特許第6641152号(P6641152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641152
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】バルブ装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20200127BHJP
【FI】
   F16K31/06 310C
   F16K31/06 385C
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-207946(P2015-207946)
(22)【出願日】2015年10月22日
(65)【公開番号】特開2017-78498(P2017-78498A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100080045
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100124752
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】頼田 浩
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆修
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅史
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−059376(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状を呈するスリーブ(5)を有するとともに、このスリーブの内側において軸方向へ摺動自在に支持されるスプール(6)を有し、このスプールの軸方向の位置に応じた出力油圧を発生するスプール弁(3)と、
このスプール弁に設けられ、前記スプールを軸方向の一方へ向けて付勢するスプリング(7)と、
このスプリングの付勢力に抗して前記スプールを駆動するリニアソレノイド(4)と、
前記スプールにディザを発生させるディザ信号を前記リニアソレノイドに付与するディザ出力部(23)とを備え、
出力油圧の上昇に応じた軸力を前記スプールに付与するフィードバック室(V2)が前記スプール弁に設けられるバルブ装置において、
前記スリーブに対する前記スプールの軸方向の移動範囲のうち、前記スプールの軸方向の移動に応じて出力油圧が変化する範囲を制御域(Xc〜X0)とし、前記スプールを軸方向へ移動させても出力油圧が変化しない範囲を不感域(0〜Xc、X0〜XL)とした場合、
前記制御域では、前記フィードバック室の油圧により前記スプールに与えられる軸力が、前記スプールの軸方向の移動に応じて変化し、前記不感域では、前記フィードバック室の油圧により前記スプールに与えられる軸力が、前記スプールの軸方向の移動に応じて変化せず、
前記ディザ出力部は、前記制御域と前記不感域の両方において前記リニアソレノイドに前記ディザ信号を付与するとともに、前記不感域における前記ディザ信号の波高を、前記制御域における前記ディザ信号の波高より小さくすることを特徴とするバルブ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプール弁をリニアソレノイドで駆動するバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スプール弁をリニアソレノイドで駆動するバルブ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、スプールに十分に小さい振れ幅のディザを発生させ、スプールを動摩擦の状態にすることでヒステリシスを軽減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−198431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁スプール弁は、リニアソレノイドにおけるプランジャの移動開始付近と移動終了付近に、スプールが軸方向へ変位しても出力油圧が変化しない領域がある。
以下では、スリーブに対するスプールの移動範囲のうち、スプールの軸方向の移動に応じて出力油圧が変化する範囲を制御域とするとともに、スプールを軸方向へ移動させても出力油圧が変化しない範囲を不感域とする。
