【実施例】
【0073】
(実施例1)
  材料。用いた一次抗体は下記の通り:マウス抗-DHPRα
1(Ca
v1.1)サブユニット(MA3-920; Affinity Bioreagents社)、α-アクチニン(EA-53、Sigma-Aldrich社)、カベオリン-3(クローン26、BD Biosciences社)、デスミン(Y-20; Santa Cruz Biotechnology社)、及びグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH、MAB374; Chemicon社)モノクロナール抗体;及びウサギ抗-RYR1(Isabelle Marty、Grenoble Institut des Neurosciences、フランスからの贈呈品)。ウサギ抗-DNM2抗体(R2680及びR2865、Cowling, B.S.ら、2011, Increased expression of wild-type or a centronuclear myopathy mutant of dynamin 2 in skeletal muscle of adult mice leads to structural defects and muscle weakness, Am J Pathol 178:2224〜2235頁、Increased expression of wild-type or a centronuclear myopathy mutant of dynamin 2 in skeletal muscle of adult mice leads to structural defects and muscle weakness. Am J Pathol 178:2224〜2235頁において特徴づけられる)、及び抗-MTM1(R2827)(Hnia, K.ら、J. 2011. Myotubularin controls desmin intermediate filament architecture and mitochondrial dynamics in human and mouse skeletal muscle. J Clin Invest 121:70〜85頁)は、IGBMC(フランス)にて作製した。Alexa-結合二次抗体は、Invitrogen社から購入した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と結合したマウス及びウサギIgGに対する二次抗体は、Jackson ImmunoResearch Laboratories社から購入した。下記の製品を購入した: Hoechst核染色(B2883、Sigma-Aldrich社)、ECL化学発光反応キット(Pierce社)、Lipofectamine(商標)(Life Technologies社)、Tri試薬(Molecular Research Center、Ohio、米国)、SYBR Green 1マスターキット(Roche Diagnostics社)、miScript逆転写キット(Qiagen社)、特異的miScriptプライマーアッセイ(Qiagen社)及びmiScript Sybr green PCRキット(Qiagen社)。用いた患者対照生体組織AHJ38(1.5ヶ月)、及び39(3.4ヶ月)、MTM1突然変異を有するXLCNM生体組織は、AHJ35(15日)(MTM1- intron 11-10A>GS420
_R421insFIG)、及びAHJ36(1m)(MTM1-c.445-49
_445-4del)、1(MTM1-p.Leu213Pro)、及び15(MTM1- p.Ileu466dup)、及び患者12129/89(MTM1- p.Val49PhefsX6、未発表)であった。
【0074】
  Dnm2異型接合マウスの作製。標的ベクターを、Dnm2のエクソン8に隣接するLoxP部位を用いて作成し(
図10)、次に直鎖状にして、胚性幹(ES)細胞にエレクトロポレートした。組換えES細胞を、偽妊娠のメスに埋め込んだC57BL/6胚盤胞内に注射し、ジャームライントランスミッションを確認した。繁殖させ、分析したマウスは129pas系統であった(CMVプロモーター)。
【0075】
  Mtm1-/y / Dnm2  異型接合マウスの作製。Mtm1-/yマウスの構築及び特徴付けは、これまでに記載されている(Buj-Bello, A.ら、2002. The lipid phosphatase myotubularin is essential for skeletal muscle maintenance but not for myogenesis in mice. Proc Natl Acad Sci U S A 99:15060〜15065頁; Al-Qusairi, Lら、2009. T-tubule disorganization and defective excitation-contraction coupling in muscle fibers lacking myotubularin lipid phosphatase. Proc Natl Acad Sci U S A 106:18763〜18768頁)。メスの異型接合Mtm1マウス129pas系統をオスのDnm2異型接合マウスと共に繁殖させて、オスの子孫において4つの考え得る遺伝子型を生成した: Mtm1+/yDnm2+/+(WT); Mtm1+/yDnm2+/-(Dnm2+/-); Mtm1-/yDnm2+/+(Mtm1-/yと呼ぶ);及びMtm1-/yDnm2+/-。分析したマウスは、いずれもオスであった。
【0076】
  Mtm1-/yDnm2
skm+/-及びMtm1-/yDnm2
(i)skm+/-マウスの作製。ヒト骨格筋α-アクチン(HSA-Cre)C57BL/6及びHSA Cre-ER
T2マウスは、IGBMC(フランス)から入手した(Schuler, M.ら、2005. Temporally controlled targeted somatic mutagenesis in skeletal muscles of the mouse. Genesis 41:165〜170頁; Miniou, P.ら、1999. Gene targeting restricted to mouse striated muscle lineage. Nucleic Acids Res 27:e27)。LoxP配列が導入されたDnm2+/-マウスを、HSA-Creマウス及びHSA Cre-ER
T2と共に繁殖させて、それぞれCre-陽性のDnm2skm+/-及びDnm2skm(i)+/-マウスを生み出した。オスのDnm2
skm+/-又はDnm2
(i)skm+/-マウスを、メスのMtm1+/-マウスと繁殖させた。下記の遺伝子型を有するオスの子孫を分析した;系統1: Mtm1+/yDnm2+/+(WT)、Mtm1-/yDnm2+/+(Mtm1-/y)、Mtm1-/yDnm2
