(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
イオン源から引出されるイオンビーム中に含まれる所望イオンの比率を変えることのできるイオン源として、特許文献1に記載のイオン源が知られている。
【0003】
特許文献1のイオン源は、P型、N型の半導体素子を製造するためのイオン化ガスの種類に応じてカソード位置を変更するための機構を有している。この機構でもって、カソード位置とプラズマ生成容器のイオン射出面との間の距離を変化させることで、イオンビーム中に含まれる所望イオンの比率を変化させている。
具体的に言えば、イオン化ガスがPH
3の場合には、生成されたプラズマ中の比較的質量が重いPH
x+(xは1〜3の整数)の比率を増やすためにカソード位置をイオン射出面に近づけている。一方、イオン化ガスがBF
3の場合には、比較的質量の軽いB
+の比率を増やす為にPH
3の場合に比べてカソード位置をイオン射出面から遠ざけている。
【0004】
しかしながら、従来技術の構成では、経時変化により脆くなったカソードを移動させていることから、移動に伴ってカソードが折損してしまうことが懸念される。カソードが折損した場合、カソードの交換やプラズマ生成容器内の清掃等が必要となり、これらが要因となってイオン源の稼働率が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたものであり、カソードの折損によるイオン源の稼働率の低下を防止して、イオンビーム中に含まれる所望イオンの比率を変えることのできるイオン源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
イオン源は、
プラズマ生成容器から所定方向にイオンビームを引き出すイオン源で、
前記プラズマ生成容器内に電子を供給する電子供給部と、
前記電子供給部からの電子を捕捉する磁場を生成する電磁石と、
前記イオンビームに含まれる所望イオンの比率を変更するために、前記イオンビームの引出し方向で前記磁場の中心位置をシフトさせるシフト手段を有している。
【0008】
上記構成のイオン源であれば、カソード位置を変更する代わりにシフト手段を用いて電磁石で生成される磁場の中心位置をシフトさせて、イオンビーム中に含まれる所望イオンの比率を変更しているため、カソード位置の変更に伴うカソードの折損が発生しない。これにより、カソードの折損によるイオン源の稼働率の低下を防止することができる。
【0009】
具体的な構成としては、
前記シフト手段は、前記イオンビームの引出し方向に前記電磁石の中心位置を移動する。
【0010】
また、前記シフト手段は、前記イオンビームの引出し方向の異なる位置に配置された複数の電磁石で構成されていて、各電磁石で生成される磁場の磁束密度を調整することで、前記イオンビームの引出し方向で前記磁場の中心位置をシフトさせるものであってもよい。
【0011】
さらに、前記シフト手段は、前記電磁石の磁場を遮蔽する着脱可能な磁気シールドを有していて、
前記磁気シールドは、前記イオンビームの引出し方向で前記電磁石の両側またはいずれか一方側に配置されている構成であってもよい。
【0012】
そのうえ、前記イオンビームの引出し方向で、前記電磁石と前記磁気シールドとの間の距離が可変に設定される構成であってもよい。
【0013】
イオン源の運転方法は、
プラズマ生成容器から所定方向にイオンビームを引き出すイオン源の運転方法で、
前記プラズマ生成容器内に電子を供給する電子供給部と、
前記電子供給部からの電子を捕捉する磁場を生成する電磁石とを有し、
前記イオンビームに含まれる所望イオンの比率を変更するために、前記イオンビームの引出し方向で前記磁場の中心位置を移動する。
【0014】
上記運転方法であれば、カソードの移動に代えて、磁場中心位置をシフトする手法を採用しているため、イオンビーム中の所望イオンの比率を変更しても、カソード位置の変更に伴うカソードの折損が発生しない。これにより、カソードの折損によるイオン源の稼働率の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
カソード位置を変更する代わりにシフト手段を用いて電磁石で生成される磁場の中心位置をシフトさせて、イオンビーム中に含まれる所望イオンの比率を変更しているため、カソード位置の変更に伴うカソードの折損が発生しない。これにより、カソードの折損によるイオン源の稼働率の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明のイオン源の一構成例を示す斜視図である。
