(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る椅子について、図面を参照して説明する。
図1、
図2に示すように、椅子100は、床面F上に設置される脚部1と、脚部1の上部に設置されるボックス状の支基2と、支基2の上部に取り付けられた座受け部材3と、座受け部材3にスライド可能に支持され着座者が着座する座体4と、支基2から延び座体4に着座した着座者の背中を支持する背凭れ7と、座体4の左右側方に配設される左右一対の肘掛け8と、を備えている。
【0015】
以下の説明において、便宜上、座体4に着座した着座者が前を向く方向を「前方」、その反対方向を「後方」と称する。また、椅子100が設置される床面F側とその反対側とを結ぶ方向(鉛直方向)を「上下方向」と称する。また、椅子100の幅方向、つまり前後方向および上下方向と直交する水平方向を「左右方向」と称する。また、図中において、前方を矢印FRで示し、上方を矢印UPで示し、左方を矢印LHで示している。
【0016】
脚部1は、キャスタ11A付きの多岐脚11と、多岐脚11の中央部より起立し昇降機構であるガススプリング(不図示)を内蔵する脚柱12と、を有している。脚柱12の下部を構成する外筒13は、多岐脚11に回転不能に嵌合して支持されている。脚柱12の上部を構成する内筒14は、上端部に支基2を固定して支持するとともに、下部が外筒13に水平方向で回転可能に支持されている。
【0017】
支基2には、脚柱12の昇降調整機構と背凭れ7の傾動調整機構とが内蔵されている。座受け部材3は、支基2の上部に取り付けられた4本のリンクアーム(不図示)と、前記リンクアーム同士を連結する左右一対の固定フレーム(不図示)と、を有している。
【0018】
座体4は、座フレーム40と、座フレーム40に張設された張材60と、を有している。張材60の上面は、着座者の荷重を受ける荷重支持面60Uとされている。
【0019】
背凭れ7は、背フレーム70と、背フレーム70に張設された張材90と、を有している。張材90の前面は、着座者の荷重を受ける荷重支持面90Fとされている。背フレーム70は、支基2に連結された背後枠70Bと、背後枠70Bの前方に設けられた背前枠80Fと、を有している。
【0020】
背後枠70Bは、左右一対の下辺部71および側辺部72と、上辺部73と、を有している。背後枠70Bは、例えばアルミ等の金属または所定の強度を有する樹脂等により一体に形成されている。
【0021】
左右の下辺部71は、支基2内の傾動調整機構に連結され、支基2の後部の左右両側から延びている。左右の下辺部71は、上方に向かうにしたがって次第に後方に向かって傾斜されている。左右の下辺部71には、それぞれ左右の肘掛け8が支持されている。
【0022】
左右の下辺部71の上端部には、それぞれ左右の側辺部72が連結されている。左右の側辺部72は、上方に向かうにしたがって次第に左右方向の外側に向かって傾斜している。左右の側辺部72の下部は、上方に向かうにしたがって次第に前方に向かって傾斜している。左右の側辺部72の上部は、上方に向かうにしたがって次第に後方に向かって傾斜している。左右の側辺部72の上端部同士は、上辺部73で連結されている。
【0023】
背前枠80Fは、背後枠70Bの側辺部72の上部に連結された上部腕部81と、側辺部72の下部に連結された下部腕部82と、左右方向に(荷重支持面90Fに沿って)離間して配置された一対の縦杆86と、一対の縦杆86の上端同士を連結する上杆87と、一対の縦杆86の下端同士を連結する下端連結部89と、を有している。背前枠80Fは、例えば樹脂等で一体として形成されている。左右の縦杆86および上杆87は、張材90から作用する力に応じて弾性変形可能に構成されている。
【0024】
左右の縦杆86は、上部で上部腕部81を介して背後枠70Bに連結されるとともに、下部で下部腕部82を介して背後枠70Bに連結されている。左右の縦杆86は、下方に向かうにしたがって次第に左右方向の内側に向かって傾斜している。左右の縦杆86の下端部同士は、U字状の下端連結部89を介して互いに連結されている。
