特許第6642485号(P6642485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642485
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】電磁継電器
(51)【国際特許分類】
   H01H 50/16 20060101AFI20200127BHJP
【FI】
   H01H50/16 Y
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-37371(P2017-37371)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-142503(P2018-142503A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2018年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】390001812
【氏名又は名称】アンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西口 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】左右木 高広
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 政直
【審査官】 山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/040834(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/098200(WO,A1)
【文献】 特開平06−310009(JP,A)
【文献】 特開平06−310014(JP,A)
【文献】 特開平06−310015(JP,A)
【文献】 実開昭56−169347(JP,U)
【文献】 実開昭54−038842(JP,U)
【文献】 特開昭59−224026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により磁界を形成する励磁コイル(12)と、
前記励磁コイルの内径部に形成された中心孔内に配置され、前記励磁コイルへの通電に基づいて形成される磁気回路の一部を構成する固定コア(13)と、
前記励磁コイルの外周側および軸方向端部の一方を覆うように配置され、前記磁気回路の一部を構成すると共に、前記軸方向の一方側で前記固定コアの位置に対応するように開口部(142a)が形成されたヨーク(14)と、
前記開口部と対応する位置において、前記固定コアと対向して配置され、前記励磁コイルへの通電時に磁気吸引力に基づいて前記固定コア側に吸引される可動コア(15)と、
可動接点(23)を有するとともに前記可動コアに追従作動する可動接触子(20)と、
前記励磁コイルへの通電時に前記可動接点が当接する固定接点(25a、25b)を有する複数の固定端子(24a、24b)と、
前記可動コアを前記固定コアから離れる方向に付勢する復帰バネ(16)と、を備え、
前記復帰バネは、複数のバネ(161、162)によって構成されていると共に、該複数のバネのうちの少なくとも1つが磁性体で構成されている電磁継電器。
【請求項2】
前記複数のバネのうち前記磁性体で構成されたバネは、竹の子バネである請求項1に記載の電磁継電器。
【請求項3】
前記複数のバネのうちの少なくとも1つが非磁性体で構成されている請求項1または2に記載の電磁継電器。
【請求項4】
前記複数のバネのうち前記非磁性体で構成されたバネ(17b)は、前記磁性体のバネの各巻線間の配置されている請求項3に記載の電磁継電器。
【請求項5】
前記複数のバネのうちの少なくとも1つが非磁性体で構成されており、
前記複数のバネのうち前記磁性体で構成されたバネと前記非磁性体で構成されたバネは、前記磁性体と前記非磁性体を合わせた合板にて構成された竹の子バネとされている請求項1に記載の電磁継電器。
【請求項6】
前記複数のバネの少なくとも一つは、前記可動コアを前記固定コアに吸引する吸引向きに付勢するバネ力を発生させる請求項1ないし5のいずれか1つに記載の電磁継電器。
【請求項7】
前記吸引向きに付勢するバネ力を発生させるバネは、一端が前記可動コイルに固定され、他端が前記固定コアと前記励磁コイルおよび前記ヨークを含めた非可動部に固定されている請求項6に記載の電磁継電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気吸引に基づいて可動接点と固定接点とを接離させて電気回路を開閉する電磁継電器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気回路のオンオフを制御する装置として電磁継電器が知られている。電磁継電器は、励磁コイルへの通電に基づいて固定コアとヨークを通る磁気回路を構成し、シャフトと共に可動コアを磁気吸引することで、シャフトに取り付けられた可動接点と非可動部に備えられた固定接点とを当接させ、電気回路をオンさせる。また、励磁コイルへの通電を停止することで磁気回路をオフし、シャフトおよび可動コアを休止位置側に戻すことで可動接点と固定接点との間を引き離し、電気回路をオフさせる。固定コアと可動コアとの間には復帰バネが備えられ、シャフトおよび可動コアを的確に休止位置側に戻せるようになっている。
