(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641745
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】相構造解析方法、ポリマー材料、ポリマー材料製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20200127BHJP
G01N 1/42 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/42
G01N1/28 G
G01N1/28 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-134952(P2015-134952)
(22)【出願日】2015年7月6日
(65)【公開番号】特開2016-28235(P2016-28235A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2018年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-140270(P2014-140270)
(32)【優先日】2014年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(74)【復代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑季
(72)【発明者】
【氏名】松林 昭博
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−544064(JP,A)
【文献】
特表2009−523895(JP,A)
【文献】
特開2003−330215(JP,A)
【文献】
特開2006−152020(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0293462(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0281012(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0110421(US,A1)
【文献】
特開2005−114533(JP,A)
【文献】
特開2010−032255(JP,A)
【文献】
特開2013−019697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
G01Q 10/00−90/00
C08K 3/00−13/08
C08J 9/00− 9/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるガラス転移温度を有する複数のポリマーを含有するポリマー材料の相構造解析方法において、
前記複数のポリマーにおける複数のガラス転移温度のうち最も低いガラス転移温度よりも低い温度(T1)に前記ポリマー材料の塊状物を冷却し、
前記ポリマー材料の塊状物に平滑面を形成し、
前記温度(T1)から、前記複数のポリマーにおける最も高いガラス転移温度よりも高い温度(T2)にまで昇温することにより、前記平滑面に凹凸面を形成し、
次いで前記凹凸面における高低差を観察することを特徴とする相構造解析方法。
【請求項2】
前記複数のポリマーのうち、いずれか一種のポリマーのガラス転移温度と、他の一種のポリマーのガラス転移温度との差が、20℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の相構造解析方法。
【請求項3】
異なるガラス転移温度を有する複数のポリマーを含有するポリマー材料であって、
前記ポリマー材料の塊状物は凹凸面を有し、その凹凸面は、ポリマー毎にガラス転移温度に対応した凸部を有し、ポリマー毎の凸部の高さ(H)は、ガラス転移温度(Tg1)を有するポリマーの突出高さ(H1)が、前記ガラス転移温度(Tg1)よりも高いガラス転移温度(Tg2)を有する他のポリマーの突出高さ(H2)よりも大きい関係を有し、
前記ポリマー材料の塊状物における凹凸面において、最も突出高さの大きい凸部の突出高さと、最も突出高さの小さい凸部の突出高さとの差が、50nm以上200nm以下であることを特徴とするポリマー材料。
【請求項4】
異なるガラス転移温度を有する複数のポリマーを含有するポリマー材料であって、前記ポリマー材料の塊状物は凹凸面を有し、その凹凸面は、ポリマー毎にガラス転移温度に対応した凸部を有し、ポリマー毎の凸部の高さ(H)は、ガラス転移温度(Tg1)を有するポリマーの突出高さ(H1)が、前記ガラス転移温度(Tg1)よりも高いガラス転移温度(Tg2)を有する他のポリマーの突出高さ(H2)よりも大きい関係を有することを特徴とするポリマー材料を製造する方法であって、
