【実施例】
【0120】
(実施例1)
YACの構築
1.1 材料
ベクター:
pYAC3 (Bruschi, ICGEB, Yeast Molecular Genetics Group, Trieste, ITALYから入手)
pYNOT (URA3をLEU2マーカーで置き換えることによりpYAC3から誘導したもの。Bruschi, ICGEB, Yeast Molecular Genetics Group, Trieste, ITALYから入手)
pHTK (LEU2をHIS3マーカーで置き換えることによりpYNOTから誘導したもの)
pHKT-Hy (pHKTに挿入されたハイグロマイシン(Hy)耐性遺伝子)
pYES1L (Invitrogen社)
【0121】
酵母菌株:YLBW1 (Hamerら, 1995)、AB1380 (Markie, 2006)。
【0122】
1.2 BACのYACへの変換
BAC(円形状の細菌人工染色体)は、約150kbp〜350kbpのサイズのDNAセグメントの操作(例えば、配列決定及びクローニング)を促進する、当技術分野で周知の手段である(Methods in Molecular Biology, 54巻及び349巻)。ヒト又はマウスの重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来するDNAを含有するBACは多数存在し、当技術分野で周知である。このようなBACの例(
図1及び
図2にも記載)としては、限定するものではないが、以下のものが挙げられる:
ヒト:
・ RP11-1065N8
・ RP11-659B19
・ RP11-141I7
・ RP11-72N10
・ RP11-683L4
・ RP11-12F16
マウス:
・ RP23-354L16
・ RP24-72M1
【0123】
また、BACを使用して、オーバーラップする(相補的)配列を含む複数のDNAセグメントの連続的な分子結合を促進し、より大きなDNA分子を作製できることは、当技術分野で周知である。これを達成するこうした方法の1つである、BIT(架橋誘導性転座(bridge induced translocation))は、BACを、まず酵母人工染色体(YAC)として酵母がオーバーラップしない直鎖状にまず変換しなければならないことが要件であった。
【0124】
形質転換関連組換え(TAR)クローニングによるBAC変換
BAC変換及びYAC操作は、栄養要求性マーカー、酵母選択、培地、酵母形質転換、YACスクリーニング、YAC移入、YAC改変及び増幅に関する処方及び方法が詳細に記載されている、例えば、YACプロトコル(Methods in Molecular Biology, 54巻及び349巻)において当技術分野で開示されており、十分に確立されている技術である。
【0125】
簡単に説明すると、その後の結合用のBACから保持されている非オーバーラップ配列に隣接する2つのアンカー配列、アンカー配列1(a1)及びアンカー2(a2)を、pYAC3(http://genome-www.stanford.edu/vectordb/vector_descrip/COMPLETE/PYAC3.SEQ.html)ベクターにクローニングするPCRプライマーの末端の操作制限部位(SalI及びSphI)を用いてPCRにより増幅した(
図3)。こうしたアンカー配列に関する設計の必要条件は、当技術分野で周知である(例えば、Alasdair MacKenzie, 2006, YAC protocols、第2版)。制限酵素で消化したa1及びa2をpYAC3へ逐次クローニングした(
図3)。pYAC3-a1-a2ベクターは、続いて、2つのYACアーム、a1-URA3-テロメア及びa2-セントロメア-TRP1-テロメアを作製するSphI及びBamHIで消化した。元のBACを有する酵母をこれらの2つのYACアームで形質転換し、トリプトファンを含みウラシルを含まない酵母培地にプレーティングし、3日間、30℃でインキュベートした。YACアームとアンカーの位置のBACとの間の相同組換えにより、変換されたYACが作製された(
図4)。形質転換体は、連結のPCRによって、及びサイズについてはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)によって、正しく変換された産物についてスクリーニングされた。連結される隣接のDNA配列を含む非オーバーラップYACは、引き続きBITによって構築された。
【0126】
BITによる2つの非オーバーラップYACの連結
カナマイシン耐性遺伝子KAN
Rカセットを、それぞれの末端にFRT部位と結合用の2つのYAC末端に特異的なYAC相同配列の65bpフラグメントを付加することにより構築した(
図5)。このカセットを、連結しようとする2つのYACを含有する酵母に形質転換した。更に、カナマイシン耐性クローンはPCR及びサザンブロットによって特性決定し、連結が成功したことを確認した。次いで、KAN
R遺伝子を、FLPレコンビナーゼを使用してポップアウトした。連結領域のDNAを配列決定し、連結部位のFRT配列を含有するDNA「scar」の存在を確認した。YAC操作のそれぞれの工程では、PFGEを適用してYACのサイズを確認した。元のヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座からの隣接配列を含むYACの逐次連結を使用して、それぞれ、ヒトC-遺伝子、D-遺伝子及びJ-遺伝子、並びに数が増え続けるV-遺伝子を有する多数のYAC構築物を作製した。
【0127】
1.3 マウスエレメントを有するC領域構築物
YAC構築物から作動される免疫応答の効率を強化するため、その後、それらをそれぞれ、ヒトC領域遺伝子をマウス重鎖定常領域エレメントで置き換えるよう改変した。
【0128】
オーバーラップするDNAフラグメントを取り込み、効率的に再結合させる酵母の能力を利用し(Gibsonら, 2008)、複数のオーバーラップするフラグメントを使用して、マウスμエンハンサー、マウスμスイッチ及びマウス定常1遺伝子(後者はC
H1ドメインが欠失)を最後のヒトJ遺伝子の3'末端に付加し、単一定常遺伝子を有するYAC構築物を作製した。次に、同様の手法を採用し、C
H1ドメインが全て欠失している複数のマウス定常遺伝子Cγ1、Cγ2b及びCγ2aを含むYAC構築物を作製した。
【0129】
1.3.1 単一マウスC遺伝子を有するYAC
酵母形質転換用のDNAフラグメントの調製
マウスμエンハンサー及びスイッチμエレメント
フォワードプライマー:GACATTCTGCCATTGTGATTACTACTACTACTACGGTATGGACGTCTGGGGGCAAGGGACCACGGTCACCGTCTCCTCAGGTAAGAAT(配列番号1)。このプライマーの最初の69bpは、ヒトJ6由来のものである(ID: J00256、http://www.imgt.org/IMGTlect/?query=201+J00256)。このプライマーの最後の24bpは、マウス配列3'からJ4に相補的である。リバースプライマー:TTGAGGACCAGAGAGGGATAAAAGAGAAATG (配列番号2)、このプライマーは、領域5'からマウスIGHμ C
H1に相補的なリバースである(
図6)。テンプレートとしてBAC RP23-354L16を使用する2つのプライマーによるPCRを行い、マウスμエンハンサー及びヒトJ6領域に相同な一末端を有するμスイッチ領域をカバーする5.8kbのフラグメントを作製した。
【0130】
C
H1が欠失されたマウスCγ1遺伝子
フォワードプライマー:AGAGGACGTATAGGGAGGAGGGGTTC (配列番号3);リバースプライマー:AACACCTTCAGCGATGCAGAC (配列番号4)。テンプレートとしてBAC RP23-354L16を使用するこれらの2つのプライマーを含む7.8kbのPCR産物は、C
H1エキソン以外のマウスCγ1転写領域全体をカバーする(
図7)。
【0131】
非オーバーラップEμ、Cγ1及びYACアームフラグメントを架橋するリンカー