【0003】
このような電磁継電器において、復帰バネを磁性体としたものが特許文献1に提案されている。この特許文献1で提案された電磁継電器は、固定コアと可動コアの吸着面を可動コアとコイルバネによって構成された復帰バネの嵌合部よりも内側に配置することで、固定コアと復帰バネとの干渉を防ぎ、動作電圧を安定させている。そして、バネを磁性体とすることで磁気回路の一部とし、巻線間で引き付け合う力が得られるようにすることで、動作電圧の低下を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−94435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、復帰バネを磁性体で構成した場合、復帰バネは、磁気回路を構成する役割と、可動接点を固定接点から引き離す側(以下、非吸引向きという)にシャフトおよび可動コアを付勢する開離バネとしての役割との両方の役割を担うことになる。このため、復帰バネを両方の役割を果たせる設計とする必要があり、煩雑な設計が必要になる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、煩雑な設計が要らない構成の復帰バネにできる電磁継電器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の電磁継電器は、通電により磁界を形成する励磁コイル(12)と、励磁コイルの内径部に形成された中心孔内に配置され、励磁コイルへの通電に基づいて形成される磁気回路の一部を構成する固定コア(13)と、励磁コイルの外周側および軸方向端部の一方を覆うように配置され、磁気回路の一部を構成すると共に、軸方向の一方側で固定コアの位置に対応するように開口部(142a)が形成されたヨーク(14)と、開口部と対応する位置において、固定コアと対向して配置され、励磁コイルへの通電時に磁気吸引力に基づいて固定コア側に吸引される可動コア(15)と、可動接点(23)を有するとともに可動コアに追従作動する可動接触子(20)と、励磁コイルへの通電時に可動接点が当接する固定接点(25a、25b)を有する複数の固定端子(24a、24b)と、可動コアを固定コアから離れる方向に付勢する復帰バネ(16)と、を備えている。このような構成において、復帰バネは、複数のバネ(161、162)によって構成されていると共に、該複数のバネのうちの少なくとも1つが磁性体で構成されている。
【0008】
このように、復帰バネを複数のバネによって構成し、複数のバネの少なくとも1つを磁性体で構成されるようにしているため、このバネによって、主に磁気回路を構成する役割を果たすことが可能となり、他のバネによって、主に非吸引向きに可動コア15およびシャフト17などを付勢する開離バネのバネ力を調整する役割を果たさせることができる。よって、復帰バネを1つのバネによって構成する場合のように、両方の役割を1つのバネに担わせる必要が無くなる。このため、煩雑な設計が要らない構成の復帰バネにできる電磁継電器とすることが可能となる。
【0009】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態にかかる電磁継電器の断面図である。
図2(a)】図1に示す電磁継電器について、励磁コイルへの通電を行い始めたときの様子を示した断面図である。
図2(b)】図1に示す電磁継電器について、励磁コイルへの通電を行い、導通状態になるまでの途中の様子を示した断面図である。
図2(c)】図1に示す電磁継電器について、励磁コイルへの通電を行い、導通状態になったときの様子を示した断面図である。
図3(a)】第1バネのみではバネ反力が小さい場合のギャップとバネ反力との関係を示した図である。
図3(b)】第1バネのバネ反力が大きすぎる場合のギャップとバネ反力との関係を示した図である。
図4】第2実施形態にかかる電磁継電器の断面図である。
図5】第3実施形態にかかる電磁継電器の断面図である。
図6】第4実施形態にかかる電磁継電器の断面図である。
図7】第4実施形態の変形例として説明する電磁継電器の断面図である。
