特許第6642438号(P6642438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642438
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】コーティング製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20200127BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20200127BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20200127BHJP
   A61K 9/40 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   A61K38/40
   A61K47/36
   A61K47/38
   A61K47/32
   A61K47/42
   A61K47/14
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61K9/36
   A61K9/40
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-546638(P2016-546638)
(86)(22)【出願日】2015年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2015074731
(87)【国際公開番号】WO2016035756
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2018年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-178935(P2014-178935)
(32)【優先日】2014年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千晶
(72)【発明者】
【氏名】松野 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】木津 典生
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125798(WO,A1)
【文献】 特表2007−530683(JP,A)
【文献】 特開2013−142086(JP,A)
【文献】 特開昭62−263124(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/032741(WO,A1)
【文献】 特表2000−514406(JP,A)
【文献】 特開昭59−193831(JP,A)
【文献】 特表2013−519686(JP,A)
【文献】 特表昭63−503515(JP,A)
【文献】 繊維と工業,2009年,Vol.65, No.12,pp.(2)-(6)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/40
A61K 9/36
A61K 9/40
A61K 47/10
A61K 47/14
A61K 47/26
A61K 47/32
A61K 47/36
A61K 47/38
A61K 47/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被コーティング物であるラクトフェリンを含む素錠と、その上に形成された(A)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含む下層と、該下層上に形成された(B)アルギン酸塩と(C)可塑剤とを含む腸溶性コーティング層とを有するコーティング製剤であって、
上記(A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、カードラン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びアラビアガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上であり、
上記下層の付着量が、素錠の質量に対して0.2〜3.5質量%であることを特徴とするコーティング製剤。
【請求項2】
腸溶性コーティング層の付着量が、素錠の質量に対して0.5〜20質量%である請求項1記載のコーティング製剤。
【請求項3】
(A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項1又は2記載のコーティング製剤。
【請求項4】
(A)成分の配合量が、下層用組成物全体の1〜10質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載のコーティング製剤。
【請求項5】
(B)成分が、(B−1)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s以上のアルギン酸塩である請求項1〜4のいずれか1項記載のコーティング製剤。
【請求項6】
さらに、(B−2)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s未満のアルギン酸塩を含む請求項5記載のコーティング製剤。
【請求項7】
さらに、腸溶性コーティング層が(D)皮膜形成成分を含有し、該(D)成分が、ゼラチン、ペクチン、カードラン、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、キトサン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、エチルセルロース水分散液よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜6のいずれか1項記載のコーティング製剤。
【請求項8】