【0005】
(問題点1)
不感域であっても、スプールに適切なディザを与えることで、スリーブとスプールの間に異物が噛み込むのを抑制できる。
そこで、不感域でもスプールにディザを与えることが望まれる。
【0006】
以下では、スプールにディザを発生させるためにリニアソレノイドへ与える信号をディザ信号とする。
ディザ信号を構成する波高と周波数は、ディザによってスプールを動摩擦の状態にするとともに、ディザによる出力油圧の変動が十分小さくなるように設定される。具体的に、ディザ信号の波高と周波数は、ヒステリシスを軽減することを目的として設定されるため、制御域において適切となるように設定される。
【0007】
制御域では、スプールの移動時にスプリングのバネ力と、リニアソレノイドの駆動力と、フィードバック油圧によるF/B力とが変化する{図3(a)参照}。
これに対し、不感域では、F/B力が変化しない{図3(b)参照}。
本願発明者は、スプールに作用するバネ定数が、制御域と不感域で異なることを見出した。具体的には、制御域に対して不感域では、バネ定数が小さくなることを見出した。
【0008】
このため、制御域から不感域に移り変わる時に、バネ定数が小さくなることによって、ディザの振幅が大きくなってしまう。その結果、不感域でもスプールにディザを与える場合は、制御域から不感域に移り変わる際に、ディザの振幅が増加することによって出力油圧が大きく変動してしまう。
【0009】
(問題点2)
本願発明者は、スプールに作用するバネ定数が制御域と不感域で異なることにより、スプール、プランジャ、プッシュロッドの固有振動数も制御域と不感域で異なることを見出した。具体的には、制御域に対して不感域にて固有振動数が低くなることを見出した(図6参照)。
【0010】
ディザを発生させる周波数は、通常、ディザの振幅の制御を容易にする目的で、固有振動数よりやや低い周波数に設定される。即ち、ディザを発生させる周波数は、制御域における固有振動数よりやや低い周波数に設定される(図6中の破線Cおよび符号F2参照)。
しかし、不感域では固有振動数が下がるため、不感域では固有振動数の影響によって、ディザの振幅が小さくなってしまう。このため、不感域において異物の噛み込みを抑制するディザの振幅をスプールに付与できなくなってしまう。
【0011】
(発明の目的)
本発明の目的は、制御域と不感域が切り替わってもディザの振幅を一定にできるバルブ装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明1)
請求項1の発明は、制御域と不感域の両方においてリニアソレノイドにディザ信号を付与するものであり、不感域におけるディザ信号の波高を、制御域におけるディザ信号の波高より小さくする。
このように設けることで、不感域でスプールに作用するバネ定数が小さくなっても、ディザの振幅が大きくなる不具合を回避できる。このため、制御域と不感域が切り替わってもディザの振幅を一定にできる。
これにより、制御域では、スプールに与えられるディザによってヒステリシスを抑制できる。また、不感域では、スプールに与えられるディザによって異物の噛み込みを抑制できる。さらに、制御域と不感域が切り替わる際に、ディザの振幅の変化が抑えられるため、出力油圧がディザの振幅変化によって変動する不具合を回避できる。
【0013】
(発明2)
請求項2の発明は、制御域と不感域の両方においてリニアソレノイドにディザ信号を付与するものであり、不感域におけるディザ信号の周波数を、制御域におけるディザ信号の周波数より低くする。
このように設けることで、不感域で固有振動数が下がっても、ディザの振幅が小さくなる不具合を回避できる。このため、制御域と不感域が切り替わっても、ディザの振幅を一定にすることができる。
これにより、上記発明1と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】制御回路のブロック図および電磁スプール弁の断面図である。
図2】(a)スプールの移動範囲と出力油圧の関係を示すグラフ、(b)スプールの移動範囲とディザ信号の波高の関係を示すグラフである。
図3】(a)制御域においてスプールに作用する力の説明図、(b)不感域においてスプールに作用する力の説明図である。
図4】(a)波高を変更する制御例のフローチャート、(b)ディザ信号の説明図である。
図5】異物抑制の説明図である。
図6】ディザ信号の周波数とバルブの振幅の関係を示すグラフである。
