【文献】
IMAMOTO Tsuneo et al.,An Air-Stable P-Chiral Phosphine Ligand for Highly Enantioselective Transition-Metal-Catalyzed React,Journal of the American Chemical Society,2005年,127,11934-11935
【文献】
LIU Yang et al.,A new and convenient approach for the synthesis of P-stereogenic intermediates bearing a tert-butyl(,Research on Chemical Intermediates,2017年 4月 7日,43(8),4959-4966,ISSN 0922-6168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水素−ホスフィンボラン化合物が、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることを特徴とする請求項1記載の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2の製造方法では、収率よく高純度で目的とする2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリンが得られるが、芳香族求核置換反応を−70℃以下の低温で行うため、特別な冷却装置を必要とし、また、―70℃以下に冷却するまでの時間や次に行う脱ボラン化反応を行う温度まで昇温するにもかなりの時間を要し、工業的に有利でない。
【0008】
また、特許文献4の方法では、比較的工業的に有利な温度で反応を行うことができるが、複数工程から成るため、それに応じた複数設備が必要となり、プロセスも複雑化するため、工業的に有利でない。
【0009】
従って、本発明の目的は、工業的に有利な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、光学活性な2,3−ビス(ジアルキルホスフィノ)ピラジン誘導体の製造において、光学純度が高いものを高収率で得ることが出来る2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供することにある。更に抗がん剤として有用なホスフィン遷移金属錯体を工業的に有利な方法で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、2,3−ジハロゲノピラジン、水素−ホスフィンボラン化合物及び脱ボラン化剤を含む溶液に、塩基を添加すると、工業的に有利な温度で且つ一気に、目的とする2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体が得られること、及び光学活性な2,3−ビス(ジアルキルホスフィノ)ピラジン誘導体の製造において、そのような温度で反応を行っても、光学純度が高いものを高収率で得ることができること等を見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。R
1は一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される2,3−ジハロゲノピラジンと、下記一般式(2):
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R
2及びR
3は、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R
2及びR
3は同一の基であっても異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物と、脱ボラン化剤と、を含む液に、塩基を添加して反応を行い、下記一般式(3):
【0016】
【化3】
【0017】
(式中、R
1、R
2、R
3及びnは前記と同義。)
で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る第一工程を、有することを特徴とする2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法。
【0018】
また、本発明(2)は、前記水素−ホスフィンボラン化合物が、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることを特徴とする(1)の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明(3)は、R
2がt−ブチル基又はアダマンチル基で、R
3がメチル基であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかの2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(4)は、反応温度が、−25〜100℃であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかの2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明(5)は、前記塩基が、カリウム−tert−ブトキシドであることを特徴とする(1)〜(4)いずれかの2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明(6)は、下記一般式(1):
【0023】
【化1】
【0024】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。R
1は一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される2,3−ジハロゲノピラジンと、下記一般式(2):
【0025】
【化2】
【0026】
(式中、R
2及びR
3は、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R
2及びR
3は同一の基であっても異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物と、脱ボラン化剤と、を含む液に、塩基を添加して反応を行い、下記一般式(3):
【0027】
【化3】
【0028】
(式中、R
1、R
2、R
3及びnは前記と同義。)
