特許第6641234号(P6641234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641234
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】肘掛け及び椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/54 20060101AFI20200127BHJP
【FI】
   A47C7/54 E
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-116565(P2016-116565)
(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-217393(P2017-217393A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000561
【氏名又は名称】株式会社オカムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】益永 浩
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 僚
(72)【発明者】
【氏名】井澤 晶一
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−49690(JP,A)
【文献】 特開2013−233166(JP,A)
【文献】 特開2000−270966(JP,A)
【文献】 特開2007−130363(JP,A)
【文献】 特開2003−126171(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0030317(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0025584(US,A1)
【文献】 米国特許第7201450(US,B1)
【文献】 中国実用新案第2617248(CN,Y)
【文献】 中国実用新案第203302679(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/54
B60N 2/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子に設けられる肘掛けであって、
支持部材と、
前記支持部材によって下方から支持される下層部材と、
前記下層部材によって下方から水平方向に移動可能に支持されると共に、前記下層部材の少なくとも一部との間に指挿入空間を形成して前記下層部材の前記一部に対して少なくとも部分的に対向配置された上層部材と
を備えることを特徴とする肘掛け。
【請求項2】
前記上層部材の一部に対して前記下層部材の一部を離間させることで前記指挿入空間を形成するスペーサ部材を備えることを特徴とする請求項1記載の肘掛け。
【請求項3】
前記上層部材の前記下層部材に対する水平方向への移動を案内するガイド要素を備え、
前記ガイド要素は、
前記上層部材と下層部材との一方に設けられると共に前記上層部材の移動方向に沿って形成されるガイド溝と、
前記上層部材と前記下層部材との他方に設けられると共に前記ガイド溝に摺動可能に係合するガイド突部と
を有することを特徴とする請求項1又は2記載の肘掛け。
【請求項4】
前記指挿入空間は、椅子の幅方向において肘掛けの一方側から他方側に貫通していることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の肘掛け。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか一項に記載の肘掛けを備えることを特徴とする椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肘掛け及び椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されているように、肘当ての水平方向の位置調節が可能な肘掛けが椅子に対して設置される場合がある。このような肘当ての位置調整が可能な肘掛けは、例えば、着座者の腕等を直接支える上層部材(肘当て)と、この上層部材を下方から支える下層部材とを有している。特許文献1及び特許文献2に開示された構成は、椅子の前後方向における下層部材の両端部にガイド部を設けており、上層部材の移動を安定的に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7815259号明細書
