(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642525
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20200127BHJP
F16H 61/16 20060101ALI20200127BHJP
B60R 25/06 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/16
B60R25/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-127308(P2017-127308)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2019-11782(P2019-11782A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】松岡 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】徳永 幸司
(72)【発明者】
【氏名】田中 典道
(72)【発明者】
【氏名】武永 洋介
(72)【発明者】
【氏名】中田 大貴
【審査官】
横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/016109(WO,A1)
【文献】
特開平08−044741(JP,A)
【文献】
特開2016−125638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
B60R 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の移動を許容する車両移動許容ポジションと車両の移動を制限する車両移動不能ポジションとを有する車両用シフト装置を備えた車両を制御する車両制御装置において、
車両の停車位置からの移動距離を検出可能な車両位置検出手段と、
前記車両の駆動手段を停止状態とすることを許容又は禁止する駆動手段停止制御手段と、
前記車両の移動を制限する車両移動制限手段と
を備え、
前記車両用シフト装置が前記車両移動許容ポジションにある場合に、前記車両位置検出手段により検出された前記車両の停車位置からの移動距離が所定範囲内にあるときには、前記車両移動制限手段による前記車両の移動の制限を行わないとともに、前記駆動手段停止制御手段が前記車両の駆動手段を停止状態とすることを許容する一方で、前記車両用シフト装置が前記車両移動許容ポジションにある場合に、前記車両位置検出手段により検出された前記車両の停車位置からの移動距離が所定範囲内にないときには、前記車両移動制限手段による前記車両の移動の制限を行うようにした車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記車両移動制限手段は、前記車両用シフト装置のポジションを前記車両移動不能ポジションに切り換えることにより、前記車両の移動の制限を行う車両制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置において、
前記車両の傾斜状態を検出する車両傾斜検出手段を備え、
前記車両移動制限手段は、前記車両傾斜検出手段により検出された車両の傾斜が所定値よりも大きなときには、前記車両の移動を制限する車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動制御可能な車両用シフト装置を備えた車両のための車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられる変速機(トランスミッション)には、近年、変速比の変更を機械式ではなく、電気的な制御で行うもの(シフト・バイ・ワイヤの変速機)が用いられるようになってきている。このようなシフト・バイ・ワイヤ式の変速機を備えた車両においては、防犯や降坂滑走防止のため、車両の駆動手段を停止状態(イグニッション・オフ)にした場合には、シフトポジションが自動的にパーキング(車両の移動を制限するポジション)に設定されるようにする(オートパーキング)とともに、緊急時(災害発生時等)に車両を強制的に動かす必要があるときには、特殊な操作(例えば解除ボタンの操作)を行うことにより、シフトポジションをパーキングから車両の移動を許容するポジションに切り替えることができるようになっている。
【0003】
また駆動源として電気モータを備え、変速比を変更可能な変速機を備えない電気自動車やハイブリッド車においても、上述の変速機と同様なシフトポジションを有するシフト・バイ・ワイヤ式のシフト装置を備えるものがある。この場合、変速機がないので、シフトポジションがパーキングポジションである場合に駆動手段自体又は駆動力伝達機構の一部に係合するなどして停止状態とするパーキング機構が設けられる。
【0004】
このようなシフト・バイ・ワイヤの変速機に関連した技術として、例えば特許文献1(特許第5289150号)には、オートパーキング機能を有する車両において、変速機のシフトポジションセンサ異常時には、シフトポジションがニュートラルでの駆動手段の停止(イグニッション・オフ)を禁止した発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5289150号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シフト・バイ・ワイヤ式等の自動的にシフト制御可能な車両用シフト装置を備えた車両においても、例えば災害発生時に車両を乗り捨てする場合や、車両の洗車を行う場合等、シフトポジションをパーキング以外としたままで、駐車を行いたい場合がある。しかしながら、従来の車両においては、このような要求を、防犯性や安全性と両立して達成できるものは存在していなかった。