さらに、下層が(E)可塑剤を含有し、該(E)成分が、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、ショ糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、中鎖脂肪酸エステルよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜7のいずれか1項記載のコーティング製剤。
【請求項9】
(C)/(B)で表される質量比が、0.05〜3.0である請求項1〜8のいずれか1項記載のコーティング製剤。
【請求項10】
(B)/(D)で表される質量比が、0.33〜20である請求項1〜9のいずれか1項記載のコーティング製剤。
【請求項11】
被コーティング物であるラクトフェリンを含む素錠に、(A)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含む溶液を噴霧し、乾燥することにより下層を形成する工程と、該下層の外側に(B)アルギン酸塩と(C)可塑剤とを含む溶液を噴霧し、乾燥することにより腸溶性コーティング層を形成する工程とを含むコーティング製剤の製造方法であって、
上記(A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、カードラン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びアラビアガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上であり、
上記下層の付着量が、素錠の質量に対して0.2〜3.5質量%であることを特徴とするコーティング製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品等として使用されるコーティング製剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌や酵素等のタンパク質の機能成分のように、胃での分解を防ぎ、構造を維持して腸まで届けることにより高い機能性を出す有効成分があり、胃で溶けず腸で溶解し、有効成分を腸に到達させる腸溶性の製剤が求められている。
【0003】
有効成分を腸まで到達させるための保護膜としては、胃の中のpH条件(酸性)で溶解せず、小腸のpH条件(中性〜アルカリ性)で溶解する成分、例えば、メタクリル酸系高分子化合物、シェラック、ツェイン等が一般的である。
【0004】
しかしながら、メタクリル酸系高分子化合物は医薬品用途に限られ、食品には用いることができない。一方、シェラック、ツェインは食品用途にも用いられるが、有機溶剤を用いて噴霧する方法が一般的である。食品用途でも環境を配慮した、水を用いたコーティングができる水溶性膜剤の利用が望まれていた。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−193792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、胃で溶けず腸で溶解し、コーティングされた有効成分をより確実に腸へと到達させることができるだけでなく、経時劣化を可及的に抑制し得、保存安定性にも優れるコーティング製剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、先に環境を配慮した、水を溶剤として用いるアルギン酸塩腸溶性コーティング製剤を提案した(特願2013−046697号)。このコーティングを施した腸溶性製剤は、コーティング直後の腸溶性(酸性下での溶出抑制、中性下での溶出性)が非常に良好である等の利点を有するものである。しかし、その後の更なる検討において、コーティング膜の外観には変化がないにもかかわらず、時間の経過に伴い酸性下における溶出抑制性が低下する場合があることがわかった。その原因は明らかではないが、コーティング膜の外観に変化がないにもかかわらず、溶出抑制性が低下していることから、非常に微細な構造変化が起こっていることによるものと推測される。
【0009】
そこで、本発明者らは、更に鋭意検討を行った結果、この微細な構造変化に対し、腸溶性コーティング膜の下層となるプレコーティングを施したところ、意外にも経時による酸性下での溶出抑制性低下を改善できることを見出した。
【0010】
腸溶性コーティング膜に対するプレコーティングは、腸溶性コーティング膜と錠剤との相溶性の悪さに起因する膜の剥がれを改善するために一般的に実施されるものであるが、本発明者らは、当該プレコーティングが上記アルギン酸塩を用いた腸溶性コーティング膜を経時の劣化から保護する機能を発揮し、コーティング製剤の保存安定性の改善に対して有効であることを新たに見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
従って、本発明は下記のコーティング製剤及びその製造方法を提供する。
[1]被コーティング物であるラクトフェリンを含む素錠と、その上に形成された(A)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含む下層と、該下層上に形成された(B)アルギン酸塩と(C)可塑剤とを含む腸溶性コーティング層とを有するコーティング製剤であって、
上記(A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、カードラン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びアラビアガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上であり、
上記下層の付着量が、素錠の質量に対して0.2〜3.5質量%であることを特徴とするコーティング製剤。
[2]腸溶性コーティング層の付着量が、素錠の質量に対して0.5〜20質量%である[1]記載のコーティング製剤。
[3](A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである[1]又は[2]記載のコーティング製剤。
[4](A)成分の配合量が、下層用組成物全体の1〜10質量%である[1]〜[3]のいずれか1項記載のコーティング製剤。
[5](B)成分が、(B−1)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s以上のアルギン酸塩である[1]〜[4]のいずれか1項記載のコーティング製剤。
