(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641806
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】蓄電池用PCSの制御装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20200127BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20200127BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20200127BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
H02J7/00 L
H02J3/38 110
H02M3/155 P
H02J3/32
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-175374(P2015-175374)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-55469(P2017-55469A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】材津 寛
【審査官】
坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−333715(JP,A)
【文献】
特開2014−099986(JP,A)
【文献】
特開2009−033805(JP,A)
【文献】
特開2009−303423(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0271077(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 3/32
H02J 3/38
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
系統電源と蓄電池との間にインバータ、直流平滑コンデンサ及びチョッパを有する蓄電池用PCS(Power Conversion System)の制御装置であって、
前記蓄電池用PCSの直流電圧指令と直流電圧検出値との差分に基づき前記インバータと前記チョッパとの間の直流電圧を一定に保つ制御値を生成する第1のPI演算部と、
前記制御値と前記チョッパの電流検出値との差分に対応した制御指令を生成する第2のPI演算部と、
前記直流電圧指令と前記蓄電池の電池電圧検出値とに基づき前記チョッパのゲート信号幅を補正する補正量を算出し、この補正量を加算した前記制御指令を当該チョッパのPWM制御部に出力するゲート幅補正部と
を備え、
前記補正量は、前記蓄電池の充電時に前記チョッパを以下の式(1)に基づき降圧動作させる一方で当該蓄電池の放電時に以下の式(2)に基づき昇圧動作させて得られた演算値に所定のゲインを乗算して算出されたこと
E2=E1×ton/T ……(1)
ton=Vb/Vdc×T
式(1)において、
E2:降圧チョッパ時の前記蓄電池の電池電圧検出値
E1:直流平滑コンデンサ電圧
T:スイッチング周期(以下、式(2)において、同様)
Vdc:直流電圧検出値(以下、式(2)において、同様)
Vb:前記蓄電池の電池電圧検出値(以下、式(2)において、同様)
E2=E1×T/toff ……(2)
toff=Vdc/Vb×T
式(2)において、
E2:昇圧チョッパ時の直流平滑コンデンサ電圧
E1:前記蓄電池の電池電圧検出値
を特徴とした蓄電池用PCSの制御装置。
【請求項2】
前記蓄電池の電池電圧検出値に基づき前記第1のPI演算部における標準電圧に対する比例ゲイン及び積分ゲインを可変するゲイン演算部をさらに備えたことを特徴とした請求項1に記載の蓄電池用PCSの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用PCSの制御装置に係わり、特に蓄電電圧の使用範囲が大きいときの直流電圧一定制御の安定化を図った制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、インバータ(AC/DC)とチョッパ(DC/DC)で構成される蓄電池用PCS(Power Conversion System)と、チョッパ制御部の構成図を示したものである。1は系統電源で、この系統電源1には交流遮断器2、連係変圧器3及び交流フィルタ4を介してインバータ5が接続されている。また、インバータ5と共にPCSを構成するチョッパ6には、直流フィルタ7、直流遮断器8を介して蓄電池9が接続されている。
