(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6642780
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】析出強化型鋳造合品の溶接補修方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20200130BHJP
B23K 28/02 20140101ALI20200130BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20200130BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20200130BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20200130BHJP
B22F 3/115 20060101ALI20200130BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
B23K9/04 V
B23K28/02
B23K31/00 D
B23K26/342
B23K9/167 A
B22F3/115
B22F3/105
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-549496(P2019-549496)
(86)(22)【出願日】2019年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2019007007
【審査請求日】2019年9月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀高
【審査官】
柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−136344(JP,A)
【文献】
特開2008−274314(JP,A)
【文献】
特開2017−190688(JP,A)
【文献】
特開2011−79054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B22F 3/105
B22F 3/115
B23K 9/167
B23K 26/342
B23K 28/02
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出強化型鋳造合品の損傷部を補修する方法であって、
前記鋳造合品よりも靱性が高い固溶強化型溶接材料を用い、マイクロティグ溶接により前記損傷部の表面に第1溶接層を形成する第1溶接層形成工程と、
二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、前記マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により肉盛することで前記第1溶接層の上に第2溶接層を形成する第2溶接層形成工程と
を有する、析出強化型鋳造合品の溶接補修方法。
【請求項2】
析出強化型鋳造合品の損傷部を補修する方法であって、
前記鋳造合品よりも靱性が高い固溶強化型溶接材料を用い、マイクロティグ溶接により前記損傷部の表面に第1溶接層を形成する第1溶接層形成工程と、
前記第1溶接層形成工程と同じ溶接材料を用い、前記マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により前記第1溶接層の上に第2溶接層を形成する第2溶接層形成工程と、
二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、前記マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により肉盛することで前記第2溶接層の上に第3溶接層を形成する第3溶接層形成工程と
を有する、析出強化型鋳造合品の溶接補修方法。
【請求項3】
析出強化型鋳造合品の損傷部を補修する方法であって、
前記鋳造合品よりも靱性が高い固溶強化型溶接材料を用い、レーザー溶接により前記損傷部の表面に第1溶接層を形成する第1溶接層形成工程と、
二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、前記レーザー溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により肉盛することで前記第1溶接層の上に第2溶接層を形成する第2溶接層形成工程と
を有する、析出強化型鋳造合品の溶接補修方法。
【請求項4】
前記第1溶接層形成工程における、マイクロティグ溶接電流を50A以下とする、請求項1又は2に記載の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法。
【請求項5】
前記第1溶接層の厚みを、1mm以上、溶接層の合計厚みの1/3以下とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法。
【請求項6】
前記第1溶接層形成工程においては、前記損傷部の露出面を覆うように前記第1溶接層を形成する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出強化型鋳造合品の溶接補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電設備や原子力発電設備等におけるタービンの動翼、燃焼器、尾筒等の鋳造品は、その素材に析出強化型の超耐熱合金(ニッケル基超耐熱合金等)を用いることで、高温強度を向上させることができる。しかしながら、これらの鋳造品も長期間にわたって高温・高圧条件下におかれると、タービンの起動及び停止の繰り返し等により発生する熱応力が原因となって、表面等に亀裂や損傷が生じることがある。この場合、発電所ではTIG溶接やレーザー溶接等で補修を行うことで対応している。
【0003】