【特許文献2】特許第5879394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1及び特許文献2に開示された構成によれば、上層部材と下層部材とが面接触している状態で、上層部材が下層部材に対して摺動する。このため、着座者が上層部材の位置調整を行う場合には、上層部材の側面を保持したり、上面に自らの手を圧接したりした状態で行う必要がある。しかしながら、デザイン上の制約等から上層部材の側面を広く確保することが難しい場合がある。また、着座者が上層部材の上面に自らの手等を圧接した状態で上層部材を移動させようとした場合には、着座者の手が上層部材に対して滑りやすい。このように、特許文献1及び特許文献2に開示された構成では、肘掛けの上層部材を水平方向に移動させる場合の操作性が悪い。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、上層部材が下層部材に対して水平方向に移動可能な肘掛けにおいて、上層部材を移動させる際の操作性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
第1の発明は、椅子に設けられる肘掛けであって、椅子に設けられる肘掛けであって、支持部材と、前記支持部材によって下方から支持される下層部材と、前記下層部材によって下方から水平方向に移動可能に支持されると共に、前記下層部材の少なくとも一部との間に指挿入空間を形成して前記下層部材の前記一部に対して少なくとも部分的に対向配置された上層部材とを備えるという構成を採用する。
【0008】
このような構成を採用する本発明によれば、上層部材と下層部材との間に指挿入空間が形成されている。このため、椅子の着座者は、指差込空間に自らの指を差し込み、上層部材を把持した状態で水平方向へ移動することができる。この場合、着座者は、例えば手のひらを上層部材の上面に当て、指先を指挿入空間に差し込むことで、上層部材を保持することができ、上層部材を安定的に保持することができる。したがって、本発明によれば、指挿入空間がない場合と比較して、極めて安定した状態で上層部材の移動を行うことができる。
【0009】
また、本発明によれば、上層部材の側面を広げなくとも安定的に上層部材の移動を行うことができる。このため、上層部材を薄型化することも可能となる。このため、肘掛けデザインの自由度を高めることも可能となる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記上層部材の一部に対して上記下層部材の一部を離間させて上記指挿入空間を形成するスペーサ部材を備えるという構成を採用する。
【0011】
このような構成を採用する本発明によれば、スペーサ部材によって上層部材の一部に対して下層部材の一部が離間され、これによって形成される空隙が指挿入空間とされている。このため、スペーサ部材によって指挿入空間を容易に確保することが可能となる。さらに、スペーサ部材の存在により、着座者がスペーサ部材を目印として指挿入空間の位置を把握することも可能となり、着座者が容易に指挿入空間の位置を把握することが可能となる。
【0012】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記上層部材の前記下層部材に対する水平方向への移動を案内するガイド要素を備え、前記ガイド要素が、前記上層部材と下層部材との一方に設けられると共に前記上層部材の移動方向に沿って形成されるガイド溝と、前記上層部材と前記下層部材との他方に設けられると共に前記ガイド溝に摺動可能に係合するガイド突部とを有するという構成を採用する。
【0013】
このような構成を採用する本発明によれば、ガイド突部がガイド溝に沿って摺動することによって、上層部材の下層部材に対する移動が案内される。このため、上層部材を安定的に水平方向に移動させることが可能となる。
【0014】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記指挿入空間が、椅子の幅方向において肘掛けの一方側から他方側に貫通しているという構成を採用する。
【0015】
このような構成を採用する本発明によれば、着座者が肘掛けの幅方向の両側から指を指挿入空間に差し込むことができる。このため、例えば、着座者の親指を肘掛けの幅方向の一方から指挿入空間に挿入し、着座者の親指以外の指を肘掛けの幅方向の他方から指挿入空間に挿入することができ、より安定的に上層部材を保持することが可能となる。また、指挿入空間に差し込んだ指を遮る部材が存在しないことから、指挿入空間に深く着座者の指を差し込むことができ、より安定的に上層部材を保持することが可能となる。
