【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施例1について
図1〜
図12に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施例に係る車両Vは、車両Vの停止性能に係る液圧制動力を制御可能な制動機構Bと、車両Vの走行性能に係る駆動力及び車両Vの停止性能に係る回生制動力を制御可能なパワートレイン機構Pと、乗員が操作可能なインプットディバイスであるブレーキペダル1と、アウトプットディバイスである前後左右の車輪2a〜2d等を備えている。この車両Vは、制動時、アンチスキッド制御機構(以下、ABSという。)により車輪スリップ率sを所定の目標状態に収束するように制御すると共に、液圧制動力による単独制動である摩擦制動モード及び液圧制動力と回生制動力による協調制動である第1〜第3協調モードを選択的に実行可能に構成されている。
【0023】
まず、制動機構Bについて説明する。
尚、
図2は、制動機構Bのブレーキ液圧回路図である。
図1,2に示すように、制動機構Bは、ブレーキペダル1に対してペダルストローク(以下、ストロークと略す。)Stに応じた反力を付与するストロークシミュレータ3(反力発生機構)と、液圧制動力に対応したブレーキ液圧を生成可能な電動ブレーキブースタ(以下、電動ブースタと略す。)4と、ブレーキペダル1のストロークStに応じたブレーキ液圧を乗員が直接的に生成可能なマスタシリンダ5と、このマスタシリンダ5又は電動ブースタ4により発生されたブレーキ液圧によって車両Vの4つの前後左右輪2a〜2dの回転を摩擦力を作用させて夫々制動可能なホイールシリンダ6a〜6dと、電動ブースタ4を制御可能な第1ECU(Electronic Control Unit)10等を主な構成要素にしている。
【0024】
次に、ストロークシミュレータ3について説明する。
ストロークシミュレータ3は、消費油量をシミュレートしてマスタシリンダから圧送されたブレーキ液圧を吸収して消費すると共に、乗員がブレーキペダル1を踏込又は踏戻操作したとき、ブレーキペダル1を介して予め設定された特性の操作反力を乗員(乗員の脚部)に対して作用可能に構成されている。
このストロークシミュレータ3は、例えば、シリンダと、このシリンダ内に摺動自在なピストンと、ピストンを付勢する付勢手段等によって形成され(何れも図示略)、基本的にブレーキペダル1の操作に伴うブレーキ液圧に基づき乗員に付与する操作反力(踏力)を調整している。
【0025】
図2に示すように、電動ブースタ4は、リザーバタンク7に接続され、電動モータと、油圧ポンプと、アキュムレータ(図示略)等によって構成されている。
この電動ブースタ4は、開閉可能な電磁弁8bを介して駆動輪である前輪2a,2bを制動可能なホイールシリンダ6a,6bに連通され、開閉可能な電磁弁8cを介して従動輪である後輪2c,2dを制動可能なホイールシリンダ6c,6dに連通されている。電磁弁8b,8cは、通電時、開作動される。
図2に示すように、ホイールシリンダ6a〜6dの上流側流路には、リザーバタンク7に連結されたリターン流路が夫々接続されている。これらのリターン流路に通電により開作動する電磁弁9a〜9dが夫々配設されている。
【0026】
次に、マスタシリンダ5について説明する。
マスタシリンダ5は、第1圧力発生室5aと、第2圧力発生室5bとを備えている。
第1,第2圧力発生室5a,5bは、リザーバタンク7に夫々接続され、内部に圧縮スプリングを夫々備えている。これら第1,第2圧力発生室5a,5bは、ブレーキペダル1の踏込操作に応じて略同等のブレーキ液圧を圧送可能に構成されている。
第1圧力発生室5aは、開閉可能な電磁弁8aを介してホイールシリンダ6a,6bに連通され、第2圧力発生室5bは、開閉可能な電磁弁8dを介してホイールシリンダ6c,6dに連通されている。電磁弁8a,8dは、通電時、閉作動すると共に電動ブースタ4の異常時、非通電状態にされて開作動される。
【0027】