【0025】
左右の肘掛け8は、椅子100の幅方向(左右方向)に離間して左右対称形状に設けられている。以下の説明では、特に記載がなければ、椅子100の右側に設置された肘掛け8について図面を参照して説明し、椅子100の左側に配置された肘掛け8については左右対称の構成を有するものとしてその詳細説明は省略する。椅子100において、脚部1、支基2、座受け部材3、座体4および背凭れ7を含んで椅子本体が構成されている。
【0026】
図3を併せて参照し、肘掛け8は、背フレーム70の下辺部71から幅方向外側へ延びた後に上方に湾曲して延びる前面視L字状の支持杆8a(支持構造体)と、支持杆8aの上端部に支持されて前後方向に延びる肘掛け本体8bと、を備えている。
【0027】
図14、
図15を併せて参照し、支持杆8aは、背フレーム70の下辺部71から幅方向外側へ延びる外側延出部8a1と、外側延出部8a1の幅方向外側で上方に湾曲する上方湾曲部8a2と、上方湾曲部8a2の上方に連なる上方延出部8a3と、を備えている。
【0028】
外側延出部8a1と上方湾曲部8a2とは、例えばアルミニウム合金からなる中実の下部支持杆として互いに一体形成されている。外側延出部8a1は、背フレーム70の下辺部71から幅方向外側へ略水平に(詳細には幅方向外側ほど僅かに上向きとなるように湾曲して)に延びている。上方湾曲部8a2は、やや前傾して上方に湾曲している。
【0029】
上方延出部8a3は、例えば鋼板からなる中空の上部支持杆として上下方向に直線状に延びるパイプ状に形成されている。上方延出部8a3は、上下方向に沿うように(詳細には上方湾曲部8a2と同様にやや前傾して)上方に延びている。上方延出部8a3は、前後方向視では鉛直方向に沿うように延びている。
図15中線C1は上方延出部8a3の延出方向(第一延出方向)に沿う中心軸線を示す。以下、軸線C1に沿う方向を軸線C1方向ということがある。
【0030】
上方延出部8a3には、軸線C1方向に沿って昇降可能な昇降筒8cが外嵌されるとともに、軸線C1方向に沿って昇降可能なインナーパイプ8dが内嵌されている。
図5に示すように、昇降筒8cおよびインナーパイプ8dは、肘掛け本体8bと一体的に昇降可能である。
また、
図4に示すように、肘掛け本体8bは、支持杆8a(昇降筒8c)に対して前後方向に移動可能であり(
図4(a)参照)、かつ後述の枢軸8i1中心で平面視において回動可能であり(
図4(c)参照)、さらに後述の上層部材8kが下層部材8jおよび支持杆8aに対して左右方向に移動可能である(
図4(b)参照)。
【0031】
図14〜
図16に示すように、上方延出部8a3には、側面視櫛型の高さ調節スリット8e1が形成されたインナースリーブ8eが内嵌されている。インナースリーブ8eは、上方延出部8a3に嵌入されるとともにビス等により抜け止めがなされて固定されている。高さ調節スリット8e1は、軸線C1方向に延びる昇降案内スリット8e2と、昇降案内スリット8e2から前方へ略直角に延びる複数の係止スリット8e3と、を有している。
【0032】
インナーパイプ8dには、高さ調節スリット8e1の何れかの係止スリット8e3に係止可能な係止ピン8f1が保持されている。係止ピン8f1は、左右方向に沿って延び、その左右側部をインナーパイプ8dの左右側壁のピン移動孔8d1に挿通している。ピン移動孔8d1は、側面視で係止スリット8e3に沿うように前後方向に長い長孔状に形成されている。左右のピン移動孔8d1には、係止ピン8f1の左右端部が前後方向に移動可能に挿入されている。
【0033】
係止ピン8f1は、ピン移動孔8d1の前端に移動したとき、高さ調節スリット8e1の何れかの係止スリット8e3に係止され、肘掛け本体8bの昇降をロックする。すなわち、係止ピン8f1を何れの係止スリット8e3に係止させるかで、肘掛け本体8bの固定高さを多段階に調節可能である。