図8】第5実施形態にかかる電磁継電器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる電磁継電器について、図1を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、電磁継電器は、ケース11、励磁コイル12、固定コア13、ヨーク14、可動コア15、復帰バネ16、シャフト17、ベース18、止め輪19、可動接触子20、止め輪21および接圧バネ22が備えられた構成とされている。
【0014】
ケース11は、例えば樹脂等の非磁性かつ非導電性の材料で構成されている。ケース11内に構成される空間内に、電磁継電器を構成する各部品が収容されている。
【0015】
励磁コイル12は、通電時に磁界を形成するもので、円筒状とされ、中空状の円筒部を有するボビン12aに巻回されている。この励磁コイル12への通電は図示しない外部接続端子を通じて行われるようになっている。励磁コイル12の内径部に形成された中心孔に、固定コア13等が配置されている。
【0016】
固定コア13は、磁性体よりなり、励磁コイル12の中心孔と対応する大きさの円柱状部材で構成されており、磁気回路の一部を構成する。固定コア13は、中心軸に沿って貫通孔13aが形成された構造とされており、この貫通孔13a内にシャフト17の一端が位置している。
【0017】
ヨーク14は、励磁コイル12を囲む磁性体部材である。ヨーク14は、励磁コイル12の外周側および軸方向端部の一方を覆うように配置され、磁気回路の一部を構成すると共に、軸方向の一方側で固定コア13の位置に対応する開口部となるヨーク孔142aが形成されたものとして構成される。
【0018】
本実施形態の場合、ヨーク14は、第1部材141と第2部材142とを有した構成とされている。第1部材141は、ステーショナリと呼ばれる部材であり、磁性体よりなる板材を略U字状に折り曲げた構造とされているこの第1部材141によって励磁コイル12の外周側および励磁コイル12の軸方向一端側が覆われている。また、第2部材142は、トッププレートと呼ばれる部材であり、磁性体よりなり、円形平板もしくは矩形平板状で構成され、励磁コイル12の軸方向他端側を覆っている。また、第2部材142は、後述する可動コア15に対向して配置されており、第1部材141と接合されている。
【0019】
第1部材141には、固定コア13と対応する位置に開口部141aが形成されており、この開口部141a内に固定コア13の一部が嵌め込まれることで固定コア13と第1部材141とが接合されている。第2部材142には、中心部に上記したヨーク孔142aが第2部材142を貫通するように形成されている。ヨーク孔142aの形状、つまり第2部材142の内周形状は、可動コア15と対応する形状とされている。
【0020】
可動コア15は、第2部材142におけるヨーク孔142aと対応する位置に配置された磁性体よりなる板状部材である。可動コア15の中心軸線上において後述するシャフト17が挿入される貫通孔15aが形成されている。可動コア15は、励磁コイル12への通電が行われていない非通電時には、ヨーク14から離れた休止位置に位置しており、励磁コイル12への通電を行う通電時には、ヨーク14側に磁気吸引されて、ヨーク14の第2部材142に当接させられる。可動コア15の外周形状は、ヨーク孔142aの内周形状と対応した形状となっており、固定コア13と反対側が固定コア13側よりも径が拡大されたフランジ状とされ、そのフランジ状部分がヨーク孔142aに当接させられるようになっている。
【0021】
復帰バネ16は、固定コア13と可動コア15との間に配置され、可動コア15を固定コア13と反対側に付勢する。励磁コイル12への通電を行う通電時には、電磁吸引力により可動コア15は復帰バネ16に抗して固定コア13側に吸引されるようになっている。この復帰バネ16は複数のバネによって構成されており、少なくとも一部のバネが磁性体によって構成されている。この復帰バネ16の詳細構造については後述する。
【0022】
このように、固定コア13、ヨーク14、可動コア15および復帰バネ16の少なくとも一部が磁性体によって構成されており、励磁コイル12へ通電を行う通電時には、これらによって励磁コイル12により誘起された磁束の磁気回路が構成される。
【0023】
シャフト17は、例えば非磁性材料で構成されており、可動コア15に結合されることで可動コア15と一体的に移動可能とされている。より詳細には、シャフト17は、可動コア15に形成された貫通孔15aに挿入された状態で可動コア15に結合されている。
【0024】
なお、本実施形態の場合、励磁コイル12への通電、非通電によって、可動コア15、シャフト17、可動接触子20等が進退させられる可動部分となる。これらの可動部分が可動子を構成している。
【0025】
