特許第6642152号(P6642152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642152
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】防曇剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20200127BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20200127BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20200127BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20200127BHJP
   C08F 220/58 20060101ALI20200127BHJP
   C08F 220/38 20060101ALI20200127BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   C09K3/18
   C09D133/00
   C09D7/40
   C08L33/00
   C08F220/58
   C08F220/38
   B32B27/30 A
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-53012(P2016-53012)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-165878(P2017-165878A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真紀
(72)【発明者】
【氏名】益子 真司
(72)【発明者】
【氏名】杉原 靖
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−105936(JP,A)
【文献】 特開2011−140589(JP,A)
【文献】 特開2003−105255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18、
G02B1/10−1/18、
B32B1/00−43/00、
C08C19/00−19/44、
C08F6/00−246/00、
C08F301/00、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14、
C09D1/00−10/00、
C09D101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル共重合体(A)、界面活性剤(B)、及び溶剤(C)を含有する防曇剤組成物であって、
前記アクリル共重合体(A)が、下記一般式(1)
【化1】
[前記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。]で表される単量体(a1)、
下記一般式(2)
【化2】
[前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基、XはO又はNH、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である。]で表される単量体(a2)、及び
下記一般式(3)
【化3】
[前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。]で表される単量体(a3)を含む単量体混合物から形成されるアクリル共重合体[前記アクリル共重合体を形成する単量体(a2)は、塩基性化合物によって中和されていてもよい。但し、前記単量体混合物中の、塩基性化合物によって中和されずに残存する単量体(a2)の割合は、2重量%以上、4重量%以下である。]であり、
前記単量体混合物中の、単量体(a1)の割合が8重量%以上、12重量%以下、単量体(a2)の割合が9重量%以下、及び単量体(a1)〜(a3)の合計割合が70重量%以上であり、
前記溶剤(C)が、炭素数2〜3の1価アルコール(c1)、及び炭素数1〜4の乳酸アルキルエステル(c2)を含み、
前記溶剤(C)中の前記(c1)の割合が、73重量%以上、93重量%以下である、防曇剤組成物。
【請求項2】
前記単量体混合物に、さらに、下記一般式(4)
【化4】
[前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R及びRはそれぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。]で表される単量体(a4)を含む請求項1に記載の防曇剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の防曇剤組成物から形成される防曇塗膜。
【請求項4】
請求項3に記載の防曇塗膜を有する樹脂部材。
【請求項5】
前記樹脂部材が、車両灯具である、請求項4に記載の樹脂部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤組成物、防曇塗膜、及び防曇塗膜を有する樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプなどの車両灯具において、灯室内に高湿度の空気が入り込み、外気や降雨などによってレンズが冷やされ、レンズ内面に水分が結露することにより、曇りが生じることがある。その結果、車両灯の輝度が低下し、またレンズ面の美観が損なわれることにより、ユーザーの不快感を引き起こす場合がある。このようなレンズ内面の曇りを防ぐために、レンズ内面に防曇剤組成物を塗装し、防曇塗膜を形成させる方法が知られている。
【0003】