[6]さらに、(B−2)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s未満のアルギン酸塩を含む[5]記載のコーティング製剤。
[7]さらに、腸溶性コーティング層が(D)皮膜形成成分を含有し、該(D)成分が、ゼラチン、ペクチン、カードラン、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、キトサン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、エチルセルロース水分散液よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である[1]〜[6]のいずれか1項記載のコーティング製剤。
[8]さらに、下層が(E)可塑剤を含有し、該(E)成分が、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、ショ糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、中鎖脂肪酸エステルよりなる群から選ばれる1種又は2種以上である[1]〜[7]のいずれか1項記載のコーティング製剤。
[9](C)/(B)で表される質量比が、0.05〜3.0である[1]〜[8]のいずれか1項記載のコーティング製剤。
[10](B)/(D)で表される質量比が、0.33〜20である[1]〜[9]のいずれか1項記載のコーティング製剤。
[11]被コーティング物であるラクトフェリンを含む素錠に、(A)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含む溶液を噴霧し、乾燥することにより下層を形成する工程と、該下層の外側に(B)アルギン酸塩と(C)可塑剤とを含む溶液を噴霧し、乾燥することにより腸溶性コーティング層を形成する工程とを含むコーティング製剤の製造方法であって、
上記(A)成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、カードラン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びアラビアガムからなる群より選ばれる1種又は2種以上であり、
上記下層の付着量が、素錠の質量に対して0.2〜3.5質量%であることを特徴とするコーティング製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコーティング製剤によれば、胃で溶けず腸で溶解し、コーティングされた有効成分を確実に腸へと到達させることができるだけでなく、長期間保存した場合においても、酸性下における溶出抑制性の低下を可及的に抑制し得、保存安定性にも優れるコーティング製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のコーティング製剤は、被コーティング物と、その上に形成された下層と、該下層上に形成された腸溶性コーティング層とを有するものであり、被コーティング物と下層との間や、腸溶性コーティング層と最表層との間に、1層以上の中間層を形成することもできる。中でも、被コーティング物と、該被コーティング物の表面に形成された下層と、該下層の表面に形成された腸溶性コーティング層とを有するものが好ましい。本発明では、腸溶性品質に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて腸溶性コーティング層の外側に最表層を形成することができる。なお、本発明において「腸溶性」とは、機能性成分を腸まで届ける剤のことをいう。日本薬局の溶出試験法の方法に準じて試験を行い、胃液相当の溶出試験液(pH1.2)にて、2時間で溶出率40%未満(好適には20未満)、腸液相当の溶出試験液(pH6.8)で、2時間で溶出率70%以上をいう。
【0014】
(I)被コーティング物
本発明において、被コーティング物は、特に限定されるものではなく、食品、医薬品等の有効成分等が挙げられる。例えば、乳酸菌、システイン、鉄、抗体やラクトフェリン等のタンパク質、ペプチド、ATP−2Na等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、タンパク質等の高分子量成分や水不溶性の成分に好適である。
【0015】
被コーティング物の形や、剤型は特に限定されず、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等特に限定されない。錠剤は単層でも二層以上でもよい。この中でも、腸溶性をより発揮する点から、錠剤とすることが好ましい。錠剤の寸法は特に限定されず、錠剤の取り扱いやすさと嚥下性の観点から、錠剤の径として5〜14mmφが好ましく、7〜12mmφがより好ましい。また、1錠あたりの錠剤質量としては150〜700mg程度が適切である。
【0016】
(II)下層
本発明の下層は、後述するアルギン酸塩を含む腸溶性コーティング層に先立って形成される層であり、例えば、被コーティング物の表面に形成される層である。本発明では、被コーティング物と腸溶性コーティング層との間に下層を形成することにより、保存中における酸性下での溶出抑制効果の経時的低下を防ぐことができる。これにより腸溶性コーティング層を形成したコーティング製剤の保存安定性(酸性下での溶出抑制性)を著しく改善することができる。以下、下層について詳細に説明する。
【0017】
下層は、(A)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含有するものである。上記(A)成分は、特に制限されるものではないが、具体例として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ペクチン、カードラン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、及びアラビアガム等を例示することができ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本発明では、特にヒドロキシプロピルメチルセルロースを好適に使用することができる。