【0016】
第5の発明は、椅子であって、上記第1〜第4いずれかの発明である椅子を備えるという構成を採用する。
【0017】
このような構成の本発明の椅子は、上述した本発明の肘掛けを有している。このため、肘掛けにおいて下層部材に対して上層部材を水平方向に移動させる際の操作性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、極めて安定した状態で上層部材の移動を行うことができ、下層部材に対して上層部材が水平方向に移動可能な肘掛けにおいて、上層部材を移動させる際の操作性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る椅子を側方から見た斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る椅子を後方から見た斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る椅子が備える肘掛けの斜視図である。
図4】上方起立部を通る断面で肘掛けを切断した側断面図である。
図5】カバー部材を省略した下層部材を含む拡大斜視図である。
図6】肘掛けの変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る肘掛け及び椅子の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る椅子を側方から見た斜視図である。図2は、本発明の一実施形態に係る椅子を後方(背凭れ側)から見た斜視図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、椅子100は、床面F上に設置される脚部1と、脚部1の上部に設置される不図示のボックス状の支基2と、支基2の上部に取り付けられた座受け部材3と、座受け部材3にスライド可能に支持され着座者が着座する座体4と、支基2から延び座体4に着座した着座者の背中を支持する背凭れ7と、背凭れ7の側部に配設される肘掛け8とを備えている。
【0023】
以下の説明において、便宜上、座体4に着座した着座者が前を向く方向を「前方」、その反対方向を「後方」と称する。また、椅子100が設置される床面F側とその反対側を結ぶ方向を「上下方向」と称する。また、椅子100の幅方向、つまり前後方向と直交する水平方向を「左右方向」と称する。また、図中において、前方を矢印FRで示し、上方を矢印UPで示し、左方を矢印LHで示す。
【0024】
脚部1は、キャスタ11A付きの多岐脚11と、多岐脚11の中央部より起立し昇降機構であるガススプリング(不図示)を内蔵する脚柱12と、を有している。脚柱12の下部を構成する外筒13は、多岐脚11に回転不能に嵌合して支持されている。脚柱12の上部を構成する内筒14は、上端部に支基2を固定して支持するとともに、下部が外筒13に水平方向で回転可能に支持されている。
【0025】
支基2には、脚柱12の昇降調整機構と背凭れ7の傾動調整機構が内蔵されている。座受け部材3は、支基2の上部に取り付けられた4本のリンクアーム(不図示。以下同じ。)と、リンクアーム同士を連結する左右一対の固定フレーム(不図示、以下同じ。)と、を有している。
【0026】
座体4は、座フレーム40と、座フレーム40に張設された張材60と、を有している。張材60の上面は、着座者の荷重を受ける荷重支持面60Uとされている。
【0027】
背凭れ7は、背フレーム70と、背フレーム70に張設された張材90と、を有している。張材90の前面は、着座者の荷重を受ける荷重支持面90Fとされている。背フレーム70は、支基2に連結された背後枠70Bと、背後枠70Bの前方に設けられた背前枠80Fと、を有している。
【0028】
背後枠70Bは、下辺部71と、側辺部72と、上辺部73と、を有している。下辺部71と側辺部72と上辺部73とは、例えばアルミ等の金属又は所定の強度を有する樹脂等により一体に形成されている。
【0029】
下辺部71は、支基2内の傾動調整機構に連結され、支基2の後部の左右両側から延びている。下辺部71は、上方に向かうにしたがって次第に後方に向かって傾斜されている。また、各下辺部71には、側方に延びる肘掛け8が設けられている。
【0030】
各下辺部71の上端部には、側辺部72が連結されている。各側辺部72は、上方に向かうにしたがって次第に左右方向の外側に向かって傾斜している。
