特許第6641571号(P6641571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641571
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】リチウム/硫黄電池用のカソード
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20200127BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20200127BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200127BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200127BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20200127BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20200127BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20200127BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200127BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/136
   H01M4/36 A
   H01M4/62 Z
   H01M4/38 Z
   H01M4/139
   H01M4/1397
   H01M10/052
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-533601(P2017-533601)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公表番号】特表2018-500741(P2018-500741A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】GB2015054103
(87)【国際公開番号】WO2016102942
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年7月3日
(31)【優先権主張番号】1422981.9
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1516603.6
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】315014590
【氏名又は名称】オキシス エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド エインスワース
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン イー ローランズ
(72)【発明者】
【氏名】ユスティナ カタジェーナ クライス
(72)【発明者】
【氏名】リゼッタ アンパロ ウルティア ムノス
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−533862(JP,A)
【文献】 特表2014−522355(JP,A)
【文献】 特開2013−212975(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/126864(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/075916(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0183548(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0255786(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム−硫黄電池のカソードであって、
前記カソードは、集電体上に堆積された粒子混合物を含み、
前記粒子混合物は、
(i)導電性炭素材料に溶着された電気活性硫黄材料を含む複合物から形成された複合粒子、及び
(ii)導電性カーボンフィラー粒子であって、該導電性カーボンフィラー粒子は、前記複合粒子及び導電性カーボンフィラー粒子の総重量の1〜15重量%を形成する、導電性カーボンフィラー粒子
の混合物を含み、前記導電性カーボンフィラー粒子は、カーボンブラックの粒子であり、
前記導電性炭素材料は、カーボンナノチューブ及びグラフェンから選択され
前記複合物は、前記複合物の総重量に基づいて、12〜14重量%の導電性炭素材料を含むことを特徴とする、リチウム−硫黄電池のカソード。
【請求項2】
前記導電性カーボンフィラー粒子は、前記複合粒子及び導電性カーボンフィラー粒子の総重量の3〜10重量%を形成する、請求項に記載のカソード。
【請求項3】
前記導電性炭素材料は、カーボンブラックをさらに含む、請求項1又は2に記載のカソード。
【請求項4】
前記導電性炭素材料は、カーボンナノチューブである、請求項1〜のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項5】
前記複合物は、前記複合物の総重量に基づいて、70〜90重量%の電気活性硫黄材料を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項6】
前記カソードは、70〜95重量%の複合粒子を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項7】
前記カソードは、バインダをさらに含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項8】
前記バインダ、複合粒子、及び、カーボンブラックの粒子の総重量に基づいて、2〜20重量%のバインダを含む、請求項に記載のカソード。
【請求項9】
前記電気活性硫黄材料は、元素硫黄を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項10】
前記粒子混合物は、50μm未満の平均粒子サイズを有する、請求項1〜のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項11】