で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る第一工程と、
前記一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と、金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩と、を反応させて、下記一般式(4):
【0029】
【化4】
【0030】
(式中、R
1、R
2、R
3及びnは前記と同義。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Z
−はアニオンを示す。)
で表されるホスフィン遷移金属錯体を得る第二工程と、
を有することを特徴とするホスフィン遷移金属錯体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、工業的に有利な2,3−ビスルホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、光学活性な2,3−ビス(ジアルキルホスフィノ)ピラジン誘導体の製造において、光学純度が高いものを高収率で得ることが出来る2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、更に抗がん剤として有用なホスフィン遷移金属錯体を工業的に有利な方法で製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法は、下記一般式(1):
【0034】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。R
1は一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される2,3−ジハロゲノピラジンと、下記一般式(2):
【0036】
(式中、R
2及びR
3は、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R
2及びR
3は同一の基であっても異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物と、脱ボラン化剤と、を含む液(以下、「A液」とも言う。)に、塩基を添加して反応を行い、下記一般式(3):
【0038】
(式中、R
1、R
2、R
3及びnは前記と同義。)
で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る第一工程を、有することを特徴とする2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法である。
【0039】
つまり、本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法は、一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジンと、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物と、脱ボラン化剤と、を含む液(A液)に、塩基を添加して反応を行い、一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る第一工程を、有する。
【0040】
一般式(1)中、Xは、ハロゲン原子であり、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらのうち、Xとしては、塩素原子が好ましい。また、一般式(1)中、R
1は、一価の置換基を示す。R
1としては、一価の置換基であれば、特に制限はないが、例えば、直鎖状又は分岐状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。一般式(1)中、nは、0〜4の整数を示す。
【0041】
一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジンは、市販品であってもよい。例えば、2,3−ジクロロキノキサリン等は、東京化成工業株式会社から入手可能である。A液中の一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジンの含有量は、A液全量に対して、1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。A液中の一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジンの含有量が、上記範囲にあることにより、反応速度が速く、生産性に優れ、品質に優れたものが得られる点で好ましい。
【0042】
一般式(2)中、R
2及びR
3は、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基、置換されていてもよいフェニル基を示す。R
2及びR
3は、同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0043】
R
2及びR
3に係るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。また、R
2及びR
3に係るシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、R
2及びR
3が、置換基を有するシクロアルキル基、置換基を有するアダマンチル基又は置換基を有するフェニル基の場合、該置換基としては、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
【0044】
本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法において、2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体が不斉触媒の用途として用いられる場合、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物は、リン原子上に不斉中心を有する光学活性体であることが好ましい。リン原子上に不斉中心を有する光学活性体である一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物としては、一般式(2)中、R
2がt−ブチル基又はアダマンチル基であり、且つ、R
3がメチル基である水素−ホスフィンボラン化合物であることが好ましい。
