(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のように、入射面に対し、導光板の厚み方向から光信号を照射する従来の光信号伝達構造では、
図15に示すように、送光部60から照射された光信号OSの一部が導光板62の入射面63で反射される。その分、導光板62内に入射する光信号OSが少なくなる。さらに、導光板62内に入射した光信号OSのうち、拡散されながら導光板62の周方向へ伝わるものはさらに少ない。これは、光信号OSが照射される方向(導光板62の厚み方向)と、導光板62内で光信号OSが伝播される方向とが、直交又は略直交していて、大きく異なっているからである。従って、光信号OSの強度は、入射面63のうち光信号OSが照射された箇所で最も高く、同箇所から離れるに従い低くなる。
【0007】
そのため、ステアリングホイールの操舵角に拘らず、送光部60から照射された光信号OSのうち、通信に必要な一定以上の強度を有するものを受光部で受けるようにするためには、導光板62の周方向に沿って多くの送光部60を配置することになる。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、少ない数の送光部でありながら、ステアリングホイールの操舵角に拘わらず、車体とステアリングホイールとの間で光信号を伝達することのできる光信号伝達構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する光信号伝達構造は、車体とステアリングホイールとの間において、一方向又は双方向で、光信号を伝達する光信号伝達構造であって、円環状の板により形成され、かつ前記車体及び前記ステアリングホイールの少なくとも一方に取付けられる導光リングを備え、前記導光リングの周方向の一部には、光信号の入射面を有する入射端部が形成され、前記導光リングには、前記入射面から入射された光信号を拡散させる拡散部が全周にわたって設けられており、前記導光リングの内周面及び外周面の一方は光信号の出射面とされ、前記入射面に対し、前記導光リングの周方向に対向する箇所には、前記入射面に向けて光信号を照射する送光部が配置され、前記出射面に対し、前記導光リングの径方向に対向する箇所には、同導光リングに対し周方向に相対移動し、かつ前記出射面から出射された光信号を受光する受光部が配置されている。
【0010】
上記の構成によれば、車体とステアリングホイールとの間において、一方向又は双方向で、光信号を伝達する際には、送光部から導光リングの周方向に向けて光信号が照射される。この光信号の一部は、入射端部の入射面から導光リングに入射される。そのため、導光リングの厚み方向に光信号が照射される場合に比べ、導光リング内を伝播される光信号の強度が高くなる。これは、送光部から光信号が厚み方向に照射された場合には、その光信号が周方向に向かうようになるまでに、最初から光信号が周方向に照射された場合よりも多くの回数、反射しなければならず、その反射で減衰するからである。
【0011】
入射された光信号は、拡散部により拡散されながら、導光リングの周方向における入射端部とは反対側の端末部に向けて伝播される。従って、通信に必要な一定レベル以上の強度を有する光信号が、導光リングの周方向における出射面のどの箇所に対しても伝播される。そのため、従来技術とは異なり、送光部を、導光リングの周方向の複数箇所に配置しなくてもすむ。
【0012】
そして、出射面に伝播された光信号は、ステアリングホイールの回転操作に伴い導光リングに対し周方向に相対移動する受光部によって受光される。
上記光信号伝達構造において、前記拡散部は、前記導光リングの内周面及び外周面のうち前記出射面とされていない側の面に形成された凸凹部により構成されていることが好ましい。
【0013】
上記の構成によれば、入射端部の入射面を介して導光リング内に入射された光信号の一部は、導光リングの内周面及び外周面のうち出射面とされていない側の面に向かう。この光信号は、上記面に形成された凸凹部により構成される拡散部において反射されることで拡散される。
【0014】
上記光信号伝達構造において、前記凸凹部の外表面には鏡面層が形成されていることが好ましい。
上記の構成によれば、凸凹部を透過しようとする光信号があっても、その光信号は、凸凹部の外表面に形成された鏡面層によって反射される。その分、拡散部により拡散される光信号が多くなる。
【0015】
上記光信号伝達構造において、前記導光リングの周方向における前記入射端部とは反対側の端末部は、同入射端部に近づくに従い、径方向の幅が縮小する形状をなしており、幅の最小となった部分において、前記入射面のうち、前記出射面に対し前記導光リングの径方向に近い側の端部に接続又は接触されていることが好ましい。
