(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成形体を得る工程において、前記チタン酸バリウムおよび前記二チタン酸バリウムの合計100mol%に対し、マンガンの酸化物を、MnOに換算して0.1mol%以上となるようにさらに添加することを含む、請求項4に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明の第一の形態は、組成式(1):xBaTiO
3・(1−x)BaTi
2O
5(ただし、前記組成式(1)中のxは0.20以上0.50以下である)で表される複合酸化物を主成分として含み、前記複合酸化物100mol%に対し、0.5mol%以上のSiO
2を含む、誘電体磁器組成物である。
【0016】
なお、本明細書中、主成分とは、誘電体磁器組成物を構成する化合物の中で占めるモル数の割合が一番多いものを指す。
【0017】
上記のように、近年、静電容量の温度特性がX8R特性を満足するだけでなく、さらに過酷な環境下(特に、200℃の高温下)であっても使用可能な容量温度特性を有する車載向けMLCCが求められている。そして、このようなMLCCを製造するため、−55℃以上200℃以下の範囲内において、容量温度変化率(Tc)=±22%以内である誘電体磁器組成物が求められている。
【0018】
このように、従来に比してより高温下における使用にも耐えうる容量温度特性を満足するために、KNbO
3、K
0.5Na
0.5NbO
3、NaNbO
3等の高温誘電体材料の研究が行われている。しかしながら、これらの誘電体材料のうち前者の二種は、焼成過程において、カリウム(K)が飛散(昇華)してしまい、得られる誘電体材料において格子欠陥が生じ、これにより絶縁性が低下するという問題がある。絶縁性が低いと、半導体化が進行して絶縁破壊が起こりやすくなる。その結果、上記誘電体材料をコンデンサ等のセラミック電子部品に適用した場合、当該セラミック電子部品の信頼性が低下してしまうという問題がある。加えて、カリウム(K)の飛散は、生産工程の管理を困難にし、生産性が低下するという不都合もある。さらに、上記誘電体材料は、高価なニオブ(Nb)を使用するため、コスト面においても不利である。
【0019】
これに対し、上記の特許文献1に開示された技術では、高価なニオブ(Nb)を必要とせず、比較的安価なチタン酸バリウム系誘電体材料を用いている。しかしながら、特許文献1に開示された組成物は、鉄(Fe)またカリウム(K)を含むことから、絶縁性が良好でなく、上記と同様に、当該組成物を用いてコンデンサを作製しても、その信頼性が低下してしまうという問題が生じる。
【0020】
このような問題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、主成分として組成式(1):xBaTiO
3・(1−x)BaTi
2O
5で表される複合酸化物(ただし、上記組成式(1)において、xは、特定の範囲内である)を含み、副成分として特定量以上のSiO
2を含む誘電体磁器組成物が上記課題を解決することを見出した。
【0021】
組成式:BaTi
2O
5で表される二チタン酸バリウムは、室温で単斜晶構造を有しており(a=16.892Å,b=3.930Å,c=9.410Å,β=103.03Å)、b軸方向に自発分極を有する。また、ac面への投影図によれば、3種類の酸素八面体(TiO
6,Ti
2O
6,Ti
3O
6)を有しており、これらのうちの1種が変形して強誘電性を発現する。また、上記二チタン酸バリウム単結晶は、キュリー点が高い(約470℃)ことから、高温環境下におけるコンデンサへの応用が期待できる。
【0022】
しかしながら、一方で、二チタン酸バリウムは、室温における比誘電率(ε)が小さいため、実用が難しい材料であるともいえる。また、二チタン酸バリウムは、特許文献1においても開示されているように、1150℃以上で分解し、BaTiO
3とBa
6Ti
17O
40に分解してしまう特性を有しており、実用化の観点からは種々の技術的な課題が存在していた。
【0023】
これに対し、本発明者らは、驚くべきことに、組成式:BaTiO
3で表されるチタン酸バリウムを特定の比率(x=0.20以上0.50以下)で含む、上記組成式(1)で表されるチタン酸バリウム系複合酸化物を得ることにより、上記二チタン酸バリウムの問題点(すなわち、絶縁抵抗が低く、比誘電率が小さいという問題点)が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0024】
上記組成式(1)で表されるチタン酸バリウム系複合酸化物(本明細書中、単に「チタン酸バリウム系複合酸化物」または「複合酸化物」とも称することがある)において、チタン酸バリウムの含有比率(x)を0.20以上0.50以下とすることにより、本発明に係る組成物は、−55℃以上200℃以下の範囲における容量温度特性に優れるだけでなく、高い絶縁抵抗を示す。その詳細なメカニズムは不明であるが、上記特定の含有比率でチタン酸バリウムを含むことによって、上記チタン酸バリウム系複合酸化物において、二チタン酸バリウムの高温下における優れた容量温度特性が維持されつつ、チタン酸バリウムの存在により、絶縁抵抗や比誘電率が向上されているためであると推測される。
【0025】