液体溶媒に溶解されたリチウム塩を含む電解質が、前記粒子混合物に吸着される、請求項1〜10のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項12】
前記カソードは、ポリエチレンオキサイドとの随意の組み合わせで、ゼラチン、スチレンブタジエンゴム、及び/又は、カルボキシメチルセルロースから選択されるバインダを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のカソード。
【請求項13】
請求項1〜1のいずれか一項に記載のカソードを形成する方法であって、
a 導電性炭素材料に溶着された電気活性硫黄材料を含む複合物から形成され、前記導電性炭素材料は、カーボンナノチューブ及びグラフェンから選択される、複合粒子を形成する工程であって、前記複合物は、前記複合物の総重量に基づいて、12〜14重量%の導電性炭素材料を含む、工程と、
b 前記複合粒子を導電性カーボンフィラー粒子と共に粉砕して粒子混合物を形成する工程であって、前記導電性カーボンフィラー粒子は、前記複合粒子及び導電性カーボンフィラー粒子の総重量の1〜15重量%を形成し、前記導電性カーボンフィラー粒子は、カーボンブラックの粒子である、工程と、
c 集電体上に前記粒子混合物を堆積させる工程と、
を含む、方法。
【請求項14】
前記粒子混合物は、バインダと共に溶媒に分散されてスラリーを形成し、
前記スラリーは、前記集電体上に堆積される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複合粒子は、前記電気活性硫黄材料を溶融すること、及び、配合装置内で溶融した電気活性硫黄材料を前記導電性炭素材料と混練することにより前記電気活性硫黄材料及び導電炭素材料の凝集体を形成することにより形成され、これにより、前記凝集体が粉砕されて複合粒子を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のカソードを有するリチウム−硫黄電池であって、
前記リチウム−硫黄電池は、リチウム金属及び/又はリチウム金属合金から形成されたアノードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されたセパレータと、をさらに備える、リチウム−硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム−硫黄電池用のカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なリチウム−硫黄電池は、リチウム金属又はリチウム金属合金から形成されたアノード(負極)と、元素硫黄又は他の電気活性硫黄材料から形成されたカソード(正極)とを含む。硫黄又は他の電気活性硫黄含有材料は、導電性を向上させるために導電性材料(例えば、カーボンブラック)と混合することができる。
【0003】
既知のカソードの製造方法では、炭素及び硫黄を粉砕して物理的な混合物を形成し、これを溶媒及びバインダに混合してスラリーを形成する。スラリーは、集電体に塗布され、乾燥して溶媒が除去される。得られた構造は、カソードを形成するために所望の形状に切断された複合電極前駆体を形成するようにカレンダ処理することができる。セパレータが、カソード上に配置され、リチウムのアノードがセパレータ上に配置される。セル内に電解液が導入され、カソード及びセパレータを濡らす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウム−硫黄電池が放電されると、カソード内の硫黄が還元される。硫黄は、非導電性であるので、硫黄の還元は、典型的には、導電性材料又は集電体と接触している硫黄粒子の表面に限定される。非導電性硫黄粒子と導電性材料との間の電気的接触を向上させるための様々な試みがなされている。例えば、電極内の導電性材料(例えば、カーボンブラック)の量を増加させて、導電性材料と硫黄粒子との間の電気的接触を向上させることができる。しかしながら、このアプローチでは、リチウム−硫黄電池の比エネルギーが電池の総重量が増加するにつれて減少する。硫黄及び導電性物質を一緒に粉砕して微粒子混合物を形成して、導電性物質の粒子と硫黄との間の接触面積を高める試みもなされている。しかしながら、過度の粉砕は、電極構造全体の多孔性に有害であり得る。
【0005】
カーボンナノチューブ(CNT)を導電性材料として用いる試みもなされている。しかし、例えば、そのサイズ、脆性、及び場合によってはそれらのもつれ構造のために、電極構造全体にCNTを効果的に分散させることは困難である。効果的な分散がなければ、正極と電解質との間の電荷移動は不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電極、セルおよび方法を説明および請求項として記載する際、以下の用語が使用される:単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されていない限り、複数形を含む。したがって、例えば、「アノード」への言及は、そのような要素の1つ又は複数への言及を含む。
【0007】
一態様において、本発明は、リチウム−硫黄電池のカソードであって、該カソードは、集電体上に堆積された粒子混合物を含み、該粒子混合物は、(i)導電性炭素材料に溶着された電気活性硫黄材料を含む複合物から形成された複合粒子、及び(ii)導電性カーボンフィラー粒子(例えば、カーボンブラック)であって、該導電性カーボンフィラー粒子は、前記複合粒子及び導電性カーボンフィラー粒子の総重量の1〜15重量%を形成する、導電性カーボンフィラー粒子、の混合物を含む、を提供する。
【0008】
導電性炭素材料としては、カーボン系ナノ粒子が好ましい。このようなナノ粒子の例としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、ナノグラファイト、及びグラフェンが挙げられる。好ましくは、導電性炭素材料は、カーボンナノチューブを含む。複合物中の導電性炭素材料は、電気活性硫黄と溶着又は溶融混合することができるカーボンブラックをさらに含むことができる。
【0009】