Eμ及びCγ1フラグメントに対するリンカー1:TCATGCCCCTAGAGTTGGCTGAAGGGCCAGATCCACCTACTCTAGAGGCATCTCTCCCTGTCTGTGAAGGCTTCCAAAGTCACGTTCCTGTGGCTAGAAGGCAGCTCCATAGCCCTGCTGCAGTTTCGTCCTGTATACCAGGTTCACCTACTACCATATCTAGCCCTGCCTGCCTTAAGAGTAGCAACAAGGAAATAGCAGGGTGTAGAGGGATCTCCTGTCTGACAGGAGGCAAGAAGACAGATTCTTACCCCTCCATTTCTCTTTTATCCCTCTCTGGTCCTCAGAAGAGGACGTATAGGGAGGAGGGGTTCACTAGAGGTGAGGCTCAAGCCATTAGCCTGCCTAAACCAACCAGGCTGGACAGCCATCACCAGGAAATGGATCTCAGCCCAGAAGATCGAAAGTTGTTCTTCTCCCTTCTGGAGATTTCTATGTCCTTTACACTCATTGGTTAATATCCTGGGTTGGATTCCCACACATCTTGACAAACAGAGACAATTGAGTATCACCAGCCAAAAGTCATACCCAAAAACAGCCTGGCAT(配列番号5)。リンカー1を作製するため、PCR1(313bp、プライマー1 F): TCATGCCCCTAGAGTTGGCTG; プライマー1 R: GAACCCCTCCTCCCTATACGTCCTCTTTGAGGACCAGAGAGGGATAAAAGAGAAATG (配列番号6))、及びPCR2(258bp、プライマー2 F: AGAGGACGTATAGGGAGGAGGGGTTC(配列番号7); プライマー2 R: ATGCCAGGCTGTTTTTGGGTA(配列番号8)を、テンプレートとしてBAC RP23-354L16を使用して合成した。オーバーラップする配列を含むPCR1及びPCR2は、プライマー1 F及びプライマー2 Rを使用する融合PCRによってリンカー1に構築された。
【0132】
Cγ1及びYACアームフラグメントに対するリンカー2:
TACATCTTTTTTCCTCTCTGTCTGCATCGCTGAAGGTGTTTCGTCGCCGCACTTATGACT GTCTTCTTTA TCATGCAACT(配列番号9)
【0133】
YACアーム
LEU2遺伝子マーカーを有する5.7kbのYACアームは、PshAI及びBamHI制限酵素を用いて、pYNOTベクター(
図8、URA3をLEU2マーカーで置き換えることによりpYAC3から得たもの)を消化することによって作製した。
【0134】
酵母相同組換えによるヒトC領域のマウスC領域による置き換え
酵母スフェロプラスト形質転換(Sanchez and Lanzer, 2006)を使用し、5つのフラグメント(マウスEμ、マウスCγ1、YACアーム、リンカー1及びリンカー2)を、ヒトC領域を含むYACを有する酵母YLBW1株へ導入した。形質転換体は、トリプトファン及びロイシン欠失培地で選択した。ヒトJ6でオーバーラップする配列間の相同組換えによって、ヒト遺伝子がマウスEμ及びCγ1で置き換えられた。この新しいYACは、PCR及び連結部位の配列決定により特性決定された。
【0135】
3'エンハンサーの付加
42kbの3'エンハンサーフラグメントのBAC-YACベクターへのクローニング
マウス3'エンハンサーは、42kbの領域3'から最後の定常遺伝子Cαに散在されているエレメントhs3A、hs1.2、hs3B、hs4、hs5、hs6及びhs7を含有している。Cγ1遺伝子の3'部位に全エンハンサーを付加するため、エンハンサーエレメントの全てをカバーする42kbのMfeIフラグメントを、invitrogen社によって提供されている説明書に従って、BAC-YACベクターpYES1L(Invitrogen社)へサブクローニングした。構築物は、PCR、PFGE及び配列決定によって完全に特性決定された。MfeI消化によって、その後の酵母形質転換用のベクターから42kbのフラグメントが切り離された。
【0136】
ハイグロマイシン-HIS3 YACアームの調製
YACベクター(pHKT-Hy、
図9)は、ハイグロマイシン(Hy)耐性遺伝子をpHKT(LEU2をHIS3マーカーで置き換えることによりpYNOTから誘導したもの)中へ挿入することによって構築した。SpeI及びBamHIを用いるこのベクターのダブル消化によって、Hy-HIS3-テロメアを含有する6.2kbのYACアームフラグメントが作製された。
【0137】
3'エンハンサーフラグメントをマウスCγ1遺伝子及びHy-HIS3 YACアームに架橋するリンカー
マウスCγ1及び42kb 3'エンハンサーに対するリンカー1(626bp)
ACGGCTCAGGAGGAAAAGGCACTCTGTGTGGAGCTCTTCAGTGGGTATGAAATGGTGATGGAGAAGCCCAGGTGCACTGAAAATCCAGGAGCTGAATTTGATCACCAGGACGCATATGGTAGAGAGGAAAATGAATTGATTCCCAAATGTTCTCCTCTATGTGTGCACCGTGGCATGTGCATGCACACAATTACACATAAACACATTCAACATAAATACAACACACATATACACGCTGCACACACATACACACACAGAACACACACCACACACACACACCACACACAATCACACACATATTCCACACAGTACACCACAAACATCTATACACACCACACACACACAGACACACACACACACACATTCATACACAGCACAACACAAACATCTATACACAACACACACACAATACACATAGTCACACGCATATTCACTCACACACATATTCACCCACACACAATCATACATAGACACATTCAACATAAACACAACACCACACACACACACACTTGCACACACAAATGTAATGATTTTTTTAAGGACTACATCTTTTTTCCTCTCTGTCTGCATCGCTGAAGGTGTTCAATTGCCAAAATCACAGGTGAGCCCAGATGCATACCCGGGAC(配列番号10)。リンカー1を作製するため、PCR1(604bp、プライマー1 F: ACGGCTCAGGAGGAAAAGGCAC (配列番号11);プライマー1 R: TCACCTGTGATTTTGGCAATTGAACACCTTCAGCGATGCAGAC (配列番号12))を、テンプレートとしてBAC RP23-354L16を使用して合成した。次いで、PCR1は、プライマー1 F及びプライマーR: GTCCCGGGTATGCATCTGGGCTCACCTGTGATTTTGGCAATTG (配列番号13)により626bpまで延長した。
【0138】
42kb 3'エンハンサー及びHy-HIS3 YACアームに対するリンカー2(766bp)
GAGGTACAGGGGGCTCATGGGTTTATAAGTTCAGGTTTATACCAAGGTTTCGGGGGGTAGCCTGAGGCTCATGTACCTTCTTGTGGTAGCCCCCAGGTTCTGTGCATGGTACTGCTCAGTTACTGGCATGGCTTCTGGGAAGGCTGGGCTCCCACGTCCCCTGTGGACACATGGTTACGCCAAGAACAGAACTACAAAGTTAGGAGTTACCATTCCCACCTGCACCTGTATCTCCAGTACCTGGGTTTCTAAGACGTAGTGAGTCCTCTTGCCAACCAGGGTCTGCCACAATGGTCAGGCACAGCTGTGGGCCGGTCAGCCCCATCAGGTCACACCAGCAGGTCCCAGGAGCACAGAGCTTAAATGCCCCCTAGTGTCCCTAGTGAGGCTCCGGTGCCCGTCAGTGGGCAGAGCGCACATCGCCCACAGTCCCCGAGAAGTTGGGGGGAGGGGTCGGCAATTGAACCGGTGCCTAGAGAAGGTGGCGCGGGGTAAACTGGGAAAGTGATGTCGTGTACTGGCTCCGCCTTTTTCCCGAGGGTGGGGGAGAACCGTATATAAGTGCAGTAGTCGCCGTGAACGTTCTTTTTCGCAACGGGTTTGCCGCCAGAACACAGGTAAGTGCCGTGTGTGGTTCCCGCGGGCCTGGCCTCTTTACGGGTTATGGCCCTTGCGTGCCTTGAATTACTTCCACCTGGCTGCAGTACGTGATTCTTGATCCCGAGCTTCGGGTTGGAAGTGGGTGGGAGAGTTCGAGGCCTTGCGC(配列番号14)。リンカー2を作製するため、PCR1(379bp、プライマー1 F: GAGGTACAGGGGGCTCATGGGT (配列番号15);プライマー1 R:AGCCTCACTAGGGACACTAGGGGGCATTTAAGC (配列番号16))及びPCR2(387bp、プライマー2 F:CCCTAGTGTCCCTAGTGAGGCTCCGGTGCCCGT (配列番号17);プライマー2 R:GCGCAAGGCCTCGAACTCTC (配列番号18)を、テンプレートとしてBAC RP23-354L16及びBAC RP24-72M1をそれぞれ使用して合成した。オーバーラップする配列を有するPCR1及びPCR2は、プライマー1 F及びプライマー2 Rを使用する融合PCRによって、構築されリンカー2が作製された。