防曇剤組成物としては、N−メチロール基又はN−アルコキシメチロール基(N−メチロールエーテル基)を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、アルキル基を有する単量体、及びアクリルアミド系単量体を含む単量体混合物から形成される共重合体を含有する防曇剤組成物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−140589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の防曇剤組成物において、車両灯具に必要とされる防曇性を有する防曇塗膜を、数十分程度の硬化時間で得るためには、この防曇剤組成物を80℃程度以上で熱硬化する必要があった。
【0006】
通常、車両灯具に使用されるレンズには、透明性が高く、耐衝撃性に優れる観点から、ポリカーボネート(PC)樹脂、又はポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が用いられる。PC樹脂の熱変形温度は130℃程度であるため、上記80℃の熱硬化温度条件下では、PC樹脂が変形することはないが、PMMA樹脂は、これを構成するPMMAの分子量や添加剤などの違いにより、その熱変形温度が65〜90℃程度となるため、上記80℃の熱硬化温度条件下では、使用するPMMA樹脂の種類によっては、これが変形してしまう問題があった。
【0007】
この問題点を解決するため、PMMA樹脂の種類に依存せずにこの変形を防止できる温度、例えば、60℃程度の温度で硬化でき、かつ防曇塗膜の生産効率を高める観点から、40分程度以内で硬化ができるような、防曇剤組成物が求められている。
【0008】
本発明は、従来の防曇剤組成物よりも、低温かつ短時間条件下で、車両灯具に求められる防曇性を有する防曇剤組成物、防曇塗膜、及び防曇塗膜を有する樹脂部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す防曇剤組成物により、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、アクリル共重合体(A)、界面活性剤(B)、及び溶剤(C)を含有する防曇剤組成物であって、
前記アクリル共重合体(A)が、下記一般式(1)
【化1】
[前記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。]で表される単量体(a1)、
下記一般式(2)
【化2】
[前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基、XはO又はNH、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である。]で表される単量体(a2)、及び
下記一般式(3)
【化3】
[前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。]で表される単量体(a3)を含む単量体混合物から形成されるアクリル共重合体[前記アクリル共重合体を形成する単量体(a2)は、塩基性化合物によって中和されていてもよい。但し、前記単量体混合物中の、塩基性化合物によって中和されずに残存する単量体(a2)の割合は、2重量%以上、4重量%以下である。]であり、
前記単量体混合物中の、単量体(a1)の割合が8重量%以上、12重量%以下、単量体(a2)の割合が9重量%以下、及び単量体(a1)〜(a3)の合計割合が70重量%以上であり、前記溶剤(C)が、炭素数2〜3の1価アルコール(c1)、及び炭素数1〜4の乳酸アルキルエステル(c2)を含み、前記溶剤(C)中の前記(c1)の割合が、73重量%以上、93重量%以下である、防曇剤組成物に関する。
【0011】
本発明の防曇剤組成物は、前記単量体混合物に、さらに、下記一般式(4)
【化4】
[前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R及びRはそれぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。]で表される単量体(a4)を含むことが好ましい。
【0012】
本発明は、前記防曇剤組成物から形成される防曇塗膜に関する。
【0013】
本発明は、前記防曇塗膜を有する樹脂部材に関する。
【0014】
本発明は、前記樹脂部材が、車両灯具であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、以下の作用メカニズムが推定される。
【0016】
本発明において、単量体(a2)は硬化触媒の役割を果たし、アクリル共重合体中での含有量が多いほど、単量体(a1)の縮合(硬化)反応の速度が向上するため、得られた防曇塗膜は、耐水性試験後においても塗膜の透明性を維持することができる。一方、アクリル共重合体中に含まれる単量体(a2)が多い場合、過剰硬化により、得られた防曇塗膜の保水量が低下するため、耐水性試験後の呼気防曇性が発現し難いが、単量体(a2)はそのスルホン酸基が塩基性化合物によって中和されることで、防曇塗膜の親水性を高めることもできる。本発明では、必要に応じ、塩基性化合物によって、単量体(a2)を中和し、防曇塗膜に含まれるアクリル共重合体中の単量体(a2)の含有量をコントロールすることで、耐水性試験後の塗膜の透明性と耐水性試験後の呼気防曇性を両立することができる。
【0017】
また、炭素数2〜3の1価アルコール(c1)は低沸点溶剤であり、防曇剤組成物の塗装後に素早く蒸発する。そのため、溶剤(C)中の溶剤(c1)の含有量が多いほど、得られた防曇塗膜の透明性は高くならない傾向があるが、硬化反応の速度を高めることができるため、耐水性試験後においても塗膜の透明性を維持することができる。一方、炭素数1〜4の乳酸アルキルエステル(c2)は、溶剤(c1)よりも高沸点を有するので、リターダーの役割を果たし、溶剤(C)中の溶剤(c2)の含有量が多いほど、得られた防曇塗膜の透明性を高めることができる。しかし、溶剤(c2)は高沸点であるため硬化速度が低下し、耐水性試験後の塗膜の透明性が低下しやすい。また、一般的に、蒸発の遅い高沸点溶剤は、塗装後に樹脂部材(基材)上に残るため、ポリメチルメタクリレート樹脂などの基材を侵食させやすい傾向にある。しかし、溶剤(c2)は、従来から使用されているプロピレングリコールモノエチルエーテル(PGM)などの他のリターダーと比較して、ポリメチルメタクリレート樹脂などの基材への侵食性が低いため、侵食のリスクを低減することができる。本発明においては、溶剤(c1)と溶剤(c2)を組み合わせて溶剤(C)の蒸発速度を調節することで、塗装後の塗膜の透明性と耐水性試験後の塗膜の透明性、ポリメチルメタクリレート樹脂などの基材への耐侵食性を両立することができる。