係止ピン8f1は、ピン移動孔8d1の後端に移動したとき、係止スリット8e3への係止を解除して昇降案内スリット8e2に至り、肘掛け本体8bの昇降ロックを解除する。これにより、肘掛け本体8bを昇降可能(高さ変更可能)となる。
【0034】
支持杆8aには、上方延出部8a3、昇降筒8c、インナーパイプ8d、インナースリーブ8eおよび係止ピン8f1、ならびに後述の揺動レバー8fおよび昇降操作レバー8hを含んで、肘掛け本体8bの高さを調節可能な昇降機構8Lが構成されている。
【0035】
インナーパイプ8d内には、左右方向に沿う支持軸8f2を介して、揺動レバー8fが揺動可能に支持されている。揺動レバー8fは、支持軸8f2の上方に延びる上方延出部8f3と、支持軸8f2の下方に延びる下方延出部8f4と、を備えている。上方延出部8f3の上端部には、昇降操作レバー8hの後下係合溝8h4に摺動可能に係合する係合ピン8f5が設けられている。下方延出部8f4の下端部には、係止ピン8f1を保持するピン保持部8f6が設けられている。ピン保持部8f6の下方には、下方に延びる延長部8f7が設けられるとともに、延長部8f7の下端部後側から上方へ側面視弧状に折り返すバネ片8f8が設けられている。
【0036】
インナーパイプ8dの上端には、平面視でインナーパイプ8dの周囲に張り出すトッププレート8gが固定されている。トッププレート8gの下方かつインナーパイプ8dの前方には、左右方向に沿う支持軸8h1を介して、昇降操作レバー8hが揺動可能に支持されている。昇降操作レバー8hは、支持軸8h1の前方に延びる前方延出部8h2と、支持軸8h1の後方に延びる後方延出部8h3と、を備えている。前方延出部8h2の下部には、昇降筒8cの上端部の外側(前下方)に突出して使用者による上方への押入操作が可能な操作部8h5が設けられている。後方延出部8h3の後端部下側には、下方に開放する後下係合溝8h4が設けられ、揺動レバー8fの上端部の係合ピン8f5を係合させている。
【0037】
揺動レバー8fは、バネ片8f8によって下端部(ピン保持部8f6)を前方へ移動させるように付勢されている。
ここで、インナーパイプ8dは、断面形状が前後方向に長い長円形状に形成されている。インナーパイプ8dの後部内側には、凹状の後内壁8d2の内側を通過するように、操作ケーブル9が挿通されている。
バネ片8f8は、上方に折り返した後上端部8f9が、インナーパイプ8dの後内壁8d2に、操作ケーブル9を挟んで付勢反力を付与した状態で後方から支持されている。
【0038】
バネ片8f8の後上端部8f9は、左右方向に沿う直線状に形成されている。バネ片8f8の後上端部8f9とインナーパイプ8dの後内壁8d2との間には、バネ片8f8の付勢反力を利用して操作ケーブル9が保持されている。なお、インナーパイプ8dがバネ片8f8の後上端部8f9を支持し、操作ケーブル9に付与する付勢反力を軽減する構成も有り得る。
【0039】
揺動レバー8fは、バネ片8f8によって下端部を前方に移動させることで、係止ピン8f1をピン移動孔8d1の前端に移動させて、高さ調節スリット8e1の何れかの係止スリット8e3に係止させる。これにより、肘掛け本体8bの昇降がロックされる。
このとき、揺動レバー8fは、上端部とともに係合ピン8f5を後方に移動させる。この係合ピン8f5の移動により、昇降操作レバー8hが後方延出部8h3を上方に移動させるように揺動し、操作部8h5を昇降筒8cの上端部の前下方に突出させる。
【0040】
昇降筒8cの外側に突出した操作部8h5が上方へ押入されると、昇降操作レバー8hの後方延出部8h3が係合ピン8f5を前方に移動させる。この移動にともなう揺動レバー8fの揺動により、揺動レバー8fの下端部がバネ片8f8の付勢力に抗して後方へ移動し、係止ピン8f1をピン移動孔8d1の後端に移動させる。これにより、係止ピン8f1が高さ調節スリット8e1の係止スリット8e3への係止を解除するとともに、係止ピン8f1が昇降案内スリット8e2に至り、肘掛け本体8bの昇降ロックが解除される。