異なるガラス転移温度を有する複数のポリマーを含有する粗ポリマー材料の塊状物を、前記複数のポリマーにおける複数のガラス転移温度のうち最も低いガラス転移温度よりも低い温度(T1)に冷却し、
前記粗ポリマー材料の塊状物に平滑面を形成し、
次いで前記温度(T1)から、前記複数のポリマーにおける最も高いガラス転移温度よりも高い温度(T2)にまで昇温して、前記平滑面に、ポリマー毎にガラス転移温度に対応した凸部を有し、ポリマー毎の凸部の高さ(H)は、ガラス転移温度(Tg1)を有するポリマーの突出高さ(H1)が、前記ガラス転移温度(Tg1)よりも高いガラス転移温度(Tg2)を有する他のポリマーの突出高さ(H2)よりも大きい関係を有する凹凸面を形成することにより、前記ポリマー材料を製造することを特徴とするポリマー材料製造方法。
【請求項5】
前記複数のポリマーのうち、いずれか一種のポリマーのガラス転移温度と、他の一種のポリマーのガラス転移温度との差が、20℃以上であることを特徴とする請求項4に記載のポリマー材料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相構造解析方法、ポリマー材料、及びポリマー材料製造方法に関し、更に詳しくは、低温条件における観察を必要とすることなく、例えば室温又は室温に近い温度で染色操作をせずに容易に相構造を解析することのできる相構造解析方法、他の素材に対する剥離性が小さく密着性の大きいポリマー材料、及び前記ポリマー材料を容易に製造することのできるポリマー材料製造方法に関する。
【0002】
従来、2種類以上の異なるポリマーを混合したポリマー材料が広く用いられており、特にポリマー材料の具体例として2種類以上の異なるゴムを混合したゴム材料が知られている。例えば、自動車用タイヤなどに使用されるゴム材料には、タイヤに要求される複数の性能を高いレベルで満足するために、2種類以上のゴムを混合して用いる場合が多い。特に、互いに非相溶であるゴム同士をブレンドすることによって、各々のゴムの持つ性能が付与されたタイヤを得ることができるという利点がある。例えば、高グリップ性が要求されるタイヤのキャップトレッド用コンパウンドに、スチレン含有量の高いスチレンブタジエンゴム(以下、「SBR」と称することがある。)を使用するのと同時に、低温でのタイヤの脆化防止及び耐摩耗性を向上させる目的でSBRと非相溶であるブタジエンゴム(以下、「BR」と称することがある。)を使用する例が挙げられる。このような複数の成分をブレンドしたポリマー材料の相構造を解析し、ポリマー材料の相構造を制御することは、ポリマー材料の品質管理を行い、ポリマー材料の品質向上を図る上で非常に重要である。
【0003】
2種類以上の異なるゴムを混合したゴム材料の相構造を解析する方法の一例として、酸化オスミウムによって染色されたゴム材料を透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」と称することがある。)によって観察する方法が挙げられる。酸化オスミウムはゴムの二重結合部と反応する性質を有するとともに、電子の透過を妨げるという機能を有する。よって、酸化オスミウムによって染色されたゴム材料をTEMによって観察すると、各種のゴムの分布に応じた染色模様を有する観察像が得られる。
例えば、非特許文献1には、酸化オスミウムを用いたゴム材料の解析法について、以下のように記載されている。
「ゴム切片をTEMで形態観察するには、通常、あらかじめゴムを染色する。ゴムには天然ゴムや各種の合成ゴムがあり、特にブレンドゴムを観察するときなどは、ゴム種を識別する必要があるからである。ゴムに対し最も一般的に用いられるのはオスミウム染色(四酸化オスミウム)であり、ゴムの二重結合に反応しオスミウムが導入される。オスミウムは質量が大きいため電子の透過を妨げ、形態像では暗くコントラストがつく。オスミウム染色によりジエン系ゴムと非ジエン系ゴムとは明確に識別できる」(非特許文献1、第92頁、左側の第15行〜25行)。
【0004】
このような四酸化オスミウムを用いたゴム材料の染色には、厚さが数十ナノメートル程度であるゴム材料の超薄切片をミクロトームによって作製することが必要であるが、ゴム材料の超薄切片の作成を成功させるには高度な熟練が必要である。超薄切片の厚みが一様でないと、観察されるTEM画像にコントラスト斑が生じてしまうことに加えて、超薄切片にはしわが発生しやすく取扱いが難しい。さらに超薄切片のTEM画像は境界部が明確でないという問題がある。
また、四酸化オスミウムを用いた染色操作においては、毒性の強いオスミウムの取り扱いに注意しながら溶剤の洗い流しや乾燥といった作業を行わなければならない。
よって、四酸化オスミウムを用いたゴム材料の染色は、操作が難しく煩雑であるという問題がある。
【0005】
