(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
胃痛、胸やけ、胃もたれと言った症状は、胃液の分泌の亢進、即ち胃酸過多が原因であることが多い。そこで、胃酸を中和し、胃内pHを適正範囲に調整する制酸剤が用いられている。
制酸剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等の、胃のpHを急激に上昇させる即効性の制酸剤と、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム等の、急激な胃のpHの上昇はないが徐々に酸中和作用を発現する持続性の制酸剤があることが知られている。従来の制酸用医薬組成物においては、適正な胃内pHを維持することを目的として、これらが組み合わされて用いられている。
【0003】
しかし、制酸剤の多くは胃酸を一過的に中和させることで、適正範囲の胃内pHを超えて中和されることがあり、その場合、胃内の異常発酵や反動的胃酸分泌を引き起こす結果、症状をさらに悪化させる他、使用目的を達成できない等の問題があった。また、制酸作用の発現までに時間がかかったり、制酸作用が発現している時間が十分に長くなかったりする結果、満足な症状改善効果が得られないという問題点も有していた。
【0004】
平成14年6月5日付で厚生労働省医薬局安全対策課から発出された「医薬品の使用上の注意の改定について」によれば、アルミニウムを含む上述の持続性の制酸剤等は、アルミニウム脳症の懸念により使用が制限されている。
【0005】
そのような中、酸中和作用の即効性と持続性とを兼ね備え、反動的酸分泌を引き起こさず、さらにアルミニウムを含有しない制酸剤組成物が報告されている(特許文献1)。特許文献1においては、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム及び炭酸カルシウムを含む制酸剤組成物が開示されている。
【0006】
近年になって、マグネシウム含有製剤の摂取により、高齢者に対して高マグネシウム血症の危険性があるため、使用に際して専門家への事前相談を必要とすることが、平成27年10月20日付の厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長からの通達(「使用上の注意」の改定について)により指摘された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することができる。
本明細書において引用したすべての刊行物、例えば、技術文献、及び公開公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参考として組み込まれる。
【0013】
なお、本明細書において、酸中和作用の即効性とは、胃内において胃酸を中和し、胃内のpHを6以上にするまでにかかる時間がおよそ1分程度以内であることを意味する。また、酸中和作用の持続性とは、胃内のpHを6以上にした後、再び胃内のpHが4若しくは3.5に下がるまでにかかる時間が30分程度以上であることを意味する。
また、反動的酸分泌とは、胃内がアルカリ性に傾くことによって、胃壁の細胞によるこの状態を修正するための胃酸の分泌が促進されることを言う。従って、反動的酸分泌を引き起こさないためにはpHを7以下に維持することが望ましいが、pHが7を超えると同時に反動的酸分泌が引き起こされるものではないため、胃内の最大pHを7付近に抑制することが重要であり、必ずしも胃内の最大pHが7を超えたからと言って、直ちに反動的酸分泌が引き起こされるものではない。
【0014】
<制酸用医薬組成物>
本発明の制酸用医薬組成物は、優れた酸中和作用により、胃において過剰に分泌された胃酸による胃痛、胸やけ、胃もたれと言った症状に対する改善作用を有する。
本発明の制酸用医薬組成物は、制酸成分を含む。
【0015】
(制酸成分)
本明細書において制酸成分とは、胃酸を中和して胃内のpHを上昇させることができる酸中和作用を有する成分を言う。