【0007】
本発明は、以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、車両用シフト装置を備えた車両において、高い防犯性や安全性を確保しつつ、災害時等における車両の強制的な移動にも対処し得るようにした車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明にあっては、次のような解決方法を採択している。すなわち、請求項1に記載のように、車両の移動を許容する車両移動許容ポジションと車両の移動を制限する車両移動不能ポジションとを有する車両用シフト装置を備えた車両を制御する車両制御装置において、車両の停車位置からの移動距離を検出可能な車両位置検出手段と、前記車両の駆動手段を停止状態とすることを許容又は禁止する駆動手段停止制御手段と、前記車両の移動を制限する車両移動制限手段とを備え、前記車両用シフト装置が前記車両移動許容ポジションにある場合に、前記車両位置検出手段により検出された前記
車両の停車位置からの移動距離が所定範囲内にあるときには、前記車両移動制限手段による前記車両の移動の制限を行わないとともに、前記駆動手段停止制御手段が前記車両の駆動手段を停止状態とすることを許容する一方で、前記車両用シフト装置が前記車両移動許容ポジションにある場合に、前記車両位置検出手段により検出された前記
の停車位置からの移動距離が所定範囲内にないときには、前記車両移動制限手段による前記車両の移動の制限を行うようにした。
【0009】
上記解決手法によれば、車両用シフト装置が車両移動許容ポジションにある場合でも、駆動手段停止制御手段により駆動手段の停止が許容されるので車両を停車することができるが、車両停車位置からの移動距離が所定範囲内である限り、車両移動制限手段によって車両移動が制限されることはない。したがって、災害等の緊急時に車両を乗り捨てる場合や車両の洗車時等に、車両用シフト装置を車両移動許容ポジションとしたままで車両の停車(駆動手段を停止させた)としても、車両を押して強制的に移動させることができる。一方、車両用シフト装置を車両用移動許容ポジションとしたままで停車した場合に、車両停車位置からの移動距離が所定範囲を超えてなされた場合には、車両移動制限手段によって車両移動が制限(禁止)される。したがって、窃盗等により車両が遠方まで運ばれてしまうことを適切に防止でき、高い防犯性を確保できる。
【0010】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載の通りである。すなわち、前記車両移動制限手段は、前記車両用シフト装置のポジションを前記車両移動不能ポジションに切り換えることにより、前記車両の移動の制限を行う(請求項2対応)。この場合、車両の移動制限は、車両用シフト装置によりなされるので、制御装置の構成及び制御を簡素化できる。
【0011】
前記車両の傾斜状態を検出する車両傾斜検出手段を備え、前記車両移動制限手段は、前記車両傾斜検出手段により検出された車両の傾斜が所定値よりも大きなときには、前記車両の移動を制限する(請求項3対応)。この場合、車両が所定値を超えて傾斜しているとき、車両の移動が制限されるので、例えば車両用シフト装置が車両移動許容ポジションのままで車両が坂道で停車されたときには、車両の移動は禁止され、車両の降坂滑走は適切に防止される。また、窃盗で車両をトラックに積み込もうとした場合等においても、車両の移動が禁止されるので、防犯性が高められる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えばシフト・バイ・ワイヤ式の車両用シフト装置を備えた車両において、高い防犯性や安全性を確保しつつ、緊急時等における車両の所定範囲内での移動を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の制御系の一例を示すブロック構成図。
【
図2】本発明の車両制御においてイグニッション・オフでの駐車時の制御手順の一例を示すフローチャート。
【
図3】本発明の車両制御においてイグニッション・オンでの駐車時の制御手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1には、本発明の車両制御装置を備えた車両(例えば自動車)の制御系をブロック構成図で示す。図示されるように、制御系は、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)Uを備えている。コントローラUには、シフトポジションセンサ1、車両位置検出手段2、イグニッション状態検出手段3、車両傾斜検出手段4からの検出信号が入力されるようになっており、また、記憶装置5と接続されている。
【0016】
コントローラUは、シフト・バイ・ワイヤ式の車両用シフト装置である車両用変速機6を制御可能となっている。これにより、本実施形態において、車両制御装置は、車両用変速機6のシフトポジションをPレンジに設定して、車両の移動制限をすることができるようになっている。
【0017】
シフトポジションセンサ1は、車両用変速機5のシフトポジションを検出するセンサである。車両位置検出手段2は、車両の位置又は車両の停車位置からの移動距離を検出する手段であり、例えばGPS受信手段や、車輪回転数センサから構成されるものである。なお、車輪回転数センサは、ABS(アンチロックブレーキシステム)に備えられたセンサを利用できる。このように、車両位置検出手段2として車輪回転数センサを用いることにより、トンネル内等、GPSの電波が届かない場所でも、車両移動距離の検出を可能とできる。
