特許第6641753号(P6641753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641753
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】ゲル組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 21/10 20160101AFI20200127BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20200127BHJP
   A23G 9/04 20060101ALI20200127BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20200127BHJP
   A23L 9/10 20160101ALI20200127BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   A23L21/10
   A23G3/34 101
   A23G9/04
   A23C9/123
   A23L9/10
   A23G3/34 107
   A61K47/36
   A61K9/06
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-142885(P2015-142885)
(22)【出願日】2015年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-36335(P2016-36335A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2018年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-160127(P2014-160127)
(32)【優先日】2014年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥平 玄
(72)【発明者】
【氏名】竹田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】唐木 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佳祐
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−534804(JP,A)
【文献】 特開平04−311356(JP,A)
【文献】 特開2006−265490(JP,A)
【文献】 特開平11−187829(JP,A)
【文献】 特表平10−504189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 21/00−21/15
A23L 9/00−9/20
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ハイアミロースコーンスターチ、及び(b)カラギーナン及びグルコマンナンからなる群から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤を含有することを特徴とするゲル組成物。
【請求項2】
ゲル組成物が、食品又は経口医薬品である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
食品が、ゼリー、グミ、アイスクリーム、プリン、ムース、ババロア、ヨーグルト、水ようかん、杏仁豆腐又はジャムである請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
経口医薬品がゼリー剤である請求項2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル組成物に関し、果肉感を付与し、また、経時的な離水を抑制した組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンや寒天、カラギーナン等のゲル化剤を含有するゼリーのような形態は、優れた服用性から嚥下能力が低下した老人、病人用製剤に、着色や風味付けが容易なことから小児向けの製剤に、また、水なしで服用できる利点を活かした携帯用の製剤などに適用できることなどから、近年、食品、サプリメント、医薬品等、幅広い分野で注目されている製剤である。ゼリーの嗜好性を高めるため、果肉などを添加し食感を付与したものが多く知られるが、果肉などを添加せずに果肉感を付与する方法も報告されている(特許文献1)。
一方、ゲル化剤を配合したゲル組成物は、冷蔵もしくは常温保存中に経時的に水を放出する「離水」が生じるため、食感や外観が著しく低下するという課題がある。
このような組成物の離水による品質低下を抑制するために、従来、ゲル化剤の増量や、イオタカラギーナン、ローカストビーンガム等の併用により離水防止効果を発揮することが知られているゲル化剤の併用、保水効果を有するトレハロース等の添加剤の配合等が行われている(特許文献2〜3)。また、ゲル化剤の種類によっては塩の添加なども行われている(特許文献4)。しかしながら、このようないずれの方法によっても離水を十分に抑制することは難しく、ゲル強度が増加し食感が損なわれる等の課題が生じてしまうのが現状である。
【0003】
ハイアミロースコーンスターチは、消化されにくいアミロースを豊富に含むハイアミロースコーンという品種のトウモロコシから作られたコーンスターチであり、オーストラリアにおいて、古典的育種法によって品種改良されたnon―GMOの品種である。一般的にコーンスターチは、アミロースとアミロペクチンから成るが、ハイアミロースコーンスターチはその名の通りアミロース含量が高く、アミロースを50〜90%以上含有する。コーンスターチは水とともに加熱すると水を吸収、膨張して糊状の物質に変化する「糊化」を起こすが、でんぷんの糊化特性はアミロースとアミロペクチンの比率によって大きく異なる。アミロペクチンが豊富に含まれる一般的なコーンスターチやアミロペクチンを100%含有するワキシーコーンスターチは低濃度、低温度でも糊化しやすいため、通常のコーンスターチはブラマンジェ等のゲル状組成物の成型に用いられることがあるが、ハイアミロースコーンスターチにはそのような用途は知られておらず、糊化しづらい特性からフライ食品やクッキー、パン等の食感改良に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3101524号公報
