特許第6641923号(P6641923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6641923ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641923
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】ガラス材の製造方法及びガラス材の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/10 20060101AFI20200127BHJP
【FI】
   C03B19/10 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-229588(P2015-229588)
(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公開番号】特開2017-95309(P2017-95309A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
(72)【発明者】
【氏名】小谷 修
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−201032(JP,A)
【文献】 特開2009−096711(JP,A)
【文献】 特開平11−322348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/10
C03B 11/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料塊を略垂直方向に浮遊させた状態で、加熱溶融した後に冷却してガラス材を製造する方法であって、
前記ガラス原料塊を浮遊させるための複数のガス噴出孔が形成されたガス噴出部を有する成形部材と、前記ガス噴出部におけるガス噴出面の外周部を覆い、前記外周部近傍において前記ガス噴出孔から噴出したガスの流れを制御する制御面が形成され、かつ前記ガスを外部に排出するための開口部が形成されたカバー部材とを準備する工程と、
前記ガラス原料塊を前記ガス噴出面上に配置するとともに、前記カバー部材で前記ガス噴出面の外周部を覆う工程と、
前記ガス噴出孔からガスを噴出することにより、前記ガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱溶融し、その後冷却する工程とを備え
前記制御面の下方端と上方端を結ぶ傾斜が、前記下方端から前記上方端に向かうにつれて内側に傾く傾斜である、ガラス材の製造方法。
【請求項2】
前記制御面の下方端が、前記ガラス原料塊の溶融物の略水平方向の外側周縁部より外側に位置している、請求項1に記載のガラス材の製造方法。
【請求項3】
前記制御面の上方端が、前記ガラス原料塊の溶融物の略水平方向の外側周縁部より内側に位置している、請求項1または2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項4】
前記傾斜の角度が5°〜45°である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項5】
前記制御面の上方端は、前記ガラス原料塊の溶融物の略垂直方向における中心と同じ高さまたはそれより上方に位置している、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス材の製造方法。
【請求項6】
ガラス原料塊をガスにより略垂直方向に浮遊させた状態で、加熱溶融した後に冷却してガラス材を製造する装置であって、
前記ガラス原料塊を浮遊させるための複数のガス噴出孔が形成されたガス噴出部を有する成形部材と、
前記ガス噴出部におけるガス噴出面の外周部を覆い、前記外周部近傍において前記ガス噴出孔から噴出したガスの流れを制御する制御面が形成され、かつ前記ガスを外部に排出するための開口部が形成されたカバー部材と、
前記ガス噴出孔にガスを供給するガス供給手段と、
前記ガラス原料塊を加熱する加熱手段とを備え
前記制御面の下方端と上方端を結ぶ傾斜が、前記下方端から前記上方端に向かうにつれて内側に傾く傾斜である、ガラス材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無容器浮遊法によるガラス材の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス材の製造方法として、無容器浮遊法に関する研究がなされている。例えば、特許文献1には、ガス浮遊炉で浮遊させたバリウムチタン系強誘電体の試料にレーザービームを照射して加熱溶融した後に、冷却することにより、バリウムチタン系強誘電体の試料をガラス化させる方法が記載されている。このように、無容器浮遊法では、容器の壁面との接触に起因する結晶化の進行を抑制できるため、従来の容器を用いた製造方法ではガラス化させることができなかった材料であってもガラス化し得る場合がある。従って、無容器浮遊法は、新規な組成を有するガラス材を製造し得る方法として注目に値すべき方法である。