【0018】
上記(A)成分の配合量は、特に制限されないが、プレコーティング組成物(下層用組成物)全体に対して、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%である。配合量を上記範囲の下限以上とすることで製造時間を適切な時間内におさめることができる。一方、配合量を上記範囲の上限以下とすることで、コーティング液の調製やコーティング液噴霧に適した粘度におさめることができる。
【0019】
また、上記下層には、必要に応じて(E)可塑剤を含有してもよい。(E)成分としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、ショ糖等の糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール等(好適には炭素数6〜22)の高級アルコール、中鎖脂肪酸エステル(好適には炭素数6〜12)等の油脂が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本発明では、可塑効果の観点から、グリセリンを好適に使用することができる。
【0020】
上記(E)成分の配合量は、特に制限されないが、下層用組成物全体に対して、好ましくは0.3〜6質量%、より好ましくは0.8〜5質量%である。配合量を上記範囲の下限以上とすることで酸性下での溶出抑制効果の経時的低下を防ぐ効果が高くなる。一方、配合量を上記範囲の上限以下とすることで製造時間を適切な時間内におさめることができる。
【0021】
下層用組成物には、(F)微粒子を配合してもよい。微粒子を配合することで、コーティング処理時の錠剤同士の付着によるコーティング膜のはがれを防止することができる。(F)成分としては、タルク、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素、酸化チタン等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。微粒子の粒径は0.01〜50μmであり、0.1〜20μmが好ましい。なお、粒径の測定はレーザー回折式粒度分布測定装置(乾式測定)にて行う。
【0022】
(F)成分の配合量は、下層用組成物全体の0.05〜7質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.3〜3質量%が更に好ましい。配合量を上記範囲の下限以上とすることで、上記(F)成分を配合する効果をより得ることができ、上記範囲の上限を超えて配合すると、成膜性に影響を与えるおそれがある。
【0023】
上記の下層用組成物には、水、エタノール等の有機溶剤を含むことができる。下層用組成物中の溶媒配合量は、下層用組成物全体に対して、1〜98質量%の範囲で適宜選定され、50〜98質量%が好ましく、70〜96質量%がより好ましい。
【0024】
下層の厚さは特に限定されないが、1〜200μmが好ましく、2〜100μmがより好ましい。また、錠剤の場合は、下層の付着量を素錠300mgに対して0.6〜10.5mg/300mg(0.2〜3.5質量%)とすることが好ましく、1.5〜7.5mg/300mg(0.5〜2.5質量%)とすることがより好ましい。顆粒剤、散剤、粉末の場合は0.5〜30質量%とすることが好ましく、1〜25質量%とすることがより好ましい。下層の厚さ及び付着量を上記範囲の下限以上とすることで、本発明の効果(即ち、時間の経過に伴い酸性下での溶出抑制効果が低下することを防ぐこと)を効果的に得ることができる。一方、下層の厚さ及び付着量を上記範囲の上限以下とすることで、適正な製造時間で錠剤を作製することができる。
【0025】
上記下層を形成する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、被コーティング物に、所定のコーティング溶液を噴霧し、加温により乾燥させることにより、被コーティング物の表面にフィルム化させる方法が挙げられる。コーティング溶液は適宜加温することができ、温度は30〜80℃が好ましく、乾燥温度は40〜80℃が好ましい。コーティング溶液の添加速度は、乾燥風量1m3/minに対し、1〜5g/minが好ましい。その他、コーティング溶液に、被コーティング物を浸漬して乾燥させるディップコートの方法をとることも可能である。乾燥はコーティング製剤中の水分量が0.1〜20質量%、特に0.5〜5質量%になるまで乾燥させることが好ましい。なお、上記下層は、1層に限られず、必要に応じて複数層形成してもよい。
【0026】
この場合、コーティング機は特に限定されず、パンコーティング機、流動層コーティング機、転動コーティング機等を用いることができる。
【0027】
(III)腸溶性コーティング層
本発明の腸溶性コーティング層は、上記下層の外側に形成される腸溶性を有する層であり、(B)アルギン酸塩及び(C)可塑剤を含有する。
【0028】
(B)アルギン酸塩
アルギン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の一価のアルギン酸塩、アルギン酸水溶性塩が好ましい。アルギン酸塩としては、下記の(B−1)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s以上のもの、(B−2)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s未満のものが挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0029】
(B−1)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s以上のものとしては、50mPa・s以上600mPa・s以下のものが好ましく、50mPa・s以上400mPa・s以下のものがより好ましい。
【0030】
