特許第6641387号(P6641387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641387
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】融合タンパク質及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20200127BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20200127BHJP
   C07K 14/035 20060101ALI20200127BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20200127BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20200127BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200127BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20200127BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200127BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200127BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20200127BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20200127BHJP
   G01N 33/564 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   C12N15/62 ZZNA
   C07K19/00
   C07K14/035
   C07K14/705
   C12N15/63 Z
   C12N1/19
   C12N1/15
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12Q1/02
   G01N33/53 N
   G01N33/564 Z
【請求項の数】21
【全頁数】71
(21)【出願番号】特願2017-559259(P2017-559259)
(86)(22)【出願日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2016089235
(87)【国際公開番号】WO2017115878
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2018年6月22日
(31)【優先権主張番号】62/271,579
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506056240
【氏名又は名称】株式会社ウイルス医科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】近藤 一博
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸行
(72)【発明者】
【氏名】岡 直美
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/114029(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/101157(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/041501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質との融合タンパク質。
【請求項2】
前記SITH−1タンパク質のC末端側に、前記CAMLタンパク質のN末端側が結合したものである、請求項1の融合タンパク質。
【請求項3】
前記SITH−1タンパク質のN末端側に、前記CAMLタンパク質のC末端側が結合したものである、請求項1の融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の融合タンパク質を固定化した担体。
【請求項5】
請求項2及び/又は請求項3の融合タンパク質をプローブとして用いた抗体検出器具。
【請求項6】
被験対象生物から分離された生物学的試料において、請求項1の融合タンパク質を用いて、当該抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項7】
請求項1の融合タンパク質を発現させた細胞に、標識した抗CAML抗体を反応させる工程を含む、請求項6の測定方法。
【請求項8】
験者から分離された生物学的試料において、請求項1に記載の融合タンパク質を認識する抗体(抗融合タンパク質抗体)の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、気分障害の検査又は診断のためのデータ取得方法。
【請求項9】
請求項2に記載の融合タンパク質を認識する抗体(抗融合タンパク質抗体)の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、請求項8のデータ取得方法。
【請求項10】
請求項2の融合タンパク質を用いる、請求項9のデータ取得方法。
【請求項11】
請求項3に記載の融合タンパク質を認識する抗体(抗融合タンパク質抗体)の抗体レベルを測定することを特徴とする、請求項8のデータ取得方法。
【請求項12】
請求項3の融合タンパク質を用いる、請求項11のデータ取得方法。
【請求項13】
該被験者から分離された生物学的試料中の、抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含む、請求項8のデータ取得方法。
【請求項14】
請求項1の融合タンパク質の、気分障害の検査又は診断のデータ取得のための使用。
【請求項15】
請求項5の抗体検出器具を含む、請求項8のデータ取得方法を行うための検査又は診断キット。
【請求項16】
以下に示す(i)〜(iii)から選択される物質のうち、少なくとも2つの物質を含むことを特徴とする、気分障害の検査又は診断キット。
(i)請求項2の融合タンパク質
(ii)請求項3の融合タンパク質
(iii)CAMLタンパク質
【請求項17】
請求項2又は3の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項18】
請求項17の核酸を含む組換え発現ベクター。
【請求項19】
請求項17の核酸を導入してなる形質転換細胞。
【請求項20】
SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質を融合させて、可溶性の融合タンパク質を取得する工程を含む、SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質の可溶性結合体を製造する方法。
【請求項21】
被験者から分離された生物学的試料において、抗SITH−1抗体の抗体レベルを測定する工程と抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、気分障害の検査又は診断のためのデータ取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気分障害を診断、治療する方法に関し、具体的には、特定のタンパク質の融合タンパク質を認識する抗体レベルを指標とした気分障害の新規の診断、治療又は予防方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気分障害は、うつ病や躁うつ病に代表される精神障害であり、近年増加傾向にあって大きな社会問題となっている。気分障害の治療の基本は薬物療法であり、三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などが用いられている。
ヒトヘルペスウイルス−6(HHV−6(HHV;human herpesvirus))は、AIDS患者の末梢血から見出されたウイルスで、ヘルペスウイルスβ亜科に属する。HHV−6にはHHV−6 バリアントA(HHV−6A)及びHHV−6 バリアントB(HHV−6B)の2つのバリアントが存在する。HHV−6Bは、乳幼児期にほとんどのヒトが初感染し、発症した場合は突発性発疹となる。HHV−6Bは、初感染の急性期において、非常に高率で脳内に移行して潜伏感染を生じ、それが成人となった後も維持される(非特許文献1)。なお、潜伏感染とは、ウイルスが宿主細胞内で感染性のウイルス粒子を産生せずに存続し続ける感染状態をいう。HHV−6Bは、脳内では主として前頭葉や海馬領域などのグリア細胞に潜伏感染していることが示唆されている(非特許文献2および3)。また、HHV−6は末梢血中のマクロファージにも潜伏感染しており、日常生活の疲労等により再活性化して唾液中に放出される(特許文献1)。
HHV−6の潜伏感染状態には、ウイルス産生は全く行われないが、比較的安定で遺伝子発現が活発な状態である「中間段階(intermediate stage)」が存在することが知られており、中間段階で発現するタンパク質としてSmall protein encoded by the Intermediate stage Transcript of HHV−6−1(以下、「SITH−1」と称する)が同定されている(特許文献2)。このSITH−1に対する抗体が、うつ病などの気分障害患者から特異的に検出されることから、被験者検体中の抗SITH−1抗体を検出・測定することを特徴とする気分障害の診断方法が開発されている(特許文献2))。また、グリア細胞特異的発現プロモーターを連結したSITH−1遺伝子を、アデノウイルスベクターを用いてマウスの脳内に導入し、発現させたところ、マウスが精神疾患様の行動異常を起こすことが示されている(特許文献2)。
Calcium−signal modulating cyclophilin ligand(CAML)は、もともとT細胞受容体シグナル伝達を制御する小胞体膜タンパク質として単離されたが、その後、小胞体膜においてTRC40の受容体として機能することが明らかになっている(非特許文献4)。CAMLはリンパ球や脳内で強く発現し、細胞内でSITH−1と強く結合して細胞内カルシウムを上昇させる機能を持つことが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2006−006634A1号公報(2006年1月19日公開)
【特許文献2】国際公開第WO2009−041501A1号公報(2009年4月2日公開)
【特許文献3】国際公開第WO2015−199247A1号公報(2015年12月30日公開)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kondo K et al.,J infect Dis,167:1197−1200,1993
【非特許文献2】Tuke et al.,Multiple Sclerosis,10:355−359,2004
【非特許文献3】Donati et al.,Journal of Virology Vol.79,No.15:9439−9448,2005
【非特許文献4】Yamamoto.et al.,Molecular Cell,48,387−397(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気分障害発症のメカニズムは未だ十分に解明されているとはいえない。特に、気分障害の診断や治療においては、更なる診断方法や治療方法の開発が望まれている。したがって、本発明は、従来技術よりも優れた気分障害の新規な診断方法及び/又は治療方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく、気分障害を診断する方法について、鋭意検討を重ねた。その結果、生物学的試料中において、特定タンパク質の融合タンパク質を認識する抗体の抗体レベルを測定することにより、被験者が気分障害に罹患しているかどうかだけではなく、被験者が対象疾患を発症するリスク(危険度)を評価することが可能であること、本方法の検出感度が従来法と比べても格段に向上することなどを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は、以下の発明群を含み得る。
(1)SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質との融合タンパク質。
(2)SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質を融合させて、可溶性の融合タンパク質を取得する工程を含む、SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質の可溶性結合体を製造する方法。
(3)被験者から分離された生物学的試料において、抗SITH−1抗体の抗体レベルを測定する工程と抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、気分障害の診断方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、新規な気分障害を診断、治療する方法を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1は、本発明の実施例1に係る、融合タンパク質の構造を示す図である。
図2は、本発明の実施例1に係る、融合タンパク質の使用による抗SITH−1シグナルの増強を示す蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
図3は、本発明の実施例1に係る、融合タンパク質の使用による抗SITH−1シグナルの増強を示す図である。
図4は、本発明の実施例2に係る、ヒトにおける抗CAML抗体の存在を示す図である。
図5は、本発明の実施例2に係る、抗CAML抗体のImageJを使用した解析を示す図である。
図6は、本発明の実施例2に係る、うつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−1に対するIFA蛍光強度を示す図である。
図7は、本発明の実施例2に係る、うつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−CAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。
図8は、本発明の実施例2に係る、うつ病に関する各段階の対象者血清のCAML−SITHに対するIFA蛍光強度を示す図である。
図9は、本発明の実施例2に係る、うつ病に関する各段階の対象者血清のCAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。
図10は、本発明の実施例3に係る、うつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−1に対するIFA蛍光強度を示す図である。
図11は、本発明の実施例3に係る、うつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−CAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。
図12は、本発明の実施例3に係る、うつ病に関する各段階の対象者血清のCAML−SITHに対するIFA蛍光強度を示す図である。
図13は、本発明の実施例4に係る、各種タンパク質に対するうつ病患者血清と抗CAML抗体の反応を示す図である。
図14は、本発明の実施例5に係る、うつ状態の原因が異なる対象者血清のSITH−CAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。
図15は、本発明の実施例5に係る、うつ状態の原因が異なる対象者血清のCAML−SITHに対するIFA蛍光強度を示す図である。
図16は、本発明の実施例6に係る、融合タンパク質を利用したELISA法の結果を示す図である。
図17は、本発明の実施例7に係る、尾懸垂試験における無動時間の結果を示す図である。(A)empty/Adv鼻腔投与マウス30匹とSITH−1/Adv鼻腔投与マウス30匹の尾懸垂試験を10分間実施し、無動時間を比較した結果を示す図である。(B)SITH−1/Adv鼻腔投与前2週間からSSRIを投与したマウス21匹の尾懸垂試験を10分間実施し、無動時間を比較した結果を示す図である(SITH−1/Adv−SSRI)。
図18は、本発明の実施例7に係る、脳内におけるうつ病関連因子の遺伝子発現の結果を示す。(A)CRH遺伝子の結果を示す図である。(B)REDD1遺伝子の結果を示す図である。(C)Urocortin遺伝子の結果を示す図である。
図19は、本発明の実施例7に係る、嗅球におけるアポトーシス関連因子の遺伝子発現の結果を示す。(A)アポトーシス抑制因子Bcl−2の遺伝子発現の結果を示す図である。(B)アポトーシス促進因子Baxの遺伝子発現の結果を示す図である。(C)アポトーシス指標Bax/Bcl−2比を示す図である。
図20は、本発明の実施例7に係る、嗅球のTUNEL染色の結果を示す図である。
(A)empty/Adv鼻腔投与マウスとSITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅球のTUNEL染色像を示す図である。(B)嗅球のTUNEL染色陽性細胞数を計数した結果を示す図である。
図21は、本発明の実施例7に係る、嗅上皮の抗SITH−1抗体による免疫組織染色の結果を示す。empty/Adv鼻腔投与マウスとSITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅上皮細胞の免疫組織染色像を示す図である。
図22は、本発明の実施例7に係る、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスのストレス脆弱性試験の結果を示す図である。
図23は、本発明の実施例7に係る、HHV−6感染U373におけるSITH−1の発現の結果を示す図である。
図24は、本発明の実施例7に係る、HHV−6感染U373におけるSITH−1の発現の結果を示す図である。
図25は、本発明の実施例8に係る、ガンシクロビルによるSITH−1の発現の抑制を示す図である。
図26は、本発明の実施例9に係る、SITH−1又は各融合タンパク質の発現が細胞内カルシウム濃度に与える影響を示す図である。
図27は、本発明の実施例10に係る、健常者血清中の抗S−C抗体の抗体価とBDIスコアとの相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(A、又はAより大きい)B以下(B、又はBより小さい)」を意味する。
〔用語の説明〕
本明細書において、「タンパク質」は、「ポリペプチド」とも換言できる。「タンパク質」は、アミノ酸がペプチド結合してなる構造を含むが、さらに、例えば、糖鎖、又はイソプレノイド基などの構造を含んでいてもよい。「タンパク質」は、特に明記しない場合は、天然に存在するアミノ酸と同様に機能することができる、天然に存在するアミノ酸の既知の類似体を含有するポリペプチドを包含する。