【0139】
酵母形質転換
4つのフラグメント(3'エンハンサー、Hy-HIS3-テロメアYACアーム、リンカー1及びリンカー2)は、酵母スフェロプラスト形質転換によって、3'エンハンサー付加用のYACを含有する酵母YLBW1株に導入された。形質転換体は、トリプトファン及びヒスチジン欠失培地上で選択した。オーバーラップするフラグメント間の相同組換えによって、3'エンハンサー及びYACを選択するためのHy-HIS3-テロメアアームが付加され、Crescendo YAC1又はYAC2が作製された(
図10)。この新しいYACは、PCR及び連結部位の配列決定により特性決定された。この新しいYACのサイズは、PFGE及びサザンブロッティングによって確認した。
【0140】
1.3.2 複数の定常遺伝子を有するYAC
マウスCγ1遺伝子を含有するYACに加えて、複数の定常遺伝子-全てがC
H1ドメインを欠失しているマウス定常遺伝子Cγ1、Cγ2b及びCγ2aを含むように他のYACが設計された(
図10)。
【0141】
C
H1が欠失したCγ2b及びCγ2aを含有する45kbのフラグメントの作製。
下記に挙げたプライマーを使用し、7つのオーバーラップするPCRフラグメントを、テンプレートとしてRP24-72M1を使用して増幅させた。フラグメント3は、Cγ2b(C
H1欠失)との融合PCRによって合成された。フラグメント6は、Cγ2a(C
H1欠失)との融合PCRによって合成された。
【0142】
7つのPCRに対して使用したプライマー:
フラグメント1:45k-1 8057bp
フォワード:GGTTGGATTCTATCTTCGCATGG(配列番号19)
リバース:TGGGTCCTGTCTTTCTACCTTTG (配列番号20)
フラグメント2:45k-2 8304bp
フォワード:GCTCCTTGCTGGGTCTTAATGTT(配列番号21)
リバース:TTAGAACCGTGTCTTCTACAATTGA(配列番号22)
フラグメント3:45k-3 1.3kb C
H1Δ
45k-3-左
フォワード:GGGTAGGAGGTTGTTGGTTA(配列番号23)
リバース:CCCGCTGGGCTCTGCAAGAGAGGAGAATGTGTGA(配列番号24)
45K-3-右
フォワード:CTCTCTTGCAGAGCCCAGCGGGCCCATTTCA(配列番号25)
リバース:GCTTGTTTTTATATCGAGCTTGC(配列番号26)
フラグメント4:45k-4 8412bp
フォワード:TCAGTCTCACTTGCCTGGTCGT(配列番号27)
リバース:CTTTGTAGCACATGCGTCATCC(配列番号28)
フラグメント5:45k-5 9012bp
フォワード:TGAAGGCATGAAGGAGTTGAGC(配列番号29)
リバース:ACAACCCCCTATCCTACACATT(配列番号30)
フラグメント6:45k-6 2274b C
H1Δ
45k-6-左
フォワード:GGGTCCTGGCAACATTAGCG(配列番号31)
リバース:CACTCTGGGCTCTGCAAGAAAGGAGGATGTGTGA(配列番号32)
45k-6-右
フォワード:CTTTCTTGCAGAGCCCAGAGTGCCCATAACAC(配列番号33)
リバース:TGGTGTTCAGCAGGCTAATTTG(配列番号34)
フラグメント7:45k-7 9968bp
フォワード:CAGGCCCCACTTCTTTACCTAA(配列番号35)
リバース:TTGTTAGTTCATCACAGGGCAATTC(配列番号36)
7つのPCR産物並びに末端のフラグメント1及びフラグメント7に対するオーバーラップ配列を含む線状化BAC-YACベクターを相同組換えのため酵母に形質転換した。45kb-YACは、連結のPCR、PFGE及び配列決定によって確認された。PmeI制限酵素は、環状YACから45kbフラグメントを切り離す。
【0143】
C
H1が欠失したCγ1、Cγ2b及びCγ2aを含有する58kbフラグメントの作製。
マウスμエンハンサー及びスイッチμフラグメント、C
H1が欠失したCγ1フラグメント及びリンカー1(1.3.1)、Cγ2b及びCγ2aを含有する45kb PmeI制限フラグメント、並びに末端の5'のμエンハンサーフラグメント及び3'の45kbフラグメントに対するオーバーラップ配列を有する線状化BAC-YACベクターを、相同組換え用の酵母に形質転換した。58kb-YACは、連結のPCR、PFGE及び配列決定によって確認された。PmeI制限酵素は、環状YACから58kbフラグメントを切り離す。
【0144】
複数の定常遺伝子を有するYACに関する酵母形質転換
1つがCγ1-Cγ2b-Cγ2aを含む58kb、もう1つが、58kbフラグメントの3'末端に対するオーバーラップ配列を有するYACアームである2つのフラグメントを、スフェロプラスト形質転換によって、Cγ1-Cγ2b-Cγ2a遺伝子を付加するために設計されたYACを含有する酵母に導入した。形質転換体は、YACアームに含まれている栄養要求性マーカーに基づき、アミノ酸欠失培地で選択された。オーバーラップフラグメント間の相同組換えによって、Cγ1-Cγ2b-Cγ2aフラグメント及び新規YACアームが、選択したYACに付加された。この新しいYACは、PCR及び連結部位の配列決定によって特性決定された。この新しいYACのサイズは、PFGE及びサザンブロッティングによって確認した。次に、42kbのマウス3'エンハンサーが(上述のようにして)付加され、Crescendo YAC3が作製された(
図10)。
【0145】
(実施例2)
ノックアウトマウスの作製
マウス重鎖遺伝子座(WO2004/076618及びRen, L.ら, Genomics 84 (2004), 686-695)、マウスラムダ遺伝子座(Zou, X.ら, EJI, 1995, 25, 2154-2162及びWO2003/000737)並びにカッパ遺伝子座(Zou, X.ら, JI 2003 170, 1354-1361及びWO2003/000737)を発現停止させるために使用される方法は、既に開示されている。簡単に説明すると、マウス重鎖定常領域及びマウスラムダ鎖遺伝子座の大規模な欠失により、これらの2つの免疫グロブリン鎖の発現停止が生じた。カッパ軽鎖は、ネオマイシン耐性カセットの標的挿入を介して発現停止された。
【0146】
a)重鎖及び軽鎖KOマウスの交雑育種
内因性軽鎖(カッパ及びラムダ)の二重発現停止を有するマウスは、従来の育種によって作製した(Zou, X.ら, JI 2003 170, 1354-1361)。これらの軽鎖KOマウスを重鎖KOマウスと共に更に飼育し、トリプルノックアウト(TKO)系を得るための交配用トリプルヘテロ接合動物を得た。この系は繁殖力があることが判明し、純粋な育種系統として維持されている。
【0147】
b)交雑育種による後代の遺伝子型決定