【0031】
側辺部72の下部は、上方に向かうにしたがって次第に前方に向かって傾斜している。側辺部72の上部は、上方に向かうにしたがって次第に後方に向かって傾斜している。各側辺部72の上部同士は、上辺部73で連結されている。
【0032】
背前枠80Fは、背後枠70Bの側辺部72の上部に連結された上部腕部81と、側辺部72の下部に連結された下部腕部82と、左右方向に(荷重支持面60Uに沿って)離間して配置された一対の縦杆86と、一対の縦杆86の上端同士を連結する上杆87と、を有している。上部腕部81、下部腕部82、縦杆86及び上杆87は、例えば樹脂等で一体として形成されている。縦杆86及び上杆87は、張材90から作用する力に応じて弾性変形可能に構成されている。縦杆86は、上部で上部腕部81が連結されるとともに、下部で下部腕部82に連結されている。各縦杆86は、上下方向に沿って延びている。詳細には、縦杆86は、下方に向かうにしたがって次第に左右方向の内側に向かって傾斜している。一対の縦杆86の下端同士は、互いに連結されている。
【0033】
肘掛け8は、椅子100の幅方向(左右方向)の左側と右側とに各々設けられている。これらの肘掛け8は、左右対称形状を有している。このため、以下の説明では、椅子100の右側に設置された肘掛け8について図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
図3は、肘掛け8の斜視図である。肘掛け8は、背フレーム70の下辺部71から幅方向外側へ延びた後に上方に湾曲して延びる前面視L字状の支持杆8a(支持部材)と、支持杆8aの上端部に支持されて前後方向に延びる肘掛け本体8bと、肘掛け本体8bを前後方向に移動可能に支持する昇降筒8cとを備えている。
支持杆8aは、背フレーム70の下辺部71から幅方向外側へ延びる外側延出部8a1と外側延出部8a1の外側に連なる上方湾曲部8a2と上方湾曲部8a2の上方に連なる上方起立部8a3(図4参照)とを備えている。
外側延出部8a1と上方湾曲部8a2とは例えばアルミニウム合金からなる中実の下部支持杆として互いに一体形成されている。上方起立部8a3は例えば鋼板からなる中空の上部支持杆として上下方向に直線状に延びるパイプ状に形成されている。
【0035】
図4は、上方起立部8a3を通る断面で肘掛け8を切断した側断面図である。上方起立部8a3(上部支持杆)には、図4に示すように、軸線(延び方向)に沿って昇降可能な昇降筒8cが外嵌されるとともに軸線に沿って昇降可能なインナーパイプ8dが内嵌されている。昇降筒8c及びインナーパイプ8dは肘掛け本体8bと一体的に昇降可能である。
また肘掛け本体8bは昇降筒8cに対して前後方向に移動可能であり、かつ後述の枢軸中心で平面視において回動可能であり、さらに後述の上層部材8kが下層部材8j及び支持杆8aに対して左右方向に移動可能である。
【0036】
上方起立部8a3には側面視櫛型の高さ調節スリット8e1が形成されたインナースリーブ8eが内嵌されている。インナースリーブ8eは上方起立部8a3に嵌入されるとともにスナップフィット等により固定されている。高さ調節スリット8e1は軸線方向に延びる昇降案内スリット8e2と昇降案内スリット8e2から前方に延びる複数の係止スリット8e3とを有している。
後述の揺動レバー8fには高さ調節スリット8e1の何れかの係止スリット8e3に係止可能な係止ピン8f1が保持されている。係止ピン8f1は左右方向に沿って延びている。インナーパイプ8dの左右側壁には側面視で前後方向に長い長孔状のピン移動孔8d1が形成されている。ピン移動孔8d1には係止ピン8f1の左右端部が前後方向に移動可能に挿入されている。
【0037】
係止ピン8f1はピン移動孔8d1の前端に移動したとき高さ調節スリット8e1の何れかの係止スリット8e3に係止可能である。このとき肘掛け本体8bの昇降がロックされる。すなわち係止ピン8f1を何れの係止スリット8e3に係止させるかで肘掛け本体8bの固定高さを多段階に調節可能である。
係止ピン8f1はピン移動孔8d1の後端に移動したとき係止スリット8e3への係止を解除して昇降案内スリット8e2に至る。このとき肘掛け本体8bの昇降ロックが解除されて肘掛け本体8bを昇降可能(高さ変更可能)となる。
【0038】