電気活性硫黄材料を導電性炭素材料に溶着又は溶融混合することによって、導電性炭素材料が電気活性材料と密接に接触する複合物を形成することが可能であることが見出された。例えば、導電性炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ)を、電気活性硫黄材料に溶着又は溶融混合することによって、導電性材料が周囲及び電気活性硫黄材料に多孔質構造を形成する、複合物を形成することが可能である。電気活性硫黄材料は、その構造と密接な電気的接触状態にある。しかし、リチウム−硫黄電池のサイクル時に望ましい電気的接触を維持するためには、複合粒子に導電性カーボンフィラー(例えばカーボンブラック)の粒子を混合することが必要であることが分かった。いずれの理論にも拘束されることを望まないが、導電性カーボンフィラー粒子(例えば、カーボンブラック)は、サイクル時に複合物から分離される任意の硫黄との電気的接触を維持すると考えられる。従って、複合物と導電性カーボンフィラーとの混合物を用いてカソードを形成することにより、サイクリング及び容量の改善を得ることができる。
【0010】
導電性カーボンフィラー粒子は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、炭素繊維、及び/又は、グラフェンから形成することができる。導電性カーボンフィラー粒子としては、カーボンブラックを用いることが好ましい。これらの粒子は、物理的混合物として複合粒子と混合され、それらは溶着や溶融混合されて複合粒子と複合物を形成していない。
【0011】
好ましくは、導電性カーボンフィラー粒子は、複合粒子及び導電性カーボンフィラー粒子の総重量の3〜10重量%を形成する。例えば、導電性カーボンフィラー粒子(例えば、カーボンブラック)は、複合粒子及び導電性カーボンフィラー粒子の4〜8重量%を形成する。一例では、導電性カーボンフィラー粒子(例えば、カーボンブラック)は、複合粒子及び導電性カーボンフィラー粒子の5〜7重量%を形成する。
【0012】
カソードの電気化学的特性を最適化するためには、カソード中の導電性炭素材料(例えばカーボンナノチューブ)の含有量を、複合物の総重量に基づいて、10〜15重量%の範囲内に維持すべきである。従って、さらなる態様において、本発明は、リチウム−硫黄電池のためのカソードであって、該カソードは、集電体上に堆積された粒子混合物を含み、該粒子混合物は、(i)導電性炭素材料に溶着された電気活性硫黄材料を含む複合物から形成された複合粒子、及び(ii)導電性カーボンフィラー粒子、の混合物を含み、該複合粒子は、前記複合物の総重量に基づいて、10〜15重量%の該導電性炭素材料を形成する、カソードを提供する。
【0013】
一実施形態では、複合物は、該複合物の総重量に基づいて、12〜14重量%の導電性炭素材料を含む。例えば、複合物は、該複合物の総重量に基づいて、10〜15重量%又は12〜14重量%の導電性炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ)を含むことができる。
【0014】
本発明は、以下のカソードを形成する方法であって、該方法が、a.導電性炭素材料に溶着された電気活性硫黄材料を含む複合物から形成された複合粒子を形成する工程と、b.該複合粒子を導電性カーボンフィラー粒子と共に粉砕して粒子混合物を形成する工程と、c.集電体上に該粒子混合物を堆積させる工程と、を含む、方法も提供する。
【0015】
粒子混合物は、例えば集電体上に堆積させる前に、30〜50μmの粒子サイズに粉砕することができる。
【0016】
粒子混合物は、溶媒(例えば、水又は有機溶媒)中のスラリーの形態で集電体に塗布することができる。次いで、溶媒を除去し、得られた構造をカレンダ処理して複合構造を形成し、これを所望の形状に切断してカソードを形成することができる。
【0017】
上述したように、本発明のカソードは、電気活性硫黄材料を含む複合物を含む。電気活性硫黄材料は、複合物の総重量に基づいて、70〜90重量%の電気活性硫黄材料を形成することができる。例えば、電気活性硫黄材料は、複合物の総重量の80〜85重量%を形成することができる。電気活性硫黄材料は、元素硫黄、硫黄系有機化合物、硫黄系無機化合物、及び硫黄含有ポリマーを含むことができる。他の例は、アルカリ金属アニオン性ポリスルフィド、好ましくは式LiSn(n≧1)で表されるリチウムポリスルフィドを含む。好ましい実施形態では、元素硫黄が用いられる。
【0018】
電気活性硫黄材料は、カソードの総重量の50〜80重量%、例えば、カソードの総重量の60〜70重量%を形成することができる。
【0019】
カソードは、70〜95重量%の複合粒子、例えば、75〜90重量%の複合粒子を含むことができる。
【0020】
カソードは、複合粒子とカーボンブラックとを結合させて、集電体上に堆積されるカソード組成物を形成するバインダをさらに含むことができる。カソードは、バインダ、複合粒子、及び導電性カーボンフィラー粒子の総重量に基づいて、2〜10重量%のバインダを含むことができる。
【0021】
バインダは、ハロゲン化ポリマー、より好ましくは、フッ素化ポリマーから選択することができる。例として、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、好ましくはポリ(トリフルオロエチレン)の形態のものを挙げることができる。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン(HFP)又はトリフルオロエチレン(VF3)又はテトラフルオロエチレン(TFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)又はテトラフルオロエチレン(TFE)又はクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、ペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、ゼラチン、ゴム(例えば、スチレンブタジエンゴム)又はそれらの混合物である。
【0022】
ポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)などのようなポリエーテルも挙げることができる。
【0023】
好ましくは、バインダは、PVDF又はポリ(エチレンオキシド)である。
【0024】
他の例には、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、PVDF−アクリルコポリマー、ポリアクリル酸、及びポリビニルアルコールが挙げられる。
【0025】