skm+/-;及び系統2: Mtm1+/yDnm2+/+(WT)、Mtm1-/yDnm2+/+(Mtm1-/y)、Mtm1-/yDnm2+/-HSA-Cre-ER
T2タモキシフェン誘導性(Mtm1-/yDnm2
(i)skm+/-)マウス。出生後にDnm2の切り出しを誘発するために、3週齢のマウスに、タモキシフェン1mg(濃度1mg/100μl)を毎日、3日間注射した。すべてのマウスを16週齢で絶命せしめた。分析したマウスは、いずれもオスの、50% 129pas系統(Mtm1-/y)、50% C57BL/6系統(HSA  プロモーター)マウスであった。
【0077】
  動物実験。動物を、12:12時間の明光/暗光サイクルで、温度管理された室内(19〜22℃)に収容した。マウスを、1歳になるまで、毎週秤量した。必要な場合には、動物実験法に関する国内及び欧州の法令に基づき、CO
2吸入後の頸椎脱臼によりマウスを人道的に殺傷した。筋肉及びその他の組織(TEMで必要な場合には麻酔下でTA筋)を切除し、これを窒素冷却イソペンタン中及び液体窒素中で、組織学アッセイ用及びイムノブロットアッセイ用として、それぞれ凍結した。
【0078】
  Dnm2+/-マウスの表現型分析。10〜15週齢のDnm2異型接合のオス及びメスのマウスについて、EUMODIC表現型分析プログラム(http://www.eumodic.eu/)に基づき、その表現型を分析し、結果を公表した(http://www.europhenome.org/)。オスのマウス(1群当たりn=10)について、本明細書に提示する血液化学、ECG測定、Dexaスキャン、及び筋電図検査は、EUMODIC表現型分析プログラムのパイプライン1及び2の一環として、Institut Clinique de la Souris(ICS、Illkirch、フランス、http://www.ics-mci.fr/)にて実施した。
【0079】
  ストリング、グリップ(2及び4肢)、ハンギング、ロータロッド、及びフットプリント試験。ストリング試験:マウスの前肢をワイヤーに懸架し、後肢がワイヤーまで登上するまで20秒間放置した。マウス1匹当たり3トライアルを、トライアル間で5分間の休憩を設けながら実施した。落下は、20秒とみなした(1群当たりn=最低5匹のマウス)。グリップ強度試験:動力計(Bioseb社、Chaville、フランス)のグリッド上に2前肢又は4肢すべてを配置して実施し、マウスの尾部を反対方向に引っ張った。グリップを失うまでマウスが示した最大強度を記録した。マウス1匹当たり3トライアルを、トライアル間で30秒の休憩を設けながら実施した(2肢の試験、1群当たりn=最低5匹のマウス;4肢試験、1群当たりn=5〜7匹のマウス)。ハンギング試験:マウスをケージ蓋に最長60秒間懸架した。マウスがケージから落下するまでの時間をトライアル毎に記録した。マウス1匹当たり3トライアルを実施した。ロータロッド試験:整合及び全身筋肉強度及び疲労性を、加速回転式ロッド試験(accelerated rotating rod test)装置(Panlab社、Barcelona、スペイン)を用いて試験した。マウスを、5分間に4から40rpmまで加速したロッド上に配置した。1日3トライアルを、トライアル間で5分間の休憩を設けながら、1日目(訓練日)、次に4日間実施し、これを記録した。動物を、落下するまで持ちこたえる時間についてスコア化した(秒表示)。3トライアルの平均値を、上記実験毎に計算した(1群当たりn=5〜7のマウス)。フットプリント試験:マウスの後肢を、無毒のインクでコーティングし、紙を敷いたトンネル(長さ50cm、幅9cm、高さ6cm)を通じて、マウスを歩行させた。次に、ImageJ解析プログラムを用いて、付けられた足跡のパターンから、後肢間の角度を測定した。マウス1匹当たり、最低6つの足跡を分析した(1群当たりn=5〜8匹のマウス)。
【0080】
  プレチスモグラフ測定。この試験は、非拘束無刺激状態のマウスを対象に、自発的呼吸パターンを測定するのに用い、またICS、Illkirch、フランスにて、全身気圧プレチスモグラフ(barometric plethysmograph)(EMKA Technologies社)を用いて実施した(1群当たりn=3〜5匹のマウス)。
【0081】
  TA筋収縮特性。筋力測定を、これまでの記載に従い、神経及び筋肉刺激に応答した筋等長性収縮をin situ測定して評価した(Cowling, B.S.ら、2011 Am J Pathol 178:2224〜2235頁; Vignaud, A.ら、2005年、Exp Physiol 90:487〜495頁; Vignaud, A.ら、J Biomed Biotechnol 2010年:724914頁)。神経刺激による結果を示す(1群当たりn=5〜11匹のマウス)。疲労を、生み出された最大力の50%に達するのに要する時間として測定した。収縮測定後、動物を頸椎脱臼により絶命せしめた。次に、TA筋を切除し、秤量して比最大力を求めた。
【0082】
  横隔膜筋収縮特性。これまでの記載に従い(50)、横隔膜等尺性収縮を、横隔膜前縁(costal diaphragm)の腹側部から得た筋肉ストリップについて評価した。要するに、マウス1匹当たり2つの筋肉ストリップをin situで切除した。各筋肉を、Krebs-Henseleit溶液を含有する組織チャンバー内に浸漬した。溶液を95% O
2-5% CO
2の混合気体でバブリングし、27℃、pH 7.4で維持した。筋肉末端部を、スプリングクリップで保持し、そして電磁力トランスジューサに取り付けた。2つの白金電極を筋肉に対して並行に配置し、そして電気刺激を1m秒間送達することにより、横隔膜ストリップに電気刺激を与えた。力-収縮頻度曲線を求めた。絶対最大力は、刺激周波数100Hz、刺激時間(train duration)400m秒のときに実現した。実験終了時に、筋肉比重を1.06と仮定し、最適な筋肉長さ(Lo)に対する筋肉質量の比から各筋肉断面積(mm
2表示)を計算した。総等尺ピーク力(isometric peak force)を、断面積に基づき標準化して、総張力をmN.mm
-2で得た(1群当たりn=3〜5匹のマウス)。
【0083】
  ウェスタンブロッティング。マウス筋肉を切り刻み、1% NP-40トリス-Clバッファー、pH8の容積に対して10倍の質量を、氷上にて、3×30秒間ホモジナイズし(Ultra Turraxホモジナイザー)、次に4℃で30分間抽出した。タンパク質濃度を、DCタンパク質アッセイキット(Bio-Rad Laboratories社)を用いて求め、溶解物をSDS-PAGEにより分析し、そしてニトロセルロースメンブレン上でウェスタンブロッティングした。用いた一次抗体は、DNM2-R2680(1:500)、DNM2-R2865(1:500)、MTM1-R2827(1:500)、及びGAPDH(1:10,000)であった;二次抗体は、抗-ウサギHRP又は抗マウスHRP(1:10,000)であった。ウェスタンブロットフィルムをスキャンし、ImageJソフトウェア(Rasband、W.S.、ImageJ、米国国立衛生研究所、Bethesda、Maryland、米国、http://rsb.info.nih.gov/ij/、1997-2009)を用いて、バンド強度を求めた。デンシトメトリー値を、対応する総GAPDH値に対して標準化し、そして列記する対照と比較して、その差異をX倍として表した(1群当たりn=5〜7匹のマウス)。
