(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642617
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】デンプン含有食品の製造方法及びデンプン含有食品改質用の酵素製剤
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20200127BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20200127BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20200127BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
A23L7/10 E
A23L7/10 B
A23L7/10 102
A23L5/00 J
A23L5/00 N
C12N9/10
C12N9/26 Z
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-84587(P2018-84587)
(22)【出願日】2018年4月25日
(62)【分割の表示】特願2014-558654(P2014-558654)の分割
【原出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2018-139596(P2018-139596A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2018年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-10789(P2013-10789)
(32)【優先日】2013年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由貴
(72)【発明者】
【氏名】薄衣 広悌
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/096839(WO,A1)
【文献】
特開昭57−132850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/25
A21D 2/00−17/00
A23G 1/00−9/52
A23L 5/00−5/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とする、米飯食品又は米加工品の製造方法であって、α−グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.0×10〜1.0×103Uであり、ブランチングエンザイムの添加量が、α−グルコシダーゼ1U当たり2.0×10−8〜2Uである、製造方法。
【請求項2】
ブランチングエンザイムの添加量が、原料1g当たり2.0×10−6〜4.0×102Uである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
米飯食品又は米加工品の原料が生米である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを有効成分として含有する、米飯食品又は米加工品の改質用の酵素製剤であって、α−グルコシダーゼの含有量が、原料1g当たり1.0×10〜1.0×103Uとなる量であり、ブランチングエンザイムの含有量が、α−グルコシダーゼ1U当たり2.0×10−8〜2Uである、酵素製剤。
【請求項5】
さらに食品添加物を含有する、請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項6】
食品添加物が、賦形剤、調味料、蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、乳化剤、キレート剤、還元剤、アルギン酸、かんすい、油脂、色素、酸味料又は香料である、請求項5に記載の酵素製剤。
【請求項7】
キレート剤が、クエン酸塩又は重合リン酸塩である、請求項6に記載の酵素製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを用いるデンプン含有食品の製造方法及びデンプン含有食品改質用の酵素製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの食品は、デンプン、タンパク質、糖類、脂質など様々な成分により構成されており、これらが複合的に食品の食感を作り上げている。中でもデンプンやタンパク質の食感への寄与は大きく、デンプンの経時的変化は特に重要とされる。
【0003】