【0003】
特許文献2においては、複数のガス噴出孔を有する成形面を用いた無容器浮遊法を利用して、より大きなガラス材が得られている。大きなガラス材が得られると、用途展開の多様性が高まるため好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−248801号公報
【特許文献2】特開2014−141389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の方法よりも、さらに大きなガラス材を製造することができる方法が要望されている。
【0006】
本発明の目的は、大きなガラス材を製造することができる無容器浮遊法によるガラス材の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製造方法は、ガラス原料塊を略垂直方向に浮遊させた状態で、加熱溶融した後に冷却してガラス材を製造する方法であって、ガラス原料塊を浮遊させるための複数のガス噴出孔が形成されたガス噴出部を有する成形部材と、ガス噴出部におけるガス噴出面の外周部を覆い、外周部近傍においてガス噴出孔から噴出したガスの流れを制御する制御面が形成され、かつガスを外部に排出するための開口部が形成されたカバー部材とを準備する工程と、ガラス原料塊をガス噴出面上に配置するとともに、カバー部材でガス噴出面の外周部を覆う工程と、ガス噴出孔からガスを噴出することにより、ガラス原料塊を浮遊させた状態で加熱溶解し、その後冷却する工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
制御面の下方端は、ガラス原料塊の溶融物の略水平方向の外側周縁部より外側に位置していることが好ましい。
【0009】
制御面の上方端は、ガラス原料塊の溶融物の略水平方向の外側周縁部より内側に位置していることが好ましい。
【0010】
制御面の下方端と上方端を結ぶ傾斜は、下方端から上方端に向かうにつれて内側に傾く傾斜であることが好ましい。その場合、傾斜の角度は5°〜45°であることが好ましい。
【0011】
制御面の上方端は、ガラス原料塊の溶融物の略垂直方向における中心と同じ高さまたはそれより上方に位置していてもよい。
【0012】
本発明の製造装置は、ガラス原料塊をガスにより略垂直方向に浮遊させた状態で、加熱溶融した後に冷却してガラス材を製造する装置であって、ガラス原料塊を浮遊させるための複数のガス噴出孔が形成されたガス噴出部を有する成形部材と、ガス噴出部におけるガス噴出面の外周部を覆い、外周部近傍においてガス噴出孔から噴出したガスの流れを制御する制御面が形成され、かつガスを外部に排出するための開口部が形成されたカバー部材と、ガス噴出孔にガスを供給するガス供給手段と、ガラス原料塊を加熱する加熱手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無容器浮遊法により大きなガラス材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態の製造方法(製造装置)を説明するための模式的断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態における成形部材のガス噴出部及びカバー部材を示す模式的断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態における成形部材のガス噴出部及びカバー部材を示す模式的平面図である。
図4】本発明の第1の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。
図6】本発明の第3の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。
図7】本発明の第4の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。
図8】本発明の第5の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。
図9】本発明の第6の実施形態における成形部材のガス噴出部を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の製造方法(製造装置)を説明するための模式的断面図である。図1に示すように、ガラス原料塊1は、成形部材10のガス噴出部11のガス噴出面13の上方に浮遊した状態で配置されている。ガス噴出部11には、ガス噴出面13からガス32を噴出する複数のガス噴出孔12が形成されている。ガス噴出孔12からガス32が噴出することにより、ガラス原料塊1が略垂直方向(z方向)に浮遊している。ガス噴出孔12に、ガスボンベなどのガス供給手段31からガス32が供給されることにより、ガス噴出孔12からガス32が噴出する。ガス噴出面13は、凹球面状に形成されている。ガス噴出部11の上には、ガス噴出面13の外周部を覆うカバー部材20が設けられている。
