特許第6641750号(P6641750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641750
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/19 20160101AFI20200127BHJP
   F02M 35/10 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   F02M26/19 311
   F02M35/10 311E
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-140983(P2015-140983)
(22)【出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2017-20473(P2017-20473A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】野中 一成
(72)【発明者】
【氏名】田中 大
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】土橋 優貴
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−156122(JP,U)
【文献】 特開2008−128084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/19
F02M 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートの気筒側の開口部を開閉する吸気弁と、
排気ポートの気筒側の開口部を開閉する排気弁と、
前記吸気ポート内に燃料を噴射する燃料噴射口と、
前記吸気弁の開放に際し、前記吸気弁の傘部裏面及び前記排気弁の傘部表面に沿った方
向に向かって前記吸気ポート内で気体を噴射する気体噴射口とを備え、
前記気体噴射口が、前記吸気弁の閉弁時に前記吸気弁のステム基端部が位置する前記吸気ポートの気筒側の開口部中心に向かって前記気体を噴射し、
前記燃料噴射口が、前記吸気弁の閉弁時に前記吸気弁のステム基端部が位置する前記吸気ポートの気筒側の開口部中心に向かって前記燃料を噴射する
ことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記気体噴射口が、前記気筒内に向かって下向きに前記気体を噴射する
ことを特徴とする請求項1記載のエンジン。
【請求項3】
前記気体噴射口が、前記吸気ポートの中心線よりも下方の壁面に設けられる
ことを特徴とする請求項1又は2記載のエンジン。
【請求項4】
前記気体噴射口が、前記吸気弁の閉鎖状態における前記傘部裏面に隣接して配置される
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のエンジン。
【請求項5】
前記気体噴射口が、前記燃料噴射口よりも下流側に配置される
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジン。
【請求項6】
前記気体噴射口が、前記吸気ポートの中心線を挟んで前記燃料噴射口に対向する壁面に
設けられる
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気の一部を吸気系に導入するEGRシステムを備えたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるエンジンの排気ガスを排気系から吸気系へと再循環させることで、燃費や環境性能を改善するEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムが知られている。すなわち、排気通路と吸気通路との間をEGR通路で接続し、排気ガスの一部をEGRガスとして、再び気筒内へと導入するものである。近年、このようなEGRシステムにおいて、EGR通路の出口を吸気ポートに設定したものが開発されている。気筒内に吸入される直前の吸気流にEGRガスを供給することで、新気及び燃料混合気とEGRガスとが層状に分離したまま気筒内へと導入されやすくなり、気筒内での燃焼状態が安定化しうる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-121366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸気ポート内には吸気弁の開閉による圧力脈動が生じているため、燃料噴射のタイミング及びEGRガスが導入されるタイミングによっては、EGRガスと燃料とを十分に分離しておくことが難しい。例えば、吸気弁が閉鎖されている排気行程に燃料噴射を実施した場合、気化燃料が吸気ポート内に滞留した状態となる。その後、吸気行程で吸気弁が開放されると、吸気ポート内の圧力が低下して新気及びEGRガスが吸気ポート内へと流入する。