2種類以上の異なるゴムを混合したゴム材料の相構造を解析する方法の他の一例として、特許文献1〜3及び非特許文献2で示されるように、ゴム材料の表面を走査型プローブ顕微鏡(以下、「SPM」と称することがある。)によって観察し、各種ゴムの位相遅れを測定する方法が挙げられる。この方法は、先端に短針を有するカンチレバーを共振振動数で振動させながらポリマー材料の表面を平面方向に走査させ、振動振幅が一定になるように短針と試料との間の距離をフィードバック制御しながら水平に走査させることで、ポリマー材料の表面形状を画像化する方法である。さらに、加振素子の入力信号とカンチレバー先端の検出信号との間の位相遅れの分布を記録する位相像を同時計測することができる。ポリマー材料の表面のうち、弾性率の高い部分、又は吸着力の小さい部分は位相遅れが小さく、弾性率の小さい部分、又は吸着力の大きい部分は位相遅れが大きくなる。よって、SPMを用いてポリマー材料の表面における位相遅れを測定することにより、各種ゴムの弾性率又は吸着力の違いに応じた観察像が得られる。
【0006】
しかし、SPMを用いた位相遅れの測定によって、例えば天然ゴム(以下、「NR」と称することがある。)とブタジエンゴム(以下、「BR」と称することがある。)のように、互いに弾性率の差の小さいゴム同士を混合したゴム材料の相構造を解析する際には、BRとNRとの位相遅れの差が小さく、BRの相とNRの相との位置を識別することが難しい、という問題がある。このような問題を解決するために、SPMによって位相差を検出する方法では、各種ゴムのガラス転移温度付近の温度、すなわち低温条件下において分析が行われることが一般的である。例えば、特許文献2の
図3(a)における例では、−20℃の条件下でNRとBRとの位相差が検出されているが、特許文献2の
図3(b)における例では、30℃の条件下でNRとBRとの位相差が検出されていない。具体的に、特許文献2の段落番号0031欄の第1〜4行には、「
図3(a),(b)からわかるように、−20℃から30℃の温度変化により、位相画像が大きく変化していることがわかる。特に、
図3(a)に示す天然ゴムの相に該当する場所Bの領域が
図3(b)では消滅し、白い領域が多数を占めている。これは、天然ゴムの相が軟化して、相対的位相遅れが大きくなっていることを示す」と記載されている。また、特許文献3の段落番号0039欄には、「位相画像G
1の−20℃では、NRはガラス状態となっている。一方、BRのガラス転移温度(約300KHz)は顕微鏡12では−42℃である。よって、−20℃はBRのガラス転移温度(約300KHz)よりも高く、−20℃では、BRはゴム状態となっている。したがって、−20℃は、上述した第1の設定温度T
1にあたる。一方、20℃はNR及びBRのいずれのガラス転移温度(約300KHz)よりも高いため、NRおよびBRはいずれもゴム状態になっている。したがって、20℃は第2の設定温度T
2に当たる。」と記載されている。つまり、一方(BR)がガラス状態であり、他方(NR)がゴム状態である条件下で測定することにより、BRとNRとの弾性率の差を大きくすることができ、位相差を検出することができる。言い換えると、SPMを用いて位相差を検出する方法によると、複数のゴム材料の一部がガラス状態であり、一部がゴム状態であるような低温条件下でないと、正しく位相差を検出できない。このような低温条件下で分析を行うには、高価な温度制御装置を用いなければならず、分析操作が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「電顕によるゴム配合の分散性解析」前原昭広・秋山節夫、日本ゴム協会誌、71巻、2号、90頁〜97頁(1998)
【非特許文献2】「温度可変走査型プローブ顕微鏡と動的粘弾性測定によるポリプロピレンブロックコポリマーのキャラクタリゼーション」大久保信明・山岡武博、熱測定、28巻、38頁(2001)
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−019697
【特許文献2】特開2010−032255
【特許文献3】特開2011−013185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ポリマー材料を染色する必要がなく、室温又は室温に近い温度において凹凸面を観察することによってポリマーの分布が確認されるので、容易にポリマー材料の相構造を解析することのできる相構造解析方法、他の素材に対する剥離性が小さく密着性の大きいポリマー材料、及び前記ポリマー材料を容易に製造することのできるポリマー材料製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、
(1)異なるガラス転移温度を有する複数のポリマーを含有するポリマー材料の相構造解析方法において、前記複数のポリマーにおける複数のガラス転移温度のうち最も低いガラス転移温度よりも低い温度(T1)に前記ポリマー材料の塊状物を冷却し、前記ポリマー材料の塊状物に平滑面を形成し、前記温度(T1)から、前記複数のポリマーにおける最も高いガラス転移温度よりも高い温度(T2)にまで昇温することにより、前記平滑面に凹凸面を形成し、次いで前記凹凸面における高低差を観察することを特徴とする相構造解析方法であり、
