(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641885
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】スクライブライン形成方法
(51)【国際特許分類】
B28D 5/00 20060101AFI20200127BHJP
C03B 33/037 20060101ALI20200127BHJP
B28D 5/02 20060101ALI20200127BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
B28D5/00 Z
C03B33/037
B28D5/02 A
H01L21/78 G
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-213812(P2015-213812)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-159626(P2016-159626A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年10月1日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0029538
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西尾 仁孝
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−307747(JP,A)
【文献】
特開2003−212579(JP,A)
【文献】
特開平06−157061(JP,A)
【文献】
特開2007−297244(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/009113(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/022865(WO,A2)
【文献】
韓国公開特許第10−2005−0046792(KR,A)
【文献】
特開2003−267742(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/40988(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0120988(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0138986(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
B28D 5/02
C03B 33/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板分断のために基板の上面にスクライブラインを形成するスクライブライン形成方法であって、
ノーマルホイールを使用し、前記ノーマルホイールによる基板の表面の塑性変形深さが間欠的に深くまたは浅くなるように前進走行しつつスクライブラインを形成し、
前記ノーマルホイールによる基板の塑性変形深さは、サーボモータを利用した前記ノーマルホイールの昇下降動作によって制御され、後続の前記ノーマルホイールが既設のスクライブラインを横断する交差点に到達する前に、前記基板の特性または寸法により、形成しようとするスクライブラインの軌跡を調節して設定することができることを特徴とするスクライブライン形成方法。
【請求項2】
既設のスクライブラインを後続の前記ノーマルホイールが横断する交差点では、後続の前記ノーマルホイールによる基板の塑性変形深さを前記既設のスクライブラインより浅く形成することを特徴とする請求項1に記載のスクライブライン形成方法。
【請求項3】
前記基板においてスクライブラインが交差しない地点では、前記ノーマルホイールによる基板の塑性変形深さを深くすることを特徴とする請求項1または2に記載のスクライブライン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCDパネル、半導体ウェーハ、ガラス、セラミックス等の脆性材料の切断のためのスクライブライン形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDパネル、半導体ウェーハ、ガラス、セラミックス等の脆性材料の原板である基板を所望の大きさで数枚に分断するためには、分断前にダイヤモンドまたは人工ダイヤモンドで加工されたホイールを使用して基板を加圧し、横及び縦のスクライブラインを形成する。
【0003】
スクライブライン形成時に使用されるホイールの種類には、高浸透ホイールとノーマルホイールがある。高浸透ホイールは、
図4から見られるように、ホイール13の外周に歯または溝14が加工されており、この高浸透ホイールを使用すれば、基板厚さに対してスクライブライン形成時、垂直クラックを深く浸透させることができる。これによりスクライブライン形成後の基板の分断作業を上手く行うことができる。すなわち、高浸透ホイールを使用すれば基板厚さの80〜90%程度まで垂直クラックを進行させることが可能である。しかし一方で、高浸透ホイールを使用した場合には、スクライブライン形成部分に高圧の応力が残留して基板を分断する作業時にチッピングが発生しやすくなる。