【0017】
ガス32の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであってもよいし、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素を含有した還元性ガスであってもよい。
【0018】
成形部材10は、例えば、炭化ケイ素、超鋼、ステンレス、ジュラルミン、カーボン等により構成することができる。なお、ガス噴出部11がこれらの材料から構成され、ガス噴出部11以外の部分は他の材料から構成されていてもよい。
【0019】
上記のように、ガラス原料塊1を浮遊させた状態で、加熱手段であるレーザー照射装置30からレーザー光をガラス原料塊1に照射することにより加熱溶融してガラス化させ、その後、冷却することにより、ガラス材を得る。ガラス原料塊1を加熱溶融する工程と、ガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガス32の噴出を継続し、ガラス原料塊1またはガラス材がガス噴出面13に接触しないようにすることが好ましい。なお、ガラス原料塊1の加熱方法は、レーザー光を照射する方法に特に限定されない。例えば、ガラス原料塊1を輻射加熱してもよい。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態における成形部材のガス噴出部及びカバー部材を示す模式的断面図であり、図3は、模式的平面図である。図2に示すように、ガス噴出部11の上には、ガス噴出面13の外周部を覆うカバー部材20が設けられている。カバー部材20には、ガス噴出面13の外周部近傍においてガス噴出孔12から噴出したガスの流れを制御する制御面21が形成されている。本実施形態において、制御面21の下方端21aは、ガス噴出面13と接するように設けられている。また、本実施形態において、制御面21の下方端21aは、略水平方向(x方向及びy方向)において最も外側に設けられたガス噴出孔12より外側に位置するように設けられている。カバー部材20の上方には、ガス噴出孔12から噴出したガスを外部に排出するための開口部25が形成されている。開口部25は、制御面21の上方端21bに沿って形成されている。
【0021】
本実施形態において、制御面21は、下方端21aから上方端21bに向かうにつれて内側に傾斜するように形成されている。制御面21は、下方端21aと上方端21bを結ぶ傾斜の角度θが、5°〜45°となるように形成されていることが好ましい。傾斜角度θは、より好ましくは7°〜40°であり、特に好ましくは10°〜35°である。なお、傾斜角度θは、略垂直方向(z方向)に対する角度である。
【0022】
図3に示すように、略垂直方向(z方向)から見た場合、本実施形態のガス噴出部11、カバー部材20、及び開口部25は、円形形状を有している。本実施形態において、ガス噴出孔12は、略水平方向(x方向及びy方向)に、中心から外側に向かって放射状にかつ等間隔に並ぶように配置されている。
【0023】
ガス噴出孔12の孔径は3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましく、0.8mm以下であることが特に好ましく、0.5mm以下であることが最も好ましい。但し、ガス噴出孔12の孔径が小さすぎると、ガスが噴出しにくくなる場合がある。従って、ガス噴出孔12の孔径は、0.01mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましい。隣り合うガス噴出孔12の中心間距離は、0.02mm〜4mmであることが好ましく、0.1mm〜2mmであることがより好ましく、0.2mm〜1.6mmであることがさらに好ましく、0.2mm〜0.8mmであることが特に好ましい。
【0024】
本実施形態においては、図2に示すように、ガス噴出面13の外周部近傍に制御面21を設けることにより、ガス噴出孔12から噴出したガスの流れを制御することができる。具体的には、外周部近傍のガスを制御面21に沿ってA方向に流れるように制御することができる。
【0025】
図4は、本発明の第1の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。ガラス原料塊1をガス噴出部11のガス噴出面13の上に配置し、カバー部材20でガス噴出部11のガス噴出面13の外周部を覆う。次に、ガス噴出孔12からガスを噴出することにより、ガラス原料塊1を浮遊させた状態で加熱溶融する。ガラス原料塊1を加熱溶融することにより、ガラス溶融物2にする。図4は、ガラス溶融物2を、ガス噴出面13の上に浮遊させた状態を示している。