α化したデンプンを常温や低温で放置すると、水分が分離しα化したデンプンは硬くなる。この現象を老化といい、デンプンの老化現象については数多く研究されている。一般に老化防止のためには温度を80℃以上に保つ、急速に乾燥させて水分を15%以下にする、pH13以上のアルカリ性に保つことが必要である。また、老化を防止する方法としてデンプン含有食品に糖類(ブドウ糖、果糖、液糖等)や大豆タンパク、小麦グルテン、脂肪酸エステル、多糖類(山芋、こんにゃく等)を添加する方法が一般に知られており、特開昭59−2664号公報(特許文献1)には増粘剤、界面活性剤等を添加する方法が記載されている。しかし、これらの方法では食味が大きく変化し、また効果も不安定で十分な解決法とはなっていない。
【0004】
また、老化防止の手段として酵素を添加する方法も知られている。例えば、特開昭58−86050号公報(特許文献2)には、精白米にアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素と、食塩及びサイクロデキストリンを混合して炊飯する米飯の改良方法が記載されている。特開昭60−199355号公報(特許文献3)には、炊飯後の米飯に糖化型アミラーゼ(β‐アミラーゼ、グルコアミラーゼ)の水溶液を噴霧添加する米飯の老化防止方法が記載されている。このように、米に各種の酵素製剤を添加して米飯の品質改良を試みているが、いずれも目ざましい効果は得られていないのが現状である。
【0005】
また、特開2000−236825号公報(特許文献4)には、ブランチングエンザイムによって製造される環状デキストリンであるクラスターデキストリンを混合して炊飯する米飯の改良方法が記載されている。クラスターデキストリンにより、炊飯米にほぐれ性や老化抑制を付与することが知られている。
【0006】
特開昭57−132850号公報(特許文献5)には各種高デンプン配合食品に対してブランチングエンザイムを添加することで老化を抑制し、増粘性なども増すことが報告されており、パンやういろうに添加した実施例は記載されているが、ブランチングエンザイムの添加により硬さや弾力が付与されるということは記載されていない。
【0007】
国際公開第2005/096839号(特許文献6)によればデンプン含有食品の物性改良剤として、α−グルコシダーゼであるトランスグルコシダーゼを炊飯時に米に添加することによって、やわらかく、粘りがあり、かつ経時劣化しにくい炊飯米を得ることができることが報告されているが、α−グルコシダーゼの添加により硬さや弾力が付与されることは記載されていない。
【0008】
このように、デンプン含有食品において、老化抑制や粘りを制御する技術は開示されているが、デンプン含有食品にブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを有効成分として併用した例はなく、これらの組み合わせによることで、「硬さ」や「弾力」を付与できることは、これまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−2664号公報
【特許文献2】特開昭58−86050号公報
【特許文献3】特開昭60−199355号公報
【特許文献4】特開2000−236825号公報
【特許文献5】特開昭57−132850号公報
【特許文献6】国際公開第2005/096839号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、物性の改善されたデンプン含有食品の製造方法及びデンプン含有食品改質用の酵素製剤を提供することである。より具体的には、ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを併用することにより、これらの酵素単独の添加では得られなかった食感、例えば「硬さ」あるいは「弾力」を有するデンプン含有食品の製造方法及びデンプン含有食品改質用酵素製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを併用することにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
【0012】
(1)ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを原料に添加することを特徴とするデンプン含有食品の製造方法。
(2)ブランチングエンザイムの添加量が、原料1g当たり2.0×10
−16〜4.0×10
5Uであり、α−グルコシダーゼの添加量が、原料1g当たり1.0×10
−4〜5.0×10
7Uである(1)記載の方法。
(3)ブランチングエンザイムの添加量が、α−グルコシダーゼ1U当たり4.0×10
−24〜40Uである(1)又は(2)記載の方法。
(4)デンプン含有食品が米飯食品又は米加工品であり、原料が生米(粳米、糯米)である(1)乃至(3)記載の方法。
(5)デンプン含有食品がパン又は麺である(1)乃至(3)記載の方法。
(6)ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを有効成分として含有するデンプン含有食品改質用の酵素製剤。
(7)ブランチングエンザイムの含有量が、α−グルコシダーゼ1U当たり4.0×10