ベース18は、非磁性体の絶縁性材料、例えば樹脂によって構成されている。ベース18は、中央部に開口部18aが形成されており、この開口部18a内にシャフト17が挿通されている。ベース18は、ヨーク14に接した状態でケース11に固定されている。そして、ベース18には、導電金属製の板状の第1固定端子24aおよび第2固定端子24bが備えられている。これら第1固定端子24aおよび第2固定端子24bが、電磁継電器によってオンオフ制御を行う対象となる電気回路の配線の一部を構成するものである。さらに、ベース18には、第1固定端子24aに接続されるように第1固定接点25aが取り付けられ、第2固定端子24bに接続されるように第2固定接点25bが取り付けられている。第1固定接点25aは一方の可動接点23に対向して配置され、第2固定接点25bは他方の可動接点23に対向して配置されている。
【0026】
なお、ベース18のうち可動コア15と対向する一面には、ストッパー18bが備えられており、可動コア15の固定コア13と反対側への移動を規制する。
【0027】
止め輪19は、シャフト17のうちベース18よりも固定コア13と反対側に配置されており、シャフト17に対して嵌合されることで固定されている。この止め輪19により、シャフト17の軸方向における可動接触子20の位置決めを行う。
【0028】
可動接触子20は、導電金属製の板状部材で構成されており、導電金属製の可動接点23が2個、例えばシャフト17を中心とした対称位置に固定されている。可動接触子20は、中央に形成された挿入孔20a内にシャフト17が挿入されることで、止め輪19と共に、シャフト17のうちベース18よりも固定コア13と反対側に配置されている。可動接触子20のうち固定コア13側の一面は止め輪19に接しており、止め輪19の位置に可動接触子20が位置決め配置されている。
【0029】
止め輪21は、シャフト17のうち固定コア13と反対側の端部に嵌合されている。接圧バネ22は、止め輪21と可動接触子20との間に配置されており、可動接触子20を止め輪19側、すなわち第1固定接点25aおよび第2固定接点25b側に付勢している。このため、振動等が生じても、可動接点23と第1固定接点25aおよび第2固定接点25bとの接続が維持されるようになっている。
【0030】
以上のような構造により、本実施形態にかかる電磁継電器が構成されている。このように構成された電磁継電器において、復帰バネ16は、次のように構成されている。
【0031】
復帰バネ16は、複数のバネによって構成されており、本実施形態では2種類のバネによって構成されている。このため、複数のバネのうちの一部によって、主に、非吸引向きに可動コア15およびシャフト17などを付勢する開離バネのバネ力を調整する役割を果たさせ、他の一部によって、主に、磁気回路を構成する役割を果たさせられるようになっている。
【0032】
具体的には、復帰バネ16は、磁性体で構成された第1バネ161と、非磁性体で構成された第2バネ162とを有した構成とされている。第1バネ161は、薄板が渦巻き状に巻回されて構成された竹の子バネと呼ばれる円錐圧縮コイルバネによって構成されており、磁性体で構成されている。第2バネ162も、竹の子バネと呼ばれる円錐圧縮コイルバネによって構成されており、非磁性体で構成されている。例えば、第1バネ161を構成する磁性体としては、SPCC(冷間圧延鋼板)、SK、SUS430などを用いることができる。また、第2バネ162を構成する非磁性体としては、SUS304などを用いることができる。
【0033】
本実施形態の場合、磁性体と非磁性体を合わせた合板を用いて第1バネ161と第2バネ162とが一体化された復帰バネ16が構成されている。そして、第1バネ161が内周側、第2バネ162が外周側に配置され、第1バネ161の各巻線間に第2バネ162が挟まれた配置になっている。また、本実施形態の場合、復帰バネ16は、復帰バネ16のうち径が小さい側の先端が可動コア15側に向けられ、径の大きい側の先端が固定コア13側に向けられるようにして可動コア15と固定コア13との間に配置されている。そして、第1バネ161が可動コア15と固定コア13の両方に当接させられている。
【0034】
このような構成では、第1バネ161によって、主に磁気回路を構成する役割を果たすことが可能となり、第2バネ162によって、主に非吸引向きに可動コア15およびシャフト17などを付勢する開離バネのバネ力を調整する役割を果たさせることができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る電磁継電器の作動について、図2(a)〜図2(c)を参照して説明する。なお、図2(a)〜図2(c)中に示した実線矢印や第1バネ161上に記した方向表示記号は、磁束の流れの向きを示してあり、破線矢印は磁気吸引の方向を示している。
【0036】
まず、励磁コイル12への通電を行っていない非通電時には、図1に示すように、励磁コイル12による磁気吸引力が発生していないため、復帰バネ16のバネ力に基づいて可動コア15が固定コア13から離れた状態になっている。そして、可動接点23も第1固定接点25aおよび第2固定接点25bから離れた状態になっている。このため、電磁継電器によってオンオフ制御を行う対象の電気回路はオフの状態になっている。