【0041】
図10、
図11、
図15に示すように、インナーパイプ8dのトッププレート8g上には、枢軸8i1を有するエンドプレート8iが固定されている。トッププレート8gおよびエンドプレート8iは、昇降筒8cの上端開口を塞ぐように配設されている。エンドプレート8iは、昇降筒8cひいては支持杆8aの上端面8i2を形成している。エンドプレート8i上には、肘掛け本体8bが枢軸8i1を中心に回動可能に支持されている。上端面8i2は、昇降筒8c(上方延出部8a3)および肘掛け本体8b間の境界面となる。
【0042】
図中線C2は枢軸8i1の中心軸線を示す。上端面8i2は、略水平に形成されている。詳細には、上端面8i2は、肘掛け本体8bの下層部材8jのベース部材8mの下面と整合するように、水平面に対して側面視で僅かに下方に凸の湾曲状に形成されている。側面視で上端面8i2に沿う方向が肘掛け本体8bの前後移動方向(第一移動方向)となる。前後移動方向は、肘掛け本体8bの延出方向(第二延出方向)でもある。肘掛け本体8bは、概ね前後方向(第二延出方向)に沿って延びている。図中線C3は側面視における肘掛け本体8bの前後移動方向(第二延出方向)に沿う基準軸線を示す。軸線C3に沿う方向を軸線C3方向ということがある。
【0043】
図3、
図6、
図12、
図13に示すように、肘掛け本体8bは、エンドプレート8i上に載置される下層部材8jと、下層部材8j上に載置される上層部材8kと、を備えている。
【0044】
下層部材8jは、上方に開放する収容空間K1を形成するとともに収容空間K1内に枢軸8i1を突出させた状態でエンドプレート8i上に載置されるベース部材8mと、収容空間K1内でベース部材8mに相対回動不能かつ前後移動可能に嵌合するとともに枢軸8i1に回動可能に嵌合する回動部材8nと、操作ケーブル9を介して支基2内の装置(脚柱12の昇降調整機構および背凭れ7の傾動調整機構)を遠隔操作するための操作レバー8pと、操作ケーブル9のインナーケーブル9bを下層部材8j内で巻回させる前プーリ(第一折り返し部材、滑車)8qおよび後プーリ(第二折り返し部材、滑車)8rと、収容空間K1の上方開放部を閉塞するカバー部材8sと、を備えている。
【0045】
ベース部材8m(およびカバー部材8s)は、操作レバー8pを支持しかつ支持杆8aに対して前後方向に移動可能な移動体として構成されている。ベース部材8mは、その前端部に、上層部材8kの前部を支持するべく収容空間K1に対して上方へ段差状に変化した前段差部8m1を形成している。ベース部材8mは、その後端部に、上層部材8kの後部を支持するべく後下がりに傾斜した後傾斜部8m2を形成している。後傾斜部8m2は、収容空間K1の後端部の深さを後側ほど浅くするように形成されている。ベース部材8mの底壁には、前後方向に延びて枢軸8i1を前後移動可能に貫通させる長孔8m3が形成されている。
【0046】
回動部材8nは、支持杆8aの枢軸8i1に連結されることで、支持杆8aに対して前後方向の移動が不能な固定体として構成されている。回動部材8nは、上下方向(枢軸8i1の軸線C2に沿う方向)の幅を抑えた偏平の直方体状に形成されている。回動部材8nは、平面視において、前後面を左右方向に沿わせ、左右側面を前後方向(ベース部材8mの左右側壁に沿う方向)に沿わせて配置されている。回動部材8nおよびエンドプレート8iを含んで、上方延出部8a3と肘掛け本体8bとを連結する連結部8i3が構成されている。
【0047】
