(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641318
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】点検装置及びエレベーター
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20200127BHJP
B66B 7/00 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
B66B5/00 D
B66B7/00 F
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-61774(P2017-61774)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162155(P2018-162155A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼太
(72)【発明者】
【氏名】早田 晃英
(72)【発明者】
【氏名】横溝 大樹
【審査官】
有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−012931(JP,A)
【文献】
特開2016−169578(JP,A)
【文献】
特開2013−018636(JP,A)
【文献】
特開2006−290597(JP,A)
【文献】
特開2001−247274(JP,A)
【文献】
特開2004−175549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00─ 5/28
B66B 7/00─ 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震による揺れを抑制する免震装置を介して支持された免震構造体から昇降路が吊下げられている吊下げ免震建築体の前記昇降路内を乗りかごが昇降するエレベーターの点検装置であって、
前記昇降路のピット床に固定されたピット床側点検台と、
前記免震装置を介さず支持された非免震構造体の躯体壁に固定された点検台固定部に取り付けられた躯体壁側点検台と、を有し、
地震の揺れを感知する地震感知器は、
前記躯体壁側点検台の上方の、前記昇降路と対面する前記躯体壁に固定されており、かつ、
前記躯体壁側点検台は、
前記ピット床側点検台の上方に配置されていることを特徴とする点検装置。
【請求項2】
前記ピット床側点検台は、
前記ピット床から前記躯体壁側点検台に向けて地震時最大ストローク分突出させた構成であり、
前記躯体壁側点検台は、
前記ピット床側点検台に対して地震時最大ストローク分上に重なるように前記躯体壁に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の点検装置。
【請求項3】
前記躯体壁側点検台と前記ピット床側点検台との間の隙間を調整するための高さ調整部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の点検装置。
【請求項4】
前記高さ調整部は、
前記点検台固定部に設けた穴と、前記躯体壁側点検台に設けた縦方向の長穴とに、前記躯体壁側点検台側からボルトを通し、前記点検台固定部側でナットを締めることにより、固定されたことを特徴とする請求項3に記載の点検装置。
【請求項5】
前記点検台固定部と前記躯体壁側点検台とを固定するボルトは、前記躯体壁側点検台に設けた長穴の最下部で固定されたことを特徴とする請求項4に記載の点検装置。
【請求項6】
前記点検装置は、
前記躯体壁に上下に各々設けた上側手摺り及び下側手摺りを有し、
前記上側手摺と前記下側手摺とは、
前記躯体壁側点検台の上方、かつ前記躯体壁から前記昇降路へ突出させるように配置し、前記躯体壁に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の点検装置。
【請求項7】
前記躯体壁側点検台は、
地震発生時の揺れにより前記躯体壁側点検台と干渉するおそれがある前記躯体壁側点検台の部分に、前記地震発生時の最大ストローク範囲分に亘り、切り欠き部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の点検装置。
【請求項8】
前記地震感知器は、
乗りかごの出入口の反対側、かつ、調速機の反対側の前記躯体壁に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の点検装置。
【請求項9】
地震による揺れを抑制する免震装置を介して支持された免震構造体から昇降路が吊下げられている吊下げ免震建築体の前記昇降路内を乗りかごが昇降するエレベーターであって、
前記昇降路のピット床に固定されたピット床側点検台、及び、前記免震装置を介さず支持された非免震構造体の躯体壁に固定された点検台固定部に取り付けられた躯体壁側点検台とを有する点検装置と、を備え、
地震の揺れを感知する地震感知器は、
前記躯体壁側点検台の上方の、前記昇降路と対面する前記躯体壁に固定されており、かつ、
前記躯体壁側点検台は、
前記ピット床側点検台の上方に配置されていることを特徴とするエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点検装置及びエレベーターに関し、特に、地震の揺れを感知する地震感知器を含む点検装置及びエレベーターに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、簡易に構成されて建築体に容易に構築できる乗降通路によって,昇降路出入口と基部出入口が不具合を生じることなく接続されたエレベーターとして,免震建築用エレベーターが存在している(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−171429号公報(例えば第37図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のエレベーターでは、地震感知器が昇降路壁またはピット床上に設置されている。例えばピット吊下げ型でありかつ鉄骨構造である場合に地震感知器をピット床上に設置すると、最下階付近での荷物搬入時や乗込み時の振動が昇降路壁からピット床に伝わるため、地震以外の振動をも誤って感知してしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、地震以外の揺動の感知を防ぐために地震感知器を躯体壁に設置することを検討する。このように躯体壁に地震感知器を設置するには、施工保全作業を実施するためには躯体壁と昇降路との隙間を塞ぐ必要がある。これに対し、上述したように特許文献1には、簡易に構成されて建築体に容易に構築可能な乗降通路によって、昇降路出入口と基部出入口とが不具合を生じることなく接続されたエレベーターが記載されている。