【0018】
イグニッション状態検出手段3は、車両のイグニッションキーがオンであるかオフであるかを検出する手段である。車両傾斜検出手段4は、車両が坂道にある場合等、車両の傾斜状態を検出する装置であり、例えば加速度センサから構成される。
【0019】
次に、
図2及び
図3のフローチャートにしたがって、コントローラUにより実行される制御について詳細に説明する。
【0020】
図2には、イグニッションキーがオフの状態、すなわち駆動手段(エンジン)が停止された状態で、車両が停車された場合の制御を示す。
【0021】
この場合、まずステップS1において、ドアボタン押し時間が読み込まれ、ドアボタン押し時間が一定時間以下ならば、そのまま制御を終了し、一定時間を超えたならば、ステップS3以降の制御を開始する。
【0022】
ステップS3においては、車両傾斜検出手段4により検出された車両の傾斜状態が読み込まれ、続くステップS4においては、車両傾斜角度が所定角度以下であるか否かの判定がなされ、所定角度以下でなければ、ステップS8に進み、車両用変速機6のシフトポジションをPレンジに設定して(パーキングブレーキをオンにして)、制御を終了する。すなわち、車両が坂道に停車されている場合には、パーキングブレーキをオンにして、降坂滑走を確実に防止する。また、盗難時で車両をトラックに積み込もうとしたときに車両が傾斜した場合にも、パーキングレーキがオンとなるので、効果的に盗難防止も行うことができる。一方、車両の傾斜角度が所定角度以下であれば(車両がほぼ平地に停車されていれば)、ステップS5に進む。
【0023】
ステップS5においては、車両位置検出手段2により検出された車両の停車位置からの移動距離を読み込む。続くステップS6においては、移動距離が所定値以内であるかの判定がなされ、移動距離が所定値を超えていれば、ステップS8に進み、パーキングブレーキをオンにして、制御を終了する。これにより、盗難により車両が停車位置から所定距離を超えて移動させられてしまうことが防止される。
【0024】
一方、移動距離が所定値以下であれば、ステップS7に進み、パーキングブレーキを解除して、ステップS3に戻り、ステップS3からステップS7の処理を繰り返す。したがって、本制御によれば、イグニッション・オフの状態で車両が停車された場合には、車両が所定角度を超えて傾斜したり、所定距離を超えて移動させられたりしない限り、パーキングブレーキは解除の状態に保たれる。したがって、車両を駆動手段によらずに移動させる必要が生じた場合でも、近距離であれば車両を移動させることができるので、災害等の緊急時における車両の強制移動が可能とされる。
【0025】
図3には、イグニッション・オンの状態で、車両の停車操作がなされた場合の制御フローを示す。この場合には、まずステップS11において、シフトポジションセンサ1により検出されたシフトポジションが読み込まれ、続くステップS12において、シフトポジションがNレンジであるかの判定がなされる。この判定で、シフトポジションがNレンジでない場合には、そのまま処理を終了し、シフトポジションがNレンジであれば、ステップS13に進む。
【0026】
ステップS13においては、イグニッション状態検出手段3により検出されたイグニッション状態が読み込まれ、続くステップS14において、イグニッション・オフであるかの判定がなされ、イグニッション・オフでなければ、そのまま制御を終了し、イグニッション・オフならば、ステップS15に進む。
【0027】
ステップS15においては、車両傾斜検出手段4により検出された車両の傾斜状態が読み込まれ、続くステップS16においては、車両傾斜角度が所定角度以下であるか否かの判定がなされ、所定角度以下でなければ、ステップS20に進み、パーキングブレーキを作動かつイグニッション・オフとして、制御を終了する。これにより、降阪滑走が適切に防止される。一方、車両傾斜角度が所定角以下であれば、ステップS17に進む。
【0028】
ステップS17においては、車両位置検出手段2により検出された車両の停車位置からの移動距離を読み込まれ、続くステップS18においては、移動距離が所定値以内であるかの判定がなされ、移動距離が所定値を超えていれば、ステップS20に進み、パーキングブレーキ・オン且つイグニッション・オフにして、制御を終了する。これにより、盗難により車両の所定距離を超えての移動が適切に防止される。
【0029】
一方、移動距離が所定値以下であれば、ステップS19に進み、パーキングブレーキを解除して、ステップS3に戻り、ステップS3からステップS7の処理を繰り返す。これにより、パーキングブレーキが解除された状態が維持されるので、災害等の緊急時における車両の強制移動の可能性が確保される。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、シフト・バイ・ワイヤ式の車両用変速機の操作によって、車両の移動制限を行ったが、車両の移動制限のためのインターロック機構を備えるようにしてもよい。また上記実施形態においてシフト装置は自動変速機を含むものであったが、電気自動車のように自動変速機を有さず、シフト操作部のシフト操作に応じて駆動機構やインターロック機構を直接制御するシフト装置も含む。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、シフト・バイ・ワイヤ式の車両用シフト装置を備えた車両において、高い防犯性を確保しつつ、緊急時等における車両の移動を可能とするために利用できる。
【符号の説明】
【0032】
U コントローラ
1 シフトポジションセンサ
2 車両位置検出手段
3 イグニッション状態検出手段
4 車両傾斜検出手段
6 車両用変速機