【0037】
そして、励磁コイル12に通電すると、図2(a)および図2(b)に示すように、可動コア15が電磁吸引力により復帰バネ16に抗して固定コア13側に吸引され、シャフト17や可動接触子20が可動コア15に追従して固定コア13側に移動する。そして、図2(c)に示すように、可動接点23が第1固定接点25aおよび第2固定接点25bに当接して、第1固定接点25aと第2固定接点25aとの間が電気的に導通状態となる。
【0038】
なお、復帰バネ16の軸方向における第1バネ161の厚みについては任意であるが、導通状態となった時に、可動コア15と固定コア13の両方に第1バネ161が接触させられる厚みにすると好ましい。このようにすると、可動コア15と固定コア13との間において、第1バネ161の各巻線全域を通じて磁気回路が構成されることになり、より強く可動コア15を磁気吸引した状態で導通状態を維持することが可能となる。
【0039】
一方、励磁コイル12への通電が解除されると、可動コア15やシャフト17および可動接触子20が復帰バネ16によって付勢されることで固定コア13と反対側に移動させられる。これにより、図1に示すように、可動接点23が第1固定接点25aおよび第2固定接点25bから離れて、第1固定接点25aと第2固定接点25bとの間が電気的に遮断状態となる。
【0040】
ここで、上記動作を行う際に、復帰バネ16を磁気回路の一部としての役割を果たさせるために、少なくとも復帰バネ16の一部のバネを磁性体で構成しており、本実施形態の場合は第1バネ161を磁性体で構成するようにしている。
【0041】
しかしながら、復帰バネ16の少なくとも一部のバネが磁性体で構成されている限り、復帰バネ16とその他の磁性体部品との間に力(以下、サイドフォースという)が発生し、可動コア15や復帰バネ16の傾きの要因になる。このため、復帰バネ16の少なくとも一部のバネを磁性体で構成して磁気回路を構成するものとして利用しつつも、サイドフォースを低減できる構造であることが好ましい。
【0042】
このため、本実施形態では、第1バネ161を竹の子バネと呼ばれる円錐圧縮コイルバネで構成している。
【0043】
励磁コイル12への通電によって可動コア15が固定コア13側に磁気吸引されるとき、竹の子バネで構成された第1バネ161の巻線に沿って磁束が流れる。このとき、第1バネ161は、薄板状であることから、第1バネ161からの漏れ磁束が固定コア13と第1バネ161との間、第1バネ161と可動コア15との間に発生する。この漏れ磁束を利用して、固定コア13と第1バネ161との間、第1バネ161と可動コア15との間で磁気吸引力を発生させ、「バネを縮ませる力」を得ることができる。すなわち、励磁コイル12へ通電を行っている間のみ、見かけのバネ反力を弱めることが可能となる。
【0044】
そして、可動コア15が完全に吸引された際には、第1バネ161の高さ方向に磁束を流すが、可動コア15の磁気吸引開始から吸引終了まで、可動コア15および第1バネ161に作用する吸引力は径方向成分を持たない。このため、サイドフォースを低減することが可能となる。このように、復帰バネ16のうちの第1バネ161として竹の子バネを適用することでサイドフォースを低減できるため、可動コア15や復帰バネ16の傾きを抑制することが可能となる。
【0045】
ただし、復帰バネ16をすべて磁性材料で構成される竹の子バネによって構成すると、換言すれば第1バネ161のみで構成すると、可動コア15の動作に伴って第1バネ161の各巻線間のギャップが変化し、これによる摩擦力増加が懸念される。すなわち、第1バネ161の各巻線間には一定のギャップが確保されているのが好ましいが、可動コア15の動作に伴って第1バネ161同士の間のギャップが縮まる。これにより、電磁力による第1バネ161同士の間の引き付け力が高くなり、第1バネ161同士の間の摩擦が従来の動摩擦に対して引き付け力に基づく摩擦も加わり、摩擦力を増加させる。このため、第1バネ161同士が接触しないようにすることが好ましい。
【0046】
これに対して、本実施形態では、復帰バネ16を第1バネ161のみで構成するのではなく、第1バネ161の各巻線間に第2バネ162が配置されるようにしていることから、第1バネ161同士の接触を抑制することが可能となる。したがって、電磁力による第1バネ161同士の間の引き付け力の増加を抑制でき、第1バネ161同士の間の摩擦力増加を抑制することが可能となる。そして、製品ごとの吸引力特性のバラツキを抑制することも可能となる。
【0047】
また、復帰バネ16を第1バネ161と第2バネ162という複数のバネによって構成している。このため、第1バネ161によって、主に磁気回路を構成する役割を果たすことが可能となり、第2バネ162によって、主に非吸引向きに可動コア15およびシャフト17などを付勢する開離バネのバネ力を調整する役割を果たさせることができる。