インナーパイプ8d内には左右方向に沿う支持軸8f2を介して揺動レバー8fが揺動可能に支持されている。揺動レバー8fは支持軸8f2の上方に延びる上方延出部8f3と支持軸8f2の下方に延びる下方延出部8f4とを備えている。上方延出部8f3の上端部には後述する昇降操作レバー8hの後下係合溝8h4に摺動可能に係合する係合ピン8f5が設けられている。下方延出部8f4の下端部には係止ピン8f1を保持するピン保持部8f6が設けられている。ピン保持部8f6の下方には下方に延びる延長部8f7が設けられるとともに延長部8f7の下端部後側から上方へ弧状に折り返すバネ片8f8が設けられている。
【0039】
インナーパイプ8dの上端には平面視でインナーパイプ8dの周囲に張り出すトッププレート8gが固定されている。トッププレート8gの下面でインナーパイプ8dよりも前方には左右方向に沿う支持軸8h1を介して昇降操作レバー8hが揺動可能に支持されている。昇降操作レバー8hは支持軸8h1の前方に延びる前方延出部8h2と支持軸8h1の後方に延びる後方延出部8h3とを備えている。前方延出部8h2は、前下部が昇降筒8cの上端部の外側に突出しており、着座者による上方への押入操作が可能とされている。後方延出部8h3の後端部下側には揺動レバー8fの上端部の係合ピン8f5を係合させる後下係合溝8h4が設けられている。
【0040】
揺動レバー8fはバネ片8f8の後上端がインナーパイプ8dの内壁(インナーパイプ8d内を通過する後述の操作ケーブル9を含む)に前方から当接することで下端部を前方に変位させるように付勢されている。このとき、係止ピン8f1はピン移動孔8d1の前端に移動し、高さ調節スリット8e1の何れかの係止スリット8e3に係止する。揺動レバー8fの下端部が前方に付勢されていると、揺動レバー8fの上端部が後方に変位し、昇降操作レバー8hの後方延出部8h3の後端部を上方に変位させ、前方延出部8h2を下方へ突出させる。この前方延出部8h2が上方へ押入されると、昇降操作レバー8hの後端部が揺動レバー8fの上端部を前方に変位させ、揺動レバー8fの下端部をバネ片8f8の付勢力に抗して後方へ変位させる。すると、係止ピン8f1はピン移動孔8d1の後端に移動し、高さ調節スリット8e1の係止スリット8e3への係止を解除するとともに昇降案内スリット8e2に至り、肘掛け本体8bを昇降可能とする。
【0041】
トッププレート8g上には、枢軸8i1を有するエンドプレート8iが固定されている。エンドプレート8iは昇降筒8cの上端開口を塞ぐように配設されている。エンドプレート8i上には肘掛け本体8bが枢軸8i1を中心に回動可能に支持されている。
【0042】
肘掛け本体8bは、エンドプレート8i上に載置される下層部材8jと、下層部材8j上に載置される上層部材8kと、を備えている。
図5は、後述のカバー部材8sを省略した下層部材8jを含む拡大斜視図である。この図に示すように、下層部材8jは、上方に開放する収容空間を形成するとともに収容空間内に枢軸8i1を突出させた状態でエンドプレート8i上に載置されるベース部材8mと、収容空間内でベース部材8mに相対回動不能かつ前後移動可能に嵌合するとともに枢軸8i1に回動可能に嵌合する回動部材8nと、操作ケーブル9を介して支基2内の装置(脚柱12の昇降調整機構と背凭れ7の傾動調整機構)を遠隔操作するための操作レバー8pと、操作ケーブル9のインナーケーブル9bを下層部材8j内で巻回させる前プーリ8q及び後プーリ8rと、収容空間の上方開放部を閉塞するカバー部材8s(図4参照)と、を備えている。この下層部材8jは、支持杆8aによって下方から支持されている。
【0043】
ベース部材8mは、その前端部に、上層部材8kの前部を支持するべく収容空間に対して上方へ段差状に変化した前段差部8m1を形成している。ベース部材8mは、その後端部に、上層部材8kの後部を支持するべく後下がりに傾斜した後傾斜部8m2を形成している。後傾斜部8m2は、収容空間の後端部の深さを後側ほど浅くするように形成されている。ベース部材8mの底壁には、枢軸8i1を貫通させるとともに前後方向に延びる長孔8m3が形成されている。
【0044】
回動部材8nは、上下方向(枢軸8i1の軸線に沿う方向)の幅を抑えた偏平の直方体状に形成されている。回動部材8nは、平面視において、前後面を左右方向に沿わせ、左右側面を前後方向(ベース部材8mの左右側壁に沿う方向)に沿わせて配置されている。
【0045】
操作レバー8pは、側面視L字状に形成されている。操作レバー8pは、左右方向に沿って延びて前段差部8m1上に回動可能に支持される支持軸8p1と、支持軸8p1から下方に延びる下方延出部8p2と、下方延出部8p2の下端から前方に延びる前方延出部8p3と、を備えている。操作レバー8pは、前段差部8m1内の揺動空間で支持軸8p1を中心に揺動可能とされている。前方延出部8p3の前部は、前段差部8m1の下部前方に突出しており、押上操作が可能とされている。前方延出部8p3は、上層部材8kの前部下方に位置している。前方延出部8p3は、上層部材8kに腕を載せた着座者が、その指先で引き上げるように操作可能とされている。
