(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、前記第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記第1成分と前記第2成分が互いにオーバラップするように分割する分割部と、
前記第1成分及び前記第2成分それぞれにおいてレベルを制限するリミット処理を行うリミット部と、
リミット処理された第1成分と第2成分の周波数特性について、第1成分の高域側の周波数特性の傾斜の絶対値と、第2成分の低域側の周波数特性の傾斜の絶対値を同一にして、−6dBでクロスするようにトリミング処理するトリミング部と、
トリミング処理された第1成分及びトリミング処理された第2成分を合成して出力する合成部と、
を備えるマルチバンドリミッタ。
【背景技術】
【0002】
入力音を適正に録音するためには、入力音に対するリミッタは重要な機能である。通常のリミッタは、録音される全周波数帯域に対して動作するので、例えば録音したい音声の周波数帯域とは異なる周波数帯域でピークが検出された場合にも、全周波数帯域の音声に対してゲインリダクションが実行される。このため、録音したい音声の周波数帯域の音声も小さくなってしまう。
【0003】
このような場合の対策として、マルチバンドリミッタが提案されている。マルチバンドリミッタでは、全周波数帯域を複数の帯域に分割し、それぞれの周波数帯域で独立してリミット処理を実行することで、ある周波数帯域の瞬間的なピークによるゲインリダクションが、他の周波数帯域に影響を与えないようにすることができる。
【0004】
特許文献1には、マルチバンドコンプレッサについて記載されており、従来からの一般的なマルチバンドコンプレッサは、各周波数帯域のコンプレッサが独立して動作していること、独立動作の問題点を解決するために、各周波数帯域で算出される信号レベルからゲイン値を計算し、各周波数帯域で算出されるゲイン値との比較により圧縮処理に用いるゲイン値を制限することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マルチバンドリミッタの課題は、周波数帯域を分割する際のフィルタのスロープである。隣接する周波数帯域を切り出すためのフィルタは、通常−6dBでクロスするようにする(以下、これを「クロスオーバフィルタ」と称する)ことで、分割した各周波数帯域の合成後において周波数特性がフラットになるようにしている。
【0007】
しかしながら、このようなクロスオーバフィルタによるフィルタ処理では、クロスする周波数の前後の周波数帯域でリミッタが効かない、いわゆる不感帯が生じてしまう。これは、フィルタによって入力音のレベルが減衰してしまい、本来であれば閾値(スレッショルド)を超えるためゲインを小さくすべきところ、減衰後の信号レベルが閾値以下となりゲインを小さくできないからである。また、フィルタのスロープが急峻でない場合には、同じ周波数の信号が隣り合う周波数帯域の両方に存在することとなり、このとき一方にはリミッタが効くがもう一方にはリミッタが効かず、これらが合成時に加算されると、結果的にリミッタが効いていない周波数帯域が生じ、更に不感帯を拡げてしまう問題がある。
【0008】
図4A及び
図4Bは、従来のマルチバンドリミッタの周波数特性を示す。周波数帯域を低域(Low)、中域(Middle)、高域(High)に3分割し、各帯域のフィルタを−6dBでクロスするようにして信号を分割し(
図4A)、各帯域毎にリミット処理を実行し(
図4B)、その後に各帯域の信号を加算して合成する。すなわち、
周波数帯域分割(−6dBクロス)→帯域毎のリミット処理→合成
という流れである。
【0009】
しかしながら、
図4Aに示すように、隣接する周波数帯域近傍の周波数帯域において信号が減衰するため、本来であれば閾値、つまりリミッタレベルによってリミット処理されるべき信号がリミット処理されないことになり、リミッタが効かなくなってしまう。
図4Bに、このようにして生じるリミッタの不感帯を示す。リミッタの不感帯が生じると、この部分に音量のピークレベルが存在する場合にこれを制限できず、音量ピークオーバによる録音失敗が生じ得る。
【0010】
本発明は、マルチバンドリミッタの不感帯を除去しつつ、周波数特性がフラットなマルチバンドリミット機能を備えるマルチバンドリミッタ、録音装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、前記第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記第1成分と前記第2成分が互いにオーバラップするように分割する分割部と、前記第1成分及び前記第2成分それぞれにおいてレベルを制限するリミット処理を行うリミット部と、リミット処理された第1成分