【0003】
10はチョッパ制御部で、直流電圧指令Vrと検出された直流電圧(平滑コンデンサの端子電圧)Vdcの差分を減算部11で求め、その差分をPI演算部12に入力して直流電圧一定制御用の制御値を生成する。減算部13では、PI演算部12からの制御値と検出されたチョッパ電流Icとの差分を演算してPI演算部14に出力し、PI演算部14では差分に対応した制御指令を生成する。PWM制御部15は、制御指令に基づいてチョッパ6のスイッチング素子の制御信号を生成する。これにより、チョッパ6は直流回路に接続された直流平滑コンデンサCの電圧を一定に保つための制御を行うと共に、インバータ5では、図示省略されているが交流側に設置された検出器により検出された電圧・電流から出力電力を算出し、この出力電力が指令値どおりになるよう制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−327576(特に、段落[0003])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4で示す蓄電池用PCSでは、蓄電池9の使用電圧範囲が大きいと電池電圧によって直流電圧一定制御が不安定になる虞がある。例えば、電池電圧範囲が200V〜600Vの場合、直流電圧一定制御のためのゲインを電池電圧範囲の平均値である400Vと最適に調整しても、電池電圧200Vではゲインが小さくなって制御応答が遅くなり、電池電圧600Vではゲインが大きく過制御となって不安定となる。特許文献1にも同様な課題について開示されており、入力電圧領域として低めの領域で適宜に制御系を設定すると、高めの領域では過大ゲインとなって不安定状態となることが開示されている。
【0006】
電池電圧範囲200V〜600Vの例では、400Vの制御ゲインを基準にすると、200V時の制御ゲインは0.5倍、600V時の制御ゲインでは1.5倍になる。一般に、制御ゲインはある程度裕度を持って設計するため、電池電圧がある程度変動しても安定に動作するが、電池電圧の使用範囲が大きくなる最適なゲイン範囲を設定するのが困難となっている。
【0007】
本発明が目的とするところは、電池電圧範囲が大きい場合でも安定応答のできる蓄電池用PCSの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、系統電源と蓄電池との間に、インバータ、直流平滑コンデンサ及びチョッパを有するPCSを接続し、チョッパ制御部で直流電圧指令と検出された直流電圧の差分を第1のPI演算部に入力して差分に基づいたインバータとチョッパ間の直流電圧を一定に保つ制御値を生成し、生成された制御値と検出されたチョッパ電流との差分を第2のPI演算部に出力して差分に対応した制御指令を生成するものにおいて、
前記チョッパ制御部にゲート幅補正部を設け、
ゲート幅補正部に前記直流電圧指令と前記蓄電池の電池電圧検出を入力して前記チョッパのゲート信号幅を補正する補正量を演算し、求まった補正量を前記第2のPI演算部による制御指令に加算してPWM制御部に出力するよう構成したことを特徴としたものである。
【0009】
本発明のゲート幅補正部による補正量は、前記蓄電池を充電動作する時のチョッパを降圧チョッパ動作とし、放電時には昇圧チョッパ動作とするときの基本式で、
降圧チョッパ時の電池電圧検出E2=E1×ton/T (ただし、E1は平滑コンデンサ電圧、Tはスイッチング周期、tonはスイッチング素子のオン期間)
昇圧チョッパ時の直流電圧E2=E1×T/toff (ただし、E1は電池電圧、Tはスイッチング周期、toffはスイッチング素子のオフ期間)
より、
ton=電池電圧検出Vb/直流電圧Vdc×スイッチング周期T
toff=直流電圧Vdc/電池電圧検出Vb×スイッチング周期T
で演算し、演算値に所定のゲインを乗算して補正量とすることを特徴としたものである。
【0010】
また、本発明はチョッパ制御部にゲイン演算部を設け、
ゲイン演算部に前記蓄電池の電池電圧検出値を入力して電池電圧に対応したゲインを算出し、算出されたゲインにより前記第1のPI演算部の比例ゲインと積分ゲインを可変するよう構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のとおり、本発明によれば、蓄電池用PCSの制御装置において、蓄電池電圧の使用範囲が大きい場合でも、直流電圧一定制御の安定化が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】チョッパの動作説明図で、(a)はチョッパの回路図、(b)は充電動作時、(c)放電動作図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の第1の実施例を示したもので、