−24〜40Uである(6)記載の酵素製剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、デンプン含有食品に「硬さ」あるいは「弾力」を付与することができ、デンプン含有食品の品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1に係る炊飯米の硬さ・粘りについての物性測定結果である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例1に係る炊飯米の弾力についての物性測定結果である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1に係る炊飯米の硬さ・粘りについての物性測定結果である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例1に係る炊飯米の弾力についての物性測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いられるブランチングエンザイム(EC2.4.1.18)は、1,4−α−D−グルカン鎖の一部を受容体1,4−α−Dグルカンの6−OH基に転移させ、アミロペクチンまたはグリコーゲンのようなα−1,6結合の枝分かれ構造を生成する酵素である。長瀬産業(株)で製造している食品用酵素「ブランチングエンザイム」が一例である。
【0016】
本発明に用いられるα−グルコシダーゼ(EC3.2.1.20)は、非還元末端α−1,4−グルコシド結合を加水分解し、α−グルコースを生成する酵素である。α−グルコシダーゼのうち、トランスグルコシダーゼが好ましい。尚、「トランスグルコシダーゼL「アマノ」」という商品名で天野エンザイム(株)より市販されている酵素が、α−グルコシダーゼの一例である。
【0017】
本発明に用いられる原料は、米、小麦粉、ジャガイモやサツマイモといったイモ類、トウモロコシ等のデンプンを含有する食品原料である。本発明のデンプン含有食品は、デンプンを含有する食品であれば特に限定されないが、デンプンが該食品の食感、物性に寄与している食品が挙げられる。代表例として具体的には、米飯食品(炊飯米(白飯)、酢飯(寿司飯)、赤飯、ピラフ、炒飯、炊き込みご飯、おこわ、お粥、リゾット、おにぎり、寿司、弁当など)、米加工品(煎餅、おかき、和菓子、餅など)、パン・ベーカリー類(食パン、フランスパンなど)、麺(小麦麺(うどん、中華麺、パスタなど)、そば、米粉麺など)、小麦加工食品(餃子の皮、てんぷら衣、クラッカー、ビスケット、シリアル、ドーナツなど)、トウモロコシ加工品(シリアルなど)、ジャガイモやサツマイモといったイモ類やトウモロコシなどのその他野菜類を原料とした加工食品が挙げられる。これらの中で、特に米飯食品、パン・ベーカリー類、麺が好ましい。また、これらの冷凍品、無菌包装品、レトルト品、乾燥品、缶詰品も含まれる。
【0018】
本発明のデンプン含有食品の製造方法において、ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを原料に作用させる方法は、調理終了までのどの段階で添加し作用させてもかまわない。炊飯を例に取れば、吸水のため原料生米を浸漬させる浸漬液にこれらの酵素を添加してもよいし、浸漬後、炊飯前に酵素を添加してもよい。また、ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを米に作用させる順序は特に問わず、いずれかの1種を先に作用させた後、残りの酵素を作用させてもよいが、2種を同時に作用させるのが好ましい。さらに、通常食品に用いられる原料を併用しても構わない。
【0019】
本発明において、α−グルコシダーゼの添加量は、原料1g(米飯食品の場合、原料生米1g)に対して酵素活性が1.0×10
−4U以上であればいくらでも構わないが、好ましくは1.0×10
−4〜5.0×10
7U、より好ましくは5.0×10
−2〜5.0×10
5U、さらに好ましくは1.0×10
−1〜1.0×10
4U、特に好ましくは1.0×10〜1.0×10
3Uが適正である。尚、酵素添加量が極微量の場合は、計量可能な濃度の酵素溶液を調整し、その溶液を希釈して添加すればよい。例えば、1U/ml溶液を調整し、これを1μl添加すれば酵素量は1×10
−3Uとなる。尚、α−グルコシダーゼの酵素活性については1mM α−メチル−D−グルコシド1mlに0.02M酢酸バッファー(pH5.0)1mlを加え、酵素溶液0.5ml添加して、40℃で60分間作用させたときに、反応液2.5ml中に1μgのブドウ糖を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0020】
本発明において、ブランチングエンザイムの添加量は、原料1g(米飯食品の場合、原料生米1g)に対して酵素活性が2.0×10
−16U以上であればいくらでも構わないが、好ましくは2.0×10
−16〜4.0×10
5U、より好ましくは2.0×10
−10〜4.0×10
3U、さらに好ましくは2.0×10
−6〜4.0×10
2U、特に好ましくは2.0×10