同図に図示されるZ方向はイオン源1から引出されるイオンビームの引出し方向であり、Y方向は概略直方体形状のプラズマ生成容器2の長手方向である。X方向は、Z方向とY方向に直交する方向である。各方向の定義は、後述する各図についても同様である。
【0018】
このイオン源1は、Y方向に長い概略直方体状のイオン源で、プラズマ生成容器2内に電子の供給を行う電子供給部3を備えている。この電子供給部3は、例えば、フィラメントや板状カソードにフィラメントを組み合わせた構造物、あるいは、所定エネルギーで加速された電子を供給する電子銃であり、イオン源の構成によって、プラズマ生成容器2の内部または外部に配置されている。
【0019】
イオン源1のX方向の各側面には、プラズマ生成容器2の内部に磁場を生成する電磁石M0が配置されている。この電磁石M0は、Y方向に長い本体部と本体部からZ方向に突出した端部を備えており、同本体部にはコイル4が巻回されている。また、各端部のZ方向と反対側の面には、磁気シールド6が取り付けられている。
【0020】
イオン源1には、図示されないガスポートを通じて、BF
3やPH
3等のイオン化ガスが導入される。電子供給部3から供給された電子が、イオン化ガスを電離して、容器内にプラズマが生成される。その後、Z方向でプラズマ生成容器2の下流に配置される図示されない引出電極によって、イオンビームとして容器外部に射出される。
【0021】
図2は、
図1に記載のイオン源1を各平面からみたときの平面図である。
ここでは、X方向に配置された一対の電磁石M0で生成される磁場の大きさと方向は等しく、
図2(A)に示すように、XY平面での磁場中心位置がプラズマ生成容器2の中央となる例を用いて説明する。なお、プラズマ生成容器2に生成される磁場分布については、様々なものに変更することができるため、ここで説明する磁場中心位置の例はあくまで一例である。
【0022】
磁場中心位置とは、設計上、磁束密度がもっとも強くなる位置である。
図2の構成のように、プラズマ生成容器2の左右に同じ構成の電磁石M0を配置し、各電磁石M0の磁場の大きさと方向を同じにしていれば、両電磁石の中間位置が磁場中心位置になる。
【0023】
図2(A)〜(C)において、磁場中心位置B0は磁気シールド6がない場合の磁場中心位置であり、磁場中心位置B1は磁気シールド6がある場合の磁場中心位置である。
磁気シールド6を設けた場合、Z方向反対側ではY方向に延びた磁気シールド内を磁場が通過するため、この部分に対応するプラズマ生成容器内での磁場は磁気シールド6がない場合に比べて弱くなる。一方、Z方向側には磁気シールドが無いので、プラズマ生成容器内での磁場の強さに変わりはない。総合すれば、
図2(B)、(C)にみられるように、プラズマ生成容器内での磁場中心位置が磁場中心位置B0から磁場中心位置B1へとZ方向であるイオンビームの引出し方向に向けてシフトすることになる。
なお、この場合、シフト後の磁場中心位置は、図示されるようなY方向に沿った直線状ではなく、厳密にはZ方向に突出した弓なり形状となるが、本発明では説明を簡略化するために、便宜上、シフト後の磁場中心位置の形状を近似的な直線を用いて描いている。近似的な直線を用いている点については、後述する他の実施形態でも同様である。
【0024】
磁場中心位置がシフトすれば、磁場で捕捉される電子の場所がこれに応じて変化する。捕捉される電子が多いほどプラズマ密度は濃くなる傾向にあるので、電子が捕捉される場所が変化すれば、それに応じて密度の濃いプラズマが生成される場所も変化する。
【0025】
プラズマ中のイオンは、電子と同様に磁場に沿って移動しながら旋回する。このときの旋回半径は、質量が重いイオンほど大きい。
イオンビームの引出し方向においてプラズマ生成容器2の開口5とは反対側の内壁面に磁場中心位置が近いほど、大きな旋回半径で旋回している比較的質量の重いイオンが内壁面に衝突し、消失する割合が高くなる。
結果として、引出されるイオンビームに含まれる比較的質量の軽いイオンの比率が高くなる。
【0026】
反対に、イオンビームの引出し方向において、プラズマ生成容器2の開口5に磁場中心位置が近いほど、引出されるイオンビームに含まれる比較的質量の重いイオンの比率が増加する。これは、比較的質量の重いイオンがプラズマ生成容器内壁面で消失する割合が減少するためである。