(2)前記複数のポリマーのうち、いずれか一種のポリマーのガラス転移温度と、他の一種のポリマーのガラス転移温度との差が、20℃以上であることを特徴とする前記(1)に記載の相構造解析方法であり、
(3)異なるガラス転移温度を有する複数のポリマーを含有するポリマー材料であって、
前記ポリマー材料の塊状物は凹凸面を有し、その凹凸面は、ポリマー毎にガラス転移温度に対応した凸部を有し、ポリマー毎の凸部の高さ(H)は、ガラス転移温度(Tg1)を有するポリマーの突出高さ(H1)が、前記ガラス転移温度(Tg1)よりも高いガラス転移温度(Tg2)を有する他のポリマーの突出高さ(H2)よりも大きい関係を有することを特徴とするポリマー材料であり、
(4)前記ポリマー材料の塊状物における凹凸面において、最も突出高さの大きい凸部の突出高さと、最も突出高さの小さい凸部の突出高さとの差が、50nm以上200nm以下であることを特徴とする前記(3)に記載のポリマー材料であり、
(5)異なるガラス転移温度を有する複数のポリマーを含有する粗ポリマー材料の塊状物を、前記複数のポリマーにおける複数のガラス転移温度のうち最も低いガラス転移温度よりも低い温度(T1)に冷却し、前記粗ポリマー材料の塊状物に平滑面を形成し、次いで前記温度(T1)から、前記複数のポリマーにおける最も高いガラス転移温度よりも高い温度(T2)にまで昇温して、前記平滑面に前記(3)に記載の凹凸面を形成することにより前記(3)に記載のポリマー材料を製造することを特徴とするポリマー材料製造方法であり、
(6)前記複数のポリマーのうち、いずれか一種のポリマーのガラス転移温度と、他の一種のポリマーのガラス転移温度との差が、20℃以上であることを特徴とする前記(5)に記載のポリマー材料製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の相構造解析方法によると、前記温度(T1)から前記温度(T2)まで昇温する過程で、ガラス転移温度の低いポリマーが含まれる部分ほど突出度が大きく、ガラス転移温度の低いポリマーが含まれる部分ほど突出度が小さくなるように、凹凸面が形成される。このような凹凸面を、染色せずに、室温で、又は室温に近い温度で観察すると、各種ポリマーの分布を確認することができる。よって、本発明によると、室温付近で容易にポリマー材料の相構造を解析することのできる相構造解析方法が提供される。
【0012】
本発明のポリマー材料を塊状物に成形した場合に、その塊状物は、ポリマーのガラス転移温度に応じて、その平滑面に突出高さの異なる凸部を形成することができる。本発明のポリマー材料の塊状物はその平面に、ポリマーの種類や配合量等の条件に応じて、凸部の高さや配置等が適切に制御された凹凸面が形成されている。このように、凸部の高さや配置等が適切に制御された凹凸面を有する複数のポリマー材料の塊状物例えばシート状物の表面に形成されている凹凸面同士が面接触するようにそれらシート状物同士を積層すると、凹凸面における摩擦力が有効に働くので、重畳した前記シート状物間の位置ずれや、前記塊状物例えばシート状物の一部が剥離することを防止することができる。よって、本発明によると、塊状物例えばシート状物同士を重畳させた場合にその塊状物例えばシート状物間の密着性や接着強度を高めることのできるポリマー材料を提供することができる。
【0013】
本発明によると、ポリマー材料で形成された塊状物例えばシート状物を重畳した場合にその塊状物例えばシート状物間の密着性及び接着強度が高められるように、凸部の高さや配置等が適切に制御された凹凸面を備えた塊状物例えばシート状物に形成することのできるポリマー材料を容易に製造することのできるポリマー材料製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ポリマー材料の表面の凹凸を示すための断面模式図であり、
図1(a)は温度(T1)におけるポリマー材料の平滑面、及び
図1(b)は温度(T2)におけるポリマー材料の凹凸面を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1におけるポリマー材料の凹凸面の観察画像である。
【
図3】
図3は、実施例2におけるポリマー材料の凹凸面の観察画像である。
【
図4】
図4は、実施例3におけるポリマー材料の凹凸面の観察画像である。
【
図5】
図5は、比較例1におけるポリマー材料の切削面の観察画像である。
【
図6】