プライマーは、内因性重鎖、カッパ軽鎖及びラムダ軽鎖領域のそれぞれについて、野生型と発現停止された遺伝子座との間の識別ができるように設計した。ゲノムDNAは、仔から得た尾部又は耳の生検から抽出し、PCR反応内の鋳型DNAに使用した。gDNAは、十分に開示されている方法を使用して(例えば、メーカーの使用説明書に従い、Viagen Direct PCR溶解試薬(尾部)cat no 102-Tを使用して)抽出した。以下のプライマー(Sigma社から購入したもの)をPCR反応において使用した。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
これらのプライマーは、様々なDNAポリメラーゼ酵素及びバッファーと共に使用することができ、サイクル条件は特定の酵素に適合させることができる。一例として、Fermentas DreamTaq-Ready Mix (#K1081)は、以下のように使用することができる;
【0152】
【表4】
【0153】
1ulのテンプレートを反応に使用した。陽性対照及び水の対照は、遺伝子型同定されるサンプル中に常に含まれていた。以下のサイクル条件を特にこの酵素に対して使用した;
【0154】
【化1】
【0155】
PCR反応後、産物は、1%アガロースゲルでの電気泳動後にDNA染色を使用して可視化した。
図11は、wt、重鎖KO、軽鎖KO又はTKO遺伝子型を有する2匹の動物から抽出したゲノムDNAの代表的な遺伝子型決定実験の結果を示す。
【0156】
c)TKOマウスにおける内因性免疫グロブリン発現の欠失
TKOマウスのヌル表現型は、マウス重鎖、重鎖/軽鎖複合体及び軽鎖に特異的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて確認した。簡単に説明すると、免疫吸着プレート(例えば、Nunc Maxisorb 96Fウェルプレート カタログ番号443404)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した捕捉抗体の5ug/ml溶液でコーティングした。PBS/0.05% Tween、PBSで洗浄し、粉乳の3%溶液でブロッキングした後、血清希釈液(3%粉乳/PBS中)をプレートにアプライした。非結合のタンパク質を洗浄した後、結合タンパク質を適切なビオチン化-検出抗体溶液で検出し、予め決定した最適希釈液を使用し、続いてニュートラアビジン-HRPで可視化を行った。様々な市販の抗体をこれらのELISAに使用することができる。Table 1(表5)は、こうした抗体の例を示す。
【0157】
【表5】
【0158】
図12に示すように、TKOマウスは、検出可能な内因性免疫グロブリン鎖が欠損していることが示された。2匹の野性型マウス及び2匹のTKOマウスのそれぞれからの血清サンプルをアッセイした。
【0159】
d)ES細胞の単離及び培養
胚幹細胞の単離は開示されている(Ying, Q.L.ら, Nature, 453, 519-523, 2008, Nichols, J.ら, Development, 1136, 3215-3222, 2009, Nagy, K. & Nichols, J., "Derivation of Murine ES Cell Lines", p431 - 455 in "Advanced Protocols for Animal Transgenesis. An ISTT Manual. Shirley Pease & Thomas L. Saunders編)。この2i法は、FGF/Erkシグナル伝達系を遮断し、ES細胞を未分化状態に維持する小分子阻害剤を利用する。更に、これらの阻害剤を含有する培地で初期の胚をインキュベートすると胚の細胞内塊が胚盤葉系統に分化し、分化誘導内胚葉の発生が阻害される。これによって、ES細胞株をより容易に得ることができる豊富な外胚葉区画が提供される。
【0160】
ES細胞株はTKO胚から誘導した。初期段階TKO胚は、胚盤胞期に達するまで、参照した方法で定義されているように、凍結保存から解凍し培養した。次いで、これらを更に2日間培養した後、外胚葉を遊離させたが、これは、抗マウス血清及び補体を使用し、栄養外胚葉を除去することによって行った。次いで、外胚葉を増殖させた後、トリプシン溶液中で分解し、得られたES細胞株を増殖させた。ES細胞株及びクローンの増殖用培地は十分に開示されている。本事例の場合、ES株は、2i培地で維持されるか、又はLIF及び血清を補充した培地上で分離した。
【0161】
(実施例3)
遺伝子導入
a)前核マイクロインジェクション
トランスジェニック動物を作製するDNAの前核マイクロインジェクション技術は十分に開示されている(例えば、K. Becker & B. Jerchow "Generation of Transgenic Mice by Pronuclear Microinjection" pp 99-115 in "Advanced Protocols for Animal Transgenesis. An ISTT Manual. Shirley Pease & Thomas L. Saunders編、Springer Protocols 2011を参照されたい)。簡単に説明すると、受精卵母細胞は、繁殖用雄と交配した過剰排卵雌マウスから単離する。過剰排卵にするため、雌に、妊娠雌馬血清ゴナゴトロピン(PMSG)5 I.U.を含有するPBS 100ulを2日前に腹腔内注射する。46〜48時間後、PBS 100ul中のヒト絨毛膜性腺刺激ホルモン(hCG)5 I.U.を投与し(腹腔内)、雌を繁殖用雄と交尾させる。翌朝、卵丘複合体を、ヒアルロニダーゼ溶液で消化することによって遊離させ、回収卵管及び卵母細胞から採取する。マイクロインジェクション用の受精卵母体の産生には、様々な系統のマウスを首尾よく使用することができる。
【0162】
C57Bl6×CBA F2野性型(wt)マウスを使用し、上記の手順を採用し、精製YAC DNAを導入した。遺伝子組換えの概説において示したように(
図13)、TKOマウスを使用する場合、同様の手順を採用する。マイクロインジェクションに向けてのこれらの精製を容易にするため、YACを、いわゆる「window」と呼ばれる株の酵母に形質転換した(Hamerら, PNAS, 1995, 92(25), 11706-10)。「window」株の酵母は、ゲル電気泳動に供した場合、パッセンジャーYACが酵母内因性染色体を欠くサイズで移動するよう、内因性染色体の方策上の分裂により作製された一連の宿主酵母である。或いは、酵母染色体を分割する適切なプライマー及びPCR方法を使用して、適切な「window」を新たに作製した。したがって、マイクロインジェクション用のYACは、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)、続いて第2のゲル電気泳動溶出法を使用し、精製した。この手順は、"Generation of Transgenic Animals by Use of YACs" pp 137-158 in "Advanced Protocols for Animal Transgenesis. An ISTT Manual. Shirley Pease & Thomas L. Saunders編、Springer Protocols 2011に、A. Fernandez, D. Munoz & L. Montoliuによって述べられている。受精した卵母細胞の回収後、精製したYAC DNA溶液を、プル式ガラスマイクロインジェクション針を使用して前核に注入した。全ての作業は、加熱したステージを備えた顕微鏡下でマイクロマニピュレーターを使用して行われ、除振台にマウントした。マイクロインジェクション後、卵母細胞を24時間まで回復させ、次いで、偽妊娠代理母の卵管に移植した。偽妊娠の雌は、移植日の24時間前に精管を切除した繁殖用の雄と雌を交配させることにより得た。仔は、通常、19〜21日後に分娩された。YACのマイクロインジェクションは、それらのサイズに基づいた、要件の厳しい方法であり、挿入効率は、より小さいBAC又はプラスミドで確認される効率よりも低い。Table 2(表6)に、2つの関連するYAC構築物で実施したマイクロインジェクションプロジェクトから得られた統計をまとめている。