【0046】
操作レバー8pの下方延出部8p2の下端部には、左右方向に沿う支持軸8q1を介して前プーリ8qが回転自在に支持されている。前プーリ8qは、前方延出部8p3の引き上げ操作により下方延出部8p2が前上がりに回動すると、下方延出部8p2の回動に伴い前方へ移動する。
後プーリ8rは、上下方向に沿う支持軸8r1を介してベース部材8mの底壁の後端部に回転自在に支持されている。後プーリ8rは、後傾斜部8m2によって深さが減少する収容空間の後端部に配置されている。後プーリ8rを寝かせて配置することで、前プーリ8qのように起こして配置する場合と比べて、浅い空間にも配置しやすくなる。
【0047】
操作ケーブル9は、アウターケーブル9a及びインナーケーブル9bを備えている。操作ケーブル9は、支基2からインナーパイプ8dを通じて延びて下層部材8j内に至る。操作ケーブル9のアウターケーブル9aは、その先端部を回動部材8n内に形成されたアウターケーブル係止部8n1に係止する。操作ケーブル9のインナーケーブル9bは、アウターケーブル9aの先端部から前方に延びた後、前プーリ8qに下方から上方に巻回して後方へ折り返す。その後、インナーケーブル9bは、後プーリ8rに幅方向一側から他側(図では幅方向内側から外側)に巻回して前方へ折り返す。さらにその後、インナーケーブル9bは、その先端部を回動部材8nの後端部の幅方向外側に係止する。
上記構成で操作レバー8pの前方延出部8p3を引き上げ操作すると、前プーリ8qが前上方へ移動してインナーケーブル9bを引出し、支基2内の装置を作動させる。
【0048】
ここで、肘掛け本体8bを前後方向に移動させるときにも前プーリ8qが前後方向に移動するが、このとき、アウターケーブル9aの先端部よりも前方で前プーリ8qが前後移動することと合わせて、インナーケーブル9bの先端部よりも後方で後プーリ8rが前後移動する。このため、アウターケーブル9aの先端部よりも前方におけるインナーケーブル9bの長さが増減しても、インナーケーブル9bの先端部よりも後方におけるインナーケーブル9bの長さが同等量だけ減増する。このため、インナーケーブル9bの引出し長さの変化が抑えられ、肘掛け本体8bの前方移動時にインナーケーブル9bが引かれたり肘掛け本体8bの後方移動時にインナーケーブル9bが弛んだりすることが抑止される。
【0049】
カバー部材8sは、前段差部8m1に整合するように段差状に形成される前段差カバー部8s1と、後傾斜部8m2に整合するように傾斜するとともに後傾斜部8m2よりも前方まで延びる後傾斜カバー部8s2と、前段差カバー部8s1及び後傾斜カバー部8s2の間で上層部材8kから離間して設けられる中間壁部8s3と、を備えている。前段差カバー部8s1は、中間壁部8s3の前端から上方へ起立する前起立部を形成し、後傾斜カバー部8s2は、中間壁部8s3の後端から比較的低くかつ穏やかに上方へ起立する後起立部を形成している。中間壁部8s3と上層部材8kとの間には、肘掛け本体8bを左右方向で貫通する貫通空間Sが形成されている。貫通空間Sの前方には、前段差部8m1及び前段差カバー部8s1で形成されて上層部材8kの前部を支持する前支持部8t(スペーサ部材)が設けられている。この前支持部8tは、上層部材8kの一部に対して下層部材8jの一部を離間させることで貫通空間Sを形成している。貫通空間Sは、椅子100の幅方向に貫通して形成されており、上層部材8kを下層部材8jに対して左右方向に移動させる場合に、着座者の指を差し込む空間として用いることが可能とされている。
【0050】
上層部材8kは、下層部材8jの前支持部8t及び後傾斜カバー部8s2上に固定されるベース部材8k1と、ベース部材8k1上に収容空間を空けて重なるカバー部材8k2と、カバー部材8k2を上方から覆うパッド部材8k3と、カバー部材8k2とパッド部材8k3との間に介挿されると共にウレタン等からなるクッション部材8k4と、を備えている。上層部材8kは、側面視で上方に凸の緩やかな湾曲状をなし、前部は前下がりに傾斜するとともに後部は後下がりに傾斜して設けられている。ベース部材8k1は、下層部材8j上に載置されており、左右方向に摺動可能とされている。さらに、カバー部材8k2、パッド部材8k3及びクッション部材8k4も、ベース部材8k1と共に下層部材8jに対して左右方向に移動可能とされている。この上層部材8kは、下層部材8jによって下方から支持され、下層部材8jの一部(前後方向の中央部)との間に貫通空間Sを形成し、下層部材8jの当該一部に対して部分的に対向配置されている。