図7】周波数を変更する制御例のフローチャートである。
図8】ディザ信号の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面に基づいて発明を実施するための形態を説明する。なお、以下で開示する実施形態は、一例を開示するものであって、本発明が実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0016】
[実施形態1]
図1図5に基づいて実施形態1を説明する。
この実施形態は、自動車に搭載される自動変速機の油圧制御装置に、本発明のバルブ装置を適用したものである。
油圧制御装置は、油圧サーキットが形成されたバルブハウジングに装着される電磁スプール弁1と、この電磁スプール弁1を通電制御する制御回路2とを備える。
【0017】
電磁スプール弁1は、スプール弁3とリニアソレノイド4とを軸方向に結合した構造を採用する。電磁スプール弁1の具体的な一例として、この実施形態では通電停止時に出力油圧が最大になるノーマリオープンタイプを示す。
【0018】
先ず、電磁スプール弁1の具体的な構造を説明する。
スプール弁3は、略円筒形状を呈するスリーブ5と、このスリーブ5の内部で軸方向へ摺動自在に支持されるスプール6と、このスプール6を右側へ付勢するスプリング7とを備えて構成される。
【0019】
以下では、説明の便宜上、スプール6の移動方向(即ち、軸方向)を左右方向とする。もちろん、この左右方向は、説明のためのものであって、実際の搭載方向を限定するものではない。また、左右方向のうち、スプール弁3に対するリニアソレノイド4側を右とし、反対側を左として説明する。さらに、以下ではフィードバックをF/Bとして説明する。
【0020】
スリーブ5には、ポンプ油圧の供給を受ける入力ポートP1、自動変速機の摩擦係合装置等に油路を介して連通する出力ポートP2、オイルパン等にオイルを戻すドレンポートP3、出力ポートP2に連通するF/BポートP4が設けられる。
これらの各ポートは、スリーブ5の径方向に形成された内外を貫通する貫通孔であり、スリーブ5の内周面には各ポートのそれぞれに通じる環状溝が形成される。そして、各ポートは、スリーブ5の左側から右側に向かって、ドレンポートP3、出力ポートP2、入力ポートP1、F/BポートP4の順に配置される。
【0021】
スプール6には、入力ポートP1の開度調整を行なう入力ランドR1、ドレンポートP3の開度調整を行なうドレンランドR2、入力ランドR1より小径のF/BランドR3が設けられる。
これらの各ランドは、スプール6の左側から右側に向かって、ドレンランドR2、入力ランドR1、F/BランドR3の順で配置される。
【0022】
入力ランドR1とドレンランドR2の間には、出力ポートP2に通じる分配室V1が形成される。
また、入力ランドR1とF/BランドR3の間には、F/BポートP4に通じるF/B室V2が形成される。
【0023】
ここで、入力ポートP1と入力ランドR1の位置関係、およびドレンポートP3とドレンランドR2の位置関係は、ノーマリオープンタイプが達成されるように設定される。
具体的に、リニアソレノイド4の通電が停止されている状態では、入力ランドR1が入力ポートP1を開き、ドレンランドR2がドレンポートP3を閉塞し、出力ポートP2が入力ポートP1のみと連通するように設けられる。
また、リニアソレノイド4が通電制御されてスプール6が左側へ少量移動した状態では、入力ランドR1が入力ポートP1を開き、ドレンランドR2がドレンポートP3を開き、出力ポートP2にスプール6の位置に応じた出力油圧が発生するように設けられる。
さらに、スプール6が大きく左側へ駆動された状態では、入力ランドR1が入力ポートP1を閉塞し、ドレンランドR2がドレンポートP3を開き、出力ポートP2がドレンポートP3のみと連通するように設けられる。
【0024】
スプール6の移動に対する出力油圧の変化を、図2(a)の実線Aに示す。
この図2(a)から解るように、スプール6の軸方向位置が、通電停止状態の位置0から、入力ランドR1が入力ポートP1を閉塞する位置Xcまでは、出力油圧が最大で一定になる。即ち、位置0から位置Xcが不感域になる。
また、スプール6の軸方向位置が、位置Xcから、ドレンランドR2がドレンポートP3を閉塞する位置X0までは、スプール6の移動に応じて出力油圧が変化する。即ち、位置Xcから位置X0が制御域になる。