以上の構成により、電動ブースタ4が異常時、電磁弁8a,8dが開作動且つ電磁弁8b,8cが閉作動され、各ホイールシリンダ6a〜6dに対してマスタシリンダ5から直接的にブレーキ液圧が供給される。電動ブースタ4が正常時、電磁弁8a,8dが閉作動且つ電磁弁8b,8cが開作動され、各ホイールシリンダ6a〜6dに対して電動ブースタ4からブレーキ液圧が供給される。そして、電動ブースタ4が正常時において、電磁弁8b,8cが閉作動で且つ電磁弁9a〜9dが開作動することにより、各ホイールシリンダ6a〜6dからブレーキ液圧が排出され、強制的に制動力を低下することができる。
尚、電磁弁8b,8cがABSのインレットバルブに相当し、電磁弁9a〜9dがABSのアウトレットバルブに相当している。
【0028】
次に、第1ECU10について説明する。
第1ECU10は、CPU(Central Processing Unit)と、ROMと、RAMと、イン側インタフェースと、アウト側インタフェース等によって構成され、ブレーキペダル1のストロークStを検出するストロークセンサ21から検出信号を入力している。ROMには、踏力及び制動力を制御するための種々のプログラムやデータ及びマップ等が格納され、RAMには、CPUが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられている。
図3に示すように、第1ECU10は、操作反力設定部11と、要求制動力設定部12と、液圧制御部13等を備えている。
【0029】
操作反力設定部11は、乗員がブレーキペダル1を操作する踏力とブレーキペダル1のストロークStとによって規定された踏力特性マップ(図示略)を保有している。
乗員の感覚の強さは刺激の強さの対数に比例している(ウェーバー・フェヒナーの法則)ため、踏力特性マップは、対数関数によって規定されている。
操作反力設定部11は、ストロークセンサ21で検出されたストロークStと踏力特性マップとに基づき目標操作反力に相当する踏力を設定し、これに対応した作動指令信号を制御用ブレーキ液圧を介してストロークシミュレータ3に出力している。
【0030】
要求制動力設定部12は、乗員がブレーキペダル1を操作する踏力と乗員が要求する減速度(制動力)とによって規定された制動特性マップ(図示略)を保有している。
ストロークStは、乗員の操作量をパラメータとして乗員の減速要求を反映している。
それ故、要求制動力設定部12は、検出されたブレーキペダル1のストロークStを介して設定された踏力と制動特性マップとを用いて乗員が車両Vに対して要求する要求制動力Faを設定している。
【0031】
液圧制御部13は、後述する第2ECU40から入力した各制動モードにおける液圧制動力Ffに基づいて液圧制動力Ffに対応した作動指令信号を作成し、電動ブースタ4に出力している。具体的には、摩擦制動モード及び第1〜第3協調モード実行時、第2ECU40から入力された作動指令信号に基づき電磁弁8b,8cの作動指令信号を作成し、各ホイールシリンダ6a〜6dのブレーキ液圧を制御している。
また、液圧制御部13は、ABS作動時、車輪スリップ率sを所定の目標状態に収束させるため、車輪スリップ率sに基づいて電磁弁8b,8cと電磁弁9a〜9dの作動指令信号を作成し、各々の電磁弁8b,8c,9a〜9dに出力している。
【0032】
次に、パワートレイン機構Pについて説明する。
図1に示すように、パワートレイン機構Pは、回生制動力(回生トルク)発生源兼発電源としてのモータジェネレータ(以下、モータと略す。)31と、このモータ31にプーリ等の動力伝達機構を介して連結された動力源としての多気筒レシプロエンジン32と、差動機構を介して前輪2a,2bに駆動力を伝達可能な流体伝動機構としての自動変速機(以下、ATと略す。)33と、モータ31及びエンジン32等を制御可能な第2ECU40等を備えている。
【0033】
モータ31は、車輪2a,2bに連結された三相交流同期モータからなり、各巻線の通電状態をリニアに切替可能なスイッチ機能である切替機構(図示略)を備えているため、モータ31内に発生する誘起電圧を制御可能に構成されている。
それ故、車両Vの減速時、モータ31内の誘起電圧に基づく逆トルクが車輪2a,2bに付与され、モータ31によって発電された電力は、補助電源である第2バッテリ36(例えば、リチウムイオンバッテリ等)に蓄電されている。