好ましい実施形態では、バインダは、ゼラチン、セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)又はゴム、例えばスチレンブタジエンゴムである。より好ましい実施形態では、バインダは、PEOと、ゼラチン、セルロース(例えばカルボキシメチルセルロース)及びゴム(例えばスチレンブタジエンゴム)の少なくとも1つと、を含む。一実施形態では、カソードは、1〜5重量%のPEOと、ゼラチン、セルロース(例えばカルボキシメチルセルロース)及び/又はゴム(例えばスチレンブタジエンゴム)から選択される1〜5重量%のバインダを含む。かようなバインダは、電池のサイクル寿命を向上させることができる。このようなバインダの使用は、バインダの総量を減少させることができ、例えば、カソードの総重量の10重量%以下のレベルにまで減少させることができる。
【0026】
本明細書に記載のカソードは、リチウム−硫黄電池に使用することができる。従って、本発明のさらなる態様は、リチウム金属又はリチウム金属合金から形成されたアノードと、本明細書に記載のカソードと、少なくとも一のリチウム塩及び少なくとも一の有機溶媒を含む電解質と、を含むリチウム−硫黄電池を提供する。セパレータが、随意、カソードとアノードとの間に配置されてもよい。例えば、電池を組み立てる際に、セパレータをカソード上に配置し、リチウムのアノードをセパレータ上に配置することができる。次いで、電解質を組み立てられたセルに導入して、カソード及びセパレータを濡らすことができる。あるいは、リチウムのアノードがセパレータ上に置かれる前に、例えば、コーティング又は噴霧によって、電解質をセパレータに塗布してもよい。
【0027】
アノードは、リチウム金属又はリチウム金属合金で形成することができる。好ましくは、アノードは、リチウム箔電極のような金属箔電極である。リチウム箔は、リチウム金属又はリチウム金属合金で形成することができる。
【0028】
上述のように、電池は電解質を含む。電解質は、電極間に存在するか又は配置され、アノードとカソードとの間で電荷を移動させる。好ましくは、電解質は、カソードの孔及び例えばセパレータの孔を濡らす。
【0029】
テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルプロピルプロピオネート、エチルプロピルプロピオネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、ジグライム(2−メトキシエチルエーテル)、テトラグリム、エチレンカーボネートピリジン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリブチル、リン酸トリメチル、N,N,N,N−テトラエチルスルファミド、及びスルホン及びそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、有機溶媒は、スルホン又はスルホンの混合物である。スルホンの例は、ジメチルスルホン及びスルホランである。スルホランは、唯一の溶媒として、又は例えば他のスルホンと組み合わせて使用することができる。一実施形態では、電解質はリチウムトリフルオロメタンスルホネート及びスルホランを含む。
【0030】
電解質に用いられる有機溶媒は、電気活性硫黄物質が電池の放電中に還元されるときに形成されるポリスルフィド種、例えば式Sn2−のもの、ただしn= 2〜12、を溶解することができるべきである。
【0031】
セパレータが本発明の電池に存在する場合、セパレータは、イオンが電池の電極間を移動することを可能にする任意の適切な多孔質基材又は膜を含むことができる。セパレータは、電極間の直接の接触を防止するために、電極間に配置されるべきである。基材の空隙率は、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、例えば60%以上とすべきである。適切なセパレータは、ポリマー材料で形成されたメッシュを含む。適切なポリマーとしては、ポリプロピレン、ナイロン及びポリエチレンが挙げられる。不織ポリプロピレンが特に好ましい。多層セパレータを用いることもできる。
【0032】
本発明のカソードを形成するのに用いられる複合粒子を、以下にさらに詳細に説明する。
【0033】
複合粒子は、以下を含む方法を用いて配合装置内で形成することができる:
【0034】
少なくとも一の電気活性硫黄材料、導電性炭素材料、及び適宜のレオロジー調整剤の配合装置への導入;
【0035】
電気活性硫黄系材料の溶融;
【0036】
溶融した電気活性硫黄系材料、導電性炭素材料、及び適宜のレオロジー調整剤の混練;
【0037】
凝集した固体物理の形態で得られた混合物の回収;
【0038】
混合物を粉砕して複合粒子を形成。
【0039】
好ましい実施形態によれば、元素硫黄は、電気活性硫黄系材料として単独で、又は少なくとも一の他の電気活性硫黄系材料との混合物として用いられる。
【0040】
上述したように、複合粒子を形成するための電気活性硫黄材料及び導電性炭素材料の溶着又は溶融配合は、電気活性硫黄材料と導電性炭素材料との間のより良好な電気接触を促進して、硫黄のより良好な電気化学反応に至る。溶着又は溶融配合は、Li/Sバッテリーのカソードの機能を最適化するのに適した形態をもたらす。導電性炭素材料は、硫黄ベースのマトリックス中に有利に良好に分散又は浸透される。これは、電流コレクタからの効率的な電気伝達を提供することができ、リチウム−硫黄電池の電気化学反応が起こるための活性界面を提供する。
【0041】
上述したように、複合粒子は、配合装置内で形成することができる。「配合装置」は、複合物を製造する目的で熱可塑性ポリマー及び添加剤の溶融ブレンド用のプラスチック業界で従来用いられている器具を含むことができる。
【0042】
このタイプの器具は、電気活性硫黄材料(例えば、元素硫黄)と、電気活性炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ)との緊密な混合物を製造するために用いられていない。配合装置の技術的制約の1つは、比較的狭い溶融プロセスウィンドウによるものである。約115℃での、特に140℃からでの溶融後、液体硫黄は、粘度が非常に不安定となる。充填剤含有液状硫黄のレオロジーの制御は、プロセス操作条件及び140℃を超える粘度を低下させる添加剤を完全に熟知して実施しなければならない。
【0043】
この配合装置では、高剪断装置、例えば同方向回転二軸スクリュー押出機又は共混練機を用いて、電気活性硫黄材料(例えば元素硫黄)及び電気活性炭素材料(例えばカーボンナノチューブ)を混合する。溶融材料は、一般に、凝固した固体物理の形態、例えば顆粒の形態、又は冷却後に顆粒に切断される棒の形態で器具から出る。
【0044】