一方で、チタン酸バリウムの含有比率(x)が0.20未満である場合、絶縁抵抗が小さくなる。また、比誘電率も低下する。チタン酸バリウムの含有比率(x)が0.50を超える場合には、キュリー点が低いチタン酸バリウムの影響が大きくなると共に、二チタン酸バリウムに由来する、高温環境下における優れた容量温度特性が発揮されない。したがって、200℃における容量変化率を、±22%以内の範囲内とすることができない。
【0026】
また、本発明に係る誘電体磁器組成物は、上記チタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対し、0.5mol%以上のSiO
2を含む。このように、特定量以上のSiO
2を含むことにより、上記チタン酸バリウム系複合酸化物の物性を損なうことなく、優れた容量温度特性および絶縁抵抗を示し、コンデンサ等のセラミック電子部品への適用性に優れる誘電体磁器組成物を得ることができる。一方、SiO
2の含有量が0.5mol%未満であると、焼結性が悪く(焼結密度が低くなり)、誘電率、誘電損失および絶縁抵抗値について実用的な値が得られず、セラミック電子部品へ適用可能な誘電体磁器組成物を得ることができない。
【0027】
なお、上述した本発明の構成による作用効果の発揮のメカニズムは推測であり、本発明は、上記推測によって限定されない。
【0028】
以下、本発明の誘電体磁器組成物について詳細に説明する。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(25℃)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0029】
<誘電体磁器組成物>
本発明の誘電体磁器組成物は、上記組成式(1)で表されるチタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とするセラミックスである。「主成分とする」の用語の定義は上述の通りであって、製造上含まれてしまう不純成分が誘電体磁器組成物中に微量含まれていてもよい。不純成分としては、ナトリウム、カルシウム、ニオブ、鉄、鉛などの金属由来成分、および炭化水素系の有機成分、表面吸着水などが挙げられる。
【0030】
≪主成分≫
本発明の誘電体磁器組成物は、主成分として、組成式(1):xBaTiO
3・(1−x)BaTi
2O
5で表されるチタン酸バリウム系複合酸化物を含む。
【0031】
上記組成式(1)において、チタン酸バリウム(BaTiO
3)の含有比率を示す「x」は、0.20以上0.50以下である。−55℃以上200℃以下における容量温度特性が良好であり、かつ高い絶縁抵抗値を有する誘電体磁器組成物を得る目的から、上記「x」は、0.20を超えて0.50未満であると好ましく、0.25以上0.45以下であるとより好ましく、0.30以上0.40以下であると特に好ましい。他方、二チタン酸バリウム(BaTi
2O
5)の含有比率を示す「1−x」は、0.50以上0.80以下である。−55℃以上200℃以下の範囲における容量温度特性が良好であり、かつ高い絶縁抵抗値を有する誘電体磁器組成物を得る目的から、上記「1−x」は、0.50を超えて0.80未満であると好ましく、0.55以上0.75以下であるとより好ましく、0.60以上0.70以下であると特に好ましい。なお、上記「x」および「1−x」の値は、XRD測定により求めることができ、より具体的には、実施例に記載の方法(測定条件)により得られた値を採用する。また、上記「x」および「1−x」の値は、当該誘電体磁器組成物を製造する際に添加されるチタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムの量によって制御可能である。
【0032】
≪副成分≫
本発明の誘電体磁器組成物は、副成分として、SiO
2を含む。また、本発明の誘電体磁器組成物は、必要に応じて、マンガンの酸化物(MnO)や、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0033】
(Siの酸化物:SiO
2)
本発明の誘電体磁器組成物は、SiO
2(ガラス)を含み、その含有量は、上記チタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、0.5mol%以上である。SiO
2(ガラス)は、主に焼結助剤として添加される成分である。SiO
2がチタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、0.5mol%以上含まれていると、チタン酸バリウム系複合酸化物の優れた容量温度特性および絶縁抵抗を損なうことなく、コンデンサ等のセラミック電子部品への適用性に優れる誘電体磁器組成物が得られる。また、本発明に係る誘電体磁器組成物は、上記特定量のSiO
2を含むため、焼結性が良好であり、製造する際、1250℃以下、さらには1200℃以下といった比較的低い温度による焼成が可能となる。
【0034】
一方、SiO
2の含有量が0.5mol%未満の場合、焼結性が低下し、誘電体磁器組成物のセラミック電子部品への適用が困難となる。一方、SiO
2の含有量の上限値は特に制限されないが、実用的な比誘電率を得るという観点からは、上記チタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、10mol%以下であると好ましい。
