(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同期して昇降する複数のリフトアームのそれぞれに備えた車両支持部によって車両を支持するリフト作業を行ない、各リフトアームの車両支持部のそれぞれに荷重センサを設け、
各荷重センサの検出荷重の相互間の非均衡度が一定の異常非均衡度以上に達したことに基づいて、各リフトアームによる車両のリフト状態が異常事態にあるものと判定する制御手段を有してなる車両整備用リフトであって、
前記制御手段は、
複数のリフトアームのうちの少なくとも1つのリフトアームの荷重センサが最先にリフト荷重を検出した時点から、全てのリフトアームの車両支持部が車両を支持するに至るであろうと想定されるまでの各リフトアームの上昇高さ範囲を不感帯高さとして定め、
各リフトアームの昇降位置が上記の不感帯高さを越えた位置にあるときに、全てのリフトアームの車両支持部が車両を支持するに至ったものと推定し、各リフトアームによる車両のリフト状態が前記の異常事態にあるか否かの判定を行なう車両整備用リフト。
前記制御手段は、各リフトアームによる車両のリフト作業中にそのリフト状態が前記の異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアームの昇降を停止する請求項1に記載の車両整備用リフト。
前記制御手段は、各リフトアームの昇降位置が前記の不感帯高さを越えた位置にあり、かつ各リフトアームの昇降の停止中に、各リフトアームによる車両のリフト状態が前記の異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアームを特殊操作のみによって下降できるようにする請求項1に記載の車両整備用リフト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の実証実験によれば、従来の車両整備用リフトにおける異常検出装置では、各リフトアームによる車両のリフト状態が実使用において異常事態ではない状態であっても、各リフトアームによる車両のリフト荷重が異常非均衡状態にあってそのリフト状態が異常事態にあるものと判定する頻度が高く、作業者はその度に車両のリフトアップを中止して該車両を一旦整備場の床面に戻し、各リフトアームの受金具を車両の各リフトポイントに正しく当てる調整作業を行ない、再び車両をリフトアップしてそのリフト状態の異常判定作業を徒らに繰り返す必要がある。
【0007】
各リフトアームの受金具を車両の各リフトポイントに正しく当てる上述の調整作業は、車両の下面を覗き込んで行なうきつい作業姿勢で、各リフトアームの受金具を車両の下面の各リフトポイントに位置合せするように各リフトアームを旋回、伸縮移動させたり、各リフトアームの受金具を対応するリフトポイントに隙間なく当てるように上下動し、当該受金具の当該リフトアームに対する設定高さを微妙に調整する等を必要とし、熟練者でも困難であって、車両整備の作業効率を著しく低下させる。
【0008】
本発明の課題は、車両整備用リフトにおいて、各リフトアームに支持された車両のリフト荷重が異常非均衡状態にあってそのリフト状態が異常事態にあるか否かを合理的に判定し、車両整備の作業効率を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、同期して昇降する複数のリフトアームのそれぞれに備えた車両支持部によって車両を支持するリフト作業を行ない、各リフトアームの車両支持部のそれぞれに荷重センサを設け、各荷重センサの検出荷重の相互間の非均衡度が一定の異常非均衡度以上に達したことに基づいて、各リフトアームによる車両のリフト状態が異常事態にあるものと判定する制御手段を有してなる車両整備用リフトであって、前記制御手段は、複数のリフトアームのうちの少なくとも1つのリフトアームの荷重センサが最先にリフト荷重を検出した時点から、全てのリフトアームの車両支持部が車両を支持するに至るであろうと想定されるまでの各リフトアームの上昇高さの範囲を不感帯高さとして定め、各リフトアームの昇降位置が上記の不感帯高さを越えた位置にあるときに、全てのリフトアームの車両支持部が車両を支持するに至ったものと推定し、各リフトアームによる車両のリフト状態が前記の異常事態にあるか否かの判定を行なうようにしたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記制御手段は、各リフトアームによる車両のリフト作業中にそのリフト状態が前記の異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアームの昇降を停止するようにしたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記制御手段は、各リフトアームの昇降位置が前記の不感帯高さを越えた位置にあり、かつ各リフトアームの昇降の停止中に、各リフトアームによる車両のリフト状態が前記の異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアームを特殊操作のみによって下降できるようにしたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに係る発明において更に、前記制御手段は、各リフトアームの不感帯高さを30mm乃至60mmの範囲内から選ばれた設定値とするようにしたものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに係る発明において更に、前後左右の4個のリフトアームを有し、前記制御手段は、各リフトアームの車両支持部のそれぞれに設けた荷重センサの検出荷重をA乃至Dとするとき、各検出荷重A乃至Dの相互間の非均衡度Fab、Fac、Fbd、Fcdを、