本発明に従って用いることができる共混練機の例は、Buss AG社によって販売されている、Buss(登録商標)MDK46共混練機、及び、Buss(登録商標)MKS又はMXシリーズの混練機であり、混練物のせん断を生じさせるためにフライトと相互作用するのに適した混練歯が内壁に設けられている加熱バレル内に配置されたフライトを有する。シャフトは回転駆動され、モータによって軸方向に揺動運動する。これらの共混練機には、押出スクリュー又はポンプからなることができる例えば出口オリフィスに取り付けられた顆粒を製造するためのシステムを装備することができる。
【0045】
本発明に従って用いることができる共混練機は、好ましくは7〜22、例えば10〜20の範囲のスクリュー比L/Dを有するが、コロテーティング押出機は、有利には15〜56の範囲のL/D比を有し、例えば20〜50である。
【0046】
配合段階は、電気活性硫黄系材料の融点よりも高い温度で実施される。元素硫黄の場合、配合温度は120℃〜150℃の範囲とすることができる。他の種類の電気活性硫黄系材料の場合、配合温度は、特に融点が材料の供給者によって一般的に言及されているように、特に用いられる材料に依存する。滞留時間はまた、電気活性硫黄材料の性質に合わせて調整される。
【0047】
上述したように、元素硫黄は、好ましくは電気活性硫黄材料として用いられる。元素硫黄粉末の粒子サイズは変化し得る。元素硫黄はそのまま使用することができ、又は、精製、昇華又は沈殿のような異なる技術に従って硫黄を予め精製することができる。元素硫黄又は電気活性硫黄系材料はまた、粒子のサイズを小さくし、それらの分布を狭めるために、粉砕及び/又はふるい分けの予備段階に付すことができる。
【0048】
別の実施形態では、電気活性硫黄材料は、有機ポリスルフィド、例えば、ジチオアセタール、ジチオケタールまたはトリチオオルトカーボネートなどの官能基を含む有機ポリチオレート、芳香族ポリスルフィド、ポリエーテル−ポリスルフィド、ポリスルフィド酸の塩、チオスルホン酸塩[−S(O)−S−]、チオリン酸塩[−S(O)−S−]、チオ炭酸塩[−C(O)−S−]、ジチオカルボン酸塩[−RC(S)−S−]、有機金属ポリスルフィド、又はそれらの混合物である。一例では、電気活性硫黄材料は、アルカリ金属アニオン性ポリスルフィド、例えばポリスルフィドリチウムである。
【0049】
別の実施形態では、電気活性硫黄材料は、芳香族ポリスルフィドとすることができる。芳香族ポリスルフィドは、以下の一般式(I)に対応する。
【0050】
【化1】
【0051】
ここで、
【0052】
−R〜Rは、同一又は異なり、水素原子、−OHであり、又は
−Oラジカル、炭素原子1〜20個を含む飽和又は不飽和の炭素系鎖又は−OR10基であり、R10は、アルキル、アリールアルキル、アシル、カルボキシアルコキシ、アルキルエーテル、1〜20個の炭素原子を含むシリル又はアルキルシリル基、
【0053】
−Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表し、
【0054】
−n及びn´は、同一又は異なる2つの整数であり、それぞれ1以上8以下であり、
【0055】
−pは、0〜50の整数であり、
【0056】
−Aは、窒素原子、単結合又は炭素数1〜20の飽和又は不飽和の炭素系鎖である。
【0057】
好ましくは、式(I)において:
−R、R、及びRは、Oラジカルであり、
−R、R、及びRは水素原子であり、
−R、R、及びRは、1〜20個の炭素原子、好ましくは3〜5個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の炭素系鎖であり、
−n及びn´の平均値は約2であり、
−pの平均値は1〜10、好ましくは3〜8であり、(これらの平均値は、当業者によってプロトンNMRデータ及び硫黄を重量でアッセイすることにより計算される)、
−Aは、硫黄原子を芳香族環に結合する単結合である。
【0058】
式(I)のそのようなポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィドは既知であり、例えば、2段階:
1)一塩化硫黄又は二塩化硫黄の、100〜200℃の温度での、次の反応によるアルキルフェノールとの反応:
【0059】
【化2】
【0060】
式(II)の化合物は、特にVultac(登録商標)の名称でArkema社によって販売されている。
【0061】
2)Oラジカルを得るための、化合物(II)と、例えばこの金属の、酸化物、水酸化物、アルコキシド又はジアルキルアミドのような金属Mを含む金属誘導体と、の反応。
【0062】
より好ましい代替形態によれば、Rはtert−ブチル又はtert−ペンチル基である。
【0063】
各芳香族単位上に存在するR基の2つが、Rが芳香族核に結合している少なくとも1つの第三炭素を含む炭素系鎖である式(I)の化合物の混合物を用いることもできる。
【0064】
上述したように、導電性炭素材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、グラフェン、又はカーボンブラック、又はこれらの混合物から選択することができる。好ましくは、炭素系導電性フィラーは、カーボンナノチューブのみであるか、又は、複合体中に存在する少なくとも1種の他のカーボン系フィラー、例えばカーボンブラックとの混合物である。
【0065】
複合物中の電気活性炭素材料の量は、複合物の総重量に対して、0.1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、より好ましくは2重量%〜15重量%を占める。一実施形態において、複合物は、該複合物の総重量に基づいて、12〜14重量%の導電性炭素材料を含む。例えば、複合物は、該複合物の総重量に基づいて、10〜15重量%又は12〜14重量%の電気活性炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ)を含むことができる。
【0066】
カーボンナノチューブが用いられる場合、それらは、単層、二重層、又は多重壁型とすることができる。二重壁ナノチューブは、特に、Flahaut et al. in Chem.Com.(2003),1442に記載されている。それらのための多層ナノチューブは、国際公開第03/02456号パンフレットに記載されているように調製することができる。
【0067】