【0026】
ガラス原料塊1を加熱溶融することによりガラス化してガラス溶融物2とした後、ガラス溶融物2を冷却し、ガラス材を得ることができる。
【0027】
上述のように、本実施形態では、ガス噴出面13の外周部近傍に制御面21を設けることにより、ガス噴出孔12から噴出した外周部近傍のガスを制御面21に沿ってA方向に流れるように制御することができる。これにより、外周部近傍のガスの流れを内側に向けることができる。また、外周部近傍のガスの流速を、中央部のガスの流速よりも速くすることができる。したがって、外周部近傍のガスの流れを内側に向けるとともに、その流速を速くすることができる。これにより、ガラス溶融物2の外周部近傍にガスによる壁を形成することができる。このような壁を形成することにより、ガラス溶融物2をガスの壁の内側に留めることができ、浮遊状態にあるガラス溶融物2が位置ずれして成形部材10のガス噴出面13などに接触するのを防止することができる。
【0028】
大きなガラス材を製造するため、ガラス溶融物2を大きくすると、ガラス溶融物2が位置ずれして成形部材10などに接触しやすくなる。このため、従来の無容器浮遊法では、大きなガラス材を製造することができないという問題があった。本発明によれば、ガラス溶融物2が大きくなっても、ガラス溶融物2をガスの壁の内側に留め、位置ずれを抑制することができるので、大きなガラス材を製造することができる。
【0029】
図4に示すように、制御面21の下方端21aは、ガラス溶融物2の略水平方向の外側周縁部より外側に位置していることが好ましい。これにより、ガラス溶融物2の外側周縁部の外側におけるガスの流れを制御することができる。制御面21の下方端21aの位置は、ガラス溶融物2の略水平方向の直径の1.05倍〜1.6倍の直径を有する同心円の円周の位置であることが好ましい。より好ましくは1.06倍〜1.55倍、さらに好ましくは1.08倍〜1.5倍である。このような範囲内とすることにより、ガラス溶融物2の外側周縁部近傍のガスの流れを制御することができる。
【0030】
また、制御面21の上方端21bは、ガラス溶融物2の略水平方向の外側周縁部より内側に位置していることが好ましい。これにより、ガラス溶融物2の外側周縁部近傍のガスの流れを内側に向けることができる。制御面21の上方端21bの位置は、ガラス溶融物2の略水平方向の直径の0.4倍〜1.6倍(ただし1.6倍は含まない)の直径を有する同心円の円周の位置であることが好ましい。より好ましくは0.45倍〜1.55倍、さらに好ましくは0.5倍〜1.5倍である。このような範囲内とすることにより、ガラス溶融物2の外側周縁部近傍のガスの流れを制御することができる。
【0031】
本実施形態では、制御面21の傾斜角度をθ>0°とし、制御面21が下方端21aから上方端21bに向かうにつれて内側に傾斜するように形成している。これにより、外周部近傍のガスの流れを内側に向けることができ、ガラス溶融物2の位置ずれをより効果的に抑制することができる。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、制御面21を略垂直方向に形成した場合にも、外周部近傍のガスの流速を中央部のガスの流速よりも速くすることができる。したがって、外周部近傍にガスの壁を形成することができるので、ガラス溶融物2の位置ずれを抑制することができる。
【0032】
制御面21の上方端21bの位置は、浮遊状態にあるガラス溶融物2の略垂直方向における中心と同じ高さまたはそれより上であることが好ましい。これにより、ガス噴出孔12から噴出したガスの流れにより、ガラス溶融物2の位置ずれを効果的に抑制することができる。また、制御面21の上方端21bの位置は、制御面21の傾斜角度θや、必要とされる開口部25の大きさ等を考慮して適宜設定される。
【0033】
なお、本実施形態においてカバー部材20は成形部材10とは別個の部材であり、通常、ガラス原料塊1をガス噴出面13上に配置した後、ガス噴出面13の外周部を覆うようにカバー部材20を設ける。このようにすれば、特にガラス原料塊1が大きい場合、具体的にはガラス原料塊1がカバー部材20の開口部25よりも大きい場合であっても、ガス噴出面13と制御面21で囲まれる空間に、ガラス原料塊1を容易に配置することが可能となる。但しこれに限定されず、ガス噴出面13の外周部を覆うようにカバー部材20を設けた後、ガラス原料塊1をガス噴出面13上に配置しても良い。なおこの場合、カバー部材20と成形部材10が一体化してなるものであってもよい。