【0035】
さらに、良好な焼結性を保持しつつ、実用的な比誘電率を有する誘電体磁器組成物を得るという観点からは、SiO
2の含有量は、上記チタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、1.0mol%を超えて8.0mol%未満であるとより好ましく、1.3mol%以上6.0mol%以下であるとさらに好ましく、1.5mol%以上5.0mol%以下であるとさらにより好ましく、2.0mol%以上4.0mol%以下であると特に好ましい。なお、上記誘電体磁器組成物中のSiO
2の含有量は、当該誘電体磁器組成物を製造する際に添加されるSiO
2の量によって制御可能である。
【0036】
(Mnの酸化物:MnO)
本発明の誘電体磁器組成物は、上記以外の他の副成分を含んでいてもよい。
【0037】
他の副成分としては、例えば、MnOが挙げられる。MnOは、主に耐還元性助剤として添加される成分である。MnOの含有量は特に制限されないが、上記チタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、0.1mol%以上であると好ましい。MnOがチタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、0.1mol%以上含まれていると、還元雰囲気下における焼成工程で生じる酸素欠損を効果的に抑制することができる。その結果、誘電体磁器組成物を用いてコンデンサ等のセラミック電子部品を製造した場合に、当該セラミック電子部品の信頼性が向上する。
【0038】
一方、MnOの含有量の上限値は特に制限されないが、良好な比誘電率を有する誘電体磁器組成物を得るという観点からは、上記チタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、5.0mol%以下であると好ましい。
【0039】
さらに、上記観点からは、MnOの含有量は、上記チタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対して、0.15mol%以上3.0mol%以下であるとより好ましく、0.2mol%以上2.5mol%以下であるとさらにより好ましく、0.2mol%以上2.0mol%以下であると特に好ましい。なお、上記誘電体磁器組成物中のMnOの含有量は、当該誘電体磁器組成物を製造する際に添加されるマンガンの酸化物(例えば、MnO
2、Mn
2O
3、Mn
3O
4等)の量によって制御可能である。
【0040】
(その他の副成分)
本発明の誘電体磁器組成物は、本発明の効果が得られる限りにおいて、上記以外の副成分を含んでもよい。かような副成分としては、例えば、バリウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、希土類元素の化合物、アルミニウム化合物等が挙げられる。より具体的な化合物としては、例えば酸化バリウム(BaO)、炭酸バリウム(BaCO
3)、ジルコン酸バリウム(BaZrO
3)等のバリウム化合物;酸化マグネシウム(MgO)等のマグネシウム化合物;炭酸カルシウム(CaCO
3)等のカルシウム化合物;酸化ジスプロシウム(Dy
2O
3)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化イッテリビウム(Yb
2O
3)等の希土類元素の化合物、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等のアルミニウム化合物等が挙げられる。また、上記以外の他の焼結助剤や耐還元性助剤といった成分をさらに含んでいてもよい。
【0041】
≪誘電体磁器組成物の形態および特性≫
本発明の誘電体磁器組成物は、その形態は限定されるものではないが、例えば、球状物、板状物、ペレット、またはこれらの混合物の形態等をとることができる。
【0042】
本発明の誘電体磁器組成物は、容量温度特性に優れており、−55℃以上200℃以下の範囲において低い容量温度変化率を示す。容量温度変化率(Tc)は次式で定義される。
【0044】
誘電体磁器組成物の上記容量温度変化率(Tc)は、−55℃以上200℃以下の範囲内において、±22%以内であると好ましい。さらに上記容量温度変化率(Tc)は、±20%以内であるとより好ましく、±15%以内であるとさらにより好ましい。なお、上記式において、各温度における静電容量は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0045】
また、本発明の誘電体磁器組成物は、高い絶縁抵抗を示す。絶縁抵抗値は、1.00×10
12Ω・cm以上であると好ましく、5.00×10
12Ω・cm以上であるとより好ましく、1.00×10
13Ω・cm以上であると特に好ましい。一方、その上限は特に制限されないが、実質的には、1.0×10
15Ω・cm以下である。なお、絶縁抵抗値は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0046】
さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、高い比誘電率を示すと好ましい。比誘電率は、100以上であると好ましく、150以上であるとより好ましく、250以上であると特に好ましい。一方、その上限は特に制限されないが、実質的には、5000以下である。なお、比誘電率は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0047】