【0048】
例えば、電磁継電器においては、緊急時のアーク遮断の観点からは、所望の開離速度が得られる性能が求められ、ある値以上のバネ力が得られるように復帰バネ16を設計することが必要になる。このようなバネ力は、主に磁性回路を構成する役割を果たす第1バネ161のみによって得られるようにすることは設計が煩雑になるが、第2バネ162を備える場合、第2バネ162によって得られれば良くなる。
【0049】
よって、復帰バネ16を1つのバネによって構成する場合のように、両方の役割を1つのバネに担わせる必要が無くなる。このため、煩雑な設計が要らない構成の復帰バネ16にできる電磁継電器とすることが可能となる。
【0050】
例えば、復帰バネ16を第1バネ161のみによって構成した場合と、第1バネ161と第2バネ162の組み合わせによって構成した場合それぞれで得られるバネ特性は図3(a)または図3(b)に示す特性となる。なお、図3(a)または図3(b)に示すギャップとは、第1バネ161のみでは第1固定接点25aおよび第2固定接点25bと可動接点23との間の距離を意味している。
【0051】
復帰バネ16は、第1バネ161と第2バネ162のトータルのバネ力が非吸引向きのバネ力として所望の特性が得られる構成となっていれば良い。例えば、第1バネ161と第2バネ162の両方が共に非吸引向きのバネ力を発生せるものである場合、第1バネ161のみの場合よりも大きなバネ力を発生させられる。すなわち、図3(a)に示すように、所望の磁気吸引力が得られるように第1バネ161を設計した場合、ギャップとバネ反力との関係が所望の特性にならないことがある。これに対して、本実施形態の構成の場合、第1バネ161と第2バネ162のトータルのバネ力がバネ反力となるため、ギャップとバネ反力との関係が所望の特性となるようにできる。バネ反力の不足は接点オフ時の開離速度の低下につながり、接点摩耗の進行を早める等の悪影響が懸念される。このため、所望の特性が得られるようにすることで、開離速度の向上が図れ、接点摩耗の進行を遅らせることが可能となる。
【0052】
一方、第1バネ161と第2バネ162のいずれか一方のみが非吸引向きのバネ力を発生させるものであり、他方が可動コア15と固定コア13との間を縮める側(以下、吸引向きという)のバネ力を発生させるものであっても良い。例えば、図3(b)に示すように、第1バネ161を所望の磁気吸引力が得られる設計とした場合、ギャップに対するバネ反力が大きすぎる場合に、第2バネ162の吸引向きのバネ力によってトータルのバネ反力が減少するようにできる。これにより、復帰バネ16の特性として所望の特性を得ることが可能となる。
【0053】
なお、第1バネ161と第2バネ162のいずれかを吸引向きのバネ力を発生させるものにする場合、吸引向きのバネ力を発生させる側を可動コア15と固定コア13や励磁コイル12もしくはベース18等の非可動部にバネの両先端が接続されるようにすれば良い。
【0054】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して復帰バネ16の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
図4に示すように、本実施形態では、復帰バネ16を第1バネ163と第2バネ164とを有した構成としている。第1バネ163については、第1実施形態で説明した第1バネ161と同様の構成としているが、第2バネ164については、非磁性体からなるコイルバネによって構成している。
【0056】
第2バネ164は、第1バネ163を囲むように第1バネ163の外側に配置されている。そして、ボビン12aの内周面に第2バネ164の一端が当接するストッパ部12bが形成されていると共に、可動コア15の固定コア13側の一面に第2バネ164の他端が当接するストッパ部15bが形成されている。これらストッパ部12bおよびストッパ部15bの間に第2バネ164が配置されている。
【0057】
このように、復帰バネ16を竹の子バネで構成される第1バネ163とコイルバネで構成される第2バネ164とによって構成することもできる。この場合、第2バネ164によって第1バネ163同士の間の接触を防ぐことはできないが、2つのバネによって主に磁性回路を構成する役割と主に非吸引向きに可動コア15およびシャフト17などを付勢する開離バネのバネ力を調整する役割を分担させられる。したがって、本実施形態の構成としても、煩雑な設計が要らない構成の復帰バネ16にできる電磁継電器とすることが可能となる。
【0058】
特に、第2バネ164をバネ反力の設計が容易なコイルバネで構成していることから、より設計の容易化を図ることが可能となる。
【0059】