(B−1)アルギン酸塩を配合する場合は、配合量はコーティング組成物全体の0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜4質量%がより好ましく、1〜4質量%の範囲が更に好ましい。配合量を上記範囲の下限以上とすることで、酸性下での溶出抑制能を十分に得ることができ、良好な腸溶性をより得ることができる。一方、上限以下にすることでコーティング液の調製や移送、噴霧に適切な粘度におさめることができる。
【0031】
(B−2)1質量%水溶液の20℃での粘度が50mPa・s未満のアルギン酸塩としては、5mPa・s以上50mPa・s未満のものが好ましく、10mPa・s以上50mPa・s未満のものがより好ましい。(B−2)アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0032】
(B−2)アルギン酸塩を配合する場合は、配合量としてはコーティング組成物全体の5質量%以下が好ましく、0.1〜4質量%がより好ましく、0.1〜2.5質量%の範囲が更に好ましい。配合量を上記範囲の上限以下とすることで、腸溶性が向上し、かつコーティング性が良好となる。
【0033】
また、(B)成分の配合量(即ち、(B−1)成分及び(B−2)成分の合計量)は、コーティング組成物全体の0.1〜10質量%であることが好ましい。また、1〜7質量%の範囲がより好ましく、1.5〜5質量%の範囲が更に好ましい。配合量を上記範囲の上限以下とすることで良好な腸溶性(酸性下での溶出抑制性)を得ることができる。
【0034】
本発明においては、(B)アルギン酸塩として、(B−1)アルギン酸塩を用いることが好ましい。このような一定以上の長さのアルギン酸塩を用いることで、コーティング性がよく、形成されたコーティング膜に高い耐酸性を付与することができる。また、(B−1)アルギン酸塩と(B−2)アルギン酸塩とを併用することにより、腸溶性を維持しつつ、コーティング性能をより向上することができる。
【0035】
上記(B−1)アルギン酸塩と、(B−2)アルギン酸塩とのように、粘度の異なる2種のアルギン酸塩を用いるのは、単にコーティング溶液の粘度の調整ではなく、腸溶性及びコーティング性の観点から、2種類のアルギン酸塩を選択したものである。その質量比は(B−1):(B−2)((B−1)/(B−2))は1:5〜10:1(0.2〜10)が好ましく、1:3〜5:1(0.33〜5)がより好ましく、1:1.8〜3:1(0.56〜3)が更に好ましい。質量比を上記範囲の下限以上とすることで酸性下での皮膜性能がより高くなるため非溶出性が良好となり、上記範囲の上限以下とすることでコーティング性がより良好となるため更に好ましい。
【0036】
なお、本発明において、アルギン酸塩の粘度測定は回転式粘度計(BM型)を用いて行う。粘度が200mPa・s未満の粘度はローターNo.1を用い、200mPa・s以上1,000mPa・s未満の粘度はローターNo.2を用いて、1質量%水溶液を20℃、30rpmの条件にて測定し、60秒後の値を測定値とする。
【0037】
アルギン酸塩の粘度は、アルギン酸塩の分子量にほぼ比例するものである。例えば上記、(B−1)の重量平均分子量(Mw)は80万以上であり、80〜300万未満が好ましく、80〜190万未満がより好ましい。(B−2)の重量平均分子量(Mw)は20万以上80万未満であり、30万以上80万未満が好ましい。なお、本発明のアルギン酸塩の重量平均分子量(Mw)のゲルクロマトグラフィーの測定方法を以下に示す。
【0038】
(1)サンプルの調製
アルギン酸塩濃度が0.1質量%となるように移動相(0.1M(mol/L)NaNO3水溶液)に溶かしこれをサンプルとする。
各種分子量の標準品(プルラン:Mw=166万、Mw=38万、Mw=10万、Mw=1.22万、移動相に0.1質量%濃度で溶解)を用いて検量線を作成する。
(2)GPC測定条件
カラム:Shodex OHpak SB−806M HQ(8mmI.D.×300mmL.,13μm)
移動相:0.1M(mol/L)NaNO3水溶液
流 量:0.5mL/min
温 度:40℃
注入量:200μL(0.1% in移動相)
検出器:示差屈折率(RI)検出器
(3)解析方法
検量線サンプルより検量線式を求め、試料のGPC分析結果からプルランに換算した重量平均分子量(Mw)を求める。
【0039】
(C)可塑剤
(C)可塑剤は、コーティング組成物の表面張力低下や、コーティング層への柔軟性付与を目的として配合する成分である。(C)成分としては、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、ショ糖等の糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノール等(好適には炭素数6〜22)の高級アルコール、中鎖脂肪酸エステル(好適には炭素数6〜12)等の油脂が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、コーティング膜の可塑効果の点から、グリセリンが好ましい。
【0040】
(C)成分の配合量は、コーティング組成物全体の0.3〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。配合量を上記範囲の下限以上とすることで、コーティング時の膜のはがれがより抑制され、上記範囲の上限以下とすることで、コーティング時のベタツキが抑制され、コーティング処理がより容易となるとともに、良好な腸溶性が得られる。
【0041】
(C)/(B)で表わされる質量比は、0.05〜3.0の範囲が好ましく、0.1〜2.0がより好ましく、0.15〜1.5が更に好ましく、0.15〜1.1が特に好ましい。質量比を上記範囲の下限以上とすることで、酸性下での皮膜性能がより高くなり、上限以下とすることでコーティング性がより良好となる。
【0042】
本発明のコーティング組成物には、(B)成分以外の皮膜形成成分(D)を配合してもよい。(D)皮膜形成成分としては、ゼラチン、ペクチン、カードラン、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、キトサン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、エチルセルロース水分散液等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ゼラチン、ペクチン、カードラン、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる成分が、コーティング性及び(B)成分との組み合わせの点から好ましい。