【数1】
によって求めるとともに、前記異常非均衡度を90%以下、より好適には60%以下の範囲内から選ばれた設定値とし、2個以上の上記非均衡度がその設定値以上に達したことに基づいて、各リフトアームによる車両のリフト状態が異常事態にあるものと判定するようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
(請求項1)
(a)複数のリフトアームのうちの少なくとも1つのリフトアームの荷重センサが最先にリフト荷重を検出した時点から、全てのリフトアームの車両支持部が車両を支持するに至るであろうと想定されるまでの各リフトアームの上昇高さを不感帯高さとし、各リフトアームの昇降位置が不感帯高さを越えた位置にあるときに、全てのリフトアームの車両支持部が車両を支持するリフト定常段階に至ったものと推定し、各リフトアームによる車両のリフト状態が異常事態にあるか否かの判定を行なう。
【0015】
これにより、制御手段は、各リフトアームの昇降位置が不感帯高さに至らないときには、各リフトアームが未だ車両に対する前述のリフト過渡段階にあって、各荷重センサの検出荷重の相互間の非均衡度が徒らに一定の異常非均衡度以上となる異常値を示しがちになるものと判断し、そのようなリフト過渡段階の異常値に基づく不合理な異常判定は行なわない。
【0016】
そして、制御手段は、各リフトアームの昇降位置が不感帯高さを越えた位置にあるとき、全てのリフトアームの車両支持部が車両の対応するリフトポイントに当たるリフト定常段階に至ったものと推定し、各荷重センサの検出荷重の非均衡度が一定の異常非均衡度以上に達したか否かを算定し、その算定結果に基づくことにより、各リフトアームに支持された車両のリフト荷重が異常非均衡状態にあってそのリフト状態が異常事態にあるか否かの判定を合理的に行なう。これにより、各リフトアームによる車両のリフト状態が実使用において異常事態ではない状態であっても、各リフトアームによる車両のリフト荷重が異常非均衡状態にあってそのリフト状態が異常事態にあるものと判定される頻度を合理的に低減し、その異常判定の度に車両のリフトアップ/ダウンを繰り返してその異常判定作業を徒らに繰り返すことなく、車両整備の作業効率を向上する。
【0017】
(請求項2)
(b)制御手段は、上述(a)により、各リフトアームによる車両のリフト作業中にそのリフト状態が異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアームの昇降を停止する。
【0018】
(請求項3)
(c)制御手段は、各リフトアームの昇降位置が不感帯高さを越えた位置にあり、かつ各リフトアームの昇降の停止中に、上述(a)により、各リフトアームによる車両のリフト状態が異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアームを特殊操作のみによって下降できるようにする。
【0019】
(請求項4)
(d)制御手段は、各リフトアームの昇降位置の不感帯高さを30mm乃至60mmの範囲内から選ばれた設定値とする。これにより、制御手段は、リフトアップされた車両の異常非均衡状態を合理的に判定するものになる。
【0020】
(請求項5)
(e)車両整備用リフトが前後左右の4個のリフトアームを有するとき、制御手段は、各リフトアームの車両支持部のそれぞれに設けた荷重センサの検出荷重A乃至Dの相互間の非均衡度Fab乃至Fcdのうち、2個以上のFab乃至Fcdが90%以下、より好適には60%以下の範囲内から選ばれて設定された異常非均衡度以上に達したとき、各リフトアームによる車両のリフト状態が異常事態にあるものと判定する。これにより、制御手段は、リフトアップされた車両を手で押したときに車両が揺れてしまうような異常非均衡状態を合理的に判定するものになる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
車両整備用リフト10は、例えば
図1に示す如くの2柱式リフト(他の形式のリフトでも可)であり、整備場の床面11上に設置され、左右2本の支柱12、12を床面11上のリフト作業領域13の両側に所定の間隔を介して立設している。両支柱12、12は、連結ビーム14で連結された門型をなす。
【0023】
