(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641973
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】フレームレス回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20200127BHJP
H02K 5/00 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
H02K15/12 D
H02K5/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-245773(P2015-245773)
(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公開番号】特開2017-112745(P2017-112745A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(72)【発明者】
【氏名】藤原 侍士
【審査官】
若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−079274(JP,U)
【文献】
特開2008−048555(JP,A)
【文献】
特開2013−247837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の固定子鉄心に固定子巻線を備えた固定子本体を加熱する予熱工程と、
予熱された前記固定子本体をその軸心を回転中心として周方向に回転しつつ、滴下装置の第1のノズルを介して前記固定子巻線のコイルエンドに絶縁ワニスを滴下含浸する工程と、前記第1のノズルとは別の第2のノズルを介して前記固定子鉄心の外周面に絶縁ワニスを滴下含浸する工程とを含む滴下含浸工程と、
前記絶縁ワニスが滴下含浸された前記固定子本体を加熱して、前記コイルエンドに滴下含浸された前記絶縁ワニスと前記固定子鉄心の外周面に滴下含浸された前記絶縁ワニスを加熱硬化させる加熱硬化工程と、
前記コイルエンドに滴下含浸された前記絶縁ワニスと前記固定子鉄心の外周面に滴下含浸された前記絶縁ワニスを加熱硬化した後に、前記固定子本体を冷却する冷却工程と、
を有し、
前記滴下含浸工程では、前記固定子鉄心の外周面のうち、軸方向両端の予め決めた区間を除く所定区間において、前記第2のノズルを軸方向に移動しつつ前記固定子鉄心の外周面に前記絶縁ワニスを滴下することを特徴とするフレームレス回転電機の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記コイルエンドに滴下含浸する前記絶縁ワニスと前記固定子鉄心の外周面に滴下含浸する前記絶縁ワニスは、異なる種類であることを特徴とするフレームレス回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレームレス回転電機の製造方法に関し、特に固定子の製造工程を簡略化できるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
各種の産業分野において、フレームレスモータが使用されている。例えばフォークリフトの走行用や荷役用や操舵用のモータや、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用のモータとして、フレームレスモータが使用されている。フレームレスモータは、固定子鉄心の外周側にフレームを取り付けておらず、固定子鉄心の外周面が直接空気に接触するようにしたものである。このような構造を採用することにより、固定子ひいてはモータを効果的に空気冷却することができる。
【0003】
ここで、フレームレスモータの構造の一例を簡単に説明する。フレームレスモータの固定子は、薄板鋼板を積層した円筒状の固定子鉄心と、この固定子鉄心の内周面に形成したスロットに挿入された固定子巻線(固定子コイル)と、固定子鉄心の一端側に取り付けられた一端側のブラケットと、固定子鉄心の他端側に取り付けられた他端側のブラケットと、固定子鉄心の軸方向に延びて一端側と他端側のブラケットを固定子鉄心側に締め付けて両ブラケットを固定子鉄心に一体に固定する通しボルトを有している。回転子は固定子鉄心の内側に設けられ、回転子のシャフトは、両方のブラケットに設けた軸受により回転自在に支持されている(特許文献1参照)。
【0004】
フレームレスモータを製造する手順は、次のようになっている。
(1) 固定子鉄心のスロットに固定子コイルを挿入し、固定子コイル相互を接続して固定子巻線を形成する。このとき固定子巻線(固定子コイル)のうち、固定子コイルの端面から外側に出ている部分が、コイルエンドである。
(2) コイルエンドの部分を固めて固定子コイルの振動を抑えるため、接着性及び耐熱性を有する絶縁ワニスを、滴下含浸法によりコイルエンドに施す。なお、従来の滴下含浸法の詳細は後述する。
(3) 回転子を固定子の内側に配置する。また、通しボルトにより両方のブラケットを固定子鉄心に固定すると共に、回転子のシャフトをブラケットの軸受により支持する。
【0005】
ここで従来の滴下含浸法及び付随する製造工程について説明する。