【0005】
このとき、吸気ポート内に滞留した気化燃料とEGRガスとが混合しながら気筒内へと導入されてしまう。これにより、燃料及び新気が混合した混合気とEGRガスとの成層状態を形成しにくくなり、気筒内での燃焼状態が不安定になる場合がある。一方、吸気行程で燃料噴射をしたとしても、新気はEGRガスよりも遅れて吸気ポート内へと流入するため、燃料噴霧とEGRガスとの混合を回避することは難しい。なお、このような課題は、EGRガスの代わりに空気(新気)を吸気ポート内に噴射した場合にも生じうる。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、燃料と気体との混合を抑制し、気筒内での燃焼状態を改善したエンジンを提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示するエンジンは、吸気ポートの気筒側の開口部を開閉する吸気弁と、排気ポートの気筒側の開口部を開閉する排気弁と、前記吸気ポート内に燃料を噴射する燃料噴射口とを備える。また、前記吸気弁の開放に際し、前記吸気弁の傘部裏面及び前記排気弁の傘部表面に沿った方向に向かって前記吸気ポート内で気体を噴射する気体噴射口を備える。前記気体噴射口は、前記吸気弁の閉弁時に前記吸気弁のステム基端部が位置する前記吸気ポートの気筒側の開口部中心に向かって前記気体を噴射する。前記燃料噴射口は、前記吸気弁の閉弁時に前記吸気弁のステム基端部が位置する前記吸気ポートの気筒側の開口部中心に向かって前記燃料を噴射する。なお、前記気体噴射口から噴射される気体には、EGRガスや空気(新気)などが含まれる。
【0008】
(2)前記気体噴射口が、前記気筒内に向かって下向きに前記気体を噴射することが好ましい。ここでいう「下向き」とは、前記気筒の筒軸が延在する方向のうち、前記エンジンのピストンが位置する側(前記吸気弁及び前記排気弁が位置する側とは反対側)を向いていることを意味する。
(3)前記気体噴射口が、前記吸気ポートの中心線よりも下方の壁面に設けられることが好ましい。
【0009】
(4)前記気体噴射口が、前記吸気弁の閉鎖状態における前記傘部裏面に隣接して配置されることが好ましい
【0010】
)前記気体噴射口が、前記燃料噴射口よりも下流側に配置されることが好ましい。 ここでいう「下流側」とは、前記吸気ポートの中心線を基準として、前記開口部に近い側にあることを意味する。例えば、前記気体噴射口から前記中心線へ延ばした垂線の足の位置と、前記燃料噴射口から前記中心線へ延ばした垂線の足の位置とを比較し、前者が後者よりも前記開口部に近い側にある場合に、前記気体噴射口が前記燃料噴射口よりも下流側に配置されているものとする。
【0011】
)前記気体噴射口が、前記吸気ポートの中心線を挟んで前記燃料噴射口に対向する壁面に設けられることが好ましい。
この場合、前記気体噴射口が前記吸気ポートの屈曲箇所における外側の壁面に配置され、前記気体の噴射方向が前記吸気ポートの外側の壁面に沿った方向とされることが好ましい。一方、前記燃料噴射口は、前記吸気ポートの屈曲箇所における外側もしくは内側の壁面に配置されることが好ましい。前記燃料噴射口からの燃料噴射方向は、前記外側の壁面に沿って流れている前記気体に向かう方向とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
開示のエンジンによれば、燃料(あるいは燃料と空気との混合気)と気体噴射口から噴射される気体(例えばEGRガス)との混合を抑制することができ、気筒内での燃焼状態を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態としてのエンジンの構造を示す模式的な断面図である。
図2】エンジンの気筒上面図である。
図3】排気流の流通状態を模式的に示す斜視図である。
図4】(A)はバルブリフト、(B)はバルブ開放加速度を示すグラフである。
図5】エンジン(吸気行程初期)の模式的な断面図である。
図6】エンジン(燃料噴射時)の模式的な断面図である。
図7】エンジン(吸気行程中期)の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、実施形態としてのエンジンについて説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。なお、以下の説明では、気筒の中心軸が鉛直となるようにエンジンを配置した状態(吸気ポート及び排気ポートが上方に位置する状態)を基準として各部の上下方向が定められるものとする。
【0015】