リフト10は、各支柱12のそれぞれに互いに同期的に昇降せしめられる左右の昇降体15L、15Rを装備し、各昇降体15L、15Rの前部に左右のリフトアーム16A、16Bを設け、各昇降体15L、15Rの後部に左右のリフトアーム16C、16Dを設けている。各リフトアーム16A乃至16Dは、各昇降体15L、15Rとともに同期して昇降可能とされ、水平面内で旋回可能に各昇降体15L、15Rに支持されるとともに、それらの軸方向で伸縮できる。
【0024】
各リフトアーム16A乃至16Dは、
図2に示す如く、それらの先端部のそれぞれに車両支持部20A乃至20Dを備える。各リフトアーム16A乃至16Dは、それらの水平面内での旋回及び伸縮によって各車両支持部20A乃至20Dを車両1の下面の対応するリフトポイント2A乃至2D(
図5)に位置合わせしてから、各昇降体15L、15Rに同期して上昇してそれらの各車両支持部20A乃至20Dの後述する受金具23をそれらの各リフトポイント2A乃至2Dに当てて該車両1を支持しつつ、該車両1を整備場の床面11からリフトアップする。
【0025】
各車両支持部20A乃至20Dは、
図3に示す如く、外ブッシュ21、内ブッシュ22、受金具23を有して構成されるとともに、荷重センサ24(24A乃至24D)を設けて構成される。外ブッシュ21は、各リフトアーム16A乃至16Dの先端部に備えた嵌合孔16Hに嵌合され、上フランジ部21Fが各リフトアーム16A乃至16Dにおける嵌合孔16Hまわりの上面に支持された状態で、ブッシュ固定ピン25によって各リフトアーム16A乃至16Dに固定される。外ブッシュ21は、内ブッシュ22が上下動自由に嵌合される嵌合孔21Hを備え、この嵌合孔21Hの底部に荷重センサ24を固定的に配置して備える。内ブッシュ22は、外ブッシュ21の嵌合孔21Hに上下動自由に嵌合され、外ブッシュ21の底部に配置されている荷重センサ24の上に載架され、受金具23が嵌合される嵌合孔22Hを備える。受金具23は、内ブッシュ22の嵌合孔22Hに嵌合され、上フランジ部23Fが内ブッシュ22における嵌合孔22Hまわりの上面に支持された状態で、外ブッシュ21に固定される受金具固定ピン26の先端突部が該受金23の側面孔23Hに一定のガタを介して遊挿され、結果として、外ブッシュ21に対し若干上下方向に相対移動可能に保持される。内ブッシュ22は、外ブッシュ21の底部に配置された荷重センサ24と受金具23とに挟まれる。受金具23は、内ブッシュ22を介して荷重センサ24に載架されるものになる。受金具23は、受金ゴム部23Aのねじ部23Bを上下方向に螺動操作可能に螺着されて該受金ゴム部23Aを備え、車両1の対応する各リフトポイント2A乃至2Dへの位置合せに際し、各リフトアーム16A乃至16Dに対する受金ゴム部23Aの設定高さを調整して当該受金ゴム部23Aを車両1の対応する各リフトポイント2A乃至2Dに隙間なく当て、又は小隙間を介するように当該受金ゴム部23Aを上下動可能にする。各車両支持部20A乃至20Dの受金具23がそれらの各リフトポイント2A乃至2Dに当たって車両1をリフトアップしたとき、各受金具23に作用する車両1のリフト荷重A乃至Dが各荷重センサ24(24A乃至24D)によって検出されるものになる(
図5)。
【0026】
リフト10は、
図4に示した制御手段30により、各昇降体15L、15R及び各リフトアーム16A乃至16Dを昇降動作させる。
【0027】
制御手段30は、操作部40として、押しボタン式の上昇ボタン41Uと下降ボタン41Dを備えた通常操作スイッチ41を有する。
【0028】
作業者による通常操作スイッチ41の上昇ボタン41Uのオン操作が制御手段30に伝達されると、制御手段30は上昇ボタン41Uのオン操作に起因する上昇動作信号を上昇ボタン41Uのオン操作のオン状態継続時間と同一時間長に渡って出力し、上昇駆動部51Uの例えば油圧ユニットが備える油圧ポンプを駆動する。これにより、油圧ユニットの油圧ポンプは各昇降体15L、15Rに対応する各油圧シリンダの供給管路に送油してそれらの油圧シリンダを伸長させ、各昇降体15L、15R及び各リフトアーム16A乃至16Dを上昇させる。
【0029】
他方、作業者による通常操作スイッチ41の下降ボタン41Dのオン操作が制御手段30に伝達されると、制御手段30は下降ボタン41Dのオン操作に起因する下降動作信号を下降ボタン41Dのオン操作のオン状態継続時間と同一時間長に渡って出力し、下降駆動部51Dの例えば空圧ユニットが備える下降用電磁弁を駆動する。これにより、空圧ユニットの下降用電磁弁は逃がし弁シリンダを伸長させて逃がし弁の導通路を油圧シリンダの排出管路に挿入し、各リフトアーム16A乃至16Dに作用しているリフト荷重によってそれらの油圧シリンダを収縮させ、各昇降体15L、15R及び各リフトアーム16A乃至16Dを下降させる。
【0030】
制御手段30は、前後左右の各リフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dのそれぞれに設けた各荷重センサ24(24A乃至24D)の検出荷重A乃至Dに相当する検出荷重信号を、各信号増幅アンプ61A乃至61D、A/Dコンバータ62を介して伝達される。
【0031】
