010】
摺動部材は、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛92.5〜95重量部を
含むので、摺動性能の均一性が十分に確保される
。
【0011】
摺動部材は、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2〜20重量部を含んでもよい。この場合、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性がより向上される。摺動部材は、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2.5〜10重量部を含んでもよい。この場合、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性がさらに向上される。
【0012】
摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して2〜10重量%の灰分を含んでもよい。この場合、摺動性能の均一性が十分に確保される。摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して3〜7重量%の灰分を含むことが好ましい。この場合、摺動性能の均一性がより十分に確保される。摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して3〜6重量%の灰分を含むことがより好ましい。この場合、摺動性能の均一性がさらに十分に確保される。摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して3〜5.5重量%の灰分を含むことがさらに好ましい。この場合、摺動性能の均一性がさらに十分に確保される。
【0013】
本発明に係る摺動部材の製造方法は、人造黒鉛のみを含む骨材と添加剤としてのカオリンとを混合することにより混合粉末を調製する工程と、調製された混合粉末とバインダとを混練することにより混合基材を作製する工程と、混合基材を粉砕する工程と、粉砕された混合基材を成形する工程と、成形された混合基材を焼成する工程とを含み、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛
92.5〜95重量部を含むものである。
【0014】
その製造方法によれば、摺動部材は、骨材として人造黒鉛を含むので、灰分の含有量が比較的少ない。そのため、灰分の含有量および成分のばらつきが小さい。それにより、摺動性能の均一性が確保される。また、骨材にカオリンが添加されることにより、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、摺動性能の均一性が確保されるとともに液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上された摺動部材が実現される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1)実施の形態に係る摺動部材およびその製造方法
以下、本発明の実施の形態に係る摺動部材およびその製造方法について説明する。本実施の形態に係る摺動部材は、例えば、液体用メカニカルシールの摺動部材または液体ポンプの軸受けとして用いることができる。また、本実施の形態に係る摺動部材は、例えば、大気中用のコンプレッサのパッキンまたは真空ポンプのベーンとしても用いることができる。
【0018】
以下、本実施の形態に係る摺動部材の製造方法について説明する。骨材として人造黒鉛粉末を用いる。この場合、灰分が1重量%未満で比較的安定した品質を有する人造黒鉛を用いることが好ましい。例えば、2.10〜2.26Mg/m
3の真比重を有する一種または複数種の人造黒鉛粉末を用いる。本実施の形態では、骨材が天然黒鉛を含まない。それにより、灰分の含有量および成分のばらつきによる摺動性能のばらつきが生じない。
【0019】
次に、人造黒鉛粉末に添加剤(研削材)としてカオリンを添加し、これらを混合することにより混合粉末を調製する。カオリンとは、カオリナイト、パイロフィライト等の結晶性粘土鉱物をいう。人造黒鉛粉末に添加剤としてカオリンおよびタルクを添加してもよい。
【0020】
混合粉末の総量100重量部に対して、人造黒鉛粉末の割合は、例えば80〜95重量部である。それにより、摺動性能の均一性が十分に確保される。また、混合粉末の総量100重量部に対して、人造黒鉛粉末の割合が90〜95重量部であることが好ましい。それにより、摺動性能の均一性がより十分に確保される。さらに、混合粉末の総量100重量部に対して、人造黒鉛粉末の割合が90〜93重量部であることがより好ましい。それにより、摺動性能の均一性がさらに十分に確保される。
【0021】
混合粉末の総量100重量部に対して、添加剤の割合は、例えば5〜20重量部である。混合粉末の総量100重量部に対して、添加剤の割合は、例えば5.5〜10重量部であることが好ましい。添加剤の割合は、例えば6〜8重量部であることがより好ましい。適切な灰分の含有量が得られる。
