(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642183
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】瞬低補償装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/32 20060101AFI20200127BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20200127BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20200127BHJP
H02J 9/06 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
H02J3/32
H02J3/38 180
H02J3/38 110
H02M7/48 M
H02J9/06
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-63271(P2016-63271)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-184299(P2017-184299A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】金剌 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】材津 寛
【審査官】
下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−194981(JP,A)
【文献】
特開平01−129786(JP,A)
【文献】
特開2013−044676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 − 5/00
H02J 9/00 − 11/00
H02M 7/42 − 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に高速スイッチを介して定常運転時に力行運転される交流モータを接続し、電力系統の異常を瞬低検出器で検出し、検出した異常検出による信号で高速スイッチをオフにし、蓄電装置及びインバータを介して交流モータに電力を供給する瞬低補償装置において、
前記瞬低補償装置の制御装置は、インバータの出力電圧V0と負荷電流ILから出力有効電力PLOを定周期毎に演算する電力演算部と、
電力演算部が演算した出力有効電力PLOに対応して、正の有効電力に偏差があるときには周波数を下げ、負の有効電力に偏差があるときには周波数を上げる周波数指令値を演算する出力周波数演算部と、
を備えたことを特徴とする瞬低補償装置。
【請求項2】
前記電力演算部での出力有効電力PLOの演算は、次式で行うことを特徴とする請求項1記載の瞬低補償装置。
PLO=((出力電圧RS相×負荷電流R相)−(出力電圧ST相×負荷電流T相))
×2/√3
ただし、R,S,Tは、三相電力系統の相、
【請求項3】
前記電力演算部は、負荷有効電力PLを演算する機能を備え、演算された負荷有効電力PLを前記瞬低検出器に出力し、瞬低検出器は負荷有効電力PLが予め設定された閾値以下となったとき前記高速スイッチに対するオフ信号として出力することを特徴とする請求項1又は2記載の瞬低補償装置。
【請求項4】
前記電力演算部による負荷有効電力PLの演算は、次式で行うことを特徴とする請求項3記載の瞬低補償装置。
PL=((系統電圧RS相×負荷電流R相)−(系統電圧ST相×負荷電流T相))
×2/√3
ただし、R,S,Tは、三相電力系統の相、
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瞬低補償装置に係わり、特に交流モータ駆動時の電源喪失時における並列型瞬低補償装置の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、特許文献1などにより公知なっている並列型瞬低補償装置の構成図を示したもので、瞬低補償装置は1〜4の機能を備えている。AC/DC変換機能を有するインバータ1の直流リンクには、二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電装置4が接続されている。平常時には高速スイッチ3がオン(閉路)状態となっており、この高速スイッチ3を介して電力系統5と負荷6が連系し、負荷の平準化や電力のピークカットを目的とした電力の充放電制御が行われる。また、インバータ1は瞬低補償動作に備え、蓄電装置4に直流エネルギーを充電した状態でゲートを停止し待機している。
【0003】
制御装置2は、瞬低検出器により系統電圧Vsを監視して予め設定された閾値以下となったとき瞬低発生と判断し、高速スイッチ3をオフにして電力系統5から負荷6を切り離すと共に、インバータ1を自立運転制御に移行することで所定の時間内で負荷6に対し安定した電力を供給する。なお、電力系統の瞬低発生から瞬低検出までに僅かな遅延時間を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−201238
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負荷6として交流モータが接続され、交流モータによりポンプやコンプレッサ等のように慣性モーメントの大きい装置を駆動する場合、瞬低が発生した際に交流モータは回生動作となって逆電力を発生する発電機となり、系統電圧の低下が瞬時に起こらない。これにより、系統電圧値の低下による瞬低検出に遅れが生じる。
【0006】
瞬低発生により交流モータへの電力供給源がなくなるためトルクが発生されず、交流モータの負荷損失によるモータ端子電圧の周波数は低下していく。周波数が低下した状態で、瞬低補償装置から50Hzまたは60Hzの周波数一定の電力が供給されると、モータ端子電圧の低下した交流モータは、瞬低補償装置からの出力周波数に追従するため急加速しようとする。これにより、交流モータの有効電力・無効電力が急変し、交流モータが脱調する虞がある。
【0007】
本発明が目的とするところは、交流モータの端子電圧周波数と略一致した周波数で動作させる瞬低補償装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電力系統に高速スイッチを介して定常運転時に力行運転される交流モータを接続し、電力系統の異常を瞬低検出器で検出し、検出した異常検出による信号で高速スイッチをオフにし、蓄電装置及びインバータを介して交流モータに電力を供給する瞬低補償装置において、