と第2成分の周波数特性について、第1成分の高域側の周波数特性の傾斜の絶対値と、第2成分の低域側の周波数特性の傾斜の絶対値を同一にして、−6dBでクロスするようにトリミング処理するトリミング部と、トリミング処理された第1成分及びトリミング処理された第2成分を合成して出力する合成部とを備えるマルチバンドリミッタである。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、前記分割部は、前記入力音声信号を低域成分、中域成分、高域成分にそれぞれ分割する低域フィルタ要素、中域フィルタ要素及び高域フィルタ要素を備え、前記低域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記中域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上とし、かつ前記中域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記高域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記低域成分と前記中域成分が互いにオーバラップするとともに前記中域成分と前記高域成分が互いにオーバラップするように分割し、前記リミット部は、前記低域成分、前記中域成分及び前記高域成分それぞれにおいてレベルを制限し、前記トリミング部は、リミット処理された低域成分、中域成分及び高域成分それぞれにおい
てトリミング処理し、前記合成部は、トリミング処理された低域成分、中域成分及び高域成分を合成して出力する。
【0014】
また、本発明は、上記のマルチバンドリミッタと、前記マルチバンドリミッタからの出力信号を記録する記録部とを備える録音装置である。
【0015】
また、本発明は、コンピュータのプロセッサを、入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、前記第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を前記第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として前記第1成分と前記第2成分が互いにオーバラップするように分割する分割部と、前記第1成分及び前記第2成分それぞれにおいてレベルを制限するリミット処理を行うリミット部と、リミット処理された第1成分
と第2成分の周波数特性について、第1成分の高域側の周波数特性の傾斜の絶対値と、第2成分の低域側の周波数特性の傾斜の絶対値を同一にして、−6dBでクロスするようにトリミング処理するトリミング部と、トリミング処理された第1成分及びトリミング処理された第2成分を合成して出力する合成部として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、不感帯を除去しつつ、周波数特性がフラットなマルチバンドリミット機能を備えるマルチバンドリミッタ、録音装置及びプログラムを得ることができる。本発明によれば、例えばフィールドレコーディング等において、音量レベルのピークオーバによる録音失敗を防ぎつつ、録音すべき音を明瞭に録音し得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0019】
<基本原理>
まず、本実施形態の基本原理について説明する。
【0020】
既述したように、一般に、マルチバンドリミッタでは、隣接する周波数帯域を切り出すためのフィルタは、−6dBでクロスするようにする。つまり、各周波数帯域で6dBだけ減衰してクロスポイントに達することで、分割した各周波数帯域の信号を合成した後に周波数特性がほぼフラットになる(ハイパスとローパスのクロス点で各々−6dBの減衰量を持たせることで、優れた全体特性とともにクロス周波数でのハイパス側とローパス側の出力が同相になることは公知である)が、他方で、−6dBでクロスするようにすると、フィルタが効かなくなる不感帯が生じてしまう。このことは、入力音声信号を2分割する2wayクロスオーバ、あるいは入力音声信号を3分割する3wayクロスオーバを問わない。
【0021】
そこで、本実施形態では、複数の周波数帯域に分割するためのフィルタとして、−6dBでクロスするようなクロスオーバフィルタではなく、隣接する周波数帯域で互いにオーバラップするようなフィルタ(以下、これを「オーバラップフィルタ」と称する)を用いて信号を分割(抽出)する。すなわち、入力音声信号を少なくとも相対的に低域の第1成分に分割する第1フィルタ要素及び相対的に高域の第2成分に分割する第2フィルタ要素を備え、第1フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を第2フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として第1成分と第2成分が互いにオーバラップするように分割する。勿論、分割すべき周波数帯域は2つ以上とすることができ、3つに分割する場合には、入力音声信号を低域成分、中域成分、高域成分にそれぞれ分割する低域フィルタ要素、中域フィルタ要素及び高域フィルタ要素を備え、低域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を中域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上とし、かつ中域フィルタ要素の高域側カットオフ周波数を高域フィルタ要素の低域側カットオフ周波数以上として低域成分と中域成分が互いにオーバラップするとともに中域成分と高域成分が互いにオーバラップするように分割する。