−3〜2.0×10Uである。尚、酵素添加量が極微量の場合は、計量可能な濃度の酵素溶液を調整し、その溶液を希釈して添加すればよい。例えば、1U/ml溶液を調整し、それを10,000倍希釈することで0.0001U/ml溶液とし、これを1μl添加すれば酵素量は1×10
−7Uとなる。また、ブランチングエンザイムの添加量は、α−グルコシダーゼ1U当たり4.0×10
−24U以上であればいくらでも構わないが、4.0×10
−24U〜40Uが好ましく、1.0×10
−12〜20Uがより好ましく、2.0×10
−8〜2Uがさらに好ましく、1.0×10
−5〜2.0×10
−1Uが特に好ましい。ブランチングエンザイムの酵素活性については、以下のように定義した。0.08Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた0.1%アミロースB(ナカライテスク)50μlに0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた酵素溶液50μlを加え、50℃、30分間反応後にヨウ素試薬(0.26g I
2と0.26g KIを10mlミリQ水にて溶解した液0.5mlと1N HCl 0.5mlを混ぜ、130mlに希釈した液)2mlを添加し、660nm吸光度を測定。本反応系で反応1分間に660nm吸光度を1%低下させる酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0021】
各酵素の反応時間は、酵素が基質物質であるデンプンに作用することが可能な時間であれば特に限定されないが、現実的な作用時間としては5分〜24時間が好ましい。また、反応温度に関しても酵素が活性を保つ範囲であれば特に限定されないが、現実的な温度としては0〜80℃で作用させることが好ましい。すなわち、これらの酵素を通常の調理加工工程で用いることで十分な反応時間が得られ、デンプン含有食品に「硬さ」や「弾力」を付与することができる。
【0022】
本発明のデンプン含有食品改質用の酵素製剤は、ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼを含有する。ブランチングエンザイムの含有量は、α−グルコシダーゼ1U当たり4.0×10
−24U以上であればいくらでも構わないが、4.0×10
−24U〜40Uが好ましく、1.0×10
−12〜20Uがより好ましく、2.0×10
−8〜2Uがさらに好ましく、1.0×10
−5〜2.0×10
−1Uが特に好ましい。本酵素製剤は、ブランチングエンザイム及びα−グルコシダーゼの他に、さらに、デキストリン、デンプン、加工デンプン、還元麦芽糖等の賦形剤、畜肉エキス等の調味料、植物蛋白、グルテン、卵白、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、乳化剤、クエン酸塩、重合リン酸塩等のキレート剤、グルタチオン、システイン等の還元剤、アルギン酸、かんすい、油脂、色素、酸味料、香料等その他の食品添加物等を含有してもよい。本発明の酵素製剤は液体状、ペースト状、顆粒状、粉末状のいずれの形態でも構わない。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、これらの実施例により何ら限定されない。
【0024】
[実施例1]
市販の生米「新潟県産コシヒカリ」(木徳神糧(株))384gを市水にて洗米し、市水に1時間浸漬した。浸漬米は水切りをした後、炊飯器(三菱電機 NJ−HS06)に投入し、生米重量に対して1.52倍加水となるよう市水を加えた。ブランチングエンザイム(3,650U/g、長瀬産業(株)製)(以下「BE」と記載)、α―グルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼL「アマノ」、608,000U/g天野社製)(以下「AG」と記載)を添加し溶解させ、上記炊飯器にて炊飯した。炊飯後、米飯をバットに移し、ラップをかけ、食品用急速冷却器(三浦工業 CMJ−40)で米飯品温が20度になるまで冷却をかけ、蓋付きのプラスチック容器に入れ評価時まで室温で保管した。各酵素の量は表1の通りである。
【0025】
【表1】
【0026】
炊飯米の官能及び物性評価は、炊飯直後に真空冷却し常温まで冷却後、レンジアップし実施した。官能評価は、「硬さ」、「粘り」、「弾力」の3項目について行った。官能評価項目の「硬さ」は噛み潰す際に感じる応力の強さ、「粘り」は粒表面の付着性、「弾力」は噛み込んだ際に反発してくる応力すなわち復元力の強さを表している。酵素無添加区(対照区)分を0点として、−2点から2点までの評点法にて評価人数5人で行った。詳細な評価基準を表2に示した。結果を表3に示した。
【0027】
またMicro stable社のテクスチャーアナライザーを用いて物性評価を行い、炊飯後の米飯1粒を直径3cmのアクリル円柱プランジャーで1mm/sにて90%2回圧縮し、90%圧縮時の破断応力を硬さ、90%1回目圧縮時のマイナスピークの面積を粘り、1回目と2回目圧縮時の破断距離の比(2回目/1回目)を弾力とした。結果を
図1、2、3、4に示した。
【0028】
表3及び