本発明において、「1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により置換、欠失、挿入、及び/又は付加できる程度の数(好ましくは10個以下、7個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下であり、さらに好ましくは1個以下である)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されることを意味する。また、置換するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q,G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L,I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる。さらに、例えば、変異マトリクス(mutationalmatrix)によってアミノ酸を分類することも周知である(Taylor 1986,J,Theor. Biol.119, 205−218; Sambrook, J. et al., Molecular Cloning 3rd ed. A7.6−A7.9, Cold Spring Harbor Lab. Press,2001)。この分類を以下に要約すると、脂肪族アミノ酸(L、I、V)、芳香族アミノ酸(H、W、Y、F)、荷電アミノ酸(D、E、R、K、H)、正荷電アミノ酸(R、K、H)、負荷電アミノ酸(D、E)、疎水性アミノ酸(H、W、Y、F、M、L,I、V、C、A、G、T、K)、極性アミノ酸(T、S、N、D、E、Q、R、K、H、W、Y)、小型アミノ酸(P、V、C、A、G、T、S、N、D)、微小アミノ酸(A、G、S)及び大型(非小型)アミノ酸(Q、E、R、K、H、W、Y、F、M、L、I)が挙げられる。なお、上記括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す。置換するアミノ酸残基においては、同じ分類に属する別のアミノ酸に置換されることが好ましい。
また、本発明において、「相同性の高いアミノ酸配列」とは、対象のアミノ酸配列との相同性が、アミノ酸配列全体(若しくは機能発現に必要な領域)で、少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%以上の配列の同一性を有する。配列の相同性は、例えばBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.,215:403−410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:2264−2268,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873−5877,1993)に基づいている。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389−3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象のアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加又は欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
また、本明細書において「相同性」とは、性質が類似のアミノ酸残基数の割合(homology、positive等)を意図しているが、より好ましくは、一致したアミノ酸残基数の割合(identity)である。なお、アミノ酸の性質については上述したとおりである。
本明細書において「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用される。「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの重合体を意味する。
したがって、本明細書での用語「遺伝子」には、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNA(mRNA等)を包含する。アンチセンス鎖は、プローブとして又はアンチセンス薬剤として利用できる。
「DNA」には、例えばクローニングや化学合成技術、又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNA等が含まれる。すなわち、DNAとは、動物のゲノム中に含まれる形態であるイントロンなどの非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、また逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、すなわちイントロンなどの非コード配列を含まない「転写」形DNAであってもよい。
本明細書において「核酸」には、任意の単純ヌクレオチド及び/又は修飾ヌクレオチドからなるポリヌクレオチド、例えばcDNA、mRNA、全RNA、hnRNA、等が含まれる。「修飾ヌクレオチド」には、イノシン、アセチルシチジン、メチルシチジン、メチルアデノシン、メチルグアノシンを含むリン酸エステルの他、紫外線や化学物質の作用で後天的に発生し得るヌクレオチドも含まれる。
本明細書において「塩基配列」は、「核酸配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(それぞれA、G、C及びTと省略される)の配列として示される。また、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドの「塩基配列」は、DNA分子又はポリヌクレオチドに対してのデオキシリボヌクレオチドの配列を意図し、そしてRNA分子又はポリヌクレオチドに対してのリボヌクレオチド(A、G、C及びU)の対応する配列(ここで特定されるデオキシヌクレオチド配列における各チミジンデオキシヌクレオチド(T)は、リボヌクレオチドのウリジン(U)によって置き換えられる)を意図する。
本発明において「気分障害」とは、ある程度の期間にわたって持続する気分(感情)の変調により、苦痛を感じたり、日常生活に何らかの支障をきたしたりする状態のことをいい、うつ状態のみが現れるうつ病と、躁状態とうつ状態を繰り返す躁うつ病に代表される。気分障害には様々な原因が考えられているが、詳細はわかっていないことも多い。医学的には米国精神医学会によって導入された精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM)又は国際疾病基準である疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems: ICD)によって定められた診断基準により操作的に診断される。気分障害は、好ましくはストレス因子による一過性うつ状態は含まない。
本発明において「うつ状態」とは、症状の継続時間や軽重に関係なく、うつ症状を呈する状態を意味する。うつ症状とは、憂うつ、将来に対する悲観、失敗への不安や恐れ、満足感の低下、異常な罪悪感、自分が罰を受けているという気持ち、自分に対する失望、劣等感、自殺企図、泣きたい気持ち、焦燥感、興味の消失、思考過程の渋滞および決断力の低下、自分の容姿に関する劣等感、精神運動抑制および行動の不自由感、不眠、易疲労感、食欲低下、体重減少、心身的症状及び健康への不安、性欲の低下、の少なくとも一つを特徴とする症状である。また本発明において「うつ病」とは、上述の通り、気分障害の一種であって、上述の診断基準で診断される障害を指す。
本明細書において「健常者」とは、気分障害に罹患していない正常な個体を指す。
本発明において「発症のリスク(危険度)を有する」とは、発症には至っていないが、発症の可能性が健常者と比べて高いことを意図しており、「気分障害」の発症のリスクを有するとは、気分障害の前段階であり気分障害に至る可能性の高い状態、及び気分障害の診断基準を満たさないうつ状態であることも包含する。また「気分障害の診断基準を満たさないうつ状態」は「発症には至っていないうつ状態」ともいう。
本発明において「気分障害の発症のリスク(危険度)を評価/検査/診断する」とは、気分障害の発症のリスク(危険度)の有無及び/又は程度(高低)を評価/検査/診断すること、並びに、うつ状態を呈するリスク(危険度)の有無及び/又は程度(高低)を評価/検査/診断することを含んでいる。すなわち、リスクの有無を評価/検査/診断してリスクがあると判定された場合に、さらにリスクの程度を評価/検査/診断する態様も包含する。
本発明において「診断」とは、被験者が対象となる障害に罹患しているかどうか、被験者が罹患している対象となる障害の重症度、被験者が対象となる障害を発症するリスク(危険度)、被験者の対象となる障害の素因の有無、及び/又は被験者が罹患している対象となる障害について施された治療に対する治療効果を、評価し、疾患又は病態の同定を行うことをいう。また、本明細書中の「検査」とは、医師による診断あるいは同定を必須としない、検査対象のヒト(「被験者」とも称する)における、対象となる障害に罹患しているかどうか、被験者が罹患している対象となる障害の重症度、被験者が対象となる障害を発症するリスク、被験者の対象となる障害の素因の有無、及び/又は被験者が罹患している対象となる障害について施された治療に対する治療効果の検査を指す。本発明の測定方法及び検査によって得られた結果は、診断の一材料になりうる。
本発明において「治療」とは、対象疾患の症状を完治又は軽減させること、対象疾患の症状の悪化を抑制すること、対象疾患の発症を抑制すること、又は遅延させることを含む。すなわち、被験者が対象疾患を発症していない場合の「予防」を含む。
本発明において、「HHV−6」とは、ヒトヘルペスウイルス−6(HHV; human herpesvirus)であり、β−ヘルペスウイルス亜科に属する。HHV−6にはHHV−6 Variant A (HHV−6A)とHHV−6 Variant B(HHV−6B)の2つのバリアントが存在するが、本発明においてHHV−6は、好ましくはHHV−6Bである。
本発明において「抗体」とは、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM)並びに抗体の機能的断片及び反応性を維持する範囲において変異導入された抗体の機能的断片を含む形態であることを意図している。「抗体の機能的断片」とは、前述の抗体の一部分の領域を有し、かつ抗原結合能を有しているもの(結合性断片と同義)を指す。抗体の機能的断片としては、具体的にはFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、及びFcフラグメントなどが挙げられる。本発明において、抗体はポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれの天然型抗体も含む。さらに、遺伝子組換え技術を用いて製造される抗体、並びに当該抗体の機能的断片を含む。天然型抗体は、特に限定はされないが、ウシ、ヤギ、モルモット、ハムスター、ウマ、ヒト、マウス、ウサギ、ラット又はヒツジ等を含む、あらゆる生物種に由来し得る。
遺伝子組換え技術を用いて製造される抗体としては、特に限定はされないが、天然型抗体を遺伝子改変して得られるヒト化抗体及び霊長類化抗体などのキメラ抗体、合成抗体、組換え抗体、変異導入抗体及びグラフト結合抗体(例えば、他のタンパク質及び放射性標識などがコンジュゲート又は融合している抗体)が挙げられ、既に遺伝子組換え技術を用いて製造された抗体に対して、上述のように天然型抗体を遺伝子改変する場合と同様の改変を施した抗体も含まれる。
また、単鎖抗体及び抗イディオタイプ抗体等も本発明に係る抗体の例示として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の融合タンパク質を認識する抗体を「抗融合タンパク質抗体」と称する。ここで「抗体が認識する」とは、抗体が特異的に結合することを意味する。
本明細書において「in vivo」とは、生物個体内における実験系を意味し、「in vitro」とは、生物個体内における実験系ではなく、例えば、培養された組織若しくは細胞、又は、単離されたタンパク質等を用いる系を意味する。
〔1.融合タンパク質〕
本発明は、SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質との融合タンパク質(以下、「融合タンパク質」と称する。)を提供する。
本発明者らは、SITH−1を細胞中で発現させると細胞内に存在するCAMLと結合することを見出したが(特許文献2)、SITH−1とCAMLを細胞中で共発現させると不溶性となり、SITH−1とCAMLの結合体を単離することはできなかった。ここで本発明者らは、SITH−1とCAMLの融合タンパク質とすることにより初めて、SITH−1とCAMLとの可溶性結合体を単離することに成功した。
従って、本発明の一態様は、SITH−1とCAMLとを融合させ、融合タンパク質とすることにより、SITH−1とCAMLとの可溶性結合体を取得する方法である。
本発明において、「SITH−1」とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなり、ヒトヘルペスウイルス−6(HHV−6)の潜伏感染時に特異的に発現するタンパク質として単離・同定されたものであり、Small protein encoded by the Intermediate stage Transcript of HHV−6(HHV−6の潜伏感染中間段階転写物によってコードされる小タンパク質)−1と称する。SITH−1は、159アミノ酸からなる、分子量約17.5kDaのタンパク質である(GenBank under accession numbers HV763913.1 and HV763914.1)。なお、本明細書において「野生型SITH−1」とは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をいう。SITH−1は、SITH−1遺伝子によってコードされている。このSITH−1遺伝子のcDNAは、配列番号3に示すように、1795塩基対(約1.79kbp)のサイズを有しており、954番目から956番目の塩基配列が開始コドン(Kozak ATG)であり、1431番目から1433番目の塩基配列が終止コドン(TAA)である。したがって、上記SITH−1遺伝子は、配列番号3に示す塩基配列のうち、954番目から1430番目までの塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)領域として有しており、このORFは、477塩基対(約0.48kbp)のサイズを有している。SITH−1のcDNAのうち、ORF領域を表す塩基配列を配列番号2に示す。なお、配列番号2に示す塩基配列は、ストップコドンの3塩基を含んで記載している。
本発明に係る、SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質との融合タンパク質は、以下に示すSITH−1タンパク質とCAMLタンパク質との融合タンパク質を包含するものである。
本発明において「SITH−1タンパク質」とは、野生型SITH−1のみならず、以下の(1)〜(4)に含まれるすべてのタンパク質を包含する、野生型CAMLと結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質をいう。
また、例えば、本発明においてSITH−1タンパク質は、以下の(1)〜(4)の何れかに示す、野生型CAMLと結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質であり得る。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、かつ野生型CAMLと結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜31個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ野生型CAMLと結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。なお、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸の個数は、1〜23個であることが好ましく、1〜15個であることがより好ましく、1〜7個であることがさらに好ましく、1〜5又は6個であることが特に好ましい。以下、アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を、アミノ酸の変異と総称する場合がある。
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有し、かつ野生型CAMLと結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。なお、配列同一性は、85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらにより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
(4)上記(1)に記載の、細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされる野生型CAMLと結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。なお、ストリンジェントな条件については、本発明に係るポリヌクレオチドの欄で後述する。
本発明において「CAML」とは、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる、Calcium−signal modulating cyclophilin ligandであり、296アミノ酸からなる、分子量約38kDaのタンパク質である。本発明において「野生型CAML」とは、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を指す。このCAML遺伝子のcDNAは、配列番号5に示すように、1350塩基対(約1.35kbp)のサイズを有している。また、このCAML遺伝子のORFは配列番号22に示す塩基配列を有する。
CAMLは、もともとT細胞受容体シグナル伝達を制御する小胞体膜タンパク質として単離されたが、その後、小胞体膜においてTRC40の受容体として機能することが明らかになっている(非特許文献4)。また、CAMLはリンパ球や脳内で強く発現し、細胞内でSITH−1と強く結合して細胞内カルシウムを上昇させる機能を持つことが知られている(特許文献2)。
本発明において「CAMLタンパク質」とは、野生型CAMLのみならず、以下の(5)〜(8)に含まれるすべてのタンパク質を包含する、野生型SITH−1と結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質を「CAMLタンパク質」と称する。
本発明に係るCAMLタンパク質は、以下の(5)〜(8)の何れかに示す、野生型SITH−1と結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質であり得る。
(5)配列番号4に記載のアミノ酸配列を有し、かつ野生型SITH−1と結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。
(6)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1〜59個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ野生型SITH−1と結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。なお、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸の個数は、1〜44個であることが好ましく、1〜29個であることがより好ましく、1〜23個であることがさらにより好ましく、1〜14個であることがさらにより好ましく、1〜5又は6個であることが特に好ましい。