制御手段30は、各荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重A乃至Dの相互間の非均衡度Fad乃至Fcdが一定の異常非均衡度K以上に達したことに基づいて、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト荷重が異常非均衡度状態であってそのリフト状態が異常事態にあるものと判定する。異常非均衡度Kは、設定部70によって制御手段30に設定される。
【0032】
制御手段30は、各検出荷重A乃至Dの相互間の非均衡度Fab、Fac、Fbd、Fcdを、例えば、
【数2】
によって求めるとともに、一定の異常非均衡度Kを予め設定されて備える。
【0033】
ここで、異常非均衡度Kを小さな値に定めたときには、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が異常事態にないと判定されるためには、各検出荷重A乃至Dのばらつきが小さく、それらの差(A−B)、(A−C)、(B−D)、(C−D)が小さくてそれらの非均衡度Fab、Fac、Fbd、Fcdが小さくなければならない。ところが、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が実使用において異常事態ではない状態であっても、各車両支持部20A乃至20Dのそれぞれに設けた各荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重A乃至Dはかなりばらついたものになることが実証実験の結果から判明した。
【0034】
そこで、リフト10において、整備場の床面11に対する車両1の停車位置や、車両1の各リフトポイント2A乃至2Dに対する各リフトアーム16A乃至16Dに設けた車両支持部20A乃至20Dの当て方等を変えて行なう多様な実証実験を繰り返した実験結果に基づき、各リフトアーム16A乃至16Dによってリフトアップ状態にある車両1を手で押したときに車両1が揺れ始めてしまうことになる一般的非均衡度を異常非均衡度Kとして定めるものとする。
【0035】
本実施形態では、下記i、iiに基づき、上記異常非均衡度Kを90%以下、より好適には60%以下から選ばれた設定値とし、2個以上の上記非均衡度がその設定値以上に達したことに基づいて、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が異常事態にあるものと判定することとする。
【0036】
i.異常非均衡度Kの設定値を90%以下の範囲内で選ぶ根拠
表1に示した各種の実車両を用いた実証実験の結果、各リフトアーム16A乃至16Dによってリフトアップ状態にある車両1を手で押したときに車両1が揺れてしまうという異常事態の発生が、2個以上の非均衡度Fab乃至Fcdが90%以上に達していたことに基づく。即ち、制御手段30が算出した異常非均衡度Kが90%未満であれば、車両1は実使用において異常事態ではないリフト状態にあるとみることができる。
【0037】
ii.異常非均衡度Kの設定値をより好適には60%以下の範囲内で選ぶ根拠
自動車の安定性に関し、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示[2006.03.27]<第一節>第8条(安定性)では、「空車状態及び積車状態におけるかじ取り車輪の接地部にかかる荷重の総和が、それぞれ車両重量及び車両総重量の20%(三輪自動車にあっては18%)以上であること。」としている。従って、そのような保安基準の適用下にある車両1についてみるとき、前輪駆動車又は後輪駆動車のいずれであっても、それらの車両1の前輪側と後輪側の荷重バランスはその非均衡度が高めでも80%対20%であり、このような車両1を前側のリフトアーム16A、16Bと後側のリフトアーム16C、16Dでリフトアップしたときの前側の荷重センサ24A、24Bと後側の荷重センサ24C、24Dの検出荷重A、Bと検出荷重C、Dの相互間の非均衡度Fac、Fbdはそれぞれ60%となる。即ち、上述の保安基準の適用下で生産された車両1についてみるとき、制御手段30に設定される異常非均衡度Kは60%を越えるべきではなく、その異常非均衡度Kが60%未満であれば、車両1は安定したリフト状態にあって、より確実に、異常事態ではないリフト状態にあるとみることができる。
【0039】
制御手段30の給電カット等によって、制御手段30に設定されている異常非均衡度Kが、リフト10の製作工場からの出荷時に設定した当初設定値(例えば90%以下、又は60%以下等)の範囲外の異常値となったような場合には、制御手段30はその異常非均衡度Kを強制的に当初設定値に補正して上述の異常判定を行なう。
【0040】
但し、この異常非均衡度Kの設定値は、車両1の下面形状や整備場の床面11の歪み等によって、例えば90%以下、又は60%以下等の当初設定値以外の適宜な値に設定替えされ、実使用において異常事態ではないリフト状態を異常事態と判定してリフト作業効率を徒らに損なうことを回避する。
【0041】