さらにまた、本発明の誘電体磁器組成物は、誘電損失が小さいものであると好ましい。誘電損失は、3.0%以下であると好ましく、2.0%以下であるとより好ましく、1.8%以下であるとさらにより好ましく、1.0%以下であると特に好ましい。一方、その下限は特に制限されないが、実質的には、0.01%以上である。なお、誘電損失は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0048】
かような特性を有する本発明の誘電体磁器組成物は、下記のような製造方法によって得ることができる。以下、誘電体磁器組成物の製造方法について説明する。
【0049】
<誘電体磁器組成物の製造方法>
本発明の誘電体磁器組成物は、上記組成を有するものであれば特に制限されないが、好ましい方法としては、(1)成形体を得る工程、および(2)焼成工程を経る方法が挙げられる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0050】
(1)成形体を得る工程
本工程では、(1−1)チタン酸バリウムと、二チタン酸バリウムと、SiO
2と、必要に応じて添加されるマンガンの酸化物と、を混合し組成物を調製する工程(組成物調製工程)と、(1−2)得られた組成物を用いて成形して成形体を得る工程(グリーンシート作製工程)と、が行われる。
【0051】
(1−1)組成物調製工程
本工程では、チタン酸バリウム(BaTiO
3)と、二チタン酸バリウム(BaTi
2O
5)と、SiO
2と、必要に応じて添加されるマンガンの酸化物と、を混合し、成形体(グリーンシート)作製用の組成物(スラリー)を調製する。
【0052】
このとき、上記組成式(1)中の「x」が所定の範囲内となるように、チタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムの量を調整する。すなわち、チタン酸バリウムと二チタン酸バリウムとのモル比(x:1−x)が0.20:0.80から0.50:0.50までの範囲となるように、成形体(グリーンシート)作製用の組成物(スラリー)を調製する。上記チタン酸バリウムと二チタン酸バリウムとのモル比としては、0.2超:0.80未満から0.50未満:0.50超までの範囲内であるとより好ましく、0.25:0.75から0.45:0.55までの範囲内であるとより好ましく、0.30:0.70から0.40:0.60までの範囲内であると特に好ましい。なお、本明細書中、「XからYまで」の記載は、当該「X」および「Y」の値を含む範囲を指すものである。
【0053】
さらに、これらチタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムの添加量(合計)を100mol%として、上記SiO
2を0.5mol%以上となるように添加する。すなわち、チタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムによって生成するチタン酸バリウム系複合酸化物100mol%に対し、SiO
2が0.5mol%以上となるように添加する。なお、SiO
2の好ましい添加量および必要に応じて添加されるマンガンの酸化物の添加量は、上述の各成分の含有量(または好ましい含有量)から算出可能であるため、ここでは詳細な説明は割愛する。
【0054】
本工程において用いられるチタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムの平均粒子径は、特に制限されないが、いずれも5000nm以下であると好ましく、50nm以上1000nm以下であるとより好ましい。なお、各粒子の平均粒子径は、実施例の方法により測定される値を採用する。
【0055】
さらに、必要に応じて、上記で説明した他の副成分や、分散剤、バインダ、可塑剤等の添加剤を混合する。これらの混合方法、混合順序は特に制限されないが、添加物を均一に分散できるという点で、混合方法は湿式混合が好ましい。
【0056】
原料としてのチタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムは、市販のチタン酸バリウム粉末を用いてもよいし、固相法の他、各種製造法(例えば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法等)等、従来公知の方法により製造してもよい。また、SiO
2や必要に応じて添加されるマンガンの酸化物等、副成分についても、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。本発明に係る誘電体磁器組成物は、ニオブ等の高価な原料を必要とせず、比較的安価な原料で製造でき、工業上非常に有用である。
【0057】
以下では、成形体(グリーンシート)作製用組成物に含まれうる分散剤、バインダ、可塑剤について説明する。なお、当該組成物に含まれうる添加剤は、以下に挙げるものに限定されず、本発明の効果を損なわない限りにおいて、潤滑剤、帯電防止剤等、他の添加剤を用いてもよい。
【0058】