(7)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有し、かつ野生型SITH−1と結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。なお、配列同一性は、85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
(8)上記(1)に記載の野生型SITH−1と結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるSITH−1と結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有するタンパク質。なお、ストリンジェントな条件については、本発明に係るポリヌクレオチドの欄で後述する。
SITH−1タンパク質及びCAMLタンパク質の由来は限定されず、例えば、化学合成されても、或いは、遺伝子組み換え技術を用いて産生されてもよい。より具体的には、SITH−1タンパク質及びCAMLタンパク質は、単離精製されたポリペプチド、化学合成されたポリペプチド、及び、遺伝子組み換え技術に基づいて宿主細胞から産生されたポリペプチドをその範疇に含む。なお、宿主細胞については「形質転換細胞」を説明する欄で詳述する。
SITH−1タンパク質の一例は、配列番号1にそのアミノ酸配列を示す野生型のSITH−1タンパク質である。CAMLタンパク質の一例は、配列番号4にそのアミノ酸配列を示す野生型のCAMLタンパク質である。
上記(2)〜(4)に示したタンパク質は、(1)に示したタンパク質を基準とした場合に、(6)〜(8)に示したタンパク質は、(5)に示したタンパク質を基準とした場合にそれぞれ変異体と捉えることができる。(2)〜(4)に示したタンパク質は、例えば、部位特異的な突然変異誘発法を用いて、上記(1)に示したタンパク質をコードするポリヌクレオチドに人為的に変異を導入したものを発現させることによって得ることが可能である。同様に、(6)〜(8)に示したタンパク質は、例えば、部位特異的な突然変異誘発法を用いて、上記(5)に示したタンパク質をコードするポリヌクレオチドに人為的に変異を導入したものを発現させることによって得ることが可能である。
本発明の融合タンパク質は、SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質とが、いずれの順序で結合していてもよいが、好ましくはSITH−1タンパク質のC末端側にCAMLタンパク質のN末端側が結合した融合タンパク質(以下、「S−Cタンパク質」と称する。)又はSITH−1タンパク質のN末端側にCAMLタンパク質のC末端側が結合した融合タンパク質(以下、「C−Sタンパク質」と称する。)である。
また、SITH−1タンパク質及びCAMLタンパク質の少なくとも一方が、融合タンパク質中に2つ以上含まれてなる構造を有していてもよい。S−Cタンパク質は、好ましくは細胞内カルシウム濃度を上昇させる活性を有する。
融合タンパク質の準備の方法は特に限定されず、例えば公知の遺伝子工学的手法を用いて発現させてもよい。例えば、融合タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌等の発現システムを用いて発現することによって取得することができる。
融合タンパク質において、SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質とは直接結合していてもよく、あるいはリンカー(スペーサー)を介して結合していてもよい。
リンカーとしては、複数個のアミノ酸からなるポリペプチドのリンカーが挙げられる。このリンカーの長さに限定はないが、300アミノ酸以下であってよく、好ましくは、200アミノ酸以下、170アミノ酸以下、150アミノ酸以下、140アミノ酸以下、130アミノ酸以下、120アミノ酸以下、110アミノ酸以下、100アミノ酸以下、90アミノ酸以下、80アミノ酸以下、70アミノ酸以下、60アミノ酸以下、50アミノ酸以下であり、より好ましくは40アミノ酸以下である。また、このリンカーの長さは、5アミノ酸以上であってよく、好ましくは10アミノ酸以上である。リンカーは例えば、配列番号6に示すアミノ酸配列を有するものを例示できるが、これに限定されない。
また、上記に加え、他のポリペプチドをさらに結合させた融合タンパク質も本発明の範疇である。例えば、融合タンパク質の例えばC末端に、後の精製や検出用のタグを付加しても良い。このようなタグとして例えば、c−mycエピトープタグ(Munro and Pelham(1986)Cell 46:291−300)やヒスチジンタグ(Hochuli et al(1988)BiosurasshuTechnol 6:1321−1325,Smith et al.(1988)J Biol Chem 263:7211−7215)等があるがこれらに限定されるものではない。
なお、融合タンパク質は、昆虫細胞や植物細胞、哺乳類細胞、酵母細胞、無細胞発現系など、他の公知の発現系で発現させてもよい。例えば、以下の〔4.形質転換細胞〕の項目の細胞並びに発現方法が好適に用いられる。
本発明に係る融合タンパク質は、例えば、配列番号17に示すアミノ酸配列を有するS−Cタンパク質、例えば、配列番号18に示すアミノ酸配列を有するC−Sタンパク質が例示される。
また、本発明の融合タンパク質を認識する抗体も本発明の一態様である。
〔2.本発明に係る融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド〕
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記〔1.融合タンパク質〕に記載の融合タンパク質の何れかをコードするものである。このポリヌクレオチドは、具体的には、例えば、以下の(1)〜(4)の何れかに記載のポリヌクレオチドを例示できる。
(1)配列番号17又は18の何れかに記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(2)配列番号17又は18の何れかに記載のアミノ酸配列において1〜96個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。なお、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸の個数は、1〜72個であることが好ましく、1〜48個であることがより好ましく、1〜24個であることがより好ましく、1〜19個であることがより好ましく、1〜14個であることがより好ましく、1〜9個であることがさらにより好ましく、1〜4個、5個又は6個であることが特に好ましい。
(3)配列番号17又は18の何れかに記載のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。なお、アミノ酸配列の配列同一性は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
(4)上記(1)に記載のポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズし、(1)〜(3)に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。なお、ストリンジェントな条件下とは、例えば、参考文献[Molecular cloning−a Laboratory manual 2nd edition(Sambrookら、1989)]に記載の条件などが挙げられる。ストリンジェントな条件下とは、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。また、上記ハイブリダイゼーションは、従来公知の方法で行うことができ、特に限定されるものではない。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズし難くなる)。
本発明にかかるポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、又はDNAの形態(例えば、cDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列などの付加的な配列を含むものであってもよい。
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する(単離する)方法は、特に限定されるものではなく、本発明に係るポリヌクレオチドを、ホスホロアミダイト法などの核酸合成法に従って合成してもよい。
また、本発明にかかるポリヌクレオチドを取得する方法として、PCRなどの増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、当該ポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側及び3’側の配列(又はその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(又はcDNA)などを鋳型にしてPCRなどを行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明にかかるポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
本発明に係るポリヌクレオチドとして、例えば、配列番号19及び20に塩基配列を示すポリヌクレオチドなどを挙げることができる。
また、本発明に係るポリヌクレオチドは、SITH−1タンパク質をコードするポリヌクレオチドとCAMLタンパク質をコードするポリヌクレオチドとの間に、上記リンカーをコードするポリヌクレオチドが挿入されたポリヌクレオチドであってよい。
〔3.融合タンパク質を固定化した担体〕
本発明は、本発明に係る融合タンパク質を固定化した担体を提供する。このような担体は、固体又は不溶性材料(例えば、濾過、沈殿、磁性分離などにより反応混合物から分離することができる材料)であれば特に限定されない。また、固体担体の形状は、例えば、平板形状(すなわち基板又はシート状)又は球形状等が挙げられるが特に限定されず、具体的には、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ、センサーチップなどを含むがこれらに限定されない。薄膜やプレートなどの平坦な固体担体は、当該技術分野で知られているように、ピット、溝、フィルター底部などを設けてもよい。融合タンパク質を担体に固定化する方法については、当業者は、担体の性質や目的に応じて、公知の方法を適宜利用可能である。
また、本発明に係るポリペプチドを基体に供して固定化する方法は基体の材質に応じて適宜選択すればよく、具体的には例えば、ビオチン−アビジン法、抗原抗体法、及びHis−tag等を利用したアフィニティタグ法などが利用できるがこれらに限定されない。
また、融合タンパク質遺伝子を導入して融合タンパク質を発現させる導入先となる細胞(宿主細胞)も、本発明の担体に含まれる。特に(間接)蛍光抗体法により測定を行う場合、このような態様が好ましい。なお、細胞は、公知技術に基づき当業者が適宜選択することができる。例えば、ヒト由来細胞、サル由来細胞、昆虫細胞を好ましく使用することができ、最も好ましくはヒト由来細胞である。なお、宿主細胞の詳細については、〔9.組換え発現ベクター〕に記載の通りである。
〔4.抗体検出器具〕
本発明において「抗体検出器具」とは、本発明の融合タンパク質をプローブとして用いたものである。すなわち、抗融合タンパク質抗体と特異的に結合する上記プローブを、担体上に固定化したもの等が挙げられる。担体としては、上述の〔3.融合タンパク質を固定化した担体〕の項目に記載のものが包含される。
〔5.抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定する方法〕
本発明者らは、被験者から取得した生物学的試料中の、SITH−1を認識する抗体を測定することにより、被験者が気分障害を有するか否かを診断できること、また、SITH−1は、アストロサイトでCAMLと強く結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させることを見出している(特許文献2)。
その後、本発明者らは気分障害について、以下の発症機序を見出している(特許文献3)。すなわち、HHV−6が嗅上皮に感染しSITH−1を発現すると、嗅覚系が障害され嗅球細胞のアポトーシスを生じる。このような嗅覚系の機能障害により、強い不正なシグナルが視床下部に伝達された結果、不正なストレス応答を起こしやすくなる状態である「ストレス脆弱性」を生じる。そして「ストレス脆弱性」が生じると、環境中のマイルドなストレスであっても過敏に反応してしまい、気分障害を発症する。そしてHHV−6が嗅上皮細胞に頻回感染することにより、気分障害の症状は一層重篤となる。なお、本書面において、嗅上皮細胞とは、嗅神経鞘細胞(olfactory ensheathing cell)を含む嗅上皮の細胞をいう。嗅上皮細胞は、好ましくは嗅上皮のグリア細胞である。
本発明者らは、さらに鋭意研究を進めた結果、SITH−1とCAMLの融合タンパク質を認識する抗体の抗体レベルを測定することにより、被験者が気分障害に罹患しているかどうかだけではなく、被験者が発症には至っていないうつ状態か否か、被験者が気分障害を発症するリスク(危険度)、被験者がうつ状態を呈するリスク(危険度)、気分障害の素因を有しているか否か、気分障害の重症度、及び/又は気分障害に罹患している被験者が施された気分障害に関する治療の効果を評価することができることを見出した。また、本測定方法は、従来法よりも検出感度が大幅に向上し、さらには気分障害の原因をも判別できることが明らかになった。その詳細について、以下に詳述する。
本発明は、抗融合タンパク質抗体の抗体レベル測定の対象物において、本発明に係る融合タンパク質を用いて、当該融合タンパク質を認識する抗体の抗体レベルを測定する方法を提供する。
一実施形態において、本発明に係る抗体レベルの測定方法は、1)本発明に係る融合タンパク質と、抗融合タンパク質抗体の抗体レベル測定の対象物とを接触させる接触工程、及び、2)接触工程後に当該抗体を検出し、抗体レベルを測定する測定工程、を含む方法である。
また、一態様として、本発明は、被験対象生物から分離された生物学的試料において、本発明に係る融合タンパク質を用いて、当該融合タンパク質を認識する抗体の抗体レベルを測定する方法を提供する。
本明細書において「被験対象生物」とは、ヒト及び非ヒト哺乳動物を意味するが、好ましくはヒトである。
一実施形態において、本発明に係る抗体レベルの測定方法は、1)本発明に係る融合タンパク質と、被験対象生物から分離された生物学的試料とを接触させる接触工程、及び、2)接触工程後に当該抗体を検出し、抗体レベルを測定する測定工程、を含む方法である。
(接触工程)
抗体レベルの検出の対象物の種類は、抗体含有の有無、又はその含有量を検出したい対象物であれば特に限定されず、対象物としては、例えば、生物系試料、又は非生物系試料が挙げられる。好ましくは被験対象生物から分離された生物学的試料である。
本発明において「生物学的試料」は、抗体の量、抗体価を測定しうる生体由来の試料であれば特に限定されない。好ましくは、血液、血清、血漿、脳脊髄液、唾液、鼻汁、汗、リンパ液、及び母乳からなる群から選択される1種又は2種以上であり、より好ましくは、血液、血清、血漿、又は脳脊髄液である。被験対象生物の侵襲度の低さという観点からは、血液試料のなかでも、末梢血が好ましい。また、IgAの抗体レベルを検出する場合には、唾液又は鼻汁が好ましい。
なお、非生物系試料としては、抗融合タンパク質抗体を所定の濃度で含む抗融合タンパク質抗体標準サンプルなどが挙げられる。
(測定工程)
上記測定工程は、上記接触工程後に行われ、抗融合タンパク質抗体を検出し、当該抗体の抗体レベルを測定する工程である。
本発明において「抗体レベル」とは、生物学的試料中に含まれる当該抗体の量あるいは抗体価をいう。これらの値の測定は、公知の方法を用いて行うことが可能である。限定されるものではないが、例えば、(間接)蛍光抗体法(本明細書において間接蛍光抗体法を、「IFA」という場合がある。)、ドットブロットアッセイ法、ウエスタンブロット法、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA(サンドイッチELISA法、直接吸着によるELISA法、競合によるELISA法を含む))、放射性イムノアッセイ法(RIA)、及び免疫拡散アッセイ法のような、in vitroでの免疫組織学的方法を利用したアッセイ法で検出できる。あるいは、in vivoでの画像解析等によって検出することもできる。
生物学的試料中に存在する抗体の量は、例えば、直線回帰コンピューターアルゴリズムを使用して、標準的な調製物(例えば、健常者の標準試料若しくは典型的な気分障害患者の標準試料)中に存在する量との比較によって簡易に算出され得る。抗体を検出するためのこのようなアッセイ法は、例えば、ELISAについて、Iacobellira,Breast Cancer Research and Treatment 11:19−30(1988)に記載されている。
適切な酵素標識としては、例えば、基質との反応による過酸化水素の生成を触媒するオキシダーゼ群由来のものが挙げられる。グルコースオキシダーゼは、それが良好な安定性を有し、そしてその基質(グルコース)が容易に入手できるために、特に好ましい。オキシダーゼ標識の活性は、酵素−標識抗体/基質反応によって形成される過酸化水素の濃度を測定することによってアッセイされ得る。酵素に加えて、他の適切な標識として、放射性同位元素(例えば、ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、イオウ(35S)、トリチウム(H)、インジウム(112In)、及びテクネチウム(99mTc))、並びに蛍光標識(例えば、フルオレセイン及びローダミン)並びにビオチンが挙げられる。
本発明において利用可能な標識について、具体的な例を以下に示す。適切な酵素標識の例としては、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。
適切な放射性同位体標識の例としては、H、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc、109Pdなどが挙げられる。111Inは、in vivoでのイメージングが用いられる場合に好ましい同位体である。なぜならこれは、125I又は131Iで標識したモノクローナル抗体の肝臓による脱ハロゲン化の問題を回避するからである。さらに、この放射性核種は、イメージングのためにより好ましいγ放出エネルギーを有する(Perkinsra,Eur.J.Nucl.Med.10:296−301(1985);Carasquilloら、J.Nucl.Med.28:281−287(1987))。例えば、1−(P−イソチオシアネートベンジル)−DPTAを用いてモノクローナル抗体にカップリングした111Inは、非腫瘍性組織(特に肝臓)における取り込みをほとんど示さなかった。それゆえ、腫瘍局在化の特異性を増強する(Estebanら,J.Nucl.Med.28:861−870(1987))。適切な非放射性同位体標識の例としては、157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、及び56Feが挙げられる。
適切な蛍光標識の例としては、152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリトリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、o−フタルアルデヒド標識、及びフルオレサミン標識が挙げられる。
適切な毒素標識の例としては、ジフテリア毒素、リシン、及びコレラ毒素が挙げられる。