【0163】
【表6】
【0164】
b. ES細胞
YAC構築物をES細胞に導入するのには様々な経路がある(下記に記載)。どの経路を選択するかにかかわらず、導入遺伝子の組み込みに成功したESクローンを取得することが目的である。前核マイクロインジェクション技術に関するES介在性遺伝子組換えの利点は、トランスジェニック系統の作製にそれらを使用する前にESクローンを完全に特性決定することができるということである。ESクローンに対して実施される特性決定は、前核インジェクション由来のF0動物及びF1動物をスクリーニングするのに使用したものと本質的に同じである(下記を参照)。またin situハイブリダイゼーションを適用して、組み込みの染色体を決定することもできる。これは、ES細胞がTKOよりもむしろwtである場合に、特に望ましい可能性がある。内因性マウス免疫グロブリン遺伝子座を欠損する染色体上に組み込まれたYACを有するESクローンのみが、トランスジェニック系統の作製に選択され得る。この事前選択によって、TKOバックグラウンドへの戻し交配を効果的に妨げる結合遺伝子座が存在しないことが確実になる。
【0165】
今後、ES細胞のB細胞系統へのin vitro分化をサポートする方法の開発は、遺伝子組換え前に、導入したトランスジェニック遺伝子座の機能試験を可能にし得る。しかし、現在、これは技術的に実現可能ではない。
【0166】
i)精製YACのトランスフェクション
YACは、前述したように、本質的に精製することができる(上記「マイクロインジェクション用のYACの調製」を参照)。精製YACは、例えば、リポフェクションを使用して(例えば、Invitrogen社リポフェクタミン試薬と共に)ES細胞に導入し、その後、ES細胞はハイグロマイシンを使用する選択に供する(YAC設計により指示されているように、代替の選択的試薬を使用することができる)。クローンが選抜及びスクリーニングされ、適切なクローンを使用してトランスジェニック系統が作製される。様々な特徴が構築物及び/又は標的化ES細胞に導入され、トランスフェクトされたESクローンの誘導を促進することができる(下記を参照)。
【0167】
ii)スフェロプラスト融解法
YACをES細胞に導入する別法は、スフェロプラスト融合による。この方法は、大きな構築物の操作が最小限に抑えられ、それによって、剪断によって構築物に損傷が生じる可能性を制限するという利点を提供する。スフェロプラスト融合技術は開示されている(Davies, N.ら, "Human antibody repertoires in transgenic mice: manipulation and transfer of YACs"p59-76 in "Antibody Engineering. A Practical Approach" Ed. McCaffertyら, IRL Press at Oxford University Press, 1996)。簡単に説明すると、酵母スフェロプラストは、酵母細胞壁のチモリアーゼ消化によって作製される。分解したES細胞をスフェロプラストと混合し、ポリエチレングリコール溶液を添加することによって融合が行われる。培地中に再懸濁した後、ES細胞を洗浄し、下記のように、選択培養、クローニング、スクリーニングに供する。
【0168】
iii)Tg/TKO ES細胞の標的ビルドオン
YAC1導入遺伝子(後続の全てのYAC構築物に共通のコア構造を含有する)にさらなる特徴を加える代替方法は、ES細胞株内に位置しているYAC1導入遺伝子の標的伸長を実施することである(
図14)。YAC1導入遺伝子を有するES細胞株は、in vitroで作製するか、又はYAC1トランスジェニックマウスの胚に由来する。新しい特徴は、本明細書の他の箇所に記載されているような相同組換えによって、又は挿入ベクターの使用によって、導入遺伝子に導入され得る。
【0169】
(実施例4)
初代の特性決定及びスクリーニング
a)導入遺伝子の存在及び生殖細胞系伝達
マイクロインジェクションを行った卵母細胞移入後の全ての仔について、それらのゲノムDNA内のYACの存在をチェックした。ES細胞由来のトランスジェニック仔では、毛色遺伝学もまた適切な胚盤胞ドナー動物の選択と組み合わせて利用され、キメラ仔は、その毛色から容易に同定され得る。以下のスクリーニングの例は、前核マイクロインジェクション遺伝子組換えに由来する同腹仔を使用する。しかし、ESクローンを遺伝子組換えの前に同様の分析に供し、得られた同腹仔を確証的な結果についてスクリーニングすることができる。
【0170】
YAC導入遺伝子の試験は、尾部又は耳の生検からgDNAを精製し、PCR反応を使用してYAC領域を試験することを含む。gDNAの単離及びPCRの方法は既に記載している(上記参照)。YACのそれぞれの末端領域を標的とするPCR反応を実施し、次いで、両領域の陽性組み込みを有するいずれかのサンプルを、YAC導入遺伝子の様々な内部領域を増幅するように設計したさらなるプライマーを用いてスクリーニングした。これらのスクリーニングに使用したPCRプライマーをTable 3(表7)に記載する。次いで、PCRの陽性結果をもたらすいずれかの初代マウス(F0)を交配させ、導入遺伝子の生殖細胞系伝達をチェックし、PCRスクリーニング結果がフラグメントではなく無処置のYACの存在に起因することも確認した。後者の場合、最も可能性の高いシナリオは、フラグメントが異なる染色体上に位置し、このように、F1後代の中でそれらの独立した分離によって同定されるということであった。初代及びその生殖細胞系伝達のスクリーニングの一例を
図15に示す。
【0171】
【表7A】
【0172】
【表7B】
【0173】
【表7C】
【0174】
【表7D】
【0175】
b)YAC導入遺伝子のフィンガープリント分析
全ての場合において、トランスジェニック遺伝子座は、ヒトゲノムDNA配列を有していた。したがって、ヒト配列中に存在する繰り返しモチーフであるヒトDNA AluエレメントG15N2(Genbank X55929.1)の存在をスクリーニングすることができる。制限酵素で消化したヒトgDNAの所定領域は、Aluプローブを使用するサザンブロット分析で特性吸収帯パターンを生じる。したがって、YACのAluフィンガープリントを、トランスジェニック動物から抽出したgDNAから得られたものと比較し、導入遺伝子の構造上の完全性の指標を得る。完全なYAC導入遺伝子では、酵母内に存在するYACと同様のフィンガープリントが得られることが予想される。
【0176】
Aluプローブは、以下のプライマーを使用し、クローン配列(Genbank X55929.1)又はgDNAから調製する:
【0177】
【表8】
【0178】
以下がサイクル条件である;
【0179】
【化2】
【0180】
プローブは、放射性又は非放射性の方法のいずれかを使用して標識する(例えば、DIGプローブ合成キット(Roche社、カタログ番号11636090910)を使用し、PCR工程中に、DIG-dUTP残基に付加する)。次いで、プローブ化サザンブロットの化学発光性検出は、アルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体、続いて適切な基質の付加によって行う(例えば、CDP-Star発光基質、Sigma社C0712)。
【0181】
c)導入遺伝子のコピー数
YACの複数のコピーがトランスジェニックマウス(又は選択したESクローン)のゲノム内に存在している可能性がある。これは、異なる組み込み部位で、又は単一染色体の位置での繰り返し方式のいずれかで起こり得る。独立して分離される組み込み部位の数は、遺伝学上の遺伝パターンの研究及びメンデル遺伝学の適用から推論することができる。例えば、単一の組み込み部位は、後代に50%の遺伝パターンをもたらすが、2つの組み込み部位は、3:1のトランスジェニック:非トランスジェニック遺伝をもたらす。
【0182】