【0084】
  qRT-PCR解析。Tri試薬(Molecular Research Center、Ohio、米国)を用いて、全RNAを、8週齢の前脛骨筋骨格筋溶解物から抽出し、逆転写し、そしてOligo dTプライマーを用いて増幅した。次にLightcycler 480(Roche Diagnostics社、Meylan、フランス)を使用して、リアルタイム定量的RT-PCRを実施したが、その際DNM2プライマー(フォワードプライマーCCAACAAAGGCATCTCCCCT(配列番号28);リバースプライマーTGGTGAGTAGACCCGAAGGT (配列番号29))及び標準としてGAPDH mRNAと共にSYBR Green 1マスターキット(Roche Diagnostics社)を用いた。結果を対応する総GAPDH値に標準化し、WT同腹子対照と比較して、その差異をX倍として表した(1群当たりn=2〜3匹のマウス、3連での測定)。
【0085】
  骨格筋の組織学及び免疫蛍光分析。マウス骨格筋の縦及び横の低温切片(8μm)を、調製、固定化し、そしてDHPRα
1(1:100)、RYR1(1:200)、α-アクチニン(1:1,000)、カベオリン-3(1:1000); DNM2-R2680(1:200)、MTM1-R2827(1:200)、及びデスミン(1:100)に対する抗体で染色した。核を、Hoechst(Sigma-Aldrich社)で10分間共染色して検出した。サンプルを、レーザー走査型共焦点顕微鏡(TCS SP5; Leica Microsystems社、Mannheim、ドイツ)を用いて観察した。風乾した横断面を固定し、ヘマトキシリンとエオシン(HE)、又はコハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)で染色し、そして画像取得を、蛍光モジュールL11600-21(浜松ホトニクス株式会社、日本)を備えたスライドスキャナーNanoZoomer 2 HT、又はDMRXA2顕微鏡(Leica Microsystems Gmbh)を用いて実施した。FIJI画像解析ソフトウェアを用いて、断面積(CSA)をTAマウス骨格筋から得たHE断面において分析した。1群当たり4〜7匹のマウスから、CSA(μm
2)を計算した(マウス1匹当たり>500本の線維)。4〜6匹のマウスから得た>500本の線維について、核が中心に偏在化した又は内部に移行したTA筋肉線維の割合(%)を、ImageJ画像解析ソフトウェア内の細胞カウンタープラグインを用いて計測した。
【0086】
  透過型電子顕微鏡。マウスに、体重1グラム当たり10μlのケタミン(20mg/ml、Virbac社、Carros、フランス)及びキシラジン(0.4%、Rompun、Bayer社、Wuppertal、ドイツ)を腹腔内注射して、これを麻酔した。TA筋生体組織を、0.1Mのカコジレートバッファー(pH7.2)に溶解した2.5%グルタルアルデヒドで固定し、そしてこれまでの記載に従い処理した(Buj-Bello, A.ら、2002、Proc Natl Acad Sci U S A 99:15060〜15065頁; Cowling, B.S.ら、2011、Am J Pathol、178:2224〜2235頁)。筋肉の縦断面においてトライアド構造を識別し、1サルコメア当たりのトライアドの数を定量した。トライアド/サルコメアの比は、これまでの記載に従い、明確に識別されたトライアドの数を、画像中に存在するサルコメアの合計数で割り算して計算した(Amoasii, L.ら、2012年、PLoS Genet 8:e1002965)。40〜80個のトライアドを、マウス1匹毎に計測した。
【0087】
  顕微鏡検査及び統計分析。すべての顕微鏡検査を、IGBMC画像センターで実施した。顕微鏡検査用のサンプルすべてをFluorsave試薬(メルク社)に浸漬し、室温で観察した。カラーCCDカメラ(Coolsnap cf colour、Photometrics社)が取り付けられた蛍光顕微鏡(DM4000; Leica Microsystems社)を用いて、光学顕微鏡検査を実施した。共焦点顕微鏡検査を、共焦点レーザー走査型顕微鏡(TCS SP2又はSP5; Leica Microsystems社、Mannheim、ドイツ)を用いて実施した。ImagJ及びFIJI解析ソフトウェアを、画像解析に用いた。統計分析は、別途記載しない限り、独立スチューデントのt検定を用いて実施した。p値が<0.05の場合、有意とみなした。
【0088】
  試験承認。動物実験は、施設倫理委員会Com'Eth IGBMC-ICS(2012-128)より承認を受けた。すべてのヒト生体組織は、インフォームドコンセントを取得した後に用いた。
【0089】
結果
  Dnm2  異型接合(Dnm2+/-)マウスの作成及び特徴付け。Dnm2の恒常的なノックアウトは、胚形成期間中に早期死亡することがこれまでに明らかになっている(Ferguson, S.M.ら、2009年、Coordinated actions of actin and BAR proteins upstream of dynamin at endocytic clathrin-coated pits. Dev Cell 17:811〜822頁)。Dnm2ノックアウト(Dnm2-/-)マウスは、Dnm2のエクソン8を標的とすることにより作成した(
図10)(詳細については方法のセクションを参照)。100匹からは、Dnm2-/-のマウスは全く識別されず、Dnm2-/-は、胎児期に死に至ることが確認された。異型接合(Dnm2+/-)マウスは、メンデル性遺伝の比から期待される通りに識別され、そのようなマウスについて、EUMODIC表現型分析プログラムに基づき更に分析した(更なる詳細については、方法のセクション及びhttp://www.eumodic.eu/  を参照)。基本的な血液化学試験では、尿素(腎臓機能正常の指標)、カルシウム(浸透圧ホメオスタシス)、及び総コレステロール(心血管系疾患不存在の指標)の各濃度について、野生型(WT)と異型接合(Dnm2+/-)マウスの間で差異は認められなかった(
図11A)。ECG測定が正常なことから、心臓の電気的活動に変化はないことが示唆された(
図11B)。全体的に、WTとDnm2+/-マウスの間で、体重に明白な差異は認められず(
図11C)、また貧脂肪組織又は脂肪含有量についても差異は認められなかった(
図11D)。基本的な筋肉機能試験を、次に実施した。筋電図試験から、単一の神経伝達速度(SNCV)に差異はないことが判明した(