化学発光標識の例としては、ルミナール標識、イソルミナール標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸エステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、及びエクオリン標識が挙げられる。
核磁気共鳴コントラスト剤の例としては、Gd、Mn、及びFeのような重金属原子核が挙げられる。
上記の標識を抗体に結合するための代表的な技術は、Kennedyら(Clin.Chim.Acta 70:1−31(1976))及びSchursら(Clin.Chim.Acta 81:1−40(1977))により提供される。後者において言及されるカップリング技術は、グルタルアルデヒド方法、過ヨウ素酸方法、ジマレイミド方法、m−マレイミドベンジル−N−ヒドロキシ−スクシンイミドエステル方法であり、これらの方法は全て本明細書中に参考として援用される。
上記測定工程において、「S−Cタンパク質」を認識して結合する抗体(以下「抗S−C抗体」という。)を測定するために、S−Cタンパク質を好ましく用いることができる。また、「C−Sタンパク質」を認識して結合する抗体(以下「抗C−S抗体」という。)を測定するために、C−Sタンパク質を好ましく用いることができる。
抗体は抗S−C抗体の抗体レベルと抗C−S抗体の抗体レベルとを同時又は順次に測定してもよい。
本発明の抗体測定方法において、免疫組織学的方法による測定、好ましくはIFAによる測定では、生物学的試料と標識した抗CAML抗体の双方を融合タンパク質発現細胞に反応させることにより、トランスフェクション効率の確認、タンパク質の発現量、蛍光強度を測定する際の測定部位の確認などが可能となる。このような抗CAML抗体は、限定されるものではないが、公知の手法で作製されたウシ、ヤギ、モルモット、ハムスター、ウマ、ヒト、マウス、ウサギ、ラット又はヒツジ由来のモノクローナル抗体を好適に用いることができる。このような二重染色を行うことにより、イメージアナライザーなどを用いた自動測定を容易に行うことができる。例えば、後述する実施例の図13に示される二重染色では、気分障害患者血清のIFA蛍光強度を測定する際に、抗CAMLマウス抗体によって赤色に染色された部分の緑色発光の強度を測定すれば、イメージアナライザーによる自動測定が容易である。また、抗CAMLマウス抗体の赤色発光の強度を測定することで、各測定のタンパク質の発現量の補正が可能となる。
また、測定工程において、抗体レベルの検出の対象物、例えば、被験対象生物から分離された生物学的試料中の、抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程をさらに包含していてもよい。抗CAML抗体の抗体レベルの測定は、抗融合タンパク質抗体の抗体レベルの測定工程と同時又は抗融合タンパク質抗体の抗体レベルの測定工程と連続的に行ってもよく、測定される抗体の順序はいずれの順番であってもよい。測定に用いられるタンパク質は、例えば、配列番号4及び配列番号21に示すアミノ酸配列を有するCAMLタンパク質が例示される。
抗CAML抗体の抗体レベルの測定工程を包含する測定方法の具体的な例として、例えば、CAMLタンパク質を発現させた細胞に、抗融合タンパク質抗体の測定を行った血清と同じ血清を反応させることにより、抗CAML抗体の抗体レベルを測定する方法が挙げられる。このようにして融合タンパク質に対する抗体のIFA蛍光強度を、CAMLに対する血清抗体のIFA蛍光強度で補正することで、うつ病やうつ状態の診断成績が向上することが明らかになった(実施例3)。
(検査工程)
本発明に係る抗体レベルの測定方法は、さらに必要に応じて、上記測定工程での測定結果に基づき、気分障害の罹患の有無、気分障害の発症リスク、被験者(例えば健常者)がうつ状態を呈するリスク、被験者が気分障害の判断基準を満たさないうつ状態か否か、気分障害発症の素因の有無、又はうつ状態の原因、気分障害の重症度、又は気分障害に罹患している被験者が施された気分障害に関する治療の効果を検査する検査工程をさらに含んでいてもよい。当該検査は任意の試験者によって行われるものを意図し、医師等による診断を包含していない。検査工程は、以下に示す診断方法における診断工程と同様であり、詳細は以下の〔6.気分障害の診断方法〕に記載する。
〔6.気分障害の診断方法〕
本発明は、被験者から分離された生物学的試料において、本発明に係る抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定する工程を包含する、被験者における気分障害の診断方法を提供する。
本明細書において「被験者」とは、対象のヒトを指す。被験者としては、年齢、性別等は特に限定されない。
一例において、抗融合タンパク質抗体は、抗S−C抗体又は抗C−S抗体であり得る。
例えば、一実施形態に係る被験者における気分障害の診断方法は、被験者から分離された生物学的試料において、本発明に係る抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定する測定工程、及び、当該測定工程における測定結果に基づき、気分障害の罹患の有無、被験者が気分障害の診断基準を満たさないうつ状態か否か、気分障害の発症リスク、被験者(例えば健常者)がうつ状態を呈するリスク、気分障害発症の素因の有無、うつ状態の原因、気分障害の重症度、及び/又は気分障害に罹患している被験者が施された気分障害に関する治療の効果を診断する診断工程を包含する。本発明に係る診断方法における測定工程は、上述の〔5.抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定する方法〕の(測定工程)の項目に記載した通りである。
(診断工程)
診断工程において、被験者が気分障害に罹患しているかどうか、発症には至っていないうつ状態か否か、被験者が気分障害を発症するリスク(危険度)、被験者(例えば健常者)がうつ状態を呈するリスク(危険度)、気分障害発症の素因を有しているか否か、気分障害の重症度、及び/又は気分障害に罹患している被験者が施された気分障害に関する治療の効果を評価することを含む。この気分障害、及び気分障害の診断基準を満たさないうつ状態は、好ましくはストレス因子による一過性うつ状態は含まない。
別の実施形態では、本発明の診断方法は、被験者がうつ状態を呈する場合、当該うつ状態が、ストレス因子によって生じる一過性うつ状態か否かを判定する工程であってもよい。この方法により陽性と診断された場合は、本発明者らが見出した上述の発症機序によりうつ状態が生じていると判定できる。なお、本診断方法は、被験者の気分障害に関する素因を評価していると捉えることもできる。
診断工程において、被験者から分離された生物学的試料における、抗S−C抗体の抗体レベルを測定することにより、被験者が気分障害に罹患しているかどうかだけではなく、気分障害の診断基準を満たさないうつ状態であるかどうかを診断することができる。これは言い換えれば、被験者が気分障害を発症するリスクを評価することができるということに他ならない。さらには、当該被験者がうつ状態を呈する場合、当該うつ状態が、ストレス因子による一過性うつ状態かどうか、すなわちうつ状態の原因を判定することができる。さらに、当該被験者がうつ状態を呈していない健常者であっても、今後うつ状態となるリスクを評価することが可能である。
また、被験者から分離された生物学的試料において、抗C−S抗体の抗体レベルを測定することにより、発症している気分障害及び気分障害の診断基準を満たさないうつ状態を、健常状態と判別することができる。従って、これにより、当該被験者が気分障害を発症するリスクを評価することができる。さらには、当該被験者がうつ状態を呈する場合、当該うつ状態が、ストレス因子による一過性うつ状態かどうか、すなわちうつ状態の原因を判定することができる。
本発明者らは、上記抗体レベルの測定結果や各被験者群の気分障害の症状の有無及び重症度(実施例2、3)、SITH−1がCAMLと結合して細胞中のカルシウム濃度を上昇させる事実や、後述する気分障害発症機序などから、嗅上皮細胞におけるSITH−1発現回数が増加するほど、気分障害発症リスク、気分障害の素因、及び気分障害の重症度が増し、それとともに、抗融合タンパク質抗体の抗体レベルが増加していることを見出した。
以上の研究結果から、限定されるものではないが、以下の機序が明らかになった。すなわち、もともとヒトはCAMLに対する自己免疫反応を生じているが、HHV−6の嗅上皮への感染によりSITH−1が発現し、これにCAMLが結合すると、CAMLに対する免疫がCAMLとSITH−1との結合体に移行し、その後HHV−6の頻回感染に伴い、主要なエピトープが、抗C−S抗体認識部位から抗S−C抗体認識部位へ、さらには抗SITH−1抗体認識部位へと移行していると考えられる。抗CAML抗体が、健常者と比べ、抗SITH−1抗体陽性のうつ病患者において有意に減少していることもこの機序を裏付けている(図9)。また、脳内や嗅上皮等に存在するアストロサイトでわずかにしか産生されないSITH−1が、血清抗体として感度よく検出される理由も、CAMLに対する自己免疫による免疫反応の増強から説明することができる。
また、上記の機序を考慮すると、被験者から分離された生物学的試料における、抗S−C抗体の抗体レベル、抗C−S抗体の抗体レベル、及び/又は抗SITH−1抗体の抗体レベルの比較により、気分障害及び/又は気分障害の診断基準を満たさないうつ状態の、進行の程度の評価や予後の予測を行うことができることもまた明らかである。
以下に、診断工程についてさらに詳細に説明する。
「抗体レベル」について、当業者は、健常者における定量値(正常値)、典型的な気分障害患者の定量値(疾患値)、又は軽度、中度若しくは重度の気分障害患者の定量値(疾患値)を参考に、適切に閾値を設定することができる。すなわち、一般に診断薬における閾値(いわゆるカットオフ値)は、臨床試験から得られた健常者や患者の多くの測定値を基に、その目的に合わせて当業者が適切に設定するものであり(例えば、スクリーニング検査のように、疾患群を見逃さないことを最優先として二次検査以降で確定診断するような場合には、特異度よりも感度を優先し、カットオフ値を低く設定する、気分障害の症状の程度を診断する場合には、軽度、中度又は重度の気分障害患者の定量値を参考に閾値を高く設定する等)、本明細書に開示されている記載から、当業者は容易に診断のための閾値を決定することができる。診断に用いられる対照の数値については、健常者又は気分障害患者個人の試料の数値を直接利用してもよく、一定の人数の健常者又は気分障害患者の試料の数値を母集団としたときに得られる平均値を利用してもよい。
すなわち、例えば「抗体レベルの値が高い」ということは、測定した抗体レベルが上記閾値(例えば、健常者の抗体レベルの値)を上回るか否かによって判断することができ、「抗体レベルの値が低い」ということは、測定した抗体レベルが前記閾値を下回るか否かによって判断することができる。
つまり、気分障害の発症の有無、気分障害発症のリスク、被験者(例えば健常者)がうつ状態を呈するリスク、被験者が気分障害の診断基準を満たさないうつ状態か否か、うつ状態の原因、及び/又は気分障害発症の素因の有無、気分障害の重症度、及び/又は気分障害に罹患している被験者が施された気分障害に関する治療の効果の診断(評価)は、例えば、上述の測定工程により得られた、抗体レベルを、被験者から分離した試料の数値と、上述の対照となる正常値及び/又は疾患値あるいは閾値(カットオフ値)とで比較することによって行うことができる。診断の一例では、対照と比較して被験者から分離された生物学的試料における抗体レベルが有意に高い場合、被験者は、気分障害を発症している、気分障害の発症のリスクを有している、うつ状態がストレス因子によって生じる一過性うつ状態でない、気分障害発症の素因を有している、及び/又は気分障害に関する治療の効果が十分ではないと判定される。なお、抗体レベルが有意に高いとは、定量的測定による結果であっても定性的測定による結果であってもよい。すなわち、具体的な数値の比較のみならず、相対的な量の比較(実際に量を算出する必要は無く、ある基準より高いか低いかを判断する)も含む。対照試料の上記測定は、被験者の試料の測定と同時に行われてもよく、また別々に行われてもよい。すなわち、被験者の数値と比較される対照試料の数値は、被験者の試料が測定されるときとは異なるときに行われた測定で得られた値であってもよい。また、対照試料の測定は、被験者の測定を行う者自身が行う必要は無く、例えば、既に取得されデータベース等に蓄積されている対照試料の測定値を閾値として用いることもできる。
これらの診断方法においては、さらに抗CAML抗体の抗体レベルの測定工程を包含してもよい。本発明者らは、ヒトの血清中に抗CAML抗体が存在することを見出した(実施例2)。なお、CAMLはヒトのタンパク質であることから、抗CAML抗体は自己免疫反応による自己抗体であると考えられる。上記の融合タンパク質を用いた気分障害の診断方法で得られた各検体の抗体レベルの値を、各検体の抗CAML抗体の抗体レベルの値で補正することにより、診断の精度を一層向上させることができる(実施例3)。限定されるものではないが、融合タンパク質を用いた気分障害の診断方法で得られた各検体の抗体レベルの値を、各検体の抗CAML抗体の抗体レベルの値で除する補正を、好ましく用いることができる。
また、この診断精度向上効果は、本発明者が開発した「被験者から分離された生物学的試料中の抗SITH−1抗体を測定することにより、被験者が気分障害を有するか否かを診断する方法」(特許文献2。以下「従来法」という。)にも適用することができる(図6図10)。
従って、本発明の一態様は、被験者から分離された生物学的試料中の、抗SITH−1抗体の抗体レベルを測定する気分障害の診断方法において、該被験者から分離された生物学的試料中の、抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含む、診断方法である。
なお、1)被験対象生物から分離された生物学的試料における抗SITH−1抗体の抗体レベルを測定する工程、2)被験対象生物から分離された生物学的試料における抗SITH−1抗体の抗体レベルを測定する工程、を含む測定方法も、本発明の一態様である。抗CAML抗体の抗体レベルの測定は、抗SITH−1抗体の抗体レベルの測定工程と同時又は抗SITH−1抗体の抗体レベルの測定工程と連続的に行ってもよく、測定される抗体の順序はいずれの順番であってもよい。
(その他の工程)
本発明に係る診断方法は、面接における問診及びBDIなどのアンケートによる従来の診断方法の少なくとも一つ以上を、適宜組み合わせることもできる。
また、本発明の診断を行うためのデータを取得する方法も、本発明の一態様である。すなわち、上記診断方法の各工程を含むことを特徴とする診断のためのデータ取得方法も本発明に含まれる。例えば、上述の各工程を含む診断方法に利用するために、被験者から分離された生物学的試料の抗融合タンパク質抗体の抗体レベルのデータを取得する工程を包含することを特徴とする、気分障害の診断のためのデータ取得方法も本発明に含まれる。本発明のデータ取得方法において、抗CAML抗体の抗体レベルのデータを取得する工程を含むことは、より好ましい。
実施例にも示す通り、本発明の診断方法、好ましくは抗S−C抗体の抗体レベルを測定する測定工程を包含する本発明の診断方法、又は、抗CAML抗体の抗体レベルにより抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを補正する工程を含む本発明の診断方法は、従来法よりも検出感度が向上していることが明らかになった。これにより診断の技術的難易度が低下するとともに、非特異結合の影響を軽減できる。また、マウス等の非ヒト動物により作製された抗CAML抗体を使用することにより、イメージアナライザー等の自動化手段の導入を容易に行うことができる(実施例4)。
(他疾患が原因となる気分障害の診断)
本発明の診断方法はいずれも、炎症性腸疾患及び/又は慢性呼吸器疾患に伴う気分障害の診断にも適用することができる。炎症性腸疾患や慢性呼吸器疾患は、高い頻度で気分障害を伴うことが知られているが、このような患者の抗SITH−1抗体価は健常者と比べても高い。限定されるものではないが、このような気分障害の発症機序として、腸や肺に存在するアストロサイト様細胞に感染したHHV−6の再活性化に伴って発現したSITH−1が、CAMLと結合して、中枢神経に影響を及ぼしていると考えられる。炎症性腸疾患や慢性呼吸器疾患に伴う気分障害は、原疾患の治療回復にも影響することが知られており、このような気分障害を適切に診断し治療に繋げることは、原疾患の治療にも有効である。本発明の一態様は、被験者における炎症性腸疾患及び/又は慢性呼吸器疾患に伴う気分障害を診断する方法であって、被験者から分離された生物学的試料において、抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定することを特徴とする、気分障害の診断方法である。その具体的な一態様として、炎症性腸疾患や慢性呼吸器疾患と診断された患者を対象に、該患者から分離された生物学的試料において、抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定することを特徴とする、気分障害の診断方法であってよい。なお、炎症性腸疾患は、好ましくはクローン病である。
(気分障害の診断方法によって得られた診断結果の利用)
上記で説明した診断方法を行うことによって得られた診断結果は、気分障害の診断資料の1つとして利用することができる。つまり、上記の診断方法を行うことによって得られた診断結果に基づいて、治療が必要か否か判定し、必要な場合に治療を行うことができる。治療方法としては、以下の〔8.気分障害の治療方法〕に記載の治療方法を適用することができる。
〔7.気分障害診断のための診断キット〕
本発明は、気分障害診断のための診断キットを提供する。本発明において「キット」とは、本発明の測定方法、データ取得方法、又は診断方法を実施するためのものであればよく、具体的な構成、材料、機器等は、特に限定されるものではない。
本発明の一態様は、S−Cタンパク質、C−Sタンパク質、CAMLタンパク質から選択される物質のうち少なくとも1つ、より好ましくは2つ以上を含み、上記の診断方法を行うための診断キットである。
本発明の診断キットは、限定されるものではないが、S−Cタンパク質を固定化した担体、C−Sタンパク質を固定化した担体、CAMLタンパク質を固定化した担体のうち、少なくとも1つ、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくは少なくともS−Cタンパク質とCAMLタンパク質とを含んでいる、上記の診断方法を行うための診断キットであってよい。このような担体を用いることにより、例えば、同じ生物学的検体から一度に複数の抗体を検出する、いわゆる「マルチプレックスアッセイ」を好適に行うことができる。また、本発明の一態様は、S−Cタンパク質、C−Sタンパク質、CAMLタンパク質から選択される物質のうち少なくとも1つ、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくは少なくともS−Cタンパク質とCAMLタンパク質とを、同一の担体に固定化した担体を含み、上記の診断方法を行うための診断キットであってもよい。
本発明に係る診断キットは、さらに、必要に応じて、抗融合タンパク質抗体の検出に用いる各種試薬及び器具(緩衝溶液、ピペットなど)、試料(測定の対象物)を調製するための各種試薬及び器具(試験管、緩衝溶液など)、検出キットの使用説明書、測定の時に用いられる対照用となる試料、検出結果を解析するときに用いられる対照用のデータ、などの少なくとも1つを備えていてもよい。対照用となる試料の例として、当該試料中の抗S−C抗体の抗体レベル、抗C−S抗体の抗体レベル、及び/又は抗SITH−1抗体の抗体レベルを、健常者における定量値(正常値)、典型的な気分障害患者の定量値(疾患値)、又は軽度、中度若しくは重度の気分障害患者の定量値(疾患値)を参考に、診断目的に応じて適切に調製した試料が挙げられる。限定されるものではないが、このような試料は、健常者や気分障害患者の血清、血漿、鼻汁、唾液などの生物学的試料を調製することにより作製することができる。このように調製された試料そのものも本発明の一態様である。なお、検出キットの使用説明書には、上記〔5.抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定する方法〕の欄で説明した、本発明に係る測定方法の内容が記録されている。
