(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
[電動工具10の構成例]
図1は本発明の一実施の形態に係る電動工具10の平面構成の一例を示し、
図2はその断面構成の一例を示している。なお、
図1および
図2において、紙面の左側を電動工具10の前方とし、紙面の右側を電動工具10の後方とする。
【0011】
本発明に係る電動工具10は、DCブラシレスモータ(以下、モータ20という)を駆動源とするインパクトドライバである。電動工具10は、
図1および
図2に示すように、筒状の電動工具本体(ハウジング)12と電動工具本体12の下部から略鉛直方向に延びるグリップ16とを備えている。電動工具本体12の側面部には、モータ20の回転を正回転または逆回転に切り替えるための正逆切替スイッチ60が設けられている。
【0012】
電動工具本体12には、モータ20と、冷却ファン22と、減速機40と、スピンドル42と、ハンマ44と、アンビル46とがそれぞれ内蔵されている。モータ20は、例えばDCブラシレスモータから構成され、電動工具本体12の後部に設けられている。本発明に開示されるモータ20は、電気部品の一例である。
【0013】
冷却ファン22は、モータ20の後方であって、モータ20の回転軸20aの同軸上に設けられている。冷却ファン22は、モータ20の回転に伴って回転し、電動工具本体12の側面部に設けられた吸込口から外気を吸い込んでモータ20を冷却し、吸い込んだ空気を電動工具本体12の側面部に設けられた排気孔から外部に排出する。
【0014】
減速機40は、モータ20の前方に設けられ、モータ20の回転軸20aに接続されている。減速機40は、遊星歯車機構を構成し、モータ20の回転に伴って回転してモータ20の回転を減速させてスピンドル42にモータ20の動力を伝達する。
【0015】
ハンマ44は、スピンドル42の回転を回転打撃力に変換し、変換した回転打撃力をアンビル46に伝達する。具体的には、ねじ締め動作時(モータ20の起動時)に後述する出力軸46aに設定トルク以上の外部トルク(ねじ締め抵抗)が付与されると、ハンマ44が圧縮ばね45を圧縮しながら後退することでアンビル46とハンマ44との回転方向の係合が一時的に解除され、その後、圧縮はね45が復元する力でハンマ44が前進すると共に、ハンマ44がアンビル46を回転方向に打撃する。
【0016】
アンビル46は、電動工具本体12の先端部に設けられ、図示しないドライバビット(先端工具)が装着可能な出力軸46aを有している。出力軸46aにドライバビットを取り付けた状態でモータ20を回転駆動させると、モータ20の駆動力によりドライバビットが回転すると共に打撃されるようになっている。
【0017】
グリップ16は、電動工具10を把持するための部位である。グリップ16の下部には、電池70を着脱可能に取り付けることが可能な電池パック取付部18が設けられている。
図1および
図2では、電池パック取付部18に電池70が取り付けられた状態を示す。電池70には、残量ゲージが設けられており、電池残量が視認できるようになっている。
【0018】
電池パック取付部18の前方に張り出した部位の上面部には、操作パネル24が設けられている。操作パネル24は、打撃モードを切り替えるためのモード設定ボタン等を有している。
【0019】
スイッチ30は、グリップ16の上部前方側であって、ユーザーがグリップ16を把持したときに人差し指がかかる位置に設けられている。ユーザーによるスイッチ30の押圧動作(引き操作)に応じてモータ20の回転量がコントロールできるようになっている。
【0020】
[スイッチ30の構成例]
図3および
図4は、スイッチ30の構成の一例を示している。
図3および
図4に示すように、スイッチ30は、トリガ300と、センサユニット310と、固定部材350と、温度センサ(温度測定部)80と、規制部370,372,380とを備えている。
【0021】
トリガ300は、ユーザーが電動工具10をオン/オフしたりモータ20の回転量を調整するための部材であって、ユーザーが指で押圧し易いように前面側が湾曲形状となっている。トリガ300の後面(裏面)には、センサユニット310側に突出する突出部300aが設けられている。突出部300aは、ユーザーによるトリガ300の押圧操作に応じてセンサユニット310側に移動して後述する荷重センサ320を押圧する。また、トリガ300と後述する荷重センサカバー部材330との間にはコイルばね362が介挿されており、トリガ300を押圧方向Rとは反対側に付勢している。