図6は、比較例2におけるポリマー材料の凹凸面の観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明のポリマー材料は、異なるガラス転移温度(以下、「Tg」と称することがある。)を有する複数のポリマーを含有する。使用されるポリマーは、それぞれ異なるガラス転移温度を有していれば特に制限がない。例えば、25℃前後の室温よりもガラス転移温度が低い材料であるゴムや、室温よりもガラス転移温度が高い材料である樹脂が、ポリマーとして用いられ得る。ポリマーは、Tgよりも低い温度条件下では固くて変形しにくいガラス状態にあるが、Tgよりも高い温度条件下では柔らかく変形しやすいゴム状態にある。
この発明のポリマー材料におけるポリマーは、後述する相構造解析方法において、ポリマー材料の塊状物の凹凸面における高低差を観察することにより、対応するポリマーの存在を観察像中において認識できる程度に含有されていることが好ましく、例えば、ポリマー材料全体の体積に対し、ポリマー材料に含有される各種ポリマーの体積がそれぞれ10%以上ずつ含有されていることが好ましい。
また、ポリマー材料に含有されるポリマーの種類の数は特に制限されないが、後述する相構造解析方法において容易に解析を行うことができるように、ポリマー材料に含有されるポリマーは2種類以上10種類以下であることが好ましく、2種類以上5種類以下であることがより好ましい。
【0016】
ポリマーに用いられるゴムとして、例えば、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(AU、EU)、シリコーンゴム(VMQ、FVMQ)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エピクロロビドリンゴム(CO、ECO)、ポリスルフィドゴム(T)等が挙げられる。
また、ポリマーに用いられる樹脂として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリウレタン(PU)等が挙げられる。
【0017】
ポリマー材料に含有されるポリマーは、ゴムのみであってもよいし、樹脂のみであってもよいし、ゴムと樹脂とであってもよい。ポリマー材料に含有されるポリマーは、特にゴムのみである例が好ましく、BR、NR、IR、及びSBRからなる群より選択される少なくとも二種のゴムを含む例がさらに好ましい。樹脂を含まずにゴムのみを主成分として含有するポリマー材料を用いると、後述する相構造解析方法において、温度(T2)を20℃以上30℃以下という温度範囲に設定することができるとともに、前記温度範囲において凹凸面における高低差を観察することによっても、精度よく相構造解析をすることができる。特に、BRとNRとを含有するポリマー材料、BRとSBRとを含有するポリマー材料、又はNRとSBRとを含有するポリマー材料は、それぞれのポリマー材料に含有されるゴム同士のTgの差が大きく、ポリマー材料で塊状物を形成した場合にその塊状物の表面に形成される凹凸面の高低差を十分に生じさせることができる。
【0018】
複数のポリマーのうち、いずれか一種のポリマーのガラス転移温度と、他の一種のポリマーのTgとの差は、20℃以上であることが望ましく、25℃以上であることがさらに望ましい。言い換えると、ポリマー材料に含有される複数のポリマーから任意に2種類のポリマーを選択し、選択した2種類のポリマーにおけるTg同士の差が、20℃以上であることが望ましく、25℃以上であることがさらに望ましい。前記Tg差が20℃以上であると、後述する、ポリマー材料の製造過程において、塊状物にした場合におけるその平滑面に形成される凹凸面の高低差が顕著になるので構造を容易に解析することができる。また、前記Tg差が25℃以上であると、ポリマー材料の塊状物における凹凸面の高低差をさらに顕著にすることができる。Tg差の上限値は特に制限されないが、例えば、Tg差は150℃以下程度であればよい。
【0019】
ポリマー材料の塊状物における凹凸面において、突出高さの最も大きい凸部の突出高さと、突出高さの最も小さい凸部の突出高さとの差が、30nm以上200nm以下であると、凹凸面と平滑面とを区別することができる。さらに具体的には、後述する相構造解析方法において、凹凸面の高低差を観察することによって精度よく相構造の解析を行うことができるように、前記高低差は50nm以上200nm以下であることが望ましく、80nm以上200nm以下であることがより望ましい。
【0020】
次に、本発明の相構造解析方法、及び相構造解析方法に用いられるポリマー材料の製造方法、特にポリマー材料の塊状物の製造方法、特にポリマー材料からなるシート状物の製造方法について説明する。
【0021】
最初に、2種類以上のポリマーを含有するポリマー材料の塊状物を製造する。なお、この塊状物の製造に供されるポリマー材料を、説明の便宜上、粗ポリマー材料と称することがある。例えば、2種類以上のポリマーを適宜の割合で混練し、必要に応じて適量の添加物等を加えた後に、成形することによって、ポリマー材料の塊状物を製造することができる。成形過程で用いられる金型等の形状に応じて、様々な形状の粗ポリマー材料の塊状物を製造することができる。ポリマー材料の塊状物の形状は特に制限されないが、シート状であることが好ましい。ポリマー材料の塊状物がシート状であると、平滑面を形成する操作を行いやすい。