さらに、スプール6の軸方向位置が、位置X0から、スプール6の最大リフト位置XLまでは、出力油圧が略0になる。即ち、位置Xcから位置XLが不感域になる。
【0025】
出力ポートP2の発生油圧が大きくなるに従って、F/B室V2に印加されるF/B油圧が大きくなる。このため、入力ランドR1とF/BランドR3のランド差による圧差により、スプール6にはスプリング7の付勢力に抗する左向きの軸力が発生する。これにより、スプール6の変位が安定し、出力ポートP2の発生油圧が変動するのを抑えることができる。
【0026】
スプリング7は、スプール6を右側に付勢する筒状に螺旋形成された圧縮コイルスプリングである。
スリーブ5の左端には、調整スクリュ8が螺合されており、この調整スクリュ8とスプール6との間の空間に、スプリング7が圧縮された状態で配置されている。
【0027】
リニアソレノイド4は、スリーブ5の右端に結合され、通電量に応じてスプール6を左側へ変位させる。リニアソレノイド4は、周知構造のものであり、通電量に応じた磁力を発生するコイル11、磁束ループを形成するステータ12およびヨーク13、コイル11の発生磁力によって左方へ駆動されるプランジャ14等を備えて構成される。
【0028】
ステータ12の中心部には、棒状のプッシュロッド15が軸方向へ摺動自在に支持されている。このため、コイル11の通電量が増加してプランジャ14が左側へ移動すると、プッシュロッド15を介してスプール6が左側へ移動する。なお、図面に示すリニアソレノイド4の断面構造は一例であり、リニアソレノイド4の構造が図面のものに限定されないことは言うまでもない。
【0029】
リニアソレノイド4は、制御回路2により通電制御される。
制御回路2は、周知のデューティ比制御によってリニアソレノイド4へ与える通電量を制御する。即ち、制御回路2は、リニアソレノイド4へ与える通電量を制御することによって、出力ポートP2の出力油圧をコントロールする。
【0030】
以下では、図3に示すように、スプリング7がスプール6に付与する軸力をバネ力J1とする。また、リニアソレノイド4がスプール6に付与する軸力を駆動力J2とする。さらに、F/B室V2に印加されるF/B油圧によりスプール6に生じる軸力をF/B力J3とする。
この場合、「バネ力J1=駆動力J2+F/B力J3」でスプール6の釣り合いがなされる。
【0031】
(実施形態1の特徴技術)
制御回路2は、目標油圧を算出する演算部21と、この演算部21の算出した目標油圧に応じたデューティ比の駆動電流を出力させるデューティ出力部22とを備える。
また、この制御回路2は、スプール6にディザを発生させるディザ信号をリニアソレノイド4に付与するディザ出力部23を備える。このディザ出力部23の出力するディザ信号は、図4(b)に示すように、駆動電流を上下に変動させる数kHz程のパルス信号であり、デューティ出力部22が出力した駆動電流に加算されてリニアソレノイド4に付与される。
【0032】
ディザ出力部23は、常にリニアソレノイド4にディザ信号を付与する。即ち、ディザ出力部23は、制御域と不感域の両方においてリニアソレノイド4にディザ信号を付与する。
しかし、制御域と不感域では、スプール6に作用するバネ定数が異なる。
【0033】
制御域と不感域でバネ定数が異なることを、図3を参照して説明する。
制御域におけるスプール6の移動時には、図3(a)に示すように、バネ力J1と駆動力J2とF/B力J3が変化する。
これに対し、不感域におけるスプール6の移動時には、図3(b)に示すように、バネ力J1と駆動力J2が変化し、F/B力J3が変化しない。
このため、不感域では、スプール6に作用するバネ定数が、制御域に比較して小さくなる。
【0034】
そこで、この実施形態1のディザ出力部23は、図2(b)の実線Bに示すように、不感域におけるディザ信号の波高を、制御域におけるディザ信号の波高より小さくするように設けられている。
具体的に、制御域におけるディザ信号の波高を第2波高I2とした場合、スプール6が位置Xcから位置X0の制御域では、ディザ信号は第2波高I2に設定される。
一方、不感域におけるディザ信号の波高を第1波高I1とした場合、スプール6が位置0〜位置Xcの不感域と、スプール6が位置Xcから位置XLの不感域では、ディザ信号は第1波高I1に設定される。
【0035】
ディザ出力部23には、制御域か不感域かを判定して、ディザ信号を第2波高I2または第1波高I1に切り替える切替機能が設けられている。