成形体(グリーンシート)作製用組成物に含まれうる分散剤としては、特に制限されないが、例えば、リン酸エステル系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤等が挙げられる。これらの中でも、ポリカルボン酸系分散剤を用いると好ましい。なお、上記分散剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
分散剤の使用量は、特に制限されないが、上記チタン酸バリウム、二チタン酸バリウムおよび副成分の全質量(合計質量)に対して、0.1質量%以上5質量%以下であると好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であるとより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であるとさらに好ましい。上記範囲とすることにより、分散剤として十分な効果が得られる。
【0060】
また、成形体(グリーンシート)作製用組成物に含まれうるバインダとしては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、アクリル樹脂等が挙げられる。なお、上記バインダは、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
バインダの使用量は、特に制限されないが、上記チタン酸バリウム、二チタン酸バリウムおよび副成分の全質量(合計質量)に対して、0.01質量%以上20質量%以下であると好ましく、0.5質量%以上15質量%以下であるとより好ましい。この範囲とすることにより、成形体の密度を向上させることができる。
【0062】
さらにまた、成形体(グリーンシート)作製用組成物に含まれうる可塑剤としては、特に制限されないが、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジ(2−エチルブチル)などのフタル酸系可塑剤、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOA)などのアジピン酸系可塑剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系可塑剤、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2−エチルヘキサノエート)などのグリコールエステル系可塑剤などが挙げられる。これらの中でも、組成物を用いてグリーンシートとしたときに、シートの柔軟性が良好であることから、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)等のフタル酸系可塑剤を用いると好ましい。なお、上記可塑剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
可塑剤の使用量は、特に限定されないが、添加するバインダの全質量に対して、5質量%以上50質量%以下であると好ましく、10質量%以上50質量%以下であるとより好ましく、20質量%以上40質量%以下であると特に好ましい。上記範囲とすることにより、可塑剤として十分な効果が得られる。
【0064】
湿式混合を行う場合に用いる溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水;エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等が挙げられる。後に、組成物に含まれる各種添加剤の溶解性や分散性を考慮すると、上記湿式混合の溶媒としてはアルコール溶媒、芳香族溶媒が好ましい。これらの中でも、アルコール溶媒としては、メタノールやエタノール等、芳香族溶媒としては、トルエン等の低沸点溶媒を用いることが好ましい。なお、上記溶媒は、単独でもまたは2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。2種以上の溶媒を混合するときは、上記アルコール溶媒と芳香族溶媒とを混合すると特に好ましい。
【0065】
溶媒を用いる場合の使用量は、チタン酸バリウム、二チタン酸バリウムおよび副成分の全質量(合計質量)に対して0.5倍以上10倍以下程度であると好ましく、0.7倍以上5倍以下程度であるとより好ましい。上記範囲とすることにより、チタン酸バリウム、二チタン酸バリウム、副成分、および必要に応じて添加される添加剤等が十分に混合されると共に、後に溶媒を除去する操作を簡便に行うことができる。
【0066】
また、湿式混合を行う場合は、湿式ボールミル、湿式ビーズミルまたは攪拌ミルにより行われると好ましい。湿式ボールミルにおいてジルコニアボールを用いる場合には、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールを用いて好ましくは8時間以上48時間以下、より好ましくは10時間以上24時間以下、湿式混合すると好ましい。
【0067】
(1−2)グリーンシート作製工程
本工程では、上記(1−1)の工程で得られた組成物を、適当な大きさ、形状となるようにシート成形し、成形体(グリーンシート)を作製する。ここで、グリーンシートを作製する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ドクターブレード法やカレンダーロール法等のテープ成形法等によりシート状に成形し、これを乾燥することによりグリーンシートを得る。