使用される場合、カーボンナノチューブは、0.1〜200nm、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは0.4〜50nm、より好ましくは1〜30nm、実際には10〜15nmの範囲の平均直径を有することができる。有利には0.1μm超、有利には0.1〜20μm、好ましくは0.1〜10μm、例えば約6μmの長さである。それらの長さ/直径比は、有利には、10より大きく、一般に100より大きい。従って、これらのナノチューブは、特に、「VGCF」ナノチューブ(化学気相堆積又はVapor Grown Carbon Fibersによって得られた炭素繊維)を含む。それらの比表面積は、例えば、100〜300mVg、有利には200〜300mVgであり、その見掛け密度は、特に0.01〜0.5g/cm、より好ましくは0.07〜0.2g/cmである。多層カーボンナノチューブは、例えば、5〜15枚、より好ましくは7〜10枚を含むことができる。
【0068】
これらのナノチューブは、処理されてもされなくてもよい。
【0069】
粗製カーボンナノチューブの例は、特に、Arkema社の商品名 Graphistrength(登録商標)C100である。
【0070】
これらのナノチューブは、精製及び/又は処理(例えば酸化)及び/又は粉砕及び/又は官能化することができる。
【0071】
ナノチューブの粉砕は、特に、低温条件下又は高温条件下で実施することができ、ボール、ハンマー、エッジランナー、ナイフ又はガスジェットミル又は任意の他の粉砕システムなどの装置で用いられる既知の技術に従って行うことができ、ナノチューブの絡み合ったネットワークのサイズを縮小することができる。この粉砕段階は、ガスジェット粉砕技術、特にエアジェットミルで実施することが好ましい。
【0072】
粗製、又は粉砕されたナノチューブは、硫酸溶液を用いて洗浄することにより、それらの調製プロセスに起因する可能性のある残留無機及び例えば鉄などの金属の不純物から遊離するように精製することができる。硫酸に対するナノチューブの重量比は、特に1:2〜1:3とすることができる。精製操作はさらに、90℃〜120℃の範囲の温度で、例えば5〜10時間実施することができる。この操作の後に、精製されたナノチューブを水ですすぎ、乾燥させる段階を有利に続けることができる。別の形態では、ナノチューブは、典型的には1000℃を超える高温熱処理によって精製することができる。
【0073】
ナノチューブの酸化は、0.5〜15重量%のNaOCl、好ましくは1〜10重量%のNaOClを含む次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させることによって有利に実施され、例えば、次亜塩素酸ナトリウムに対するナノチューブの重量比は、1:0.1〜1:1の範囲である。酸化は、有利には60℃未満の温度で、好ましくは周囲温度で、数分間から24時間の範囲の時間実施される。この酸化操作の後に、酸化されたナノチューブをろ過及び/又は遠心分離し、洗浄し、乾燥させる段階を有利に行うことができる。
【0074】
ナノチューブの官能化は、ビニルモノマーなどの反応性単位をナノチューブの表面にグラフトすることによって行うことができる。ナノチューブの構成材料は、酸素含有基をその表面から除去することを目的とする、酸素を含まない無水媒体中で、900℃超の熱処理を受けた後、ラジカル重合開始剤として用いられる。従って、カーボンナノチューブの表面でメチルメタクリレート又はヒドロキシエチルメタクリレートを重合させることができる。
【0075】
好ましくは、粗製カーボンナノチューブが用いられる。このようなナノチューブは、酸化も精製も官能化もせず、他の化学的及び/又は熱処理に供されておらず、必要に応じて粉砕される。
【0076】
さらに、仏国出願2914634に記載されているように、特に植物起源の再生可能な出発材料から得られたカーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0077】
カーボンナノファイバが用いられる場合、それらは、水素の存在下で、500℃〜1200℃の温度での遷移金属(Fe、Ni、Co、Cu)を含む触媒上で分解される炭素系供給源から出発する化学蒸着(CVD)によって製造されたナノフィラメントとすることができる。カーボンナノファイバは、その構造においてカーボンナノチューブとは異なる(I. Martin−Gullon et al., Carbon, 44 (2006)、1572−1580)。これは、カーボンナノチューブが、繊維の軸の周りに同心に巻かれた1つ以上のグラフェンシートからなり、直径が10〜100nmの円筒を形成するからである。反対に、カーボンナノファイバは、多かれ少なかれ組織化されたグラファイト領域(又は乱層スタック)からなり、その平面はファイバの軸に対して可変角度で傾斜している。これらのスタックは、一般に100nm〜500nmの範囲の直径を有する構造体を形成するために積み重ねられた血小板、フィッシュボーンまたは皿の形態を取ることができる。
【0078】
さらに、直径100〜200nm、例えば約150nm(VGCF(登録商標)、昭和電工社製)のカーボンナノファイバを用いることが好ましく、長さ100〜200μmであることが好ましい。
【0079】
「グラフェン」という用語は、平坦で分離した別個のグラファイトシートを意味するが、1〜数十枚のシートを含み、フラットな又はより波状の構造を呈する集合体でもよい。従って、この定義は、FLG(少数層グラフェン)、NGP(ナノサイズグラフェンプレート)、CNS(カーボンナノシート)、又はGNR(グラフェンナノリボン)を含む。他方、それは、それぞれ1つ又は複数のグラフェンシートを同軸に巻くこと及びこれらのシートの乱層積重ねからなるカーボンナノチューブ及びナノ繊維を除外する。さらに、本発明により用いられるグラフェンは、追加の化学酸化段階又は官能化段階に供されないことが好ましい。
【0080】
本発明による方法は、電気活性硫黄材料中に多量の電気活性炭素材料を効率的かつ均一に分散させて複合物を形成することを可能にする。上述のように、この複合物は、続いて、カーボンブラック又は他の導電性カーボンフィラー粒子と混合される。カーボンブラックは、重質石油製品の不完全燃焼により工業的に製造されたコロイド状炭素系材料であり、炭素球及びこれらの球の集合体の形態で提供され、その寸法は一般に5〜20μm(10μmが好ましい)である。上述のように、カーボンブラック以外の導電性カーボンフィラーとしては、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン等が挙げられる。カーボンナノチューブ、炭素繊維、及びグラフェンの適切な例は、複合物中に存在する導電性炭素材料に関連して記載されている。しかし、疑念を避けるために、導電性カーボンフィラー粒子として同じ例を用いることもでき、これらは複合物と混合して本明細書に記載のカソードを形成する。
【0081】