図2の構成では、磁場中心位置が開口5に近づくので、引出されるイオンビームに含まれる比較的質量の重いイオンの比率が高くなる。
【0027】
上記構成例で説明した磁場中心位置のシフトに使用される磁気シールド6は、例えば、ボルト等の締結具や嵌合により、電磁石M0の端部に取り付けられている。磁気シールド6の数については、上記構成例のように、単数でもいいが複数であってもいい。
【0028】
例えば、1台のイオン源で複数種類のイオン化ガスを使い分ける場合、あるイオン化ガスを使用するときには磁気シールド6を取付け、別のイオン化ガスを使用するときには磁気シールド6を外すようにしてもよい。
また、これまでに述べた構成例とは反対に、比較的質量の重いイオンの比率を減らすのであれば、磁場中心位置が開口5から遠ざかるように、電磁石M0の端部で、Z方向側の面に磁気シールド6を取り付ける構成にしてもよい。
【0029】
図3(A)は、イオンビームの引出し方向(Z方向)で、電磁石の前後両側に磁気シールド6を設けた構成である。同図に描かれているように、イオンビームの引出し方向での磁気シールド6の厚みを異ならせておいても、磁場中心位置B0を磁場中心位置B1へシフトさせることができる。
なお、電磁石M0の片側にのみ磁気シールド6を配置する構成において、厚みの異なる磁気シールド6を複数用意しておき、これらを使い分けして、磁場中心位置をシフトさせることもできる。また、透磁率の異なる磁気シールド6を複数用意しておき、これらを使い分けて磁場中心位置をシフトさせてもよい。
【0030】
一方、上記構成例とは異なり、
図3(B)の構成のように、磁気シールド6の取付け場所を変えることで磁場中心位置をシフトさせてもよい。
図3(B)では、スペーサーSを挟んで磁気シールド6が電磁石M0の端部に取り付けられている。図示される磁場中心位置B0は磁気シールド6が無いときの磁場中心位置である。磁場中心位置B1は
図2に構成と同じく、電磁石M0の端部に磁気シールド6を取り付けたときの磁場中心位置である。磁場中心位置B2は、スペーサーSを挟んだときの磁場中心位置である。
このように、磁気シールドの有無や取り付け位置を変更して、磁場中心位置をシフトさせてもよい。
また、
図3(B)の構成例で、厚みの異なるスペーサーを用意しておき、これらを使い分けして磁気シールド6の位置を変更させて、磁場中心位置をシフトするようにしてもよい。
【0031】
上記構成例では、磁気シールド6は、Y方向において、電磁石M0のコイル4が巻回されていない2つの端部に亘って設けられていたが、
図3(C)のように各端部にだけ設けられていてもよい。この場合、両端部に亘って磁気シールド6が設けられていた
図2(B)の構成例と比較して、磁場中心位置のシフト方向は反対となる。
【0032】
磁気シールド6に代えて、電磁石M0を移動して磁場中心位置をシフトさせてもよい。
図4には、電磁石M0を移動する構成例が描かれている。
図4(A)では、各電磁石M0をY方向に沿った回転軸R周りに回転させて、図示される実線の状態から破線の状態とすることで、磁場中心位置を磁場中心位置B0から磁場中心位置B3へシフトさせている。
また、電磁石M0を回転させる代わりに、
図4(B)のように、電磁石M0をイオンビームの引出し方向であるZ方向へ移動させる直動機構を用意しておき、この直動機構による電磁石M0の移動に伴って磁場中心位置B0から磁場中心位置B3へシフトするように構成してもよい。なお、ここで言う電磁石M0の中心位置とは、Y方向からみたときの磁極の中心位置を意味している。
【0033】
図4では、電磁石M0の回転や直動により、電磁石M0の中心位置Mc0が中心位置Mc1に移動して、磁場中心位置B0が磁場中心位置B3へシフトする例について述べたが、例えば、電磁石M0の回転と直動を組み合わせる等、別の構成を用いて電磁石M0を移動させてもよく、電磁石M0の中心位置をZ方向に向けて移動させることができれば、電磁石M0を移動させる構成はどのようなものであってもよい。
【0034】
図4の構成であっても、
図2や
図3の構成と同様の効果を奏することができる。ただし、
図4の構成では電磁石を移動させる回動や直動機構が必要となるため、磁気シールドを用いた構成例に比べて、装置構成の複雑化やコスト増の点で、不利となる。
【0035】
また、
図4の構成例では、一対の電磁石M0の両方が回動あるいは直動する構成であったが、一方を固定して、他方を移動させる構成としてもよい。その場合、磁場中心位置の移動量は、両方を移動させる場合に比べると小さなものになるが、微小な変化であっても、全く移動させていない場合に比べれば、イオンビーム中に含まれる所望イオンの比率を多少なりとも変化させることができる。