【0043】
(D)成分の配合量は、コーティング組成物全体の0.1〜7質量%が好ましく、0.2〜5質量%がより好ましく、0.3〜3質量%が更に好ましい。配合量を上記範囲の下限以上とすることで、(D)成分配合の効果をより得ることができ、上記範囲の上限を超えて配合すると、腸溶性に影響を与えるおそれがある。
【0044】
この場合、(B):(D)((B)/(D))で表される含有質量比は、1:3〜1:0.05(0.33〜20)が好ましく、1:1〜1:0.1(1〜10)がより好ましく、1:0.8〜1:0.2(1.25〜5)が更に好ましい。この範囲とすることで、コーティング性と外観の美しさを維持した上で、特に酸性下での溶出抑制能がより高い腸溶性能に優れる錠剤を得ることができる。
【0045】
コーティング組成物には、(F)微粒子を配合してもよい。微粒子を配合することで、コーティング処理時の錠剤同士の付着によるコーティング膜のはがれを防止することができる。(F)成分としては、タルク、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素、酸化チタン等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。微粒子の粒径は0.01〜50μmであり、0.1〜20μmが好ましい。なお、下層用組成物の場合と同様、粒径の測定はレーザー回折式粒度分布測定装置(乾式測定)にて行う。
【0046】
(F)成分の配合量は、コーティング組成物全体の0.05〜7質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.3〜3質量%が更に好ましい。配合量を上記範囲の下限以上とすることで、上記(F)成分を配合する効果をより得ることができ、上記範囲の上限を超えて配合すると、成膜性に影響を与えるおそれがある。
【0047】
なお、上記コーティング組成物には、銅イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン等の二価金属イオンを含まないことが好ましい。これらにより、アルギン酸塩が架橋されてゲル化し、コーティング性が悪くなるからである。つまり、一価アルギン酸塩を二価の陽イオンと反応させ架橋させた場合、乾燥させた膜は水不溶性であるが、ゲル化により粘度が高くなりすぎるため、細かな液の噴霧及び錠剤上での展延性が困難となる。その結果、均一な皮膜形成が困難になり、外観が悪くなる他、溶出性でばらつきが生じる場合がある。二価の金属イオンの許容範囲は、アルギン酸塩のモノマー1モルに対して0.5モル以下が好ましく、0.25モル以下がより好ましく、0.1モル以下が更に好ましい。
【0048】
上記のコーティング組成物には、上記成分の他に、コーティング組成物に通常用いられる成分を1種単独で又は2種以上、適量配合することができる。このような任意成分としては、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
【0049】
消泡剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0050】
着色剤としては、例えば、アセンヤクタンニン末、ウコン抽出液、黄色三二酸化鉄、オレンジエッセンス、褐色酸化鉄、カーボンブラック、カラメル、カルミン、カロチン液、β−カロテン、カンゾウエキス、金箔、黒酸化鉄、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、三二酸化鉄、食用青色1号、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキ、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、水酸化ナトリウム、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィル、ハダカムギ緑葉抽出エキス、薬用炭、酪酸リボフラビン、リボフラビン、緑茶末、リン酸リボフラビンナトリウム等が挙げられる。
【0051】
本発明のコーティング組成物には、水、エタノール等の有機溶剤を含むことができる。コーティング組成物中の溶媒配合量は、コーティング組成物全体に対して、1〜98質量%の範囲で適宜選定され、50〜98質量%が好ましく、70〜96質量%がより好ましい。
【0052】
上記腸溶性コーティング層の厚さは特に限定されないが、5〜1,000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。また、錠剤の場合は、腸溶性コーティング層の付着量を素錠300mgに対して1.5〜60mg/300mg(0.5〜20質量%)とすることが好ましく、3〜45mg/300mg(1〜15質量%)とすることがより好ましい。顆粒剤、散剤、粉末の場合は10〜60質量%とすることが好ましく、15〜50質量%とすることがより好ましい。腸溶性コーティング層の厚さ及び付着量を上記範囲の下限以上とすることで、酸性下での溶出抑制能に優れる製剤を得ることができる。一方、腸溶性コーティング層の付着量を上記範囲の上限以下とすることで、適切な製造時間内におさめることができる。
【0053】
また、上記下層の厚さと腸溶性コーティング層の厚さの関係は、特に限定せず、それぞれが上述した適切な範囲内に入っていれば問題ない。
【0054】
上記腸溶性コーティング層を形成する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、下層が形成された被コーティング物に、所定のコーティング溶液を噴霧し、加温により乾燥させることにより、該被コーティング物の表面にフィルム化させる方法が挙げられる。コーティング溶液は適宜加温することができ、温度は30〜80℃が好ましく、乾燥温度は40〜80℃が好ましい。コーティング溶液の添加速度は、乾燥風量1m3/minに対し、1〜5g/minが好ましい。その他、コーティング溶液に、該被コーティング物を浸漬して乾燥させるディップコートの方法をとることも可能である。乾燥はコーティング製剤中の水分量が0.1〜20質量%、特に0.5〜5質量%になるまで乾燥させることが好ましい。