上記で説明したように、配合段階中に、溶融状態の硫黄のレオロジーを改質する添加剤を添加して、配合装置内の混合物の自己発熱を減少させることができる。液体硫黄に対する流動化効果を有するそのような添加剤は、国際公開第2013/178939号パンフレットに記載されている。例として、硫化ジメチル、硫化ジエチル、硫化ジブチル、ジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジブチルジスルフィド、それらのトリスルフィド同族体、それらのテトラスルフィド同族体、それらのペンタスルフィド同族体またはそれらのヘキサスルフィド同族体を挙げることができる又はそれらの2種以上の混合物としての割合で使用することができる。
【0082】
レオロジー改質添加剤の量は、一般に、カソード活性材料の総重量に対して、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜3重量%である。
【0083】
本発明の特定の実施形態によれば、他の添加剤を配合装置に導入することができる。例えば、カソード活性材料のイオン伝導性を向上させることを可能にする添加剤を挙げることができる。場合によりリチウム塩と組み合わされたポリ(エチレンオキシド)タイプのポリマーを有利に用いることができる。
【0084】
配合装置の出口では、マスターバッチは 凝集した物理的形態、例えば顆粒の形態である。
【0085】
最終段階において、マスターバッチは、粉末形態の複合マスターバッチを得るために、当業者に周知の技術に従って粉砕の段階に付される。ハンマーミル、ビーズミル、エアジェットミル、又は遊星ミキサーを器具として用いることができる。この段階が終わると、所望のメジアン径D50は、一般に1〜50μm、好ましくは10〜20μmである。
【0086】
製造された複合粒子は、カーボンブラック又は他の導電性炭素フィラー粒子、及び場合によっては上記のようなバインダと混合されて、本明細書に記載のカソードを生成する。
【実施例】
【0087】
実施例1:S/CNT活性材料の調製
押出スクリュー及び造粒装置を備えている、Buss(登録商標)MDK46共混練機(L/D=11)の第1の供給ホッパーに、CNT(Arkema社製のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体硫黄(50−800μm)を導入した。
【0088】
共混練機内の設定温度値は次の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0089】
ダイの出口では、87.5重量%の硫黄及び12.5重量%のCNTからなる混合物は、空気によって冷却されたペレット化によって得られた顆粒の形態である。
【0090】
その後、顆粒をハンマーミルで粉砕し、窒素で冷却を行った。
【0091】
20〜50μmのD50を有する粉末が得られて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察すると、CNTが硫黄中に良好に分散していることが示された(図3)。
【0092】
87.5重量%の硫黄及び12.5重量%のCNTからなるこの粉末は、Li/S電池用のカソードの製造に用いることができる活性材料である。
実施例2:S/DMDS/CNT活性材料の調製
【0093】
押出スクリュー及び造粒装置を備えている、Buss(登録商標)MDK46共混練機(L/D=11)の第1の供給ホッパーに、CNT(Arkema社製のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体硫黄(50−800μm)を導入した。
【0094】
液体ジメチルジスルフィド(DMDS)を共混練機の第1ゾーンに注入した。
【0095】
共混練機内の設定温度値は次の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0096】
ダイの出口では、83重量%の硫黄、2重量%のDMDS、及び15重量%のCNTからなる混合物は、空気によって冷却されたペレット化によって得られた顆粒の形態である。
【0097】
続いて、乾燥した顆粒をハンマーミルで粉砕し、窒素で冷却した。
【0098】
Li/Sのカソード活物質として用いることができる、の30〜60μmのD50を有する、83重量%の硫黄、2重量%のDMDS、及び15重量%のCNTからなる粉末を得た。
実施例3:S/ポリ(tert−ブチルフェノール)ジスルフィド/CNT活性材料の調製
【0099】
押出スクリュー及び造粒装置を備えている、Buss(登録商標)MDK46共混練機(L/D=11)の第1の供給ホッパーに、CNT(Arkema社製のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体硫黄(50−800μm)を導入した。
【0100】
液体ジメチルジスルフィド(DMDS)を共混練機の第1ゾーンに注入した。
【0101】
Arkema社によってVultac−TB7(登録商標)の名称で販売されているポリ(tert−ブチルフェノール)ジスルフィドを、LOAの名称で販売されているLi塩(商品名又は化学名)をArkema社から入手し、次に第3の計量装置を用いて第1のホッパーに導入した。
【0102】
共混練機内の設定温度値は次の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0103】
ダイの出口では、混合物はペレット化によって得られた顆粒の形態であり、ウォータージェットによって冷却される。
【0104】
得られた顆粒を100ppm未満の含水量まで乾燥させた。
【0105】
続いて乾燥顆粒をハンマーミルで粉砕し、窒素で冷却した。
【0106】
Li/S電池のカソード活性材料として用いることができる、77重量%の硫黄、2重量%のDMDS、15重量%のCNT、5重量%のVultac−TB7(登録商標)、及び1重量%のLOA(登録商標又は化学名)からなる粉末であって、D50が30〜50μmの粉末が得られた。
実施例4:S/POE/LiS/CNT活性材料の調製
【0107】
収押出スクリュー及び造粒装置を備えた、Buss(登録商標)MDK 46共混練機(L/D=11)の第1供給ホッパーに、CNT(Arkema社製のGraphistrength(登録商標)C100)及び固体硫黄(50−800μm)を導入した。
【0108】
ポリエチレンオキシドPolyox(登録商標)WSR N−60K(Dow社製)をSigma社製のLiSと予め混合した。この混合物は、第3計量装置を介して第1ホッパーに導入された。
【0109】
共混練機内の設定温度値は次の通りであった:ゾーン1:140℃;ゾーン2:130℃;スクリュー:120℃。