図1、2、3、4に示した通り、BEのみ(試験区2〜12)、AGのみ(試験区1)を添加した場合、米飯は対照区と比べ「硬さ」が減少し、「軟らかさ」が付与された。一方、BE2.0×10
−9U/g・生米以上とAG190U/g・生米とを併用した場合(試験区14〜23)、それぞれ単独添加では「軟らかさ」が付与されるのにも関わらず、驚くべきことに、「軟らかさ」とは相反する「硬さ」が付与され、さらには「弾力」も付与された。尚、BE及びAGの併用による「硬さ」はデンプンの老化による硬さとは異なり、好ましい硬さであった。また、BEとAG0.76U/g・生米以上とを併用した場合も同様に老化とは異なる「硬さ」及び「弾力」が付与された。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
[実施例2]
強力小麦粉(日清製粉社製)100gと薄力小麦粉(日清製粉社製)100gを混合し、BE(3,650U/g、長瀬産業社製)及び/又はAG(608,000U/g天野社製)を溶解した7.5%食塩水86gを加え、混練機(Kitchen Aid社製)にて10分間混合した。混合した生地をまとめ、密閉袋に入れ常温にて1時間静置した(寝かし工程)。生地をパスタマシン(「R.M.」IMPERIA社製)にて6mmに圧延し、6.5mm幅に切断し(「R.220」IMPERIA社製)、うどんを作成した。作成したうどんは冷凍保管した。冷凍うどんは、沸騰水にて18分間ゆでた後、氷水で1.5分間冷却後、直ちに官能評価を実施した。各酵素の量は表4の通りである。
【0032】
【表4】
【0033】
うどんの官能評価をゆで直後に実施した。官能評価は、「硬さ」、「粘り」の2項目について行った。官能評価項目の「硬さ」は、麺を噛み始めたときに感じる応力の強さ、「粘り」は歯が麺に引っ張られるような力を表している。実施例1と同様に、酵素無添加区(対照区)分を0点として、−2点から2点までの評点法にて評価人数5人で行った。詳細な評価基準を表5に示した。結果を表6に示した。
【0034】
【表5】
【0035】
【表6】
【0036】
表6に示した通り、BEのみ、AGのみを添加した場合、うどんは対照区と比べ「硬さ」が減少し、「軟らかさ」が付与された。一方、BEとAGとを併用した場合、BEの単独添加で付与された効果と同等の「粘り」が付与されることに加え、それぞれ単独添加では「軟らかさ」が付与されるのにも関わらず、米飯と同様に「軟らかさ」とは相反する「硬さ」が付与された。
【0037】
[実施例3]
デュラム粉「DF」(日清製粉社製)2kgに、BE(3,650U/g、長瀬産業社製)及び/又はAG(トランスグルコシダーゼL「アマノ」、608,000U/g天野社製)を添加し十分に混合した。試験区分は、酵素無添加区分、BE添加区分、AG添加区分、BE及びAG添加区分の4試験区とした。上記混合原料に市水540gを加え、混練機「真空ミキサーVU−2」(尾久葉鐵工所社製)にて15分間(混練機設定の速度100)混練した。混練後、パスタマシン「真空押出機FPV−2」(ニップンエンジニアリング社製)にて、1.8mmのロングパスタ用ダイスを用いて押し出し製麺を行った。押し出した麺線は、乾燥機「恒温恒湿槽LH21−13P」(ナガノ科学機械製作所社製)にて乾燥し、乾パスタとした。乾パスタは、沸騰水にて9分間ゆでた後、直ちに官能評価を実施した。各酵素の量は表7の通りである。
【0038】
【表7】
【0039】
パスタの官能評価をゆで直後に実施した。官能評価は、「硬さ」、「もちもち感」の2項目について行った。官能評価項目「硬さ」は、麺を噛み始めたときに感じる応力の強さ、「もちもち感」とは、「粘り」と同様に噛み潰した際に歯にまとわりつく感覚を表している。実施例1と同様に、酵素無添加区(対照区)分を0点として、−2点から2点までの評点法にて評価人数5人で行った。詳細な評価基準を表8に示した。結果を表9に示した。
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【0042】
表9に示した通り、BEのみ、AGのみを添加した場合、対照区と比べ「硬さ」は同等であり、「もちもち感」のみが付与された。一方、BEとAGとを併用した場合、それぞれ単独添加ではなかった「硬さ」が付与された。デュラム粉を原料とするパスタにおいても、米飯やうどんと同様の「硬さ」付与効果を示した。
【0043】
[実施例4]
市販の米粉(みたけ食品(株))300gに、BE(3,650U/g、長瀬産業社製)及び/又はAG(トランスグルコシダーゼL「アマノ」、608,000U/g天野社製)を添加し十分に混合した。水240gを加え混練機(Kitchen Aid社製)にて5分間混合した。混練した生地を、蒸し水260gを入れたマイコンもちつき機(力もちBE−SB10 ZOJIRUSHI社製)の自動もちつき機能にて蒸練した。蒸練されたもち生地をパスタマシン(「R.M.」IMPERIA社製)にて約1.5mmに圧延し、直径6cmの円形に成型した。乾燥機「恒温恒湿槽LH21−13P」(ナガノ科学機械製作所社製)で80℃、湿度30%の条件にて2時間30分乾燥させ煎餅生地とした。乾燥した生地を、210℃にて4分30秒焼成し、煎餅とした。各酵素の量は表10の通りである。