【0022】
センサユニット310は、荷重センサ320と、荷重センサカバー部材330と、荷重センサ支持部材340とを備えている。
図5は、荷重センサ320の断面構成の一例を示している。
図5に示すように、荷重センサ320は、封止カバー322と、感圧導電性弾性部材324と、基板326とを有している。
【0023】
封止カバー322は、例えば弾性的に撓み変形が可能な軟質樹脂材等からなり、押圧部322aとこれに一体形成されたシール部322bとを有している。押圧部322aは、前面側および後面側のそれぞれが半球状(ドーム状)に突出しており、前面側の突出部がトリガ300により押圧されることで弾性的に進退移動し、後面側の突出部が感圧導電性弾性部材324を押圧する。押圧部322aは、誤動作を防止するために、トリガ300の突出部300aとは距離D1だけ離間するように設けられている(
図4参照)。シール部322bは、基板326の外縁部の全周を囲むように設けられ、荷重センサ320内における防水性を確保する機能を有している。
【0024】
感圧導電性弾性部材(可動接点)324は、封止カバー322と基板326との間に配置され、弾性的に撓み変形が可能な板状の導体性部材から構成されている。導電性部材としては、例えば、金属性導電部材の他、圧力に応じて電気伝導度が変化する感圧性の導体部材、例えば、カーボンや金属粉、金属蒸着粉等の導電性微粒子がゴム材中に分散された感圧部材を好適に用いることができる。感圧導電性弾性部材324は、封止カバー322から受ける押圧力によって撓むことで基板326に当接する。なお、本実施の形態では、感圧導電性弾性部材(可動接点)324と封止カバー322とを接触させた状態で構成しているが、これらを離間させた構成とすることもできる。
【0025】
基板326は、例えばガラスエポキシ板等の材料からなり、感圧導電性弾性部材324と一定の距離D2をあけて配置されている。基板326の前面側には、固定接点をなす複数の導体パターン(図示省略)が形成されている。基板326では、感圧導電性弾性部材324が導電パターンに当接した状態から圧縮されると、圧縮荷重(変形量)に応じて抵抗値が変化して導通し、基板326に接続された配線360を介して導通に基づく電気信号を後述する制御装置50に出力する。荷重の増加により感圧導電性弾性部材324の変形量が増加すると、抵抗値が減少する。これにより、ユーザーによるトリガ300の押圧力に応じた荷重に対する抵抗値を検出することができる。
【0026】
図3および
図4に戻り、荷重センサカバー部材330は、荷重センサ320を覆うことで荷重センサ320の密閉性および防水性を確保するものである。荷重センサカバー部材330は、円筒部332と、これに一体形成されたフランジ部334とから構成されている。円筒部332は、押圧部322aを露出させることで突出部300aによる押圧部322aの押圧を可能とする。フランジ部334は、円筒部332の外縁から外方に張り出すと共に、封止カバー322の外縁部の全周を覆うように設けられている。
【0027】
荷重センサ支持部材340は、荷重センサ320を支持するための部材であり、円筒部342とこれに一体形成されたフランジ部344とを有している。円筒部342は、段差部を有する円筒部材であって、大径円筒部342aとこれに連なる小径円筒部342bとから構成されている。フランジ部344は、大径円筒部342aの前方外縁から張り出しており、荷重センサカバー部材330のフランジ部334および封止カバー322のシール部322b(
図5参照)のそれぞれに当接している。
【0028】
荷重センサカバー部材330のフランジ部334と荷重センサ支持部材340のフランジ部344とは、封止カバー322のシール部322bを挟み込んだ状態で、ねじ366,368により締結されている。これにより、荷重センサ320が荷重センサカバー部材330および荷重センサ支持部材340に内包された一体型のユニット構造(センサユニット310)となり、荷重センサ320の密閉性や防水性が確保される。
【0029】