操作レバー8pは、側面視L字状に形成されている。操作レバー8pは、左右方向に沿って延びて前段差部8m1上に回動可能に支持される支持軸8p1と、支持軸8p1から下方に延びる下方延出部8p2と、下方延出部8p2の下端から前方に延びる前方延出部8p3と、を備えている。操作レバー8pは、前段差部8m1内の揺動空間で支持軸8p1を中心に揺動可能とされている。前方延出部8p3の前部は、前段差部8m1の下部前方に突出する操作部8p4とされている。操作部8p4は、上層部材8kの前部下方に位置しており、上層部材8kに載せた使用者の腕の指先で上方へ引き上げるように操作可能とされている。
【0048】
図6、
図7、
図12に示すように、操作レバー8pの下方延出部8p2の下端部には、左右方向に沿う支持軸8q1を介して前プーリ8qが回転自在に支持されている。前プーリ8qは、操作部8p4の引き上げ操作により下方延出部8p2が前上がりに回動したとき、下方延出部8p2の回動に伴い前上方へ移動する。
【0049】
後プーリ8rは、上下方向に沿う支持軸8r1を介してベース部材8mの底壁の後端部に回転自在に支持されている。後プーリ8rは、後傾斜部8m2によって深さが減少する収容空間K1の後端部に配置されている。後プーリ8rは、前プーリ8qのように径方向を略垂直にした起立姿勢で配置される場合に比して、径方向を略水平にした倒れ姿勢で配置されることで、浅い空間にも配置しやすくなっている。
【0050】
操作ケーブル9は、アウターケーブル9aおよびインナーケーブル9bを備えている。操作ケーブル9は、支基2からインナーパイプ8d内を通じて延びて下層部材8j内に至る。
図9を併せて参照し、操作ケーブル9のアウターケーブル9aは、下層部材8j内に至った先端部(係止端部9a1)を、回動部材8n内に形成されたアウター係止部8n1に係止する。
【0051】
操作ケーブル9のインナーケーブル9bは、アウターケーブル9aの係止端部9a1から前方に延びた後、前プーリ8qに下方から上方に巻回して後方へ折り返す。その後、インナーケーブル9bは、後プーリ8rに幅方向一側から他側(本実施形態では幅方向内側から外側)に巻回して前方へ折り返す。さらにその後、インナーケーブル9bは、その先端部(係止端部9b1)を回動部材8nの後端部の幅方向外側に形成されたインナー係止部8n2に係止する。
【0052】
上記構成で操作レバー8pの操作部8p4を引き上げ操作すると、前プーリ8qが前上方へ移動してインナーケーブル9bを引出し、支基2内の装置を作動させる。
【0053】
ここで、肘掛け本体8bを前後方向に移動させるときにも前プーリ8qが前後方向に移動するが、このとき、アウターケーブル9aの係止端部9a1よりも前方で前プーリ8qが前後移動することと合わせて、インナーケーブル9bの係止端部9b1よりも後方で後プーリ8rが前後移動する。
【0054】
これにより、アウターケーブル9aの係止端部9a1よりも前方におけるインナーケーブル9bの長さが増減しても、インナーケーブル9bの係止端部9b1よりも後方におけるインナーケーブル9bの長さが同等量だけ減増する。このため、インナーケーブル9bの引出し長さの変化が抑えられ、肘掛け本体8bの前方移動時にインナーケーブル9bが引かれたり肘掛け本体8bの後方移動時にインナーケーブル9bが弛んだりすることが抑止される。
【0055】
換言すれば、移動体であるベース部材8mには、前後プーリ8q,8rを含むインナー引き出し長さ維持機構8Xが構成されている。インナー引き出し長さ維持機構8Xは、肘掛け本体8bの前後移動時にインナーケーブル9bの配索経路を変化させることで、インナーケーブル9bのアウターケーブル9aからの引き出し長さの変化を抑えるものである。
【0056】
インナーケーブル9bは、アウターケーブル9aの係止端部9a1よりも前方において、前プーリ8qに巻回されることで、前後方向に沿うように延びるとともに、前方に凸となるように折り返す。インナーケーブル9bは、アウターケーブル9aの係止端部9a1よりも前方かつ前プーリよりも後方において、上下に並ぶように配索されている。
【0057】