図11E)。前脛骨筋(TA)の筋肉質量は、WTとDnm2+/-マウスの間で類似し(
図11F)、またTA筋の絶対最大力若しくは比最大力、又は疲労性に、差異は検出されず(
図11G〜I)、全体として、Dnm2+/-マウスは、臨床的及び生理学的にWTマウスと類似し、筋肉機能において検出可能な差異は認められないことが示唆された。
【0090】
  X連鎖中心核ミオパシーにおけるDNM2レベル。XLCNMにおけるDNM2の下方制御について、その治療可能性を調査する前に、DNM2タンパク質濃度を、XLCNM患者由来の筋肉溶解物について、ウェスタンブロット解析によりチェックした(
図1A)。試験の対象とされた新生児のXLCNM筋肉生体組織5例に由来するDNM2タンパク質の発現量は、同年齢の対照生体組織と比較して、1.5倍増加していることが識別された(
図1B)。XLCNMの動物モデルにおいて、DNM2発現量の増加も認められるか、次に調べた。この試験では、これまでに特徴付けが行われており、またXLCNMを忠実に再現したMtm1-/yマウスを用いた(Buj-Bello, A.ら、2002 Proc Natl Acad Sci U S A 99:15060〜15065頁; Al-Qusairi, L.ら、2009, Proc Natl Acad Sci U S A 106:18763〜18768頁; Amoasii, L.ら、2012, PLoS Genet 8:e1002965)。5週齢のMtm1-/yマウスから得たTA筋肉溶解物は、WT対照同腹子と比較してDNM2レベルに有意な増加を示し(
図1C、
図D)、DNM2の増加は、XLCNM表現型と関連することが示唆される。DNM2発現量の増加は、横隔膜筋についても認められ(
図1E、
図F)、またこの筋肉は、組織学的に影響を受けていると思われ、誤局在化した核を含有するより萎縮性の線維が認められる(
図1G)。この所見は、Mtm1-/yマウスの死因が呼吸器系機能不全であることを示唆する。
【0091】
  DNM2発現量が減少すれば、Mtm1-/yマウスの寿命は大幅に伸びる。Dnm2+/-マウスでは、DNM2を遺伝レベルで50%まで低下させても、検出可能な臨床的又は生理学的な影響は認められない。ダイナミン2の発現量を低下させれば、MTM1突然変異に起因するX連鎖CNMから回復させることが可能か試験するために、Mtm1+/-マウスをDnm2+/-マウスと交配して、Mtm1-/yDnm2+/-のオスの子孫を生み出した。ほとんどのMtm1-/yマウスは、これまでの報告の通り(Buj-Bello, A.ら、2002 Proc Natl Acad Sci U S A 99:15060〜15065頁)1〜3月齢の間に死亡したが、Mtm1-/yDnm2+/-マウスは、すべて少なくとも1年間生存し(
図2A)、WTマウスと比較して体重に有意差を認めず(
図2B)、DNM2の発現量低下は、Mtm1-/yマウスに認められた早期死亡を救済し得ることを示唆する。絶命させなかったMtm1-/yDnm2+/-マウスは、現在2歳を超えている。Mtm1-/yマウスの約60%がなおも生存していた8週目には、Mtm1-/yDnm2+/-マウスは、一般検査で、WTマウスと区別できなかったが、一方、Mtm1-/yマウスは、運動及び活動に有意な低下を示した。
【0092】
  DNM2タンパク質の発現レベルを調べるために、異なる年齢のいくつかの筋肉から得た溶解物について、ウェスタンブロット解析を実施した。横隔膜筋では、WTマウスと比較して、8週齢(8w)及び6月齢(6m)のいずれにおいても、Dnm2+/-及びMtm1-/yDnm2+/-マウスのにつき、期待通りに、DNM2タンパク質濃度は約50%低下した(
図2C)。Mtm1-/yマウスは、8週齢のWTマウスと比較して、横隔膜内でDNM2の増加を示し、5週齢マウスから得られた結果と整合した(
図1F)。腓腹筋(
図2D)、前脛骨筋(
図2E)、及びヒラメ筋(
図2F)では、8週齢、16週齢、及び6月齢において、同一の傾向が認められた(
図14)。従って、DNM2レベルは、年齢が異なり、筋肉が異なっても、WTマウスと比較して、Mtm1-/yマウスで一様に増加したが、Dnm2+/-及びMtm1-/yDnm2+/-マウスでは一様に低下した。
【0093】
  DNM2タンパク質の発現量の変化は、タンパク質合成の変化に起因するのか、その真否を確認するために、8週齢のTA筋溶解物についてqRT-PCR解析を実施した。Dnm2+/-及びMtm1-/yDnm2+/-の両マウスにおけるmRNA Dnm2レベルは、WT及びMtm1-/yのマウスと比較して有意に低下し(
図2G)、DNM2タンパク質発現量と相関した(
図2E)。興味深いことに、WTマウスと比較して、Mtm1-/y筋肉溶解物において、Dnm2 mRNA発現量に有意な増加は認められず、Mtm1-/y筋肉におけるDNM2タンパク質の発現量の増加は、転写の増加よりはむしろDNM2の安定化の向上又は分解の低下に起因し得ることが示唆される。
【0094】
  TA筋は、Mtm1-/yマウスにおいて最も影響を受ける筋肉の1つであったので、免疫蛍光解析により、8週齢のマウスから得たTA筋についてMTM1及びDNM2の局在化を調査した。Z線は、α-アクチニン染色により識別されるが、これは比較的乱れのない状態で認められた(
図12A)。Mtm1-/y及びMtm1-/yDnm2+/-マウスでは、DNM2はZ線においてα-アクチニンと同時に存在し、比較的乱れのない状態で認められた(
図12A)。筋細管は、Mtm1-/y及びMtm1-/yDnm2+/-マウスにおいて、期待通り、わずかにのみ検出可能であった(
図12B)。全体として、DNM2の発現量が減少すれば、Mtm1-/yマウスの寿命及び体重は、野生型レベルまで回復する。
【0095】
  Mtm1-/yマウスの筋萎縮は、DNM2発現量を低下させることにより回復する。Mtm1-/yマウスにおけるDNM2発現量の低減効果を更に分析するために、異なる筋肉の質量を測定した。Mtm1-/yマウスについて、収縮の速い腓腹筋を萎縮させたが、1歳まで、分析したMtm1-/yDnm2+/-に萎縮は認められなかった(
図2H)。同様に、その他の収縮の速い筋肉のEDL及び足底筋は、Mtm1-/yDnm2+/-マウスでは、WTマウスと比較して、1歳まで萎縮を示さなかった(
図13A,
図13B)。Mtm1-/yマウスにおいて最も良く特徴づけられるTA筋は、8週齢において、Mtm1-/yDnm2+/-、WT、及びDnm2+/-のマウスと比較して、Mtm1-/yマウスで強い萎縮を示した(
図2I)。Mtm1-/yDnm2+/-のTA質量は、この年齢のWTマウスと区別することはできなかった。16週齢では、Mtm1-/yマウスとは異なり、Mtm1-/yDnm2+/-マウスはなおも生存し(
