(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中間層を形成する工程は、前記電子ブロック層を形成する工程と前記p型クラッド層を形成する工程との間に設けられた、前記電子ブロック層と前記p型クラッド層との間の連続的な成長を所定の時間中断する工程を含む、
請求項5に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。また、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の窒化物半導体発光素子の寸法比と一致するものではない。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)は、紫外領域の波長の光を発する発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)である。本実施の形態では、特に、中心波長が250nm〜350nmの深紫外光を発する発光素子1を例に挙げて説明する。
【0012】
図1に示すように、発光素子1は、基板10と、バッファ層20と、n型クラッド層30と、多重量子井戸層を含む活性層40と、電子ブロック層50と、中間層60と、p型クラッド層70と、p型コンタクト層80と、n側電極90と、p側電極92とを含んで構成されている。
【0013】
発光素子1を構成する半導体には、例えば、Al
xGa
yIn
1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)にて表される2元系、3元系若しくは4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。また、これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等で置き換えても良く、また、Nの一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えても良い。
【0014】
基板10は、発光素子1が発する深紫外光に対して透光性を有している。基板10は、例えば、サファイア(Al
2O
3)を含むサファイア基板である。基板10には、サファイア(Al
2O
3)基板の他に、例えば、窒化アルミニウム(AlN)基板や、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板を用いてもよい。
【0015】
バッファ層20は、基板10上に形成されている。バッファ層20は、AlN層22と、AlN層22上に形成されるアンドープのu−Al
pGa
1−pN層24(0≦p≦1)を含んで構成されている。また、基板10及びバッファ層20は、下地構造部2を構成する。なお、基板10がAlN基板またはAlGaN基板である場合、バッファ層20は必ずしも設けなくてもよい。
【0016】
n型クラッド層30は、下地構造部2上に形成されている。n型クラッド層30は、n型のAlGaN(以下、単に「n型AlGaN」ともいう。)により形成された層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAl
qGa
1−qN層(0≦q≦1)である。なお、n型の不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)等を用いてもよい。n型クラッド層30は、1μm〜3μm程度の厚さを有し、例えば、2μm程度の厚さを有している。n型クラッド層30は、単層でもよく、多層構造でもよい。
【0017】
多重量子井戸層を含む活性層40は、n型クラッド層30上に形成されている。活性層40は、Al
rGa
1−rNを含んで構成される多重量子井戸層のn型クラッド層30側の障壁層42a、及び後述する電子ブロック層50側の障壁層42cを含む3層の障壁層42a,42b,42cとAl
sGa
1−sNを含んで構成される3層の井戸層44a,44b,44c(0≦r≦1、0≦s≦1、r>s)とを交互に積層した多重量子井戸層を含む層である。活性層40は、波長350nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成されている。なお、本実施の形態では、活性層40に障壁層42及び井戸層44は各3層ずつ設けたが、必ずしも3層に限定されるものではなく、2層以下でもよく、4層以上でもよい。
【0018】
電子ブロック層50は、活性層40上に形成されている。電子ブロック層50は、後述するp型クラッド層70側への電子の流出を抑制するために、電子を反射させて多重量子井戸層に注入させる役割を担う層である。電子ブロック層50は、p型のAlGaN(以下、単に「p型AlGaN」ともいう。)により形成されている。電子ブロック層50は、1nm〜10nm程度の厚さを有している。なお、電子ブロック層50は、AlNにより形成された層を含んでもよい。また、電子ブロック層50は、必ずしもp型の半導体層に限られず、アンドープの半導体層でもよい。
【0019】
中間層60は、電子ブロック層50上に形成されている。中間層60は、少なくともシリコン(Si)を含む層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAl
zGa
1−zN層(0≦z≦1)である。中間層60は、100nm以下の厚さを有している。
【0020】
次に、中間層60のシリコン(Si)濃度分布について、
図2を参照して説明する。
図2は、中間層の発光素子1のシリコン濃度分布を示すグラフであり、特に発光素子1を構成する各層のうち電子ブロック層50、中間層60及びp型クラッド層70(後述)のシリコン濃度を抜き出して示している。
図2に示すように、中間層60のシリコン(Si)濃度は、1.0×10
17cm
−3以上である。
【0021】
p型クラッド層70は、中間層60を介して電子ブロック層50上に形成されている。p型クラッド層70は、p型AlGaNにより形成される層であり、例えば、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされたAl
tGa
1-tNクラッド層(0≦t≦1)である。なお、p型の不純物としては、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を用いてもよい。p型クラッド層70は、300nm〜700nm程度の厚さを有し、例えば、400nm〜600nm程度の厚さを有する。
【0022】
p型コンタクト層80は、p型クラッド層70上に形成されている。p型コンタクト層80は、例えば、Mg等の不純物が高濃度にドープされたp型のGaN層である。
【0023】
n側電極90は、n型クラッド層30の一部の領域上に形成されている。n側電極90は、例えば、n型クラッド層30の上に順にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/Ti/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。
【0024】
p側電極92は、p型コンタクト層80の上に形成されている。p側電極92は、例えば、p型コンタクト層80の上に順に積層されるニッケル(Ni)/金(Au)の多層膜で形成される。