【0045】
一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物は、公知の方法によって製造される。一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の製造方法としては、例えば、特開2001−253889号公報、特開2003−300988号公報、特開2007−70310号公報、特開2010−138136号公報及びJ.Org.Chem,2000,vol.65,P4185−4188等に記載の方法が挙げられる。A液中の一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物の含有量は、一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジン1モルに対し、2.0〜4.0モル、好ましくは2.1〜3.0モルであることが、経済性が高く、反応性が高くなる点で好ましい。
【0046】
第一工程に係る脱ボラン化剤としては、例えば、N,N,N’,N’,−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、トリエチレンジアミン(DABCO)、トリエチルアミン等が挙げられる。A液中の脱ボラン化剤の含有量は、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物1モルに対し、2〜20モル、好ましくは3〜10モルであることが、経済性が高く、反応性が高くなる点で好ましい。
【0047】
A液は、一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジン、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物及び脱ボラン化剤が溶媒に溶解又は分散されている液である。
【0048】
A液に用いられる溶媒としては、一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジンを溶解又は分散することができ、且つ、一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジンに対して不活性な溶媒であれば、特に制限されない。A液に用いられる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いられる。A液は、一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジン、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物及び脱ボラン化剤が、溶媒に完全に溶解している溶液状であってもよいし、一般式(1)で表される2,3−ジハロゲノピラジン、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物及び脱ボラン化剤の一部又は全部が、溶媒には溶解せず、分散したスラリー状であってよい。
【0049】
第一工程に係る塩基としては、例えば、n−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、メチルマグネシウムブロミド、カリウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、ヒューニッヒ塩基、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、第一工程に係る塩基としては、カリウム−tert−ブトキシドが、反応収率が優れ、品質が優れたものが得られる点で好ましい。
【0050】
そして、第一工程では、A液に塩基を添加して反応を行い、一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る。
【0051】
第一工程では、塩基が溶媒に溶解されている溶液(以下、「B液」と言う。)をA液に添加してもよいし、塩基を固体としてA液に添加してもよい。第一工程では、A液にB液を添加することが、反応を制御し易く、また、安定した品質のものが得られ易い点で好ましい。
【0052】
B液中の塩基の含有量は、特に制限されないが、B液全量に対し、1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%であることが、反応性及び生産性が高い点で好ましい。
【0053】
B液に用いられる溶媒は、塩基を溶解することができ、不活性な溶媒であれば、特に制限されない。B液に係る溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は混合溶媒として用いられる。
【0054】
第一工程において、A液への塩基の添加量は、A液中の一般式(2)で表される水素―ホスフィンボラン化合物1モルに対して、1.0〜1.5モル、好ましくは1.0〜1.2モルであることが、経済性が高く、反応性が高い点で好ましい。
【0055】
第一工程において、固体又は液体の塩基をB液としてA液に添加する場合又は液体の塩基をA液に直接する場合、A液への塩基の添加速度は、副反応が起こらない範囲で反応熱が制御できれば、特に制限されないが、A液への塩基の添加速度は、安定した品質のものが得られる点で、一定速度であることが好ましい。固体の塩基を直接A液に添加する場合、反応熱の様子を見ながら固体の塩基を分割添加することが望ましい。
【0056】
第一工程において、A液に塩基を添加するときのA液の温度(反応液の温度)は、−25〜100℃である。第一工程において、A液に塩基を添加するときのA液の温度(反応液の温度)は、工業的に有利な点で−25〜50℃が好ましい。また、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物として光学活性体を用い、所望の光学活性な2,3−ビス(ジアルキルホスフィノ)ピラジン誘導体を製造する場合には、第一工程において、A液に塩基を添加するときのA液の温度(反応液の温度)は、光学純度が高いものが高収率で得られる点で−25〜20℃が好ましい。
【0057】
第一工程では、A液に塩基を添加した後、必要により、反応を完結させるために熟成を行うことができる。熟成を行う場合の熟成温度(反応液の温度)は、−25〜100℃である。熟成を行う場合の熟成温度(反応液の温度)は、工業的に有利な点で−25〜80℃が好ましい。また、一般式(2)で表される水素−ホスフィンボラン化合物として光学活性体を用い、所望の光学活性な2,3−ビス(ジアルキルホスフィノ)ピラジン誘導体を製造する場合には、熟成を行う場合の熟成温度(反応液の温度)は、光学純度が高いものが高収率で得られる点で−25〜30℃が好ましい。