本発明の制酸用医薬組成物に含有される前記制酸成分は、使用制限のあるアルミニウム、及び高齢者の使用に当たり事前相談の必要なマグネシウムを含有せず、炭酸水素ナトリウム及び炭酸カルシウムからなる。前記炭酸水素ナトリウムの100質量部に対する炭酸カルシウムの含有量は50〜90質量部であり、ある態様としては55〜85質量部であり、別の態様としては60〜80質量部であり、さらに別の態様としては65〜80質量部である。
炭酸水素ナトリウムの100質量部に対する炭酸カルシウムの含有量が上記下限値以上であれば、炭酸水素ナトリウムの酸中和作用のみならず炭酸カルシウムの酸中和作用の寄与が十分に期待でき、上記上限値以下であれば、酸中和作用の持続性が高い。
【0016】
本発明の制酸用医薬組成物において、前記制酸用医薬組成物の100質量部に占める制酸成分の含有量は、20〜90質量部であり、ある態様としては25〜85質量部であり、別の態様としては30〜80質量部である。
制酸用医薬組成物の100質量部に占める制酸成分の含有量が上記下限値以上であれば、十分な酸中和作用の発現が得られ、上記上限値以下であれば、1回あたりの服用量が必要以上に増えず、服用時のコンプライアンスが高まる。
【0017】
本発明の制酸用医薬組成物に含まれる制酸成分は、炭酸水素ナトリウム及び炭酸カルシウムからなる。
炭酸水素ナトリウムとしては、医療用医薬品としての炭酸水素ナトリウムや、食品添加用の炭酸水素ナトリウム等の、市販の炭酸水素ナトリウムを用いることができる。ある態様としては、日本薬局方に基づく炭酸水素ナトリウムを用いることができる。炭酸水素ナトリウムは、99%以上の純度を有する炭酸水素ナトリウムを使用することが望ましく、別の態様としては99.2%以上の純度を有する炭酸水素ナトリウムを使用することが望ましい。
炭酸カルシウムとしては、医療用医薬品としての炭酸カルシウムや、食品添加物用の炭酸カルシウム等の、市販の炭酸カルシウムを用いることができる。ある態様としては、化学反応により微細な結晶を析出させた沈降炭酸カルシウムを用いることができ、別の態様としては、日本薬局方に基づく沈降炭酸カルシウムを用いることができる。
【0018】
(その他の成分)
本発明の制酸用医薬組成物は、上記の制酸成分の他に製薬学的に許容される担体等のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、安定化剤、界面活性剤、滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、甘味剤、基剤、吸着剤、矯味剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、光沢剤、香料、コーティング剤、湿潤剤、湿潤調整剤、充填剤、消泡剤、清涼化剤、着色剤、等張化剤、軟化剤、乳化剤、粘稠剤、発泡剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、芳香剤、防湿剤、防腐剤、保存剤、溶解剤、溶解補助剤、溶剤、流動化剤等が挙げられる。
これらのその他の成分の具体例としては、例えば、「医薬品添加物事典2007」(日本医薬品添加剤協会、薬事日報杜、2007年発行)に記載されたものが挙げられる。
【0019】
<制酸用医薬組成物の製造方法>
本発明の制酸用医薬組成物は、例えば以下のように製造できる。
炭酸水素ナトリウムの100質量部、炭酸カルシウムの50〜90質量部、及び必要に応じてその他の成分を撹拌型混合器で混合し、水、アルコール又はそれらの混合物を加えて2〜6分間混練する。得られた混練物を押出造粒機を用いて造粒し、箱型乾燥機や流動層造粒乾燥機等の乾燥機を用いて水、アルコール又はそれらの混合物の大半を除去し顆粒を製造する。なお、造粒方法としては、押出造粒の他、撹拌造粒、流動層造粒、乾式造粒法等の医薬品の製造に通常用いられる公知の方法を採用することができる。
また、上記の混練物を箱型乾燥機や流動層造粒乾燥機等の乾燥機を用いて水、アルコール又はそれらの混合物の大半を除去した後、必要により粉砕してもよい。
顆粒中に含まれる水、アルコール又はそれらの混合物の量は、顆粒の100質量部に対して、ある態様として0〜10質量%であり、別の態様として0.01〜5質量%であり、さらに別の態様として0.01〜3質量%である。アルコールとしては、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールが例示できる。