この点、母材の素材を改良することで、補修の効果を上げることが考えられる。例えば、特許文献1には、Al:5at%より大で13at%、V:9.5%以上で17.4at%より小、Nb:0at%以上5at%以下、B:50重量ppm以上1000重量ppm以下、残部は不純物を除きNiからなり、初相L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織との2重複相組織を有するNi
3Al基金属間化合物が記載されている。また、特許文献2には、Niを主成分とし且つAl:2〜9原子%,V:10〜17原子%,(Ta及び/又はW):0.5〜8原子%,Nb:0〜6原子%,Co:0〜6原子%,Cr:0〜6原子%を含む合計100原子%の組成の合計重量に対してB:10〜1000重量ppmを含むNi基金属間化合物合金において、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を有するものが開示されている。
【0004】
他方、補修方法としては、特許文献3には、ガスタービン部材等の母材の損傷部分を除去し、損傷部分が除去された被除去部に中間層を形成した後、本肉盛溶接してガスタービン部材を補修することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/086185号
【特許文献2】特開2009−215649号公報
【特許文献3】特開2013−68085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献3に代表されるような溶接作業は、非常に煩雑で未だ効率が悪いのが現状である。例えば、燃焼器、尾筒は工場に運搬した後熱処理が必要であるが、大型の部品であることから時間もコストもかかる。また、動翼の場合は、先端部の減肉に対してレーザー溶接やTIG溶接を行っているが、亀裂が再発生することが多く、歩留まりが良くない。
【0007】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、析出強化型鋳造合品を確実かつ効率的に補修することが可能な析出強化型鋳造合品の溶接補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するための本発明の一つの態様である第1態様は、析出強化型鋳造合品の損傷部を補修する方法であって、前記鋳造合品よりも靱性が高い固溶強化型溶接材料を用い、マイクロティグ溶接により前記損傷部の表面に第1溶接層を形成する第1溶接層形成工程と、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、前記マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により肉盛することで前記第1溶接層の上に第2溶接層を形成する第2溶接層形成工程とを有する。
【0009】
このように、析出強化型鋳造合品の母材に対して、マイクロティグ溶接により損傷部に第1溶接層を形成し(第1溶接層形成工程)、さらに、マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第2溶接層を第1溶接層の上に形成する(第2溶接層形成工程)ことで、母材に近い(又は隣接する)下層である第1溶接層の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量は少なくしつつも溶接速度が抑えられることで確実な溶接を行い、上層である第2溶接層の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量を多くして溶接時間を短縮している。さらに、第1溶接層形成工程では、母材よりも靱性が高い固溶強化型の溶接材料を用いる一方で第2溶接層形成工程では二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用いることで、補修部位にかかる熱応力を緩和させて補修部位及びその周囲の補修時及び補修後における損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)防ぐと共に、母材を高温に強くし、耐摩耗性、耐食性を良好にすることができる。
このように、本発明の鋳造品の溶接補修方法によれば、溶接材料の選択と、熱供給の態様とを適切に組み合わせることで、析出強化型鋳造合品を確実かつ効率的に補修することができる。
【0010】
また、本発明の他の態様である第2態様は、析出強化型鋳造合品の損傷部を補修する方法であって、前記鋳造合品よりも靱性が高い固溶強化型溶接材料を用い、マイクロティグ溶接により前記損傷部の表面に第1溶接層を形成する第1溶接層形成工程と、前記第1溶接層形成工程と同じ溶接材料を用い、前記マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により前記第1溶接層の上に第2溶接層を形成する第2溶接層形成工程と、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、前記マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により肉盛することで前記第2溶接層の上に第3溶接層を形成する第3溶接層形成工程とを有する。
【0011】
このように、析出強化型鋳造合品に対して、マイクロティグ溶接により損傷部に第1溶接層を形成し(第1溶接層形成工程)、マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第2溶接層を第1溶接層の上に形成する(第2溶接層形成工程)ことに加えて、マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第3溶接層を第2溶接層の上に形成する(第3溶接層形成工程)ことで、母材に近い(又は隣接する)下層である第1溶接層の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量は少なくしつつも溶接速度が抑えられることで確実な溶接を行い、上層である第2、3溶接層の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量を多くして溶接時間を短縮している。さらに、第1溶接層形成工程及び第2溶接層形成工程では、固溶強化型の合金を含む、母材よりも靱性が高い固溶強化型の溶接材料を用いる一方、第3溶接層形成工程では、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用いることで、補修部位にかかる熱応力を緩和させて補修部位及びその周囲の補修時及び補修後における損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)防ぐと共に、母材を高温に強くし、耐摩耗性、耐食性を良好にすることができる。