Q-PCR系の手法を用いて、YAC領域由来のアンプリコンの相対量とハウスキーパー遺伝子のPCR反応物とを比較した。コピー数評価は、基準のアンプリコン及び導入遺伝子アンプリコンが独自の色素を使用して記録される多重反応を使用して試みた。例えば、ハウスキーパー二倍体遺伝子(例えば、マウストランスフェリンレセプター;Invitrogen社、カタログ番号4458366)及びYAC領域(例えば、導入遺伝子のヒトJ領域;Taqmanコピー数アッセイid Hs03892805_cn、又はハイグロマイシン選択遺伝子;アッセイid Mr00661678)に特異的なアッセイを使用するTaqManプローブ技術(又は適切な代替技術)を使用した。
【0183】
これらの反応に関して、Q-PCRは、市販の試薬(例えば、Taqman Genotyping Master Mix 400rxns、カタログ番号4371355)を使用し、メーカーが推奨する条件に基づいた条件を用いてセットアップし、それぞれのアンプリコンに対するCT値を同一PCR反応内で測定した。コピー数分析の一例を
図16に示す。本実施例において、マウス由来のDNAのQ-PCR分析によって、YAC2(単一コピー組み込み体)についてはヘテロ接合体であり、又はYAC2導入遺伝子(2つのコピー)についてはホモ接合体であることが示される。
【0184】
(実施例5)
TKOへの育種
a)従来の育種
野生型バックグラウンドで作製したトランスジェニックマウスをTKO系統と戻し交配し、導入遺伝子をこの所望のバックグラウンドに移した。これは、それぞれの育種スケジュールごとに選択される、慎重に遺伝子型が同定された後代との連続する育種工程を使用する従来の育種によって行った。
【0185】
b)戻し交配組み込みIVF
TKOバックグラウンドへのトランスジェニック系統の実施には、完了するまで、それぞれ一巡の育種に9〜12週間を要する時間のかかる手順である。しかし、IVF方略を使用し、慎重なスケジューリングを行うことにより、戻し交配を完了してTg/wtのTKO系統との最初の交配から約15週間以内にTg/TKO仔のかなり大きい同齢集団(cohort)を得ることができる程の規模まで育種を拡大した。Table 5(表9)は、こうしたIVF-促進育種プログラムから得たデータを含んでいる。同様のIVF工程を使用して、既にTKOバックグラウンドで得られているトランスジェニック系統を(例えば、TKO/ES細胞から、又は前核マイクロインジェクションからTKO卵母細胞へ)速やかに展開させることができる。
【0186】
トランスジェニックドナーの雄マウスに由来する精子との受精用に大量の卵母細胞が得られるようにTKOマウスを使用することが可能な条件を決定した。簡単に説明すると、8〜12週齢の雌マウスをホルモンで処理し、過剰排卵を誘導した(実施例3を参照)。卵母細胞を繁殖用トランスジェニック雄由来の精子と受精させ、受精した卵母細胞を、4〜24時間以内に偽妊娠雌へ移植するか、又は後の移植用に凍結保存するかのいずれかを行った。
【0187】
【表9】
【0188】
(実施例6)
導入遺伝子使用の評価
B細胞発生中に、免疫グロブリン遺伝子座の体細胞組換えが起こり、抗体レパートリーが生じる(例えば、概説については、Kuby Immunology、第6版; T.J. Kindt, R.A. Goldsby, B.A. Osborne, J Kuby. W.H. Freeman and Company刊, New York, 2007を参照)。重鎖については、この方法はV-D-J領域の組換えを含む。これらの遺伝子セグメントのあいまいな連結によって、ナイーブレパートリーの利用され得る潜在的な多様性が増す。スプライシングされたVDJ遺伝子フラグメントによりV
Hドメインが生じ、これを、定常域遺伝子によってコードされている別のドメインに連結させる。再配列されたgDNAによってB細胞内にRNA転写物が生じ、これらが翻訳され、膜発現及びHcAb分子の分泌の両方が起こる。したがって、YAC導入遺伝子転写産物の機能的活性を探索する場合、B細胞及び血清タンパク質の両方をアッセイした。
【0189】
以下のセクションでは、導入された導入遺伝子が機能性であるかどうかを判断するために使用することができる、様々な分子、タンパク質及び細胞のアッセイのいくつかを記載する。
【0190】
a)分子の分析;転写産物-RT-PCR、クローニング及び配列決定
リンパサンプル(例えば、血液サンプル、脾臓)をトランスジェニック動物から取得した。RNAは、市販試薬(例えば、RNeasy Qiagenキット、カタログ番号74106)を使用してリンパサンプルから単離し、Supercript III酵素(Gibco社)と共に適切なプライマー(下記に詳細)又はoligodTプライマー(Gibco社)を使用して逆転写した。関連する全てのバッファー及び条件は、メーカーにより推奨されたものであった。このようにして得られたcDNAは、V
Hドメインに特異的なプライマーを使用するか(いくつかは、以後のライブラリー作製に適用-以下を参照)、又はV
Hリーダー及び定常領域に関するプライマー(Table 6(表10))を用いて、V
H領域を増幅するPCR反応に使用した。
【0191】
【表10A】
【0192】
【表10B】
【0193】
以下の実施例において、PCR反応は、プルーフリーダー酵素(例えば、Phusion高正確性DNAポリメラーゼ、カタログ番号F530S)及び「タッチ-ダウン」PCRサイクル条件を使用した。
実施例タッチダウンプログラム;
【0194】
【化3】
【0195】
PCR産物を精製し、市販のクローニングベクター(例えば、pJET1.2, Fermentas K1231)にクローニングするか、又は、NcoI及びXhoIで消化した後、ファージミドベクターへクローニングするか、又は、PCR系クローニング方法を使用し、ファージミドベクターに組み込んだ(ファージミドベクターの詳細については、
図17及び後記を参照)。
【0196】
クローンを配列決定し、導入遺伝子由来の転写産物が存在するかどうかを決定するため分析した。トランスジェニック動物からクローニングされた転写産物の例を
図18に示す。トランスジェニック動物内のV
Hレパートリーの利用可能な多様性もまた、こうした配列分析から推定することができる(ただし、バイアスが、例えば、サンプリングのプロセス又は特定のPCR増幅工程の包含から生じる可能性がある)。
図19に示した例では、V
Hは、個々のナイーブトランスジェニックマウスからクローニングされた。トランスジェニック動物は、クローニング工程でポリメラーゼ鎖増幅を使用したにもかかわらず、多様なB細胞レパートリーを有し、複製配列はほとんど確認されないことが明らかである。広範囲のCDR3の長さがこの単一のマウス分析から明らかであった。配列を生殖細胞系列V
H配列と比較し、変異性プロットを構築した。ナイーブマウス由来のV
Hは、ほとんどが生殖細胞系列であり、CDR3領域外ではほとんど変異はなかった。上記で概説した従来のクローニング及び配列決定に加えて、V
Hレパートリーは、例えば、次世代配列決定を使用して分析することで、トランスジェニック動物のトランスクリプトームを調べることができる。
【0197】
b)タンパク質分析-血清ELISA
サンドイッチELISA技術は既に開示されている(TKOマウスの特性決定を参照)。適切な抗体の対を捕捉及び検出に使用し、導入遺伝子によってコードされているタンパク質をトランスジェニックマウスの血清で検出した。サンドイッチELISAに使用した試薬は、市販されている。ELISAを使用して血清内のHcAbを検出した、トランスジェニックマウスの分析を
図20に示す。
【0198】
また本発明者らは、ヒトV
H遺伝子を利用するHCAb産生のトランスジェニックプラットフォームの性能に関するトリプルノックアウトバックグラウンドの重要性を検討した。これを実施するため、本発明者らはELISAを使用し、内因性重鎖遺伝子はノックアウトされたが、様々な内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子ノックアウトバックグラウンドを有するマウスの血清中のHCAb及び重鎖/軽鎖複合体の存在を探索した(