また、本発明者の知見によれば、複数のリフトアーム16A乃至16Dのうちの少なくとも1つのリフトアーム16A乃至16Dの荷重センサ24A乃至24Dが最先にリフト荷重A乃至Dを検出した時点から、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1を支持するに至るまでには、各リフトアーム16A乃至16Dが一定高さ範囲(不感帯高さHに相当する)以上上昇する必要がある。
【0042】
これは、車両1の下面形状や整備場の床面11の歪み等により、車両1の各リフトポイント2A乃至2Dが、概ね同一面上にあるように製作されている各リフトアーム16A乃至16Dに対してなす高さが均等にならないことに起因する。また、車両1の下面形状や整備場の床面11がフラットで、車両1の各リフトポイント2A乃至2Dが各リフトアーム16A乃至16Dに対してなす高さが均等であっても、各リフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dにおける受金ゴム部23Aの設定高さが当該リフトアーム16A乃至16Dに対する設定高さを必ずしも一様にしていないことにも起因する。
【0043】
このような場合には、各リフトアーム16A乃至16Dにより車両1をリフトアップ開始したリフト過渡段階で、各リフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1の下面の各リフトポイント2A乃至2Dに位置合せ済であったとしても、まず1つ又は2つ等の一部のリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dだけが車両1の対応するリフトポイント2A乃至2Dに当たり、その荷重センサ24A乃至24Dが最先にそのリフト荷重A乃至Dを検出する。このリフト過渡段階では、他のリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1の対応するリフトポイント2A乃至2Dに対して未だ隙間を介していて、当該車両支持部20A乃至20Dに設けた荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重は未だ当然にゼロであり、各荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重の相互間の非均衡度は当然に100%近くの大なる異常値を示す。
【0044】
その後、各リフトアーム16A乃至16Dが一定高さ以上に上昇すると、車両1は前述の少なくとも一部のリフトアーム16A乃至16Dによってリフトアップされつつその姿勢を変位せしめられ、他のリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1の対応するリフトポイント2A乃至2Dに当たり、ひいては全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1の対応するリフトポイント2A乃至2Dに当たる定常段階に達するものとなり、それらの荷重センサ24A乃至24Dがそれらのリフト荷重A乃至Dを検出するに至ることとなる蓋然性が高い。
【0045】
そこで、リフト10において、整備場の床面11に対する車両1の停車位置や、車両1の各リフトポイント2A乃至2Dに対する各リフトアーム16A乃至16Dに設けた車両支持部20A乃至20Dの当て方等を変えて行なう多様な実証実験を繰り返した実験結果に基づき、複数のリフトアーム16A乃至16Dのうちの少なくとも1つのリフトアームの荷重センサ24A乃至24Dが最先にリフト荷重A乃至Dを検出した時点から、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1を支持するに至るであろうと想定され得るまでの各リフトアーム16A乃至16Dの上昇高さの一般的範囲を不感帯高さHとして定めるものとする。
【0046】
即ち、制御手段30は、複数のリフトアーム16A乃至16Dのうちの少なくとも1つのリフトアームの荷重センサ24A乃至24Dが最先にリフト荷重A乃至Dを検出した時点から、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1を支持するに至るであろうと想定されるまでの各リフトアーム16A乃至16Dの上昇高さ範囲を不感帯高さHとして定め、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が上記の不感帯高さHを越えた位置にあるときに、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1を支持するに至ったものと推定し、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が前記の異常事態にあるか否かの判定を行なうものとする。不感帯高さHは、設定部70によって制御手段30に設定される。
【0047】
本実施形態では、下記i、iiに基づき、上記不感帯高さHを30mm乃至60mmの範囲内から選ばれた設定値とする。
【0048】
i.不感帯高さHの下限値を30mmとする根拠