〔8.気分障害の治療方法〕
本発明は、さらに、HHV−6感染阻害剤及び/又はHHV−6抑制剤を投与することを特徴とする気分障害の治療方法を提供する。
一実施形態において、被験者から分離された生物学的試料中の、本発明に係る抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定した結果、治療が必要と診断された被験者に対し、HHV−6感染阻害剤及び/又はHHV−6抑制剤を投与することを特徴とする気分障害の治療方法を提供する。一実施形態において抗体レベルの測定及び診断は、本発明に係る測定方法及び診断方法において行われる。一例において、治療が必要と診断される被験者は、上述の測定工程で得られた抗体レベルがある規定値(例えば対照から算出されたカットオフ値)より高い場合に、当該被験者に、HHV−6感染阻害剤及び/又はHHV−6抑制剤を投与することを特徴とする気分障害の治療方法を提供する。
また、他の実施形態において、本発明に係る治療方法は、被験者の嗅上皮細胞にHHV−6感染阻害剤を投与する工程を包含する。嗅上皮細胞にHHV−6感染阻害剤を投与することによって、嗅上皮細胞へのHHV−6感染を抑制することができる。
本発明者らは、上記した気分障害の発症機序を見出した(特許文献3)。これは、本発明者らが取得した以下の知見に裏付けられている。なお、本発明は、この発症機序に限定されるものではない。
本発明者らが、マウスの嗅上皮細胞(本書面において、嗅神経鞘細胞(olfactory ensheathing cell)を含む嗅上皮の細胞をいう。)においてSITH−1遺伝子を発現させたところ、当該マウス(以下「SITH−1発現マウス」という。)は、嗅覚系細胞の障害、さらにはストレス脆弱性を生じ、気分障害を発症した。
上記嗅覚系細胞の障害の一例として、嗅球細胞のアポトーシスが挙げられる。SITH−1発現マウスは対照マウスと比べ、嗅球においてアポトーシス関連遺伝子の発現が増大し(実施例7)、TUNEL染色による嗅球の組織観察においても、より多くのアポトーシス細胞が検出された(実施例7)。
また、SITH−1発現マウスでは、全脳においてCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)とウロコルチン(Urocortin)の異常産生が見られた(実施例7)。これらは視床下部のバイオマーカーであることから、視床下部に何らかの異常が生じていることを強く示唆していた。また脳ストレス応答因子であるREDD1の発現上昇も見られた(実施例7)。
そしてSITH−1発現マウスは、マイルドなストレスに晒すと気分障害症状を引き起こし(実施例7)、ストレス脆弱性を示した。なお、ストレス脆弱性とは、弱いストレッサ―に対して適切な応答ができない状態をいう。
さらに、SITH−1発現マウスは、行動異常試験(尾懸垂試験)の結果、無動時間が延長し、うつ状態になっていることが分かった(実施例7)。この行動異常はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)投与によって改善された(実施例7)。
以上の一連の結果から、本発明者らは、HHV−6による気分障害発症について、上記の発症機序を見出したのである。
上記のとおり、本発明者らは、HHV−6が嗅上皮細胞に感染してSITH−1を発現することで、さまざまな障害が生じることを見出した。ここで障害とは、嗅覚系細胞の障害、視床下部の異常、脳ストレス応答因子の異常発現、ストレス脆弱性、並びに、気分障害である。なお、限定されるものではないが、嗅覚系細胞の障害の一例として嗅覚系細胞のアポトーシス増加が、視床下部の異常の例としてCRH及び/又はウロコルチンの異常産生が、異常発現する脳ストレス応答因子の1つとしてREDD1が、それぞれ挙げられる。
(治療方法の対象)
本発明の治療方法の対象は、本発明の気分障害診断方法により気分障害である、気分障害の診断基準を満たさないうつ状態である、今後うつ状態を呈するリスク若しくは気分障害を発症するリスクを有している、気分障害の素因を有する、及び/又は気分障害に関して施された治療の効果が十分ではないと判断された被験者である。この気分障害には、好ましくはストレス因子による一過性うつ状態は含まない。抗融合タンパク質抗体の抗体レベルが高い被験者は、上記の機序で気分障害を発症している可能性が高い。本発明の治療方法により、このような被験者のHHV−6の嗅上皮細胞への頻回感染を防ぎ、症状悪化を抑制することができる。
また、本発明の治療方法の対象は、本発明の抗S−C抗体の抗体レベルを測定することを特徴とする気分障害の診断方法により、気分障害の診断基準を満たさないうつ状態及び/又は被験者が気分障害を発症するリスクが高いと評価された被験者、並びに、本発明の抗C−Sタンパク質抗体の抗体レベルを測定することを特徴とする気分障害の診断方法により、気分障害に関して健常状態ではない、及び/又は、被験者が気分障害を発症するリスクが高いと評価された被験者、であってよい。このような被験者は、将来、上記の機序で気分障害を発症するリスクが高い。従って、このような被験者に対し、本発明の治療方法を行うことにより、気分障害の発症を予防することが可能となる。
また、本発明の治療方法の対象は、炎症性腸疾患や慢性呼吸器疾患を原因とする気分障害であると診断された患者であってよい。このような患者に対する本発明の治療は、気分障害のみならず、その原疾患の改善にも繋がると考えられる。
(治療剤及び投与方法)
本発明の治療方法において、治療剤として、HHV−6感染阻害剤及び/又はHHV−6抑制剤を用いることができる。
本発明におけるHHV−6感染阻害剤としては、HHV−6の細胞への感染を阻害するものであればよいが、好ましくは、抗HHV−6抗体、ヘパラン硫酸、ヘパリン、HHV−6ワクチン、糖水解酵素(グリコシダーゼ)阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ペプチド、糖鎖ポリペプチド、糖誘導体、等であり、より好ましくは、ヘパラン硫酸、ヘパリン、HHV−6ワクチンである。また、これらを適宜組み合わせてもよい。抗HHV−6抗体としては、中和抗体を好ましく使用できる。
このようなHHV−6感染阻害剤は、嗅上皮細胞へのHHV−6感染を抑制できる任意の態様で投与することができるが、嗅上皮に投与することが好ましい。実際の治療にあたっては、これらのHHV−6感染阻害剤を、適量を鼻腔に噴霧する等して嗅上皮に投与することができる。
本発明で用いるHHV−6ワクチンは、好ましくは不活化ワクチン又は弱毒化ワクチン、より好ましくは不活化ワクチンである。不活化HHV−6ワクチンは、公知のウイルス不活化処理、例えば、ホルマリン化学処理、熱や放射線などの物理的処理によってウイルスの複製能を失わせることにより、作製することができる。このワクチンには、適宜アジュバントを添加することが好ましい。当業者は公知のアジュバントを適宜選択し、使用することができる。限定するものではないが、アルミニウム塩アジュバント(水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム等)、乳化剤アジュバント(CFA、IFA、スクワレン、MF59等)、ポリマー微粒子アジュバント(リポソーム、バイオポリマー等)、Toll様受容体(dsRNA、CpG−オリゴDNA、LPS、βグルカン等)、イノシトール5リン酸、等を好ましく使用することができる。
なお、イノシトール5リン酸等のアジュバントは、ワクチンなしで単独で鼻腔に噴霧してもよい。これにより免疫が賦活化されて鼻腔中に存在するHHV−6に対する抗体の産生が高められることにより、HHV−6感染を抑制することができる。
また、他のウイルスや細菌のワクチンや抗原もアジュバントとして用いることができる。一例としては、インフルエンザワクチンにHHV−6抗原を混合する態様が挙げられる。
本発明で用いるワクチンは、限定されるものではないが、好ましくは経鼻ワクチンである。HHV−6ワクチンを鼻粘膜に噴霧し、鼻汁中に主に抗HHV−6 IgA抗体を産生させることにより、HHV−6の鼻腔から脳への侵入を抑制することができる。経鼻ワクチンを使用するにあたっては、適宜鼻腔での付着性を向上させる物質、例えばゲル化剤や増粘剤を用いてもよい。
ところで、ヘルペスウイルスは細胞への感染、潜伏感染、増殖、及び再活性化というステージを採りうる。ヒトがストレスを受けると、潜伏感染しているHHV−6は、唾液腺で増殖・再活性化し、その一部が嗅上皮細胞に到達すると考えられる。よって、限定されるものではないが、HHV−6抑制剤を利用して、唾液腺におけるHHV−6の増殖・再活性化を抑制することは、気分障害の治療に有効であると考えられる。
このようなHHV−6抑制剤は、好ましくは、抗ヒトヘルペスウイルス6薬(抗HHV−6薬)又はウイルス再活性化抑制剤である。
抗HHV−6薬の作用機序は特に限定されないが、ウイルスDNAポリメラーゼ阻害薬、プロテアーゼインヒビター、ターミナルトランスフェラーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤などが、その例として挙げられる。
好ましくは、抗HHV−6薬は、アシクロビル(グラクソ・スミスクライン)、ガンシクロビル(シン テックス)、バルガンシクロビル(エフ・ホフマン・ラ・ロシュ)、フォスカルネット(アストラゼネカ)、ファムシクロビル(Novartis)及びイドキシウリジン(IDU)(The Journal of Immunology,1964,92:550−554.Effects of 5−Idoo−2−Desoxyuridine(IDU)on Herpesvirus Synthesis and Survival in Infected Cells,Kendall O.Smith and C.Dean Dukes)からなる群から選択されるが、これらに限定されない。
より好ましくは、抗HHV−6薬は、ガンシクロビル又はバルガンシクロビルである。いずれも公知の化合物であり、当業者は容易に入手可能、あるいは製造可能である。
ウイルス再活性化抑制剤とは、ウイルス粒子形成やウイルス複製の直接的な抑制だけでなく、その準備段階における抑制、例えば中間段階における遺伝子発現の抑制なども含む。限定されないが、ウイルス再活性化抑制剤は、D−リボース、ビタミンC及び活性ヘミセルロース集合体(Active Hexose Correlated Compound)(AHCC(アミノアップ化学))からなる群から選択される。
また、抗酸化作用や抗疲労作用を有する物質は、ウイルス再活性化を抑制することが多く、そのような物質も好ましく使用することができる。
これらの効果は穏やかではあるが、いずれも強い副作用がないため、継続服用が容易となる。従って、気分障害症状がない者をも対象とした、気分障害症状の予防に好ましく使用することができる。
これらの剤は、好ましくは1又はそれより多くの医薬的に許容できる担体と共に投与可能である。医薬的に許容できる担体は、投与の経路について医薬的に許容できる希釈剤、増量剤、アジュバント、賦形剤、及びビヒクル、並びに適した分散剤、湿潤剤、及び懸濁剤を使用して処方される、水性の又は油性の懸濁液であってよい。
医薬的に許容できる担体は、一般的に無菌であり、そして発熱性がなく、そして水、油、溶媒、塩、糖、及び他の炭水化物、乳化剤、緩衝剤、抗菌剤、及びキレート剤を含んでよい。特定の医薬的に許容できる担体及び担体に対する活性化合物の比は、組成物の溶解度及び化学特性、投与の方式、並びに標準の医薬実務により決定される。
HHV−6抑制剤はその種類に応じた、適切な方式で患者に投与される。例えば、唾液腺、静脈内、経皮、皮内、腹腔内、筋内、鼻腔内、硬膜外、経口、局所、皮下、又はいずれかの他の適した技術により投与可能である。好ましくは、静脈内又は腹腔内に投与され、唾液腺に移行する方式である。最適な薬剤処方は、意図される投与経路、搬送形式及び望ましい投薬量に応じて、当業者が容易に決定可能である。
投与されるHHV−6抑制剤の量は、年齢、治療しようとする状態、体重、治療の望ましい期間、投与の方法、並びに他のパラメーターに依存する。有効な用量は、医師又は他の有資格の医学専門家により日常的に決定される。好ましくは、通常HHV−6抑制剤として提供される投与量で用いられる。
〔9.組換え発現ベクター〕
本発明は、また、融合タンパク質遺伝子を含む組換え発現ベクターを提供する。当該ベクターの種類は、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミドなど)でもよいし、或いは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
組換え発現ベクターの作成には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが特に限定されるものではない。また、作製方法も公知の方法を用いて行えばよい。ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、宿主細胞の種類に応じて確実に遺伝子を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと融合タンパク質遺伝子を各種プラスミドに組み込んだものを発現ベクターとして用いればよい。係る発現ベクターは、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクター、ウイルス由来ベクター、及びウイルス(例えば、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス及びレトロウイルス)、並びにそれらの組合せに由来するベクター(例えば、コスミド及びファージミド)を利用可能である。
一般的に、プラスミドベクターは、リン酸カルシウム沈殿物のような沈殿物中か、又は荷電された脂質との複合体中で導入される。ベクターがウイルスである場合、ベクターは、適切なパッケージング細胞株を用いてin vitroでパッケージングされ得、次いで宿主細胞に形質導入され得る。また、レトロウイルスベクターは、複製可能か又は複製欠損であり得る。後者の場合、ウイルスの増殖は、一般的に、相補宿主細胞においてのみ生じる。
また、目的の遺伝子に対するシス作用性制御領域を含むベクターが好ましい。適切なトランス作用性因子は、宿主によって供給され得るか、相補ベクターによって供給され得るか、又は宿主への導入の際にベクター自体によって供給され得る。この点に関する好ましい実施態様としては、ベクターは、誘導性及び/又は細胞型特異的であり得る特異的な発現を提供するものであることが好適である。このようなベクターの中で特に好ましいベクターは、温度及び栄養添加物のような操作することが容易である環境因子によって誘導性のベクターである。
細菌における使用に好ましいベクターの中には、例えば、pQE70、pQE60、及びpQE−9(Qiagenから入手可能);pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(Stratageneから入手可能);並びにptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(Phrmaciaから入手可能)が含まれる。また、好ましい真核生物ベクターの中には、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、及びpSG(Stratageneから入手可能);並びにpSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVL(Phrmaciaから入手可能)が含まれる。
本発明に係る遺伝子が宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認するために、各種マーカーを用いてもよい。すなわち、発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このような選択マーカーとしては、例えば、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼ又はネオマイシン耐性、E.coli及び他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子又はアンピシリン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。また、その他にも宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーと本発明に係る遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとして宿主細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現から本発明に係る遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、本発明に係るタンパク質を融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るタンパク質をGFP融合タンパク質として発現させてもよい。また、本発明に係る遺伝子は、宿主細胞における増殖のための選択マーカーを含むベクターに結合されてもよい。
また、DNAインサートは、適切なプロモーター(例えば、ファージλPLプロモーター、E.coli lacプロモーター、trpプロモーター、及びtacプロモーター、SV40初期プロモーター及び後期プロモーター、並びにレトロウイルスLTRのプロモーター)に作動可能に連結されることが好ましい。他の適切なプロモーターとしては、当業者に公知のものを利用可能である。
本発明において、使用に適した公知の細菌プロモーターの中には、E.coli lacI及びlacZプロモーター、T3プロモーター及びT7プロモーター、gptプロモーター、λPRプロモーター及びλPLプロモーター、並びにtrpプロモーターが含まれる。適切な真核生物プロモーターとしては、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期SV40プロモーター及び後期SV40プロモーター、レトロウイルスLTRのプロモーター(例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーター)、並びにメタロチオネインプロモーター(例えば、マウスメタロチオネインIプロモーター)が挙げられる。
また本発明において、使用に適した公知の哺乳類細胞用プロモーターの例として、サイトメガロウイルスエンハンサー及びニワトリβ−アクチンプロモーターを含むプロモーター、EF−1αプロモーター、並びにTet−on又はTet−offプロモーターが挙げられる。
組換え発現ベクターは、さらに、転写開始、転写終結のための部位、及び、転写領域中に翻訳のためのリボゾーム結合部位を含むことが好ましい。ベクター構築物によって発現される成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始AUGを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含むことになる。