【0068】
グリーンシートの厚さ(乾燥後の厚さ)は、特に制限されないが、30μm以下であると好ましく、20μm以下であるとより好ましい。一方、グリーンシートの厚さ(乾燥後の厚さ)の下限は特に限定されないが、実質的には0.5μm以上である。
【0069】
さらに、得られたグリーンシートを所望の厚さになるまで積層し、その後加熱圧着を行ってもよい。このとき、全体の厚さ(乾燥後の厚さ)が好ましくは0.1mm以上5mm以下程度、より好ましくは1mm以上3mm以下程度となるまで積層すると好ましい。また、加熱圧着時の条件は特に制限されないが、温度は50℃以上150℃以下程度であると好ましく、圧力は10MPa以上200MPa以下程度であると好ましく、加圧時間は1分以上30分以下程度であると好ましい。加熱圧着の方法としては、温間等方圧加圧法(WIP)等が挙げられる。
【0070】
その後、グリーンシートを積層したものを裁断して所望のチップ形状とし、グリーンチップを作製してもよい。
【0071】
さらに、得られたグリーンシート(またはグリーンチップ)中に含まれるバインダ成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行うことが好ましい。脱脂処理の条件は特に制限されず、使用したバインダの種類にも依存するが、180℃以上450℃以下であると好ましい。また、脱脂処理時間としては、特に制限されないが、0.5時間以上24時間以下が好ましい。さらに、脱脂処理の雰囲気は、空気中、または窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行うことができるが、操作の簡便さの点から、空気中で行うことが好ましい。
【0072】
(2)焼成工程
本工程では、上記工程(1−2)において得られたグリーンシート(またはグリーンチップ)を焼成する。
【0073】
本工程における焼成温度は、上記誘電体磁器組成物が得られるものであれば特に制限されないが、1250℃以下であると好ましい。すなわち、本発明の第二の形態は、BaTiO
3で表されるチタン酸バリウムと、BaTi
2O
5で表される二チタン酸バリウムと、SiO
2で表されるガラス成分と、を混合した後成形し、成形体を得る工程と、前記成形体を1250℃以下の温度で焼成する工程と、を有する、誘電体磁器組成物の製造方法であって、前記チタン酸バリウムと前記二チタン酸バリウムとのモル比は、0.20:0.80から0.50:0.50までの範囲であり、前記チタン酸バリウムおよび前記二チタン酸バリウムの合計100mol%に対し、前記SiO
2の添加量が0.5mol%以上である、誘電体磁器組成物の製造方法である。
【0074】
このように、誘電体磁器組成物の製造工程において、焼成温度を1250℃以下という、比較的低い温度に設定することが好ましい。このように、焼成温度を1250℃以下とすることにより、二チタン酸バリウムの分解や、チタン酸バリウムと二チタン酸バリウムとが固溶体となってしまうことが抑制される。
【0075】
さらに、二チタン酸バリウムの分解やチタン酸バリウムと二チタン酸バリウムとの固溶体形成を抑制する目的から、焼成温度は、1200℃以下であるとより好ましく、1180℃以下であると特に好ましい
一方で、上記のように、二チタン酸バリウムは、1150℃以上で分解することが知られているが、本発明者らは、本発明に係る誘電体磁器組成物の製造工程において、焼成温度を1150℃以上としても二チタン酸バリウムが分解しないこともまた見出した。このような二チタン酸バリウムの分解の抑制効果が得られるメカニズムは不明であるが、上記組成式(1)において、「x」の値を0.20以上0.50以下とすることによる効果であると推測される。従来は、二チタン酸バリウムの容量温度特性等の特性を有効に活用することが難しかったが、本発明によれば、チタン酸バリウムの存在により二チタン酸バリウムの分解が抑制されるため、二チタン酸バリウムの高温下における優れた容量温度特性を有効に活用することができる。
【0076】
一方、焼成温度の下限は、焼結体を得ることができる限り特に制限されないが、1000℃以上であると好ましく、1150℃以上であるとより好ましい。
【0077】
また、焼成時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下が好ましく、1時間以上3時間以下がより好ましい。焼成の雰囲気も、特に制限されず、空気雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、または窒素やアルゴンに水素、水蒸気等が混合された還元雰囲気下などが挙げられる。
【0078】
他の焼成条件としては、昇温速度が好ましくは50℃/時間以上500℃/時間以下、より好ましくは200℃/時間以上300℃/時間以下である。
【0079】
<セラミック電子部品>
本発明の第三の形態は、上記誘電体磁器組成物または上記の製造方法により得られる誘電体磁器組成物を含む、セラミック電子部品である。本発明の誘電体磁器組成物または本発明の製造方法により得られる誘電体磁器組成物は、種々のセラミック電子部品に好適に用いることができる。以下、セラミック電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサについて説明する。