【0016】
上述したように、入射端部の入射面から導光リングに入射された光信号の一部は、拡散部により拡散されながら、導光リングの周方向における入射端部とは反対側の端末部に向けて伝播される。この光信号が導光リングを一周して入射端部に戻ると、入射面から入射される新たな光信号と干渉し、影響を及ぼすおそれがある。
【0017】
一方で、入射端部の内周側の端部と、外周側の端部とに対しては、送光部から照射されて入射面に入射された光信号が伝播しにくい。
この点、端末部の径方向の幅は、入射端部に近づくに従い縮小する。光信号は、端末部の幅の最小となった部分から、入射面のうち、出射面に対し導光リングの径方向に近い側の端部に戻り、入射端部の内周側の端部又は外周側の端部に伝播される。そのため、入射端部に戻った光信号が、入射面から入射される新たな光信号と干渉することが起こりにくい。
【0018】
また、光信号が導光リングを一周して、入射面の上記端部を通じて入射端部に戻ることで、その分、光信号が伝播する領域が、導光リングの周方向に拡大する。そのため、ステアリングホイールが360°以上回転操作された場合にも、車体及びステアリングホイールの間での光信号の伝達に対応することが可能となる。
【0019】
上記光信号伝達構造において、前記導光リングの周方向における前記入射端部とは反対側の端末部は、前記入射端部から分離されており、前記端末部は、前記入射端部に近づくに従い、径方向の幅が縮小する形状をなしており、前記端末部は、前記入射端部の内周面及び外周面のうち、前記出射面とされた側の面に対し周方向にオーバラップする部分を有していることが好ましい。
【0020】
上述したように、入射面から導光リングに入射された光信号の一部は、拡散部により拡散されながら端末部に向けて、周方向に伝播される。この光信号が導光リングを一周して入射端部に戻ると、入射面から入射される新たな光信号と干渉し、影響を及ぼすおそれがある。
【0021】
この点、端末部の径方向の幅は、入射端部に近づくに従い縮小する。しかも、端末部は、入射端部の内周面及び外周面のうち、出射面とされた側の面に対し周方向にオーバラップする部分を有している。そのため、光信号が、このオーバラップする部分に伝わることで、入射面から入射される新たな光信号と干渉することが起こりにくい。
【0022】
また、端末部が入射端部にオーバラップする分、光信号が伝播する領域が、導光リングの周方向に拡大する。そのため、ステアリングホイールが360°以上回転操作された場合にも、車体及びステアリングホイールの間での光信号の伝達に対応することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
上記光信号伝達構造によれば、少ない数の送光部でありながら、ステアリングホイールの操舵角に拘わらず、車体とステアリングホイールとの間で光信号を伝達することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、光信号伝達構造の一実施形態について、
図1〜
図11を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、車室11内の運転席12の前方には、車両10の進行方向を変えるために運転者Dによって操作される操舵装置13が設けられている。操舵装置13は、車体14に固定されたステアリングコラム15と、ステアリングコラム15の後側に回転操作可能に配置されたステアリングホイール16とを備えている。ステアリングコラム15内には、ステアリングホイール16の回転をステアリングギヤボックスに伝達するステアリングシャフト(いずれも図示略)が配置されている。ステアリングシャフトは、後側ほど高くなるように傾斜した状態で配置されている。
【0026】
本明細書では、ステアリングホイール16の各部について説明する際には、ステアリングシャフトの軸線L1を基準とする。この軸線L1に沿う方向をステアリングホイール16の「前後方向」といい、軸線L1に直交する面に沿う方向のうち、ステアリングホイール16の起立する方向を「上下方向」というものとする。従って、ステアリングホイール16の前後方向及び上下方向は、車両の前後方向(水平方向)及び上下方向(鉛直方向)に対し若干傾いていることとなる。
【0027】
なお、
図3〜
図5では、光信号伝達構造の各構成部材は、便宜上、前後方向が水平方向に合致し、上下方向が鉛直方向に合致した状態で図示されている。
図1、
図3及び