切替機能の具体例を開示する。切替機能は、デューティ出力部22からデューティ比信号を入力し、デューティ比からスプール6の軸方向位置が制御域か不感域かを判定する。そして、制御域であると判断した場合には、ディザ信号を第2波高I2に切り替える。一方、不感域であると判断した場合には、ディザ信号を第1波高I1に切り替える。もちろん、上記は一例であり、限定するものではなく、例えば切替機能は演算部21の演算結果に基づいて制御域と不感域の判定を行っても良い。
【0036】
波高の切替えの制御例を、図4(a)のフローチャートに基づいて説明する。
ステップS1:スプール6の軸方向位置が位置Xcから位置X0の間の制御域であるか否かの判断を行う。そして、この判断結果がNOの場合にはステップS2へ進み、判断結果がYESの場合はステップS3へ進む。
ステップS2:上記ステップS1でスプール6の軸方向位置が不感域と判断されたため、ディザ信号の波高を第1波高I1に設定する。
ステップS3:上記ステップS1でスプール6の軸方向位置が制御域と判断されたため、ディザ信号の波高を第2波高I2に設定する。
【0037】
第1波高I1は、図5に示すように、スプール6に与えられるディザによって、異物Xがスリーブ5とスプール6の間に噛み込むのを防ぐことが可能な値に設定される。ディザの振幅は、スリーブ5とスプール6の摺動部のクリアランスrcと同程度で良い。
【0038】
具体的に、異物Xが一時的に噛み込む場合は、図5(a)に示すように、異物Xがスリーブ5とスプール6の両方に接している場合が多い。この時、図5(b)に示すように、スリーブ5がクリアランスrcと同程度移動しただけで異物Xが回転し、異物Xのひっかかりが外れて流され易くなる。
一方、第2波高I2は、スプール6に与えられるディザによって、スプール6を動摩擦の状態にすることでヒステリシスを軽減するように設定される。
さらに、不感域と制御域で第1波高I1と第2波高I2が切り替わっても、ディザの振幅が極力変化しないように設定される。
【0039】
第1波高I1と、第2波高I2の具体的な一例を開示する。
第1波高I1は、次式により与えられる。
I1≒Ksp・rc/Cs
【0040】
第2波高I2は、次式により与えられる。
I2≒〔Ksp+{Pmax/(X0−Xc)}・(Sin−Sfb)〕・rc/Cs
【0041】
なお、Kspは、スプリング7のバネ定数である。
Sin−Sfbは、F/B油圧の受圧面積である。
Csは、リニアソレノイド4の押力Fsからリニアソレノイド4の電流比例定数Isを差し引いた値である。即ち、Cs=Fs−Isである。
Pmaxは、出力ポートP2における最大出力油圧である。
【0042】
(実施形態1の効果)
油圧制御装置は、上述したように、制御域と不感域の両方においてリニアソレノイド4にディザ信号を付与するものであり、不感域におけるディザ信号の波高を、制御域におけるディザ信号の波高より小さくする。
制御域に比較して、不感域ではスプール6に作用するバネ定数が小さくなるが、不感域におけるディザ信号の波高を、制御域におけるディザ信号の波高より小さくすることで、制御域のディザの振幅と、不感域のディザの振幅とを略同じにできる。このため、制御域と不感域が切り替わってもディザの振幅を一定にできる。
【0043】
これにより、制御域では、スプール6に与えられるディザによってヒステリシスを抑制できる。また、不感域では、スプール6に与えられるディザによって異物Xの噛み込みを抑制できる。さらに、制御域と不感域が切り替わる際に、ディザの振幅の変化が抑えられるため、出力油圧がディザの振幅変化によって大きく変動する不具合を回避できる。
【0044】
[実施形態2]
図6図8に基づいて実施形態2を説明する。なお、以下において上記実施形態1と同一符合は同一機能物を示すものである。また、以下では、実施形態1に対する変更箇所のみを開示するものであり、実施形態2において説明していない箇所については先行して説明した形態を採用するものである。
【0045】
上述したように、スプール6に作用するバネ定数が制御域と不感域で異なる。このため、軸方向に押し付けられたスプール6、プランジャ14、プッシュロッド15の固有振動数も制御域と不感域で異なる。具体的には、制御域に対して不感域では、固有振動数が低くなる。すると、不感域において異物Xの噛み込みを抑制できなくなってしまう。
【0046】
このことを、図6に基づき説明する。