【0034】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。本実施形態では、制御面21の下方端21aが、ガス噴出面13と接触しないように設けられている。そのため、制御面21の下方端21aとガス噴出面13との間に隙間が形成されている。このため、制御面21の下方端21aより外側に形成されたガス噴出孔12から噴出したガスを、上記隙間を通して内側に導入することができる。したがって、ガラス溶融物2の下方において、図5に示すB方向に沿って内側に向かうガスの流れを形成することができ、ガラス溶融物2の位置ずれをより効果的に抑制することができる。また、ガス噴出面13に、より多くのガス噴出孔12を形成することができ、より多量のガスを用いることができる。
【0035】
本実施形態においても、ガラス溶融物2の位置ずれを抑制することができるので、大きなガラス材を製造することができる。
【0036】
(第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。本実施形態では、カバー部材20の開口部25が、ガラス溶融物2より上方に位置している。したがって、本実施形態では、制御面21の上方端21bが、ガラス溶融物2より上方に位置している。これにより、制御面21を略垂直方向に長く形成することができ、ガス噴出孔12から噴出したガスの流れをより効果的に制御することができる。本実施形態において、具体的には、外周部近傍のガスの流れをより内側に向けることができる。
【0037】
本実施形態においても、ガラス溶融物2の位置ずれを抑制することができるので、大きなガラス材を製造することができる。
【0038】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。本実施形態では、制御面21を、凹球面状に形成している。制御面21を凹球面状に形成することにより、ガスの流れを、ガラス溶融物2の表面に沿うように制御することができる。したがって、ガス噴出孔12から噴出したガスの流れをより効果的に制御し、ガラス溶融物2の位置ずれをより効果的に抑制することができる。また、制御面21が凹球面状に形成されているので、ガラス溶融物2が位置ずれしても、ガラス溶融物2を制御面21に接触しにくくさせることができる。
【0039】
本実施形態においても、ガラス溶融物2の位置ずれを抑制することができるので、大きなガラス材を製造することができる。
【0040】
(第5の実施形態)
図8は、本発明の第5の実施形態においてガラス材を製造する方法を示す模式的断面図である。本実施形態では、制御面21を、略垂直方向に延びる垂直面22と、垂直面22に接続され、略水平方向に延びる水平面23とから構成している。したがって、制御面21を、複数の面から構成している。ガス噴出面13の外周部近傍に位置するガス噴出孔12から噴出したガスは、垂直面22によってC方向に制御され、次に水平面23によってD方向に制御されて、開口部25から外部に排出される。本実施形態においても、制御面21の下方端21aは、ガラス溶融物2の略水平方向の外側周縁部より外側に位置しており、制御面21の上方端21bは、ガラス溶融物2の略水平方向の外側周縁部より内側に位置している。このように構成することにより、ガス噴出面13の外周部近傍のガスの流れを内側に向けるとともに、ガス噴出面13の外周部近傍のガスの流速を、中央部のガスの流速よりも速くすることができる。したがって、ガラス溶融物2の位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0041】
本実施形態においても、ガラス溶融物2の位置ずれを抑制することができるので、大きなガラス材を製造することができる。
【0042】
(第6の実施形態)
図9は、本発明の第6の実施形態における成形部材のガス噴出面を示す模式的平面図である。図9に示すように、本実施形態では、ガス噴出面13の外周部近傍、詳細にはガラス溶融物2の略水平方向の外側周縁部近傍に形成するガス噴出孔14の孔径を、外側周縁部より内側に形成するガス噴出孔12の孔径より小さくしている。これにより、ガス噴出孔14から噴出されるガスの流速を、ガス噴出孔12から噴出されるガスの流速よりも速くすることができる。したがって、本実施形態によれば、ガス噴出面13の外周部近傍のガスの流速を、中央部のガスの流速よりもさらに速くすることができる。そのため、本実施形態によれば、ガラス溶融物2の位置ずれをさらに効果的に抑制することができる。
【0043】
図9に示すように、本実施形態のガス噴出孔12は、それらの中心が正三角格子の各頂点に位置するように設けられている。隣り合うガス噴出孔12の中心間距離は、0.02mm〜2mmであることが好ましく、0.1mm〜1mmであることがより好ましく、0.2mm〜0.8mmであることがさらに好ましい。また、図9に示すように、ガス噴出孔14は、ガラス溶融物2の外側周縁部に沿って円周状に配列されている。隣り合うガス噴出孔14の中心間距離は、0.02mm〜15mmであることが好ましく、0.1mm〜7mmであることがより好ましく、0.2mm〜5mmであることがさらに好ましく、0.3mm〜3mmであることが特に好ましく、0.5mm〜1.5mmであることが最も好ましい。なお、ガス噴出孔14は、ガス噴出面13の外周部近傍に、互いに直径の異なる同心円の円周状に複数列設けても良い。