[1.構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジン20を図1に示す。このエンジン20は、排気の一部をシリンダヘッド21の吸気ポート1内に循環させるEGRシステム(排気再循環システム)を備えたガソリンエンジンである。エンジン20の気筒23の頂面形状は、吸気ポート1が接続される傾斜面と排気ポート3が接続される傾斜面とを三角屋根状に付き合わせてなるペントルーフ型(切妻屋根型)である。この頂面において、吸気ポート1に繋がる開口部2には吸気弁10が設けられ、排気ポート3に繋がる開口部4には排気弁15が設けられる。これらの開口部2,4,吸気弁10,排気弁15は、各気筒23においてそれぞれが二個ずつ設けられる。図2に示すように、吸気ポート1は、一本の通路を二つの開口部2に向かって分岐させたサイアミーズ形状を有する。同様に、排気ポート3も、二つの開口部4に接続された通路を一本に合流させたサイアミーズ形状を有する。また、吸気に関しては気筒23に対して、開口部2,吸気弁10が各一個ずつであってもよく、吸気ポート1,排気ポート3がサイアミーズ形状を有していなくてもよい。
【0016】
吸気ポート1には、EGR通路の一つである排気戻り通路5が接続されるとともに、インジェクタ7が設けられる。ここで、吸気ポート1に向かって開放されている排気戻り通路5の端部開口のことを排気還流口6と呼ぶ。また、インジェクタ7の噴孔のことを燃料噴射口8と呼ぶ。排気戻り通路5の上流側は、エンジン20の排気通路に接続される。また、インジェクタ7の上流側は、燃料供給配管に接続される。
【0017】
[1−2.排気還流口]
排気還流口6は、EGRガスや空気(外気)などの気体を吸気ポート1内で噴射する気体噴射口の一例であって、排気戻り通路5内を通過した排気(EGRガス)を、吸気ポート1内で開口部2に向かう排気流として噴射する機能を持つ。本実施形態の排気還流口6は、排気の一部を加圧せずに吸気ポート1内へと導入するEGR通路の端部開口である。なお、排気の一部を加圧して吸気ポート1内へと導入するEGRシステムが設けられている場合には、加圧された排気が流通するEGR通路の端部開口を排気還流口6として機能させてもよい。また、排気以外の気体を吸気ポート1内に噴射することとしてもよい。
【0018】
排気還流口6から噴射される排気流の形状は、おおむね排気還流口6から開口部2へと至る経路に沿った、拡がり角の小さい円錐または扇状とされる。排気還流口6から噴射される排気流の流量は、排気圧や吸気圧(吸気ポート1の内部圧力)に応じて変動する。また、排気戻り通路5に流量制御弁(EGRバルブ)や加圧減圧装置が設けられている場合には、流量制御弁の開度や排気戻り通路5内の圧力に応じて変動する。
【0019】
排気還流口6の位置は、縦断面で吸気ポート1の中心線よりも下側の内壁面に設定され、吸気弁10の閉鎖状態における傘部裏面13に隣接して配置される。すなわち、排気還流口6は、吸気ポート1の屈曲箇所における内周側の壁面に設けられる。図1に示す例では、吸気ポート1の壁面近傍に排気還流口6が設けられているが、排気戻り通路5を吸気ポート1の内側(中心線の近傍)まで延長し、吸気ポート1の壁面からやや離れた位置に排気還流口6を配置してもよい。また、図2に示すように、排気還流口6は各気筒23において二つの開口部2のそれぞれに対して一つずつ、あるいは二つの開口部2に対して一つ設けられる。
【0020】
排気流の噴射方向は、開放状態の吸気弁10における傘部裏面13と、閉鎖状態の排気弁15における傘部表面19とに沿った方向に設定される。すなわち、吸気弁10が開放されたときに、排気流が吸気弁10の傘部裏面13に沿って流通しながら気筒23内へと導入され、かつ、気筒23内の頂面近傍において排気弁15の傘部表面19に沿って流通するように、排気流の噴射方向が設定される。これにより、排気流が噴射されている間は、吸気弁10の傘部裏面13と排気弁15の傘部表面19とが排気流によってカーテン状に被覆された状態となり、インジェクタ7から噴射された燃料の付着が抑制される。
【0021】
また、排気流の噴射方向は、少なくとも気筒23内に向かう下向きに設定される。すなわち、気筒23の筒軸に対して垂直な平面(例えば、シリンダブロック22の頂面やシリンダヘッド21の底面)を水平に配置したときに、排気戻り通路5が排気還流口6に向かって下り勾配となるように形成される。これにより、排気還流口6から噴射された排気流が気筒23内に向かって流入しやすくなるとともに、排気弁15の傘部表面19に沿って流通しやすくなる。
【0022】