【0022】
混合粉末の総量100重量部に対して、カオリンの割合は、例えば2〜20重量部である。それにより、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が十分に向上される。また、混合粉末の総量100重量部に対して、カオリンの割合が2.5〜10重量部であることが好ましい。それにより、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性がより向上される。さらに、混合粉末の総量100重量部に対して、カオリンの割合が2.5〜8重量部であることがより好ましい。それにより、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性がさらに向上される。
【0023】
混合粉末とバインダとを例えば200〜220℃で混練することにより混合基材を得る。バインダとしては、ピッチ、タール、熱硬化性樹脂等を用いることができ、これらのうち複数を混合して用いてもよい。
【0024】
その後、混練により得られた混合基材を粉砕機にて粉砕する。この場合、混合基材全体のうち70〜80重量%の混合基材の粒径が例えば63μmより小さくなるように、粉砕機の回転数および粉砕時間等の粉砕条件を調整する。
【0025】
その後、粉砕された混合基材を例えば約120MPaの圧力で例えばCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方加圧)法により成形した後、約1000℃で焼成することにより炭素基材を作製する。炭素基材により、例えば、コンプレッサのパッキンまたは真空ポンプのベーン等の摺動部材を作製することができる。
【0026】
上記の焼成後の炭素基材に含浸処理を施すことにより炭素基材の気孔(微細な空隙)を封止する。含浸処理のための含浸材料としては、例えばフェノール樹脂またはフラン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。含浸処理では、大気圧から所定圧力に減圧されたチャンバ内で炭素基材を含浸材料に浸漬させる。この状態で、チャンバ内に高圧の窒素またはアルゴン等の不活性ガスを供給する。それにより、炭素基材内の気孔に含浸材料が浸み込む。その後、炭素基材を含浸材料から引き上げた後に加工する。それにより、液体用メカニカルシールの摺動部材(例えば固定環)または液体ポンプの軸受け等の摺動部材を作製することができる。
【0027】
図1は本発明の一実施の形態に係るメカニカルシールの摺動部材の斜視図である。メカニカルシールは、固定環および回転環を含む。固定環は、ケーシング内でケーシングの開口部に固定される。回転環は、ケーシング内で固定環に重なるように設けられる。回転環および固定環に回転軸が挿入される。回転軸は、ケーシングの外部に突出する。回転環は回転軸に固定される。また、回転環は、一または複数のスプリングにより固定環に向かう方向に付勢される。
図1の摺動部材1は、メカニカルシールの固定環として用いられる。
【0028】
骨材として人造黒鉛粉末を用いた場合には、骨材として天然黒鉛粉末を用いた場合に比べて、灰分の含有量および成分のばらつきが小さい。本実施の形態に係る摺動部材では、灰分の含有量は2〜10重量%である。それにより、摺動部材と相手部材(被摺動部材)との間での焼き付きの発生が十分に防止されるとともに摺動性能の均一性が十分に確保される。また、灰分の含有量は3〜7重量%であることが好ましい。それにより、焼き付きの発生がより十分に防止されるとともに摺動性能の均一性がより十分に確保される。さらに、灰分の含有量は3〜6重量%であることがさらに好ましい。それにより、焼き付きの発生がさらに十分に防止されるとともに摺動性能の均一性がさらに十分に確保される。さらに、灰分の含有量は3.5〜5.0重量%であることがさらに好ましい。それにより、焼き付きの発生がさらに十分に防止されるとともに摺動性能の均一性がさらに十分に確保される。
【0029】
(2)実施の形態の効果
本実施の形態に係る摺動部材は、骨材として人造黒鉛を含むので、灰分の含有量が比較的少ない。そのため、灰分の含有量または成分のばらつきによる摺動性能のばらつきが抑制される。それにより、摺動性能の均一性が確保される。また、骨材が添加剤としてカオリンを含むので、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上される。
【0030】
(3)実施例および比較例
実施例および比較例では、2種類の人造黒鉛粉末を用いた。以下、2種類の人造黒鉛粉末を人造黒鉛粉末Aおよび人造黒鉛粉末Bと呼ぶ。また、実施例では、添加剤として3種類のカオリンを用いた。以下、3種類のカオリンをカオリンA、カオリンBおよびカオリンCと呼ぶ。
【0031】
(3−1)実施例1