【0051】
上層部材8kの収容空間には、前後に長い上層部材8kを平行に左右移動させるための移動均等化機構8uが設けられている。
前後に長い上層部材8kを左右方向に移動させる場合、上層部材8kの前後端部の何れかを把持して行う操作では、上層部材8kに平面視の傾きが生じてスムーズな左右移動の妨げになる場合や、意図せず肘掛け本体8bの枢軸8i1回りの回動が生じる場合がある。これに対し、移動均等化機構8uにより上層部材8kの前後端部の左右移動の均等化を図ることで、上層部材8kの左右方向の平行移動を補助することができる。
【0052】
移動均等化機構8uは、上層部材8k収容空間で前後方向に延びる連動シャフト8u1と、ベース部材8k1上に左右方向に延びて形成される前ラック8u2及び後ラック8u3と、連動シャフト8u1の前側に配設される前軸受部8u4と、連動シャフト8u1の後側に配設される後軸受部8u5とを備えている。
【0053】
連動シャフト8u1の前端部は、上層部材8k内に左右方向に移動可能に収容される前軸受部8u4によって回動自在に支持されている。連動シャフト8u1の後端部は、上層部材8k内に左右方向に移動可能に収容される後軸受部8u5によって回動自在に支持されている。連動シャフト8u1の前部には、前ピニオンギヤ8u6が形成されている。連動シャフト8u1の後部には、後ピニオンギヤ8u7が形成されている。前ピニオンギヤ8u6には、前ラック8u2が噛合されている。後ピニオンギヤ8u7には後ラック8u3が噛合されている。前軸受部8u4及び後軸受部8u5は、下層部材8jに固定されており、上層部材8kが移動する場合であっても固定されている。
【0054】
前軸受部8u4の前端には、下方に先端が向けられたガイド突部8v1が設けられている。ベース部材8k1の前側上面には、左右方向(上層部材8kの移動方向)に沿って形成されるガイド溝部8v2が設けられている。ガイド突部8v1は、ガイド溝部8v2に摺動可能に係合している。これらのガイド突部8v1とガイド溝部8v2とは前ガイド部8v(ガイド要素)を形成している。
【0055】
後軸受部8u5の後端には、下方に先端が向けられたガイド突部8w1が設けられている。ベース部材8k1の後側上面には、左右方向(上層部材8kの移動方向)に沿って形成されるガイド溝部8w2が設けられている。ガイド突部8w1は、ガイド溝部8w2に摺動可能に係合している。これらのガイド突部8w1とガイド溝部8w2とは後ガイド部8w(ガイド要素)を形成している。
【0056】
上記構成で上層部材8kの前端部又は後端部を把持して上層部材8kを左右移動させようとすると、ラック(前ラック8u2あるいは後ラック8u3)が移動し、上層部材8kの前後端部のうちの着座者が把持した側(駆動側)の端部のピニオンギヤ(前ピニオンギヤ8u6あるいは後ピニオンギヤ8u7)が回転する。これにより、連動シャフト8u1が回転し、連動シャフト8u1の長さ分だけ離間した上層部材8kの反対側(従動側)が、当該反対側の端部のピニオンギヤ及びラックによって駆動側の端部と同等量だけ左右移動される。もって上層部材8kの左右方向の平行移動が促される。
【0057】
上述のような本実施形態の椅子100及び肘掛け8では、支持杆8aと、支持杆8aによって下方から支持される下層部材8jと、下層部材8jによって下方から水平方向に移動可能に支持される上層部材8kとを備え、下層部材8jの少なくとも一部と上層部材8jとの間に貫通空間S(指挿入空間)が形成されている。
このため、椅子100の着座者は、貫通空間Sに自らの指を差し込み、上層部材8kを把持した状態で水平方向へ移動することができる。この場合、着座者は、例えば手のひらを上層部材8kの上面に当て、指先を貫通空間Sに差し込むことで、上層部材8kを包み込むように上下から保持することができ、上層部材8kを安定的に保持することができる。したがって、本実施形態の椅子100及び肘掛け8によれば、貫通空間Sがない場合と比較して、極めて安定した状態で上層部材8kの移動を行うことができる。
さらに、椅子100及び肘掛け8によれば、上層部材8kの側面を広げなくとも安定的に上層部材8kの移動を行うことができる。このため、上層部材8kを薄型化することも可能となる。このため、肘掛けデザインの自由度を高めることも可能となる。
【0058】