また、高等真核生物によるDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによって増大させ得る。エンハンサーは、所定の宿主細胞型におけるプロモーターの転写活性を増大するように働く、通常約10〜300bpのDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーの例としては、SV40エンハンサー(これは、複製起点の後期側上の100〜270bpに位置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側上のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
また、上記宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。適切な宿主の代表的な例としては、菌体(例えば、E.coli細胞、Streptomyces細胞、及びSalmonella typhimurium細胞);真菌細胞(例えば酵母細胞);昆虫細胞(例えば、Drosophila S2細胞及びSpodoptera Sf9細胞);動物細胞(例えば、ヒト由来細胞、サル由来細胞、HEK293T細胞、HO細胞、COS細胞、及びBowes黒色腫細胞。なお、ヒト由来細胞は、HHV−6が感染する細胞(グリア細胞、マクロファージ等)であってよく、又、HHV−6が感染しない細胞であってもよい);並びに植物細胞が挙げられる。より具体的には、ヒトやマウス等の哺乳類の細胞だけでなく、例えば、カイコガ由来の細胞をはじめとして、キイロショウジョウバエ等の昆虫、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeや分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫Caenorhabditis elegans、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。上記の宿主細胞のための適切な培養培地及び条件は当分野で公知のものを利用可能である。
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換方法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染、カルジオトキシンを用いる方法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。このような方法は、Davisら、Basic Methods In Molecular Biology (1986)のような多くの標準的研究室マニュアルに記載されている。
る。
〔10.形質転換細胞〕
さらに本発明は、細胞内で融合タンパク質が産生されていることを特徴とする形質転換細胞を提供する。このような形質転換細胞は、宿主細胞に融合タンパク質遺伝子を導入することで作製することができる。具体的には、本発明に係るポリヌクレオチド、又は、本発明に係る組換え発現ベクター(本発明の核酸構築物と総称する)を上述した宿主細胞に導入することによって形質転換細胞を作製することができる。
細胞は、好ましくはヒト細胞である。
宿主細胞への融合タンパク質遺伝子導入方法については、上述の〔9.組換え発現ベクター〕の項目に記載の通りであり、各細胞の種類に応じて適宜選択される。
上記の形質転換細胞は、導入された核酸構築物の発現を可能にする条件下で、適切な培養培地中で培養し、必要に応じて、形質転換細胞の培養物から、本発明に係る融合タンパク質を単離精製することも可能である。
さらに本発明は、融合タンパク質を嗅上皮細胞で産生させたことを特徴とする気分障害モデル動物を提供する。上記の気分障害発症機序から、融合タンパク質を嗅上皮細胞で産生させた動物が気分障害を発症する。このような気分障害モデル動物は、本発明のベクターなどを用いて、動物の嗅上皮細胞に融合タンパク質遺伝子を導入することにより作製することができる。融合タンパク質は、好ましくはS−Cタンパク質である。導入の対象となる動物は、実験動物として利用可能なものであれば特に限定されるものではないが、哺乳動物が好ましく、例えば、マウス、ラット、サル等を挙げることができる。本発明のモデル動物は、気分障害の治療法の検討、薬剤の効果の検討、判定、薬剤以外の治療方法(温熱療法等)の評価等に好適に利用することができる。
〔11.本発明に係る具体的な態様の例示〕
本発明は、以下の発明群を含み得る。
(1)SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質との融合タンパク質。
(2)前記SITH−1タンパク質のC末端側に、前記CAMLタンパク質のN末端側が結合したものである、(1)の融合タンパク質。
(3)前記SITH−1タンパク質のN末端側に、前記CAMLタンパク質のC末端側が結合したものである、(1)の融合タンパク質。
(4)前記(1)〜(3)の何れかに記載の融合タンパク質を固定化した担体。
(5)前記(2)及び/又は(3)の融合タンパク質をプローブとして用いた抗体検出器具。
(6)被験対象生物から分離された生物学的試料において、前記(1)の融合タンパク質を用いて、当該抗融合タンパク質抗体の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする測定方法。
(7)前記(1)の融合タンパク質を発現させた細胞に、標識した抗CAML抗体を反応させる工程を含む、(6)の測定方法。
(8)被験者における気分障害の診断方法であって、被験者から分離された生物学的試料において、前記(1)に記載の融合タンパク質を認識する抗体(抗融合タンパク質抗体)の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、気分障害の診断方法。
(9)前記(2)に記載の融合タンパク質を認識する抗体(抗融合タンパク質抗体)の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、(8)の診断方法。
(10)前記(2)の融合タンパク質を用いる、(9)の診断方法。
(11)前記(3)に記載の融合タンパク質を認識する抗体(抗融合タンパク質抗体)の抗体レベルを測定することを特徴とする、(8)の診断方法。
(12)前記(3)の融合タンパク質を用いる、(11)の診断方法。
(13)該被験者から分離された生物学的試料中の、抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含む、(8)の診断方法。
(14)前記(1)の融合タンパク質の、気分障害診断のための使用。
(15)前記(15)の抗体検出器具を含む、(8)の診断方法を行うための診断キット
(16)以下に示す(i)〜(iii)から選択される物質のうち、少なくとも2つの物質を含むことを特徴とする、気分障害の診断キット。
(i)前記(2)の融合タンパク質
(ii)前記(3)の融合タンパク質
(iii)CAMLタンパク質
(17)前記(2)又は(3)の融合タンパク質をコードする核酸。
(18)前記(17)の核酸を含む組換え発現ベクター。
(19)前記(17)の核酸を導入してなる形質転換細胞。
(20)被験者から分離された生物学的試料中の、前記(1)に記載の融合タンパク質を認識する抗体(抗融合タンパク質抗体)の抗体レベルを測定した結果、その値が高い被験者に、HHV−6感染阻害剤及び/又はHHV−6抑制剤を投与することを特徴とする気分障害の治療方法。
(21)被験者の嗅上皮細胞にHHV−6感染阻害剤を投与することを特徴とする(20)に記載の気分障害の治療方法。
(22)SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質を融合させて、可溶性の融合タンパク質を取得する工程を含む、SITH−1タンパク質とCAMLタンパク質の可溶性結合体を製造する方法。
(23)被験者から分離された生物学的試料において、抗SITH−1抗体の抗体レベルを測定する工程と抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含むことを特徴とする、気分障害の診断方法。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0010】
〔実施例1.融合タンパク質の使用によるシグナルの増強〕
(1.1 間接蛍光抗体法(IFA)による観察)
抗SITH−1抗体陽性、かつ気分障害と診断された患者の血漿をPBS/2% BSA 0.05% Tween(登録商標) 20で40倍に希釈し、間接蛍光抗体法(IFA)にて染色を行った。二次抗体には、Alexa Fluor 488 goat anti-human secondary antibodies(Molecular Probes) をPBS/2% BSA 0.05% Tween(登録商標) 20で200倍に希釈して用いた。抗原用の発現プラスミドとして、CAML、SITH−1、SITH−CAML、CAML−SITHを、図1のように構築し、それぞれpCMV−FLAG−5aのCMVプロモーターとFLAGタグの間に挿入したプラスミドと、コントロールとしてLITMUS28iを用いた。それぞれのプラスミドを、Lab-Tek chamber slides (Nunc)で培養したHEK293T細胞にLipofectamine LTX (Invitrogen)でトランスフェクションし、その後48時間培養したものを、乾燥固定後に−20℃ 5%メタノール添加アセトンで5分間固定し、IFA抗原として用いた。これらを間接蛍光抗体法(IFA)により、蛍光顕微鏡を用いて観察したところ、抗SITH−1抗体のシグナルは、SITH−CAML及びCAML−SITHを抗原とした際に増強した(図2)。
図1は融合タンパク質の構造を示す図である(S:スペーサー、His:ヒスチジンタグ)。
図2は融合タンパク質の使用による抗SITH−1シグナルの増強を示す、蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。
上記(1.1 間接蛍光抗体法(IFA)による観察)に記載の方法でIFAによる染色を行った後、画像解析ソフトImageJを使用して、抗SITH−1抗体陽性のうつ病患者血清(22名)のIFA染色細胞の蛍光光度(各検体5個ずつ)を数値化した。数値はそれぞれの蛍光光度の平均値からLITMUS28iクローニング用プラスミドをトランスフェクションした細胞の蛍光顕微鏡における視野全体の数値(バックグラウンド)を引き算したものを、バックグラウンドとの比率で表した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
その結果、うつ病患者では特にS−Cタンパク質においてシグナルが有意に増強されることが判った(図3)。
図3は融合タンパク質の使用による抗SITH−1シグナルの増強を示す図である。
〔実施例2. うつ病患者及びうつ状態を訴える人の病態と融合タンパク質に対する抗体の関係〕
気分障害と融合タンパク質に対する抗体レベルとの関係を検討するために、抗SITH−1抗体陽性のうつ病患者[SITH−1(+)]22名(以下「A群」という。)、気分障害の診断基準を満たさないものの、うつ病自己評価尺度(Beck Depression Inventory:BDI)でうつ状態であると診断される(11以上)が、付帯情報からストレス因子による一過性うつ状態と判断された被験者を除いた13名(以下「B群」という。)、BDIが10以下でうつ状態ではないと考えられる人(BDI10以下)18名(以下「C群」という。)に関し、血清中の、CAML、SITH−1、各融合タンパク質のそれぞれに対する抗体価を評価した。抗体価の評価は、実施例1で記載したIFA法によって行った。また、抗体価の数値化はImageJを使用して、実施例1と同様の方法で行い、値をバックグラウンドとの比率で表した。
まず、CAMLに対する抗体について検討したところ、全ての対象者において抗CAML抗体が存在することが判明した。CAMLはヒトの自己抗原であるので、抗CAML抗体は自己免疫反応による自己抗体であると考えられた。図4にIFAによる代表例を示す。
抗CAML抗体の陽性率を検討するために、IFA(目視)とIFAのImageJを使用した解析を行った。IFAの目視によって、対象とした全ての検体で抗CAML抗体が確認できた。ImageJを使用した数値化においても、CAMLに対する対象者血清の蛍光強度は、全ての対象者においてバックグラウンドよりも高く(図5)、ヒトが抗CAML抗体を持つことが判った。
SITH−1に対してImageJを使用した解析結果では、A群とB群との間に有意差が認められた(図6)。これにより、抗SITH−1抗体がうつ病の診断に有用であるとする先行特許(特許文献2)の結果が、改めて確認された。
S−Cタンパク質に対してImageJを使用した解析結果では、うつ病患者(A群)とうつ状態の被験者(B群)との間に加えて、うつ状態の被験者(B群)と健常者(C群)の間にも有意差が認められた(図7)。このことは、S−Cタンパク質を使用することで、うつ病患者だけでなく、うつ病発症に至る前のうつ状態も検出可能となることを示している。
さらに驚くべきことに、C−Sタンパク質を抗原としてImageJを使用した解析結果から、うつ病患者(A群)とうつ状態の被験者(B群)の間に有意差が見られないのに対し、うつ状態の被験者(B群)と健常者(C群)の間に有意差が認められることが判った(図8)。この結果から、C−Sタンパク質を抗原とした検査では、気分障害の診断基準を満たさないものの、気分障害発症の前段階にあってうつ状態を呈する健常者を検出できることが判明した。
さらに、CAMLに対してImageJを使用した解析結果では、うつ病患者(A群)では健常者(C群)と比較して、有意に減少していることが観察された(図9)。
以上の結果は、融合タンパク質を利用した抗SITH−1抗体の測定が、単に感度を上げるという量的な作用だけではなく、患者の性質を判定するという質的な変化をもたらすことを示している。
図4はヒトにおける抗CAML抗体の存在を示す図である。
IFAによりヒトが自己抗体である抗CAML抗体を持つことが判った。代表例を示す。
図5は抗CAML抗体のImageJを使用した解析を示す図である。
CAMLに対する蛍光高度とバックグラウンドの蛍光高度の比を示す。全てのポピュレーションにおいて、1を超えていた。
図6はうつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−1に対するIFA蛍光強度を示す図である。
バックグラウンドに対する比で表示した。うつ病患者以外では、SITH−1に対するシグナルは検出されないので、便宜上SITH−1をトランスフェクションした細胞のバックグラウンドをSITH−1の値とした。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
図7はうつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−CAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。バックグラウンドに対する比で表示した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
図8はうつ病に関する各段階の対象者血清のCAML−SITHに対するIFA蛍光強度を示す図である。バックグラウンドに対する比で表示した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
図9: うつ病に関する各段階の対象者血清のCAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。バックグラウンドに対する比で表示した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
〔実施例3.SITH−1、融合タンパク質とCAMLの組み合わせによるうつ病診断成績の向上〕
SITH−1や融合タンパク質を用いた測定方法に、CAMLを組み合わせることによって、さらに診断成績が向上するかどうかを検討した。
具体的には、実施例2の記載の方法において、バックグラウンドに代えてCAMLの蛍光強度を用い、これとSITH−1、S−Cタンパク質、C−Sタンパク質の蛍光強度との比率を計算した場合の診断成績を検討した。
SITH−1とCAMLのIFA蛍光強度の比率と、うつ病・うつ状態との関係を図10に示す。上記の図6の場合に比してSITH−1陽性うつ病患者とBDI11以上のうつ状態の者との有意差検定のP値がより小さくなった。
S−Cタンパク質に関して同様の検討を行った結果を図11に示す。図7に比し、A群とB群との有意差検定のP値も、B群とC群とのP値も格段に小さくなっていた。このことより、S−Cタンパク質とCAMLとを組み合わせることにより、診断力の大幅改善が認められた。
C−Sタンパク質に関して同様の検討を行った結果を図12に示す。図8に比し、B群とC群とのP値も格段に小さくなっており、うつ状態と健常との判別能力が大幅に改善されたことが判った。さらにその一方で、A群とB群との値は有意差がないままであり、C−Sタンパク質検査が健常とうつ状態の間の判定に特異性をもつという性質は、そのまま保存されていた。
発明者らは、別途出願中(特許文献3)の特許において、SITH−1によって生じるうつ病や気分障害を、HHV−6の抑制剤や唾液中のHHV−6の嗅上皮細胞への感染を防止することによって、予防又は治療可能であることを示している。C−Sタンパク質に対する抗体は、SITH−1が関連するうつ状態やうつ病の最も早期又は最も症状の軽い時に出現するため、C−Sタンパク質に対する抗体検査は、SITH−1が関係する、うつ病、うつ状態、気分障害、クローン病による気分障害などの予防及び早期治療の指標として極めて重要であると考えられる。
図10はうつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−1に対するIFA蛍光強度を示す図である。CAMLに対する比で表示した。うつ病患者以外では、SITH−1に対するシグナルは検出されないので、便宜上SITH−1をトランスフェクションした細胞のバックグラウンドをSITH−1の値とした。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
図11はうつ病に関する各段階の対象者血清のSITH−CAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。CAMLに対する比で表示した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
図12はうつ病に関する各段階の対象者血清のCAML−SITHに対するIFA蛍光強度を示す図である。CAMLに対する比で表示した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。
〔実施例4. 融合タンパク質とCAMLとを利用したうつ病検査の標準化及び効率化〕
上記のように、融合タンパク質に対する抗体のIFA蛍光強度を、CAMLに対する血清抗体のIFA蛍光強度で補正することで、うつ病やうつ状態の診断成績が向上することが明らかになった。S−Cタンパク質及びC−Sタンパク質は、ウサギなどで作成した抗CAML抗体と二重染色することで、トランスフェクション効率の確認、タンパク質の発現量、蛍光強度を測定する際の測定部位の確認などが可能となる。例えば、図13に示される二重染色では、CAML、C−Sタンパク質、S−Cタンパク質の患者血清のIFA蛍光強度を測定する際に、抗CAMLマウス抗体によって赤色に染色された部分の緑色発光の強度を測定すれば、イメージアナライザーによる自動測定が容易である。また、抗CAMLマウス抗体の赤色発光の強度を測定することで、各測定のタンパク質の発現量の補正が可能となる。