図6に示すように、車両10には、車体14とステアリングホイール16との間において、双方向で光信号OSを伝達する光信号伝達構造20が設けられている。光信号伝達構造20は、車体14に取付けられる車体側ケース21と、ステアリングホイール16に取付けられるステアリング側ケース23とを備えている。車体側ケース21は、車体14に対し動かないのに対し、ステアリング側ケース23は、ステアリングホイール16と一体となって、車体14及び車体側ケース21に対し回転することが可能である。
【0028】
光信号伝達構造20は、双方向で光信号OSの伝達を行なうために、車体14側から光信号OSをステアリングホイール16側に伝達する部分と、その反対に、ステアリングホイール16側から車体14側に光信号OSを伝達する部分とを備えている。両部分を区別するために、前者を第1伝達構造部25といい、後者を第2伝達構造部41という。
【0029】
図5、
図6及び
図8(a),(b)に示すように、第1伝達構造部25は、導光リング26、送光部37及び受光部38を備えている。導光リング26は、光信号OSの伝送路として機能する部材であり、透明な材料、例えば、PC(ポリカーボネート樹脂)、PS(ポリスチレン樹脂)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)等の樹脂材料やガラスによって円環板状に形成されている。導光リング26は、上記ステアリングシャフトの軸線L1に自身の軸線を合致させた状態で配置されている。導光リング26の内周面及び外周面は、軸線L1を中心とする同心円上に形成されている。導光リング26は、車体側ケース21内に配置され、その車体側ケース21内に形成された爪係合部22等に対し係合されることで、同車体側ケース21に取付けられている。なお、
図5は、
図3に対し、各部が導光リング26の周方向に約90°位相をずらされた状態で図示されている。
【0030】
導光リング26の周方向の一部には、光信号OSの入射面27を有する入射端部28が形成されている。入射面27は、導光リング26の軸線(ステアリングシャフトの軸線L1)を含む平面上に形成されている。入射面27は、滑らかな平面によって構成されている。
【0031】
導光リング26の周方向における入射端部28とは反対側の端部を、端末部31というものとする。端末部31は、入射端部28に対し導光リング26の周方向に隣り合っている。この端末部31は、入射端部28に近づくに従い、径方向の幅Wが縮小する形状をなしている。本実施形態では、端末部31の内周側の面が、導光リング26の他の箇所の内周面と同心円上に形成されているのに対し、外周側の面が、上記入射面27に対し鋭角で傾斜する傾斜面32として形成されることで、上記の条件を満たす端末部31の形状が実現されている。
【0032】
端末部31は、幅Wの最小となった部分において、入射面27のうち、出射面33に対し導光リング26の径方向に近い側の端部27aに接続されている。
導光リング26の内周面は、光信号OSの出射面33とされている。出射面33は、滑らかな湾曲面によって構成されている。
【0033】
図9及び
図10に示すように、導光リング26には、入射面27から入射された光信号OSを拡散させる拡散部が全周にわたって設けられている。拡散部は、微小な凸凹部34によって構成されている。この凸凹部34は、導光リング26の内周面及び外周面のうち出射面33とされていない側の面である外周面35と、上記傾斜面32とに形成されている。本実施形態では、この凸凹部34は、上記外周面35及び傾斜面32を対象面とし、ブラスト処理を行なうことによって形成されている。ブラスト処理は、上記対象面に固体金属、鉱物性又は植物性の研磨材を高速度で吹き付け、その対象面を粗面にする方法である。
【0034】
さらに、上記凸凹部34の外表面には、鏡面層36が蒸着によって形成されている。蒸着は、アルミニウム等の金属を蒸発させて、導光リング26の上記凸凹部34に付着させて薄膜を形成する方法の一種である。
【0035】
こうした凸凹部34及び鏡面層36は、入射面27及び出射面33には形成されていない。
図6及び
図8(a),(b)に示す送光部37は、発光ダイオード等の発光素子を備えている。送光部37は、車体14側に設けられた図示しないECU(Electronic Control Unit)に接続されている。ECUは、センサ等からの信号に基づきアクチュエータ等を電子制御する装置である。送光部37は、ECUから送られてきた電気信号を光信号OSに変換して、入射面27に向けて照射する。送光部37は、上記入射面27に対し、導光リング26の周方向に対向する箇所に配置され、車体側ケース21に取付けられている(
図5参照)。
【0036】
受光部38は、フォトダイオード(PD)等の受光素子を備えており、上記出射面33から出射された光信号OSを受光して、電気信号に変換する。受光部38は、出射面33に対し、導光リング26の径方向内方から対向する箇所に配置され、ステアリング側ケース23に取付けられている(