【0018】
本発明の防曇剤組成物によれば、例えば、これを60℃で40分間の熱硬化をすることによって得られる防曇塗膜が、車両灯具に求められる防曇性を有するので、従来の防曇剤組成物よりも、低温かつ短時間条件下の熱硬化で防曇性を有する防曇剤組成物、防曇塗膜、及び防曇塗膜を有する樹脂部材を提供できる。
【0019】
また、本発明における車両灯具に求められる防曇性は、具体的には、防曇剤組成物がPMMA樹脂に対する浸食性を有さないこと、及び耐ブラッシング性を有することである。さらに、防曇塗膜が透明性を有し、長期耐水性試験後においても塗膜の透明性を維持でき、加えて、長期耐水性試験後においても呼気防曇性を有しており、かつ、スチーム防曇性、耐熱性、密着性が良好なものである。本発明の防曇剤組成物、防曇塗膜は上記の防曇性を全て満足するものなので、車両灯具に用いられる防曇剤組成物、防曇塗膜及び防曇塗膜を有する樹脂部材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の防曇剤組成物は、アクリル共重合体(A)、界面活性剤(B)、及び溶剤(C)を含有する。
【0021】
<アクリル共重合体(A)>
本発明のアクリル共重合体(A)は、少なくとも単量体(a1)〜(a3)を含む単量体混合物から形成される。
【0022】
<単量体(a1)>
本発明の単量体(a1)は、下記一般式(1)で表されるN−メチロール基又はN−メチロールエーテル基を有する単量体であり、脱水縮合反応、脱アルコール縮合反応により共重合体に架橋構造を形成し、防曇塗膜に耐水性を付与する機能を有する。
【化5】
[前記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。]
【0023】
前記単量体(a1)において、前記一般式(1)で表される化合物としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。単量体(a1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
<単量体(a2)>
本発明の単量体(a2)は、下記一般式(2)で表されるスルホン酸基を有する単量体であり、酸触媒としての機能、及び防曇塗膜の親水性を高める機能を有する。また、単量体(a2)は、塩基性化合物によって中和されていてもよい。単量体(a2)は、塩基性化合物によって、単量体(a2)のスルホン酸基の一部が中和されることで、防曇塗膜の親水性をより高められる。
【化6】
[前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基、XはO又はNH、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキレン基である。]
【0025】
前記単量体(a2)において、前記一般式(2)で表される化合物としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、3−((メタ)アクリロイルオキシ)−1−プロパンスルホン酸などが挙げられる。単量体(a2)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
前記塩基性化合物は、単量体(a2)のスルホン酸基の一部を中和する機能、及び防曇塗膜に長期耐水性試験後の呼気防曇性を付与する機能を有する。
【0027】
前記塩基性化合物における化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アニリン、α−ナフチルアミン、ベンジルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、イミダゾールなどが挙げられる。塩基性化合物は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
前記塩基性化合物の割合は、長期耐水性試験後の防曇塗膜の透明性を維持する観点から、単量体(a2)のスルホン酸基に対して80モル%未満が好ましく、79モル%以下がより好ましく、78モル%以下がさらに好ましい。
【0029】
前記塩基性化合物は、アクリル共重合体(A)の重合前の単量体(a2)に加える方法、アクリル共重合体(A)の重合前の単量体(a2)を含む単量体混合物に加える方法、アクリル共重合体(A)の重合後に加える方法、によって使用できる。
【0030】
<単量体(a3)>
本発明の単量体(a3)は、下記一般式(3)で表されるアルキル基を有する単量体であり、防曇塗膜の疎水性を高める機能、防曇塗膜と基材との密着性を高める機能を有する。
【化7】
[前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基である。]
【0031】
前記単量体(a3)において、前記一般式(3)で表される化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。単量体(a3)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
<単量体(a4)>
本発明の防曇剤組成物は、前記単量体混合物に、さらに、下記一般式(4)で表される単量体(a4)を含むことが好ましい。本発明の単量体(a4)は、(メタ)アクリルアミド系単量体であり、防曇塗膜の親水性を高める機能を有する。
【化8】
[前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、Rは炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R及びRはそれぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。]
【0033】