【0044】
ガス噴出孔14が配列して形成される円周の略水平方向における直径は、ガラス溶融物2の略水平方向における直径の0.8倍〜1.5倍であることが好ましく、より好ましくは0.9倍〜1.4倍、さらに好ましくは1.0倍〜1.35倍である。このような範囲内とすることにより、ガラス溶融物2の位置ずれをより効果的に抑制することができる。
【0045】
ガス噴出孔14の孔径は、ガス噴出孔12の孔径の0.05倍〜0.95倍の範囲であることが好ましく、0.1倍〜0.8倍の範囲であることがさらに好ましく、0.2倍〜0.7倍の範囲であることが特に好ましい。このような範囲内とすることにより、ガラス溶融物2の位置ずれをより効果的に抑制することができる。
【0046】
中心が正三角格子の各頂点に位置する本実施形態のガス噴出孔12の配列は、第1〜第5の実施形態におけるガス噴出孔12の配列に適用してもよい。
【0047】
本発明によれば、無容器浮遊法により、大きなガラス材を製造することができる。したがって、網目形成酸化物を含まないような、容器を用いた溶融法によってはガラス化しない組成を有するガラスについて、大きなガラス材を製造することができる。このようなガラスとしては、例えば、テルビウム−ホウ酸複合酸化物系ガラス材、チタン酸バリウム系ガラス材、ランタン−ニオブ複合酸化物系ガラス材、ランタン−ニオブ−アルミニウム複合酸化物系ガラス材、ランタン−ニオブ−タンタル複合酸化物系ガラス材、ランタン−タングステン複合酸化物系ガラス材、ランタン−チタン複合酸化物ガラス材、ランタン−チタン−ジルコニア複合酸化物ガラス材等が挙げられる。
【0048】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0049】
(実施例1)
まず、原料粉末を秤量、混合した後、1000℃前後の温度で仮焼きすることで混合粉末を焼結させた。焼結体から所望の体積となる量に切り出し、ガラス原料塊1を作製した。
【0050】
次に、図1に準じたガラス材の製造装置を用いて、以下の条件で、ガラス原料塊1を加熱溶融することによりガラス材を作製した。具体的な手順を以下に示す。
【0051】
まず、ガラス原料塊1を成形部材10におけるガス噴出面13上に配置し、カバー部材20をガス噴出部11上に設けた。次に、ガス供給手段31からガス噴出孔12にガスを供給し、ガラス原料塊1をガス噴出面13の上方に浮上させた状態で、出力100Wの二酸化炭素レーザーを照射し、ガラス原料塊1を加熱溶融させた。なお、成形部材10におけるガス噴出孔12は、それらの中心が正三角格子の各頂点に位置するように設けた。その後、レーザー照射を停止し、冷却させることにより、ガラス材が得られた。カバー部材20を取り除き、ガラス材を取り出した。ガラス材の直径は8.48mmであった。
【0052】
ガラス組成(モル比):0.6・Tb−0.3・B−0.1・SiO
制御面21の下方端21aの位置:9.34mm(ガラス溶融物2の直径の1.1倍)
制御面21の傾斜角度θ:10°
ガス噴出孔12の孔径:0.3mm
ガス噴出孔12の数:350
加熱温度:1850℃
ガス:窒素ガス
【0053】
(実施例2)
以下の条件としたこと以外は、実施例1と同様の製造工程を行った。その結果、直径が8.62mmのガラス材が得られた。
【0054】
ガラス組成(モル比):0.6・Tb−0.3・B−0.1・SiO
制御面21の下方端21aの位置:10.35mm(ガラス溶融物2の直径の1.2倍)
制御面21の傾斜角度θ:20°
ガス噴出孔12の孔径:0.3mm
ガス噴出孔12の数:350
加熱温度:1850℃
ガス:窒素ガス
【0055】
(実施例3)
以下の条件としたこと以外は、実施例1と同様の製造工程を行った。その結果、直径が8.80mmのガラス材が得られた。
【0056】
ガラス組成(モル比):0.6・Tb−0.3・B−0.1・SiO
制御面21の下方端21aの位置:13.20mm(ガラス溶融物2の直径の1.5倍)
制御面21の傾斜角度θ:30°
ガス噴出孔12の孔径:0.3mm
ガス噴出孔12の数:350
加熱温度:1850℃
ガス:窒素ガス
【0057】
(比較例)
成形部材10のガス噴出面13の外周部をカバー部材20で覆わずに、実施例1と同様の製造工程を行った。その結果、直径が5.25mmまでのガラス材を作製することができたが、6mm以上のガラス材は作製することができなかった。
【符号の説明】
【0058】
1…ガラス原料塊
2…ガラス溶融物
10…成形部材
11…ガス噴出部
12…ガス噴出孔
13…ガス噴出面
14…ガス噴出孔
20…カバー部材
21…制御面
21a…下方端
21b…上方端
22…垂直面
23…水平面
25…開口部
30…レーザー照射装置
31…ガス供給手段
32…ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9