図4参照)。受光部38は、ステアリングホイール16に設けられた各種アクチュエータ等に電気的に接続されており、受光部38で変換された電気信号は、各種アクチュエータ等に送られる。受光部38は、ステアリングホイール16の回転操作に伴いステアリング側ケース23と一緒になって、導光リング26に対し周方向に相対移動する。
【0037】
図3、
図4及び
図6に示すように、第2伝達構造部41は、導光リング42、送光部44及び受光部45を備えている点で、導光リング26、送光部37及び受光部38を備えている上記第1伝達構造部25と共通している(
図7参照)。そのため、各部材についての説明は省略する。第2伝達構造部41では、導光リング42及び送光部44がステアリング側ケース23に取付けられている。導光リング42の取付けは、ステアリング側ケース23に形成された爪係合部24等に対し同導光リング42が係合されることでなされている。送光部44は、ステアリングホイール16に設けられた各種スイッチ等に接続されている。各種スイッチは、例えば、ホーン、カーナビゲーション、ACC(定速走行・車間距離制御装置)を作動させたり設定したりする際に操作されるスイッチである。受光部45は、車体側ケース21に取付けられており(
図5参照)、車体14側の上記ECUに電気的に接続されている。従って、ステアリングホイール16が回転操作されると、導光リング42及び送光部44が、受光部45に対し、周方向に相対移動することになる。
【0038】
上記のようにして本実施形態の光信号伝達構造20が構成されている。次に、この光信号伝達構造20の作用及び効果について説明する。
車体14からステアリングホイール16に光信号OSを伝達する際には、第1伝達構造部25が機能する。第1伝達構造部25では、
図10に示すように、送光部37から導光リング26の周方向に向けて光信号OSが照射される。この光信号OSの一部は、入射端部28の入射面27から導光リング26に入射される。そのため、
図15を用いて説明したように、導光板62の厚み方向に光信号OSが照射される従来技術に比べ、導光リング26内を伝播される光信号OSの強度が高くなる。これは、送光部60から光信号OSが厚み方向に照射される従来技術では、その光信号OSが周方向に向かうようになるまでに、最初から光信号OSが周方向に照射された場合(本実施形態がこれに該当)よりも多くの回数、反射しなければならず、その反射で光信号OSが減衰するからである。
【0039】
入射面27を介して導光リング26内に入射された光信号OSの一部は、導光リング26の外周面35に向かう。この光信号OSは、外周面35の全周にわたって形成された微小な凸凹部34において反射されることで拡散される。
【0040】
この際、凸凹部34を透過しようとする光信号OSがあっても、その光信号OSは、凸凹部34の外表面に形成された鏡面層36(光反射層)により反射される。その分、多くの光信号OSが凸凹部34により拡散される。
【0041】
そして、光信号OSは、上記のように拡散されながら反射を繰り返すことで、
図8(a)において二点鎖線の矢印Aで示すように、端末部31に向けて、周方向に伝播される。従って、通信に必要な一定レベル以上の強度を有する光信号OSが、導光リング26の周方向における出射面33のどの箇所に対しても伝播される。そのため、従来技術とは異なり、送光部37を、導光リング26の周方向の複数箇所に配置しなくてもすみ、第1伝達構造部25のコストを低減することができる。
【0042】
そして、出射面33に伝播された光信号OSは受光部38によって受光される。この際、導光リング26及び送光部37が静止しているのに対し、受光部38が
図11(a)において二点鎖線の矢印で示すように、ステアリングホイール16の回転操作に伴い、導光リング26の周方向に移動する。しかし、光信号OSは、出射面33の略全周の領域Z1にわたって伝播される。しかも、その伝播された光信号OSの強度は、通信に必要な一定レベル以上である。そのため、ステアリングホイール16の操舵角に拘らず、光信号OSが受光部38によって受光される。また、送光部37だけでなく受光部38も1つですみ、この点でも、第1伝達構造部25のコストを低減するうえで有効である。
【0043】
ここで、導光リング26において入射端部28から端末部31に向けて周方向に伝播された光信号OSが、導光リング26を一周して入射端部28に戻ると、送光部37から照射されて入射面27から入射される新たな光信号OSと干渉し、影響を及ぼすおそれがある。
【0044】
一方で、
図8(b)に示すように、入射端部28の内周側の端部28aと、外周側の端部28bとに対しては、送光部37から照射されて入射面27に入射された光信号OSが伝播しにくい。