インナーケーブル9bは、インナーケーブル9bの係止端部9b1よりも後方において、後プーリ8rに巻回されることで、前後方向に沿うように延びるとともに、後方に凸となるように折り返す。インナーケーブル9bは、インナーケーブル9bの係止端部9b1よりも後方かつ後プーリ8rよりも前方において、左右に並ぶように配索されている。
【0058】
図3、
図6、
図12に示すように、カバー部材8sは、前段差部8m1に整合するように段差状に形成される前段差カバー部8s1と、後傾斜部8m2に整合するように傾斜するとともに後傾斜部8m2よりも前方まで延びる後傾斜カバー部8s2と、前段差カバー部8s1および後傾斜カバー部8s2の間で上層部材8kから離間して設けられる中間壁部8s3と、を備えている。前段差カバー部8s1は、中間壁部8s3の前端から上方へ起立し、後傾斜カバー部8s2は、中間壁部8s3の後端から比較的低くかつ穏やかに上方へ起立している。
【0059】
中間壁部8s3と上層部材8kとの間には、肘掛け本体8bを左右方向で貫通する貫通空間Sが形成されている。貫通空間Sの前方には、前段差部8m1および前段差カバー部8s1で形成されて上層部材8kの前部を支持する前支持部8t1が設けられている。貫通空間Sの後方には、後傾斜部8m2および後傾斜カバー部8s2で形成されて上層部材8kの後部を支持する後支持部8t2が設けられている。
【0060】
図12、
図13に示すように、上層部材8kは、下層部材8jの前後支持部8t1,8t2上に固定されるベース部材8k1と、ベース部材8k1上に収容空間K2を空けて重なるカバー部材8k2と、カバー部材8k2を上方から覆うパッド部材8k3と、カバー部材8k2とパッド部材8k3との間に介挿されるウレタン等からなるクッション部材8k4と、を備えている。上層部材8kは、側面視で上方に凸の緩やかな湾曲状をなし、前部は前下がりに傾斜するとともに後部は後下がりに傾斜して設けられている。
【0061】
上層部材8kの収容空間K2には、前後に長い上層部材8kを平行に左右移動させるための移動均等化機構8uが設けられている。
移動均等化機構8uは、上層部材8kの収容空間K2で前後方向に延びる連動シャフト8u1と、ベース部材8k1上に左右方向に延びて固設される前ラックギヤ8u2および後ラックギヤ8u3と、連動シャフト8u1の前側に配設される前軸受部8u4と、連動シャフト8u1の後側に配設される後軸受部8u5と、を備えている。
【0062】
連動シャフト8u1の前端部は、上層部材8k内で前軸受部8u4によって回動自在に支持されている。連動シャフト8u1の後端部は、上層部材8k内で後軸受部8u5によって回動自在に支持されている。連動シャフト8u1の前部には、前ピニオンギヤ8u6が形成されている。連動シャフト8u1の後部には、後ピニオンギヤ8u7が形成されている。前ピニオンギヤ8u6には、前ラックギヤ8u2が噛合されている。後ピニオンギヤ8u7には後ラックギヤ8u3が噛合されている。前軸受部8u4および後軸受部8u5は、下層部材8jに固定されており、上層部材8kが左右移動する場合は上層部材8kに対して相対移動する。
【0063】
前軸受部8u4の前端には、下方に先端が向けられたガイド突部8v1が設けられている。ベース部材8k1の前側上面には、左右方向(上層部材8kの移動方向)に沿って形成されるガイド溝部8v2が設けられている。ガイド突部8v1は、ガイド溝部8v2に摺動可能に係合している。これらのガイド突部8v1とガイド溝部8v2とは、上層部材8kの前部の左右移動を案内する前ガイド部8vを形成している。
【0064】
後軸受部8u5の後端には、下方に先端が向けられたガイド突部8w1が設けられている。ベース部材8k1の後側上面には、左右方向(上層部材8kの移動方向)に沿って形成されるガイド溝部8w2が設けられている。ガイド突部8w1は、ガイド溝部8w2に摺動可能に係合している。これらのガイド突部8w1とガイド溝部8w2とは、上層部材8kの後部の左右移動を案内する後ガイド部8wを形成している。
【0065】