【0006】
しかしながら、従来のエレベーターでは、乗降通路自体が経年劣化による建屋及び免震装置の沈みに対応していないため、地震感知器同様に躯体壁に点検装置を設けると、上述した沈みにより点検装置が歪んでしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、建屋と昇降路との高さの変化に対応可能な点検装置及びエレベーターを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、本発明においては、地震による揺れを抑制する免震装置を介して支持された免震構造体から昇降路が吊下げられている吊下げ免震建築体の前記昇降路内を乗りかごが昇降するエレベーターの点検装置であって、前記昇降路のピット床に固定されたピット床側点検台と、前記免震装置を介さず支持された非免震構造体の躯体壁に固定された点検台固定部に取り付けられた躯体壁側点検台と、を有し、地震の揺れを感知する地震感知器は、前記昇降路と対面する前記躯体壁に固定されており、かつ、前記躯体壁側点検台は、前記ピット床側点検台の上方に配置されていることを特徴とする。
【0009】
また本発明においては、地震による揺れを抑制する免震装置を介して支持された免震構造体から昇降路が吊下げられている吊下げ免震建築体の前記昇降路内を乗りかごが昇降するエレベーターであって、前記昇降路のピット床に固定されたピット床側点検台、及び、前記免震装置を介さず支持された非免震構造体の躯体壁に固定された点検台固定部に取り付けられた躯体壁側点検台とを有する点検装置と、を備え、地震の揺れを感知する地震感知器は、前記昇降路と対面する前記躯体壁に固定されており、かつ、前記躯体壁側点検台は、前記ピット床側点検台の上方に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、建屋と昇降路との高さの変化に対応可能な点検装置及びエレベーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態によるエレベーターの概略構成の一例を示す部分断面図である。
【
図2】本実施の形態による点検装置の構成を示す概略図である。
【
図3】本実施の形態による点検装置の構成を示す断面図である。
【
図4】本実施の形態による点検装置の構成を示す正面図である。
【
図5】平常時より躯体壁とピット床間が近づいた時の本実施の形態による点検装置の構成を示す断面図である。
【
図6】平常時より躯体壁とピット床間が広がった時の本実施の形態による点検装置の構成を示す断面図である。
【
図7】本実施の形態による点検装置の点検台固定部を拡大した断面図である。
【
図8】建屋歪み時の本実施の形態による点検装置を拡大した断面図である。
【
図9】建屋歪み時に本実施の形態による点検装置の高さ調整を行った拡大断面図である。
【
図10】本実施の形態による点検装置とピット上機器で距離を確保できなかった時の点検装置形状を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面について、本発明の一実施の形態について詳述する。
【0013】
(1)本実施の形態による点検装置を備えるエレベーターの構成
図1は、本実施の形態によるエレベーターの構成例を示す概略側面図である。このエレベーターでは、いわゆるピット吊下げ型かつ鉄骨構造が採用されている。図示のエレベーターは、建屋1の機械室2に設置されている駆動装置3にロープ4を介して乗りかご5とつり合いおもり6とを連結し、いわゆるつるべ式に昇降させる構造となっている。
【0014】
上述したピット吊下げ型構造は、地震の揺れを抑制する免震装置7を介して支持された免震構造体である建屋1と、免震装置7を介さずに支持された非免震体とを有する。このピット吊下げ型構造では、乗りかご5とつり合いおもり6が昇降する昇降路が免震構造体の建屋1から吊下げられている吊下げ免震建築体を備えた構造が採用されている。この際、免震構造体の建屋1に吊下げられたピット床9と対面する非免震の壁を「躯体壁」と呼ぶ。この躯体壁は、図示の躯体壁8に相当する。この躯体壁8には後述する地震感知器が設けられているが、図面の向きの関係上、この地震感知器は
図1において図示されていない。
【0015】
図2は、本実施の形態による点検装置10の構成例を表す上面概要図である。ピット床9の上には、乗りかご5またはつり合いおもり6が不具合により落下した際における衝撃を和らげる緩衝器12、ピット床9を建屋1から吊下げているピット梁13、乗りかご5の異常速度を検知する調速機14、乗りかご5及びつり合いおもり6が走行するレール15、並びに、緩衝器12及びレール15を支えるためのビーム11が設けられている。
【0016】
地震感知器17は、乗りかご出入口の反対側、かつ調速機14の反対側の昇降路と対面する非免震構造体の一部である躯体壁8にアンカーボルトで固定され、地震の揺れを感知する。点検装置10は、地震感知器17の正面に設置される。このように配置することで、乗場戸シルからの落下物が衝突することにより地震感知器17が誤作動することを防止するとともに、メンテナンスの安全性を確保することができる。
【0017】