【0022】
そして、各周波数帯域でリミット処理を実行した後、互いにオーバラップする周波数帯域を除去するようなトリミングフィルタ処理を行った上で、各周波数帯域の信号を合成する。隣接する周波数帯域で互いにオーバラップするようなフィルタを用いることで、各周波数帯域で信号の減衰によるリミット処理が効かなくなる問題を回避できる。但し、この場合には、各周波数帯域の信号をそのまま加算して合成すると、オーバラップ部分の信号レベルが増大してしまうので、各周波数帯域の信号を合成する前に、オーバラップ部分の信号をトリミングフィルタで除去してフラットな周波数特性とする。
【0023】
以上のように、オーバラップフィルタとトリミングフィルタを組み合わせることで、不感帯を除去しつつ、周波数特性がフラットなマルチバンドリミット機能を実現できる。
【0024】
なお、マルチバンドリミッタを録音後の編集作業等で使用する場合には、予め入力される音の特性が分かっているので、クロスする周波数をユーザが変更できる設計とすることで不感帯の影響を避けることが可能ともいえるが、例えばフィールド録音等の現場では予め入力される音の特性がわかっていないので、予めクロスする周波数を設定することはできない。本実施形態は、必ずしもこれに限定されるものではないが、フィールド録音等のように予め入力される音の特性が分かっていない場合に特に有効である。
【0025】
<構成>
次に、本実施形態に係る録音装置の具体的な構成について、HDMI(登録商標)端子を備えた録音装置を例にとり説明する。但し、本発明においてHDMI端子は必須の構成要素ではない。
【0026】
録音装置は、PCMレコーダであり、音声信号を非可逆圧縮しないリニアPCM:WAVフォーマットで記録する。但し、MP3等の非可逆圧縮形式に対応していてもよい。録音装置は、例えばHDMI接続されたカメラからのHDMI信号に含まれる映像信号を受信し、映像信号についてはHDMIリピータ機器としてそのままHDMI接続されたバックアップ録画機等に出力する。他方、録音装置は、接続されたマイクから入力されたアナログオーディオ信号をデジタル信号に変換し、カメラからのHDMI信号のオーディオCHにエンベデッドしてHDMI接続されたバックアップ録画機等に出力する。
【0027】
バックアップ録画機は、HDMI接続された録音装置から、カメラで撮影された映像信号と、録音装置で録音されるオーディオ信号をともにHDMIで受信することとなり、たとえ音声入力端子としてアナログ音声入力端子しか備えていなくとも、HDMI入力端子から高品質のオーディオ信号を入力することができる。
【0028】
図1は、録音装置の全体構成ブロック図である。録音装置は、HDMI入力端子(HDMIIN)130、HDMI出力端子(HDMIOUT)132、HDMIレシーバ103、HDMIトランスミッタ140、CPU102、CPLD(コンプレックスプログラマブルロジックデバイス)134、オーディオCODEC104、及びPGA(プログラマブルゲインアンプ(PGA)136を備える。
【0029】
HDMI入力端子130は、HDMIケーブルを介してカメラと接続される。
【0030】
HDMIレシーバ103は、HDMIケーブルを介してカメラから伝送されたTMDS信号、TMDSクロック信号から、LRCK信号、BCLK(又はSCLK)信号、データ信号、及びMCLK信号を出力する。HDMIレシーバ103には、I2CバスでCPU102が接続され、CPU102はHDMIレシーバ103の動作を制御する。HDMIレシーバ103は、HDMIリピータ機器としてデータ信号に含まれる映像信号をそのままHDMIトランスミッタ140に出力する。他方、HDMIレシーバ103は、データ信号に含まれるオーディオ信号をCPLD134に供給する。CPLD134は、HDMIレシーバ103から出力されるオーディオ信号を受け取ってマルチプレクサ(MUX)136に入力するとともにCPU102に出力する。
【0031】
他方、マイクから入力されたアナログオーディオ信号は、PGA136でゲイン調整され、オーディオCODEC104でデジタル信号に変換されてCPLD134に供給される。PGA136のゲインは、CPU102で制御される。CPLD134は、マイクから入力されたアナログオーディオ信号をCPU102に供給し、CPU102においてマルチバンドリミット処理を施して録音する他、必要に応じてHDMIレシーバ103からのオーディオ信号にエンベデッド処理する。エンベデッド(多重化)された信号は、HDMIトランスミッタ140に出力される。HDMIトランスミッタ140は、HDMIレシーバ103からの映像信号、及びCPLD134でマイクオーディオ信号がエンベデッドされたオーディオ信号をHDMI出力端子132に供給する。