【0022】
次に、ポリマー材料に含有される複数のポリマーのうち最も低いTgよりも低い温度(T1)にポリマー材料の塊状物、特にシート状物を冷却する。温度(T1)の条件下では、ポリマー材料に含有される全てのポリマーがガラス状態にあって柔軟性を欠いた状態となる。次に、温度(T1)の条件下で、ポリマー材料の塊状物に平滑面を形成する。具体的には、ポリマー材料の塊状物を、ミクロトーム、ナイフ、ハサミ、カッター、かみそり刃、又はピンセット等によって切り出すことによって、平滑面を形成することができる。特に、ミクロトームを用いると、均質な平滑面を形成することができる。平滑面には微小な凹凸があってもよい。例えば、平滑面において最も突出している凸部の頂点と、平滑面において最も窪んでいる凹部の底部との高さの差が、約10nm以上20nm以下である凹凸が平滑面に存在していてもよい。もっとも、切り出された平滑面を前記温度(T1)以下の温度条件下で観察すると、その平滑面にはガラス転移温度(Tg)に応じた凹凸が形成されていない。
【0023】
さらに、平滑面が形成されたポリマー材料の塊状物を、前記温度(T1)から温度(T2)にまで昇温させる。温度(T2)は、ポリマー材料に含有されるポリマーにおける最も高いガラス転移温度よりも高い温度であればよい。温度(T2)は、室温に近い温度であることが好ましく、より具体的には20℃以上30℃以下であることが好ましい。温度(T2)が20℃以上30℃以下であると、温度(T1)から温度(T2)まで昇温させる際に、加熱用装置を用いる必要がなく、温度(T1)のポリマー材料の塊状物を室温下に放置しておくだけで、ポリマー材料を温度(T2)まで昇温させることができるので、昇温操作が簡単である。尚、ポリマー材料を温度(T1)から温度(T2)にまで昇温させるのに、加熱用装置を用いて強制的に昇温させてもよい。
【0024】
ポリマー材料の塊状物を温度(T1)から昇温させていくと、最もTgの低いポリマー1が、最初にガラス状態からゴム状態へと状態変化する。ゴム状態になったポリマー1は、依然としてガラス状態のままである他のポリマーに比べて流動性が高く、昇温の過程で膨張する。
引き続いてポリマー材料の塊状物を昇温させていくと、ポリマー1の次にTgの低いポリマー2が、ポリマー1の次にガラス状態からゴム状態へと状態変化する。このように、ポリマー材料の塊状物を温度(T1)から温度(T2)まで昇温させる過程で、Tgの低いポリマーから順番に、ゴム状態へと状態変化する。よって、Tgの低いポリマーほど、ゴム状態として昇温される時間が長くなり、昇温過程で膨張する程度が大きくなる。また、各ポリマーが膨張するにしたがって、温度(T1)の条件下で形成された平滑面から各ポリマーが突出する。Tgの低いポリマーほど、昇温過程で膨張する程度が大きいので、平滑面からポリマーが突出する高さが大きくなる。よって、温度(T1)から温度(T2)まで昇温されるに伴い、各ポリマーのガラス転移温度(Tg)に応じた凹凸面がポリマー材料の塊状物の平滑面に新たに形成される。
【0025】
ポリマー材料で形成された塊状物、特にシート状物の平面に生じた凹凸面における高低差が観察されることによって、ポリマー材料の相構造解析がなされる。具体的には、凹凸面において最も突出した凸部1には最もTgの低いポリマー1が配置され、凹凸面において凸部1の次に突出した凸部2にはポリマー1の次にTgの低いポリマー2が配置され、凹凸面において最も突出度が小さい凸部nにはポリマー材料に含有されるポリマーのうち最もTgの高いポリマーnが配置されていると解析される。凹凸面における高低差は、室温又は室温に近い温度、具体的には20℃以上30℃以下の条件で観察されることが望ましい。このような温度条件で観察すると、温度調節器等を用いてポリマー材料の温度制御をする必要がなく、観察操作が簡便である。特に、樹脂を含まずにゴムを主成分として有するポリマー材料は、20℃以上30℃以下の条件で、精度よく相構造解析を行うことができる。
【0026】
より具体的に、
図1に示されるポリマー材料の例を用いて、凹凸面の形成過程を説明する。
図1(a)のように、温度(T1)の条件下でポリマー材料11の塊状物に平滑面12を形成させる。ポリマー材料11は、異なるTgを有する4種類のポリマーを有し、領域13にはポリマーAが配され、領域14にはポリマーBが配され、領域15にはポリマーCが配され、領域16にはポリマーDが配されている。また、ポリマーAのガラス転移温度Tg
Aと、ポリマーBのガラス転移温度Tg
Bと、ポリマーCのガラス転移温度Tg
Cと、ポリマーDのガラス転移温度Tg
Dとは、Tg
B<Tg
A<Tg
D<Tg
Cという関係にある。温度(T1)の条件にあるポリマー材料11を温度(T2)に昇温させることによって、