また、エンジン20の上面視における排気流の噴射方向は、図2に示すように、少なくとも排気弁15によって閉塞されている開口部4を通過するような方向に設定される。本実施形態の排気流の噴射方向は、ペントルーフ形状の稜線に対してほぼ垂直な方向であって、排気還流口6から開口部2,4のほぼ中心に向かう方向とされる。つまり、排気流は吸気弁10のステム11に向かって噴射される。したがって、吸気ポート1の屈曲箇所における外側の壁面に沿って噴射された排気流は、図3に示すように、吸気弁10のステム11に衝突し、吸気弁10の傘部裏面13に沿って流通する。このとき、排気流の一部は、ステム11から離間する方向へと拡散しながら流通する。また、排気流の他部は、ステム11の周面に沿ってその下流側まで直進する。これらの排気流は、吸気弁10の傘部12と開口部2との隙間から気筒23内へと導入される。
【0023】
[1−3.燃料噴射口]
燃料噴射口8は、エンジン20の吸気行程で燃料を吸気ポート1内に噴射する機能を持つ。燃料は、排気流が形成されている吸気ポート1内に噴射される。燃料噴射口8から噴射される燃料噴射量は、燃料噴射口8に供給される燃料の圧力(燃圧)や燃料噴射口8の開弁時間に応じて変動する。
燃料噴射口8の位置は、排気還流口6よりも上流側であって、縦断面で吸気ポート1の中心線よりも上側の内壁面に設定される。燃料は、表面が排気流によってカバーされた吸気弁10の傘部裏面13に向かって、吸気ポート1の上流側から噴射される。これにより、吸気弁10の傘部裏面13に対する燃料の付着が抑制される。
【0024】
ここでいう上流側とは、図1に示すように、吸気ポート1の中心線を基準として開口部2までの距離が遠い位置であることを意味する。例えば、排気還流口6から吸気ポート1の中心線に垂線を下ろし、その垂線の足を点Aとする。一方、燃料噴射口8から吸気ポート1の中心線に垂線を下ろし、その垂線の足を点Bとする。点Bは、点Aよりも開口部2から離れた位置に配置される。また、エンジン20の上面視における燃料噴射口8の位置は、図2に示すように、吸気ポート1が二つの開口部2に向かって分岐する位置よりも上流側であって、吸気ポート1のほぼ中心に配置される。
【0025】
燃料の噴射方向は、図1に示すように、排気還流口6から噴射される排気流の噴射方向に沿った方向とされる。ここでいう「排気流に沿った方向」には、排気流の流通方向に対して平行な方向が含まれる。本実施形態では、排気流の流通方向とのなす角度がおよそ-45°〜45°の範囲内にある燃料の噴射方向を「排気流に沿った方向」とする。また、エンジン20の上面視における燃料噴射方向は、図2に示すように、二つの開口部2のそれぞれに対して、開口部2のほぼ中心(吸気弁10のステム11の基端部)に向かう二方向に設定される。また、燃料の噴射方向は、排気流の噴射方向に対して、吸気弁10の傘部12よりも上流側で交差するように設定される。これにより、一方の開口部2に引き込まれる排気流と他方の開口部2に引き込まれる排気流とのそれぞれに対して、燃料噴霧が供給され、表層に燃料と空気との混合気または燃料噴霧をまとった排気流が気筒23内へと導入される。
【0026】
[1−4.制御装置]
制御装置9は、少なくともエンジン20の燃料噴射系を制御する電子制御装置であり、CPU,MPUなどのプロセッサやROM,RAM,不揮発メモリなどを集積した電子デバイスである。プロセッサは、制御回路や演算回路,キャッシュメモリなどを内蔵する演算処理装置である。また、ROM,RAM及び不揮発メモリは、プログラムや作業中のデータが格納されるメモリ装置である。制御装置9での制御内容は、アプリケーションプログラムとしてROM,RAM,不揮発メモリ内に記録される。また、プログラムの実行時には、プログラムの内容がRAM内のメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0027】
制御装置9には、吸気カム25や排気カム26を駆動するカム軸の回転角(カム回転角)を検出するカム角センサ31と、エンジン20のクランク軸の回転角(クランク角)を検出するクランク角センサ32とが接続される。制御装置9は、カム回転角,クランク角に基づき、インジェクタ7の燃料噴射量,噴射タイミング,燃圧を制御する。
燃料噴射のタイミングは、少なくともエンジン20の吸気行程内であって、吸気弁10の開放中に設定される。好ましくは、吸気行程内において、吸気弁10の開放加速度に基づいて制御される。ここでは、吸気行程内(排気上死点以降)であって、少なくとも吸気弁10の開弁後に燃料噴射が実施される。つまり、排気還流口6から噴射された排気流が、開放された吸気弁10と吸気ポート1との隙間を通って気筒23内に導入されている状態で、燃料噴射が実施される。また、本実施形態では、エンジン20の吸気行程内であって、少なくとも吸気弁10が開弁してから所定時間が経過した後〔図4(A)中のθ2〜θ5区間内〕に燃料噴射が開始される。ここでいう所定時間は、吸気弁10の開放加速度に基づいて設定される。例えば、吸気行程で吸気弁10の開放加速度が正から負に変化するまでの時間が、所定時間として設定される。なお、吸気弁10が開弁してから所定時間が経過したあとであっても、ピストンが上昇中(上死点以前)であれば、燃焼室内の既燃ガス(排気ガス)が吸気ポート1に逆流してしまうため、ピストンが下降を始めた後(上死点以降)に燃料噴射を開始させることが好ましい。