固定部材350は、電動工具本体12内に設けられた図示しない取り付け部に固定され、トリガ300およびセンサユニット310の押圧方向Rにおける移動を規制する。固定部材350は、センサユニット310の移動をガイドするためのガイド部350aを有している。ガイド部350aは、固定部材350の内周面に設けられ、円筒部342の外周面に接することでセンサユニット310の直線的な押圧方向Rへの移動を可能としている。荷重センサ支持部材340の小径円筒部342bの外周面と固定部材350の内周面との間にはバネ364が介挿されており、センサユニット310がコイルばね364によって弾性的に支持されている。
【0030】
コイルばね364は、荷重センサ320に対して同軸上に配置され、ユーザーのトリガ300の押圧により荷重センサ320に一定以上の荷重が加えられた際に弾性変形する。これにより、センサユニット310を固定部材350に対して移動可能な構成とすることができると共に、トリガ300が受けた押圧力を正確に荷重センサ320に伝達することができるので、荷重センサ320の感度を向上させることができる。なお、本発明に開示されるコイルばね364は、弾性部材の一例である。
【0031】
温度センサ80は、例えばサーミスタから構成され、荷重センサ320を構成する基板326の後面(裏面)側に設けられている。なお、温度センサ80は、荷重センサ320の温度を測定することに限定されることはなく、電動工具10の電源投入後の使用状態での周囲温度を測定するようにしても良い。周囲温度には、例えば、電動工具本体12内における荷重センサ320の周囲の温度や、電動工具本体12の周辺の環境温度等が含まれる。この場合、温度センサ80を取り付ける場所を適宜変更することが好ましい。
【0032】
規制部370,372は、
図4に示すように、スイッチ30の内側の上部および下部のそれぞれに設けられ、ユーザーの押圧によるトリガ300の移動距離をセンサユニット310の最大移動距離未満に規制するものである。
【0033】
規制部370は、トリガ300に設けられた突出部302と、固定部材350に設けられたトリガ300の押圧方向Rに延びる長孔352とから構成されている。突出部302は、トリガ300の内面側から固定部材350側に突出した円柱状部材であって、長孔352にスライド可能に係合されている。長孔352内におけるトリガ300の突出部302の移動距離(ストローク)D3は、センサユニット310の押圧方向Rへの最大移動距離(ストローク)未満である。
【0034】
規制部372については、規制部370と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。規制部372は、突出部304と、長孔354とから構成されている。突出部304は、長孔354にスライド可能に係合されている。長孔354内におけるトリガ300の突出部304の移動距離D4は、センサユニット310の押圧方向Rへの最大移動距離未満である。なお、移動距離D3は移動距離D4と等しい。
【0035】
規制部380は、スイッチ30の後部に設けられ、センサユニット310のコイルばね364に対する抜けを防止すると共にセンサユニット310の移動量を規制するものである。規制部380は、固定部材350に設けられた突出部356と、荷重センサ支持部材340に設けられたフック部342cとから構成されている。
【0036】
フック部342cは、下方に窪んだ凹部を有し、荷重センサ支持部材340の後端部に一体形成されている。突出部356は、固定部材350の内面側から荷重センサ支持部材340側に向かって突出した円柱状部材であって、フック部342cに移動可能に係合されている。フック部342c内における突出部356の移動距離D5は、トリガ300のストロークが限界に達したとしてもセンサユニット310が移動可能な長さに設定される。
【0037】
[スイッチ30の動作例]
次に、スイッチ30の動作の一例について
図3〜
図6を参照して説明する。
図6は、スイッチ30の引き操作時における動作の一例を示している。トリガ300がユーザーにより押圧される前の状態では、トリガ300と封止カバー322とは距離D1だけ離間していると共に、感圧導電性弾性部材324と基板326とは距離D2だけ離間している。この場合、荷重センサ320は、非導通の状態である。また、トリガ300が押圧される前では、コイルばね364によりセンサユニット310がトリガ300側に付勢されるが、突出部356によりフック部342cが係止される。これにより、センサユニット310の固定部材350からの抜けを防止できる。