滴下含浸法は、固定子鉄心のスロットに固定子巻線(固定子コイル)を挿入した物(以下これを「固定子本体」と称する)に対して行うものであり、耐熱性を有する熱硬化性の絶縁ワニスを、コイルエンドの部分に滴下して含浸させ、その後に絶縁ワニスを熱硬化させて、コイルエンド相互を固定・接着するものである。このようにコイルエンド相互を固定・接着することにより、コイルエンド部分が固まり固定子コイルの振動を抑えることができる。また、コイルエンド部分の絶縁も強化される(特許文献1,2参照)。
【0006】
滴下含浸をするには、先ず、固定子本体を予熱する。予熱するには固定子本体を予熱室に搬入し、赤外線加熱、誘導加熱、炉内加熱または通電加熱などの方法により、固定子本体を予熱する(
図3のステップS1)。
【0007】
次に、予熱された固定子本体を滴下含浸室に移動し、滴下含浸をする。
図4は滴下含浸をしている状態を示した概念図であり、1は固定子鉄心、2は固定子巻線(固定子コイル)、2aは口出し線である。固定子巻線2のうち固定子鉄心1の端面から外側に出ている部分2bがコイルエンドである。ここでは、固定子鉄心1に固定子巻線2を備えたものを、固定子本体10と称する。
【0008】
図示はしないが、例えば特許文献2に示すように、固定子鉄心1の内側には径方向に拡縮可能なクランプが配置され、このクランプが拡径して固定子鉄心1の内周面を把持している。このクランプにはシャフトが固定され、このシャフトは軸方向に突出し、回転装置により回転駆動される。このため、回転装置が駆動することにより、固定子本体10は、その軸心Sを回転中心として周方向(α方向)に回転する。
【0009】
このように固定子本体10を回転させている状態において、滴下装置のノズル21からコイルエンド2bに向けて絶縁ワニスVを滴下する。ノズル21は軸方向のうち、コイルエンド2bが占位する区間において、軸方向に移動しつつ絶縁ワニスVを滴下する。このため、滴下された絶縁ワニスVはコイルエンド2bに均一に含浸される(ステップS2)。
【0010】
次に、コイルエンド2bに絶縁ワニスVが滴下含浸された固定子本体10を加熱室に移動し、高温で加熱して絶縁ワニスV中に含まれている溶剤を揮発させ、絶縁ワニスVを熱硬化させる(ステップS3)。
【0011】
熱硬化が終了したら、固定子本体10を加熱室から出し冷却する(ステップS4)。冷却手法としては、固定子本体10を常温環境下に放置して自然冷却したり、または、固定子本体10に空気を吹き付けて強制冷却したりする。
【0012】
このようにして、固定子巻線2のコイルエンド2bに絶縁ワニスVを滴下含浸して熱硬化させた後は、固定子鉄心1の外周面の錆止め処理をする。
【0013】
錆止め処理をするには、前述したステップS1からステップS4までの処理が完了した固定子本体10を錆止め工程に移動し(ステップS5)、固定子本体10を予熱し(ステップS6)、予熱された固定子本体10の固定子鉄心1の外周面に、錆止め剤を塗装装置により塗装する(ステップS7)。錆止め剤の塗装が完了したら、固定子本体10を冷却し乾燥させる(ステップS8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−219950号公報
【特許文献2】特開2015−76967号公報
【特許文献3】特開2000−287418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで上記従来技術では、固定子巻線2のコイルエンド2bに絶縁ワニスVを滴下含浸して熱硬化させ(ステップS1−S5)、その後、更に固定子鉄心1の外周面の錆止め処理(ステップS6−S8)をしなければならず、処理工程が多く時間がかかっていた。
【0016】
本発明は、上記従来技術に鑑み、滴下含浸処理の後の錆止め処理工程を省略して処理工程を削減した、フレームレス回転電機の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明は、
円筒状の固定子鉄心に固定子巻線を備えた固定子本体を加熱する予熱工程と、
予熱された前記固定子本体をその軸心を回転中心として周方向に回転しつつ、前記固定子巻線のコイルエンドに絶縁ワニスを滴下含浸する工程と、前記固定子鉄心の外周面に絶縁ワニスを滴下含浸する工程とを含む滴下含浸工程と、
前記絶縁ワニスが滴下含浸された前記固定子本体を加熱して、前記コイルエンドに滴下含浸された前記絶縁ワニスと前記固定子鉄心の外周面に滴下含浸された前記絶縁ワニスを加熱硬化させる加熱硬化工程と、
前記コイルエンドに滴下含浸された前記絶縁ワニスと前記固定子鉄心の外周面に滴下含浸された前記絶縁ワニスを加熱硬化した後に、前記固定子本体を冷却する冷却工程と、
を有することを特徴とする。
【0018】
また本発明は、
前記固定子鉄心の外周面に絶縁ワニスを滴下含浸する前記工程では、
前記固定子鉄心の外周面のうち、軸方向に関して両端の予め決めた区間を除く区間に、前記絶縁ワニスを滴下含浸することを特徴とする。
【0019】
また本発明は、
前記コイルエンドに滴下含浸する前記絶縁ワニスと前記固定子鉄心の外周面に滴下含浸する前記絶縁ワニスは、異なる種類であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、絶縁ワニスを滴下含浸し加熱硬化する処理を、コイルエンドのみならず固定子鉄心の外周面にも施すため、コイルエンドを固定する処理と、固定子鉄心の外周面を錆止め処理する工程をまとめて行うことができ、製造工程の簡略化をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施例における作業工程を示すフローチャート。
【
図2】本発明の実施例における含浸状態を示す構造図。
【