図1(b)に示されるようなポリマー材料21が形成される。ポリマー材料21においては、領域13〜16は、ポリマー材料21における平滑面に対応する面22から突出する。領域13は凸部23を形成し、領域14は凸部24を形成し、領域15は凸部25を形成し、領域16は凸部26を形成する。
【0027】
図1(b)において、最もガラス転移温度の低いポリマーBが含まれる領域14が最も突出し、2番目にガラス転移温度の低いポリマーAが含まれる領域13が2番目に突出し、3番目にガラス転移温度の低いポリマーDが含まれる領域16が3番目に突出し、最もガラス転移温度の高いポリマーCが含まれる領域15が最も突出度が小さい。言い換えると、凸部24の突出高さH4が最も大きく、凸部23の突出高さH3が2番目に大きく、凸部25の突出高さH6が3番目に大きく、凸部26の突出高さH5が4番目に大きい。
図1(b)において、突出高さH3〜H6は、それぞれ、平滑面に対応する面22から凸部23〜26の頂点に引いた垂線の長さを求めることによって求められる。突出高さH3〜H6の求め方は、この方法に限定されるものではなく、平滑面に対応する面22と平行な面から、凸部23〜26の先端部に引いた垂線の長さを求めることによっても、H3〜6を求めてもよい。なお、凹凸面27において、最も突出高さの低い凹部25は、他の凸部23、24、及び26と比較して一段低い凹部のように観察される。
【0028】
凹凸面における高低差の観察は、凹凸面の表面形状像を得ることができる装置によって測定される。例えば、走査型プローブ顕微鏡(以下、「SPM」と称することがある。)、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と称することがある。)、光学顕微鏡、レーザー顕微鏡等を用いることによって、凹凸面の表面形状像を得ることができる。特に、SPM又はSEMは、ナノメートルオーダーの分解能を有しており、観察対象物の表面の高さを測定することができるので、SPM又はSEMを用いて凹凸面における高低差の観察を行うことが特に好ましい。
【0029】
次に、本発明の作用について説明する。
【0030】
まず、異なるガラス転移温度を有するn種類のポリマーが混合されたポリマー材料において、各ポリマーが均一に分布しているか否かを確認したいことがある。まず、ポリマー材料の塊状物を温度(T1)まで冷却し、温度(T1)の条件下でミクロトームを用いてポリマー材料の塊状物に平滑面を形成させる。その後、ポリマー材料の塊状物を温度(T2)まで昇温させる過程で、平滑面から凹凸面が形成される。凹凸面においては、最も突出高さの大きい領域にTgが最も小さいポリマーが存在し、2番目に突出高さの大きい領域にTgが2番目に小さいポリマーが存在し、n番目に突出高さの大きい領域にTgがn番目に小さいポリマーが存在する。よって、凹凸面における高低差を観察し、突出高さの順番を認識することによって、ポリマー材料における各種ポリマーの分布を認識することができ、言い換えるとポリマー材料の相構造を解析することができる。
【0031】
本発明に係るポリマー材料の相構造解析方法においては、凹凸面の観察をする前に、ポリマー材料を染色する必要がない。よって、簡便な操作によって相構造を解析することができる。さらに、温度(T2)まで昇温させた後、室温に近い温度でポリマー材料の塊状物に形成された凹凸面を観察すればよいので、観察時に温度制御をする必要がなく、操作が簡便である。
【0032】
また、本発明に係るポリマー材料の塊状物、特にシート状物においては、凹凸面が形成されている。このような凹凸面は、ポリマー材料の塊状物特にシート状物同士を重畳乃至積層させると、例えば、複数のシート状物をタイヤのゴム層として積層させると、一方の凹凸面と他方の凹凸面とが摩擦力を及ぼしあうことによって、一方の塊状物、特にシート状物と他方の塊状物特にシート状物とが、剥離したり位置ずれを起こしたりすることを防止することができる。本発明のポリマー材料における凹凸面は、ポリマーのTgの順番に応じた突出高さを有するように、高度に制御されたものであるから、本発明のポリマー材料で形成された塊状物、特にシート状物同士を積層した際に、凹凸面における摩擦力をより有効に及ぼすことができる。よって、本発明のポリマー材料で形成された塊状物特にシート状物は、密着性、接着性に優れている。
【0033】
以下、実施例及び比較例について説明する。本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0034】
(実施例1)
(ポリマー材料の塊状物の作製)
6インチロールを用いて、BR(宇部興産(株)製、UBEPOLBER150L、Tg:約−100℃)66質量部と、RSS3号グレードのNR(Tg:約−70℃)を素練りして得られたゴム33質量部とを、混練し、亜鉛華を3質量部、ステアリン酸を2質量部、老化防止剤(大内新興化学工業(株)製、ノクラック6c)を1質量部、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製、ノクセラーNS)を1質量部、及び硫黄を1.5質量部添加し、配合物を作製した。この配合物を160℃でプレスすることにより、2mmの厚みを有するシート状のポリマー材料の塊状物を作製した。