図2A)、またWT及びDnm2+/-のマウスと比較して、若干のTA萎縮を示すことから、Mtm1-/yDnm2+/-では、TAの萎縮遅延が示唆される。興味深いことに、収縮の遅いヒラメ筋では、8週齢のMtm1-/yマウスで萎縮が認められたが、Mtm1-/yDnm2+/-のマウスでは、WTマウスと比較して1歳まで萎縮は存在しなかった(
図2J)。体重と比較して全筋肉質量を測定したとき、類似した結果が認められた(
図13C〜
図13E)。Mtm1-/yDnm2+/-とWTマウスの間で、肝臓又は心臓の質量に差異は認められなかった(
図13F,
図13G)。従って、Mtm1-/yマウスでは、DNM2発現量が減少した後、筋萎縮は、腓腹筋及びヒラメ筋において完全に回復し、またTA筋肉においては大幅に遅延した。
【0096】
  DNM2発現量を低減することにより、CNMの組織学的特徴は、Mtm1-/yマウスで大幅に回復する。CNMは、組織学的には、誤局在化した内核及び筋肉線維発育不全を呈する。2つの主要な時点を分析した: 大部分のMtm1-/yマウスがなおも生存する初期(8週齢(8w))、及び95%のMtm1-/yマウスが死亡する後期(16週齢(16w))。8週齢のとき、Mtm1-/yのTA筋は、特徴的な核の誤局在化(
図3A,
図F)、線維サイズの低下(
図3A,
図D)、並びに筋細胞膜下及び中心部の蓄積を伴うSDH染色の異常(
図3A)を示した。Mtm1-/yDnm2+/-のTA筋は、腓腹筋及びヒラメ筋(
図13H、
図I)で認められたのと同様に、WT及びDnm2+/-のマウスと組織学的に類似し、SDH染色でごくわずかの異常な線維が認められた(
図3A)。線維の発育不全は回復し、また内核及び中心核は、Mtm1-/yマウスと比較して有意に減少した(
図3A,
図D,
図F)。更に、核周辺のメンブレン蓄積も低下した(
図3B)。一部の領域は健常に見えたが、その他の領域は、8週齢のMtm1-/yマウスに類似して筋肉線維発育不全、核の誤局在化、及びSDH染色の異常が認められたので、16週齢までに、Mtm1-/yDnm2+/-マウスに由来するTA筋表現型は混合した(
図3C、
図3E、
図3F)。Mtm1-/yマウスでは破綻することが判明しているMTM1結合パートナーであるデスミンの局在化(Hnia, K.ら、2011、J Clin Invest 121:70〜85頁)について、次に分析を行った。Mtm1-/yマウスは、デスミンの局在化において強い乱れを示したが、これはMtm1-/y Dnm2+/-マウスでは、ほとんど認められず(
図15A)、正常なデスミンの局在化は、8週齢のMtm1-/y Dnm2+/-マウスでは回復していることを示唆する。全体的には、これらの結果は、Mtm1-/yマウスに存在する異なる筋肉内のCNM表現型の提示は回復する、又はダイナミン2タンパク質の発現低下により、大幅に遅延することを示唆する。
【0097】
  DNM2発現量が減少すれば、Mtm1-/yマウスの筋肉強度及び成績が改善する。DNM2発現量が減少すれば、組織学的表現型に加えて、Mtm1-/yマウスの機能的表現型も回復するか、その真否を確認するために、様々な試験を実施した。ストリング試験では、マウスが後肢をバー上に持ち上げて保持するように、その前肢で懸架したマウスを必要とする。Mtm1-/yマウスは、数回トライアルしても、ストリングから落下し、8週齢まで当該試験を実施することができなかったが、Mtm1-/yDnm2+/-マウスは、WT及びDnm2+/-のマウスと同様の試験成績を有したことから(
図4A)、この年齢において、全身強度が回復したことが示唆される。絶対最大力及び比(筋肉質量と比較)最大力を、8週齢及び16週齢においてTA筋を対象に測定した。8週齢では、Mtm1-/yマウスが示す絶対的及び比最大筋力は、極めて弱かったが、一方、Mtm1-/yDnm2+/-マウスは、WT及びDnm2+/-のマウスと同様の試験成績を有した(
図4B、
図4C)。16週齢では、Mtm1-/yDnm2+/-マウスのTA筋の最大力は低下し、組織学的データと整合した。更に、8週齢では、疲労性に変更は認められなかったが、16週齢では、TA筋肉は対照よりも速く疲労した(
図4D)。特に、組織学的にも、また生理学的にも、16週齢のMtm1-/yDnm2+/-マウスは、8週齢のMtm1-/yマウスよりも良好な成績を有し、本疾患の進行減速、又は16週齢のTA筋において組織学的に認められた混合型の表現型により示唆されるように、全部ではなく一部の筋肉線維の回復が示唆される。全体として、Mtm1-/yDnm2+/-マウスに認められたTA筋の萎縮及び最大筋力低下は、Mtm1-/yマウスと比較して減少し、大幅に遅延する。
【0098】
  Mtm1-/yDnm2+/-マウスにおける筋肉超微細構造の改善。次に、Mtm1-/yDnm2+/-筋肉の超微細構造が回復したか調べた。8週齢及び16週齢のMtm1-/yDnm2+/-マウスから得たTA筋について、透過型電子顕微鏡検査(TEM)を実施した。8週齢Mtm1-/yDnm2+/-のTA形態は、WT及びDnm2+/-のマウスの形態と類似し、Z線及びサルコメアは整列しており、また明らかなミトコンドリアの構造的異常を認めないが、一方、Mtm1-/yの筋肉では、ミトコンドリア形状の異常、メンブレン蓄積の異常、及びZ線の誤整列、及び筋原線維幅の変化が認められた(
図5A)。注目すべき点として、16週齢のMtm1-/yDnm2+/-マウス由来の筋肉は、不均質であり、一部の領域は健常に見えたが(
図5B、左下)、一方、その他の領域は乱れているように見えた(右下)。更に、ミトコンドリアの異常が、16週齢Mtm1-/yDnm2+/-マウスの一部領域で検出可能であったが、8週齢では明白でなかった。これは、本発明者らのこれまでの組織学的及び生理学的結果を裏付け、Mtm1-/yDnm2+/- TA筋のCNM表現型は、異なる時点において、実質的ではあるが部分的に回復することを示唆する。
【0099】
  トライアド構造は、Mtm1-/yDnm2+/-マウスにおいて正常化した。CNM患者とCNM動物モデルとの間で共通する一般的な特徴として、骨格筋内にあるトライアドの構造及び位置の破綻が挙げられる(Toussaint, A.ら、2011. Defects in amphiphysin 2(BIN1)and triads in several forms of centronuclear myopathies. Acta Neuropathol 121:253〜266頁; Dowling, J.J.ら、2009年、Loss of myotubularin function results in T-tubule disorganization in zebrafish and human myotubular myopathy. PLoS Genet 5:e1000372; Al-Qusairi, L.ら、2009. T-tubule disorganization and defective excitation-contraction coupling in muscle fibers lacking myotubularin lipid phosphatase. Proc Natl Acad Sci U S A 106:18763〜18768頁; Beggsら、2010年、MTM1 mutation associated with X-linked myotubular myopathy in Labrador Retrievers. Proc Natl Acad Sci U S A 107:14697〜14702頁)。Mtm1-/yDnm2+/-マウスにおいて、トライアド構造が影響を受けているか、その真否を確認するために、免疫標識により、トライアドマーカーの局在場所を調べた。成熟した筋肉のT-尿細管上に見出される電圧依存性カルシウムチャンネルであるDHPRαは、T-尿細管の局在場所と一致して、WT及びDnm2+/-のマウスのTA筋線維内にある中断構造(punctuate structure)に局在化していた(