図4と同一若しくは相当する部分に同一符号を付してその説明を省略する。すなわち、本発明はチョッパ制御部10にゲート幅補正部16を設けたものである。ゲート幅補正部16は、直流電圧指令Vrと電池電圧検出Vbを入力してチョッパのゲート幅を下記式(1)、(2)で演算し、算出値に所定の比例ゲイン(ここでは、比例ゲイン1とする)を乗算した値を補正量として加算部17に出力し、PI演算部14で演算された制御指令に加算して補正された制御指令としてPWM制御部15に出力される。他は
図4と同様である。
【0014】
図2で示すように、蓄電池9を充電動作するときチョッパ6は降圧チョッパ動作をし、放電時には昇圧チョッパ動作をする。
降圧チョッパの基本式より、E2=E1×ton/T …… (1)
昇圧チョッパの基本式より、E2=E1×T/toff …… (2)
ただし、T;スイッチング周期(固定)
ここで、式(1)、(2)より、
ton=電池電圧検出Vb/直流電圧Vdc×スイッチング周期T
toff=直流電圧Vdc/電池電圧検出Vb×スイッチング周期T
で計算できる。式(1)、(2)では、直流電圧(平滑コンデンサの端子電圧)Vdcは略一定値であるので、ton(toff)≒∝電池電圧が成り立つことから、ゲート幅補正部16では電池電圧検出Vbを用いている。
【0015】
図2は式(1)、(2)に基づくチョッパ6の動作説明図で、
図2(a)で示すように、蓄電池9の電圧範囲を200V〜600V、直流平滑コンデンサCの両端電圧(インバータの直流電圧)を700Vとした例である。チョッパ6による蓄電池9への充電時には、
図2(b)で示すようにスイッチング素子SW1を降圧チョッパ動作して蓄電池をE2に充電する。また、放電時には、
図2(c)で示すようにスイッチング素子SW2を昇圧チョッパ動作して直流平滑コンデンサCの両端電圧をE2にする。
【0016】
したがって、第1の実施例によれば、蓄電電圧検出Vbに応じてフィードフォワード的にゲート幅が計算できるため、PI演算部14で演算された制御指令が直流電圧一定制御としての制御指令が小さくても、最終的な制御指令にはゲート幅補正部16からの蓄電電圧に対応した安定的な補正量が加算されることで、応答性・安定性の優れたチョッパ電圧一定制御が可能となるものである。
【0017】
図3は第2の実施例を示したもので、
図1で示す第1の実施例にゲイン演算部18を追加したものである。ゲイン演算部18には、電池電圧検出Vbを入力して蓄電電圧検出Vbに対応したゲインを算出し、PI演算部12で演算される直流電圧一定のゲインを可変するものである。
【0018】
例えば、電池電圧範囲が200V〜600Vの場合で、200V時のPI演算部12の比例ゲインKpをKp
-200V、積分ゲインKiをKi
-200Vとすると、
Kp=Kp
-200V×200V/電池電圧検出Vb …… (3)
Ki=Ki
-200V×200V/電池電圧検出Vb …… (4)
となる。
【0019】
ゲイン演算部18により算出された各ゲインは電池電圧に対応するものであり、算出された各ゲインはPI演算部12に入力される。PI演算部12では、電池電圧に対応する演算されたゲインに基づいて自身の比例ゲインKpと積分ゲインKiをそれぞれ可変する。したがって、PI演算部12によって演算される直流電圧一定制御用の制御値は、電池電圧に対応したものとなる。
【0020】
PI演算部12の出力は減算部13に入力されチョッパ電流Icとの差分を演算し、PI演算部14に出力する。PI演算部14では差分に対応した制御指令を生成して加算部17に出力し、ゲート幅補正部16による補正量を加算して補正された制御指令としてPWM制御部15に出力される。
【0021】
この実施例によれば、電池電圧検出値から直流電圧一定制御の制御ゲインを電池電圧に応じて可変する機能を持たせたことで、電池電圧に応じた最適な直流電圧一定制御の制御ゲインの使用が可能となる。これにより、電池電圧範囲200V〜600Vの例で、400Vの制御ゲイン時には、直流電圧一定制御ゲインは、200V/400V=0.5倍となり、600Vの制御ゲイン時には、直流電圧一定制御ゲインは、200V/600V=0.3倍となり、600Vの場合でも過制御の回避が可能となるものである。
【符号の説明】
【0022】
1… 系統電源
5… インバータ
6… チョッパ
10… チョッパ制御部
11,13… 減算部
12、14… PI演算部
15… PWM制御部
16… ゲート幅補正部
17… 加算部
18… ゲイン演算部