さらに、復帰バネ16のうちの第1バネ163として竹の子バネを適用することでサイドフォースを低減できるため、可動コア15や復帰バネ16の傾きを抑制できる。さらに、第1バネ163の外周に第2バネ164を配置することで、より可動コア15や復帰バネ16の傾きを抑制することが可能となる。
【0060】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して復帰バネ16の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図5に示すように、本実施形態でも、第1実施形態と同様に、復帰バネ16を竹の子バネにて構成した第1バネ161および第2バネ162によって構成しているが、これらを同方向に配置していないし、磁性体と非磁性体の合板を用いた一体構造で形成しておらず、別々に分けた構造としている。そして、第1バネ161については、径が小さい側の先端が可動コア15側に向けられ、径が大きい側の先端が固定コア13側に向けられて配置されている。逆に、第2バネ162については、径が小さい側の先端が固定コア13側に向けられ、径が大きい側の先端が可動コア15側に向けられて配置されている。
【0062】
このような構成としても、第1バネ161の各巻線間に第2バネ162が配置されるようにすることで、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0063】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して復帰バネ16の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0064】
図6に示すように、本実施形態では、復帰バネ16を第1バネ165と第2バネ166とを有した構成としている。第1バネ165については、第1実施形態で説明した第1バネ161と同様の構成としているが、第2バネ166については、非磁性体からなる円錐コイルバネによって構成している。そして、第1バネ165の径変化率と第2バネ166の径変化率を同じとすることで、第1バネ165の各巻線間に第2バネ166が配置されるようにしている。
【0065】
このように、第2バネ166を円錐コイルバネによって構成するようにしても、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0066】
なお、このように、第2バネ166を円錐コイルバネによって構成する場合においても、図7に示すように、第2バネ166の向きを図6の場合と逆となるようにすることができる。すなわち、第2バネ166のうち径が小さい側の先端が固定コア13側に向けられ、径が大きい側の先端が可動コア15側に向けられるようにしても良い。
【0067】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対して第2バネ164の配置場所を変更したものであり、その他については第2実施形態と同様であるため、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0068】
図8に示すように、本実施形態では、第2実施形態と同様に、復帰バネ16を第1バネ163と第2バネ164とを有した構成としつつ、第2バネ164が第1バネ163の内側に配置されるようにしている。そして、第2バネ164は、固定コア13と可動コア15とに当接させられるようにして、これらの間に配置されている。
【0069】
このように、復帰バネ16を竹の子バネで構成される第1バネ163とコイルバネで構成される第2バネ164とによって構成し、第2バネ164が第1バネ163の内側に配置されるようにすることもできる。これにより、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0070】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0071】
例えば、復帰バネ16の構成の一例を示したが、他の構成としても良い。例えば、竹の子バネやコイルバネではなく、板バネ等の他の弾性部材を用いることもできる。例えば、復帰バネ16を竹の子バネで構成された第1バネと板バネで構成された第2バネによって構成することができる。その場合、例えば、第1バネの外周側に第2バネを配置し、固定コア13と可動コア15とに第2バネの両先端が接続されるようにする。このような構成としても、第2実施形態等と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0072】
12 励磁コイル
13 固定コア
14 ヨーク
15 可動コア
16 復帰バネ
20 可動接触子
23 可動接点
25a、25b 第1、第2固定接点
161、163、165 第1バネ
162、164、166 第2バネ
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
図7
図8