図15B)。しかし、Mtm1-/y筋肉内では、この特異的染色は失われ、T-尿細管の重度破綻が示唆された。Mtm1-/yDnm2+/-筋肉では、DHPRαは、
WT及びDnm2+/-の筋肉と同様に局在化しており、このようなマウスにおけるT-尿細管構造の回復を示唆する。これは、トライアドの筋小胞体に特異的に局在化しているカルシウムチャンネルであるリアノジン受容体(RyR1)について、筋肉断面を染色することにより確認された。横断像は、Mtm1-/yDnm2+/-マウス由来のほとんどの線維において、RyR1の局在化の回復を示し、ごく一部の線維が、Mtm1-/yマウスで広範に認められたRyR1蓄積を示した(
図6A)。縦断像では、トライアドの局在場所と整合して、WT及びDnm2+/-の筋肉において、RyR1染色のダブレットをZ線周辺に認めた(α-アクチニンでマークした)。このMtm1-/y筋肉内染色は、極めて変動性であり、またMtm1-/yDnm2+/-筋肉では部分的に回復した。トライアドを更に分析するために、高倍率TEM画像を、8週齢マウスから取得した。T-尿細管/トライアド構造の極度の破綻が、WT及びDnm2+/-のマウスと比較して、Mtm1-/yマウスに認められたが、一方、適正に配置されたトライアドが、Mtm1-/yDnm2+/-マウスでは明確に目視可能であった(
図6B)。トライアドの解析から、WT、Dnm2+/-、又はMtm1-/yDnm2+/-のマウスにおいて、1サルコメア当たりのトライアドの数に差異の無いことを確認したが、一方、Mtm1-/yマウスでは、1サルコメア当たりのトライアド数に減少が認められた(
図6C)。従って、トライアドの局在化及び構造は、8週齢Mtm1-/yDnm2+/-マウスにおいて回復した。
【0100】
  カベオリン3は、筋肉の発生及び再生期間中に、T-尿細管に見出されるが、一方、成熟した筋肉では、カベオリン3は、筋細胞膜に主に局在化している(Miniou, P.ら、1999. Gene targeting restricted to mouse striated muscle lineage. Nucleic Acids Res 27:e27でレビューされている)。カベオリン3の局在化が、Mtm1-/y及びMtm1-/yDnm2+/-のマウスにおいて破壊されているか、その真否を確認するために、筋肉の横断面を、カベオリン3に対する抗体で染色した。WT及びDnm2+/-の筋肉では、筋細胞膜に局在化したカベオリン3が、期待通りに明らかとなったが、Mtm1-/yマウスに由来する多くの線維は、カベオリン3について強い内部染色パターンを示した(
図6D)。この表現型は、Mtm1-/yDnm2+/-の筋肉で、概ね回復したが、ごくわずかな線維が、カベオリン3の内部局在を示した。
【0101】
  Mtm1-/y Dnm2+/-マウスの長期生理学的表現型。XLCNMは、患者に極めて重度の筋力低下を引き起こし、またMtm1-/yマウスでは、1〜3ヶ月以内で死に至らしめる;しかし、このようなマウスのダイナミン2発現量を低減することにより、寿命が回復し、8及び16週齢の筋肉強度は大幅に改善した。その後の時点におけるMtm1-/yDnm2+/-マウスの表現型を、筋肉機能の程度が正常な寿命に匹敵するか評価するために測定した。6月齢及び12月齢のMtm1-/yDnm2+/-マウスは、移動可能、及び基本的な課題を実施可能であった。高齢のMtm1-/yDnm2+/-マウスは、WTマウス(
図7A)と類似するように見えたが、後肢を外側に向けて歩行するように思われた。これは、後肢をインク内に配置し、そして歩行時の後肢間の角度を測定することにより定量化した(
図16A;
図7B)。測定した両年齢について結果が類似したことから、この特徴は6〜12月齢において進行しなかった。これらのマウスの全体的な最大脚力を調べるために、グリップ強度試験を、動力計を用いて実施した。2つの前肢のみを測定しとき、最初の12ヶ月間で、WT又はMtm1-/yDnm2+/-の間で差異を認めなかった(
図S7B)。4肢を測定したとき、脚力のわずかな低下が、6月齢及び12月齢の両方で、WTマウスと比較して、Mtm1-/yDnm2+/-マウスで認められ(
図7C)、Mtm1-/yDnm2+/-マウスの後肢では、WTマウスと比較して、最大筋力の低下を示すことが示唆されたが、進行性ではなかった。全身的な運動調整、強度、及び持久性に関するロータロッド試験を実施したが、6月齢又は12月齢で差異は認められず(
図7D)、Mtm1-/yDnm2+/-の全身的な調整及び全体的な強度に、重度の乱れはないことを確認した。ハンギング試験は、マウスをケージ蓋に60秒間懸架する必要のある高負荷試験である。重度に罹患したMtm1-/yマウスは、1ヶ月後にこの試験を実施することができなかった(
図7E)。比較すると、高齢のMtm1-/yDnm2+/-は、試験した最後の12月齢まで、その程度はWT及びDnm2+/-のマウスより劣るものの、この試験を実施することができた(
図7E)。Mtm1-/yDnm2+/-マウスは、基本的な運動強度試験を12月齢まで瑕疵なく実施できるので、本疾患の表現型は経時的に進行性ではなく、また寿命及び基本的な運動機能は回復するものと結論する。
【0102】
  Mtm1-/yDnm2+/-マウスにおける正常な長期横隔膜機能。Mtm1-/y XLCNMモデルでは、個々の筋肉が受ける影響は異なっていると考えられ、またDNM2の減少による回復も異なることが判明した(
図2C〜
図2J;
図13)。XLCNMは、生命を脅かす呼吸不全を引き起こすので、XLCNM患者の寿命に関する主要な観点として、横隔膜機能の継続性が挙げられる(Jungbluth, H., Wallgren-Pettersson, C.、及びLaporte, J. 2008年、Centronuclear(myotubular)myopathy. Orphanet J Rare Dis 3:26)。更に、5週齢のMtm1-/yマウスでは、横隔膜の組織学は、大きく変化した(