【0045】
この点、端末部31の径方向の幅Wは、入射端部28に近づくに従い縮小する。端末部31を伝播する光信号OSは、幅Wの最小となった部分から、入射面27のうち、出射面33に対し導光リング26の径方向に近い側の端部27aに戻り、入射端部28の内周側の端部28aに伝播される。そのため、内周側の端部28aに戻った光信号OSが、入射面27を通じて入射される新たな光信号OSと干渉することが起こりにくい。
【0046】
また、光信号OSが導光リング26を一周して、入射面27の端部27aを通じて内周側の端部28aに戻ることで、その分、
図11(a)に示すように、光信号OSの伝播する領域Z1が、導光リング26の周方向に拡大する。そのため、ステアリングホイール16が360°以上回転操作された場合にも、車体14及びステアリングホイール16の間での光信号OSの伝達に対応することが可能である。
【0047】
また、入射端部28に近づくに従い、径方向の幅Wが縮小する端末部31では、その端末部31の内周側の面が、導光リング26の他の箇所の内周面と同心円上に形成されている。そのため、端末部31が、導光リング26の径方向内方に位置する受光部38と干渉するおそれはない。
【0048】
なお、
図11(b)は、導光リング26における外周面35及び傾斜面32が、凸凹部34が設けられず滑らかな面によって形成されている場合を示している。この場合には、光信号OSの多くは、同
図11(b)において二点鎖線の矢印Bで示すように、導光リング26の外周面35に当たって反射するサイクルを複数回繰り返す。その結果、導光リング26の出射面33に伝播する光信号OSが少ない。光信号OSの多くは、端末部31の領域Z2に到達する。端末部31における領域Z2を通って出射面33に到達する光信号OSの強度は、同出射面33の他の箇所に到達する光信号OSの強度よりも高くなる。このように、出射面33に到達する光信号OSの強度が、導光リング26の周方向でばらつく。そのため、ステアリングホイール16の操舵角に応じて受光部38が受光する光信号OSの強度が異なってしまう。
【0049】
ところで、上記とは逆に、ステアリングホイール16から車体14に光信号OSを伝達する際には、
図6及び
図7に示すように、第2伝達構造部41の各部が機能する。第2伝達構造部41では、基本的には、導光リング42が第1伝達構造部25の導光リング26と同様に作用し、送光部44が第1伝達構造部25の送光部37と同様に作用し、受光部45が第1伝達構造部25の受光部38と同様に作用する。
【0050】
ただし、第2伝達構造部41では、受光部45が静止しており、導光リング42及び送光部44が、同
図7において二点鎖線の矢印Cで示すように、ステアリングホイール16の回転操作に伴い、受光部45に対し周方向に移動する。導光リング42と送光部44との位置関係は変化しない。送光部44から照射された光信号OSは、導光リング42における出射面43の略全周にわたって伝播される。しかも、その伝播された光信号OSの強度は、通信に必要な一定レベル以上である。出射面43の受光部45と対向する箇所が、ステアリングホイール16の回転操作に伴い、周方向に変化しても、光信号OSが受光部45によって受光される。第2伝達構造部41に関しても、送光部44及び受光部45がそれぞれ1つですむ。
【0051】
本実施形態によれば、さらに、次の効果も得られる。
・車体14とステアリングホイール16との間で信号を伝達するために、有線に代えて光通信を利用している。そのため、有線による通信に比べ、高速で通信を行なうことができる。
【0052】
なお、同軸ケーブルを用いた有線による通信であれば、高速通信が可能ではある。しかし、同軸ケーブルは、本実施形態の光信号伝達構造に使用される場合には、スパイラル状にされる。そのため、インダクタンスが増加して、パルス波形が崩れるおそれがあり、高速通信するにも限度がある。
【0053】
また、光通信では単位時間当たりに通信できるデータの容量が多くなる。そのため、映像等の大容量のデータを送ることが可能となる。
従って、大容量のデータを通信するためにステアリングホイール16側にコンピュータを搭載しなくてもすむため、ステアリングホイール16の高機能化に際し、ステアリングホイール16の設計及びデザインの自由度を阻害しにくい。
【0054】
・有線による通信では、通信速度を上げると、信号線に発生した電気ノイズにより、隣接する信号線が影響を受けやすくなるが、光通信では、こうした電気ノイズの問題が起こりにくい。
【0055】