表2に示した各種の実車両を用いた実証実験の結果、車両1の下面形状に起因する車両1の前後のリフトポイント(2A、2Bと2C、2D)の高さの不均等量は、最大でも20mmであった。ここで、車両1の下面形状に起因する車両1の左右のリフトポイント(2A、2Cと2B、2D)の高さの不均等量は、当該車両1の前後のリフトポイント(2A、2Bと2C、2D)の高さの不均等量に比して小さい。また、整備場の床面11の施工精度やリフト10の製作精度のばらつきに起因し、車両1の各リフトポイント2A乃至2Dが各リフトアーム16A乃至16Dに対してなす高さの不均等量は、10mm程度である。そこで、不感帯高さHの下限値を20+10=30mmに定める。
【0049】
ii.車両1の下面形状や整備場の床面11の歪み等により、車両1の各リフトポイント2A乃至2Dが各リフトアーム16A乃至16Dに対してなす高さの不均等量は、現実の車両1や整備場によっては必ずしも上述i.の30mmに納まらない場合の出現も考えられる。そこで、リフト作業の過渡段階における不合理な異常判定を排除し、リフト作業効率の確実な向上を図るべく、不感帯高さHの上限値を60mmに定める。
【0051】
制御手段30の給電カット等によって、制御手段30に設定されている不感帯高さHがリフト10の製作工場からの出荷時に設定した当初設定値(30mm乃至60mmの範囲内から選ばれた値)範囲外の異常値となったような場合には、制御手段30はその不感帯高さHを強制的に当初設定値に補正して上述の異常判定を行なう。
【0052】
但し、この不感帯高さHの設定値は、車両1の下面形状や整備場の床面11の歪み等によって、例えば30mm乃至60mmの範囲内で定めた当初設定値以外の適宜な値に設定替えされ、実使用において適切な不感帯高さHを選定してリフト作業効率の向上を図る。
【0053】
このとき、制御手段30は、同期して昇降する各昇降体15L、15R(各リフトアーム16A乃至16D)の昇降位置検出センサ52を付帯して有する。これにより、制御手段30は、上昇駆動部51U及び下降駆動部51Dによる各昇降体15L、15R及び各リフトアーム16A乃至16Dの昇降作業中に、各荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重信号と、昇降位置検出センサ52の検出昇降位置信号を取り込む。そして、制御手段30は、昇降位置検出センサ52が検出した各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が不感帯高さHを越えた位置にあるときに、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1を支持するに至ったものと推定し、各荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重A乃至Dの相互間の非均衡度Fab、Fac、Fbd、Fcdが一定の異常非均衡度K以上に達したことに基づいて、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト荷重が異常非均衡度状態であってそのリフト状態が異常事態にあるものと判定する。
【0054】
尚、制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が不感帯高さHを越えた位置にあるか否かを、昇降位置検出センサ52の検出結果を用いて判断するものに限らず、各昇降体15L、15Rもしくは各リフトアーム16A乃至16Dの昇降経路上の不感帯高さH相当位置に設置したリミットスイッチ等の検出結果を用いて判断しても良い。
【0055】
制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト作業中に、そのリフト状態が前述の異常事態にあるものと判定したとき、ブザー71によって警報音を鳴動し、表示器72に警告メッセージを表示するとともに、上昇駆動部51U、下降駆動部51Dを制御して各リフトアーム16A乃至16Dの昇降を停止する。
【0056】
また、制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が前述の不感帯高さHを越えた位置にあり、かつ各リフトアーム16A乃至16Dの昇降の停止中に、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が異常事態にあるものと判定したとき、操作部40に特殊操作スイッチ42として備えてある特殊ボタン42Sに加える特殊操作のみによって各リフトアーム16A乃至16Dを下降可能にする。このような異常事態は、各リフトアーム16A乃至16Dによって車両1を一定のリフト作業位置に位置付けて行なうエンジンおろし作業等の重整備作業中に生じ得るものであり、作業者に下降ボタン41Dではない、特殊ボタン42Sを使用させることによって通常よりも格別な注意をもって対応させようとするものである。