図6の破線Cは、制御域においてディザ信号の周波数を変化させた際におけるスプール6(即ち、バルブ)の振幅の変化を示す。制御域における固有振動数を第2固有振動数P2とする。
第2固有振動数P2の付近では、スプール6の振幅が乱れる。このため、制御域においてディザを発生させる周波数は、第2固有振動数P2よりやや低い周波数に設定される。この周波数を第2周波数F2とする。
【0047】
図6の実線Dは、不感域においてディザ信号の周波数を変化させた際におけるスプール6の振幅の変化を示す。不感域における固有振動数を第1固有振動数Fp1とする。
上述した第2周波数F2は、図6に示すように第1固有振動数Fp1より高い。このため、不感域において第2周波数F2をリニアソレノイド4に与えても、スプール6の振幅が小さくなってしまい、噛み込みの抑制ができなくなってしまう。
【0048】
この実施形態2のディザ出力部23は、不感域におけるディザ信号の周波数を、制御域におけるディザ信号の周波数より低くするように設けられている。即ち、不感域におけるディザ信号の周波数を第1周波数F1とした場合、不感域では第1周波数F1に設定され、制御域では第2周波数F2に設定される。
【0049】
周波数の切替えの制御例を、図7(a)のフローチャートに基づいて説明する。
ステップS1a:スプール6の軸方向位置が位置Xcから位置X0の間の制御域であるか否かの判断を行う。そして、この判断結果がNOの場合にはステップS2aへ進み、判断結果がYESの場合はステップS3aへ進む。
ステップS2a:上記ステップS1aでスプール6の軸方向位置が不感域と判断されたため、ディザ信号の周波数を第1周波数F1に設定する。
ステップS3a:上記ステップS1aでスプール6の軸方向位置が制御域と判断されたため、ディザ信号の周波数を第2周波数F2に設定する。
【0050】
第1周波数F1と、第2周波数F2の一例を開示する。
第1周波数F1は、第1固有振動数Fp1より約20%ほど低い値に設定される。具体的には、次式により設定される。
【数1】
【0051】
第2周波数F2は、第2固有振動数Fp2より約20%ほど低い値に設定される。具体的には、次式により設定される。
【数2】
なお、mは、スプール6、プランジャ14、プッシュロッド15の合計質量である。
【0052】
(実施形態2の効果)
油圧制御装置は、上述したように、制御域と不感域の両方においてリニアソレノイド4にディザ信号を付与するものであり、不感域におけるディザ信号の周波数を、制御域におけるディザ信号の周波数より低くする。
制御域に比較して、不感域では固有振動数が下がるが、不感域におけるディザ信号の周波数を、制御域におけるディザ信号の周波数より低くすることで、制御域のディザの振幅と、不感域のディザの振幅とを略同じにできる。このため、制御域と不感域が切り替わってもディザの振幅を一定にできる。
これにより、上述した実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0053】
(実施形態2における他の特徴技術)
この実施形態2のディザ出力部23は、制御域におけるディザ信号の周波数を分周する分周手段を備えるものであり、この分周手段が制御域におけるディザ信号の周波数を分周することで不感域におけるディザ信号の周波数を低くする。即ち、図8に示すように、不感域では、制御域で用いるパルス信号を分周して第1周波数F1を作るように設けられている。
このように設けることで、ディザ信号を発生する発振器を1つにできる。その結果、コスト上昇を抑えて本発明を実施できる。
【0054】
[他の実施形態]
上記の実施形態では、ノーマリオープンタイプの電磁スプール弁1を用いる例を示したが、通電停止時に出力油圧が最小になるノーマリクローズタイプの電磁スプール弁1を用いても良い。この場合、スプール弁3における入力ポートP1、出力ポートP2、ドレンポートP3、F/BポートP4の配置が左右方向で逆になるだけであり、他は同じである。
【0055】
上記の実施形態では、電磁スプール弁1によって出力油圧を調圧するバルブ装置に本発明を適用する例を示したが、電磁スプール弁1によって出力油量を調量するバルブ装置に本発明を適用しても良い。
【0056】
実施形態1と実施形態2を組み合わせて用いても良い。
【符号の説明】
【0057】
3 スプール弁
4 リニアソレノイド
5 スリーブ
6 スプール
7 スプリング
23 ディザ出力部
V2 F/B室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8