また、本実施形態の椅子100及び肘掛け8は、上層部材8kの一部に対して下層部材8jの一部を離間させて貫通空間Sを形成するスペーサ部材として機能する前支持部8tを備えている。前支持部8tにより上層部材8kの一部に対して下層部材8jの一部が離間され、これによって形成される空隙が貫通空間Sとされている。
このような前支持部8tによって貫通空間Sを容易に確保することが可能となる。さらに、前支持部8tの存在により、着座者が前支持部8tを目印として貫通空間Sの位置を把握することも可能となり、着座者が容易に貫通空間Sの位置を把握することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態の椅子100及び肘掛け8は、上層部材8kの下層部材8jに対する左右方向への移動を案内するガイド要素として、前ガイド部8v及び後ガイド部8wを備えている。さらに、これらの前ガイド部8v及び後ガイド部8wが、ベース部材8k1に設けられると共に上層部材8kの移動方向に沿って形成されるガイド溝(ガイド溝部8v2及びガイド溝部8w2)と、下層部材8jに固定されると共にガイド溝に摺動可能に係合するガイド突部(ガイド突部8v1及びガイド突部8w1)とを有している。このため、ガイド突部がガイド溝に沿って摺動することによって、上層部材8kの下層部材8jに対する移動が案内され、上層部材8kを安定的に左右方向に移動させることが可能となる。
【0060】
また、本実施形態の椅子100及び肘掛け8は、貫通空間Sが、椅子100の幅方向において肘掛け8の一方側から他方側に貫通している。このため、着座者が肘掛け8の幅方向の両側から指を貫通空間Sに差し込むことができる。例えば、着座者の親指を肘掛け8の幅方向の一方から貫通空間Sに挿入し、着座者の親指以外の指を肘掛け8の幅方向の他方から貫通空間Sに挿入することができ、より安定的に上層部材8kを保持することが可能となる。また、貫通空間Sに差し込んだ指を遮る部材が存在しないことから、貫通空間Sに深く着座者の指を差し込むことができ、より安定的に上層部材8kを保持することが可能となる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0062】
図6は、本発明の変形例を示す模式図である。上記実施形態においては、単一の前支持部8tによって貫通空間Sを確保する構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、図6(a)に示すように、前後に離間して配置された2つのスペーサ部材10aを設置し、複数のスペーサ部材10aによって貫通空間Sを確保するようにしても良い。また、図6(b)に示すように、スペーサ部材を設置せずに、上層部材8kをアーチ状に湾曲させて貫通空間Sを確保するようにしても良い。なお、本発明においてスペーサ部材は、下層部材8jあるいは上層部材8kのいずれかの一部として設けることができ、また下層部材8j及び上層部材8kと別体として設けることも可能である。
【0063】
また、上記実施形態においては、本発明の指差込空間として貫通空間Sを備える構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図6(c)に示すように、上層部材8kの左右方向の両側部に凹部10bを形成し、この凹部10bにより下層部材8jと上層部材8kとの間に指挿入空間を形成するにしても良い。また、図6(d)に示すように、上層部材8kの前端部に凹部10cを形成し、この凹部10cにより下層部材8jと上層部材8kとの間に指挿入空間を形成するにしても良い。なお、これらの凹部10b及び凹部10cは、下層部材8j側に形成することも可能である。
【0064】
また、上記実施形態においては、前ガイド部8v及び後ガイド部8wのガイド溝(ガイド溝部8v2及びガイド溝部8w2)がベース部材8k1に設けられ、ガイド突部(ガイド突部8v1及びガイド突部8w1)が下層部材8jに固定された構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ガイド溝(ガイド溝部8v2及びガイド溝部8w2)が下層部材8jに固定され、ガイド突部(ガイド突部8v1及びガイド突部8w1)がベース部材8k1に設けられる構成を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
100……椅子、8……肘掛け、8a……支持杆(支持部材)、8j……下層部材、8k……上層部材、8t……前支持部(スペーサ部材)、8k1……ベース部材、8v……前ガイド部(ガイド要素)、8w……後ガイド部(ガイド要素)、S……貫通空間(指挿入空間)
図1
図2
図3
図4
図5
図6