【0004】
例えば、
図5に見られるように、高浸透ホイールのホイール13には溝14が形成されており、載置された基板に対してスクライブラインを形成するとき、ホイール13の刃先に該当する溝14と溝14の間の区間をAとし、溝14をC、AとCの境界をBとすると、A、B、Cの各地点で発生する基板に対するスクライブ荷重の分布は、
図5の下半分に示したグラフのようになる。
【0005】
すなわち、ホイール13が回転する時、刃先と溝14の境界部分であるBで強いスクライブ荷重が加えられる。そして、溝14の形成部分であるCでは、スクライブ荷重のない状態であるため荷重分布線が大幅に下がる。
【0006】
このような荷重分布図から見られるように、高浸透ホイールを使用した基板のスクライブ作業では、極めて不規則な応力の集中現象が発生する。このため、スクライブライン形成後、基板分断過程で一直線に分断することができず、分断面が滑らかでなく部分的な分断面の損傷が発生することもある。それにより、結局、分断された基板の品質が下がる。
【0007】
また、スクライブラインが交差する地点では、剪断力及び応力の集中により不要なクラックが発生し、分断した基板のコーナ部に欠けや亀裂が発生しやすくなる。
【0008】
このような問題を避けるためには、高浸透ホイールではなく、すなわちホイール外周に溝14がない
図6のようなノーマルホイール3を使用してスクライブラインを形成すれば、基板に対するホイール3の加圧荷重は均一になるが、クラックの浸透深さが浅くなってしまう。すなわち、
図7に見られるように、基板1の厚さtの10分の1程度しか垂直クラックが浸透しない。
【0009】
基板1の厚さ方向への垂直クラックを浸透させるために、ブレイクバー等による圧力や曲げ応力を利用したブレイク作業を行う。この場合、浅いクラックの先端から厚さ方向にクラックが進行する時、垂直方向の直進性が保障されにくく、
図7のように分断面24が左右に逃げるように形成され、結局、品質不良を招くことになる。
【0010】
一方で、刃先に溝加工のないノーマルホイール3の場合には、基板の表面に均一な荷重が加えられ、高浸透ホイールのような応力集中や応力ばらつきによる不良は起きにくい。
【0011】
したがって、スクライブラインが交差する地点では高浸透ホイールに比べて破損が少ないものの、前述したように、垂直クラックが浅いので、基板の分断時に不良が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国登録特許公報10−0573986号
【特許文献2】韓国登録特許公報10−1365049号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前記問題点を解決するために発明したものであって、本発明の目的は、良質の基板製品を生産するために、ノーマルホイールを使用して基板表面へのダメージを最小化し、併せて深いクラックを発生するようにして前記ノ−マルホイールの短所を補完しながら高浸透ホイールの長所のみを採択できるようにした。
【0014】
本発明の別の目的は、ノーマルホイールによる基板の塑性変形深さを制御し、垂直クラックが深く形成されるようにすることにある。
【0015】
本発明のまた別の目的は、スクライブラインが交差する地点で基板の損傷が発生しないようにすることにある。
【0016】
本発明のまた別の目的は、サーボモータを利用して、ホイールの基板に対する塑性変形深さを変化させ、如何なる脆性基板に対しても最適なスクライブラインが形成されるように制御できるようにしたことにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を解決するための本発明の主要構成は、基板分断のために基板の上面にスクライブラインを形成するスクライブライン形成方法であって、ノーマルホイールを使用し、前記ノーマルホイールによる基板の表面の塑性変形深さが間欠的に深くまたは浅くなるように前進走行しつつスクライブラインを形成
し、前記ノーマルホイールによる基板の塑性変形深さは、サーボモータを利用した前記ノーマルホイールの昇下降動作によって制御され、後続の前記ノーマルホイールが既設のスクライブラインを横断する交差点に到達する前に、前記基板の特性または寸法により、形成しようとするスクライブラインの軌跡を調節して設定することができることを特徴とする。
【0018】
本発明の別の特徴は、既設のスクライブラインを後続の前記ノーマルホイールが横断する交差点では、後続の前記ノーマルホイールによる基板の塑性変形深さを前記既設のスクライブラインより浅く形成することを特徴とする。
【0019】
本発明のまた別の特徴は、前記基板においてスクライブラインが交差しない地点では、前記ノーマルホイールによる基板の塑性変形深さを深くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
通常、ノ−マルホイールを使用すると、基板厚さの10%程度の垂直クラックしか発生しないが、本発明によると、高浸透ホイールと同等に基板厚さの80%程度まで垂直クラックが発生するという長所がある。
【0025】
また、本発明によると、分断する基板の分断面が極めて滑らかな高品質の基板を作り出すことができる。
【0026】
また、本発明によると、サーボモータによる精密制御で、基板の塑性変形深さを任意に制御することが可能であり、いかなる脆性材料も損傷なく分断可能である。