【0028】
図4(A)中のクランク角θ1,θ3,θ5のそれぞれは、吸気弁10の開弁時点,最大開放時点,閉弁時点に対応する。また、クランク角θ2,θ4は、バルブリフトのグラフに変曲点を与えるクランク角である。バルブ開放加速度は、図4(B)に示すように、θ1〜θ2区間が正、θ2〜θ4区間が負、θ4〜θ5区間が再び正となる。制御装置9は、少なくとも排気上死点以降であって、クランク角θがθ1である時刻以降に、燃料噴射を開始する。これにより、吸気ポート1内での燃料と排気流との混合が抑制される。なお、燃料と排気流との混合をより確実に抑制するには、燃料噴射の開始タイミングをより遅角方向に移動させることが好ましい。本実施形態の制御装置9は、吸気行程で開放加速度が正から負に変化するまで(所定時間が経過するまで)は、燃料噴射口8からの燃料噴射を停止させる。これにより、吸気ポート1内の排気流が気筒23へ導入されつつある状態での燃料噴射が実施されることになるため、吸気ポート1内での燃料と排気流との混合が抑制される可能性が大幅に上昇する。
【0029】
燃料噴射が終了するタイミングは、トータルの燃料噴射量と燃圧とに応じて変化しうるが、吸気行程内で燃料噴射を終了させることが好ましい。このことから、燃圧はエンジン回転数又はエンジン負荷が高いほど上昇するように制御されることが好ましい。これにより、所望の燃料量を吸気行程内に噴射し尽くすことが容易となる。なお、吸気行程が開始されるタイミングや終了タイミングは任意に設定可能であり、θ1〜θ5区間に完全に一致させてもよいし、一致させなくてもよい。公知の可変バルブタイミング機構を用いることで、吸気行程をθ1〜θ5区間から進角方向又は遅角方向へとずらすことができる。
【0030】
[2.作用]
吸気弁10が開放されると、吸気ポート1の内部圧力が低下して負圧となり、排気戻り通路5を介して排気が排気還流口6から噴射される。このとき、燃料噴射は停止しているため、おもに排気流が吸気ポート1から気筒23へと流入する。排気流は、図5中に黒矢印で示すように、吸気弁10の傘部裏面13と開口部2との隙間を通って気筒23へと導入される。気筒23内では、排気流が排気弁15の傘部表面19を通過して、シリンダブロック22のシリンダライナ24近傍まで流通し、シリンダライナ24の表面に沿った旋回流を形成する。
【0031】
エンジン20の吸気行程で吸気弁10の開放加速度が正から負に変化すると、図6に示すように、燃料噴射口8から燃料が噴射される。燃料は、インテークマニホールド側から吸気ポート1内へと吸い込まれてくる外気流(図6中の白抜き矢印)と混合されながら、排気流とともに気筒23内へと導入される。このとき、吸気ポート1における旋回外側の表面が排気流によってカーテン状に被覆されているため、燃料が吸気ポート1の内壁面に付着しにくくなる。また、燃料噴射方向が排気流に沿った方向であることから、燃料あるいは混合気が排気流の内部に混入しにくくなり、排気流の表層に乗って気筒23内へと導入される。
【0032】
排気流の表層に纏われた状態の燃料は、図7に示すように、気筒23内においても排気流とともに旋回流に沿って搬送される。排気流が気筒23の外側(壁際)を伝って流通するのに対し、燃料噴霧及び燃料を含む混合気は気筒23の内側を流通するように分布する。このとき、気筒23の内側ほど燃料濃度が高く、外側ほど燃料濃度が低い成層状態が形成される。これにより、気筒23内におけるシリンダライナ24への燃料付着が抑制される。また、気筒23の内部で気化した燃料は、周りの空気やシリンダライナ24から気化潜熱を奪って筒内温度を低下させる。これにより、充填効率や体積効率が増大するとともに、エンジン20のノッキング耐性が向上する。
【0033】
[3.効果]
(1)上記のエンジン20では、排気流を吸気弁10の傘部裏面13及び排気弁15の傘部表面19に沿った方向に向かって噴射することで、燃料を吸気弁10の傘部裏面13に付着しにくくすることができる。これにより、燃料を気筒23の内部で気化させやすくすることができ、気化潜熱を気筒23の内部で奪うことができる。したがって、充填効率や体積効率を増大させることができ、エンジン20のノッキング耐性を向上させることができる。
また、燃料を排気流に乗せた状態で気筒23の内部へと導入することができ、燃料を排気弁15の傘部表面19やシリンダライナ24に付着しにくくすることができる。これにより、燃料と排気流との混合を抑制(又は回避)することができ、気筒23内における燃焼状態を改善することができる。
【0034】