上記構成で使用者が上層部材8kの前端部または後端部を把持して上層部材8kを左右移動させようとすると、上層部材8kの前後端部のうちの使用者が把持した側(駆動側)の端部のラックギヤが左右移動し、これに噛合うピニオンギヤを介して連動シャフト8u1を回転させる。すると、連動シャフト8u1の長さ分だけ離間した上層部材8kの反対側(従動側)の端部が、当該反対側の端部のピニオンギヤおよびラックギヤによって駆動側の端部と同等量だけ左右移動する。
【0066】
前後に長い上層部材8kを左右方向に移動させる場合、上層部材8kの前後端部の何れかを把持して行う操作では、上層部材8kに平面視の傾きが生じてスムーズな左右移動の妨げになったり、意図せず肘掛け本体8bの枢軸8i1回りの回動が生じたりすることがある。これに対し、移動均等化機構8uにより上層部材8kの前後端部の左右移動の均等化を図ることで、上層部材8kの左右方向の平行移動が促される。
【0067】
図6、
図15に示すように、上方延出部8a3と肘掛け本体8bとを連結する連結部8i3には、操作ケーブル9を挿通可能なケーブル挿通部8i4が設けられている。ケーブル挿通部8i4は、上方延出部8a3の上端面8i2よりも下方で上方延出部8a3の延出方向(軸線C1方向、第一延出方向)の下方に向けて開口する第一開口部8i5と、上端面8i2よりも上方で肘掛け本体8bの延出方向(軸線C3方向、第二延出方向)の前方に向けて開口する第二開口部8i6と、を備えている。
【0068】
図8、
図10、
図11を併せて参照し、ケーブル挿通部8i4は、枢軸8i1の下方に第一開口部8i5を形成し、枢軸8i1の外周面の前端部に第二開口部8i6を形成している。エンドプレート8iの下面には、平面視矩形状の中間開口部8i7が形成されている。エンドプレート8iの下方に重なるトッププレート8gには、中間開口部8i7に対して後方にずれて、平面視矩形状の下段開口部8i8が形成されている。中間開口部8i7の後部と下段開口部8i8の前部とは上下方向で互いに重なり、この重なり部分が上下方向で互いに連通する第一開口部8i5を形成している。
【0069】
ケーブル挿通部8i4は、側面視で第一開口部8i5(中間開口部8i7)から第二開口部8i6に向けて前上がりに傾斜する傾斜する傾斜面8i9を形成している。ケーブル挿通部8i4は、枢軸8i1(エンドプレート8i)を傾斜面8i9に沿って斜めに貫通する(切り欠く)ように形成されている。
【0070】
傾斜面8i9は、軸線C1方向および軸線C3方向に対して同等の鈍角をなすように傾斜している。これにより、延出方向が互いに交差する上方延出部8a3と肘掛け本体8bとに跨って操作ケーブル9を配索する場合に、操作ケーブル9が傾斜面8i9に沿うように緩やかに曲げられて案内される。
【0071】
また、第二開口部8i6の直ぐ前方において、回動部材8nには、傾斜面8i9を延長するように連なるとともに前部が略水平になるように湾曲した前ガイド面8n3が形成されている。これにより、操作ケーブル9がケーブル挿通部8i4の前方に至る際の曲りも緩やかに案内される。
【0072】
回動部材8nのアウター係止部8n1は、前プーリ8qの下端高さに向けてインナーケーブル9bを引き出すように、アウターケーブル9aの係止端部9a1を前下がりに傾斜させて保持している。このため、第二開口部8i6の前方で操作ケーブル9を下向き方向に湾曲させることの効果は大きい。
【0073】
操作ケーブル9は、ケーブル挿通部8i4の下方に至る際、昇降操作レバー8hの後方延出部8h3に上後方から接することで、上後方に凸の湾曲状をなした後に、上方延出部8a3の軸線C1よりも肘掛け本体8bの軸線C3方向で後方に至る。その後、操作ケーブル9は下方に湾曲し、インナーパイプ8dの後内壁8d2に沿うように配索されている。
【0074】