【0058】
このようにして第一工程を行うことにより、反応液中に、一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体が生成する。
【0059】
第一工程で反応を行った後、必要に応じて、反応液又は反応液から分離した一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体に対して、分液洗浄、抽出、晶析、蒸留、昇華、カラムクロマトグラフィーといった精製を行ってもよい。
【0060】
本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法は、第一工程で、A液に、塩基を添加して反応を行うことが一つの特徴があり、従来の方法に比べて、反応温度を工業的に有利な温度まで高くすることができる。
【0061】
また、従来の製造方法、例えば、前記特許文献1及び特許文献2の製造方法では、芳香族求核置換反応を行った後の反応液に、脱ボラン化剤を添加し脱ボラン化反応を行っており、実質的に2つの工程を経て、目的とする2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を製造しており、また、前記特許文献4の製造方法では、tert−ブチルメチルホスフィンボランの脱プロトン化、芳香族求核置換反応、脱ボラン化反応を行っており、実質的に3つの工程を経て、目的とする2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を製造している。それらに対し、本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法では、2,3−ジハロゲノピラジン及び水素−ホスフィンから、一気に目的とする2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得ることができるので、本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法は、従来の製造方法に比べ、工業的に有利である。
【0062】
本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法では、光学活性な2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を製造する場合、光学純度が高いものが高収率で得られる。
【0063】
本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法により得られる一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体のうち、R
2及びR
3が異なる基を有する化合物の光学活性体は、配位子として、遷移金属と共に錯体を形成することができる。この錯体は不斉合成触媒として有用なものである。不斉合成としては、例えば、不斉水素化反応、有機ボロン酸を用いた電子不足オレフィンへの不斉1,4−付加反応、不斉ヒドロシリル反応、不斉環化などが挙げられる。
【0064】
錯体を形成することができる遷移金属としては、例えば、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金、ニッケル、鉄等が挙げられる。好ましい金属はパラジウムとロジウムである。一般式(3)で表される2,3−ビス(ジアルキルホスフィノ)ピラジン誘導体を配位子として用い、ロジウムと共に錯体を形成させる方法としては、例えば、実験化学講座第4版(日本化学会編、丸善株式会社発行 第18巻327〜353頁)に記載されている方法に従えばよい。
【0065】
また、本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法により得られる一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体のうち、R
2及びR
3が同一の基である化合物、あるいはR
2及びR
3が異なる基を有する化合物の光学活性又はラセミ体は、抗がん剤として用いられるホスフィン遷移金属錯体の配位子源としても有用である。
【0066】
次に、一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体の製造方法について説明する。本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法は、下記一般式(1):
【0068】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。R
1は一価の置換基を示す。nは、0〜4の整数を示す。)
で表される2,3−ジハロゲノピラジンと、下記一般式(2):
【0070】
(式中、R
2及びR
3は、置換されていてもよい直鎖状又は分岐状の炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアダマンチル基又は置換されていてもよいフェニル基を示し、R
2及びR
3は同一の基であっても異なる基であってもよい。)
で表される水素−ホスフィンボラン化合物と、脱ボラン化剤と、を含む液に、塩基を添加して反応を行い、下記一般式(3):
【0072】
(式中、R
1、R
2、R
3及びnは前記と同義。)
で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体を得る第一工程と、
前記一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と、金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩と、を反応させて、下記一般式(4):
【0074】
(式中、R
1、R
2、R
3及びnは前記と同義。Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる遷移金属原子を示す。Z
―はアニオンを示す。)
で表されるホスフィン遷移金属錯体を得る第二工程と、
を有することを特徴とするホスフィン遷移金属錯体の製造方法である。
【0075】