【0032】
以下では、マイクから入力されデジタル信号に変換されたオーディオ信号をCPU102で処理し(マルチバンドリミット処理を含む)、オーディオデータとしてSDカードメモリ等の半導体メモリに録音する場合の処理について説明する。
【0033】
CPU102は、フラッシュメモリ110及びSDRAM111をそれぞれプログラムメモリ及びワーキングメモリとして、処理プログラムを読み出してマルチバンドリミット処理を実行する。CPU102は、フラッシュメモリ110、あるいは図示しないSDカードコネクタに装着されたSDカードメモリに処理したオーディオデータを記録することで録音する。
【0034】
図2は、CPU102が処理プログラムを実行することで実現されるマルチバンドリミット処理の機能ブロック図を示す。従って、
図2の各機能は、具体的なハードウェア回路として実現されるのではなく、CPU102が処理プログラムの各機能モジュールを実行することで実現される。
【0035】
マルチバンドリミット機能は、オーバラップフィルタ部200と、コントロールゲイン(CG)202,208,214と、乗算部204,210,216と、トリミングフィルタ部206,212,218と、加算部220から構成される。
【0036】
CG202、乗算部204及びトリミングフィルタ部206が低域(L)処理部を構成し、CG208、乗算部210及びトリミングフィルタ部212が中域(M)処理部を構成し、CG214、乗算部216及びトリミングフィルタ部218が高域(H)処理部を構成する。また、CG202,208,214と、乗算部204,210,216とでリミッタ部を構成する。オーバラップフィルタ部200で入力音を低域、中域、高域の3つの周波数帯域に分割し、リミッタ部でそれぞれの帯域毎にリミット処理を実行し、トリミングフィルタ部206,212,218でトリミング処理を実行し、加算部220で3つの周波数帯域の信号を合成する。
【0037】
オーバラップフィルタ部200は、入力音を低域、中域及び高域に分割するためのフィルタ部であり、従来のように−6dBでクロスするようなフィルタ特性ではなく、隣接する周波数帯域で互いにオーバラップするようなフィルタ特性を有する。入力音は、オーバラップフィルタ部200で、低域成分、中域成分及び高域成分に分割される。
【0038】
CG202は、低域成分からコントロールゲインを設定し、乗算部204に出力する。具体的には、低域成分の信号レベルを閾値(スレッショルド)と比較し、信号レベルが閾値を超える場合にこれを制限すべくゲイン係数を小さく設定して乗算部204に出力する。
【0039】
乗算部204は、CG202からのコントロールゲイン係数を低域成分に乗算することでそのレベルを制限し、低域リミッタとして動作する。
【0040】
CG208は、中域成分からコントロールゲインを設定し、乗算部210に出力する。具体的には、中域成分の信号レベルを閾値(スレッショルド)と比較し、信号レベルが閾値を超える場合にこれを制限すべくゲイン係数を小さく設定して乗算部210に出力する。
【0041】
乗算部210は、CG208からのコントロールゲイン係数を中域成分に乗算することでそのレベルを制限し、中域リミッタとして動作する。
【0042】
CG214は、高域成分からコントロールゲインを設定し、乗算部216に出力する。具体的には、高域成分の信号レベルを閾値(スレッショルド)と比較し、信号レベルが閾値を超える場合にこれを制限すべくゲイン係数を小さく設定して乗算部216に出力する。
【0043】
乗算部216は、CG214からのコントロールゲイン係数を高域成分に乗算することでそのレベルを制限し、高域リミッタとして動作する。
【0044】
乗算部204からのリミット処理された低域成分、乗算部210からのリミット処理された中域成分、及び乗算部216からのリミット処理された高域成分は、加算部220で合成されるが、このままではオーバラップ部分のレベルが増大してしまい、周波数特性がフラットにならない。
【0045】
そこで、各帯域においてリミット処理された信号成分に対し、それぞれトリミングフィルタ部206,212,218でオーバラップ部分の信号成分を除去する。
【0046】
すなわち、トリミングフィルタ部206は、リミット処理された低域成分から中域とのオーバラップ部分を除去して加算部220に出力する。
【0047】
トリミングフィルタ部212は、リミット処理された中域成分から低域とのオーバラップ部分及び高域とのオーバラップ部分を除去して加算部220に出力する。
【0048】