【0034】
第2ECU40は、CPUと、ROMと、RAMと、イン側インタフェースと、アウト側インタフェース等によって構成されている。ROMには、回生量を制御するための種々のプログラムやデータ及びマップ等が格納され、RAMには、CPUが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられている。
第2ECU40は、電動ブースタ4と、第1ECU10と、モータ31で発電された電源電圧を変換するDCDCコンバータ34と、車両Vに搭載された空調装置等の各種負荷(図示略)と並列状態で主電源である第1バッテリ35に対して電気的に接続されている。
DCDCコンバータ34は、変換された電源電圧を第1バッテリ35に対して供給可能に構成されている。
【0035】
また、第2ECU40は、第2バッテリ36の充電率SOC(State Of Charge)を検出可能なSOCセンサ22と、第2バッテリ36の温度を検出可能な温度センサ23と、車両Vの車速(車体速度)を検出可能な車速センサ24と、車輪2a〜2dの速度を夫々検出可能な車輪速センサ25と、車輪2a〜2dのサスペンションロッド長の変位を夫々検出可能なロッド変位センサ26と、車両Vが走行する路面の勾配を検出可能な勾配センサ27から各々の検出信号を入力し、第1ECU10及びモータ31に対して作動指令信号を出力している。
【0036】
図3に示すように、第2ECU40は、車両制動時に車輪2a〜2dに付与する制動力によって車輪スリップ率sを所定の目標状態に収束するように制御するABS制御部41(アンチスキッド制御手段)、車両Vの車体重量の荷重移動を検出する荷重移動検出部42(荷重移動検出手段)と、液圧制動力Ffと回生制動力Frとを協調制御する協調制御部43(協調制御手段)と、回生制御部44等を備えている。
【0037】
まず、ABS制御部41について説明する。
ABS制御部41は、車両Vの走行安定性を確保可能な目標状態に基づき設定されたABS作動開始閾値saよりも車輪スリップ率sが大きいとき、電磁弁8b,8cを閉作動すると共に電磁弁9a〜9dを開作動してABS制御を開始するように構成されている。
そして、ABS制御中、車輪スリップ率sが目標スリップ率sb(sb<sa)よりも大きいとき、電磁弁8b,8cを閉作動すると共に電磁弁9a〜9dを開作動し、ホイールシリンダ6a〜6dの液圧を減圧することで車輪2a〜2dのロックを回避する一方、車輪スリップ率sが目標スリップ率sb以下のとき、電磁弁8b,8cを開作動すると共に電磁弁9a〜9dを閉作動し、ホイールシリンダ6a〜6dの液圧を増圧することで車輪2a〜2dの制動力の増加を図っている。
【0038】
ABS制御部41は、車速センサ24及び車輪速センサ25の検出信号に基づいて前輪2a,2bの車輪スリップ率sを演算している。具体的には、前輪2aの車輪速度と車体速度の差分値を車体速度で除算した擬似スリップ率と、前輪2bの車輪速度と車体速度の差分値を車体速度で除算した擬似スリップ率とを算出し、これらの擬似スリップ率のうち、大きい方の擬似スリップ率の値を前輪2a,2bを代表する車輪スリップ率sとして設定している。車体速度は、従駆動輪である後輪2c,2dの車輪速度のうち、遅い方の車輪速度を車体速度として用いている。
ABS作動開始閾値saと目標スリップ率sbは、路面μに基づき夫々演算されている。本実施例では、路面μは、検出された車輪速度及び車両Vの加速度をμテーブルと照合して推定演算しているが、μセンサを設け、このμセンサからの出力値を用いても良い。
【0039】
図3に示すように、ABS制御部41は、制動作動特性設定部41aを有している。
制動作動特性設定部41aは、ABS作動開始閾値saに対応する車両Vの制動力傾向を規定した制動作動特性Aを設定している。
図4〜
図6に示すように、制動作動特性Aは、制動開始からの時間tと車両Vに作用する制動力とによって規定されている。
制動作動特性Aは、路面μが一定のとき、次式の一次関数で表すことができる。
A=K1×t …(1)
尚、K1は、ABS作動係数である。