なお、造粒後、乾燥機を用いた乾燥後、又は粉砕後に、篩を用いて目的の粒度の顆粒としてもよい。また、マルメライザー等の球形整粒機を用いて球形の顆粒としてもよい。
すべての操作は20〜30℃程度の室温で行うことができる。
【0020】
顆粒の粒径はd90として、ある態様として100〜1000μmであり、別の態様としては150〜700μmであり、さらに別の態様としては200〜500μmである。顆粒の粒径が上記範囲にあれば、服用感がよく、湿潤して固化することを防止でき、流動性が高いため医薬品製造上において有利である。顆粒の粒径はふるい分け法で測定した値を用いる。
【0021】
上記のように製造された顆粒は、そのまま散剤、細粒剤等の顆粒剤として用いることもできるが、カプセル剤の内容物として使用することもできる。また、上記のように製造された顆粒を直接打錠し、錠剤型の医薬組成物とすることもできる。
【0022】
上記のように製造された顆粒や錠剤型の医薬組成物は服用感の向上、及び制酸成分やその他の成分の安定性を考慮して、糖類や高分子等でコーティングされてもよい。使用される糖類や高分子等は、その目的に応じて通常の医薬品の製造に用いられる公知の糖類や高分子等を用いることができる。
【0023】
<併用薬剤>
本発明の制酸用医薬組成物と併用できる薬剤としては、前記制酸成分以外の制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、止瀉剤、鎮痛鎮痙剤、粘膜修復剤、ビタミン類、消泡剤等が挙げられる。なお、これらの成分は、必要に応じて本発明の制酸用医薬組成物に含有されていてもよい。但し、使用制限のあるアルミニウム、又は高齢者の使用に当たり事前相談の必要なマグネシウムを含む成分、及び前記制酸成分以外の制酸剤については、本発明の制酸用医薬組成物に含有されないことが好ましい。
【0024】
前記制酸成分以外の制酸剤としては、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、烏賊骨、石決明、ボレイ、アミノ酢酸、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、ロートエキス等が挙げられる。これらの中でも、使用制限のあるアルミニウム、及び高齢者の使用に当たり事前相談の必要なマグネシウムを含まない前記制酸成分以外の制酸剤として、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、烏賊骨、石決明、ボレイ、アミノ酢酸、ロートエキスが挙げられる。
【0025】
健胃剤としては、アニス実、アロエ、ウイキョウ、ウコン、ウヤク、延命草、オウゴン、オウバク、オウレン、加工大蒜、ガジュツ、カッコウ、カラムス根、乾薑、枳殻、キジツ、ケイヒ、ゲンチアナ、コウジン、コウボク、ゴシュユ、胡椒、コロンボ、コンズランゴ、サンショウ、山奈、シソシ、シュクシャ、ショウキョウ、ショウズク、青皮、石菖根、センタウリウム草、センブリ、ソウジュツ、ソヨウ、大茴香、ダイオウ、チクセツニンジン、チョウジ、チンピ、トウガラシ、トウヒ、動物胆(ユウタンを含む。)、ニガキ、ニクズク、ニンジン、ハッカ(セイヨウハッカを含む)、篳撥(ヒハツ)、ビャクジュツ、ホップ、ホミカエキス、睡菜葉(スイサイヨウ)、モッコウ、ヤクチ、リュウタン、リョウキョウ、ウイキョウ油、ケイヒ油、ショウキョウ油、ショウズク油、チョウジ油、トウヒ油、ハッカ油、レモン油、L−メントール、DL−メントール、塩酸ベタイン、グルタミン酸塩酸塩、塩化カルニチン、塩化ベタネコール、乾燥酵母等が挙げられる。
【0026】
消化剤としては、でんぷん消化酵素、たん白消化酵素、脂肪消化酵素、繊維素消化酵素、ウルソデスオキシコール酸、オキシコーラン酸塩類、コール酸、胆汁末、胆汁エキス(末)、デヒドロコール酸、動物胆(ユウタンを含む。)等が挙げられる。
【0027】
整腸剤としては、整腸生菌成分、赤芽柏、アセンヤク、ウバイ、ケツメイシ、ゲンノショウコ等が挙げられる。
【0028】