このように、本発明の鋳造品の溶接補修方法によれば、溶接材料の選択と、熱供給の態様とを適切に組み合わせることで、鋳造品を確実かつ効率的に補修することができる。
【0012】
また、本発明の他の態様である第3態様は、析出強化型鋳造合品の損傷部を補修する方法であって、前記鋳造合品よりも靱性が高い固溶強化型溶接材料を用い、レーザー溶接により前記損傷部の表面に第1溶接層を形成する第1溶接層形成工程と、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、前記レーザー溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により肉盛することで前記第1溶接層の上に第2溶接層を形成する第2溶接層形成工程とを有する。
【0013】
このように、析出強化型鋳造合品の母材に対して、レーザー溶接により損傷部に第1溶接層を形成し(第1溶接層形成工程)、さらに、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、先のレーザー溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第1溶接層の上に第2溶接層を形成する(第2溶接層形成工程)ことで、母材に近い(又は隣接する)下層である第1溶接層の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量は少なくしつつも溶接速度が抑えられることで確実な溶接を行い、上層である第2溶接層の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量を多くして溶接時間を短縮している。そして、第1溶接層形成工程では、母材よりも靱性が高い固溶強化型の溶接材料を用いる一方で第2溶接層形成工程では二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用いることで、補修部位にかかる熱応力を緩和させて補修時及び補修後において、補修部位及びその周囲の損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)防ぐと共に、母材を高温に強く、耐摩耗性、耐食性を良好にすることができる。
このように、本発明の鋳造品の溶接補修方法によれば、溶接材料の選択と、熱供給の態様が異なる溶接方法とを適切に組み合わせることで、析出強化型鋳造合品を確実かつ効率的に補修することができる。
【0014】
なお、第1、2態様においては、例えば、マイクロティグ溶接電流を50A以下とする。
【0015】
このように、マイクロティグ溶接電流を50A以下とすることで、補修時及び補修後の補修部位及びその周囲の損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)を確実に防ぐことができる。
【0016】
また、第1−3態様においては、例えば、前記第1溶接層の厚みを、1mm以上、溶接層の合計厚みの1/3以下とする。
【0017】
このように、第1溶接層の厚みを1mm以上としつつも、第1溶接層の厚みを、溶接層全体の厚みの1/3以下とすることで、溶接作業を確実かつ迅速に完了することができる。例えば、損傷部位が大きい場合であっても、適切な時間内に補修を終えることができる。
【0018】
なお、第1−3態様においては、前記第1溶接層形成工程においては、前記損傷部の露出面を覆うように前記第1溶接層を形成する。
【0019】
析出強化型鋳造合品の損傷部の露出面を覆うように第1溶接層を形成することで、補修時及び補修後において、母材の損傷部と溶接の境界において局所的な変形や損傷が発生して母材の再補修が必要となるような事態を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、析出強化型鋳造合品を確実かつ効率的に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、火力発電所等に設けられるガスタービンの構成部品の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、動翼44の構造の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態における析出強化型鋳造合品の溶接補修方法の手順の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態における第1溶接層形成工程の一例を説明する図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態における第2溶接層形成工程の一例を説明する図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態における析出強化型鋳造合品の溶接補修方法の手順の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態における第2溶接層形成工程及び第3溶接層形成工程の一例を説明する図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態における析出強化型鋳造合品の溶接補修方法の手順の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態における第1溶接層形成工程の一例を説明する図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態における第2溶接層形成工程の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