つまり、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法は、本発明の2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の製造方法に係る第一工程と、該第一工程を行い得られる一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と、金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩と、を反応させて、一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体を得る第二工程を有する。
【0076】
一般式(4)中、R
1、R
2、R
3及びnは、一般式(1)中のR
1、n及び一般式(2)中のR
2、R
3に相当する。一般式(4)中、Mは、金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属原子を示す。一般式(4)中、Z
−は、アニオンを示す。Z
−としては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、四フッ化ホウ素イオン、六フッ化リン酸イオン、過塩素酸イオン等が挙げられる。
【0077】
第二工程に係る遷移金属の金属塩は、金、銅又は銀の塩である。第二工程に係る遷移金属の金属塩としては、例えば、これらの金属のハロゲン化物、硝酸塩、過塩素酸塩、四フッ化ホウ素酸塩、六フッ化リン酸塩等が挙げられる。第二工程に係る遷移金属塩の金属の価数は、一価である。第二工程に係る遷移金属の金属塩は、金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩であるので、金、銅又は銀の1種の金属塩であってもよいし、あるいは、金属種又はアニオンのいずれか一方又は両方が異なる2種以上の金属塩の組み合わせであってもよい。
【0078】
第二工程に係る遷移金属の金属塩のうち、好ましい金の塩としては、例えば、塩化金(I)酸、塩化金(I)、あるいはテトラブチルアンモニウムクロリド・塩化金(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p366〜380、Aust.J.Chemm.,1997,50,775−778頁参照)が挙げられる。第二工程に係る遷移金属の金属塩のうち、好ましい銅の塩としては、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p349〜361)が挙げられる。第二工程に係る遷移金属の金属塩のうち、好ましい銀の塩としては、例えば、塩化銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)等(「第5版 実験化学講座21」、編者 社団法人日本化学会、発行所 丸善、発行日 平成16年3月30日、p361〜366)が挙げられる。なお、第二工程に係る遷移金属の金属塩は、無水物であっても含水物であってもよい。
【0079】
そして、第二工程では、一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩とを反応させる。第二工程において、金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩と反応させる、一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体の量は、特に制限されないが、好ましくは金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩1モル(金属塩が複数の場合には、複数の金属塩の合計モル数が1モル)に対し、一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体が1〜5モル、更に好ましくは1.8〜2.2モルである。
【0080】
第二工程では、一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体と金、銅及び銀の群から選ばれる1種又は2種以上の遷移金属の金属塩との反応を、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム等の溶媒中で行うことができる。第二工程において、反応温度は、好ましくは−20〜60℃、更に好ましくは0〜25℃であり、反応時間は、好ましくは0.5〜48時間、更に好ましくは1〜3時間である。
【0081】
このように第二工程を行うことにより、一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体が得られる。
【0082】
第二工程を行った後、必要に応じて常法の精製を行うことができる。
【0083】
一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体が、R
2及びR
3がそれぞれ異なる基を有するホスフィン遷移金属錯体の場合には、不斉なリン原子を4個有するため、数多くの異性体が存在するが、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法では、得られるホスフィン遷移金属錯体は、異性体を含む混合物であってもよく、リン原子上の立体の組み合わせに特に制限はない。具体的には、これらの異性体は、リン原子上の立体が、(R,R)(R,R)や、(S,S)(S,S)のように、単一のエナンチオマーから構成されていてもよく、また、(R,R)(S,S)のように、配位子のラセミ体から構成されていてもよく、また、(R,S)(S,R)のように、お互いにメソ体から構成されていてもよく、また、(R,R)(S,R)のように、1つのエナンチオマーとそのメソ体から構成されていてもよい。
【0084】
本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法に係る第二工程の出発原料となる一般式(3)で表される2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体においては、R
2とR