ただし、そのような配置では、躯体壁側点検台21とピット壁またはピット床9上の機器(以下「ピット床上機器」と呼ぶ)との距離として地震時における最大ストロークS分確保することができない場合、地震が発生した際に、躯体壁側点検台21とピット壁またはピット床上機器と干渉するおそれがあるため、点検装置10を設置できない。このように点検装置10を設置できない場合、
図3のように干渉するおそれがある対象物の地震時最大ストロークSの範囲について躯体壁側点検台21に切り欠き部(
図3に示すストロークS分切り欠かれた躯体壁側点検台21の一部)を形成するようにする。これにより、このような切り欠き部を備える点検装置10’は、そのような対象物との干渉を防止しつつ使用可能となり、より正確に点検を実施することができるようになる。なお、以下の説明では、主として点検装置10(
図2参照)について説明する。
【0018】
図4は、点検装置10の構成例を示す側面断面図である。ピット床側点検台22は、幅木23の上に乗るように折り曲げられたプレートであり、ピット床9にアンカーボルトで固定される。
【0019】
一方、躯体壁側点検台21は、ピット床側点検台22の上面方向に配置しており、躯体壁8にアンカーボルトで固定された点検台固定部20に対してボルトで固定される。このように点検台を躯体壁側点検台21とピット床側点検台22との分割構造にすることにより、地震が発生して躯体壁8とピット床9との間の距離が変位しても、それぞれの点検台(躯体壁側点検台21及びピット床側点検台22)が互いに地震発生時の最大ストロークS分スライド可能であるため、全体として点検装置10が干渉により壊れることを防止することができる。
【0020】
(2)躯体壁がピット床に近接/離間した時の点検装置
図5は、ピット床9が躯体壁8に近づいた際の構成例を示す一方、
図6は、ピット床9が躯体壁8から離れた際の構成例を示す。上側手摺18及び下側手摺19は、躯体壁側点検台21の上方、かつ躯体壁8から昇降路へ突出させるように配置された状態で躯体壁8に固定されている。これにより、点検実施時に地震などが発生した場合でも、作業員自身の落下することを抑制可能となる。
【0021】
さらにピット床側点検台22は、ピット床9から躯体壁側点検台21に向かって地震時最大ストロークS分突出させてピット床9に固定される一方、躯体壁側点検台21は、ピット床側点検台22に地震時最大ストロークS分上に重なるように躯体壁8に固定される。これにより、地震が発生した場合でも、相互の点検台間に隙間ができないため、点検装置10から物が落下することを抑制することができる。また、このように物だけでなく、作業員自身が落下したりピット床側点検台と躯体壁側点検台との間の挟まれたりすることを抑制することができる。
【0022】
(3)高さ調整部
次に、高さ調整部24について
図7〜
図10を用いて説明する。
図7に示す躯体壁側点検台21には、高さ調整部24が設けられている。高さ調整部24は、建屋1または免震装置7の沈みにより鉛直方向において躯体壁側点検台21とピット床側点検台22との間に隙間が生じてしまった際に、躯体壁側点検台21とピット床側点検台22との間の隙間を低減するために設けられている。
【0023】
具体的な構造については、点検台固定部20を拡大した
図8を用いて説明する。高さ調整部24は、点検台固定部20に設けた穴と躯体壁側点検台21に設けた上下方向の長穴に躯体壁側点検台側からボルトを通すとともに点検台固定部側からナットを締めることにより、躯体壁8に対して固定される。
【0024】
なお、点検台固定部20と躯体壁側点検台21とを固定するボルトの位置としては、躯体壁側点検台21に設けた長穴の最下部でボルトを固定することにより、躯体壁側点検台21の調整代を一番確保できる。このため、施工時は長穴の最下部でボルト締めが実施される。
【0025】
図9に示すように鉛直方向において躯体壁側点検台21とピット床側点検台22との間に隙間が生じた場合は、上述した固定用のボルトを緩め、躯体壁側点検台21を下げて高さを調整することにより、
図10に示すように建屋1及び免震装置7の少なくとも一方の沈みに対応することができる。
【0026】
(4)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態では、地震感知器17が、昇降路と対面する非免震構造体の躯体壁8に固定されており、かつ、躯体壁側点検台21が、ピット床側点検台22の上方に配置されている。このようにすると、地震感知器17が躯体壁8に固定されているため地震以外の揺動が地震感知器17によって誤って感知されることを防ぎつつ、経年劣化による建屋1及び免震装置7の少なくとも一方に沈みが発生した場合でも躯体壁側点検台21がピット床側点検台22に当接せしなくなり建屋1と昇降路との高さの変化に対応することができる。
【0027】
(5)その他の実施形態
上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。例えば、上述した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に必要に応じて他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成を追加、削除、置換することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、地震による揺れを抑制する免震装置を介して支持された免震構造体と、免震装置を介さず支持された非免震構造体とを備える点検装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1……建屋、2……機械室、3……駆動装置、4……ロープ、5……乗りかご、6……つり合いおもり、7……免震装置、8……躯体壁、9……ピット床、10……点検装置、10’……切り欠き部を備える点検装置、11……ビーム、12……緩衝器、13……ピット梁、14……調速機、15……レール、16……乗りかごのピット床への投影面、17……地震感知器、18……上側手摺、19……下側手摺、20……点検台固定部、21……躯体壁側点検台、22……ピット床側点検台、23……幅木、24……高さ調整部、S……地震時最大ストローク。