前記単量体(a4)において、前記一般式(4)で表される化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。単量体(a4)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
<その他の単量体>
前記アクリル共重合体(A)を形成できる、前記(a1)〜(a4)以外のその他の単量体としては、(a1)〜(a4)以外の公知の単量体、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香環を有する単量体;(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メトキシ)ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(エトキシ)ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキレングリコール基を有する単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物などのヒドロキシル基を有する単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸半エステルなどのカルボキシル基を有する単量体及びそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩;(メタ)アクロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ビニルピリジンなどの窒素原子を有する単量体などを用いることができる。その他の単量体は、少なくとも1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0035】
以下に、本発明のアクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の各単量体成分の割合について説明する。
【0036】
前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a1)の割合は、8重量%以上、12重量%以下である。アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a1)の割合は、長期耐水性試験後の塗膜の透明性を維持する観点から8.5重量%以上が好ましく、9重量%以上がより好ましい。アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a1)の割合は、防曇塗膜と基材との密着性を高める観点から、11.5重量%以下が好ましく、11重量%以下がより好ましい。
【0037】
前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a2)の割合は、9重量%以下である。アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a2)の割合は、防曇塗膜に長期耐水性試験後の呼気防曇性を付与する観点から、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a2)の割合は、長期耐水性試験後の防曇塗膜の透明性を維持する観点から、8.5重量%以下が好ましく、8重量%以下がより好ましい。
【0038】
また、前記単量体(a2)のスルホン酸基の一部は、前記塩基性化合物によって中和されていてもよい。但し、前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の、塩基性化合物によって、中和されずに残存する(中和されていない)単量体(a2)の割合は、2重量%以上、4重量%以下である。前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の、塩基性化合物によって中和されずに残存する単量体(a2)の割合は、長期耐水性試験後の塗膜の透明性を維持する観点から2.2重量%以上が好ましく、2.5重量%以上がより好ましい。前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の、塩基性化合物によって中和されずに残存する単量体(a2)の割合は、防曇塗膜に長期耐水性試験後の呼気防曇性を付与する観点から、3.8重量%以下が好ましく、3.5重量%以下がより好ましい。
尚、上記の塩基性化合物によって中和されずに残存する単量体(a2)の割合は、以下の式によって算出できる。式:[単量体混合物中の単量体(a2)の割合(重量%)]×(100−[塩基性化合物の単量体(a2)のスルホン酸基に対する割合(モル%)])÷100=[単量体混合物中の、塩基性化合物によって中和されずに残存する単量体(a2)の割合]
【0039】
前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a3)の割合は、防曇塗膜と基材との密着性を高める観点から、60重量%以上が好ましく、63重量%以上がより好ましい。アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a3)の割合は、防曇塗膜の防曇性を高める観点から、80重量%以下が好ましく、75重量%以下がより好ましい。
【0040】
アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a4)の割合は、防曇塗膜に長期耐水性試験後の呼気防曇性を付与する観点から、11.5重量%以上が好ましく、12重量%以上がより好ましい。アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a4)の割合は、長期耐水性試験後の防曇塗膜の透明性を維持する観点から、22.5重量%以下が好ましく、22重量%以下がより好ましい。
【0041】
前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a1)〜(a3)の合計割合は、70重量%以上である。アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a1)〜(a3)の合計割合は、防曇塗膜に防曇性を付与する観点から、75重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0042】