止瀉剤としては、アクリノール、塩化ベルベリン、グアヤコール、クレオソート、サリチル酸フェニル、炭酸グアヤコール、タンニン酸ベルベリン、ジサリチル酸ビスマス、ジ硝酸ビスマス、ジ炭酸ビスマス、ジ没食子酸ビスマス、タンニン酸、タンニン酸アルブミン、メチレンチモールタンニン、カオリン、天然ケイ酸アルミニウム、ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム、ペクチン、薬用炭、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、アセンヤク、ウバイ、オウバク、オウレン、クジン、ゲンノショウコ、五倍子、サンザシ、センブリ、ヨウバイヒ等が挙げられる。これらの中でも、使用制限のあるアルミニウム、及び高齢者の使用に当たり事前相談の必要なマグネシウムを含まない止瀉剤として、アクリノール、塩化ベルベリン、グアヤコール、クレオソート、サリチル酸フェニル、炭酸グアヤコール、タンニン酸ベルベリン、ジサリチル酸ビスマス、ジ硝酸ビスマス、ジ炭酸ビスマス、ジ没食子酸ビスマス、タンニン酸、タンニン酸アルブミン、メチレンチモールタンニン、カオリン、ペクチン、薬用炭、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、アセンヤク、ウバイ、オウバク、オウレン、クジン、ゲンノショウコ、五倍子、サンザシ、センブリ、ヨウバイヒが挙げられる。
【0029】
鎮痛鎮痙剤としては、塩酸オキシフェンサイクリミン、塩酸ジサイクロミン、塩酸メチキセン、臭化水素酸スコポラミン、臭化メチルアトロピン、臭化メチルアニソトロピン、臭化メチルスコポラミン、臭化メチル−L−ヒヨスチアミン、臭化メチルベナクチジウム、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、ヨウ化ジフェニルピペリジノメチルジオキソラン、ロートエキス、ロート根総アルカロイドクエン酸塩、塩酸パパベリン、アミノ安息香酸エチル、エンゴサク、カンゾウ、コウボク、シャクヤク等が挙げられる。
【0030】
粘膜修復剤としては、アズレンスルホン酸ナトリウム、アルジオキサ、グリチルリチン酸及びその塩類並びに甘草抽出物、L−グルタミン、銅クロロフィリンカリウム、銅クロロフィリンナトリウム、塩酸ヒスチジン、ブタ胃壁ペプシン分解物、ブタ胃壁酸加水分解物、メチルメチオニンスルホニウムクロライド、赤芽柏、エンゴサク、カンゾウ等が挙げられる。
【0031】
ビタミン類としては、ビタミンB1若しくはその誘導体又はその塩類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、ビオチン、ビタミンB2若しくはその誘導体又はその塩類、ビタミンB6若しくはその誘導体又はその塩類、ビタミンC若しくはその誘導体又はその塩類等が挙げられる。
【0032】
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の制酸用医薬組成物と併用できる上記以外の薬剤として、ムスカリン受容体遮断薬、ヒスタミン受容体遮断薬、プロトンポンプ阻害薬、胃粘膜保護成分、プロスタグランジン製剤、粘膜分泌促進薬を挙げることもできる。なお、これらの成分は、必要に応じて本発明の制酸用医薬組成物に含有されていてもよい。但し、使用制限のあるアルミニウム、又は高齢者の使用に当たり事前相談の必要なマグネシウムを含む成分については、本発明の制酸用医薬組成物に含有されないことが好ましい。
【0034】
ムスカリン受容体遮断薬としては、スコポラミン、プロパンテリン、ピレンゼピン等が挙げられる。
ヒスタミン受容体遮断薬としては、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン等が挙げられる。
プロトンポンプ阻害薬としては、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール等が挙げられる。
胃粘膜保護成分としては、スクラルファート等が挙げられる。
プロスタグランジン製剤としては、ミソプロストール等が挙げられる。
粘膜分泌促進薬としては、レバミピド、テプレノン等が挙げられる。
【0035】
<用法用量>
本発明の制酸用医薬組成物は、胃内に分泌された胃酸若しくは胃内で分泌される胃酸に直接作用させるため、通常経口投与される。経口投与に際しては、固体医薬組成物として、若しくは液体医薬組成物として投与することができる。