図33を参照)。捕捉抗体については、ヒト、ウシ、ウマ、ウサギ及びラット血清タンパク質に対して最小交差反応性を有するポリクローナルヤギ抗マウスIgG(H+L)(Jackson社、カタログ番号415-005-166)を使用した。この抗体は、アッセイで使用した検出抗体(ビオチン-ラット抗マウスIg、カッパ軽鎖、クローン87.1、BD Pharmingen カタログ番号559750、ビオチン-ラット抗マウスIg、ラムダ1、ラムダ2及びラムダ3軽鎖、クローンR26-46、BD Pharmingen カタログ番号553433、並びにビオチン-SP-結合型affini-Pureヤギ抗マウスIgG、Fcγフラグメント特異的、Jackson社 カタログ番号115-065-008)と直接結合できなかったので選択した。したがって、測定されたいかなるシグナルも、サンドイッチELISAにおいて、検出抗体の捕捉重鎖タンパク質への結合に起因するが、捕捉抗体への結合には起因しない可能性がある。簡単に説明すると、ELISAに関して、マウス血清中の抗体を、コーティングした抗マウスIgG抗体を介して捕捉した。洗浄後、捕捉された重鎖タンパク質又は複合型軽鎖を、ビオチン化抗マウスIgG重鎖特異的抗体、又はビオチン化抗マウスカッパ軽鎖Ab又はビオチン化抗マウスラムダ鎖Abのいずれかを使用して検出した。検出抗体は、検出抗体のビオチンタグに結合するニュートラアビジン-HRP複合体によって比色反応が起きる、TMB基質を使用して可視化した。既に示したように(
図12を参照)、導入遺伝子を欠損しているTKOマウスは、その血清中に抗体を有していなかった。しかし、YAC2導入遺伝子が存在する場合、HcAbは、内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子バックグラウンドにかかわらず、全ての場合において確認することができた。機能性の内因性カッパ遺伝子座が存在する場合、カッパ軽鎖は捕捉された重鎖上で検出することができ、このことは、内因性カッパ軽鎖と複合体形成されたトランスジェニックHcAbが存在することを示唆している。同様に、機能するラムダ遺伝子座が存在する場合、ラムダ軽鎖は捕捉された重鎖と会合させて検出することができ、このことは、内因性ラムダ軽鎖タンパク質と複合体形成されたトランスジェニックHcAbが存在することを示唆している。内因性カッパ及び内因性ラムダの両軽鎖遺伝子座が存在する場合、マウスにおいては、ラムダ再配列がカッパ軽鎖タンパク質の産生の成功により妨げられることが普通であるので、カッパ鎖が優先的に使用された。したがって、この場合、ラムダ軽鎖は、トランスジェニックキメラHCAbと関連付けて検出することはより困難であった。これらのELISAの結果から、Hcのみの抗体を単独で産生することができるトランスジェニックマウスの提供には、いかなる内因性免疫グロブリンタンパク質も産生することはできない、トリプルノックアウトバックグラウンドを有することが必要であることは明らかである。
【0199】
(実施例7)
細胞分析-フローサイトメトリー
B細胞発生経路は、特定の発生段階に関連した、十分に特徴づけられた様々な試薬及びマーカーを用いるフローサイトメトリーを使用してモニタリングすることができる。例えば、初期のプレB細胞は、c-kit及びIL7Rを発現し、細胞が成熟した表面Ig-陽性B細胞に進行するにつれて、例えばCD43、CD19、B220等の他のマーカーが獲得されるか(例えば、CD19、B220)、又は獲得されダウンレギュレートされる(例えば、CD43)(
図21を参照)。更に、B細胞レパートリー内では、マーカーを使用して、B-2 B細胞(CD23+、CD5-)を他のB細胞サブセットと区別することができる。前者は、後天性の体液性免疫反応に関与し得る(
図22を参照)。
【0200】
フローサイトメトリー分析については、単一細胞懸濁液をリンパ系組織(例えば、骨髄、脾臓)から調製し、次いで、(例えば、Fcフラグメント(Rockland社)で)ブロッキングし、表面マーカー又はアイソタイプの対照に対して抗体を含むFACSバッファー(PBS/1%BSA/0.01%NaN
2)で染色した。ビオチン結合抗体を、適切なストレプトアビジンコンジュゲート(例えば、PE-Cy7ストレプトアビジン)を使用し検出した。染色後、細胞を3.7%ホルムアルデヒド溶液で固定し、適切な電圧及び補正設定を使用して、フローサイトメーター(例えば、FACSCalibur又はLSRII装置)により分析した。データは、フリーウェアプログラムのFlowJo & WinMDIを含む、様々なソフトウェアパッケージを使用して分析した(
図21及び
図22を参照)。フローサイトメトリー分析前の染色用試薬については、当技術分野で公知である(例えば、http://www.bd.com/uk/products/main.aspを参照。)
【0201】
(実施例8)
脾臓の免疫組織化学
脾臓は、赤脾髄区域及び白脾髄区域を含む組織化構造を有し、後者はB細胞及びT細胞が豊富な領域を含有している。ホルムアルデヒド固定パラフィン包埋組織から得た組織切片のヘマトキシリン及びエオシン染色を使用してこの構造を明らかにし、野性型マウス、トリプルKOマウス及びTg/TKOマウスに関する比較画像を示す(
図23)。これらから、TKOマウスでは構造が損傷されており、卵胞の数は少なく、卵胞周辺の辺縁領域がないことが明らかである。これらの特徴は、TKOマウスにおいてB細胞が存在しないことと一致している。またTgマウスに関する画像が示すように、構造は回復され、卵胞は密集度がより高く、明白な辺縁領域によって囲まれている。
【0202】
(実施例9)
V
Hドメインの産生
標的特異的V
Hドメインは、免疫化トランスジェニックマウス又はナイーブトランスジェニックマウス由来のRNAを用いて作製されたディスプレイライブラリーを使用し単離した。
【0203】
a)免疫
異なる標的抗原の選択は、当技術分野で周知の多数の免疫プロトコルの中の1つを使用し、トランスジェニックマウスに投与した。血清ELISAの例を
図24に示す。サンドイッチELISAは、上記で概説したのと同様である。簡単に説明すると、吸着プレートを抗原でコーティングし、洗浄及びブロッキングした後、動物由来の血清の希釈液を添加した。抗原コーティングプレートに結合している全てのHCAbは、ビオチン化抗Fc Ab、次いでニュートラアビジン-HRPとインキュベーションし、基質を添加した後に検出した。
【0204】
b)ナイーブライブラリー
それぞれのV
Hファミリーの大きなライブラリーを、YAC1トランスジェニックマウス由来の113の脾臓を使用して構築した。上記のように、それぞれの脾臓を個別に処理し、個々のRNAのアリコートを異なるV
Hファミリーライブラリー構築に使用した。このライブラリーの特性の概要を
図35のナイーブライブラリーに示す。ライブラリーは約3.81×10
10クローンからなっており、各ファミリーからの配列決定のサンプルはクローン多様性が高いことを示し、ほとんどのクローンはサンプル内で1回のみ単離される。
【0205】
cDNAライブラリーの構築及び使用
ディスプレイライブラリーをナイーブトランスジェニック動物及び免疫化トランスジェニック動物の両方から構築した。簡単に説明すると、リンパ系組織をRNAまで収集し、次いで機械的にホモジナイズし、溶解させた。或いは、新鮮なリンパ系組織、血液、又はハイブリドーマを含むB細胞の別の供給源をRNAの供給源として使用することができる。RNAの抽出後、(全RNA又はメッセンジャーRNAのいずれかの)cDNAを作製した。次いで、PCRを使用してV
H配列を増幅させ、ファージミドベクターへのクローニングができるように適切なアダプターを加えた。V
Hのクローニングには、多くの手法を使用することができる。本件の場合、導入遺伝子内に存在するリーダー配列用の縮重プライマーを、J/H連結用の縮重プライマーと共に使用した。別法は、ターミナルデオキシトランスフェラーゼを用いて、リーダー配列の代わりに使用するための反復デオキシリボヌクレオチドベーステール又はアンカーを付加することによる。増幅後、V
H産物をNcoI及びXhoIで消化し、ベクターに連結するか、又は、プライマーとして使用し、PCR系の手法を使用してファージミドベクターに組み込んだ。ファージミドベクターをインハウスで構築した(
図17を参照)。追加の適応配列(adaption sequence)を有するプライマーは、前のセクションに記載している(分子の分析;転写産物-RT-PCR、クローニング及び配列決定を参照)。