また、吸気弁10が開弁してから所定時間が経過するまでの間は燃料噴射が停止するため、円錐状(扇状)の排気流を燃料に先行して気筒23内へと導入することができる。したがって、燃料と排気流との混合を抑制(又は回避)することができ、気筒23内における燃焼状態をより改善することができる。
さらに、所定時間が経過した吸気行程内に燃料を噴射することで、燃料を新気と混合させつつ、排気流の表層に乗せて気筒23内へと導入することができる。これにより、気筒23内における燃焼状態をさらに改善することができる。
【0035】
(2)上記のエンジン20では、図1に示すように、排気還流口6が気筒23内に向かって下向きに排気流を噴射するように設けられる。これにより、図3に示すように、吸気弁10の傘部裏面13を排気流で被覆することができ、吸気弁10への燃料付着を抑制することができる。また、排気還流口6から噴射された排気流をスムーズに気筒23内へと導入させることができ、かつ、排気弁15の傘部表面19に沿って流通させることができる。したがって、気筒23内における燃焼状態をさらに改善することができる。
【0036】
(3)上記のエンジン20では、排気還流口6が吸気ポート1の中心線よりも下方の内壁面に設けられる。これにより、図5図7に示すように、吸気弁10の傘部裏面13から排気弁15の傘部表面19に向かう気流を形成しやすくすることができ、燃料の筒内付着を抑制することができる。したがって、気筒23内における燃焼状態をさらに改善することができる。
【0037】
(4)上記のエンジン20では、排気還流口6が吸気弁10の閉鎖状態における傘部裏面13に隣接して配置される。これにより、吸気弁10の傘部裏面13に沿った気流を形成しやすくすることができ、吸気弁10への燃料付着を効率的に抑制することができる。また、排気流が吸気弁10の傘部裏面13に沿って流れることから、吸気弁10のバルブリフト量が比較的小さい状態であってもその排気流を気筒23内へと流入させることができる。したがって、燃料噴射が開始されるよりも前に、図5に示すような気筒23内の排気流を形成することができ、気筒23内における燃焼状態を改善することができる。
(5)上記のエンジン20では、図3に示すように、排気流が吸気弁10のステム11の基端部に向かって噴射される。これにより、吸気弁10の傘部裏面13の全体を排気流で被覆することができ、吸気弁10への燃料付着を抑制することができる。
【0038】
(6)上記のエンジン20では、排気還流口6から噴射される排気流の噴射方向に沿った方向へと燃料が噴射される。これにより、燃料噴霧を排気流の表層に纏わせやすくする(乗せやすくする)ことができ、燃料と排気流との混合を効率的に抑制することができる。したがって、気筒23内における燃焼状態をさらに改善することができる。また、燃料が排気流に沿って気筒23内を流動しやすくなることから、シリンダライナ24への燃料付着量を減少させることができる。
【0039】
(7)上記のエンジン20では、燃料噴射口8が排気還流口6よりも上流側に配置され、すなわち、排気還流口6が燃料噴射口8よりも下流側に配置される。これにより、排気流でカバーされた吸気ポート1の内壁面に向かって燃料を噴射することができる。したがって、燃料のポート付着量を減少させることができる。また、燃料の筒内直入率が上昇することから、気筒23内での吸気冷却効果を高めることができる。
【0040】
[4.変形例]
上述の実施形態では、EGRガスを吸気ポート1内で噴射する排気還流口6を備えたエンジン20を例示したが、これに加えて(あるいは代えて)空気(外気)を吸気ポート1内で噴射する気体噴射口を用いることも可能である。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0041】
なお、上述の実施形態で説明したエンジン20の構造は、マルチポート形式のガソリンエンジンに限らず、単ポートのガソリンエンジンやディーゼルエンジンに適用することも可能である。また、マルチポート形式のエンジンにおいて、サイアミーズ状ではなく、二つの開口部2にそれぞれ独立した吸気ポート1を備えたものに適用することも可能である。少なくとも、吸気ポート1に排気還流口6と燃料噴射口8とを備えた内燃機関であれば、上述の実施形態と同様の構造を適用することが可能であり、上述の実施形態と同様の効果を獲得することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 吸気ポート
2 開口部
3 排気ポート
4 開口部
5 排気戻り通路
6 排気還流口
7 インジェクタ
8 燃料噴射口
9 制御装置
10 吸気弁
15 排気弁
23 気筒
31 カム角センサ
32 クランク角センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7