・光通信で一般的に使用される導光体は光ファイバである。光ファイバは、コアと呼ばれる芯材とその外側のクラッドと呼ばれる鞘材との2層構造を採る。クラッドよりもコアの屈折率を高くすることによって、コアとクラッドの界面では臨界角より大きい光の全反射が起こる。コアに入射した光がこの全反射によりコア内に閉じこめられて伝搬される。
【0056】
ここで、光ファイバは、ガラス又は樹脂によって形成されていることから、湾曲に対する耐久性がさほど高くない。そのため、ステアリングホイール16等のように回転する部材に光ファイバを湾曲させて配置することが難しい。
【0057】
本実施形態では、光ファイバに代えて導光リング26,42を用いている。導光リング26,42は円環板状をなしていて、概ね円環状をなす光信号OSの伝送路として機能する。そのため、光ファイバとは異なり導光リング26,42を湾曲させなくてもよく、配置が容易である。
【0058】
・一般的な光ファイバは、遠くまで光信号OSを送ることを目的としており、拡散部を有していない。そのため、光ファイバにおいて、同程度の強度で光信号OSを分散させて、上記導光リング26,42の出射面33,43に相当する箇所に伝播することが難しい。
【0059】
また、導光体として、導光リングに代えて導光棒を用いることも考えられる。しかし、導光棒は、通常、車両のイルミネーション、加飾照明、補助灯等のために用いられるものであり、光が全方向(四方八方)に拡がり、導光棒全体が光ってしまう。そのため、導光棒を導光リングに代えて用いた場合には、受光の対象とならない無駄な光信号OSが多くなる。
【0060】
これに対し、本実施形態では、導光体として、円環板状をなす導光リング26,42を用い、その全周にわたって外周面35及び傾斜面32に対し、凸凹部34を加工することで拡散部を設けている。そのため、導光リング26,42の出射面33,43に対し、周方向のどの箇所でも同程度の強度を有する光信号OSを伝播することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、入射面27及び出射面33,43に対して、上記のような拡散部を設けていない。そのため、光信号OSが入射面27を介して入射端部28に入射する際や、出射面33,43を介して出射する際に、同光信号OSが不要に拡散されて、光信号OSの伝達に影響を及ぼすのを抑制することができる。
【0062】
・本実施形態の光信号伝達構造20で採用されている光通信は、車両専用の通信となる。そのため、無線通信の他の方式、例えば、Wi−Fi、Bluetooth(登録商標)等とは異なり、セキュリティの問題が生じにくいし、他からの電波の影響を受けにくい。
【0063】
・有線による通信の場合には、車体側ケース21及びステアリング側ケース23の間に形成されるスペースに、多数本の信号線を配置することになる。本実施形態では、上述したように光通信を行なうため、信号線の本数を減らすことができる。その分、上記スペースに余裕が生ずるため、ホーン、エアバッグ装置等に給電するための電気線の配線が容易となる。
【0064】
・車体14側からステアリングホイール16側に光信号OSを伝達する経路(伝送路)と、ステアリングホイール16側から車体14側に光信号OSを伝達する経路(伝送路)とを共通の導光体(導光リング)によって構成することも考えられる。しかし、この場合には、車体14とステアリングホイール16との間で双方向同時に光信号OSが伝達された場合に、それらの光信号OSが干渉し合わないようにするために、車体14側とステアリングホイール16側とで光信号OSの波長等の条件を異ならせる必要があり、制御が複雑となる。
【0065】
この点、本実施形態では、車体14側からステアリングホイール16側に光信号OSを伝達する経路が導光リング26によって構成され、ステアリングホイール16側から車体14側に光信号OSを伝達する経路が導光リング42によって構成されている。そのため、車体14とステアリングホイール16との間で双方向同時に光信号OSが伝達されても、それらの光信号OSが干渉し合うことが起こりにくい。従って、車体14側とステアリングホイール16側とで光信号OSの波長等の条件を異ならなくてもよく、複雑な制御が不要となる。
【0066】
・光信号伝達構造20における第1伝達構造部25及び第2伝達構造部41を、車体側ケース21とステアリング側ケース23とによって囲まれる空間において、軸線L1に沿う方向に互いに接近した状態で設けている。そのため、光信号伝達構造20を、軸線L1に沿う方向にコンパクトにすることができる。
【0067】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<入射端部28について>
・送光部37から照射された光信号OSをより多く導光リング26内に入射させるために、