それ故、乗員がブレーキペダル1を踏込操作したとき、車両Vの制動力が要求制動力Faに到達(到達時刻tb)前であっても、一時的な路面μの低下に伴って車両Vに作用する制動力が制動作動特性Aを超えた場合、ABSによる減圧処理が実行され、ホイールシリンダ6a〜6dのブレーキ液圧が低下される。
【0040】
次に、荷重移動検出部42について説明する。
荷重移動検出部42は、各ロッド変位センサ26から入力した車輪2a〜2dのサスペンションロッド長の変位に基づき車輪2a〜2dのサスペンションロッドの変位速度及び変位加速度を夫々検出している。
これら検出された車輪2a〜2dのサスペンションロッドの変位速度及び変位加速度によって車両Vの車体重量の荷重移動が検出されている。
【0041】
次に、協調制御部43について説明する。
協調制御部43は、車両制動時、SOCセンサ22によって検出された第2バッテリ36の充電率SOCに応じて摩擦制動モード及び各協調モードの中から対応した制動モードを選択し、所定の協調モードが選択されたとき、制動機構Bによる液圧制動力Ffとパワートレイン機構Pによる回生制動力Frとを協調制御している。
具体的には、SOCが97%以上のとき、摩擦制動モード、SOCが90%以上で且つ97%未満のとき、第1協調モード、SOCが30%以上で且つ90%未満のとき、第2協調モード、SOCが30%未満のとき、第3協調モードが夫々選択されている。
【0042】
協調制御部43は、制動作動特性Aに基づき制動機構Bによる液圧制動力Ffの昇圧速度に相当する作動特性を設定している。液圧制動力Ffの作動特性は、制動開始からの時間tと制動作動特性Aとによって規定されている。
液圧制動力Ffの作動特性は、次式の一次関数で表すことができる。
Ff=K2×t …(2)
尚、K2は、摩擦制動作動係数である。
液圧制動力Ffの作動特性は、車両Vに対する一時的な制動力の変動(路面μの変動)によってABSが作動しないように、制動作動特性Aよりも小さい値に設定されている。
本実施例では、摩擦制動作動係数K2を、車両Vの制動距離を考慮して次式によって規定される範囲内に設定している。
1/2×K1≦K2<2/3×K1 …(3)
【0043】
図3に示すように、協調制御部43は、第1協調モード制御部43aと、この第1協調モード制御部43aよりも総制動力に占める回生制動力Frの比率が大きい第2協調モード制御部43bと、前輪2a,2bに最大荷重移動する期間内において第2協調モード制御部43bよりも総制動力に占める回生制動力Frの比率が大きい第3協調モード制御部43cとを備えている。
【0044】
まず、第1協調モード制御部43aについて説明する。
図4に示すように、第1協調モード制御部43aは、制動開始から時刻taまでの回生作動期間において、液圧制動力Ffの付与を禁止した回生制動力Frによる単独制動を実行し、時刻ta以降、回生制動力Frの付与を禁止した液圧制動力Ffによる単独制動を実行している。具体的には、時刻taまで回生制動力Frを制動作動特性Aと同じ係数を有する式(4)の作動特性で増加制御し、時刻ta以降は液圧制動力Ffを式(2)の作動特性で増加制御している。
Fr=K1×t …(4)
これにより、第2バッテリ36のSOCが満充電に近い状況であっても、車体重量の荷重移動を促進する回生制動力Frを付与する頻度を増加している。
【0045】
第1協調モード制御部43aは、第2バッテリ36のSOC及び内部抵抗に基づき時刻taを演算している。
時刻taは、第2バッテリ36のSOCの逆数に比例して設定されているため、SOCが高い程、回生作動期間は短縮される。
また、時刻taは、第2バッテリ36の内部抵抗の逆数に比例して設定されているため、常温(−20℃〜20℃)の期間を除き、第2バッテリ36の温度が低い程、回生作動期間は短縮され、第2バッテリ36の温度が高い程、回生作動期間は短縮される。
第1協調モード制御部43aは、液圧制動力Ffと回生制動力Frとの和(基本的には、回生作動期間は微小期間であるため、液圧制動力Ff)が要求制動力Faに到達した時点(時刻tb)で制動力の増加制御を終了し、乗員がブレーキペダル1を踏戻操作するまで要求制動力Faを維持している。
【0046】