【0038】
ユーザーによりトリガ300が押圧操作されると、トリガ300が押圧方向Rに移動していき、トリガ300の突出部300aが封止カバー322の押圧部322aに当接して押圧する。トリガ300がさらに押圧されると、封止カバー322の押圧部322aが感圧導電性弾性部材324を押圧する。これにより、感圧導電性弾性部材324が弾性変形して撓んで基板326に接触する。つまり、トリガ300(突出部302,304)は、距離D1,D2で許容される変位量だけ押圧方向Rに移動する。
【0039】
また、ユーザーによりさらにトリガ300が押圧操作され、コイルばね364の取付け荷重以上の荷重がトリガ300に加えられると、
図6に示すように、コイルばね364が圧縮されて荷重センサ320を内包するセンサユニット310が押圧方向R(後方)に移動していく。センサユニット310が距離D3だけ移動すると、突出部302,304を含むトリガ300の移動が長孔352,354によって規制される。つまり、センサユニット310のストローク限界よりも先にトリガ300の方がストローク限界に到達する。これにより、荷重センサ320にコイルばね364以上の荷重が加わることを防止できる。
【0040】
また、トリガ300が規制部370,372によって規制される最大距離を移動した場合でも、フック部324c内の突出部356がまだ距離D6だけ移動可能な状態となっている。つまり、センサユニット3
10が固定部材350に対して距離D6だけ余裕を持った状態で移動可能な構成となっている。これにより、荷重センサ320に対して過大な負荷がかかった場合でも荷重センサ320の破損等を防止することができる。
【0041】
[電動工具10のブロック構成例]
図7は、電動工具10の機能構成の一例を示すブロック図である。
図7に示すように、電動工具10は、電動工具10の全体動作を制御するための制御装置50を備えている。制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)52、ROM(Read Only Memory)54およびRAM(Random Access Memory)56を主として構成されるマイクロコンピュータ(マイコン)である。制御装置50は、ROM54等に予め記憶されたプログラムに従ってスイッチ30の劣化等による誤差を補正する補正動作やモータ20の駆動制御等を実行する。
【0042】
制御装置50には、荷重センサ320と、温度センサ80と、正逆切替スイッチ60と、モータ20と、照明装置62と、操作パネル24と、電池70と、記憶部90とがそれぞれ接続されている。
【0043】
荷重センサ320は、ユーザーによるトリガ300の押圧力に応じた荷重を検出し、検出に基づく検出信号を制御装置50に供給する。温度センサ80は、荷重センサ320の温度(周辺温度)を検出して温度情報を制御装置50に供給する。正逆切替スイッチ60は、ユーザーによる正回転または逆回転の切り替え操作に基づく切替信号を制御装置50に供給する。
【0044】
モータ20は、制御装置50から供給される駆動信号に基づいて回転駆動する。照明装置62は、例えば、電動工具本体12に設けられた複数のLEDから構成され、制御装置50から供給される駆動信号に基づいて点灯または消灯する。操作パネル24は、制御装置50の指示に基づいて表示切り替えを行う。
【0045】
電池70は、制御装置50等の各構成部に対して電力を供給する。記憶部90は、例えば不揮発性の半導体メモリ等から構成され、基準値となる荷重および抵抗値を示す荷重−抵抗値特性や、温度毎に設定された荷重および抵抗値を示す複数の荷重−抵抗値特性が格納されたテーブルを記憶する。例えば、温度としては、−10℃,0℃,25℃,30℃,40℃毎に荷重−抵抗値特性を設定することができる。なお、荷重−抵抗値特性を関数式として予め設定しておき、リアルタイム演算により荷重に対する抵抗値を算出するようにしても良い。
【0046】
[荷重−抵抗値特性について]
荷重センサ320は、劣化や温度変化により荷重に対する出力特性が変化してしまうという問題がある。