前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中の単量体(a1)〜(a4)の合計割合は、防曇塗膜に防曇性を付与する観点から、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、97重量%以上がさらに好ましい。
【0043】
前記アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物中のその他の単量体の割合は、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。
【0044】
<アクリル共重合体(A)の製造方法>
本発明のアクリル共重合体(A)は、前記単量体混合物を共重合することにより得られる。共重合体の構造としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれの構造であってもよいが、防曇性をはじめとする防曇剤組成物の効果を向上させることができると共に、防曇剤組成物を容易に調製することができるという観点からランダム共重合体が好ましい。共重合体を得るための重合方法としては、ラジカル重合法、カチオン重合法、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法などの公知の各種重合方法が採用されるが、特に工業的な生産性の容易さ、多義にわたる性能面より、ラジカル重合法が好ましい。ラジカル重合法としては、通常の塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法などが採用されるが、重合後にそのまま防曇剤組成物として使用することができる点で溶液重合法が好ましい。
【0045】
前記溶液重合法に用いる重合溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール、2−メチル−2−ブタノール(ターシャリーアミルアルコール)などのアルコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールなどのアルコールエーテル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤、水、などが使用される。これら重合溶剤は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
前記重合溶剤の中でも、後述する溶剤(c1)及び/又は溶剤(c2)を用いることが、重合後にそのまま防曇剤組成物として使用できる観点から、好ましい。
【0047】
前記溶液重合において、アクリル共重合体(A)を形成する単量体混合物は、単量体混合物と重合溶剤の合計100重量部中、重合発熱を抑制して工業的生産を行い易くする観点から、50重量部以下に調整することが好ましく、40重量部以下がさらに好ましい。
【0048】
前記ラジカル重合における開始剤としては、一般的に使用される有機過酸化物、アゾ化合物などを使用することができる。有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−ヘキサノエートレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレートなどが挙げられる。アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどが挙げられる。ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して0.01〜5重量部であることが好ましい。ラジカル重合開始剤は、反応容器中に滴下しながら重合を行うことが重合発熱を制御しやすくなる点で好ましい。重合反応を行う温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類によって適宜変更されるが、工業的に製造を行う上で好ましくは30〜150℃、より好ましくは40〜100℃である。
【0049】
前記アクリル共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、防曇塗膜に耐水性を付与する観点から、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましい。アクリル共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、防曇剤組成物の塗装性及びハンドリング性を高める観点から、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。
【0050】
前記アクリル共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、GPC法にて求めることができる。サンプルは、試料をジメチルホルミアミドに溶解して0.2重量%の溶液とし、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したものを用い、以下の条件にて測定することができる。
<重量平均分子量(Mw)の測定>
・分析装置:CR−4A(島津製作所社製)
・カラム:
KD−802.5(昭和電工社製)
KD−803(昭和電工社製)
KD−80M(昭和電工社製)
・カラムサイズ:8.0×300mm
・溶離液:ジメチルホルムアミド
・流量:1.0ml/min
・検出器:示差屈折計
・カラム温度:55℃
・標準試料:ポリスチレン
【0051】
<界面活性剤(B)>
本発明の界面活性剤(B)は、塗膜表面に付着した水分の表面張力を低下させ、塗膜表面に水膜を形成させることにより防曇性を向上させるための成分である。界面活性剤としては、従来公知のものを全て使用することができ、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤及び両性イオン系界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、効果の持続性の点から、陰イオン系界面活性剤を少なくとも1種以上含んでいることが好ましい。