【0110】
ダイの出口で、70%の硫黄、15%のCNT、10%のPolyox(登録商標)WSR N−60K、及び5%のLiSからなる混合物は、水と接触することなくコンベヤーベルトと交差したロッドの分度器によって、顆粒の形態であった。
【0111】
続いて乾燥顆粒をハンマーミルで粉砕し、窒素で冷却した。
【0112】
Li/S電池用のカソード活性材料として用いられる、70%重量の硫黄、15%重量のCNT、10重量%のPolyox(登録商標)WSR N−60K、及び5重量%のLiSからなり、D50が10〜15μmである粉末が得られた。
実施例5
【0113】
この実施例では、実施例1の複合体を用いてカソードを形成した。比較のために、実施例1の手順を用いて、さらも10重量%のCNT及び15重量%のCNTを含む複合物を作製した。3つの複合体を粉砕し、液体窒素下でキネマティックグラインダーを用いてカーボンブラックと混合した。粒子混合物をバインダ及び有機溶媒と混合してスラリーを形成した。次にスラリーを集電体に塗布し、スラリーを乾燥させて有機溶媒を除去してカソードを形成した。次いで、カソードをLi−Sパウチ型電池に使用した。
【0114】
2つのポリマー、すなわち、ポリ(エチレンオキシド)Mw 4M、及びポリアクリロニトリルコポリマーLA−132をバインダとして用いた。ポリマーのために、異なる電解質、すなわち、PEOベースのスルホラン及びLA−132ベースの2MGNも試験した。
以下の表1は、カソードで用いられる複合物、カーボンブラック、及びポリマーバインダー(PB)の比率をまとめたものである。
【0115】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1図1は、異なる濃度のCNTを有する複合物の放電曲線を示す。25サイクル目の最高放電容量は、12.5%CNT−1008mAh/g(S)である。
図2図2は、LA−132ポリマーバインダーを用いた同じ複合物の放電容量を示している。
図3図3は、20〜50μmのD50を有する粉末が得られて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察すると、CNTが硫黄中に良好に分散していることが示された。
図4図4は、0.2C及び0.1Cレート(それぞれ充放電)での電池の放電プロファイル及びサイクル特性を示している。
図5図5は、0.2C及び0.1Cレート(それぞれ充放電)での電池の放電プロファイル及びサイクリング性能を示している。
【0117】
実施例6
図1は、異なる濃度のCNTを有する複合物の放電曲線を示す。25サイクル目の最高放電容量は、12.5%CNT−1008mAh/g(S)である。
【0118】
図2は、LA−132ポリマーバインダーを用いた同じ複合物の放電容量を示している。 結果はバインダとしてPEOを用いた結果と同様である。最も高い放電容量はCNTの12.5%であった。
【0119】
実施例5を繰り返したがカーボンブラックを添加しなかった。カーボンブラックが存在しない場合、電池はサイクルしなかった。
実施例7
【0120】
この実施例では、実施例1の複合物を用いてカソードを形成した。この複合物を粉砕し、ゼラチン結合剤及び有機溶媒と混合して、硫黄含有量76重量%、カーボンナノチューブ(CNT)11重量%、カーボンブラック11重量%、及びゼラチン2重量%(HO中40〜50重量%)。存在するCOOH及びNHのようなイオン化可能な基に起因して、ポリマーは水:エタノール(2:1の比)溶液中に良好に分散し、固形分含有量10重量%のスラリーを得た。次にスラリーを集電体に塗布し、乾燥させて溶媒を除去してカソードを形成した。カソードをコーティングして、2.4mAh・cm−2の表面容量を得た。カソードを用いて、エーテル系電解液で満たされた10S/9LJセルを組み立てた。以下の図4は、0.2C及び0.1Cレート(それぞれ充放電)での電池の放電プロファイル及びサイクル特性を示している。電池の電解質は、TEGDME:DME:DOL(50:30:20 v/v)中、1M LiOTf+0.5M LiNOであった。初期放電容量が約1260mAh・g−1であっても、次の放電は1089mAh・g−1に低下し、その後、所望の安定性(初期放電よりもさらに高い値)を得る前にサイクル後に増加する。 これは、サイクリングプロセスが開始された後の濡れ性の向上によるものである可能性がある。観察できるように、電池の容量は、80サイクル後の寿命の初期値の80%に達し、これは、他のバインダーシステムと比較して電池に有意な改善があることを意味する。これは、セルサイクリングの間に体積膨張を緩衝するゼラチンによって与えられるカソードの可撓性の増加に起因する可能性がある。
【0121】
110サイクル後の電池の内部特性を決定するために、電池の容量が寿命値の65%に達したときに電池を分解した。カソードは良好な形状であることが観察され、その完全性は影響を受けなかった(セパレータ側にわずかな量の材料しか見出されなかった)。
実施例8
【0122】
この実施例では、実施例1の複合物を用いてカソードを形成した。この複合物をPEOとスチレンブタジエンゴム−SBR(SBRとPEOとを5:1の割合で予め分散させたもの)の両方と粉砕混合し、硫黄73重量%、CNT11重量%、カーボンブラック10重量%、SBR 4重量%、及びPEO 2重量%のスラリーに調整した。各懸濁液中の10%固形分に達するために、水/エタノール混合物(2:1の比)を用いた。次いで、スラリーを集電体に塗布し、40℃まで乾燥させて溶媒を除去し、カソードを形成した。 カソードを被覆して3.0mAh・cm−2の表面容量を得た。スラリーによって示される接着特性は、バインダ混合物のより低い含有量が将来使用され得ることを示す。
【0123】
カソードを用いて、エーテル系電解液で満たされた10S/9LJセルを組み立てた。 以下の図5は、0.2C及び0.1Cレート(それぞれ充放電)での電池の放電プロファイル及びサイクリング性能を示している。しかし、放電容量値は、従来のPEOバインダーシステムよりも低いが、電池サイクル寿命の点では有意な改善が見られるが(20サイクルと比較して、容量が寿命値の80%に低下する前の50サイクル(カソードの総重量に基づいて20重量%のPEO単独で達成されたサイクル)、これは、SBRバインダと組み合わせたPEOの使用により、容量の向上が示されることを示している。また、CMC(カルボキシメチルセルロース)を共結合剤として用いた従来のSBRシステムと比較して、PEO置換は予想される安定性を提供すると思われる。
図1
図2
図3
図4
図5