【0206】
次いで、このようにして構築されたライブラリーを、ファージディスプレイ選択で使用した(
図25の方法概略図を参照)。限定するものではないが、可溶性選択、オフレートバイアス選択又はオンレートバイアス選択、及び競合選択を含む、この技術の変更形も使用することができる。
【0207】
それぞれの選択方法からのアウトプットをELISAによってスクリーニングし、ファージ選択の前後のいくつかのライブラリースクリーニングの例を
図26に示した。この場合、V
Hライブラリーは免疫化マウスからクローニングし、免疫抗原で選択する前と後の両方でELISAによってライブラリーをスクリーニングした。免疫原に特異的なV
H抗体を、公開された方法(Antibody Engineering, Benny Lo編, 第8章, p161-176, 2004)に従って、大腸菌のペリプラズムから精製したV
Hを使用するELISAによって同定した。ex-vivoではライブラリーが低頻度で免疫原バインダーを含有していたことが明白である。これは、トランスジェニックマウス内の、応答性及びナイーブ両方のB細胞のマイニング(mining)と一致している。ファージ選択後、抗原結合性V
Hを濃縮した(
図26)。実際、
図27に示すように、事前選択ライブラリーの多様性が高いのは明らかであり、ファージディスプレイによる1ラウンドのストリンジェントな選択後、抗原結合性V
Hは、CDR3多様性によってグループ化した場合、50の配列ファミリーに属していることが分かった。更に、体細胞超変異の証拠は、CDR1配列、CDR2配列及びCDR3配列並びに多数の同胞配列の試験から明白であり、おそらく、胚中心内でのin vivo体細胞超変異の結果、単離された(
図27a)i)を参照)。体細胞超変異が抗原に対する親和性を増加させることは、抗原への結合も示す、4つの同胞配列の選択パネルで実証されている(
図27a)i)を参照)。V
Hの配列多様化につながる体細胞超変異のさらなる証拠は、
図34-Kabat及びWuの抗原バインダーに示している。この場合、3つの抗原の1つに結合されている105のV
Hを分析し、生殖細胞系列の配列と比較し、それぞれのアミノ酸位置における変異をプロットした。ナイーブマウス由来の同様のプロットと比較することにより(
図19を参照)、かなりの変異が蓄積されており、CDR1領域及びCDR2領域における変異が優勢であることが明らかである。
【0208】
更に、公知の技術に従って、また上記のようにV
Hドメインを単離するために、V
Hドメインをアッセイし、標的抗原に対する親和性を決定した(
図28)。これは、限定するものではないが、ELISA及びBIAcoreを含む、当技術分野で公知の多数の技術によって実施することができる。それに加えて、細胞表面抗原への結合は、蛍光細胞分析分離装置(FACS)によって測定することができる。
【0209】
標的抗原への結合強度の他に、所定の標的の機能に影響を及ぼすV
Hの能力もアッセイすることができる(例えば、これは、リガンド:受容体結合の阻害を含む)。リガンドに特異的なV
Hの封入によるリガンド/受容体相互作用の阻害の一例を
図29に示す。
【0210】
(実施例10)
V
Hの特性
上記のYAC構築物の1つを有するトランスジェニックマウスは、高品質の候補薬剤の発見に関して有効な利点を提供する。従来の供給源(例えば、ヒトcDNA)から単離されるV
Hドメインとは異なり、V
Hドメインは発生し、軽鎖の非存在下で成熟する。このように、トランスジェニックマウスに由来するV
Hドメインは、それらの折り畳みの安定化又はそれらの溶解性の保持に、パートナー軽鎖の存在に依存しない。この証拠は、ナイーブトランスジェニックマウスから単離されたV
Hを、ヒトcDNAライブラリーからin vitroで誘導されたものと比較する実験から得られた。V
Hに関する配列を、前述のファージミドベクターにクローニングし、大腸菌における小スケール(50ml)発現試験を試みた。これらは、配列を最適化することなく、またタンパク質生産を最大限にするための特殊な方法を使用することなく実施した。IPTGによる誘導後、可溶性V
Hの発現を決定した。マッチしたV-遺伝子ファミリーからのV
Hを使用した場合、ヒトcDNA由来V
Hクローンでは47%のみ(15/32クローン)が、大腸菌由来のペリプラズム抽出物から少なくとも10ugの可溶性タンパク質を提供することができることを確認した。対照的に、ナイーブトランスジェニックYAC1/TKOマウスからクローニングされたV
Hでは79%(27/34)が、10ugを超える可溶性発現収量をもたらした。更に、
図30に示した結果から明らかなように、個体群ベースで、トランスジェニックマウス内での軽鎖の非存在下で発生したV
Hでは、本発明者らがパートナー軽鎖と関連して発生したと推定するヒトcDNAライブラリー由来のもの(平均=37.6ug/50ml)と比較した場合、高い収量(平均=176ug/50ml)であることが明らかであった。したがって、いずれの供給源からのV
Hも可溶性フォーマットで発現することはできるが、トランスジェニックマウス内で発生した個体群は高い溶解性を示し、全体で約5倍の可溶性タンパク質の収率をもたらした。収量の増大は、免疫後のマウスからクローニングされた、in vivoでの親和性-成熟V
Hに関して明白であった。この場合、小実験室スケール培養で、約10mg/リットルまでの上昇が生じ、これはいかなる最適化も行うことなく、ファージミド発現系を使用して得られた。
【0211】
タンパク質の融解温度(Tm)は、そのタンパク質の安定性に関する代用測定値として使用することができる。それらの精製後に、分別的走査蛍光分析(DSF)を使用して、上記V
Hクローンの選択のTmを測定した。ヒトcDNAから誘導したV
Hの多くは、それらの非常に低い生産収量のため、試験することができなかった。またこのように、この個体群のクローンに対する平均のTm値は、最善のシナリオを示すと思われる。簡単に説明すると、この技術は、暴露された疎水性残基に首尾よく結合しているシグナルを発するリポーター色素からの蛍光検出によるものである。したがって、タンパク質が加熱され折り畳まれる場合に、リポーター色素は結合され、蛍光が検出され得る。
図31に示した結果は、Protein Thermal Shift Kit (Applied Biosytems社、カタログ番号4461146)を使用して作製し、分析は、Protein Thermal Shiftソフトウェア(カタログ番号4466037)を使用して行った。ボルツマン適性値から得たTm値を示したが(
図31)、トランスジェニックマウスから単離されたV
Hの個体群は、ヒトcDNAから単離されたものと比べTmが有意に高いことが明白だった(ヒト供給源からクローニングされたV
Hに関する54.1℃と比較した場合、トランスジェニックマウスから誘導したV
Hに関しては57.9℃)。これらのデータはナイーブマウス由来のものであり、また大部分が生殖細胞系列配列であって、親和性成熟を受けていないV
Hを表わすことに留意されたい。免疫した後、抗原特異的な親和性成熟V
Hは、多くの場合、ここに示したものと比べ、有意に高いTmを示す。
【0212】
免疫したマウス由来のV
Hは、凝集傾向を示さない(
図32を参照)。精製V
HのHPLCサイズ排除分析を実施した。簡単に説明すると、V
H溶液は、280nMで検出するTSKゲルG2000SWXL(TOSOH)カラムでWaters 2795単離モジュールを使用し、10%イソプロパノール、90%PBS又は100mMリン酸緩衝液pH6.8、150mM NaClの移動相と0.5〜0.7ml/分の流速を用いて分析した。いくつかのV
H調製物に関し、使用した特定の大腸菌株は、ファージミドベクター内の遺伝子III配列へのリードスルーを可能にし、V
H-遺伝子III融合産物が少量であることが明らかである。しかし、無視できる量の二量体又は凝集V
Hは確認される。
【0213】
総括すると、これらの実験から、トランスジェニックマウスに由来するヒトV
Hは、再配列されたパートナー軽鎖と関連して発生したものと比べた場合、高い溶解性及び安定性を有することが証明されている。
【表11A】
【表11B】