【0025】
次に、発光素子1の製造方法について説明する。基板10上にバッファ層20、n型クラッド層30、活性層40、電子ブロック層50、中間層60、p型クラッド層70を、この順に連続的に高温成長させて形成する。これら層の成長には、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハライド気相エピタキシ法(Halide Vapor Phase Epitaxy:NVPE)等の周知のエピタキシャル成長法を用いて形成することができる。
【0026】
中間層60は、Siの濃度が所定の濃度(例えば、1.0×10
17cm
−3)以上になるように適宜調整して、電子ブロック層50上に高温成長させる。所定の濃度以上のSiを含めるために、中間層60は、例えば、テトラメチルシラン(Si(CH
3)
4)、シラン(SiH
4)、トリメチルアルミニウム(TMA;(CH
3)
3Al)、アンモニア(NH
3)、トリメチルガリウム(TMG;(CH
3)
3Ga)、ビズ(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp
2Mg)等を原料ガスとして形成することができる。また、中間層60の形成は、上述のバッファ層20、n型クラッド層30、活性層40及び電子ブロック層50の形成工程での温度と比較して低い温度で実行されることが好ましい。
【0027】
なお、中間層60を形成する工程は、上述の方法に限られない。例えば、上述のような中間層60を直接的に(すなわち、連続的に)形成する工程を設けなくとも、活性層50上に電子ブロック層50を形成する工程と、中間層60上にp型クラッド層70を成長させる工程との間に、例えば、PL(Photo Luminescence)法による評価を行う工程等他の工程を設けることによって、電子ブロック層50及びp型クラッド層70間の連続的な高温成長が中断されることにより、電子ブロック層50及びp型クラッド層70間に上述した中間層60を形成することができる。
【0028】
次に、p型クラッド層70の上にマスクを形成し、マスクが形成されていない露出領域の活性層40、電子ブロック層50、中間層60、及びp型クラッド層70を除去する。活性層40、電子ブロック層50、中間層60、及びp型クラッド層70の除去は、例えば、プラズマエッチングにより行うことができる。n型クラッド層30の露出面30a(
図1参照)上にn側電極90を形成し、マスクを除去したp型コンタクト層80上にp側電極92を形成する。n側電極90及びp側電極92は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成することができる。以上により、
図1に示す発光素子1が形成される。
【0029】
次に、
図3及び
図4を参照して、本発明の実施の形態に係る実施例について説明する。
図3は、実施例及び比較例の発光素子のSi濃度分布を比較して示すグラフである。
図4は、実施例及び比較例の発光出力(任意単位、当社比)を比較して示すグラフである。
図3に示すように、実施例の発光素子1は、上述したように、電子ブロック層50及びp型クラッド層70間に、Si濃度1.0×10
17cm
−3以上のSiを含む中間層60を有しているのに対し、比較例の発光素子は、かかる中間層60を有していない点で両者は相違している。なお、実施例1は、中間層60を直接的に形成した例を示し、実施例2は、電子ブロック層50及びp型クラッド層70間の連続的な高温成長が中断することによって中間層60を形成した例を示す。
【0030】
図4に示すように、比較例の発光素子では、発光波長285.75nmで0.88の発光強度が得られた。これに対し、実施例1の発光素子1では、発光波長287.35nmで0.92の発光強度が得られた。また、実施例2の発光素子1では、発光波長286.55nmで0.99の発光出力が得られた。このように、実施例1の発光素子1の発光強度は、比較例の発光素子の発光強度より4%向上した。また、実施例1の発光素子1の発光強度は、比較例の発光素子の発光強度より12%向上した。以上のように、本発明により、発光素子1の発光強度が上昇することが明らかになった。
【0031】
ここで、発光波長(nm)は、発光出力を計測した波長である。発光出力は、種々の公知の方法で測定することが可能であるが、本実施例では、一例として、ウエハの中心部とエッジ部にそれぞれIn電極を付けて電流を流し、光検出器により測定した。
【0032】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る発光素子1では、電子ブロック層50とp型クラッド層70との間に所定の添加濃度のSiを含む中間層60が設けられている。これにより、発光素子1の深紫外光の発光強度を向上させることが可能となる。
【0033】
(実施形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0034】
[1]p型AlGaNによって形成されたp型クラッド層(70)と、前記p型クラッド層(70)への電子の流出を抑制
し、所定の添加濃度のSiを含む電子ブロック層(50)とを含む窒化物半導体発光素子(1)であって、前記電子ブロック層(50)と前記p型クラッド層(70)との間に所定の添加濃度のSiを含む中間層(60)をさらに備え
、前記電子ブロック層(50)と前記中間層(60)との領域におけるSi濃度分布には、前記窒化物半導体発光素子の厚さ方向において、極大値及び極小値がともに存在する、窒化物半導体発光素子(1)。
[2]前記中間層(60)は、少なくともAl及びGaのいずれか、及び窒素(N)をさらに含む、前記[1]に記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[3]前記中間層(60)の前記所定の添加濃度は、1.0×10
17cm
−3以上である、前記[1]又は[2]に記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[4]前記中間層(60)の厚みは、100nm以下である、前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[5]p型AlGaNを有するp型クラッド層(70)への電子の流出を抑制
し、所定の添加濃度のSiを含む電子ブロック層(50)を形成する工程と、前記p型クラッド層(70)を形成する工程とを備える窒化物半導体発光素子(1)の製造方法であって、前記電子ブロック層(50)と前記p型クラッド層(70)との間に所定の添加濃度のSiを含む中間層(60)を形成する工程をさらに備え
、前記電子ブロック層(50)と前記中間層(60)との領域におけるSi濃度分布には、前記窒化物半導体発光素子の厚さ方向において、極大値及び極小値がともに存在する、窒化物半導体発光素子(1)の製造方法。
[6]前記中間層(60)を形成する工程は、前記電子ブロック層(50)を形成する工程と前記p型クラッド層(70)を形成する工程との間に設けられた、前記電子ブロック層(50)と前記p型クラッド層(70)との間の連続的な成長を所定の時間中断する工程を含む、[5]に記載の窒化物半導体発光素子(1)の製造方法。