患者の血漿をPBS/2% BSA0.05% Tween(登録商標)20で40倍に希釈したものと、Anti−CAMLG ウサギ抗体(Abcam)を1000倍に希釈したものを混合し、間接蛍光抗体法(IFA)抗原と37℃1時間反応させた。IFA抗原は実施例1で用いたものと同様のものを用いた。二次抗体には、Alexa Fluor 488 goat anti−human secondary antibodies (Molecular Probes)をPBS / 2% BSA 0.05% Tween(登録商標) 20で200倍に希釈したものと Alexa Fluor 594 goat anti−rabbit secondary antibodies (Molecular Probes)をPBS/2% BSA 0.05% Tween(登録商標) 20で500倍に希釈したものを混合し、37℃30分間反応させた。
図13は各種タンパクに対するうつ病患者血清と抗CAML抗体の反応を示す図である。
図に示される各タンパク質に対し、うつ病患者血清(緑)と抗CAMLマウス抗体(赤)の二重染色を行った。
〔実施例5.気分障害の前段階であるうつ状態とストレス因子により一過的に生じるうつ状態の判別〕
うつ状態には、ストレス因子により一過的に生じるものがあることが知られている。このようなストレスは、ライフイベントとも呼ばれ、肉親の死、離婚、転職、失業、転居、ペットロスなどが挙げられる。
ここでは融合タンパク質による診断方法において、気分障害の前段階であるうつ状態と、ストレス因子により一過的に生じるうつ状態を判別することが可能であるか検証を行った。
対象者群を、B群(BDIでうつ状態であると診断される(11以上)が、付帯情報からストレス因子による一過性うつ状態と判断された被験者を除いた13名)と、BDIでうつ状態であると診断される(11以上)が、付帯情報からストレス因子による一過性うつ状態と診断された被験者(以下「D群」という。)として測定した。
結果を図14、15に示す。S−Cタンパク質、C−Sタンパク質ともに、非常に小さいP値の有意差がB群とD群との間に示された。
これによって、S−Cタンパク質やC−Sタンパク質を用いたうつ病検査は、気分障害の前段階であるうつ状態と、ストレス因子により一過的に生じるうつ状態の判定も可能であることが示された。
図14はうつ状態の原因が異なる対象者血清のSITH−CAMLに対するIFA蛍光強度を示す図である。CAMLに対する比で表示した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。なお、ここでは、ストレス因子により一過的に生じるうつ状態を「心因性」と記載した。
図15はうつ状態の原因が異なる対象者血清のCAML−SITHに対するIFA蛍光強度を示す図である。CAMLに対する比で表示した。シャピロ=ウィルク検定にて非正規分布であることを確認後、t検定(Welch補正)にて有意差検定を行った。なお、ここでは、ストレス因子により一過的に生じるうつ状態を「心因性」と記載した。
〔実施例6.融合タンパク質を利用したELISA法によるうつ病診断〕
融合タンパク質を利用したうつ病診断法は、ELISA法によっても実施可能であるかどうかを検討した。IFAによる抗SITH−1抗体が弱陽性SITH−1(±)、陽性SITH−1(+)、強陽性SITH−1(2+)の患者と抗SITH−1抗体陰性の健常人におけるSITH−1、S−Cタンパク質、C−Sタンパク質のELISA法による測定を行った。
抗原用の発現プラスミドは、図1で示したSITH−1、SITH−CAML、CAML−SITHの3’側にHisタグを付加した構造、SITH−1−His、SITH−CAML−His、CAML−SITH−Hiswo、それぞれpCMV−FLAG−5aのCMVプロモーターとFLAGタグの間に挿入したプラスミドを用いた。それぞれのプラスミドを、6ウエルプレートで培養したHEK293T細胞にLipofectamine LTX (Invitrogen)でトランスフェクションし、その後48時間培養したものを、RIPA buffer (50mmol/l Tris−HCl(pH8.0), 150mmol/l sodium chloride, 0.5w/v% sodium deoxycholate, 0.1w/v% sodium dodecyl sulfate, 1.0w/v% NP−40)に溶解して作成した。
コントロールには、HEK293T細胞をRIPA bufferで溶解したものを用いた。融合タンパク質は抗原液を、HisGrab(商標)Nickel Coated 8−well stripに直接固定し、PBS(−) 0.1% Tween(登録商標)−20で洗浄し、StartingBlock(商標)Blocking Buffer with Tween(登録商標)−20でブロッキングを行った。ヒト血清はStartingBlockTM Blocking Buffer with Tween(登録商標)−20で3,200倍に希釈し、融合タンパク質と37℃で1時間反応させ、PBS(−)0.1% Tween(登録商標)−20で洗浄した。
二次抗体は、PBS(−) 5mlに、VECTASTAIN(登録商標) Elite ABC Human IgG Kitに付属しているnormal goat serumを50μlとbiotinylated goat anti−human IgG 25μl入れて作成した。二次抗体反応は37℃で30分間行った後、PBS(−) 0.1% Tween(登録商標)−20で洗浄した。さらに、同キットに付属しているVECTASTAIN(登録商標) ABC Reagentと室温で30分間反応させて、horseradish peroxidase(HRP)を結合させた。ELISA反応の検出は、1−Step(商標) Ultra TMB−ELISAによる発色反応の後2M硫酸を加え、吸光度計で450nmの測定を行った。
その結果、図16に示される様に、SITH−1のELISA法の値は、IFAと同様に、S−Cタンパク質及びC−Sタンパク質の利用によりシグナル強度が増強することが判った。また、分子種間のシグナル強度に差が見られることから、気分障害が重症化するにつれて、エピトープが移行していることが示唆された。
図16は融合タンパク質を利用したELISA法の結果を示す図である。
〔実施例7〕
(1) SITH−1発現アデノウイルスの調製
モデル動物に感染し、SITH−1を発現させるウイルスとして組換えアデノウイルスを構築した。組換えアデノウイルスの構築は、Adenovirus Expression Vector Kit(Takara bio)の標準プロトコールに従った。
グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーターを含むpGfa2Lacプラスミドは、Kazuyoshi Ikuta博士(オリジナルは、Michael Brenner博士)から提供を受けた。
pGfa2Lacプラスミドより得たGFAPプロモーターと、PCRによって増幅したSITH−1遺伝子とを、標準的な方法で、アデノウイルスコスミドベクターにクローニングした(Ad−GFAP−SITH−1)。このAd−GFAP−SITH−1コスミドベクター、及び対照として目的遺伝子が挿入されていないコスミドベクター(pAxcwit)をHEK293細胞にトランスフェクションした。
HEK293細胞を、10%ウシ胎児血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。組換えアデノウイルスを293細胞で調製し、Adeno−X Virus Purification Kits(Clontech)を用いて精製した。さらに、精製したウイルスの力価はAdeno−X rapid titer kits(Clontech)によって決定した。
(2) SITH−1発現アデノウイルスを鼻腔投与したマウス
嗅上皮細胞にSITH−1を発現させた際の行動及び遺伝子発現の変化を解析するために、SITH−1発現アデノウイルス(SITH−1/Adv)をマウスの鼻腔に投与した。対照として、SITH−1遺伝子が挿入されていないコスミドベクター由来のアデノウイルス(empty/Adv)を使用した。
(2.1) SITH−1発現アデノウイルスの鼻腔投与
8週齢のC57BL/6NCrSlcマウスは、室温24±1℃、消灯12時間、点灯12時間の照明時間で飼育した。マウスにイソフルランで麻酔をかけた後、鼻腔に2.5×10ifu相当のSITH−1/Adv若しくはempty/Advを滴下し、呼吸と共に吸引させ、飼育ケージに戻した。
(2.2) SITH−1発現アデノウイルスを鼻腔投与したマウスの尾懸垂試験
SITH−1/Adv若しくはempty/Advの鼻腔投与から7日後に、10分間の尾懸垂試験を行い、無動時間をTailSuspScanTopScan(CleverSys社)で計測した。尾懸垂試験は、尾の端から1cmの箇所をテーピングすることにより、各マウスを懸垂して行った。懸垂の間に、活動的ではなく全く動かない場合に、マウスは無動であるとした。なお、いずれの群のマウスも30匹ずつ実験に用いた。
図17は尾懸垂試験における無動時間の結果を示す図である。
empty/Adv鼻腔投与マウスとSITH−1/Adv鼻腔投与マウスの無動時間を比較した結果を図17の(A)に示す。統計学的有意(*は、P<0.05を示し、**は、P<0.01を示し、***は、P<0.001を示す)は、Mann−Whitney U−testを用いて算出した。
図17の(A)より、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスの無動時間はempty/Adv鼻腔投与マウスの無動時間よりも有意に増加していた。従って、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスは、うつ病様行動を示すことが明らかとなった。
続いて、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)がSITH−1/Advの鼻腔投与によって誘導される無動時間の増加を抑制するかについて検討した。6週齢のマウスに飲料水として80mg/L Fluoxetine溶液を与え、2週間飼育した。2週間後にSITH−1/Advを鼻腔投与し、鼻腔投与後7日目に10分間の尾懸垂試験を行った。SITH−1/Advの鼻腔投与後も80mg/L Fluoxetine溶液を与えて飼育した。このようなSSRI投与群としてマウス21匹を実験に使用した。SSRIの投与による無動時間への影響を図17の(B)に示す。
統計学的有意(*は、P<0.05を示し、**は、P<0.01を示し、***は、P<0.001を示す)は、Mann−Whitney U−testを用いて算出した。
図17の(B)より、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスで観察された無動時間の増加は、SSRIの投与により抑制されたことから、SITH−1/Advの鼻腔投与で誘導されるうつ病様行動はSSRIの投与によって改善されることが示された。なお、FluoxetineはBcl−2発現を促進することを考慮すると、この結果は、Bcl−2発現を促進する気分障害治療剤が、SITH−1発現により生じる気分障害の治療薬として使用できることを裏付けている。
(2.3) SITH−1発現アデノウイルスを鼻腔投与したマウスの遺伝子発現解析
SITH−1/Advを鼻腔投与した結果、遺伝子発現が変化するかを検討するために、尾懸垂試験から24時間後に、empty/Adv鼻腔投与マウス及びSITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅球と脳を採取した。嗅球と脳のRNAを精製し、うつ病に関わる因子及びアポトーシス関連因子のmRNA量をリアルタイムRT−PCRで定量した。リファレンス遺伝子として、β−アクチン遺伝子を用いた。
うつ病に関わる因子として、嗅球を除く全脳のCRH、REDD1、及びUrocortin遺伝子の発現量を図18に示す。図18の(A)はCRH遺伝子の結果を示す図である。図18の(B)はREDD1遺伝子の結果を示す図である。図18の(C)はUrocortin遺伝子の結果を示す図である。なお、図18(B)のDdit4は、REDD1の別名である。さらに、嗅球のBcl−2、Bax遺伝子の発現量及びその比(Bax/Bcl−2)を図19に示す。統計学的有意(*は、P<0.05を示し、**は、P<0.01を示し、***は、P<0.001を示す)は、Mann−Whitney U−testを用いて算出した。図19の(A)はアポトーシス抑制因子Bcl−2の遺伝子発現の結果を示す図である。図19の(B)はアポトーシス促進因子Baxの遺伝子発現の結果を示す図である。図19の(C)はアポトーシス指標Bax/Bcl−2比を示す図である。
うつ病に関わる因子については、empty/Adv鼻腔投与マウス25匹とSITH−1/Adv鼻腔投与マウス25匹の全脳(嗅球を除く)の各遺伝子の発現量を比較した。一方、アポトーシス関連因子については、empty/Adv鼻腔投与マウス20匹とSITH−1/Adv鼻腔投与マウス20匹の嗅球のアポトーシス関連遺伝子の発現量を比較した。
図18より、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスの全脳におけるCRH、REDD1、及びUrocortin遺伝子の発現量は、empty/Adv鼻腔投与マウスよりも有意に増加していた。従って、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスは、うつ病患者と同様に、CRH、REDD1、及びUrocortinの発現増加を示すことが明らかとなった。
また、図19より、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅球において、empty/Adv鼻腔投与マウスよりもアポトーシス抑制因子であるBcl−2の発現が有意に低下していた(図19A)。一方、アポトーシス促進因子であるBaxの発現量に有意な差は見られなかった(図19B)。アポトーシス指標となるBax/Bcl−2比を求めた結果、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅球で有意な上昇が認められた(図19C)。
従って、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスは、嗅球においてアポトーシスが誘導されており、この結果は、うつ病患者で観察される嗅球の萎縮に関連していると考えられる。
(2.4) SITH−1発現アデノウイルスを鼻腔投与したマウスの免疫組織染色
尾懸垂試験から24時間後に、empty/Adv鼻腔投与マウス及びSITH−1/Adv鼻腔投与マウスを10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定し、頭蓋骨上顎部位のパラフィン切片を作製した。
(2.4.1) マウス頭蓋骨上顎部位パラフィン切片のTUNEL染色
パラフィン切片スライドのTUNEL染色は、in situ Apoptosis Detection Kit(TaKaRa Bio)の標準プロトコールに従った。核の対比染色としてPIを含む封入剤VECTASHIELD Mounting Medium with PI(VECTOR Laboratories)を使用した。嗅球のTUNEL染色の結果を図20に示す。図20の(A)は、蛍光顕微鏡で観察した結果であり、empty/Adv鼻腔投与マウスとSITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅球のTUNEL染色像を示す図である。図20の(B)は、嗅球に存在するTUNEL染色陽性細胞数を計数した結果を示す図である。図20の(A)では、アポトーシスによって断片化されたゲノムがTUNEL染色により緑色に染色されており、細胞の核がPIにより赤色に染色されている。図20の(B)において、統計学的有意(*は、P<0.05を示し、**は、P<0.01を示し、***は、P<0.001を示す)は、Mann−Whitney U−testを用いて算出した。empty/Adv鼻腔投与マウスと比較して、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅球で、TUNEL染色された細胞が多数観察された。この結果は、遺伝子発現解析の結果と一致しており、SITH−1/Advの鼻腔投与は、嗅球のアポトーシスを誘導することが示された。
(2.4.2) マウス嗅上皮細胞のSITH−1発現
SITH−1/Advを鼻腔投与することにより、嗅上皮細胞でSITH−1タンパク質が発現していることを確認するために、パラフィン切片の免疫組織染色を行った。パラフィン切片スライドは、脱パラフィン処理した後に、98℃のTris−EDTA Buffer(100mM Tris,10mM EDTA,0.5% Tween(登録商標)20,pH9.0)に20分間浸すことで抗原の賦活化を行った。賦活化後のスライドにImage−iT(商標) FX Signal Enhancer(Life technologies)を滴下し、室温で30分間静置することでブロッキング反応を行った。
その後、Can Get Signal immunostain Solution A(TOYOBO)でウサギ抗SITH−1抗体及びマウス抗GFAP抗体(Abcam)を100倍希釈した溶液を滴下し、4℃で一晩静置した。反応終了後にスライドグラスを0.2% Tween(登録商標)20/PBS溶液で3回洗浄した。
Can Get Signal immunostain Solution AでAlexa Fluor 488 goat anti−rabbit IgG(H+L)(invitrogen)及びAlexa Fluor 594 goat anti−mouse IgG(H+L)(invitrogen)をそれぞれ250倍、400倍希釈した溶液を滴下し、37℃で1時間静置した。
反応終了後にスライドグラスを0.2% Tween(登録商標)20/PBS溶液で3回洗浄し、スライドを乾燥させ、封入剤ProLong Gold Antifade Reagent with DAPI(Life technologies)を用いてカバーグラスを固定した。蛍光顕微鏡で観察した嗅上皮の抗SITH−1抗体による免疫組織染色の結果を図21に示す。図21は、empty/Adv鼻腔投与マウスとSITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅上皮細胞の免疫組織染色像を示す図である。
図21において、矢印で示す細胞はSITH−1タンパク質の発現が見られるアストロサイトである。図21より、抗SITH−1抗体と抗GFAP抗体の両方で染色される細胞はSITH−1/Adv鼻腔投与マウスの嗅上皮細胞でのみ観察された。すなわち、SITH−1/Advの鼻腔投与により、マウスの嗅上皮細胞でSITH−1タンパク質が発現することを確認できた。
(2.5) SITH−1発現アデノウイルスを鼻腔投与したマウスのストレス脆弱性試験
SITH−1/Advを鼻腔投与することにより、マウスがストレスに対して過敏になり脆弱性が増す可能性を検討するために、ストレス脆弱性の検討を行った。
8週齢のマウスを単離飼育し、SITH−1/Advを投与する3日前から、飲料水として、水と1%スクロース溶液を与え、2種類の飲料の飲水割合を平衡化させた。3日後にSITH−1/Advを鼻腔投与し、半数のマウスのケージを20度に傾けて飼育した。24時間毎に飲水量を記録した。SITH−1/Adv鼻腔投与マウスのストレス脆弱性試験の結果を図22に示す。
SITH−1/Adv鼻腔投与後7日目において、水平の飼育ケージで単離飼育したマウス(normal;n=20)と20度に傾けたケージで単離飼育したマウス(slant;n=20)の1%スクロース溶液の飲水割合(1%スクロース溶液の飲水量/全飲水量(水の飲水量+1%スクロース溶液の飲水量))を図22に示した。統計学的有意(*は、P<0.05を示し、**は、P<0.01を示し、***は、P<0.001を示す)は、Mann−Whitney U−testを用いて算出した。