散剤及び細粒剤等の顆粒剤、カプセル剤、錠剤等の固体医薬組成物においては、不活性な添加剤、例えば滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤をさらに含有してもよい。
乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、経口ゼリー剤等の液体医薬組成物においては、水やエタノールのような不活性な希釈剤を含み、それ以外に不活性な添加剤、例えば可溶化剤、懸濁化剤、甘味剤、芳香剤、防腐剤をさらに含有してもよい。
【0036】
本発明の制酸用医薬組成物に含有される制酸成分は、ある態様として、1回あたりの成人服用量として、300〜420mgの炭酸水素ナトリウムと、前記炭酸水素ナトリウムの100質量部に対して50〜90質量部の炭酸カルシウムからなる。別の態様としては、1回あたりの成人服用量として、320〜420mgの炭酸水素ナトリウムと、前記炭酸水素ナトリウムの100質量部に対して50〜90質量部の炭酸カルシウムからなる。さらに別の態様としては、1回あたりの成人服用量として、350〜420mgの炭酸水素ナトリウムと、前記炭酸水素ナトリウムの100質量部に対して50〜90質量部の炭酸カルシウムからなる。
本発明の制酸用医薬組成物に含まれる炭酸水素ナトリウムの量が、1回あたりの成人服用量として、前記下限値以上であれば、十分な酸中和作用が得られ、前記上限値以下であれば、過剰な酸中和作用の発現、及びそれに伴う反動的酸分泌を抑制できる。
【0037】
本発明の制酸用医薬組成物は、酸中和作用の即効性を有するため、胃痛、胸やけ、胃もたれと言った症状が生じた際、あるいは上記症状が生じると思われるタイミングで適宜服用することができる。ある態様としては、本発明の制酸用医薬組成物は上記症状が発現しやすいとされる、食前に服用することができる。食前とは、食事の30〜60分前の時間帯を指す。
【0038】
本発明の制酸用医薬組成物は、後述の通り、1分程度以下で酸中和作用を発現し、かつ、持続性の制酸剤を含有していないにもかかわらず、30分程度以上の酸中和作用の持続を示す。従って、服用した直後に胃酸の中和による上記症状の緩和を達成することができ、かつ、食前に服用した場合には、空腹時の胃の内容物の滞留時間である30分を目安に酸中和作用を持続させることができる。
また、本発明の制酸用医薬組成物の酸中和作用の持続は30分程度以上であるため、制酸効果の発現の遅い、例えば、制酸効果の発現に30分程度以上の時間を要するような他の薬剤と併用しても、過剰な酸中和作用を示すことがなく、安全に他の薬剤との併用が可能である。
【0039】
さらに、本発明の制酸用医薬組成物は、制酸成分として消化酵素を含まないため、食前の服用であっても、消化酵素による胃壁や胃粘膜の自己消化が起こらず、安全に使用することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0041】
それぞれの実施例及び比較例で用いた各成分は以下のとおりである。
【0042】
炭酸水素ナトリウム:日本薬局方 炭酸水素ナトリウム(重曹)(旭硝子株式会社製)
炭酸カルシウム:日本薬局方 沈降炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製)
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム:メタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリン(登録商標))(富士化学工業株式会社製)
【0043】
実施例1
炭酸水素ナトリウム400mg及び炭酸カルシウム300mgを混合して試料1を調製した。
試料1の制酸効果を、フックス変法試験を用いて測定した。具体的手順は以下のとおりである。
ビーカーに0.1mol/Lの塩酸の50mLを正確に量りとり、マグネチックスターラーを用いて約300回転/分で撹拌しながら試料1を加えた。試料1を加えてから操作を終了するまでの間、液のpHを連続的に測定した。試料1を加えて10分後に定量ポンプを使用して、0.1mol/Lの塩酸を2mL/分の速度で連続的に加えた。操作中は液の温度を37±2℃に維持した。
【0044】