以上説明したように、本実施形態における椅子100の肘掛け8は、椅子本体に取り付けられ、前記椅子本体側から上方へ第一延出方向(軸線C1方向)に延びる上方延出部8a3を有する支持杆8aと、前記上方延出部8a3の上端に支持され、前記第一延出方向と交差する第二延出方向(軸線C3方向)に延びる肘掛け本体8bと、前記肘掛け本体8bに支持され、使用者による規定の操作がなされる操作レバー8pと、前記操作レバー8pになされた操作を前記上方延出部8a3側に伝達する操作ケーブル9と、を備え、前記上方延出部8a3と前記肘掛け本体8bとを連結する連結部8i3には、前記操作ケーブル9を挿通可能なケーブル挿通部8n4が設けられ、前記ケーブル挿通部8n4は、前記上方延出部8a3の上端面8i2よりも下方で前記第一延出方向の下方に向けて開口する第一開口部8n5と、前記上端面8i2よりも上方で前記第二延出方向の一側に向けて開口する第二開口部8n6と、を備えている。
【0075】
この構成によれば、延出方向が互いに交差する上方延出部8a3と肘掛け本体8bとに跨って操作ケーブル9を配索する際、上方延出部8a3および肘掛け本体8bの連結部8i3では操作ケーブル9の屈曲が生じやすいが、連結部8i3のケーブル挿通部8n4が、上方延出部8a3の上端面8i2よりも下方で第一延出方向の下方に向けて開口する第一開口部8n5と、上端面8i2よりも上方で第二延出方向の一側に向けて開口する第二開口部8n6と、を備えているので、上方延出部8a3内で第一延出方向に沿うように配索された操作ケーブル9を肘掛け本体8b内に至らしめる際に、操作ケーブル9をケーブル挿通部8n4に挿通することで、操作ケーブル9の曲りを緩やかにするようガイドすることが可能となり、操作ケーブル9の摺動抵抗の増加を抑えることができる。また、ケーブル挿通部8n4は、延出方向の異なる支持杆8aおよび肘掛け本体8bの連結部8i3に設けられるので、ケーブル挿通部8n4の二方向の寸法を確保しやすく、肘掛けを大型化させることなく操作ケーブル9の曲りを緩やかにすることができる。
【0076】
また、前記上方延出部8a3の上端には、前記上端面8i2よりも上方に突出し、前記肘掛け本体8bに下方から挿入されて嵌合する枢軸8i1が設けられ、前記枢軸8i1の下方には、前記第一開口部8n5が形成され、前記枢軸8i1の前記肘掛け本体8bへの挿入方向に沿う側面には、前記第二開口部8n6が形成されている。
この構成によれば、肘掛け本体8b内に挿入される枢軸8i1の下方から枢軸8i1の側面にかけて、枢軸8i1を貫通するようにケーブル挿通部8n4が設けられるので、上方延出部8a3内を延びた操作ケーブル9を肘掛け本体8b内へ自然に導くことができる。また、枢軸8i1を避けて操作ケーブル9を配索する場合に比して、操作ケーブル9の配索スペースをコンパクトにし、肘掛けの大型化を抑えることができる。
【0077】
また、前記枢軸8i1は、前記支持杆8aに対して肘掛け本体8bを回動可能に支持している。
この構成によれば、肘掛け本体8bを回動可能とする枢軸を貫通するように操作ケーブル9が配索されるので、枢軸を避けて操作ケーブル9を配索する場合に比して、操作ケーブル9をコンパクトに配索することができる。また、肘掛け本体8bが回動した際に、ケーブル挿通部8n4の回動方向の移動量が少なくなるので、操作ケーブル9の振れ幅を抑えてケーブル配索の安定性を高めることができる。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、本実施形態の構成は、椅子の肘掛けに限らず、例えば種々の可動部品等、什器本体に取り付けられ、前記什器本体側から第一延出方向に延びる第一延出部を有する第一構造体と、前記第一延出部に支持され、前記第一延出方向と交差する第二延出方向に延びる第二構造体と、前記第二構造体に支持され、使用者による規定の操作がなされる操作部材と、前記操作部材になされた操作を前記第一延出部側に伝達する操作ケーブルと、を備える他の什器部品に適用してもよい。
そして、椅子以外の什器にも適用可能であることはもちろん、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。