図22より、ケージを傾けるマイルドストレスの付与によりSITH−1/Adv鼻腔投与マウスのスクロース嗜好性は低下していた。従って、SITH−1/Adv鼻腔投与マウスはマイルドストレスに対して過敏になり、うつ病患者で観察される「喜びの喪失」行動を示すことから、嗅上皮アストロサイトにおけるSITH−1タンパク質の発現はストレス脆弱性を引き起こすと考えられる。
(3) HHV−6感染阻害剤によるSITH−1発現の抑制
HHV−6感染阻害剤によって、HHV−6宿主細胞におけるSITH−1発現が抑制されるかどうかを検証した。
(3.1) HHV−6中和抗体によるSITH−1の発現抑制
HHV−6感染阻害剤としてHHV−6の中和抗体を用いて、実験を行った。中和抗体として抗HHV−6B p98(gH)モノクローナル抗体を使用した。また、健常人血清においても抗HHV−6抗体が含まれていることから、10倍の希釈系列を作成して実験に使用した。
健常人血清を56℃で30分間置いた(非働化)。HHV−6 HST株ウイルス液(2.9×10ffu/ml)と、非働化した健常人血清(希釈なし、培地(10%FBS含有DMEM)にて10倍、100倍希釈)又は抗HHV−6B p98(gH)モノクローナル抗体(Clone:OHV−3)(培地にて10倍希釈)、及び対照として培地のみを同量混合し、37℃で1時間反応させた。
次に、処理したウイルス液をU373アストロサイトーマ細胞に遠心法で細胞1個に対するウイルス数(multiplicity of infection:MOI)3で感染させ、COインキュベーターにて、37℃で48時間培養した。得られた感染細胞からRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて、標準プロトコールに従い、RNAを精製した。さらに、PrimeScript RT Reagent Kit(Takara Bio)を用いて、cDNAを合成した。
最後にSITH−1、GAPDH mRNA発現量をApplied Biosystems 7300 Real−Time PCR system(Life Technologies)を用いて測定した。測定は、下記の条件で2回行った。リアルタイムPCR条件:Premix Ex Taq(Perfect Real Time)(Takara Bio Inc.) 12.5μl、PCRフォワードプライマー(100μM) 0.225μl、PCRリバースプライマー(100μM) 0.225μl、TaqManプローブ(10μM) 0.625μl、Rox reference dye 0.5μl、cDNA 2μl、PCR等級水 8.925μlの計25μl。初期ステップが、95℃で30秒、次に、95℃で5秒、60℃で31秒を45サイクル。
プローブ及びプライマーの配列は下記の通りである:
SITH−1フォワードプライマー:配列番号8
SITH−1リバースプライマー:配列番号9、
SITH−1プローブ:配列番号10(5’末端にFAM配列、及び3’末端にTAMRA配列が付加されている)、
GAPDHフォワードプライマー:配列番号11、
GAPDHリバースプライマー:配列番号12、及び
GAPDHプローブ:配列番号13(5’末端にFAM配列、及び3’末端にTAMRA配列が付加されている)。
なお、データの解析は、Sequence Detection Software version 1.4(Applied Biosystems)を用いた。得られた結果を図23に示した。図23はHHV−6感染U373におけるSITH−1の発現の結果を示す図である。
その結果、健常人血清については希釈するほどSITH−1発現量が増加した(図23のA)ことから、健常人血清に含まれる抗HHV−6抗体によりHHV−6感染が妨げられ、SITH−1の発現が抑制されたと考えられる。また、HHV−6を感染前にHHV−6B p98(gH)モノクローナル抗体と反応させることで、U373細胞でのSITH−1の発現が抑制された(図23のB)。
以上から、抗HHV−6抗体を増加させることにより、SITH−1の発現を抑制することが示された。
(3.2) ヘパリン、抗ヘパラン硫酸ペプチドによるSITH−1の発現抑制
HHV−6感染阻害剤としてヘパリン及び抗ヘパラン硫酸ペプチドを用いて、実験を行った。
U373アストロサイトーマ細胞をトリプシン−EDTAを用いて剥離し、培地(10%FBS含有DMEM)を加えて、1×10細胞/mLとした。次にU373細胞とノボ・ヘパリン(持田製薬)10単位/mL又はanti−3−OS Heparan sulfate(HS) peptide trifluoroacetate salt(Sigma−Aldrich)0.1mM、及び対照として培地のみとを4℃で1時間反応させた。培地にて、得られた細胞を3回洗浄した。そしてHHV−6 HST株ウイルス液(2.9×10ffu/ml)を洗浄したU373細胞に遠心法にて、MOI3で感染させた。COインキュベーターにて、37℃で48時間培養した。
得られた感染細胞からRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて、標準プロトコールに従い、RNAを精製した。さらに、PrimeScript RT Reagent Kit(Takara Bio)を用いて、cDNAを合成した。最後にSITH−1、GAPDH mRNA発現量を上記3.1と同様の方法で測定した。得られた結果を図24に示す。図24はHHV−6感染U373におけるSITH−1の発現の結果を示す図である。
ヘパリン、抗ヘパラン硫酸ペプチドのいずれを用いた場合も、HHV−6感染前にU373細胞と反応させることで、U373細胞でのSITH−1の発現が抑制された(図24のA及び24のB)。
〔実施例8.ガンシクロビル存在下でのSITH−1発現〕
ガンシクロビル存在下で、ヒトグリア細胞株(U373)にHHV−6を感染させ、当該感染細胞におけるSITH−1発現量を、Real−time PCR法により検出した。
U373細胞は、グラフに示される濃度のガンシクロビル存在下で、一晩培養した後、HHV−6 variant B HST株を感染し、感染後1日経過した細胞におけるSITH−1発現量をReal−time PCR法にて検出した。
HHV−6 variant Bに対するガンシクロビルの有効濃度は、IC50が約10μMであると考えられているので、10μMを中心に3倍希釈の濃度を用いた。
プライマーとTaqManプローブは、以下の配列のものを用いた。
PCRプライマーforward: 5’- CGTACCACTACTGATCTCGAAGC -3’ (配列番号14)
PCRプライマーreverse: 5’- CTGTGGTCCAGGAACATGTAATG -3’ (配列番号15)
TaqManプローブ: 5’- CTTCTGTACATACCGATTCTGTGACGAGCC -3’ (配列番号16)
結果を図25に示す。図25はガンシクロビルによるSITH−1の発現の抑制を示す図である。図の縦軸は、SITH−1 mRNA発現量をガンシクロビル(−)を1として、比率で表示したものである。ガンシクロビルは、HHV−6が感染したグリア細胞株(U373)におけるSITH−1発現を抑制することが判った。ガンシクロビルを3μM、10μMそして30μM使用した用いた場合に、SITH−1のmRNAの発現量が、各々約、20%、40%、80%以上抑制された。
〔実施例9.融合タンパク質が細胞内カルシウム濃度に与える影響〕
本発明者は、SITH−1が細胞内で発現すると細胞中のCAMLと結合して細胞内カルシウム濃度を上昇させることを見出している(特許文献2)。この知見を踏まえ、細胞内で融合タンパク質を発現させた場合に、細胞内カルシウム濃度にどのような影響を与えるか検討を行った。
細胞内で、SITH−1、S−Cタンパク質、C−Sタンパク質を発現させるために、哺乳動物用発現ベクターpFLAG−CMV-5b(SIGMA-ALDRICH)を用いて、SITH−1/pFLAG−CMV−5b, SITH−CAML/pFLAG−CMV−5b,CAML−SITH/pFLAG−CMV−5bを構築した。なお、いずれの融合タンパク質においても、SITH−1とCAMLの間に図1に記載のスペーサー(配列番号6)を挿入した。また対照としてpFLAG−CMV-5bを用いた。各ベクターをCalPhosTM Mammalian Transfection Kit(TaKaRa Bio)を用いて、HEK293細胞にトランスフェクションし、各タンパク質を細胞内で一過性過剰発現させた。
Calcium Kit II − Fluo 4(Dojindo)を用いて、トランスフェクションから24時間後の細胞にFluo 4−AMを取り込ませた後、ArrayScan XTI System (ThermoFisher Scientific)により、各タンパク質発現細胞700〜1300個の蛍光強度(λex=485nm, λem=518)を測定した。
得られた結果を図26に示す。図26は、SITH−1、S−Cタンパク質又はC−Sタンパク質の発現が細胞内カルシウム濃度に与える影響を示す図である。中央値、最大値及び最小値を箱ひげ図として示した。統計学的有意(**は、P<0.01を示す)は、Scheffe法による多重比較検定を用いて行った。
図26から、SITH−1発現細胞では、対照と比較して細胞内カルシウム濃度が上昇していることが確認され、これまでの知見が裏付けられた。また、S−Cタンパク質発現細胞では、細胞内カルシウム濃度がSITH−1発現細胞よりも大きく上昇しているのに対し、C−Sタンパク質発現細胞では、対照と比べても細胞内カルシウム濃度は低かった。この結果から、細胞内でSITH−1が発現してCAMLと結合した結合体の立体構造は、S−Cタンパク質に類似の構造を有することが示唆された。
〔実施例10.健常者におけるS−Cタンパク質に対する抗体価とBDIスコアとの関係〕
BDIの結果、健常者と判断された(BDI:10以下)83名の被験者について、間接蛍光抗体法を用いて、血清中のS−Cタンパク質に対する抗体価を測定した。そして測定された抗体価とBDIスコアとの相関関係について評価した。
SITH−CAMLとCAMLを図1のように構築し、哺乳動物用発現ベクターpFLAG−CMV-5a(SIGMA-ALDRICH)に導入して、抗原用の発現プラスミドpCMV−SITH−CAMLとpCMV−CAMLを得た。それぞれのプラスミドを、Lab−Tek chamber slides(Nunc)で培養したHEK293T細胞にLipofectamine LTX(Invitrogen)でトランスフェクションし、その後48時間以上培養したものを、乾燥固定後に冷却した3%メタノール添加アセトンで5分間固定し、IFA抗原として用いた。
被験者の血清は、PBS/2% BSA 0.05% Tween(登録商標) 20で80倍に希釈し、間接蛍光抗体法(IFA)にて染色を行った。二次抗体には、Alexa Fluor 488ヤギ抗ヒト二次抗体(Molecular Probes)をPBS/2% BSA 0.05% Tween(登録商標) 20で200倍に希釈して用いた。
これらを用いて間接蛍光抗体法を実施した。CCDカメラ(DP73)を備えた蛍光顕微鏡により得られた画像から、ImageJを使用してIFA染色細胞の蛍光強度の数値化を行った。なお、実施例3の結果を踏まえ、抗S−C抗体の抗体価は、抗S−Cタンパク質抗体のIFA蛍光強度を抗CAML抗体のIFA蛍光強度で除することにより補正した。
得られた結果を図27に示す。図27は、健常者血清中の抗S−C抗体の抗体価とBDIスコアとの相関を示す図である。抗S−C抗体の抗体価とBDIスコアとの相関を決定するために、スピアマンの順位相関係数を用いた。その結果、両者の間には強い正の相関がみられた(ρ=0.83 p=1.39x10-22)。この結果から、うつ状態になく健常者と判断される被験者であっても、抗S−C抗体の抗体価が大きくなるほど、うつ状態になるリスクや気分障害を発症するリスクが上昇すると考えられた。
以下、本実施例の結果のまとめを示す。
(1)抗S−Cタンパク質抗体の抗体レベルを測定する工程を包含する気分障害の診断方法
SITH−1陽性、かつ、うつ病と診断された患者群(以下「A群」という。)、BDI 11以上であったため、うつ状態と診断された対象者群(但し、付帯情報からストレス因子による一過性うつ状態と判断された者は除いた。以下「B群」という。)、BDI10以下であった健常者群(以下「C群」という。)の3つの群から得られた血清について、「抗S−C抗体」の抗体レベルを測定したところ、A群とB群との間、B群とC群との間、A群とC群との間、いずれも有意差が認められ、その抗体レベルは、高い方からA群、B群、C群の順であった(図7)。よって、抗S−C抗体の抗体レベルを測定する本測定方法により、気分障害の診断基準を満たさないうつ状態、すなわち気分障害発症には至っていないうつ状態を、発症した気分障害や健常状態と判別することができることが示された。
さらには、上記抗体レベルの測定結果、A群、B群、C群の気分障害の症状の有無及び重症度、SITH−1がCAMLと結合して細胞中のカルシウム濃度を上昇させる事実や上記の気分障害発症機序などから、嗅上皮細胞におけるSITH−1発現回数が増加するほど、気分障害発症リスク及び気分障害の重症度が増し、それとともに、抗S―C抗体の抗体レベルが増加すると考えられる。従って、B群は気分障害の高リスク群であると想定される。
さらには、健常者群の抗S−C抗体の抗体レベルとBDIスコアが強い正の相関を示していた(図27)ことから、うつ状態を呈していない場合であっても、抗S−C抗体が大きくなるほど、うつ状態になるリスクや気分障害を発症するリスクが上昇すると想定される。この想定は上記の機序とも整合している。
以上から、血清中の抗S−C抗体の抗体レベルを測定することにより、被験者が気分障害に罹患しているかどうかだけではなく、被験者が気分障害を発症するリスク(危険度)又はうつ状態となるリスク(危険度)を評価することができることが明らかになった。
さらに本発明者らが、B群と、B群から除いた「BDI11以上であったが、付帯情報からストレス因子による一過性うつ状態と判断された被験者群」(以下「D群」という。)について、血清中の抗S−C抗体の抗体レベルの比較を行ったところ、両者に有意な差が見られた(図14)。
(2)抗C−Sタンパク質抗体の抗体レベルを測定する気分障害の診断方法
次に、上記A群、B群、C群から得られた血清について、「抗C−S抗体」の抗体レベルを測定したところ、A群とB群の間には有意差が見られないのに対し、A群とC群の間、B群とC群の間に有意差が認められ、その抗体レベルは高い方からA群、B群、C群の順であった(図8)。よって、抗C−S抗体の抗体レベルを測定する本測定方法により、発症している気分障害及び気分障害発症には至っていないうつ状態を、健常状態と判別することができることが示された。
さらには、上記抗体レベルの測定結果、A群、B群、C群の気分障害の症状の有無及び重症度、SITH−1がCAMLと結合して細胞中のカルシウム濃度を上昇させる事実や上記の気分障害発症機序などから、嗅上皮細胞におけるSITH−1発現回数が増加するほど、気分障害発症リスク及び気分障害の重症度が増し、それとともに、抗C−S抗体の抗体レベルが増加すると考えられる。従って、B群は気分障害の高リスク群であると想定される。
以上から、血清中の抗C−S抗体の抗体レベルを測定することにより、被験者が対象疾患を発症するリスク(危険度)を評価することができることが明らかになった。
さらに本発明者らが、B群とD群について、血清中の抗C−S抗体の抗体レベルの比較を行ったところ、両者に有意な差が見られた(図15)。
(3)抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含む気分障害の診断方法
さらに本発明者らは、上記A群、B群、C群から得られた血清について、抗CAML抗体の有無を調べたところ、驚くべきことに全ての対象者において抗CAML抗体が存在することを見出した。CAMLはヒトのタンパク質であることから、抗CAML抗体は自己免疫反応による自己抗体であると考えられる。なお、これまでに自己抗体としての抗CAML抗体の報告はない。また、抗CAML抗体の抗体レベルについて、その抗体レベルは低い方からA群、B群、C群の順であり、A群はC群と比べて有意に低かった(図9)。この結果を踏まえ、上記融合タンパク質を用いた気分障害の診断方法で得られた各検体の抗体レベルの値を、各検体の抗CAML抗体の抗体レベルで除する補正を行ったところ、このような補正を行わない場合と比べて有意差検定のP値が格段に小さくなった(図7図11図8図12)。以上から、上記気分障害の診断方法に、抗CAML抗体測定の結果を組み合わせることにより、診断の精度が一層向上することが見出された。
また、A群、B群、C群について、本発明者が開発した「被験者から分離された生物学的試料中の抗SITH−1抗体を測定することにより、被験者が気分障害を有するか否かを診断する方法」(特許文献2。以下「従来法」という。)を行ったところ、上記と同様に抗CAML抗体測定の結果を組み合わせることにより、診断の精度が大きく向上した(図6図10)。
従って、本発明の一態様は、被験者から分離された生物学的試料中の、抗SITH−1抗体の抗体レベルを測定する気分障害の診断方法において、該被験者から分離された生物学的試料中の、抗CAML抗体の抗体レベルを測定する工程を含む、診断方法である。
なお、本発明の診断を行うためのデータを取得する方法も、本発明の一態様である。すなわち、上記診断方法の各工程を含むことを特徴とする診断のためのデータ取得方法も本発明に含まれる。
以上の研究結果から、限定されるものではないが、以下の機序が明らかになった。すなわち、もともとヒトはCAMLに対する自己免疫反応を生じているが、HHV−6の嗅上皮への感染によりSITH−1が発現し、これにCAMLが結合すると、CAMLに対する免疫がCAMLとSITH−1との結合体に移行し、その後HHV−6の頻回感染に伴い、主要なエピトープが、抗C−S抗体認識部位から抗S−C抗体認識部位へと移行していると考えられる。抗CAML抗体が、健常者と比べ、抗SITH−1抗体陽性のうつ病患者において有意に減少していることもこの機序を裏付けている(図9)。また、脳内や嗅上皮に存在するアストロサイトでわずかにしか産生されないSITH−1が、血清抗体として感度よく検出される理由も、CAMLに対する自己免疫による免疫反応の増強から説明することができる。なお、このようにエピトープが移行する現象は、Dirk. et al., J. Exp. Med, Volume 189, Number 4, Feb. 15, 1999 701-709などでも報告されている。
(4)本発明の診断方法の検出感度
本発明の診断方法の検出感度について検討を行った。本発明者らが、上記A群について、SITH−1、S−Cタンパク質及びC−Sタンパク質をそれぞれ抗原としてIFAにより顕微鏡下で観察したところ、S−Cタンパク質の像は、SITH−1と比べて遥かに明るく染色されていた(図2)。次に画像解析ソフトを用いてこれらの蛍光光度を測定したところ、高い方からS−Cタンパク質、C−Sタンパク質、SITH−1の順となり、S−Cタンパク質とSITH−1との間には有意な差が見られた。このことから気分障害患者において、S−Cタンパク質を抗原として使用すると、抗体のシグナルが有意に増強されることが示された(図3)。
さらに本発明者らは、この結果について融合タンパク質を単離した実験系でも確認を行った。具体的には、ELISA法によりS−Cタンパク質とSITH−1の抗体シグナルを比較したところ、うつ病患者におけるS−Cタンパク質に対する抗体のシグナルは、SITH−1の場合と比べて高いことが示された(図16)。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の気分障害を診断、治療又は予防する方法は、臨床医学的な利用をはじめ、種々の分野で利用することができる。
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JT15288 配列表
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