図8は、荷重センサ320により検出される荷重と抵抗値との関係の一例を示すグラフである。
図8において、実線は荷重センサ320の劣化前の荷重−抵抗値特性(基準値)を示し、破線は荷重センサ320の劣化後の荷重−抵抗値特性を示している。縦軸は抵抗値であり、横軸は荷重である。
【0047】
図8に示すように、劣化前の荷重−抵抗値特性では、荷重センサ320により検出される荷重が大きくなるほど、荷重に対する抵抗値が小さくなっている。一方、劣化後の荷重−抵抗値特性では、荷重センサ320により検出される荷重が大きくなると、抵抗値は小さくなるが、劣化前と比較すると荷重に対する抵抗値の下がり方が鈍感になり、劣化前よりも抵抗値が大きくなっている。その結果、少ない荷重でモータ20の回転数が上昇してしまい、荷重に応じた正確なモータ20の回転数を得ることができないという問題があった。
【0048】
そこで、本実施の形態では、一定の荷重における抵抗値を検出し、この検出した抵抗値と基準値との差分を補正値とし、以降に荷重センサ320により検出される荷重に対する抵抗値に補正値を反映させることで、荷重センサ320の劣化等により生じる出力誤差の補正を行っている。ここで、本実施の形態における一定の荷重とは、荷重調整機構としてのコイルばね364を介して得られる最大の荷重を意味している。
【0049】
例えば、
図8に示すように、一定の荷重を1000(gf)とした場合において、荷重センサ320により検出される荷重が約1000(gf)に達した場合の抵抗値R1を取得する。続けて、荷重が1000(g
f)の場合の基準値としての抵抗値R2と取得した抵抗値R1との差分Cを算出し、この差分Cを劣化等により生じる出力誤差を補正するための補正値とする。劣化前の荷重−抵抗値特性と劣化後の荷重−抵抗値特性とは、ほぼ同じずれ量で推移するため、他の荷重における抵抗値に対しても同じ補正値を用いることができる。もちろん、算出した補正値を検出される荷重毎にさらに補正するようにしても良い。なお、一定の荷重は、採用するコイルばね364等により任意に設定可能であり、上述した1000(gf)に限定されるものではない。
【0050】
ここで、荷重センサ320に与えられる荷重が一定の荷重に達したかの判断は、以下のように行うことができる。電動工具10は所定以上の負荷が掛かると、ハンマ44がアンビル
46に回転打撃を与えてネジ締めを行う。打撃によって生じる衝撃は、荷重センサ320にも伝わるため、荷重センサ320により検出される荷重の信号が周期的に変動する。このとき、トリガ300を強く握るほど荷重センサ320が安定するため、トリガ300を強く握った時は荷重センサ320によって検出される抵抗値の変動(振幅)は小さくなり、トリガ300の握りが弱いときは、抵抗値の変動(振幅)が大きくなる。そこで、本実施の形態では、トリガ300の保持力に応じて変化する抵抗値の振幅の変化に着目し、この抵抗値の振幅が予め設定された閾値以下となった場合に、荷重センサ320に与えられる荷重が一定の荷重(最大荷重)に到達したと判断する。
【0051】
[電動工具10の動作例(その1)]
図9は、荷重センサ320の劣化を考慮した場合における電動工具10の補正動作の一例を示すフローチャートである。以下に示す電動工具10の補正動作は、制御装置50(CPU52)が、ROM54に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0052】
図9に示すように、ステップS100において、制御装置50は、ユーザーによりトリガ300の操作が行われたか否かを判断する。制御装置50は、ユーザーによりトリガ300の操作が行われていないと判断した場合、ユーザーによるトリガ300の操作が行われるまで待機する。一方、制御装置50は、ユーザーによりトリガ300の操作が行われたと判断した場合、ステップS110に進む。
【0053】
ステップS110において、荷重センサ320は、ユーザーのトリガ300の押圧力に応じた荷重を検出する。制御装置50は、荷重センサ320により検出された荷重に対する抵抗値を算出する。ステップS110が終了したら、ステップS120に進む。
【0054】