【0052】
前記非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールモノステアレートなどのポリオキシエチレンアシルエステル類、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなどのリン酸エステル類、シュガーエステル類、セルロースエーテル類などが使用される。
【0053】
前記陰イオン系界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどの脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどの高級アルコール硫酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンサルフェート塩などが使用される。陰イオン系界面活性剤としては、防曇性の効果の持続性をより高める観点から、ジアルキルスルホコハク酸塩が好ましい。
【0054】
前記陽イオン系界面活性剤としては、エタノールアミン類、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩などのアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩などが使用される。
【0055】
前記両性イオン系界面活性剤としては、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタインなどの脂肪酸型両性イオン系界面活性剤、ジメチルアルキルスルホベタインのようなスルホン酸型両性イオン系界面活性剤、アルキルグリシンなどが使用される。
【0056】
前記界面活性剤(B)の含有量は、防曇塗膜の防曇性を高める観点から、アクリル共重合体(A)100重量部に対して1重量部以上が好ましく、2重量部以上がさらに好ましい。界面活性剤(B)の含有量は、防曇塗膜の透明性を高める観点、及び防曇塗膜と基材との密着性を高める観点から、アクリル共重合体(A)100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0057】
前記界面活性剤(B)と、アクリル共重合体(A)との混合方法としては、アクリル共重合体(A)を、例えば溶剤(C)などに溶解してその中に界面活性剤(B)を加えてもよく、またアクリル共重合体(A)を製造する際に一緒に界面活性剤(B)を加えてもよい。
【0058】
<溶剤(C)>
本発明の溶剤(C)は、少なくとも、炭素数2〜3の1価アルコール(c1)、及び炭素数1〜4の乳酸アルキルエステル(c2)を含む。
【0059】
<溶剤(c1)>
本発明の溶剤(c1)は、炭素数2〜3の1価アルコールであり、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが挙げられる。溶剤(c1)は、防曇剤組成物の塗装後に素早く蒸発するため、単量体(a1)の縮合反応(硬化反応)の速度を高めることができるため、得られた防曇塗膜は、耐水性試験後においても塗膜の透明性を維持することができる。溶剤(c1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
<溶剤(c2)>
本発明の溶剤(c2)は、炭素数1〜4の乳酸アルキルエステルであり、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチルなどが挙げられる。溶剤(c2)は、溶剤(c1)よりも高沸点を有するので、リターダーの役割を果たし、得られた防曇塗膜の透明性を高めることができる。溶剤(c2)は、得られた防曇塗膜の透明性をより高める観点から、乳酸メチル、乳酸エチルが好ましい。
【0061】
前記溶剤(C)中の溶剤(c1)の割合は、73重量%以上、93重量%以下である。長期耐水性試験後の防曇塗膜の透明性を維持する観点から、75重量%以上が好ましく、77重量%以上がより好ましい。前記溶剤(C)中の溶剤(c1)の割合は、防曇塗膜に透明性を付与する観点から、92重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。
【0062】
前記溶剤(C)中の溶剤(c2)の割合は、防曇塗膜に透明性を付与する観点から、7重量%以上が好ましく、8重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。前記溶剤(C)中の溶剤(c2)の割合は、長期耐水性試験後の防曇塗膜の透明性を維持する観点から、27重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、23重量%以下がさらに好ましい。
【0063】
前記溶剤(C)中の溶剤(c1)及び(c2)の合計割合は、長期耐水性試験後の防曇塗膜の透明性を維持する観点から、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。
【0064】
<その他の成分>
本発明の防曇剤組成物には、その他の成分として必要によりレベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの慣用の各種添加剤を配合することができる。
【0065】
<防曇剤組成物の製造>
前記防曇剤組成物は、例えば、アクリル共重合体(A)又はアクリル共重合体(A)の溶液、及び界面活性剤(B)を、塗装に適した固形分及び粘度調整を目的として、溶剤(C)を加えて溶解、分散又は希釈をすることによって製造することができる。また、塗装方法により、塗装に適した固形分及び粘度は異なるが、スプレーコート法の場合、アクリル共重合体(A)は、防曇剤組成物中、2重量%以上が好ましく、5重量%以上がさらに好ましく、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
【0066】
<防曇塗膜>
本発明の防曇剤組成物は、通常の塗料において行われる塗装方法により基材に塗装し、乾燥と加熱硬化することによって、基材表面に防曇塗膜を形成することができる。
【0067】