次に、第2協調モード制御部43bについて説明する。
図5に示すように、第2協調モード制御部43bは、液圧制動力Ffを制動作動特性Aよりも小さくなるように制御すると共に回生制動力Frを制動作動特性Aと液圧制動力Ffの差分相当の制動力以下に制御している。
この第2協調モード制御部43bは、液圧制動力Ffと回生制動力Frの和が要求制動力Faに到達して所定期間経過後、回生制動力Frの付与を禁止している。
【0047】
具体的には、液圧制動力Ffについて、液圧制動力Ffの作動特性が要求制動力Faに対応した時刻tbまで、式(2)の作動特性で増加制御し、時刻tb以降、乗員がブレーキペダル1を踏戻操作するまで要求制動力Faを維持する。
また、回生制動力Frについて、制動作動特性Aが要求制動力Faに対応した時刻tcまで、式(5)の作動特性で増加制御し、時刻tcから時刻tbまで、式(6)の作動特性で減少制御している。
Fr=(K1−K2)×t …(5)
Fr=Fa−K2×t …(6)
【0048】
これにより、制動作動特性Aと液圧制動力Ffの差分相当の制動力を応答性の高い回生制動力Frを用いて補填することができ、車両Vに作用する制動力を要求制動力Faに早期に到達させている。しかも、車両Vに作用する制動力が要求制動力Faに到達後、液圧制動力Ffが要求制動力Faに到達するまで、車両Vに作用する制動力を回生制動力Frを用いて高精度に要求制動力Faに収束させている。
尚、液圧制動力Ffが要求制動力Faに到達後、回生制動力Frの付与は禁止される。
【0049】
次に、第3協調モード制御部43cについて説明する。
図6に示すように、第3協調モード制御部43cは、制動開始から設定期間の間、回生制動力Frを液圧制動力Ffよりも大きくなるように制御している。
この第3協調モード制御部43cは、荷重移動検出部42の検出結果に基づき制動開始から前輪2a,2bに対する車体重量の最大荷重移動するまでの設定期間を設定している。
【0050】
具体的には、荷重移動検出部42から入力した車輪2a〜2dのサスペンションロッドの変位速度及び変位加速度に基づき前輪2a,2bに対する車体重量の最大荷重移動する時刻tdを検出し、制動開始から時刻tdまでの設定期間を設定する。
しかも、車両Vの進行方向前方の路面が下方向に向かう前方下り勾配が大きいとき、勾配センサ27に検出された路面勾配に応じて設定期間が短くなるように時刻tdを早い時刻に変更している。
これにより、荷重移動に基づく切替タイミングを車両Vが走行する路面勾配に応じて最適化することができる。
【0051】
そして、第3協調モード制御部43cは、制動開始から時刻tdまでは、液圧制動力Ffの付与を禁止して回生制動力Frを制動作動特性Aと同じ係数を有する式(4)の作動特性で増加制御し、時刻td以降は、回生制動力Frの付与を禁止し液圧制動力Ffを式(2)の作動特性で増加制御している。
これにより、制動直後の回生制動力Frの使用比率を大きくすることにより、高い制動力を発揮可能な前輪2a,2bへの最大荷重移動を早期化することにより、車両Vに作用する制動力を要求制動力Faに早期に到達させている。
【0052】
回生制御部44は、協調制御部43から入力した回生制動力Frに対応した作動指令信号を作成し、モータ31の切替機構に出力している。具体的には、第1〜第3協調モード実行時、協調制御部43から入力した回生制動力Frに基づきモータ31の切替機構の作動指令信号を作成し、モータ31内に発生する誘起電圧を制御している。
【0053】
次に、
図7のフローチャートに基づいて、ABS制御処理手順について説明する。
尚、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示している。
【0054】
図7に示すように、まず、各種情報を読み込み(S1)、S2へ移行する。
S2では、乗員によりブレーキペダル1が踏込操作されたか否か判定する。
S2の判定の結果、乗員によりブレーキペダル1が踏込操作された場合、車速センサ24及び車輪速センサ25の検出信号に基づいて前輪2a,2bの車輪スリップ率sを演算し(S3)、S4に移行する。
S4では、車輪速度及び車両Vの加速度に基づいて路面μを演算し、S5に移行する。