図1G)。従って、6月齢のMtm1-/yDnm2+/-マウスについて、横隔膜筋の機能を試験した。プレチスモグラフ試験を、休息条件下でマウスの自発的呼吸パターンを測定するのに用いた。Mtm1-/yDnm2+/-マウスは、WT及びDnm2+/-のマウスと同様の試験成績を有し、有意差は検出されなかった(
図17及び
図7F)。比最大力を、横隔膜筋の単離したストリップについて測定した。力-収縮頻度の関係に有意差は検出されなかったが、比最大力の低下を認めた(
図7G)。組織学的には、Mtm1-/yDnm2+/-の横隔膜筋は、WT及びDnm2+/-の横隔膜筋と類似したが、核の位置又は線維症に大きな変化は認められなかった(
図7H)。Mtm1-/yDnm2+/-マウスの横隔膜筋は、DNM2タンパク質濃度が、5週齢(
図1E,
図1F)、及び8週齢(
図2C)において上昇したMtm1-/yマウスと比較して、6月齢でも、DNM2タンパク質濃度の低下を維持した(
図2C)。全体として、Mtm1-/yDnm2+/-マウスの横隔膜筋は、対照マウスと区別することができず、DNM2が減少すれば、XLCNMの表現型は幅広く改善することを裏付けた。
【0103】
  筋肉特異的なDNM2の減少は、Mtm1-/yマウスの表現型を回復させ、また寿命を改善するのに十分である。本研究では、すべての組織について子宮内DNM2発現量を低減することにより、Mtm1-/yマウスの寿命、及び疾患のほとんどの臨床的及び組織学的特徴を完全に回復させることができた。筋肉表現型の回復が細胞自律的であるか試験するために、ヒト骨格筋α-アクチン(HSA)-Cre及びHSA Cre-ER
T2マウスを入手し(Schuler, M.ら、2005. Temporally controlled targeted somatic mutagenesis in skeletal muscles of the mouse. Genesis 41:165-170)、これらのマウスとLoxP配列が導入されたDnm2マウスとの交配により、Dnm2
skm+/-(Cre陽性)及びDnm2
(i)skm+/-(Cre-ER
T2)異型接合マウスを生み出した。これらのマウスを、次に、このようなバックグラウンドにおいて組織固有のDNM2の切り出しを生成するために、Mtm1-/yマウスと交配させた。DNM2発現量が筋肉で低下したとき(Mtm1-/yDnm2
skm+/-、9 d.p.c.から活性なHASプロモーター(Miniou, P.ら、1999. Gene targeting restricted to mouse striated muscle lineage. Nucleic Acids Res 27:e27))、Mtm1-/yDnm2
skm+/-マウスの寿命は増加し、75%のマウスが少なくとも16週まで生存し、一方、Mtm1-/yマウスは、Mtm1-/yDnm2+/-マウスから得られた結果(
図2A)と整合して、この年齢まで生存するものはなかった(
図8A)。4 WT及び4 Mtm1-/y Dnm2
skm+/-のマウスのコホートは、その後の長期解析においても継続して生存し、そしてすべてのマウスは、現在9〜12月齢である。対応する体重増加も、Mtm1-/yマウスと比較してMtm1-/yDnm2
skm+/-マウスに認められた(
図8B)。Mtm1-/yDnm2
skm+/-マウスとWTマウスの間で、腓腹筋又はヒラメ筋の質量に差異は認められなかった(
図8C)。16週齢のとき、すべてのMtm1-/y同腹子が死亡した際に、Mtm1-/yDnm2
skm+/-マウスのTA筋は、筋萎縮を若干示し、WT同腹子と比較して筋肉質量及び線維サイズに減少が認められたが、これは、16週齢Mtm1-/yDnm2+/-マウス由来のTA筋と類似して、中心核及び内核の増加、及び若干のSDH染色異常(
図8D〜
図8F)と関連した(
図2)。これらの変化は、8週齢のMtm1-/yマウスに認められた変化ほど顕著ではなかった。重要なこととして、WTマウスと比較して、腓腹筋及びヒラメ筋では、線維サイズ又は核の位置に有意差は認められず(
図18A〜
図18D)、筋肉が異なれば、表現型の回復も異なることを示唆する。DNM2タンパク質濃度を、16週齢のときに、異なる筋肉について測定し、WTと比較して、横隔膜内のDNM2発現量に有意な減少を認めたが、測定したその他の筋肉では認めなかった(
図8G、
図S9E〜
図S9H)。より若年の時点において、DNM2は上記筋肉内で増加しているが、そのレベルを比較するためのMtm1-/yマウスは、この年齢では入手不能であった(
図2)。横隔膜は、呼吸に必要な極めて重要な筋肉であるので、横隔膜におけるDNM2発現量の減少は、Mtm1-/yDnm2
skm+/-マウスの生存率向上において重要と考えられる。Mtm1-/yマウスの横隔膜筋内のDNM2発現量減少は、XLCNMの回復にとって重要と思われる。
【0104】
  出生後、筋肉特異的にDNM2が減少すれば、Mtm1-/yマウスの救済に十分となる。Mtm1-/yマウスを、HSA-Cre ER
T2システムの下でDnm2+/-マウスと交配させ、タモキシフェン注射により誘発された出生後、筋肉内DNM2の切り出しを可能にした(Schuler, M.ら、2005. Temporally controlled targeted somatic mutagenesis in skeletal muscles of the mouse. Genesis 41:165〜170頁)。重要なこととして、筋萎縮様の症状(
図2)及び核の中心偏在化が発現した後、マウスが3週齢のときにタモキシフェン注射を実施した(Al-Qusairi, L.ら、2009. Proc Natl Acad Sci U S A 106:18763〜18768頁)。注射したMtm1-/yDnm2
(i)skm+/-マウスの70%が、少なくとも16週齢まで生存した(
図9A)。Mtm1-/yマウスと比較して、高めの体重を認めたものの、16週齢のとき、体重は、WTマウスと比較して、それよりもなお有意に低かった(
図9B)。初期の時点におけるMtm1-/yマウスとは異なり(
図2)、16週齢のWTマウスと比較して、腓腹筋、ヒラメ筋、又はTA筋の標準化後の質量に差異を認めなかった(
図9C)。Mtm1-/yDnm2
(i)skm+/-マウス由来のTA筋について更に分析を行い、中心核及び内核の増加、及びSDH染色異常(
図9D、
図9F)と関連した線維発育不全を若干示した筋肉(
図9D、
図9E)が明らかとなり、16週齢Mtm1-/yDnm2+/-由来のTA筋と類似した(
図3)。DNM2タンパク質発現量の減少が、WTマウスと比較して、16週齢のMtm1-/yDnm2
(i)skm+/-マウスに由来する腓腹筋に認められたが、DNM2タンパク質の発現量増加が、TA筋及び横隔膜筋に認められた(
図9G、
図S10)。これらの差異は、Creリコンビナーゼをタモキシフェンの媒介により活性化した際に、DNM2の切り出しの効率に相違が生じたことに起因し得る。16週齢における横隔膜内のDNM2発現量増加は、8〜16週齢のMtm1-/yDnm2