【0055】
この場合、コーティング機は特に限定されず、パンコーティング機、流動層コーティング機、転動コーティング機等を用いることができる。
【0056】
なお、上記下層と上記コーティング層との間には、本発明の効果を損なわない範囲で適宜な中間層を形成してもよい。本発明では、例えば、シェラックコーティング膜、硬化油脂コーティング膜を形成することができる。
【0057】
(IV)最表層
本発明においては、必要に応じて上記腸溶性コーティング層の外側に上記(D)皮膜形成成分を用いて最表層を形成することもできる。これにより外観、口当たり、味を変化させることができる。(D)成分としては、ゼラチン、ペクチン、カードラン、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、キトサン、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、エチルセルロース水分散液等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ゼラチン、ペクチン、カードラン、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる成分が、コーティング性の点から好ましい。
【0058】
上記最表層の厚さは特に限定されないが、1〜200μmが好ましく、2〜100μmがより好ましい。また、錠剤の場合は、最表層の付着量を素錠300mgに対して0.6〜10.5mg/300mg(0.2〜3.5質量%)とすることが好ましく、1.5〜7.5mg/300mg(0.5〜2.5質量%)とすることがより好ましい。顆粒剤、散剤、粉末の場合は1〜30質量%とすることが好ましく、2〜25質量%とすることがより好ましい。最表層の厚さ及び付着量を上記範囲の下限以上とすることで、口当たりや味を変化させることができる。一方、最表層の厚さ及び付着量を上記範囲の上限以下とすることで、製造時間を適切におさめることができる。
【0059】
上記の最表層用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、水、エタノール等の有機溶剤を含むことができる。最表層用組成物中の溶媒配合量は、最表層用組成物全体に対して、1〜98質量%の範囲で適宜選定され、50〜98質量%が好ましく、70〜96質量%がより好ましい。
【0060】
上記最表層を形成する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、下層及び腸溶性コーティング層が形成された被コーティング物に、所定のコーティング溶液を噴霧し、加温により乾燥させることにより、該被コーティング物の表面にフィルム化させる方法が挙げられる。コーティング溶液は適宜加温することができ、温度は30〜80℃が好ましく、乾燥温度は40〜80℃が好ましい。コーティング溶液の添加速度は、乾燥風量1m3/minに対し、1〜5g/minが好ましい。その他、コーティング溶液に、該被コーティング物を浸漬して乾燥させるディップコートの方法をとることも可能である。乾燥はコーティング製剤中の水分量が0.1〜20質量%、特に0.5〜5質量%になるまで乾燥させることが好ましい。
【0061】
この場合、コーティング機は特に限定されず、パンコーティング機、流動層コーティング機、転動コーティング機等を用いることができる。
【0062】
(V)コーティング製剤の製造方法
本発明のコーティング製剤は、被コーティング物に、(A)6質量%水溶液の25℃での粘度が300mPa・s未満である高分子化合物を含む溶液を噴霧し、乾燥することにより下層を形成する工程、該下層の外側に(B)アルギン酸塩と(C)可塑剤とを含む溶液を噴霧し、乾燥することにより腸溶性コーティング層を形成する工程、及び必要に応じて、(D)皮膜形成成分を含む溶液を噴霧し、乾燥することにより最表層を形成する工程を経ることにより製造することができる。各工程の詳細は上記の通りであるが、使用するコーティング溶液の配合やコーティングの条件等は本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定することができ、特に制限されるものではない。
【0063】
上記の下層、腸溶性コーティング層、必要に応じて最表層の各層を形成するためのコーティング溶液は上述した必須成分を混合することにより得ることができる。そして、上記の各コーティング溶液を用いて、被コーティング物に下層、腸溶性コーティング層、必要に応じて最表層を順次形成することにより、良好な腸溶性と優れた保存安定性を兼ね備えたコーティング製剤を得ることできる。また、各層のコーティング溶液は溶媒として水を用いているため、それぞれ水溶性膜が形成される。
【0064】
上記のコーティング組成物から形成された腸溶性コーティング層は、上記(B)成分を含有するが、上述したようにアルギン酸塩水溶液を直接乾燥させて水溶性の膜を形成させている。この水溶性の膜は、酸性下において、一価の陽イオンが水素イオンと置き換わり、アルギン酸へ変化して不溶性の膜を形成し、更に中性〜アルカリ性で溶解するという特性を有する。
【0065】
上記コーティング組成物から形成される腸溶性コーティング層は、腸溶性、つまり「胃で溶けず腸で溶解し、被コーティング物を腸に到達させることができる。」という性質を有するものである。コーティング膜が腸溶性である腸溶性コーティング製剤が得られる。
【0066】
更に、腸溶性コーティング層の下には上記(A)成分を含む下層が形成されており、該下層が腸溶性コーティング層を経時の劣化から保護する土台として機能するため、時間の経過に伴って酸性下での溶出抑制性が低下することを可及的に抑制することができ、コーティング製剤の保存安定性を著しく改善することができる。
【0067】
また、必要に応じ、上記腸溶性コーティング層の外側に更に(D)成分を含む最表層を形成することにより、味、口当たり、外観に変化をもたらすことができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%、比率は質量比を示す。