ステップS120において、制御装置50は、算出した抵抗値の振幅が予め設定された閾値以下になったか否かを判断する。つまり、荷重センサ320により検出される荷重が一定の荷重(最大荷重)に達したか否かを判断する。制御装置50は、取得した抵抗値の振幅が閾値以下ではない場合、すなわち抵抗値の振幅が閾値を超えている場合、一定の荷重に到達していないと判断してステップS110に戻り、抵抗値の振幅を継続して監視する。一方、制御装置50は、取得した抵抗値の振幅が閾値以下になったと判断した場合、ステップS130に進む。
【0055】
ステップS130において、制御装置50は、一定の荷重に達した場合における抵抗値を取得する。つまり、ユーザーのトリガ300の押圧操作により荷重センサ320に対して最大の荷重が掛かったときの抵抗値を取得する。ステップS130が終了したら、ステップS140に進む。
【0056】
ステップS140において、制御装置50は、予め設定された基準値(荷重−抵抗値特性)を記憶部90から読み出し、読み出した基準値と取得した抵抗値との比較結果に基づく補正値を算出する。基準値とは、例えば、荷重センサ320に劣化が生じる前(出荷前)に取得した荷重センサ320の正常な抵抗値である。ステップS140が終了したら、ステップS150に進む。
【0057】
ステップS150において、制御装置50は、以降のユーザーのトリガ300の押圧に応じて荷重センサ320により検出される抵抗値(出力)を、算出した補正値を用いて補正する。制御装置50は、補正後の抵抗値に基づく電圧信号をモータ20に出力することで、荷重センサ320の劣化に影響されないモータ20の回転駆動を実現することができる。
【0058】
[電動工具10の動作例(その2)]
図10は、荷重センサ320の温度変化を考慮した場合における電動工具10の補正動作の一例を示すフローチャートである。本補正動作は、例えば、荷重センサ
320の荷重が一定の荷重に到達しない場合であって、かつ、気温の高い現場で作業を行った後に、気温の低い現場に移動して作業を行う場合に好適に適用できる。また、例えば、寒暖差の大きい季節において、日中に作業を行った後に、夜間に作業を行う場合にも好適に適用できる。
【0059】
以下に示す電動工具10の補正動作は、制御装置50(CPU52)が、ROM54に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。具体的には、ステップS200において、制御装置50は、ユーザーによりトリガ300の操作が行われたか否かを判断する。制御装置50は、ユーザーによりトリガ300の操作が行われていないと判断した場合にはユーザーの操作の有無を継続して監視する。一方、制御装置50は、ユーザーによりトリガ300の操作が行われたと判断した場合、ステップS210に進む。
【0060】
ステップS210において、温度センサ80は、制御装置50の起動に伴い、荷重センサ320の温度を測定する。ステップS210が終了したら、ステップS220に進む。
【0061】
ステップS220において、制御装置50は、温度センサ80により測定された荷重センサ320の温度に対応する基準となる荷重−抵抗値特性(基準値)を、温度毎に記憶されている複数の荷重−抵抗値特性の中から選択して読み出す。ステップS220が終了したら、ステップS230に進む。
【0062】
ステップS230において、制御装置50は、ユーザーのトリガ300操作の押圧力に応じた荷重を荷重センサ320から取得し、取得した荷重に対する抵抗値を算出する。例えば、トリガ300の1回目の動かし始めや、ねじ締めをしない状態でトリガ300の引き操作を行う場合等が挙げられる。ステップS230が終了したら、ステップS240に進む。
【0063】
ステップS240において、制御装置50は、記憶部90から読み出した荷重−抵抗値特性に基づいて、ユーザーの押圧力に応じた荷重と一致する荷重に対応付けられた基準となる抵抗値を取得する。ステップS240が終了したら、ステップS250に進む。
【0064】
ステップS250において、制御装置50は、ユーザーの押圧力に応じた荷重に対する抵抗値と、荷重−抵抗値特性から取得した抵抗値の基準値とを比較して補正値を算出する。ステップS250が終了したら、ステップS260に進む。なお、荷重センサ320の出力値と基準値との比較を行って、出力が基準値に対して大きくかけ離れている場合、異常であると判断して報知するようにしても良い。報知手段は、例えば、音声やブザー音であっても良いし、LED等による点灯表示等であっても良い。それにより、電動工具10に異常が生じていることを把握できる。