(i)skm+/-マウスの生存率低下と相関し得る。従って、出生後、Mtm1-/yに罹患したときの年齢において、筋肉内DNM2レベルが減少すれば、Mtm1-/yマウスに認められた寿命及びCNM表現型を改善するのに十分である、と結論付けることができる。
【0105】
(実施例2)
  材料及び方法は、実施例1で用いられたものと同一、又は同等である。
【0106】
  Bin1-/-マウスは、ARCNMに関するマウスモデルであり、出生後、24時間を超えて生存しない。下記のTable 1(表2)は、異なる遺伝子型を有するマウスについて得られた結果を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
  DNM2を下方制御すれば、ARCNMのマウスモデル(Bin1-/-マウス)の表現型は有意に改善し得る、という説明として、Bin1-/-マウス内のダイナミン2が50%減少すると、早期の死亡を効果的に救済することができ、Bin1-/-Dnm2+/-マウスは、少なくとも12ヶ月間生存できるようになるが(
図20)、そのようなマウスは、正常に近い体重(
図20)、及び正常な比筋力、疲労に対する抵抗性、及び筋力、及び調整挙動(
図21-1、
図21-2)を有することが挙げられる。組織学的検査及び定量より、Bin1-/-Dnm2+/-の筋肉では、再生過剰の兆候を呈することなく、少なくとも12月齢まで線維形状及びサイズは正常であり、正常な酸化染色、及び中心核の若干の増加を認める(
図22〜
図23)ことが明らかである。
【0109】
  従って、DNM2の減少は、マウスのCNM(Mtm1-/yマウスのXLCNM、及びBin1-/-マウスのARCNM)のいくつかの形態を有意に改善し得る。
【0110】
(実施例3):
材料及び方法
AAVの生成及び精製:
  AAV-293細胞系を、CMVプロモーターの制御下にあり、また血清型2末端逆位反復と隣接するインサートを含有するpAAV2インサート、AAV血清型9のrep遺伝子とcap遺伝子を含有するpXR1、及びアデノウイルスヘルパー機能をコードするpHelperで三重にトランスフェクトすることにより、AAV2/9ベクターを作製した。細胞溶解物について、凍結/解凍サイクルを3回実施し、次に50U/mLのBenzonase(Sigma社)で、37℃において30分間処理し、そして遠心分離により清透化した。イオジキサノール勾配超遠心分離と、その後の遠心式フィルター(Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Devices 30K、Millipore社、Bedford)を用いて、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水に対して行われた透析及び濃縮により、ウイルスベクターを精製した。プラスミド標準pAAV-eGFPを用いて、リアルタイムPCRにより、物理的粒子を定量化し、そして力価を、1ミリリットル当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表す。この実験で用いられたrAAV力価は5〜7×10
11 vg/mLであった。
【0111】
マウスの野生型前脛骨筋(T.A)及び腓腹筋のAAV形質導入:
  3週齢、オス、野生型、129PASマウスを、5μl/gのケタミン(20mg/mL; Virbac社、Carros、フランス)及びキシラジン(0.4%、Rompun; Bayer社、Wuppertal、ドイツ)をi.p.注射することにより麻酔した。左脚筋肉に25μlのAAV2/9 shDnm2 N°Cを注射し、一方、右脚筋肉には、同量のスクランブル化したAAV2/9を注射した。動物を、12:12時間の明光/暗光サイクルで、温度管理された(19〜22℃)に収容した。動物実験法に関する国内及び欧州の法令に基づき、CO
2吸入後の頸椎脱臼により、マウスを絶命せしめた。TA筋及び腓腹筋を、注射後、5週間経過して切除、秤量し、これを組織学用として、窒素冷却イソペンタン中及び液体窒素中で凍結した。
【0112】
組織学評価:
  8μm横断面を、調製、固定化し、そしてH&E(ヘマトキシリン及びエオシン)で染色した。線維サイズを、ソフトウェアFijiを用いてH&E断面から分析した。核が中心に偏在化した又は内部に移行したTA筋肉線維の割合(%)を、Fiji画像解析ソフトウェア内の細胞カウンタープラグインを用いて計測した。線維面積を、Fijiソフトウェアを用いて測定した。サンプル毎に、線維800本を超えるものについて計測及び測定した。
【0113】
細胞トランスフェクション:
  Thermo Fisher Scientific社から購入したlipofectamine 2000を用いて、HEK(ヒト胚腎臓)細胞を、shDnm2をコードするプラスミドと筋肉特異的アイソフォームhDNM2(ヒト(humain)DNM2)をコードするプラスミドで同時トランスフェクトした。Lonza社から購入したAmaxaキットV細胞系Nucleofector(商標)を用いて、C2C12マウス筋芽細胞を、shDnm2をコードするプラスミドでエレクトロポレーションした。
【0114】
  Table 2(表3): DNM2遺伝子に対するshRNAに関する配列及びオフターゲットの可能性。
ダイナミン2 mRNAのエクソン12bは下記の配列:
配列番号30:5' ctgttactat actgagcagc tggtgacctg 3'
を有するか、又はコード後のタンパク質配列である配列番号31:(Cys Tyr Tyr Thr Glu Gln Leu Val Thr Cys)に対応する。
【0115】
  標的DNM2配列は、マウスDnm2及びヒトDNM2に対して完全に相同である。80%より高い相同性を有するオフターゲット遺伝子は認められず、オフターゲットの効果的な下方制御は不可能である。
【0116】
【表3】
【0117】
結果(
図24〜
図30)
  -  DNM2配列を特異的に標的とするshRNAの例(
図24)、及びトランスフェクトされたHEK細胞(
図25)、トランスフェクトされたC2C12マウス筋芽細胞(
図26)、DNM2を標的とするshRNA(
図27; AAGGACATGATCCTGCAGTTCAT:配列C又は配列番号2)を発現するAAVを注射した野生型マウスの前脛骨筋内のダイナミン2レベルを効果的に低減し得る例。
【0118】
  -  DNM2を標的とするshRNA(AAGGACATGATCCTGCAGTTCAT-配列C又は配列番号2)を発現するAAVを前脛骨筋(TA)及び腓腹筋に注射した後、5週間経過したときの、XLCNMに関するMtm1-/y KOマウスモデルにおける表現型改善の例:対照のスクランブル化shRNAの注射と比較して、DNM2を標的とするshRNAは、注射した筋肉の質量(
図28)、一般組織学(
図29)を改善し、定性的及び定量的評価において線維サイズを増大させ(
図29及び
図30)、及び核の位置を改善する(
図30)。