【0069】
[実施例1〜15、比較例1、2]
まず、コーティング製剤を作製するにあたって、以下の素錠を調製した。
[素錠]
下記原料を混合し、打錠機を用いて錠剤(300mg、φ9.0mm、厚み5mm)になるよう打錠を行った。
<素錠組成>
ラクトフェリン:1,156g
ヒハツエキス末:500g
乳糖:492.5g
結晶セルロース:731.5g
カルボキシメチルセルロースナトリウム:60g
ショ糖脂肪酸エステル:30g
微粒二酸化ケイ素:30g
【0070】
上記の各成分の詳細は以下の通りである。
ラクトフェリン:森永乳業(株)製
ヒハツエキス末:丸善製薬(株)製、「ヒハツエキス末MF」
乳糖:フロイント産業(株)製、「乳糖グラニュー」
結晶セルロース:旭化成ケミカルズ(株)製、「セオラスFD−101」
カルボキシメチルセルロースナトリウム:ニチリン化学工業(株)製、「ECC−FA」
ショ糖脂肪酸エステル:三菱化学フーズ(株)製、「リョートーシュガーエステルS−370F」
微粒二酸化ケイ素:DSLジャパン(株)製、「カープレックスFPS−500」
【0071】
次に、下記表2〜4に示す組成の下層、腸溶性コーティング層、及び最表層を形成するためのコーティング溶液を下記の手順で調製した。
【0072】
[下層用のコーティング溶液の調製]
(A)成分及び(E)成分をそれぞれ、室温にて水に均一溶解させた。
【0073】
[腸溶性コーティング層用のコーティング溶液の調製]
(B)成分及び(C)成分をそれぞれ、水に分散させた後加温し均一溶解させ、溶解した液を混合し、他成分を加え、更に混合攪拌した。
【0074】
[最表層用のコーティング溶液の調製]
(D)成分を室温にて水に均一溶解させた。
【0075】
上記で作製した素錠の表面に、上記で調製した各コーティング溶液を用いて下層、腸溶性コーティング層、及び必要に応じて最表層を順次形成し、コーティング製剤(錠剤)を調製した。各層をコーティングした際の条件は以下の通りである。
【0076】
[コーティング]
下層、腸溶性コーティング層及び最表層をコーティングする際の条件はそれぞれ以下の通りである。
【0077】
〔下層〕
コーティング機(パウレック製 パウレックコーターPRC−05)を用い、素剤200gに対し、コーティング溶液50gを平均2ml/minで噴霧し、品温約50℃でコーティングを施した。噴霧後約45℃で2min間乾燥させ、コーティング製剤(錠剤)を得た。コーティング膜の厚さは5〜50μmの範囲内であった。
【0078】
〔腸溶性コーティング層〕
コーティング機(パウレック製 パウレックコーターPRC−05)を用い、素剤200gに対し、コーティング溶液(実施例及び比較例1:150g、比較例2:204g)を平均2ml/minで噴霧し、品温約50℃でコーティングを施した。噴霧後約45℃で2min間乾燥させ、コーティング製剤(錠剤)を得た。コーティング膜の厚さは20〜200μmの範囲内であった。
【0079】
〔最表層〕
コーティング機(パウレック製 パウレックコーターPRC−05)を用い、素剤200gに対し、コーティング溶液50gを平均2ml/minで噴霧し、品温約50℃でコーティングを施した。噴霧後約45℃で2min間乾燥させ、コーティング製剤(錠剤)を得た。コーティング膜の厚さは5〜50μmの範囲内であった。
【0080】
上記で得たコーティング製剤は、コーティング直後、及び50℃、75%RHの条件で4ヶ月保管した後のそれぞれにおいて下記の手順で腸溶性を評価し、両者の腸溶性の保存前後における評価結果を比較することにより保存安定性を確認した。また、コーティング直後の製剤の外観(コーティング性)を評価した。
【0081】
[酸性pH溶出性試験]
日局1液(pH1.2)を用い、日局一般試験法(パドル法)に則り、溶出試験を行った。
◎:2時間で溶出性10%未満
○:2時間で溶出性10%以上20%未満
△:2時間で溶出性20%以上40%未満
×:2時間で溶出性40%以上
【0082】
[中性〜アルカリpH溶出性試験]
日局2液(pH6.8)を用い、日局一般試験法(パドル法)に則り、溶出試験を行った。
○:2時間で溶出性70%以上
△:2時間で溶出性30%以上70%未満
×:2時間で溶出性30%未満
なお、上記[酸性pH溶出性試験]で、「△」、「○」又は「◎」、かつ上記[中性〜アルカリpH溶出性試験]で「○」の場合を「腸溶性」とした。
【0083】
[外観の評価]
コーティング直後の製剤(錠剤)の表面を目視で観察し、下記評価基準に従って外観を評価した。
◎:均一にコーティングがなされ、欠け、はがれが見られず、コーティング表面にツヤがある。
○:均一にコーティングがなされ、欠け、はがれがほとんど見られないが、ややコーティング表面に荒れがある。
△:一部の錠剤にコーティングの欠けが見られる。
×:錠剤のほとんどにコーティングの欠けやはがれが見られる。
【0084】
実施例及び比較例において使用した原料の詳細は、以下の通りである。なお、(B)成分のアルギン酸塩の詳細については別途表1に示した。
〔下層〕
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:信越化学工業(株)製、「メトローズSE−06」
ペクチン:大日本製薬(株)製、「クラシックAF701」
ポリビニルアルコール:日本合成化学(株)製、「ポリビニルアルコール EG−22P」
アラビアガム:日本粉末薬品(株)製、「アラビアガム」
ヒドロキシプロピルセルロース:ヒドロキシプロピルセルロース:日本曹達(株)製、「HPC−SSL」
プルラン:(株)林原製、「プルラン」
ショ糖:大日本明治製糖(株)製、「ショ糖」
〔腸溶性コーティング層〕
グリセリン:阪本薬品工業(株)製、「グリセリン(食品添加物)」
シリカ(微粒二酸化ケイ素):富士シリシア化学(株)製、「サイロページ720」
タルク:松村産業(株)製、「クラウンタルクPP」
〔最表層〕
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:信越化学工業(株)製、「メトローズSE−06」
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】