【0057】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)複数のリフトアーム16A乃至16Dのうちの少なくとも1つのリフトアームの荷重センサ24A乃至24Dが最先にリフト荷重A乃至Dを検出した時点から、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1を支持するに至るであろうと想定されるまでの各リフトアーム16A乃至16Dの上昇高さを不感帯高さHとし、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が不感帯高さHを越えた位置にあるときに、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1を支持するリフト定常段階に至ったものと推定し、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が異常事態にあるか否かの判定を行なう。
【0058】
これにより、制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が不感帯高さHに至らないときには、各リフトアーム16A乃至16Dが未だ車両1に対する前述のリフト過渡段階にあって、各荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重A乃至Dの相互間の非均衡度Fab、Fac、Fbd、Fcdが徒らに一定の異常非均衡度K以上となる異常値を示しがちになるものと判断し、そのようなリフト過渡段階の異常値に基づく不合理な異常判定は行なわれないものとなる。
【0059】
そして、制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が不感帯高さHを越えた位置にあるとき、全てのリフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dが車両1の対応するリフトポイントに当たるリフト定常段階に至ったものと推定し、各荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重A乃至Dの非均衡度Fab、Fac、Fbd、Fcdが一定の異常非均衡度K以上に達したか否かを算定し、その算定結果に基づくことにより、各リフトアーム16A乃至16Dに支持された車両1のリフト荷重A乃至Dが異常非均衡状態にあってそのリフト状態が異常事態にあるか否かの判定を合理的に行なうものとなる。
【0060】
これにより、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が実使用において異常事態ではない状態であっても、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト荷重A乃至Dが異常非均衡状態にあってそのリフト状態が異常事態にあるものと判定される頻度を合理的に低減し、その異常判定の度に車両1のリフトアップ/ダウンを繰り返してその異常判定作業を徒らに繰り返すことなく、車両整備の作業効率を向上する。
【0061】
(b)制御手段30は、上述(a)により、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト作業中にそのリフト状態が異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降を停止する。
【0062】
(c)制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置が不感帯高さHを越えた位置にあり、かつ各リフトアーム16A乃至16Dの昇降の停止中に、上述(a)により、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が異常事態にあるものと判定したとき、各リフトアーム16A乃至16Dを特殊ボタン42Sを用いた特殊操作のみによって下降できるようにする。
【0063】
(d)制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dの昇降位置の不感帯高さHを30mm〜60mmの範囲内から選ばれた設定値とする。これにより、制御手段30は、リフトアップされた車両1の異常非均衡状態を合理的に判定するものになる。
【0064】
(e)車両整備用リフトが前後左右の4個のリフトアーム16A乃至16Dを有するとき、制御手段30は、各リフトアーム16A乃至16Dの車両支持部20A乃至20Dのそれぞれに設けた荷重センサ24A乃至24Dの検出荷重A乃至Dの相互間の非均衡度Fab乃至Fcdのうち、2個以上のFab乃至Fcdが90%以下、より好適には60%以下の範囲内から選ばれて設定された異常非均衡度K以上に達したとき、各リフトアーム16A乃至16Dによる車両1のリフト状態が異常事態にあるものと判定する。これにより、制御手段30は、リフトアップされた車両1を手で押したときに車両1が揺れてしまうような異常非均衡状態を合理的に判定するものになる。
【0065】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。