トリミングフィルタ部218は、リミット処理された高域成分から中域とのオーバラップ部分を除去して加算部220に出力する。
【0049】
加算部220は、トリミングフィルタ部206,212,218からの低域成分、中域成分及び高域成分を加算して合成し、出力する。
【0050】
図3A〜
図3Dは、本実施形態のマルチバンドリミット処理の特性図である。
図3Aは、オーバラップフィルタ部200のフィルタ特性である。周波数帯域を低域、中域、高域にそれぞれ分割する低域フィルタ(L)、中域フィルタ(M)、高域フィルタ(H)において、低域フィルタと中域フィルタはハッチングで示すオーバラップ部300で互いにオーバラップし、中域フィルタと高域フィルタはハッチングで示すオーバラップ部400で互いにオーバラップする。すなわち、オーバラップ部300の周波数帯域の信号成分は、低域フィルタで抽出されるとともに中域フィルタでも抽出され、オーバラップ部400の周波数帯域の信号成分は、中域フィルタで抽出されるとともに高域フィルタでも抽出される。低域フィルタのカットオフ周波数をfLc、中域フィルタの低域側カットオフ周波数をfMLc、高域側カットオフ周波数をfMHc、高域フィルタのカットオフ周波数をfHcとすると、オーバラップフィルタ部200では、
fMLc≦fLc
fHc≦fMHc
が成立する。より特定的には、
fMLc≦fLc<fHc≦fMHc
である。
【0051】
図3Bは、オーバラップフィルタ部200を構成するフィルタ要素である低域フィルタ(L)、中域フィルタ(M)、高域フィルタ(H)の周波数特性をそれぞれ分けて示す。また、それぞれのフィルタのカットオフ周波数の大小関係を示す。低域フィルタにより低域成分が抽出され、中域フィルタにより中域成分が抽出され、高域フィルタにより高域成分が抽出され、それぞれの周波数帯域でコントロールゲインが決定されてリミット処理が実行される。
【0052】
図3Cは、トリミングフィルタ部206,212,218でのオーバラップ部300及びオーバラップ部400の除去処理を模式的に示す。低域フィルタに着目すると、抽出されリミット処理された成分のうち、トリミングフィルタ部206によりオーバラップ部300に相当する成分が除去される。同様に、中域フィルタに着目すると、抽出されリミット処理された成分のうち、トリミングフィルタ部212によりオーバラップ部300,400に相当する成分が除去され、高域フィルタに着目すると、抽出されリミット処理された成分のうち、トリミングフィルタ部218によりオーバラップ部400に相当する成分が除去される。
【0053】
図3Dは、トリミングフィルタ部206,212,218でトリミング処理された信号成分を模式的に示す。
図3Aに示すオーバラップフィルタ部200のフィルタ特性において、オーバラップ部300,400を除去した特性に対応する。この特性は、−6dBでクロスするような特性であり、これらの成分を加算することで周波数特性がフラットな特性が得られる。言い換えれば、−6dBでクロスする特性が得られるように、トリミングフィルタ部206,212,218でトリミング処理するといえる。
【0054】
図3A〜
図3Dに示されるように、本実施形態では、従来のように
周波数帯域分割(−6dBクロス)→帯域毎のリミット処理→合成
という処理の流れではなく、
周波数帯域分割(オーバラップ)→帯域毎のリミット処理→トリミング処理(オーバラップ部分)→合成
という処理の流れである。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0056】
例えば、本実施形態では、CPU102がプログラムメモリに記憶された処理プログラムを読み出して実行することでマルチバンドリミット処理を実現しており、CPU102をマルチバンドリミッタとして機能させているが、DSPで実現してもよく、あるいはデジタルフィルタ回路等の特定のハードウェア回路として実現してもよい。フィルタとしては、位相特性の線形性が維持されるFIR(有限インパルス応答)フィルタを使用するのが好適であるが、これに限定されない。なお、処理プログラムは、予めフラッシュメモリに記憶しておく他に、インターネット等のネットワーク経由でサーバからダウンロードして録音装置のメモリに格納してもよい。処理プログラムは録音用のアプリケーションとして提供されてもよく、この場合には当該録音用のアプリケーションをダウンロードして実行する機器は専用の録音装置である必要はなく、CPU、メモリ、入出力インタフェース、通信インタフェースを備える任意の携帯情報端末、例えばスマートフォンであってもよい。
【0057】
また、本実施形態において、CPLD134は、エンベデッド処理等に必要であるが、単に録音する場合にはCPLD134は不要である。
【0058】
また、本実施形態では、オーバラップフィルタ部200で入力音を低域、中域、高域の3つの周波数帯域に分割しているが、これに限定されるものではなく、2つの周波数帯域に分割してもよく、あるいは4つ以上の周波数帯域に分割してもよい。