真比重2.15の人造黒鉛粉末Aと真比重2.24の人造黒鉛粉末Bとを混合した。この場合、人造黒鉛粉末Aの割合を50重量部とし、人造黒鉛粉末Bの割合を42.5重量部とし、骨材として合計92.5重量部の黒鉛粉末を調製した。92.5重量部の黒鉛粉末に添加剤として7.5重量部のカオリンAを添加し、これらを混合することにより100重量部の混合粉末を調製した。100重量部の混合粉末と95重量部のバインダとを200〜220℃で混練することにより混合基材を得た。その後、得られた混合基材を粉砕機にて粉砕した。この場合、全体の混合基材のうち70〜80重量%の混合基材の粒径が63μmより小さくなるように、粉砕機の回転数および粉砕時間等の粉砕条件を調整した。
【0032】
その後、CIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方加圧法)により、粉砕された混合基材を約120MPaの圧力で直径約80mmおよび長さ200mmの円柱形状に成形した後、約1000℃で焼成して炭素基材を作製した。
【0033】
(3−2)実施例2
添加剤としてカオリンAおよびタルクを用い、カオリンAの割合を5重量部とし、タルクの割合を2.5重量部とした点を除いて、実施例1と同様の方法で炭素基材を作製した。
【0034】
(3−3)実施例3
カオリンAの割合を3.75重量部とし、タルクの割合を3.75重量部とした点を除いて、実施例2と同様の方法で炭素基材を作製した。
【0035】
(3−4)実施例4
カオリンAの割合を2.5重量部とし、タルクの割合を5重量部とした点を除いて、実施例2と同様の方法で炭素基材を作製した。
【0036】
(3−5)実施例5
人造黒鉛粉末Aの割合を50重量部とし、人造黒鉛粉末Bの割合を43重量部とした点、および添加剤としてカオリンAの代わりに7重量部のカオリンBを用いた点を除いて、実施例1と同様の方法で炭素基材を作製した。
【0037】
(3−6)実施例6
添加剤としてカオリンBの代わりにカオリンCを用いた点を除いて、実施例5と同様の方法で炭素基材を作製した。
【0038】
(3−7)比較例1
骨材として人造黒鉛粉末Aおよび人造黒鉛粉末Bの代わりに100重量部の天然黒鉛粉末を用い、添加剤を用いず、バインダの割合を80重量部とした点を除いて、実施例1と同様の方法で炭素基材を作製した。天然黒鉛粉末は約10重量%の灰分を含む。
【0039】
(3−8)比較例2
骨材として人造黒鉛粉末Aおよび人造黒鉛粉末Bの代わりに、天然黒鉛粉末と真比重2.15の人造黒鉛粉末Aと含む混合黒鉛粉末を用い、添加剤を用いず、バインダの割合を94重量部とした点を除いて、実施例1と同様の方法で炭素基材を作製した。天然黒鉛粉末の割合を60重量部とし、人造黒鉛粉末の割合を40重量部とした。天然黒鉛粉末は約20重量%の灰分を含む。
【0040】
(3−9)比較例3
人造黒鉛粉末Aの割合を50重量部とし、人造黒鉛粉末Bの割合を50重量部とし、添加剤を用いない点を除いて、実施例1と同様の方法で炭素基材を作製した。
【0041】
(3−10)比較例4
添加剤としてカオリンAの代わりにタルクを用いた点を除いて、実施例2と同様の方法で炭素基材を作製した。
【0042】
表1には、実施例1〜6および比較例1〜4の混合基材の骨材、添加剤およびバインダの割合ならびに炭素基材中の灰分の含有量が示される。
【0044】
実施例1〜6および比較例4では、骨材が人造黒鉛のみを含むので、炭素基材中の灰分の含有量は3〜6重量%の範囲内であった。一方、比較例1,2では、骨材が天然黒鉛を含むので、炭素基材中の灰分の含有量が6.5以上と多くなっている。これに対して、比較例3では、骨材が人造黒鉛のみを含み、かつ添加剤が添加されていないので、炭素基材中の灰分の含有量が著しく少ない。
【0045】
表2には、実施例1〜6および比較例1〜4の炭素基材の基本特性として、かさ密度、硬さ、曲げ強さ、圧縮強さ、灰分の含有量および灰分ばらつきが示される。ここで、灰分ばらつきとは、同一の方法で作製された複数の炭素基材における灰分の含有量または成分のばらつきである。表2においては、“○”は灰分ばらつきが小さいことを意味し、“×”は灰分ばらつきが大きいことを意味する。
【0047】
表2に示されるように、実施例1〜6および比較例3,4では、灰分ばらつきが小さい。これに対して、比較例1,2においては、灰分ばらつきが大きい。
【0048】
実施例1〜6および比較例1〜4において、炭素基材のかさ密度、硬さ、曲げ強さおよび圧縮強さに大きな差異はない。
【0049】
(4)摺動試験
(4−1)水中での摺動試験
実施例1〜6および比較例1〜4の炭素基材にフェノール樹脂を用いて含浸処理を行うことにより炭素基材の気孔を封止した。含浸処理後の炭素基材を加工することにより摺動部材としてメカニカルシールの固定環(
図1参照)を作製した。
【0050】
表3には、実施例1〜6および比較例1〜4の摺動部材の特性として、かさ密度、硬さ、曲げ強さおよび圧縮強さが示される。
【0052】
表3に示されるように、実施例1〜6および比較例1〜4において、摺動部材のかさ密度、硬さ、曲げ強さおよび圧縮強さに大きな差異はない。
【0053】