【0080】
(積層セラミックコンデンサ)
グリーンシート(またはグリーンチップ)を焼成することにより得られる誘電体磁器組成物は、薄膜状となっており、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の誘電体層として用いることができる。積層セラミックコンデンサの製造方法としては特に制限されないが、例えば、以下のようにして製造される。
【0081】
まず、前記グリーンシート上に、各種金属等を含有する内部電極用導電性ペーストを所定形状にスクリーン印刷して、内部電極用導電性ペースト膜を形成する。内部電極の材料としては特に制限されず、例えば、Cu、Ni、W、Mo、Ag等の金属またはこれらの合金等からなるものなどが挙げられる。
【0082】
外部電極の材料としては特に制限されず、例えば、Cu、Ni、W、Mo、Ag等の金属またはこれらの合金;In−Ga、Ag−10Pd等の合金;カーボン、グラファイト、カーボンとグラファイトとの混合物等からなるものなどが挙げられる。
【0083】
次いで、内部電極用導電性ペースト膜が形成された複数のグリーンシートを積層するとともに、これらグリーンシートを挟むように、導電性ペースト膜が形成されていないグリーンシートを積層して、圧着した後、必要に応じてカットすることによって、積層体(グリーンチップ)を得る。
【0084】
そして、得られた積層体(グリーンチップ)に脱バインダ処理を施した後、当該グリーンチップを、不活性ガス雰囲気または還元雰囲気下において焼成して、コンデンサチップ体を得る。コンデンサチップ体においては、グリーンシートを焼成してなる焼結体からなる誘電体層と内部電極とが交互に積層されている。焼成条件としては、上記(2)焼成工程で示す条件を適宜採用すればよい。
【0085】
なお、還元雰囲気下で焼成を行った場合、誘電体層を再酸化するため、得られたコンデンサチップ体にアニール処理を施すことが好ましい。
【0086】
次に、コンデンサチップ体の端面から露出した内部電極の各端縁それぞれに外部電極が電気的に接続するように、コンデンサチップ体の端面上に、上記の各種金属等を含有する外部電極用ペーストを塗布することによって外部電極を形成する。そして、必要に応じ、外部電極表面に、めっき等により被覆層を形成する。このようにして、積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【0087】
セラミック電子部品の一例として上記積層セラミックコンデンサを挙げたが、本発明に係るセラミック電子部品は、これに限定されるものではない。例えば、高周波モジュール、サーミスタ用電子部品、またはこれらの複合部品等、種々の他の部品が挙げられる。
【実施例】
【0088】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0089】
<誘電体磁器組成物の作製>
各原料は以下のものを使用した。
【0090】
【化1】
【0091】
なお、上記チタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムの作製には、酸化チタン(TiO
2 スーパータイタニア(登録商標):F−2、昭和電工株式会社)および炭酸バリウム(BaCO
3 BW−KH30、堺化学工業株式会社製)を用いた。炭酸バリウム1molに対し、チタン酸バリウムを作製する場合には、酸化チタン1molを、また、二チタン酸バリウムを作製する場合には、酸化チタン2molを添加し、よく混合した。その後、それぞれ900℃で3時間熱処理(仮焼)することによりチタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムをそれぞれ得た。
【0092】
なお、上記において、「平均粒子径」は、走査型電子顕微鏡により撮像し、無作為に、50個の粒子を抽出して該粒子径を測定し、これを平均したものである。また、粒子の形状が球形でない場合には、長径を測定して算出したものと定義する。
【0093】
≪実施例1〜10、比較例1〜4≫
下記表1の組成比となるようにチタン酸バリウム(BaTiO
3)、二チタン酸バリウム(BaTi
2O
5)、SiO
2およびMn
3O
4の各原料を、電子天秤を用いてそれぞれ計量した。なお、下記表1において、SiO
2およびMnOの比率(mol%)は、それぞれ、チタン酸バリウムおよび二チタン酸バリウムの合計を100mol%としたときの値である。また、Mn
3O
4の添加量は、下記表1中のMnOの比率となるようにして計量した。
【0094】
固形分が50質量%となるようにエタノール/トルエン(60/40質量比)の混合溶媒を用い、3mmφのZrO
2ボールを用いて、回転ボールミル台により上記各原料の湿式混合を25℃で16時間行った。その後、バインダ(PVB、積水化学工業株式会社製、BH−3)溶液(PVB固形分15質量%、溶媒:エタノール/トルエン=60/40質量比)を、PVB/各原料の合計=10/90質量比となるように添加し、さらにフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)をバインダ(PVB)に対して35質量%となるように添加し、回転ボールミル台にて25℃で4時間混合を行い、セラミックススラリーを得た。
【0095】