3が異なる基であることによって、2つのリン原子がキラル中心となる。その結果、この2,3−ビスホスフィノピラジン誘導体は、立体配置の異なる(R,R)体、(S,S)体及び(R,S)体の3種類の異性体が存在する。これらの3種類の異性体のうち、(R,S)体はメソ体であり、(R,R)体と(S,S)体の等モル混合物がラセミ体となる。第一工程において、所望の異性体を得た後、第二工程において、これらの異性体を1種又は2種以上で用いることで、目的とする立体構造を有するホスフィン遷移金属錯体の単独又は混合物として得ることができる(例えば、特開2007−320909号公報、国際公開WO2011/078121号パンフレット、国際公開WO2011/072902号パンフレット、国際公開WO2011/129365号パンフレット等参照)。
【0085】
本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法を行い、一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体を得た後、一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体のアニオンを、他の所望のアニオンに変換することができる。例えば、先ず、本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法に従い、一般式(4)の式中のZ
−が、ハロゲン化物イオンであるホスフィン遷移金属錯体を得、次いで、このホスフィン遷移金属錯体と、所望のアニオンを有する無機酸、有機酸又はそれらのアルカリ金属塩とを、適切な溶媒中で反応させることにより、Z
−が、所望のアニオンであるホスフィン遷移金属錯体を得ることができる。このような方法の詳細は、例えば特開平10−147590号公報、特開平10−114782号公報及び特開昭61−10594号公報等に記載されている。
【0086】
本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法を行い得られる一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体、又は本発明のホスフィン遷移金属錯体の製造方法を行い得られる一般式(4)で表されるホスフィン遷移金属錯体のアニオンZ
−を、必要に応じて他の所望のアニオンに変換したものは、抗がん剤として有用である。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
<(S)−tert−ブチルメチルホスフィン−ボランの合成>
(S)−tert−ブチル(ヒドロキシメチル)メチルホスフィン−ボラン(92%ee、2.22g、15.0mmol)を10mlのピリジンに溶解した溶液に、0℃、撹拌下に、塩化ベンゾイル(2.1mL、18mmol)を滴下した。次いで、反応混合液を室温まで加熱した。1時間経過後、反応混合液を水で希釈し、エーテルで3回抽出した。得られた有機層を1Mの塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を除去した後、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で残渣を精製した。無色の固体が得られ、この固体を、ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒で2回再結晶した。このようにして光学的に純粋なベンゾイルオキシメチル(tert−ブチル)メチルホスフィン−ボランを得た。収量は2.34g、収率は62%であった。
【0089】
次いで、ベンゾイルオキシメチル(tert−ブチル)メチルホスフィン−ボラン(99%ee、6.05g、24.0mmol)を25mLのエタノールに溶解した溶液に、15mLの水に溶解した水酸化カリウム(4.0g、72mmol)を滴下した。約1時間で加水分解が完了した。反応混合液を水で希釈し、エーテルで3回抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。ロータリーエバポレータで溶媒を除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で残渣を精製し、(S)−tert−ブチル(ヒドロキシメチル)メチルホスフィン−ボランを得た。この化合物を72mLのアセトンに溶解した。水酸化カリウム(13.5g、240mmol)、過硫酸カリウム(19.4g、72.0mmol)及び三塩化ルテニウム三水和物(624mg、2.4mmol)を150mLの水に溶解した水溶液(0℃)に、該水溶液を激しく撹拌した状態で、前記アセトン溶液を徐々に添加した。2時間経過後、反応混合液を3Mの塩酸で中和し、エーテルで3回抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水した。ロータリーエバポレータで溶媒を室温下に除去し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(移動相:ペンタン/エーテル=8/1)で残渣を精製した。このようにして(S)−tert−ブチルメチルホスフィン−ボランを得た(純度98.5%)。収量は2.27g、収率は80%であった。
【0090】
(実施例1)
<(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(a3)の合成>
【0091】
【化5】
【0092】
メカニカルスターラー、滴下ロート、温度計、三方コックをつけた200mlの4口フラスコに、2,3−ジクロロキノキサリン(a1)(1.99g、10mmol)と(S)−tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(a2)(2.60g、22mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して、系内をアルゴン置換した。更に脱気したTHF(20ml)と、テトラメチレンジアミン(7.45ml、50mmol)をフラスコに加え、フラスコを−20℃に冷却した。よく撹拌しながらカリウム−tert−ブトキシドの1.0M THF溶液(24.2ml、24.2mmol)を、−16〜−9℃で20分かけて滴下した。滴下終了後、約1.5時間かけて温度を室温にあげ、一晩放置した。
反応終了後、反応液にヘキサン(20ml)を加え、氷水で冷却しながら2M塩酸(43ml、86mmol)を加えた。橙色の有機層を分離し、水で洗浄した後、溶媒をエバポレーターで除去した。得られた橙色固体(3.46g)をメタノール(15ml)に70℃で溶解した後、0℃に冷却した。2時間後に析出した結晶をガラスフィルター上に取り、冷メタノールで洗浄した後、デシケーターで真空乾燥して(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(a3)(2.45g、収率73%)を得た。この結晶は