図13に示すように、入射端部28に集光レンズ52が設けられてもよい。このようにすれば、入射面27によって反射されて導光リング26に入射されない光信号OSを少なくすることが可能である。
【0068】
導光リング42についても同様の変更が行なわれてもよい。
<端末部31について>
・導光リング26の端末部31は、入射端部28から分離されてもよい。
【0069】
この場合、
図12に示すように、入射端部28に近づくに従い、径方向の幅Wが縮小する形状の端末部31に、入射端部28の内周面及び外周面のうち、出射面33とされた側の面である内周面に対し、導光リング26の周方向にオーバラップする部分31aが設けられてもよい。
【0070】
このようにすると、光信号OSが上記部分31aに伝わることで、入射面27から入射される新たな光信号OSと干渉することが起こりにくい。
特に、上記実施形態で説明したように、送光部37から照射されて入射面27に入射された光信号OSは、入射端部28の内周側の端部28aと、外周側の端部28bとに対しては伝播しにくい。そのため、上記部分31aに伝わった光信号OSは、入射面27から入射される新たな光信号OSに対し、径方向内方へ離れた箇所を通ることとなり、上記干渉がより起こりにくくなる。
【0071】
また、端末部31が入射端部28にオーバラップする分、光信号OSが到達する領域が、導光リング26の周方向に拡大する。そのため、ステアリングホイール16が360°以上回転操作された場合にも、車体14及びステアリングホイール16の間での光信号OSの伝達に対応することが可能である。
【0072】
また、オーバラップする部分31aは、端末部31の周方向の端であり、幅Wが小さい。そのため、この部分31aが、導光リング26の径方向内方に位置する受光部38と干渉することは起こりにくい。
【0073】
なお、上記の変更は、導光リング42について行なわれてもよい。
・上記実施形態において、導光リング26,42の端末部31は、入射端部28から分断され、かつ幅Wの最小となった部分において、入射面27のうち、導光リング26,42の径方向において、出射面33,43に近い側の端部に接触させられてもよい。
【0074】
この場合にも、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
<拡散部について>
・拡散部の構成が、上記実施形態とは異なるものに変更されてもよい。
【0075】
例えば、
図14に示すように、拡散部は、導光リング26の内部に分散した状態で形成された空洞部51によって構成されてもよい。また、拡散部は、導光リング26を形成する材料とは屈折率の異なる粒子からなり、かつ導光リング26の内部に分散された光拡散剤(図示略)によって構成されてもよい。空洞部51及び光拡散剤のいずれも、導光リング26の全周にわたって設けられる。
【0076】
このように変更された場合には、入射端部28の入射面27を介して導光リング26内に入射された光信号OSの一部は、導光リング26の内部に分散した空洞部51又は光拡散剤で反射されて拡散される。そのため、この場合にも、光信号OSを、出射面33の略全周にわたって伝播させることができる。しかも、その伝播された光信号OSの強度を、通信に必要なレベル以上にすることができる。
【0077】
なお、上記の変更は、導光リング42について行なわれてもよい。
<出射面33,43について>
・導光リング26,42の内周面に代えて外周面35が光信号OSの出射面33,43とされてもよい。この場合、凸凹部34からなる拡散部は、導光リング26,42の内周面に、全周にわたって設けられる。
【0078】
また、
図12を用いて説明したように、導光リング26が、入射端部28に近づくに従い、径方向の幅Wが縮小する形状の端末部31を有し、かつその端末部31が入射端部28に対しオーバラップする部分31aを有する場合には、その部分31aを、入射端部28の外周面35に対しオーバラップさせることが好ましい。
【0079】
この点は、オーバラップする部分が導光リング42に設けられる場合についても同様である。
<鏡面層36について>
・拡散後の光信号OSの強度を、拡散部のみによって、通信に必要な一定レベル以上にすることができる場合には、鏡面層36が省略されてもよい。
【0080】
<通信方向について>
・光信号伝達構造20は、車体14とステアリングホイール16との間において、一方向で光信号を伝達するものであってもよい。この場合には、
図6における第1伝達構造部25及び第2伝達構造部41の一方が省略される。例えば、車体14からステアリングホイール16に対してのみ光信号OSを伝達する場合には、第2伝達構造部41が省略される。また、ステアリングホイール16から車体14に対してのみ光信号OSを伝達する場合には、第1伝達構造部25が省略される。