【0044】
【表10】
【0045】
煎餅の官能評価を焼成後十分に冷却した後に実施した。官能評価は、「硬さ」、「割れやすさ」、「サクサク感」の3項目について行った。官能評価項目の「硬さ」は、煎餅を前歯で噛み始めたときに感じる応力の強さ、「割れやすさ」は煎餅を前歯で噛み砕いた時に感じる応力の強さ、「サクサク感」は煎餅を奥歯で噛み潰したときに感じる気泡感を表している。実施例1と同様に、酵素無添加区(対照区)分を0点として、−2点から2点までの評点法にて評価人数5人で行った。詳細な評価基準を表11に示した。結果を表12に示した。
【0046】
【表11】
【0047】
【表12】
【0048】
表12に示した通り、BEを単独添加した場合、「硬さ」は対照区と同等であり、「割れやすさ」と「サクサク感」が付与された。一方、AGを単独添加した場合、「硬さ」と「割れやすさ」は対照区と同等であり、若干の「サクサク感」が付与された。一方、BEとAGとを併用した場合にそれぞれ単独添加ではなかった「硬さ」が付与され、BEを単独添加した場合以上に強い「割れやすさ」が付与された。BEとAGを併用することで、「硬さ」付与効果が発揮され、さらに「割れやすさ」付与効果を相乗的に向上させた。粳米を原料とした米飯加工品(乾燥食品)である煎餅においても、BEとAGの併用により米飯と同様に物性改質効果を示した。
【0049】
[実施例5]
市販の糯米(木徳神糧(株))700gを市水にて洗米し、2倍加水となるように市水を加え18時間浸漬した。浸漬時にBE(3,650U/g、長瀬産業社製)、AG(トランスグルコシダーゼL「アマノ」、608,000U/g天野社製)を溶解し添加した。浸漬米は水切りをした後、マイコンもちつき機(力もちBE−SB10 ZOJIRUSHI社製)の自動もちつき機能にて蒸練した。蒸練されたもち生地700gをバウンド型(180×80×h60mm)に詰め、27時間冷蔵し硬化させた。硬化した生地を3mm厚に切断し、3cm×2cm程度の大きさに成型した。成型生地を乾燥機「恒温恒湿槽LH21−13P」(ナガノ科学機械製作所社製)で38℃、湿度55%の条件にて17時間30分乾燥させおかき生地とした。乾燥した生地を、210℃にて4分30秒焼成し、おかきとした。各酵素の量は表13の通りである。
【0050】
【表13】
【0051】
おかきの官能評価を焼成後十分に冷却した後に実施した。官能評価は、「硬さ」、「サクサク感」の2項目について行った。官能評価項目「硬さ」は、おかきを前歯で噛み始めたときに感じる応力の強さ、「サクサク感」はおかきを奥歯で噛み潰したときに感じる気泡感を表している。実施例1と同様に、酵素無添加区(対照区)分を0点として、−2点から2点までの評点法にて評価人数5人で行った。詳細な評価基準を表14に示した。結果を表15に示した。
【0052】
【表14】
【0053】
【表15】
【0054】
表15に示した通り、BEを単独添加した場合、対照区と比較し「硬さ」に変化はなく、若干の「サクサク感」が付与された。一方、AGのみを添加した場合、対照区と比較し「硬さ」に変化はなく、「サクサク感」が付与された。BEとAGとを併用した場合にそれぞれ単独添加ではなかった「硬さ」が付与され、BEとAGを併用することで、「硬さ」付与効果を発揮した。糯米を原料とした米飯加工品(乾燥食品)であるおかきにおいても、BEとAGの併用により粳米を原料とした煎餅と同様に物性改質効果を示した。
【0055】
[実施例6]
市販の強力小麦粉(日清製粉社製)240g、薄力小麦粉(日清製粉社製)40g、砂糖15g、塩5g、バター7.5g、ドライイースト3g(日清製粉社製)、市水190g、BE(3,650U/g、長瀬産業社製)、AG(トランスグルコシダーゼL「アマノ」、608,000U/g天野社製)をホームベーカリー(PY−D532ツインバード工業(株))に入れ、フランスパンコースにて焼成まで行った。各酵素の量は表16の通りである。
【0056】
【表16】
【0057】
パンの官能評価を焼成後十分に冷却した後に実施した。官能評価は、「硬さ」、「弾力」、「口どけ」の3項目について行った。官能評価項目「硬さ」は、パンを噛み始めたときに感じる応力の強さ、「弾力」は噛み込んだ際に反発してくる応力、すなわち復元力の強さ、「口どけ」は口の中でダマにならずに消える飲み込みやすさを表している。酵素無添加区(対照区)分を0点として、−2点から2点までの評点法にて評価人数5人で行った。詳細な評価基準を表17に示した。結果を表18に示した。
【0058】
【表17】
【0059】
【表18】
【0060】
表18に示した通り、BEのみ、AGのみを添加した場合、「硬さ」が低下し軟らかさと口どけ感が付与された。一方、BEとAGとを併用した場合、「硬さ」と「弾力」が顕著に向上し、米飯と同様に「硬さ」及び「弾力」が付与された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によると、デンプン含有食品の品質が向上できるため、食品分野において極めて有用である。