S5では、路面μに基づいてABS作動開始閾値saと目標スリップ率sbを演算し、S6に移行する。
【0055】
S6では、フラグFが0か否か判定する。
S6の判定の結果、フラグFが0、所謂ABS制御が未だ実行されていない場合、S7に移行する。
S7では、車輪スリップ率sがABS作動開始閾値sa以上か否か判定する。
S7の判定の結果、車輪スリップ率sがABS作動開始閾値sa以上の場合、フラグFに1を代入し(S8)、S9に移行する。
S9では、電磁弁8b,8cを閉作動すると共に電磁弁9a〜9dを開作動して減圧処理を実行した後、リターンする。
S6の判定の結果、フラグFが1、所謂ABS制御が既に実行されている場合、S10に移行する。
【0056】
S10では、車輪スリップ率sが目標スリップ率sb以上か否か判定する。
S10の判定の結果、車輪スリップ率sが目標スリップ率sb以上の場合、S9に移行し、車輪スリップ率sが目標スリップ率sb未満の場合、S12に移行する。
S12では、電磁弁8b,8cを開作動すると共に電磁弁9a〜9dを閉作動して増圧処理を実行した後、リターンする。
S2の判定の結果、乗員によりブレーキペダル1が踏込操作されていない場合、フラグFに0を代入し(S11)、S12に移行する。
【0057】
次に、
図8のフローチャートに基づいて、協調制御処理手順について説明する。
協調制御処理は、所定周期で繰り返し実行されると共に、
図7に示したABS制御処理と並行して実行されている。
【0058】
図8に示すように、まず、各種情報を読み込み(S21)、S22へ移行する。
S22では、乗員によりブレーキペダル1が踏込操作されたか否か判定する。
S22の判定の結果、乗員によりブレーキペダル1が踏込操作された場合、S23に移行する。
S23では、フラグfが0、所謂何れの協調モード処理も実行されていないか否か判定する。
S23の判定の結果、フラグfが0の場合、乗員が要求する要求制動力Faを演算し(S24)、S25に移行する。
S25では、ABS作動開始閾値saに基づきABS作動制動特性A及びABS作動係数K1を演算し、車両Vの制動性能に基づき摩擦制動係数K2を演算した後(S26)、S27に移行する。
【0059】
S27では、第2バッテリ36のSOCが97%以上か否か判定する。
S27の判定の結果、第2バッテリ36のSOCが97%以上の場合、回生制動の実行により第2バッテリ36が過充電になる可能性が極めて高いため、S28に移行する。
S28では、摩擦制動モード処理を実行して、リターンする。
S27の判定の結果、第2バッテリ36のSOCが97%未満の場合、S29に移行し、第2バッテリ36のSOCが90%以上か否か判定する。
S29の判定の結果、第2バッテリ36のSOCが90%以上の場合、回生制動の実行により第2バッテリ36が過充電になる可能性が高いため、S30に移行する。
S30では、第1協調モード処理を実行し、フラグfに1を代入した後(S31)、リターンする。
【0060】
S29の判定の結果、第2バッテリ36のSOCが90%未満の場合、S32に移行し、第2バッテリ36のSOCが30%以上か否か判定する。
S32の判定の結果、第2バッテリ36のSOCが30%以上の場合、回生制動の実行により第2バッテリ36が過充電になる可能性が低いため、S33に移行する。
S33では、第2協調モード処理を実行し、S31に移行する。
S32の判定の結果、第2バッテリ36のSOCが30%未満の場合、回生制動の実行により第2バッテリ36が過充電になる可能性が極めて低いため、S34に移行する。
S34では、第3協調モード処理を実行し、S31に移行する。
【0061】
次に、S28の摩擦制動モード処理について説明する。
図9のフローチャートに示すように、摩擦制動モード処理では、まず、S41にて、液圧制動力Ffを式(2)と制動開始からの経過時間tに基づき設定すると共に回生制動力Frを0に設定して、S42に移行する。
S42では、設定された液圧制動力Ffと回生制動力Frの作動指令信号を出力して、S43に移行する。
S43では、液圧制動力Ffが要求制動力Fa以上か否か判定する。