さらに、各電磁石の回転方向や移動方向は必ずしも一致させておく必要はない。例えば、各電磁石で生成される磁場の方向、大きさが同じものであれば、一方の電磁石の移動量を他方に比べて大きくしておけば、両者のバランスで決定される磁場中心位置をイオンビームの引出し方向にシフトさせることができる。
【0036】
また、
図5に示すように複数の電磁石M1、M2を使って磁場中心位置をシフトさせる構成を採用してもよい。ここで言う複数とは、イオンビームの引出し方向で異なる場所に複数の電磁石が配置されているという意味である。イオンビームの引出し方向で同じ位置に複数の電磁石が配置されていても、ここでは、それらの電磁石は1つの電磁石と同等とみなしている。
【0037】
電磁石M1、M2は、
図1や
図2に記載の電磁石M0と同じ構成の電磁石である。各々の電磁石M1、M2で同じ方向に同じ大きさの磁場が生成されている場合、磁場中心位置は磁場中心位置B0となるが、電磁石M1の磁場を弱めることで、磁場中心位置を磁場中心位置B3へシフトさせることができる。
【0038】
イオンビームの引出し方向の異なる位置に配置された複数の電磁石を利用して、磁場中心位置をシフトする構成については、
図6に描かれているようにプラズマ生成容器2の開口5周りに追加の電磁石M3を設ける構成であってもよい。
例えば、電磁石M3は空芯コイルであり、同コイルによる磁場Bを
図6(A)に図示される矢印の方向に生成することで、磁場中心位置を磁場中心位置B0から磁場中心位置B1へシフトさせることができる。
【0039】
上記実施形態では、Z方向に磁場中心位置をシフトさせるものであったが、これを応用して、
図7のようにX方向での磁場分布の補正に利用してもよい。
磁場中心位置での代表的な磁場分布が、本来であれば破線のようにY方向に真っ直ぐな磁場BC1となるところ、イオン源以外からの磁場漏れの影響等により、実線のBC2のように波打った分布となることが起こり得る。
この際、電磁石M0に対して図示される位置へ磁性片7を取り付けて、磁場分布BC2が磁場分布BC1となるように磁場分布の補正を行ってもよい。
【0040】
上述した実施形態では、電子供給部がプラズマ生成容器の上下両方に設けられていたが、必ずしも上下両方に設けられている必要はなく、いずれか一方に設けられていればよい。また、プラズマ生成容器の一端に電子供給部を設ける構成であれば、電子供給部に対向した位置に電界によって電子を反射する反射板を配置するようにしてもよい。
さらに、電子供給部からの電子の放出方向はY方向である必要はなく、X方向やZ方向であっても構わない。同様に、電磁石による磁場の生成方向もY方向とは異なる方向にしてもよい。
【0041】
また、電磁石の構成として、プラズマ生成容器の左右にY方向に長い本体部を備えた電磁石を配置する構成を例に挙げて説明したが、発明が対象とする電磁石の構成はこれに限られない。例えば、従来から知られているC型やH型といったヨークを有する電磁石を用いてもよい。
この場合、先の実施形態と同様に、イオンビームの引出し方向で、磁極の前後両方あるいはいずれかに磁気シールドを設けておく構成を採用するか、磁極の一部を可動式にしておき、部分的に回動、あるいは、直動させることで、磁場中心位置をシフトする構成とすることが考えられる。
【0042】
プラズマ生成効率を考慮すれば、電子供給部から放出された電子を磁場によって効率的に捕捉することが求められる。このことから、磁場中心位置をシフトする範囲を制限してもよい。例えば、
図2の例において、ZX平面でみたときに、磁場中心位置が電子供給部からはみ出ない範囲内でシフトされるように制限しておく。
【0043】
上述した本発明のイオン源は、イオン注入装置、イオンドーピング装置、イオンビームを用いた表面改質装置等のイオンビーム照射装置に応用することができる。
【0044】
上記実施形態では、磁場中心位置をシフトさせるシフト手段として、磁気シールド、電磁石を回転、直動等させる駆動機構、イオンビームの引出し方向の異なる位置に配置された複数の電磁石や補助的な電磁石を例に挙げて説明したが、個別説明したシフト手段を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0045】
その他、本発明は上述した実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。