【特許文献2】特開2008−99640号公報
【特許文献3】特許第4819300号
【特許文献4】特開2008−1655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、果肉感を付与し、また、経時的な離水を抑制したゲル組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ゲル組成物にハイアミロースコーンスターチを配合すると、すりおろした果肉を入れたような食感(すりおろし感)を付与でき、また、経時的な離水を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ハイアミロースコーンスターチを含有することを特徴とするゲル組成物、
(2)ゲル組成物が、食品又は経口医薬品である(1)に記載の組成物、
(3)食品が、ゼリー、グミ、アイスクリーム、プリン、ムース、ババロア、ヨーグルト、水ようかん、杏仁豆腐又はジャムである(2)記載の組成物、
(4)経口医薬品がゼリー剤である(2)に記載の組成物、
(5)カラギーナン、グルコマンナン、ゼラチン、寒天、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチンからなる群から選ばれる少なくとも1種のゲル化剤を含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、すりおろした果肉を入れたような特有の果肉感(すりおろし感)を有し、また、離水を抑制したゲル組成物を提供することが可能となった。本発明に係る組成物は、嗜好性が高く、ゲル組成物の本来の食感を損なうことなく、良好な品質を保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のハイアミロースコーンスターチの配合量は、発明の効果の点から本発明の組成物全体に対して0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは1.0〜15.0質量%である。
【0010】
本発明のゲル組成物とは、多量の水分を含むが自重では流されず、形を保っているものであって、ゲル化剤によって調製されたものをいう。好ましい形態としては、ゼリー、グミ、アイスクリーム、プリン、ムース、ババロア、ヨーグルト、水ようかん、杏仁豆腐、ジャムが挙げられ、好ましくはゼリー、グミ、アイスクリーム、プリン、ババロアであり、この中でもゼリーが最も好ましい。
【0011】
本発明のゲル組成物は、食品(飲食品、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品、機能性食品、健康補助食品(サプリメント)を含む)、外用又は経口用の医薬品、医薬部外品など幅広く利用することができる。
【0012】
本発明のゲル化剤としては、増粘多糖類が好ましい。例えばカラギーナン(ι、λ、κ)、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、グルコマンナン等が挙げられるが、発明の効果の点から、ゼラチン、寒天、カラギーナン、グルコマンナンが好ましく、更に好ましくはゼラチン、寒天、カラギーナン、グルコマンナンの中から2種以上を組み合わせて配合するのが好ましい。本発明において、ゲル化剤の含有量は、対象とする組成物の形態、ゲル化剤の種類、含まれる水分含量等によって適宜調製可能であるが、本発明の組成物全体に対し0.1〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜3.0質量%である。
【0013】
本発明のゲル組成物中の水の含有量は、20.0〜99.0質量%が好ましく、さらに好ましくは40.0〜99.0質量%であり、最も好ましくは50.0〜99.0質量%である。
【0014】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。
適当な温度に加温した水にゲル化剤を攪拌・溶解し、ハイアミロースコーンスターチと必要に応じて食品や医薬品に汎用される公知の添加剤を混合した後、容器に充填し、冷却すればよい。
【実施例】
【0015】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例及び比較例の処方において、数値は全て質量部である。
【0016】
実施例1〜3
表1(表中の単位は質量部)のとおり秤量したグラニュー糖及びスクラロース、κカラギーナン、ιカラギーナン、グルコマンナン、安息香酸Naを粉末混合し、水に添加した。溶液を加温、攪拌し、添加成分を溶解した。さらに、表1記載のその他の成分を添加し、攪拌した後、容器に充填し、冷蔵庫にて一晩冷却し、ゼリーを得た。
【0017】
実施例4
表1のとおり秤量した水にアセスルファムカリウム、スクラロース、クエン酸、安息香酸Naを加え溶解し、溶液とした。別に、κカラギーナン及びιカラギーナン、グルコマンナンを混合し、この混合物を上記の溶液に加え、加温、攪拌して溶解した。さらに表1記載のその他の成分を添加し、攪拌した後、容器に充填し、冷蔵庫にて一晩冷却し、ゼリーを得た。
【0018】
比較例1
表1に示した比較例1の処方のゼリーを実施例1〜3と同様の方法で調製した。
【0019】
比較例2
表1に示した比較例2の処方のゼリーを実施例4と同様の方法で調製した。
【0020】
【表1】
【0021】
試験例1:食感の評価
実施例1〜3及び比較例1で調製したゲル組成物をパネル4名にて、評価した。結果、ハイアミロースコーンスターチの入っている実施例1〜3のゲル組成物は、比較例1のハイアミロースコーンスターチの入っていないゲル組成物に比べ、すりおろし感を感じた。
【0022】
試験例2:ゲル化剤含有組成物の離水率の評価
(1)方法
実施例4及び比較例2で調製したゲル化剤含有組成物を40℃75%RH条件下で3日間保存した。そのゲル化剤含有組成物を30メッシュの篩の上に3分間静置し、3分後、篩の上に残った組成物の質量を測定し、式1から離水率を計算した。結果を表3に示す。
【0023】
【数1】
【0024】
【表3】
【0025】
(2)結果
表3より、比較例2の組成物では離水率が高く、ゲル組成物が固くなり、品質が低下していた。 一方、実施例4は、比較例に比べ離水率が低下し、ゲル組成物本来の食感を損なうことなく、良好な品質を保つことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、特有の果肉感を付与し、また、経時的な離水を抑制したゲル組成物を提供することが可能となった。