S43の判定の結果、液圧制動力Ffが要求制動力Fa以上の場合、終了し、液圧制動力Ffが要求制動力Fa未満の場合、S41にリターンする。
【0062】
次に、S30の第1協調モード処理について説明する。
図10のフローチャートに示すように、第1協調モード処理では、まず、S51にて、
第2バッテリ36のSOCや内部抵抗に基づき回生作動期間に対応した時刻taを演算して、S52に移行する。
【0063】
S52では、制動開始からの経過時間tが時刻ta以下か否か判定する。
S52の判定の結果、制動開始からの経過時間tが時刻ta以下の場合、液圧制動力Ffを0に設定すると共に回生制動力Frを式(4)と制動開始からの経過時間tに基づき設定し(S53)、S54に移行する。
S54では、設定された液圧制動力Ffと回生制動力Frの作動指令信号を出力して、S55に移行する。
【0064】
S55では、液圧制動力Ffと回生制動力Frの和が要求制動力Faに到達したか否か判定する。
S55の判定の結果、液圧制動力Ffと回生制動力Frの和が要求制動力Faに到達した場合、終了する。
S55の判定の結果、液圧制動力Ffと回生制動力Frの和が要求制動力Faに到達していない場合、S52にリターンする。
S52の判定の結果、制動開始からの経過時間tが時刻taを超えた場合、液圧制動力Ffを式(2)と制動開始からの経過時間tに基づき設定すると共に回生制動力Frを0に設定して(S56)、S42に移行する。
【0065】
次に、S33の第2協調モード処理について説明する。
図11のフローチャートに示すように、第2協調モード処理では、まず、S61にて、液圧制動力Ffと回生制動力Frの和が要求制動力Fa未満か否か判定する。
S61の判定の結果、液圧制動力Ffと回生制動力Frの和が要求制動力Fa未満の場合、液圧制動力Ffを式(2)と制動開始からの経過時間tに基づき設定すると共に回生制動力Frを式(5)と制動開始からの経過時間tに基づき設定し(S62)、S63に移行する。
【0066】
S63では、設定された液圧制動力Ffと回生制動力Frの作動指令信号を出力して、S61にリターンする。
S61の判定の結果、液圧制動力Ffと回生制動力Frの和が要求制動力Fa以上の場合、式(2)の作動特性で設定された液圧制動力Ffが要求制動力Fa以上か否か判定する(S64)。
【0067】
S64の判定の結果、液圧制動力Ffが要求制動力Fa以上の場合、液圧制動力Ffを要求制動力Faに設定すると共に回生制動力Frを0に設定し(S65)、S66に移行する。
S66では、設定された液圧制動力Ffと回生制動力Frの作動指令信号を出力して、終了する。
S64の判定の結果、液圧制動力Ffが要求制動力Fa未満の場合、液圧制動力Ffを式(2)と制動開始からの経過時間tに基づき設定すると共に回生制動力Frを式(6)と制動開始からの経過時間tに基づき設定し(S67)、S63に移行する。
【0068】
次に、S34の第3協調モード処理について説明する。
図12のフローチャートに示すように、第3協調モード処理では、まず、S71にて、車両Vの荷重移動に基づく切替タイミング前か否か判定する。
前輪2a,2bに対する車体重量の最大荷重移動する時刻tdにより回生制動から液圧制動に切り替える切替タイミングを判定している。このとき、時刻tdは、前方下り勾配の大きさに応じて短くなるように調整される。
S71の判定の結果、車両Vの荷重移動に基づく切替タイミング前の場合、液圧制動力Ffを0に設定すると共に回生制動力Frを式(4)と制動開始からの経過時間tに基づき設定し(S72)、S73に移行する。
【0069】
S73では、設定された液圧制動力Ffと回生制動力Frの作動指令信号を出力して、S71にリターンする。
S71の判定の結果、車両Vの荷重移動に基づく切替タイミング以降の場合、式(2)の作動特性で設定された液圧制動力Ffが要求制動力Fa以上か否か判定する(S74)。
【0070】
S74の判定の結果、液圧制動力Ffが要求制動力Fa以上の場合、液圧制動力Ffを要求制動力Faに設定すると共に回生制動力Frを0に設定し(S75)、S76に移行する。
S76では、設定された液圧制動力Ffと回生制動力Frの作動指令信号を出力して、終了する。