【0065】
ステップS260において、制御装置50は、ユーザーのトリガ300の押圧に応じて荷重センサ320により検出される抵抗値を、算出した補正値を用いて補正する。制御装置50は、補正後の抵抗値に基づく電圧信号をモータ20に出力することで温度変化に影響されないモータ20の回転駆動を実現することができる。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態によれば、検出した荷重に対する抵抗値と、基準値との差に基づいた出力補正を行うので、荷重センサ320の劣化や、使用環境下の温度変化に影響されることなく、スイッチ30の安定した操作感を得ることができる。例えば、従来、ゴム式の荷重センサ320を用いた場合において、温度変化によりゴムの硬さが変化してしまい、モータ20の所望の回転が得られない場合があったが、本実施の形態によれば、環境温度毎に基準となる荷重−抵抗値特性を持ち、温度に応じた補正を行うので、温度変化に関係なく、高精度な操作を行うことができる。
【0067】
また、本実施の形態によれば、例えば、電動工具10の使用開始時において
図10に示した補正動作を実行し、電動工具10の使用開始後は
図9に示した補正動作を実行することができる。これにより、電動工具10の使用開始時のように荷重センサ320が一定の荷重に達しないような場合であっても、荷重に対する抵抗値を正確に補正することができる。なお、
図9および
図10に示した補正動作は、一方の補正動作のみを電動工具10に組み込むようにしても良いし、両方の補正動作を電動工具10に組み込むようにしても良い。
【0068】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。例えば、荷重センサ320の一例として感圧ゴム式の荷重センサを用いた例について説明したが、これ以外にも、半導体式の荷重センサや、歪ゲージ式の荷重センサを用いた場合でも本発明を適用することができる。
【0069】
また、上述した実施の形態では、温度変化を考慮した出力補正を行う場合に、温度毎に荷重−抵抗値特性や関数式を持つようにしたが、これに限定されることはない。例えば、ユーザーの好みに応じた複数の荷重−抵抗値特性(出力特性)や関数式を持つようにしても良い。具体的には、軽い引き操作で強い出力を得たいユーザーや、その逆に重い引き操作でそれ相応の出力を得たいユーザー等のそれぞれに対応した補正動作を行うことが考えられる。
また、細かい作業をするときには、電動工具10のレスポンスを向上させるように、通常時よりもトリガ300の感度を敏感にするように補正しても良い。
さらには、トリガ300の引き方に依らず、引き始めはゆっくり回転を開始して、徐々に回転を上昇させるような駆動を可能にする補正や、素早く最高速度に到達させる補正など、荷重−出力特性を荷重域毎に変えても良いし、作業対象に応じた使い分けが容易にできるように、トリガ300の引き方に関わらず、所定の出力が得られるように出力(回転数)に上限を設けるなどの補正を行うことが考えられる。その際、予め記憶された複数の出力特性からユーザーの好みに応じた特性を選択可能にしても良いし、任意の荷重を記憶させるようにしておけば、使い勝手をさらに向上させることができる。
【0070】
また、上述した実施の形態では、一定の荷重時における出力を補正するようにしたが、これに限定されることはなく、例えば、予め設定された電動工具10の使用時間および操作回数の少なくとも一方の条件を満たした際に、荷重センサ320により検出される荷重に対する出力を補正するようにしても良い。この場合、補正値は、使用時間および操作回数に比例して設定することが好ましい。
【0071】
さらに、上述した実施の形態の規制部370,372において、突出部302,304と長孔352,354との関係を逆に構成することもできる。同様に、規制部380の突出部356とフック部342cとを逆に構成することもできる。また、荷重センサ320に与えられる荷重が一定の荷重に達したかの判断手法は、上述した実施の形態に限定されることはなく、変位センサを用いてトリガ300のストロークの最大量を検出するようにしても良い。