【0035】
(観察用ポリマー材料の作製)
前記ポリマー材料の塊状物を2mm角に切り取り、ミクロトーム切削用の試料台にエポキシ系接着剤で固定した。次いで、−120℃まで冷却し、ウルトラミクロトームを用いて表面100nm程度の厚みの切片を切削することによって、平滑面を作成した。その後、ポリマー材料の塊状物を室温まで戻した後、ポリマー材料を試料台から接着剤ごとカッターを用いて切り剥がした。次いでSPMによる観察用の試料台として、1cm角程度の大きさであるシリコーンウエハーを準備した。SPMによる観察の妨げとなるポリマー材料表面における帯電を防止するために銀ペースト(藤倉化成(株)製、ドータイト)を接着剤として用いて、シリコーンウエハー上に、室温に戻した後のポリマー材料を接着、固定させた。
【0036】
(凹凸面における高低差の観察)
SPMの一例であるDigital Instruments製NanoScopeIIIaを用いて、ポリマー材料の凹凸面を観察した。具体的に、カンチレバーはオリンパス(株)製のマイクロカンチレバーであるOMCL−AC160TS−W2を使用した。ばね定数は40N/mに設定し、動作周波数は300kHzに設定した。ポリマー材料を固定したマイクロウエハーを測定部に粘着テープで固定し、測定モードをタッピングモードにした。また、観察は25℃程度の室温条件下で行った。観察によって得られた凹凸面の表面形状像を
図2に示す。
【0037】
(実施例2)
ポリマー材料の塊状物の作製過程において、BRを50質量部使用し、NRを50質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマー材料の塊状物の作製、観察用ポリマー材料の作製、及び凹凸面における高低差の観察を行った。得られた凹凸面の表面形状像を
図3に示す。
【0038】
(実施例3)
ポリマー材料の塊状物の作製過程において、SBR(JSR(株)製、乳化重合スチレンブタジエンゴム JSR 1500、Tg:約−50℃)を40質量部使用し、NRを60質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマー材料の塊状物の作製、観察用ポリマー材料の作製、及び凹凸面における高低差の観察を行った。得られた凹凸面の表面形状像を
図4に示す。
【0039】
(比較例1)
実施例1と同様の方法によって作製したポリマー材料の塊状物を、25℃程度の室温条件下においてかみそり刃を用いて切削し、実施例1と同様の方法を用いて切削面のSPMによる観察を25℃程度の室温条件下で行った。得られた切削面の表面形状像を
図5に示す。
【0040】
(比較例2)
ポリマー材料の塊状物の作製過程において、BRのみを100質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマー材料の塊状物の作製、観察用ポリマー材料の作製、及び凹凸面における高低差の観察を行った。得られた凹凸面の表面形状像を
図6に示す。
【0041】
図2、
図3および
図4に示される表面形状像において、明るい色の部分はポリマーの突出の程度が大きく、暗い色の部分はポリマーの突出の程度が小さいことを示す。また、BRの含有率が大きい実施例1の結果を示す
図2は、BRの含有率が小さい実施例2の結果を示す
図3よりも、明るい色の面積が大きい。よって、実施例1及び2では、形状像における明部にはTgの低いBRが分布し、形状像における暗部にはTgの高いNRが分布していると解析することができる。
図4では、明るい色の面積のほうが暗い色の面積よりも大きい。よって実施例3では、形状像における明部にはTgが低く含有率の大きいNRが分布し、形状像における暗部にはTgが高く含有率の小さいSBRが分布していると解析することが出来る。
一方で、
図5においては、200nm以上の非常に大きい高低差を有する段差が、一定の周期で繰り返すような像が観察された。室温において、BR及びNRはともにゴム状態であって柔らかいので、ポリマー材料を切削する際に切削面を均一にかつ平滑に切り出すことが難しいという問題がある。よって、
図3において明るい色の箇所と暗い色の箇所とは、切削操作によって生じた段差を示しているにすぎず、BRとNRとの分布を示しているわけではない。
また、
図6においては、亜鉛華粒子と思われる突起物が一部見られるが、それ以外のBR部分については最大でも15nm程度の高低差しかない、非常に平滑な面であった。つまり、比較例2のように1種類のポリマーを備えるポリマー材料では、
図2及び
図3のような凹凸構造を形成することはない。
【符号の説明】
【0042】
11、21 ポリマー材料
12 平滑面
13〜16 領域
22 平滑面に対応する面
23〜26 凸部
27 凹凸面
H3〜H6 突出高さ