相手部材(被摺動部材)としてメカニカルシールの回転環を用いた。次のようにメカニカルシール試験機を構成した。
【0054】
ケーシングの開口部に重なるように固定環(摺動部材)および回転環(相手部材)を配置し、固定環および回転環に回転軸を挿入した。固定環をケーシングに固定し、回転環を回転軸に固定した。回転環を固定環に向かう方向にスプリングにより付勢した。ケーシング内には流体として水を収容した。固定環の摺動面の外径は49.5mmであり、内径は43.5mmである。流体の圧力を2MPaとし、流体の温度を35℃とした。フラッシング量は0.18m
3/hであった。回転軸を3600rpmの回転数および8.76m/sの周速度で回転させた。
【0055】
100時間の試験後の固定環の摩耗量、回転環の摩耗量および流体漏れ量を測定した。固定環については、試験の前後の固定環の4箇所の高さ(軸方向の厚み)をダイヤルゲージにより測定し、試験の前後の固定環の4箇所の高さの差の平均値を摩耗量として算出した。また、回転環については、表面粗さ計により摺動面の形状を測定し、試験前の回転環の高さと2箇所の最深部の高さとの差の平均値を摩耗量として算出した。流体漏れ量については、ケーシングの外部に突出する回転軸を覆うようにビニール袋を取り付け、ケーシングから漏れ出る流体をビニール袋に捕集し、捕集された流体の体積を測定した。
【0056】
図2および
図3は実施例1〜6および比較例1〜4についての水中での摺動試験の結果を示す図である。
図2の左の縦軸は摺動部材の(固定環)の摩耗量を表す。
図2には、実施例1〜6および比較例1〜4の摺動部材の摩耗量が棒グラフで示される。
図3の左の縦軸は相手部材(回転環)の摩耗量を表す。
図3には、実施例1〜6および比較例1〜4の摺動部材を用いた場合の相手部材の摩耗量が棒グラフで示される。さらに、
図2および
図3の右の縦軸は流体漏れ量を表す。
図2および
図3には、実施例1〜6および比較例1〜4の摺動部材を用いた場合の流体漏れ量が四角印で示される。
【0057】
また、表4に実施例1〜6および比較例1〜4の摺動部材の骨材および添加剤ならびに水中での摺動試験の結果を示す。
【0059】
図2および表4に示されるように、比較例4の摺動部材の摩耗量が最も大きく、比較例1の摺動部材の摩耗量が最も小さい。実施例1〜6および比較例2,3の摺動部材の摩耗量は比較例4の摺動部材の摩耗量に比べて十分に小さい。特に、実施例1,3,4,6の摺動部材の摩耗量は、比較例1,2の摺動部材と同様に、十分に小さい。実施例3,4の摺動部材の摩耗量は50μm/100h以下となった。
【0060】
これらの結果から、添加剤がカオリンを含む場合には、添加剤がタルクのみを含む場合に比べて、水中での耐摩耗性が十分に向上することが分かる。
【0061】
また、実施例1,2,4〜6では、流体漏れ量が50ml/100h以下となった。
【0062】
実施例2,6では、相手部材の摩耗量が5μm/100h以下となった。
図3および表4に示されるように、実施例1〜6において、相手部材(回転環)の摩耗量は、摺動部材(固定環)の添加剤の含有量および種類により異なる。それにより、摺動部材の添加剤の含有量および種類を選択することにより、相手部材の摩耗量を向上させることができる。流体漏れ量は、摺動部材の摩耗量および相手部材の摩耗量により決まる。したがって、摺動部材の添加剤の含有量および種類を選択することにより、流体漏れ量をより低減することができる。
【0063】
一方、比較例4においては、相手部材の摩耗量は少ないが、摺動部材の摩耗量および流体漏れ量は最も多い。
【0064】
(4−2)大気中での摺動試験
実施例1〜6および比較例1〜4の炭素基材を12.5×20×32mmの略直方体形状に加工し、さらに20×5mmの摺動面を形成することにより、大気中での摺動試験用の試験片を作製した。
【0065】
相手部材(被摺動部材)としては、直径60mmで表面粗さRaが0.04μmのCrメッキリングを用いた。
【0066】
実施例1〜6および比較例1,2,4については、試験片を相手部材に荷重1.0MPaで押し付け、荷重1.0MPaの状態で2時間摺動後の摩擦係数および試験片の摩耗量を測定した。摩耗量については、2時間摺動の測定結果を100時間摺動の摩耗量に換算した。比較例3については、試験片を相手部材に押し付け、荷重を0.2〜1.0MPaに増加させながら摩擦係数および試験片の摩耗量を測定した。
【0067】
図4は実施例1〜6および比較例1〜4について大気中での摺動試験の結果を示す図である。
図4の左の縦軸は試験片の摩耗量を表し、右の縦軸は摩擦係数を表す。実施例1〜6および比較例1,2,4の試験片の摩耗量が棒グラフで示され、実施例1〜6および比較例1,2,4の試験片を用いた場合の摩擦係数が四角印で示される。
【0068】
また、表5に実施例1〜6および比較例1〜4の試験片の骨材および添加剤なよびに大気中での摺動試験の結果を示す。
【0070】