まず、
図1は、火力発電所等に設けられるガスタービンの構成部品の一例を示した図である。ガスタービン10は、例えば、複数の、ニッケル−コバルト系の耐熱合金で構成される。具体的には、ガスタービン10は、燃焼器副室22及び燃焼器主室24を備え、燃料を圧縮空気と混合して燃焼させる燃焼器20と、燃焼器20で発生した燃焼ガスや水蒸気等が流通する尾筒30(トランジションピース)と、尾筒30から流入した燃焼ガス等の熱エネルギーを回転エネルギーに変換するタービン室40とを備えて構成される。タービン室40には、燃焼ガス等を整流する静翼42と、燃焼ガス等を圧縮し回転エネルギーに変換する動翼44とが、交互に複数配置される。なお、これらの各構成部品は、本実施形態では、金属材料に対して主に時効熱処理等による析出強化を行った析出強化型鋳造合品であるものとする。
【0023】
ここで、
図2は、動翼44の構造の一例を示す図である。動翼44には、ガスタービン10の起動及び停止の繰り返しに起因した熱応力が発生し、特にその先端部48に欠損(減肉)が生じやすい。そこで、この欠損に対する溶接補修を例に、本発明の各実施形態に係る析出強化型鋳造合品の溶接補修方法を説明する。
【0024】
<第1実施形態>
図3は、第1実施形態における析出強化型鋳造合品の溶接補修方法の手順の一例を示す図である。まず、動翼44の先端部48に生じた損傷部(欠損部)に対してマイクロティグ(Micro Tungsten Inert Gas)溶接を行うことにより第1溶接層(肉盛層)を形成する、第1溶接層形成工程を実施する(s11)。
【0025】
ここで、
図4は、第1実施形態における第1溶接層形成工程の一例を説明する図である。この第1溶接層形成工程では、溶接棒52及び溶接トーチ57を用いて肉盛溶接を行うことにより、動翼44の先端部48に生じた欠損部50の露出面55(欠損面)上に、露出面55を全面的に覆うように、第1溶接層54を形成する(s11)。第1溶接層54は、単一の溶接層であっても、2以上の層からなる溶接層であってもよい。
【0026】
第1溶接層54に形成に用いる溶接棒52の素材(溶接材料)は、固溶強化型の金属を含む、母材である動翼44の金属素材よりも靭性が高い合金とする。このような合金としては、例えば、ニッケル基合金がある。
【0027】
第1溶接層形成工程における溶接方法は、より具体的には、例えば以下のように実施する。まず、母材に対する入熱量(溶接トーチ57による、単位時間あたりの熱エネルギー供給量)については、欠損部50に、通常のマイクロティグ溶接で使用される程度の大きさの溶接電流で入熱を行うと、欠損部50に大きな熱応力が発生し、その結果、母材たる動翼44(の先端部48)にまで割れが生じるおそれがあるので、溶接電流はそれよりも低めに設定する必要がある。例えば、溶接電流は50A以下とすることが好ましい。なお、マイクロティグ溶接では溶接速度(溶接トーチ57の移動速度)が遅いため、溶接電流を小さくしても、第1溶接層54全体に対して満遍なく必要な熱供給を行うことができる。
【0028】
また、第1溶接層54は、補修時及び補修後の補修部位及びその周囲の割れや亀裂の発生(高温割れ)を防ぐため、ある程度の厚みを有している必要がある。他方で、厚みが大きすぎるとマイクロティグ溶接における作業時間が長くなり、溶接効率を損ねる。このことから、第1溶接層54の厚みは、例えば、欠損部50の深さの1/3程度又はそれ以下とすることが好ましい。ただ、欠損部50が浅い場合には、このようにすると充分な溶接層を形成できないため、その場合は第1溶接層54の厚みとして数mm程度(少なくとも1mm以上)を確保することが好ましい。
【0029】
続いて、
図3に示すように、レーザー溶接(レーザークラッディング)を行うことで、第2溶接層(肉盛層)を形成する第2溶接層形成工程を実施する(s13)。なお、このレーザー溶接では、例えば、炭酸ガスレーザ、YAGレーザー等の一般的なレーザーを用いることができる。
【0030】
図5は、第1実施形態における第2溶接層形成工程の一例を説明する図である。第2溶接層形成工程では、次述するニッケル基合金からなる合金粉末56を用いて肉盛溶接を行うことにより、第1溶接層54の上に第2溶接層58を形成する。第2溶接層58は、第1溶接層54と同様に、単一の溶接層であっても2以上の層からなる溶接層であってもよい。
【0031】
ここで合金粉末56は、二重複相ナノ組織金属間化合物合金を含むニッケル基合金である。すなわち、ニッケルにアルミニウム及びバナジウムを所定割合で加えて鋳造凝固することで、ナノレベルで、D0
22相(Ni
3Al)とL1
2相(Ni
3V)を有する共析組織を形成したニッケル基合金である。なお、アルミニウム及びバナジウムの添加割合、また、その他の微量元素(ホウ素等)の添加割合は特に限定されるものではない。
【0032】
ここで、第1溶接層形成工程で用いたマイクロティグ溶接は、その性質上、レーザー溶接に比べて単位時間あたりの熱供給速度が遅く、溶接に所定の時間を要する。そこで、第2溶接層形成工程では、全体の作業時間との関係で、高温割れが生じない限度で効率良く溶接を行う。
【0033】
すなわち、第2溶接層形成工程における単位時間あたりの熱供給速度、すなわちレーザー装置60によるレーザー62の出力は、少なくとも、第1溶接層形成工程の場合より速いことが好ましい(例えば、レーザー62の出力を数KW程度とする)。また、溶接速度(レーザー装置60の移動速度)についても、第1溶接層形成工程の場合より速い速度(例えば、10mm/秒程度)とすることが好ましい。
【0034】
以上のような溶接方法で第2溶接層58を形成することにより、欠損部50に対応する形状と略同一の形状の溶接層を形成し、動翼44の先端部48に生じた損傷部を補修する。