その結果、制酸効果発現時間は1分以下であり、制酸効果持続時間Aは35分であり、制酸効果持続時間Bは37分であり、最大pHは7.2であった。
なお、制酸効果発現時間とは、試料を添加してから液のpHが6に上がるまでにかかった時間であり、制酸効果持続時間Aとは、試料を添加してから液のpHが6以上に上昇した後、再び液のpHが4に下がるまでにかかった時間であり、制酸効果持続時間Bとは、試料を添加してから液のpHが6以上に上昇した後、再び液のpHが3.5に下がるまでにかかった時間であり、最大pHとは、制酸効果持続時間内における最大の液のpH値である。
【0045】
比較例1〜2
試料に含まれる制酸成分を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして液のpHを連続的に測定した。
制酸効果発現時間、制酸効果持続時間A及び最大pHの結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
以上の結果から、本発明の制酸用医薬組成物である実施例1においては、制酸効果発現時間が1分未満であり、炭酸水素ナトリウム及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含む比較例1と比較しても、酸中和作用の即効性を有することが明らかとなった。このことから、酸中和作用の即効性を発現させるには、炭酸水素ナトリウムと炭酸カルシウムとの組合せが必要であることが分かった。
また、本発明の制酸用医薬組成物である実施例1においては、持続性の制酸剤を含んでいないにもかかわらず、持続性の制酸剤であるメタケイ酸アルミン酸マグネシウムをさらに含む比較例2と同等の制酸効果持続時間を示した。
さらに、本発明の制酸用医薬組成物である実施例1においては、最大pHが比較例1及び2と同等の7.2であり、反動的酸分泌を引き起こすおそれが極めて小さいことが明らかとなった。
【0048】
なお、前述の特許文献1の比較例2では、炭酸水素ナトリウムの100質量部に対する炭酸カルシウムの含有量が50〜90質量部ではないが、制酸成分として炭酸水素ナトリウムと炭酸カルシウムのみを含んだ制酸用医薬組成物が開示されている。特許文献1の表2によれば、本明細書における制酸効果持続時間Bに相当する、pHが3.5以下になるまでの時間は、32分であったことが記載されている。
【0049】
制酸効果持続時間は、胃内のpHが通常の胃の状態のpH、即ち胃酸のpHにおおよそ戻るまでの時間を模したものであり、以下により理論値を算出することができる。
フックス変法試験では、0.1mol/Lの塩酸を人工胃酸として使用しており、分子量84の炭酸水素ナトリウムの1gは、119mLの人工胃酸を中和することができ、分子量100の炭酸カルシウムの1gは、200mLの人工胃酸を中和することができる。また、フックス変法試験では、試料添加時には50mLの人工胃液が存在し、試料添加から10分後以降、2mL/分の人工胃液が連続的に添加される。これは、胃液の分泌を模したものである。
【0050】
これらの数値から、特許文献1の比較例2、即ち炭酸水素ナトリウムの300mgと炭酸カルシウムの400mgを使用した場合(なお、炭酸水素ナトリウムの100質量部に対する炭酸カルシウムの含有量は133質量部である。)、115.7mLの人工胃酸を中和することができるため、理論値としては全ての制酸成分が消費されるまでに43分程度かかる。しかし、特許文献1によれば、その制酸効果持続時間は32分である。
その一方、本発明の制酸用医薬組成物である実施例1においては、炭酸水素ナトリウムの400mgと炭酸カルシウムの300mgを使用しているため(なお、炭酸水素ナトリウムの100質量部に対する炭酸カルシウムの含有量は75質量部である。)、107.6mLの人工胃酸を中和することしかできない。
従って、特許文献1の比較例2の結果から考えれば、本明細書における実施例1の制酸効果持続時間は、特許文献1の比較例2の制酸効果持続時間より短くなるはずである。しかし、それにもかかわらず本明細書における実施例1の制酸効果持続時間は、理論値である38.8分と同等の37分であり、特許文献1の比較例2の制酸効果持続時間より長く、特許文献1の比較例2の結果からは到底導き出されない、顕著に優れた制酸効果持続時間を有することが明らかである。