【0027】
また、本発明によると、損傷が発生しやすいスクライブラインの交差点においても損傷なく分断可能であり、基板の損失を減らし、資材節減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明によるスクライブ作業を説明する図である。
【
図2】基板を所望の大きさに分断するためにホイールを使用してスクライブ作業を実施することを説明する図である。
【
図5】高浸透ホイールの基板に対するスクライブ荷重を説明する図である。
【
図7】ノーマルホイールによるスクライブ後にブレイクを実施することを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を添付の図に基づいて詳述する。
図1は、ホイール3によって基板1の上面でスクライブ作業を行う場合の、ホイール3による基板1の塑性変形深さを説明するための図である。スクライブ作業は、基板1の分断前の段階で行う工程であり、ホイール3を使用して基板1にスクライブラインを形成する作業である。
【0030】
図示したように、本発明によると、ホイール3が基板1の上面を走行しながらスクライブ作業を行う時、基板1の塑性変形深さ(基板が押された後、元の位置に戻らない深さ)を周期的に深くまたは浅く浸透するようにする。このような塑性変形深さの調節は、サーボモータを利用したホイール3の精密な昇下降動作の制御により可能である。
【0031】
基板の塑性変形領域の深さが重要である理由は、塑性変形深さを知ることができれば基板の垂直クラックの深さを最大限深く形成させることができる限界値を知ることができるからである。したがって、本発明によると、たとえノーマルホイールを使用してスクライブラインを形成しても、基板の垂直クラックの深さを基板厚みの80%まで進行させることができた。
【0032】
図1でホイール3の深さが浅く入る部分は、
図2に見られるように、基板1のスクライブライン5が重なる交差点2の部分である。この交差点2では、部分的な破損が生じたり不規則なクラックが発生したりしやすい。よって、この交差点2では、ホイール3による基板1の塑性変形深さを浅くし、ひび割れや細かい破損等の損傷の発生を最小化する。
【0033】
従来では、ホイールによる基板の塑性変形深さは基板厚さの10%程度になるようにしていた。本発明では、ホイール3による基板1の塑性変形深さは、基板厚さの10%以上になるようにしている。
【0034】
本発明では、ホイールに3による基板1の塑性変形深さを、基板1の厚さの10%以上の深さにするが、深さに対する範囲を与えるとすれば、基板1の厚さの10%〜20%程度の深さとなる。この深さ以下であれば、分断がうまくなされず、それ以上であれば基板1の厚さ方向に不本意なクラックが発生することもあり、また不要な動力消耗が大きくなるので好ましくない。具体的な実施例では、一般的なホイール3による基板1の塑性変形深さは2〜5μm程度が好ましい。この範囲にすると、垂直クラックを基板厚さの約80%まで与えることができ、基板の分断面を綺麗に仕上げることができる。
【0035】
図3は、
図1のホイール3が走行する際の基板1の塑性変形深さの他の実施例である。
【0036】
図示したように、ホイール3による基板1の塑性変形深さの軌跡は、スクライブライン5の交差点2を頂上とする波状をなすか、または台形状、山状等の様々な形状の軌跡を描く。
【0037】
脆性材料の特性によって、または分断しようとする基板の寸法によって、ホイール3が交差点2に到逹する前に、その周辺位置で基板の表面に損傷を与えることを予め把握してスクライブラインの軌跡を調節して設定することができる。このようなホイール3による基板1の塑性変形深さの調節は、サーボモータの作動による精密制御により調節することができる。
【0038】
したがって、如何なる材質の脆性材料でも、または基板1を如何なる寸法に分断する場合でも、ホイール3による基板1の塑性変形深さを調節することにより、基板1に損傷を与えることなく綺麗な分断面を有するスクライブラインを形成することができる。
【0039】
一方、ホイール3による基板1の塑性変形深さの制御の代わりに、ホイール3の基板1に対する加圧力の変化でスクライブラインを形成することもできる。しかし、この場合、単にホイール3は、基板1に対して加圧力のみの変化を与えるものであるので、基板1の塑性変形深さを正確に制御することができない。ホイール3による基板1の塑性変形深さが正確に分かれば、基板1の損傷がどの程度の塑性変形深さで発生するかが明確に分かるが、加圧力のみでは正確に分からないという短所がある。したがって、スクライブライン形成時にホイールによる基板の塑性変形深さを制御することが基板の損傷を最も確実に防ぐことができる。
【0040】
以上のように、本発明によると、ノーマルホイールを使用して基板の表面へのダメージを最小限にしながらも基板の分断面が綺麗になるようにし、また、スクライブラインの交差点での破損も最小化することができる。
【0041】
併せて、スクライブ作業時、ノーマルホイールを使用しながらも基板の垂直クラックを深くすることができ、基板の分断が上手くなされ、基板の分断面の端部分で屑や破損が発生して分断面が粗くなるという不良発生も防止することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
2 交差点
3 ホイール
5 スクライブライン
14 溝