図3】従来技術における作業工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るフレームレス回転電機の製造方法を、実施例に基づき詳細に説明する。
【0023】
〔実施例〕
本発明の実施例を、フローチャートである
図1及び含浸状態を示す
図2を参照して説明する。本実施例は、フレームレス回転電機(フレームレスモータ)の固定子本体10に絶縁ワニスを施す手法である。
【0024】
本実施例では、先ず、円筒状の固定子鉄心1に固定子巻線(固定子コイル)2を備えた固定子本体10を、予熱室に搬入して予熱する(
図1のステップS11:予熱工程)。本例では、固定子鉄心1は、両端に締め金(端板)を有していないタイプの固定子鉄心である。なお
図2において、2aは口出し線、2bはコイルエンド、21,22は滴下装置のノズルである。
【0025】
次に予熱された固定子本体10を滴下含浸室に移動し、滴下含浸する。従来ではコイルエンド2aに対してのみ滴下含浸をしていたが、本実施例ではコイルエンド2aのみならず固定子鉄心1の外周面に対しても滴下含浸をする。
【0026】
図2において、図示はしないが、例えば特許文献2に示すように、固定子鉄心1の内側には径方向に拡縮可能なクランプが配置され、このクランプが拡径して固定子鉄心1の内周面を把持している。このクランプにはシャフトが固定され、このシャフトは軸方向に突出し、回転装置により回転駆動される。このため、回転装置が駆動することにより、固定子本体10は、その軸心Sを回転中心として周方向(α方向)に回転する。
【0027】
このように固定子本体10を回転させている状態において、滴下装置のノズル21から固定子巻線2のコイルエンド2bに向けて絶縁ワニスVを滴下する。ノズル21は軸方向のうち、コイルエンド2bが占位する区間において、軸方向に移動しつつ絶縁ワニスVを滴下する。このため、滴下された絶縁ワニスVはコイルエンド2bに均一に含浸される(ステップS12:滴下含浸工程)。
【0028】
次に、固定子本体10を回転させている状態において、滴下装置の別のノズル22から回転子鉄心1の外周面に向けて絶縁ワニスV1を滴下する。絶縁ワニスV1と絶縁ワニスVは、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。両絶縁ワニスの種類を異ならせる場合には、絶縁ワニスVとしては接着性の強い耐熱性があるものを、絶縁ワニスV1としては塗装に適し且つ膜厚が薄くなるように粘性が低く耐熱性があるものを採用する。
【0029】
ノズル22は軸方向のうち、βの区間において軸方向に動く。つまり、固定子鉄心1の外周面のうち、軸方向に関して、両端の予め決めた区間γの部分を除く区間βにおいて、軸方向に移動しつつ絶縁ワニスV1を滴下する。このため、固定子鉄心1の外周面のうち、軸方向に関して、両端の予め決めた区間γの部分を除く区間βの部分に、絶縁ワニスV2が滴下含浸される(ステップ13:滴下含浸工程)。
【0030】
本例において、固定子鉄心1の外周面のうち、軸方向に関して、両端の予め決めた区間γの部分に絶縁ワニスV2を含浸しない理由は、固定子鉄心1の外周面のうち、両端のγの部分は、両端のブラケットが嵌合して覆われるため、この部分には絶縁ワニスV2を施さないようにしているのである。
【0031】
本例では、コイルエンド2bに対してワニスV1を滴下含浸し(ステップ12)、その後に、固定子鉄心1の外周面に対してワニスV2を滴下含浸している(ステップ13)が、ステップ12とステップ13の工程手順を逆にしてもよく、また、ステップ12とステップ13の工程を同時に行ってもよい。
【0032】
次に、コイルエンド2bに絶縁ワニスVが滴下含浸され、且つ、固定子鉄心1の外周面の区間βに対してワニスV2を滴下含浸された固定子本体10を、加熱室に移動し、高温で加熱して絶縁ワニスV,V1中に含まれている溶剤を揮発させ、絶縁ワニスV,V1を熱硬化させる(ステップS14:加熱硬化工程)。
【0033】
熱硬化が終了したら、固定子本体10を加熱室から出し冷却する(ステップS15:冷却工程)。冷却手法としては、固定子本体10を常温環境下に放置して自然冷却したり、または、固定子本体10に空気を吹き付けて強制冷却したりする。
【0034】
熱硬化した絶縁ワニスVにより、コイルエンド2bを固めることができ、固定子コイル2の振動を抑えることができる。また熱硬化した絶縁ワニスV1により、固定子鉄心1の外周面の区間βの部分に対して錆止め処理をすることができる。
【0035】
本例では、滴下含浸により錆止め処理もできるので、従来技術で行っていた滴下含浸後の塗装工程(
図3のステップS6からステップS8)が不要になり、作業工数が低減し、その分だけ製造が容易になる。
【0036】
なお、上記例では、固定子鉄心1の外周面のうち、軸方向に関して区間βの部分に絶縁ワニスV1を滴下含浸しているが、固定子の構造によっては、固定子鉄心1の外周面のうち、軸方向の全区間に絶縁ワニスV1を滴下含浸することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、フレームレス電動機のみならず、フレームレス発電機の固定子を製造するのにも利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 固定子鉄心
2 固定子巻線(固定子コイル)
2a 口出し線
2b コイルエンド
10 固定子本体
21 ノズル
22 ノズル
S 軸心
V,V1 絶縁ワニス
α 周方向