前記基材としては、その種類は問わず、公知の樹脂部材(基材)が使用可能であり、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0068】
前記基材への塗装の際には、基材に対する防曇剤組成物の濡れ性を高め、はじきを防止する目的で、塗装前における基材表面の付着異物除去や脱脂、洗浄を行うことが好ましい。具体的には高圧エアやイオン化エアによる除塵、洗剤水溶液又はアルコール溶剤による超音波洗浄、アルコール溶剤などを使用したワイピング、紫外線とオゾンによる洗浄などが挙げられる。塗装方法としては浸漬法、フローコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法などが適している。
【0069】
前記乾燥は、20〜50℃の温度で0.5〜5分間塗膜中に含まれる溶剤を揮発乾燥させる工程である。
【0070】
前記加熱は、基材が樹脂部材である場合、加熱温度を樹脂部材の熱変形温度以下に設定することが必要であるが、樹脂部材の僅かな変形を防止する観点から、樹脂部材の熱変形温度より5℃以下が好ましく、10℃以下が好ましい。例えば、樹脂部材がポリメチルメタクリレート樹脂の場合は60℃以下が好ましく、ポリカーボネート樹脂の場合は110℃以下が好ましい。加熱時間は、例えば、加熱温度が60℃の場合、30分以上が好ましく、40分以上がより好ましい。加熱時間は、例えば、加熱温度が110℃の場合、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。
【0071】
前記防曇塗膜の膜厚は、防曇塗膜の防曇性を高める観点から、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。前記防曇塗膜の膜厚は、防曇塗膜の平滑性を高める観点から、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0072】
防曇塗膜が形成された樹脂部材は、車両灯具に用いることが好ましい。車両灯具としては、前照灯、補助前照灯、車幅灯、番号灯、尾灯、駐車灯、制動灯、後退灯、方向指示灯、補助方向指示灯、非常点滅表示灯などが挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施によりなんら限定されるものではない。
【0074】
<原料>
実施例又は比較例で使用した化合物を以下に示す。
<アクリル共重合体(A)>
<単量体(a1)>
N−メチロールアクリルアミド(N−MAA)
<単量体(a2)>
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)
<単量体(a3)>
メチルメタクリレート(MMA)
n−ブチルアクリレート(BA)
<単量体(a4)>
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)
<塩基性化合物>
トリエタノールアミン
<界面活性剤(B)>
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(日油社製、商品名:ラピゾールA80)
<溶剤(C)>
<溶剤(c1)>
n−プロパノール(NPA)
<溶剤(c2)>
乳酸エチル
乳酸メチル
乳酸プロピル
乳酸ブチル
<その他の溶剤>
乳酸ペンチル
プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGM)
<レベリング剤>
ポリエーテル変性ポリジメリルシロキサン(ビックケミー社製、BYK−333)
【0075】
<実施例1>
<アクリル共重合体(A)の製造>
攪拌装置、窒素導入管及び冷却管を備えた反応容器に、溶剤(c1)としてn−プロパノール(NPA)290重量部、単量体(a1)としてN−メチロールアクリルアミド(N−MAA)10重量部、単量体(a2)として2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)5重量部、単量体(a3)としてメチルメタクリレート(MMA)55重量部、n−ブチルアクリレート(BA)12重量部、単量体(a4)としてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)18重量部、及び塩基性化合物としてトリエタノールアミン1.44g(単量体(a2)のAMPSのスルホン酸基に対して40モル%に相当する量、計算方法;{AMPS仕込み重量部}÷AMPSのモル質量×40%÷100×{トリエタノールアミンのモル質量}=5÷207.4×40÷100×149.2=1.44)を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら65℃に加熱した。そこへ、ラジカル重合開始剤としてt−ヘキシルペルオキシピバレートの炭化水素希釈品〔日油(株)製の商品名:パーヘキシルPV〕1.4重量部を溶剤(c1)としてNPA35重量部に溶解させたものを3時間かけて滴下した。さらに4.5時間重合を行った後、80℃に昇温し、その温度で1.5時間重合を行って、共重合体(重量平均分子量(Mw)=10万)の実施例1のアクリル共重合体(A)の溶液を得た。
尚、単量体(a1)〜(a4)を含む単量体混合物中、塩基性化合物によって、中和されずに残存する(中和されていない)単量体(a2)としてのAMPSの割合は、3重量%であった(計算方法;単量体混合物中のAMPS仕込み割合(重量%)×(100−トリエタノールアミンのAMPSのスルホン酸基に対する仕込み割合(モル%))÷100=5×(100−40)÷100=3)。
【0076】
<防曇剤組成物の製造>
上記アクリル共重合体(A)の溶液427.8重量部(アクリル共重合体(A)が100重量部、塩基性化合物が1.44重量部、溶剤(c1)としてNPAが325重量部含まれる)に、NPA425重量部、乳酸エチル150重量部を加えて共重合体濃度を10.0重量%に調整し、界面活性剤(B)としてジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム〔日油(株)製の商品名:ラピゾールA−80(有効成分80重量%)〕10重量部(純品換算すると8重量部、(残り2重量部はメタノールおよび水))と、レベリング剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン〔ビックケミー・ジャパン(株)製の商品名:BYK−333〕0.1重量部を混合し、実施例1の防曇剤組成物を得た。得られた防曇剤組成物について、下記の(1)〜(2)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