図4および表5に示されるように、実施例5および比較例4の試験片の摩耗量および摩擦係数は比較例1,2の試験片の摩耗量および摩擦係数よりも小さい。また、実施例1〜6および比較例1,2,4の試験片については、焼き付きが起生じることなく測定が終了した。一方、比較例3の試験片については、荷重が0.6MPaに達したときに焼き付きが生じた。これは、比較例3の試験片は灰分をほとんど含まないためであると考えられる。
【0071】
実施例2,3,4においては、カオリンの配合比が大きいほど試験片の摩耗量および摩擦係数が大きくなった。
【0072】
これらの結果から、骨材が人造黒鉛のみを含みかつ添加剤がカオリンを含む場合には、カオリンの種類および添加量を選択することにより、大気中での耐摩耗性を向上させることができることが分かる。また、骨材が人造黒鉛のみを含みかつ添加剤を含まない場合には、焼き付きが発生することが分かる。
【0073】
(5)総合評価
表6に実施例1〜6および比較例1〜4の骨材、添加剤および灰分とともに総合評価を示す。
【0075】
表6の摺動性能の均一性の項目において、“○”は摺動性能のばらつきが小さいことを意味し、“×”は摺動性能のばらつきが大きいことを意味する。水中での耐摩耗性の項目において、“◎”は耐摩耗性が十分に高いことを意味し、“○”は耐摩耗性が高いことを意味し、“×”は耐摩耗性が低いことを意味する。大気中での耐摩耗性の項目において、“◎”は耐摩耗性が十分に高いことを意味し、“○”は耐摩耗性が高いことを意味する。“△”は耐摩耗性がやや低いことを意味し、“×”は焼き付きが発生することを意味する。
【0076】
表6の実施例1〜6および比較例3,4の総合評価より、骨材として人造黒鉛を用いることにより摺動性能の均一性が確保されることが分かる。また、添加剤としてカオリンを用いることにより、水中での耐摩耗性が向上しかつ大気中での焼き付きの発生が防止されることが分かる。さらに、カオリンの種類および添加量を調整することにより、大気中での耐摩耗性を向上させることが可能であることが分かる。
(6)参考形態
本参考形態に係る摺動部材は、骨材としての人造黒鉛と、添加剤としてのカオリンと、バインダとを含むものである。
その摺動部材は、骨材として人造黒鉛を含むので、灰分の含有量が比較的少ない。そのため、灰分の含有量および成分のばらつきが小さい。それにより、摺動性能の均一性が確保される。また、骨材にカオリンが添加されることにより、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上される。
摺動部材は、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛80〜95重量部を含んでもよい。この場合、摺動性能の均一性が十分に確保される。摺動部材は、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、人造黒鉛90〜95量部を含んでもよい。この場合、摺動性能の均一性がより十分に確保される。
摺動部材は、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2〜20重量部を含んでもよい。この場合、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性がより向上される。摺動部材は、骨材および添加剤の総量100重量部に対して、カオリン2.5〜10重量部を含んでもよい。この場合、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性がさらに向上される。
摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して2〜10重量%の灰分を含んでもよい。この場合、摺動性能の均一性が十分に確保される。摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して3〜7重量%の灰分を含むことが好ましい。この場合、摺動性能の均一性がより十分に確保される。摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して3〜6重量%の灰分を含むことがより好ましい。この場合、摺動性能の均一性がさらに十分に確保される。摺動部材は、骨材、添加剤およびバインダの総重量に対して3〜5.5重量%の灰分を含むことがさらに好ましい。この場合、摺動性能の均一性がさらに十分に確保される。
本参考形態に係る摺動部材の製造方法は、骨材としての人造黒鉛と添加剤としてのカオリンとを混合することにより混合粉末を調製する工程と、調製された混合粉末とバインダとを混練することにより混合基材を調製する工程と、調製された混合基材を成形する工程と、成形された混合基材を焼成する工程とを含むものである。
その製造方法によれば、摺動部材は、骨材として人造黒鉛を含むので、灰分の含有量が比較的少ない。そのため、灰分の含有量および成分のばらつきが小さい。それにより、摺動性能の均一性が確保される。また、骨材にカオリンが添加されることにより、液体中または高湿度雰囲気中での耐摩耗性が向上される。