得られたセラミックススラリーを用い、350μmギャップのアプリケーターを用いて、PETフィルム上にドクターブレード法にてシート成形を行った。得られたグリーンシート(厚さ:約20μm)を50層積層して、ヒートプレス成形を行い(加圧温度:80℃、加圧圧力:90MPa、加圧時間:3分)、1cm角にカットし、400℃×2時間の条件で脱バインダ処理を行った。その後、表1に記載の各焼成温度(1体積%水素および99体積%窒素の混合雰囲気下、焼成時間:2時間)にて焼成を行い、誘電体磁器組成物を得た。
【0096】
<評価>
上記実施例および比較例で得られた誘電体磁器組成物について、下記の通り評価した。
【0097】
≪XRD測定≫
各誘電体磁器組成物についてXRD測定(測定は、X線回折装置(PANalytical社製、RAYONS Xを用いて行い、線源はCu−Kα、電圧45kV、電流40mAとした。)を行った。その結果、得られた誘電体磁気組成物中における各成分の含有比率は、表1に記載された各成分の添加量(比率)と同じであることを確認した(ただし比較例1を除く)。なお、得られた誘電体磁気組成物における「x」および「1−x」の値は、XRD測定結果より求めた値であり、BaTiO
3は、空間群:P4mmを、BaTi
2O
5は、空間群:A/12m1,unique−bを用いてリートベルト解析により得られた値である。
【0098】
なお、比較例1は、チタン酸バリウムと二チタン酸バリウムとが反応し、第3成分が生成していた(成分は不明)。
【0099】
≪比誘電率・誘電損失≫
電極としてインジウム−ガリウム(In−Ga)合金を各誘電体磁器組成物の上下面に塗布し、LCRメーター(Agilent社製 4284A 測定条件:AC印加電圧1.0V/mm、周波数1kHz)を用いて比誘電率および誘電損失の測定を行った。
【0100】
≪絶縁抵抗(IR)≫
アジレント・テクノロジー株式会社製、ハイレジスタンスメータ4339Bを使用し、印加電圧DC:250V、印加時間60秒で測定を行った。
【0101】
≪容量温度特性≫
容量温度特性は、実施例および比較例の誘電体磁器組成物に対し、−55℃から200℃までの温度範囲で静電容量を測定して求めた。静電容量の測定にはデジタルLCRメーター(日本ヒューレット・パッカード株式会社製、4274A)を用い、周波数1kHz、入力信号レベル1Vrmsの条件下で測定した。そして、−55℃から200℃までの温度環境下での静電容量を測定し、下記式に従い、25℃における静電容量に対する各温度での静電容量の変化率(単位:%)を算出し、各温度における容量変化率(Tc)を調べた。なお、このとき、−55℃および200℃の両方において、Tc=±22%以内である場合に合格(下記表1にて「○」と記載)と判断する。
【0102】
【数2】
【0103】
実施例および比較例の誘電体磁器組成物の焼成温度および評価結果を下記表1に示した。なお、下記表1の「容量温度特性」の欄では、容量温度特性の測定の結果、「−55℃および200℃の両方においてTc=±22%以内であるもの」を○とし、これを満たさないものを×とした。また、「総合判定」の欄においては、絶縁抵抗が1.0×10
12Ω・cm以上であり、かつ、上記容量温度特性を満たすものを○とし、いずれか1つでも満たさないものを×とした。
【0104】
また、実施例2および3ならびに比較例1および3の誘電体磁器組成物について、各温度における容量変化率をそれぞれプロットした。
図1に実施例2および3の結果を、
図2に比較例1および3の結果をそれぞれ示す。なお、
図1および2において、グラフ中の二点鎖線で表された四角の枠で示される範囲が、−55℃から200℃まで、かつ容量変化率(Tc)=±22%の範囲である。
【0105】
【表1】
【0106】
上記表1および
図1の結果より、実施例の誘電体磁器組成物は、−55℃および200℃における容量温度特性に優れるだけでなく、高い絶縁抵抗を示した。なお、
図1には実施例2および3の結果を示したが、その他の実施例についても、同様に、−55℃から200℃までにおいて容量変化率(Tc)が±22%の範囲内であり、良好な容量温度特性を示すことを確認した。特に、実施例1〜3、5、および7〜9は−55℃から200℃までにおいて容量変化率(Tc)が±15%の範囲内であり、R規格を満たしており、非常に高温特性に優れていることが確認された。
【0107】
一方、比較例1の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムの配合量が少ないものである。表1および
図2より、比較例1の誘電体磁器組成物は、容量温度特性は良好であるが、その絶縁抵抗が低いという結果を示した。このような絶縁抵抗値の低下は、チタン酸バリウムと二チタン酸バリウムとが反応し、第3成分が生成することにより誘電損失が大きくなったことによると推測される。また、比較例2および3の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムの含有量が多いものであるが、高温(200℃)における容量温度特性が低下した。これは、比較例2および3では、チタン酸バリウムの含有量が多いため、そのキュリー点を超える温度(200℃)では、容量温度特性が低下したと推測される。
【0108】
また、SiO
2(ガラス)の含有量が多い比較例4の誘電体磁器組成物は、1250℃で焼成しても、十分に焼成をすることができず、焼結体を得ることができなかった。