<実施例2〜16、比較例1〜9>
<アクリル共重合体(A)の製造>
表1又は2に記載の原料を用い、実施例1に記載の方法で、実施例2〜16、及び比較例1〜9のアクリル共重合体(A)の溶液を得た。
【0078】
<防曇剤組成物の製造>
実施例1のアクリル共重合体(A)を、実施例2〜16、又は比較例1〜9のアクリル共重合体(A)に変更し、表1又は2の溶剤(C)に変更した以外は、実施例1に記載の方法で、実施例2〜16、及び比較例1〜9の防曇剤組成物を得た。得られた防曇剤組成物について、下記の(1)〜(2)の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0079】
<防曇塗膜の作成>
25℃、30%RHの相対湿度に設定した環境下で、上記で得られた各防曇剤組成物をポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂板(大きさ5cm×8cm)に、硬化後の膜厚が2〜3μmになるようにスプレー塗装法にて塗装を行い、常温で5分間乾燥した後、60℃で40分間の加熱硬化を行い、防曇塗膜の試験片を得た。得られた防曇塗膜について、下記の(3)〜(8)の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0080】
(1)PMMA樹脂板への浸食性の評価
25℃、30%RHの相対湿度に設定した環境下で、上記で得られた防曇剤組成物をポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂板(大きさ5cm×8cm)に、硬化後の膜厚が2〜3μmになるようにスプレー塗装法にて塗装を行い、塗装後の防曇塗膜の試験片を目視で評価した。塗装前のPMMA樹脂板の状態と同じで変化が認められないものを○、PMMA樹脂板の白化が認められるものを×とした。
【0081】
(2)耐ブラッシング性の評価
30℃、60〜90%RHの任意の相対湿度に設定した環境下で、上記で得られた防曇剤組成物をPMMA樹脂板(大きさ5cm×8cm)に硬化後の塗膜の膜厚が2〜3μmになるようにスプレー塗装法にて塗装を行い、塗装後そのまま30分間同じ環境下に放置した。次いで、60℃で40分間加熱硬化を行い、防曇塗膜の試験片を得た。得られた相対湿度RHを60〜90%の範囲で変化させ、それぞれの相対湿度において上記の方法で作成した塗膜を目視により観察し、白化などの外観異常がみられない最大の相対湿度を測定し、以下の4段階で評価した。
◎:相対湿度90%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる
○:相対湿度80%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる
△:相対湿度70%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる
×:相対湿度60%に設定した環境下で無色透明の塗膜が得られる
【0082】
(3)塗膜の透明性の評価
防曇塗膜の試験片の透明性を目視で評価した。透明でユズ肌が認められないものを◎、透明であるが僅かにユズ肌が認められるものを○、白化またはユズ肌が認められるものを×とした。
【0083】
(4)長期耐水性試験後の塗膜の透明性の評価
40℃の温水に防曇塗膜の試験片を240時間浸漬後、室温で乾燥し、防曇塗膜の外観を目視で評価した。初期塗膜の状態と全く同じで変化が認められないものを◎、僅かに白化や塗膜の溶解が認められるものを○、白化や塗膜の溶解が認められるものを×とした。
【0084】
(5)長期耐水性試験後の呼気防曇性の評価
40℃の温水に防曇塗膜の試験片を240時間浸漬後、室温で乾燥し、防曇塗膜の試験片に、常温で呼気を吹きかけ、曇りの有無を目視で評価した。曇りが認められないものを○、曇りが認められるものを×とした。
【0085】
(6)スチーム防曇性の評価
防曇塗膜の試験片を40℃に保った温水浴の水面から5cmの高さのところに、試験片を塗膜面が下になるように設置し、温水浴からスチームを防曇塗膜に連続照射し、照射から300秒後の曇りの有無を目視で評価した。曇りが認められず平滑な水膜が形成されているものを◎、曇りが認められないが水膜が平滑ではなく荒れた状態のものを×とした。
【0086】
(7)耐熱性の評価
防曇塗膜の試験片を80℃雰囲気下に240時間放置後、室温にて1時間冷却した。冷却後に前記スチーム防曇性試験を実施して同様の評価を行った。
【0087】
(8)密着性の評価
防曇塗膜の試験片をJIS K 5400 8.5.1に準拠して、防曇塗膜の剥離の有無を目視で評価した。全く剥離が認められないものを◎、剥離が認められるものを×とした。
【0088】
総合評価
前記(1)〜(8)の評価において、何れの評価においても×がないものを○、少なくとも何れかの評価で×があるものを×とし、総合評価が○であるものは実用上問題ない。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
実施例1〜16の防曇剤組成物を、60℃で40分間の条件下で加熱硬化して得られた防曇塗膜は、前記(1)〜(8)の評価基準を全て満たすことが確認された。よって、実施例1〜16の防曇剤組成物によれば、従来の防曇剤組成物よりも、低温かつ短時間条件下で、車両灯具に求められる防曇性を有する防曇塗膜を形成できることがわかった。
【0092】
一方、比較例1〜9の防曇塗膜は、少なくとも前記(1)〜(8)評価における一つの評価基準を満たすことができないことが確認された。よって、比較例1〜9の防曇剤組成物では、従来の防曇剤組成物よりも、低温かつ短時間条件下で、車両灯具に求められる防曇性を有する防曇塗膜を形成できないことがわかった。