31P NMRで97.5%の純度であり、光学純度は99.5%ee以上であった。
【0093】
(化合物(a3)の同定データ)
・融点:102〜103℃、
・比旋光度[α]
D26 −54.5(c 1.00,CHCl
3)、
・
1H NMR(500.15MHz,CDCl
3):δ 1.00−1.03(m,18H),1.42−1.44(m,6H),7.70−7.74(m,2H),8.08−8.12(m,2H)、
・
13C NMR(125.76MHz,CDCl
3):δ4.77(t,J=4.1Hz), 27.59(t,J=7.4Hz),31.90(t,J=7.4Hz),129.50,129.60,141.63,165.12(dd,J=5.7,2.4Hz)、
・
31P NMR(202.46MHz,CDCl
3):δ−16.7(s)
【0094】
(実施例2)
メカニカルスターラー、滴下ロート、温度計、三方コックをつけた200mlの4口フラスコに、2,3−ジクロロキノキサリン(a1)(1.99g、10mmol)と(S)−tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(a2)(2.83g、24mmol)を入れ、真空引きとアルゴン導入を繰り返して、系内をアルゴン置換した。更に脱気したTHF(20ml)と、テトラメチレンジアミン(10.4ml、70mmol)をフラスコに加え、フラスコを2℃に冷却した。よく撹拌しながらカリウム−tert−ブトキシドの1.0M THF溶液(25.2ml、25.2mmol)を、4℃に保ちながら30分かけて滴下した。滴下終了後、約1時間かけて温度を室温(25℃)にあげ、そのまま3時間撹拌を継続した。
次いで、反応液にヘキサン(20ml)を加え、氷水で冷却しながら2M塩酸(62ml、124mmol)を加えた。橙色の有機層を分離し、水で洗浄した後、溶媒をエバポレーターで除去した。得られた橙色固体(3.60g)をメタノール(16ml)に70℃で溶解した後、0℃に冷却した。2時間後に析出した結晶をガラスフィルター上に取り、冷メタノールで洗浄した後、デシケーターで真空乾燥して(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(a3)(2.41g、収率72%)を得た。この結晶は
31P NMRで99.7%の純度であり、光学純度は99.5%ee以上であった。
【0095】
(化合物(a3)の同定データ)
・融点:102〜103℃、
・比旋光度[α]
D26 −54.7(c 1.00,CHCl
3)、
・
1H NMR(500.15MHz,CDCl
3):δ 1.00−1.03(m,18H),1.42−1.44(m,6H),7.70−7.74(m,2H),8.08−8.12(m,2H)、
・
13C NMR(125.76MHz,CDCl
3):δ4.77(t,J=4.1Hz),27.59(t,J=7.4Hz),31.90(t,J=7.4Hz),129.50,129.60,141.63,165.12(dd,J=5.7,2.4Hz)、
・
31P NMR(202.46MHz,CDCl
3):δ−16.7(s)
【0096】
(比較例1)
<(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(a3)の合成>
【0097】
【化6】
【0098】
十分に乾燥した300mL四つ口フラスコを窒素置換した後、上記で調製した14.2重量%(S)−tert−ブチルメチルホスフィン−ボラン(a2)のテトラヒドロフラン溶液(111.46g、135.0mmol)を仕込み、窒素雰囲気下で−10℃へ冷却した後、15重量%のn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(59.3g)を1時間かけて滴下した。次いで、−10℃で1時間熟成し、これをb液とした。
十分に乾燥した2000mL四つ口フラスコを別に用意し、窒素置換した後に、2,3−ジクロロキノキサリン(a1)(8.97g、45.0mmol)とテトラヒドロフラン(81ml)、N,N−ジメチルホルムアミド(90ml)を仕込み、−10℃へ冷却し、これをa液とした。
a液を、20分かけて内温が−10℃付近を維持するようにb液へ添加した。白色スラリーから、一時緑色へ変色して、最終的には赤茶色スラーとなった。
滴下終了後、徐々に室温へ昇温した後、3時間熟成した。次いで、テトラメチレンジアミン(52.6g、450.0mmol)を加え、一晩熟成を続けると脱ボラン化反応は十分に進行しており、オレンジ色スラリーとなっていた。
次いで10%塩酸180mLを加えて反応を停止させ、水層を廃棄した。さらに水45mL、5%塩酸17mLを加えて反応液を洗浄し、水層を廃棄した。次いで、2.5%重曹水溶液45mLと水45mLを順次加えて反応液を洗浄して水層を廃棄し、真空ポンプを用いて溶媒を留去すると全体が固化した。メタノール90mLを加えて昇温して完全に溶解させた後、徐々に冷却するとオレンジ色の結晶が析出した。冷メタノールでリンスした後、減圧乾燥して(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(a3)6.6g(収率44%)を得た。この結晶は
31P NMRで99.4%の純度であり、光学純度は99.5%ee以上であった。
【0099】
(実施例3)
<ビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(4a)の合成>
窒素ガスで置換した125ml二口フラスコに、実施例1で調製した(R,R)−2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン(a3)(1.37g、4,1mmol)と脱気したTHF55mlを加えた。ここにテトラブチルアンモニウム金(I)ジクロリド(1.04g、2.05mmol)を加え、室温で20時間撹拌した。沈殿をろ別し、ろ液を乾固した。得られた褐色固体を減圧下で乾燥し、1.85gの下記式(4a)で表されるビス(2,3−ビス(tert−ブチルメチルホスフィノ)キノキサリン)金(I)クロリド(4a)を得た。この時の収率は98%であった。
【0100】
(化合物(4a)の同定データ)
・
31P NMR(CDCl
3):13.6
・[α]
D=+195.3(c=0.5、メタノール、25℃)
【0101】
【化7】