S74の判定の結果、液圧制動力Ffが要求制動力Fa未満の場合、液圧制動力Ffを式(2)と制動開始からの経過時間tに基づき設定すると共に回生制動力Frを0に設定し(S77)、S73に移行する。
【0071】
次に、上記車両用制御装置の作用、効果について説明する。
実施例1に係る制御装置によれば、車両制動時に車輪2a〜2dに付与する制動力によって車輪スリップ率sをABS作動開始閾値saに収束するように制御するABS制御部41を備えたため、車輪2a〜2dのブレーキロックを防止することができ、操舵性能を確保することができる。
乗員によるブレーキペダル1の踏込操作に基づき乗員の要求制動力Faを設定すると共に車両Vに作用する制動力が要求制動力Faに到達するまでの間においてABS制御部41のABS作動開始閾値saに対応した制動力である制動作動特性Aを超えないように制動機構Bとパワートレイン機構Pを協調制御する協調制御部43を備えたため、車両Vに作用する制動力が要求制動力Faに到達するまでの間においてABS制御部41による制動力低下処理を作動させることなく車両Vの制動力を増加させることができる。
協調制御部43は、制動開始から設定期間(時刻td)の間、回生制動力Frを液圧制動力Ffよりも大きくなるように制御するため、車体重量の荷重移動を促進する回生制動力Frを液圧制動力Ffよりも多く付与することができ、回生エネルギーの回収量の増加を図ることができる。
【0072】
車輪2a〜2dに対する車体重量の荷重移動を検出可能なロッド変位センサ26を有し、協調制御部43は、ロッド変位センサ26が前輪2a,2bに対する最大荷重移動を検出するまでの期間(時刻td)を設定期間に設定するため、回生制動力Frの付与によって前輪2a,2bに対する最大荷重移動を早期化することができ、制動性能を向上することができる。
【0073】
協調制御部43は、設定期間(時刻td)の間、回生制動力Frを増加するため、回生エネルギーの回収効率と制動性能とを両立することができる。
【0074】
協調制御部43は、設定期間(時刻td)の間、液圧制動力Ffの付与を禁止した状態で回生制動力Frによる単独制動を実行した後、回生制動力Frの付与を禁止した状態で液圧制動力Ffによる単独制動を実行するため、荷重移動に有利な回生制動力Frによる単独制動を実行することにより、最大荷重移動を早期化することができ、最大荷重移動後、液圧制動力Ffによる単独制動を実行することにより、第2バッテリ36の満充電を遅延することができる。
【0075】
協調制御部43は、回生制動力Frの増加率を制動作動特性Aの増加率と略等しくなるように設定したため、設定期間が短くても、最大限の回生エネルギーを回収することができる。
【0076】
協調制御部43は、路面の前方下り勾配が大きいとき、設定期間を短くなるように設定するため、設定期間を走行路面勾配に応じて最適化することができる。
【0077】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、車輪をエンジンで駆動可能なハイブリッド車両に適用した例を説明したが、エンジンを搭載しない電気自動車に適用しても良い。
また、前輪駆動車に適用した例を説明したが、後輪駆動車、或いは4輪駆動車に適用しても良い。
【0078】
2〕前記実施形態においては、液圧制動力の作動特性(昇圧傾向)を第1〜第3協調モードにおいて共通に設定した例を説明したが、協調モード毎に作動特性を異ならせても良い。
例えば、第3協調モードにおいて、時刻tdの液圧制動力を制動作動特性上から開始する場合、第2協調モードにおける液圧制動力の作動特性よりも緩やかな作動特性に設定し、また、時刻tdの液圧制動力を零から開始する場合、第2協調モードにおける液圧制動力の作動特性よりも急激な作動特性に設定する。
【0079】
3〕前記実施形態においては、回生作動期間の間、回生制動力を制動作動特性と一致するように制御した例を説明したが、制御の安定性を確保するため、回生制動力を制動作動特性から一定量減少させた制動力に制御しても良い。
【0080】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。