前記瞬低補償装置の制御装置は、インバータの出力電圧V
0と負荷電流I
Lから出力有効電力P
LOを定周期毎に演算する電力演算部と、
電力演算部が演算した出力有効電力P
LOに対応して、正の有効電力の偏差があるときには周波数を下げ、負の有効電力の偏差があるときには周波数を上げる周波数指令値を演算する出力周波数演算部とを備えたものである。
【0009】
本発明の電力演算部での出力有効電力P
LOの演算は、次式で行う。
P
LO=((出力電圧RS相×負荷電流R相)−(出力電圧ST相×負荷電流T相))
×2/√3
ただし、R,S,Tは、三相電力系統の相、
また、本発明の電力演算部は、負荷有効電力P
Lを演算する機能を備え、演算された負荷有効電力P
Lを前記瞬低検出器に出力し、瞬低検出器は負荷有効電力P
Lが予め設定された閾値以下となったとき前記高速スイッチに対するオフ信号として出力する。
【0010】
本発明による電力演算部による負荷有効電力P
Lの演算は、次式で行う。
P
L=((系統電圧RS相×負荷電流R相)−(系統電圧ST相×負荷電流T相))
×2/√3
ただし、R,S,Tは、三相電力系統の相、
【発明の効果】
【0011】
以上のとおり、本発明によれば、出力有効電力P
LOの演算機能のみで交流モータの有効電力・無効電力の急変を抑制し、交流モータの脱調が防止できるものである。更に、電力演算部に負荷有効電力P
Lの演算機能を持たせることで、交流モータに逆起電力が発生しても、瞬低の瞬時検出が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】出力有効電力に対する出力周波数の制御説明図。
【
図4】瞬低補償期間の出力周波数決定のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の実施例を示したもので、
図5で示す従来と同一部分若しくは相当する部分に同一符号を付している。瞬低補償装置の制御装置10は、電力演算部11、瞬低検出器12及び出力周波数制御部13を備えている。電力演算部11は負荷有効電力P
Lと出力有効電力P
LOの演算機能を備え、負荷有効電力P
Lは、電圧検出部Tr1によって検出された系統電圧Vsと電流検出部CTによって検出された負荷電流I
Lを用いて所定の周期毎に次式により求める。
P
L=((系統電圧RS相×負荷電流R相)−(系統電圧ST相×負荷電流T相))
×2/√3
ただし、R,S,Tは、三相電力系統の相、
出力有効電力P
LOは、電流検出部CTによって検出された負荷電流I
Lと電圧検出部Tr2によって検出されたインバータ1の出力電圧V
0を用いて所定の周期毎に次式により求める。
P
LO=((出力電圧RS相×負荷電流R相)−(出力電圧ST相×負荷電流T相))
×2/√3
ただし、R,S,Tは、三相電力系統の相、
瞬低検出器12は、算出された負荷有効電力P
L、若しくは系統電圧Vsが設定された閾値より低下したことを判定して高速スイッチ3に対してオフ信号を出力し、高速スイッチ3が開路(解放)することで電力系統5からの負荷6に対する電力の供給を停止する。同時にインバータ1をゲートオンして蓄電装置4を電源として負荷6に対する電力供給を開始する。
【0014】
一方、算出された出力有効電力P
LOは出力周波数制御部13に入力されてインバータ1の出力周波数を瞬低前の系統周波数f
0、または設定された固定の周波数f
1により負荷6に対する電力供給を開始する。電圧は所定値である。
以下の説明では負荷6が交流モータ負荷のみで、瞬低直後の出力周波数fをf
0とする。瞬低後の交流モータの端子電圧の周波数は低下することで、装置から見ると電流が流れて有効電力か無効電力を発生している。
【0015】
図2は横軸に有効電力値、縦軸に出力周波数の補正量を示し、インバータ1から供給される有効電力の変動分△P
LOとインバータ出力周波数の変動分△fout関係を表したものである。正方向は瞬低補償装置から交流モータへ有効電力が流れている場合で、有効電力の増加に伴い出力周波数は下げる方向になる。これとは反対で、交流モータから瞬低補償装置へ有効電力が流れている場合には、出力周波数を上げる方向にしている。
【0016】
出力周波数制御部13は、出力有効電力の演算値が0のときには、出力周波数は瞬低前の系統周波数、または設定された固定の周波数である既定周波数の指令値信号を、図示省略されたゲート制御回路に出力してインバータ1の出力周波数を制御する。また、出力有効電力P
LOが上昇して+△P
LO1に変動したとすると、出力周波数制御部13は、出力周波数を−△fout下げた周波数指令値f
0−△foutをゲート制御回路に出力する。逆に、出力有効電力P
LOが降下して−△P
LO1に変動したとすると、出力周波数制御部13は、出力周波数を+△fout上げた周波数指令値f
0+△foutをゲート制御回路に出力する。
ここで、
図2における出力有効電力値0時における既定の出力周波数、および出力有効電力値と出力周波数の関係を示す傾きは、負荷となる交流モータの特性を勘案して所定の値に設定される。
【0017】
図3は、停電発生から瞬低補償期間における出力周波数fの低下状態を示したものであり、また、
図4は出力周波数の決定方法を示すフローチャートしである。
出力周波数をfとすると、定周期毎に演算した出力有効電力P
LOに対して偏差を求め、その偏差が正の場合と負の場合に応じてそれぞれ前回値との偏差を求めて出力周波数fを増減させる。
【0018】
すなわち、
図4において、瞬低が発生して当該周期で求まった有効電力演算値がP
0であるとき、ステップS1で前回周期に演算された有効電力演算値P
0と今回周期での演算値P
1との差分をステップS2で比較判断し、偏差が出力有効電力の変動分△P
LOより大きいときにはステップS3で出力周波数を−△fout下げた周波数指令値を演算する。また、ステップS2で偏差が出力有効電力の変動分△P
LOより小さいときにはステップS4で出力周波数を+△fout上げた周波数指令値を演算する。ステップS5では、演算された出力周波数と出力有効電力演算値を指令値として設定し、ステップS1に戻って次回周期の演算を行う。
【0019】
なお、
図1で示す実施例では、電力演算部11は負荷有効電力P
Lと出力有効電力P
LOの演算機能を有しているが、出力有効電力P
LOの演算機能のみで交流モータの有効電力・無効電力の急変を抑制し、交流モータの脱調が防止できるものである。更に、電力演算部11に負荷有効電力P
Lの演算機能を持たせることで、交流モータに逆起電力が発生しても、瞬低検出が瞬時に可能となる効果が生じるものである。
【符号の説明】
【0020】
1… インバータ
3… 高速スイッチ
4… 蓄電装置
5… 電力系統
6… 負荷
10… 制御装置
11… 電力演算部
12… 瞬低検出器
13… 出力周波数制御部