【0035】
このように、本実施形態の溶接補修方法は、析出強化型鋳造合品の母材に対して、マイクロティグ溶接により損傷部に第1溶接層54を形成し(第1溶接層形成工程)、さらに、マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第2溶接層58を第1溶接層54の上に形成する(第2溶接層形成工程)ことで、母材に近い(又は隣接する)下層である第1溶接層54の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量は少なくしつつも溶接速度が抑えられることで確実な溶接を行い、上層である第2溶接層58の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量を多くして溶接時間を短縮している。さらに、第1溶接層形成工程では、母材よりも靱性が高い固溶強化型の溶接材料を用いる一方で第2溶接層形成工程では二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用いることで、補修部位にかかる熱応力を緩和させて補修部位及びその周囲の補修時及び補修後における損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)防ぐと共に、母材を高温に強くし、耐摩耗性、耐食性を良好にすることができる。
このように、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法によれば、溶接材料の選択と、熱供給の態様とを適切に組み合わせることで、析出強化型鋳造合品を確実かつ効率的に補修することができる。
【0036】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、第1溶接層形成工程における、マイクロティグ溶接電流を50A以下とすることで、補修時及び補修後の補修部位及びその周囲の損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)を確実に防ぐことができる。
【0037】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、第1溶接層54の厚みを1mm以上としつつも、第1溶接層54の厚みを、溶接層全体の厚みの1/3以下とすることで、溶接作業を確実かつ迅速に完了することができる。例えば、損傷部位が大きい場合であっても、適切な時間内に補修を終えることができる。。
【0038】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、析出強化型鋳造合品の損傷部の露出面55を覆うように第1溶接層54を形成することで、補修時及び補修後において、母材の損傷部と溶接の境界において局所的な変形や損傷が発生して母材の再補修が必要となるような事態を防ぐことができる。
【0039】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態における析出強化型鋳造合品の溶接補修方法の手順の一例を示す図である。まず、第1溶接層54を形成する第1溶接層形成工程は、第1実施形態のs11と同様である。
【0040】
次に、第1実施形態では、二重複相ナノ組織金属間化合物合金を含むニッケル基合金を用いたレーザー溶接(レーザークラッディング)を行うことで、第1溶接層54の上に第2溶接層58(肉盛層)を形成した。
【0041】
しかし、本実施形態では、二重複相ナノ組織金属間化合物合金による肉盛層を形成する前に、レーザー溶接により、第1溶接層形成工程で用いた溶接棒52と同じ素材の合金(厳密に同一でなくても、各構成元素の組成比が略同一であればよい)からなる合金粉末を用いて肉盛溶接を行うことにより、第1溶接層54の上に、第1溶接層形成工程と略同じ溶接材料からなる、第2溶接層58を形成する(s12)。
【0042】
次に、第1実施形態と同様に、二重複相ナノ組織金属間化合物合金を含むニッケル基合金を用いたレーザー溶接(レーザークラッディング)を行うことで、第2溶接層58の上に第3溶接層(肉盛層)を形成する(s13)。
【0043】
第2溶接層58及び第3溶接層59は、第1溶接層54と同様に、単一の溶接層であっても2以上の層からなる溶接層であってもよい。
【0044】
図7は、第2実施形態における第2溶接層形成工程及び第3溶接層形成工程の一例を説明する図である。第2溶接層形成工程により形成される第2溶接層58は、第1溶接層形成工程により形成される第1溶接層54と同じ素材の合金からなる。また、第3溶接層形成工程により形成される第3溶接層59は、第1溶接層54及び第2溶接層58の場合と異なり、二重複相ナノ組織金属間化合物合金を含むニッケル基合金からなる。
【0045】
以上のようにして第2溶接層58及び第3溶接層59を形成することにより、欠損部50に対応する形状と略同一の形状の溶接層を形成し、動翼44の先端部48に生じた損傷部を補修する。なお、第2溶接層58及び第3溶接層59の厚みの割合は、例えば、母材に要求する機械的強度や靱性に応じて任意に設定される。
【0046】
このように、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法は、析出強化型鋳造合品に対して、マイクロティグ溶接により損傷部に第1溶接層54を形成し(第1溶接層形成工程)、マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第2溶接層58を第1溶接層54の上に形成する(第2溶接層形成工程)ことに加えて、マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第3溶接層59を第2溶接層58の上に形成する(第3溶接層形成工程)ことで、母材に近い(又は隣接する)下層である第1溶接層54の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量は少なくしつつも溶接速度が抑えられることで確実な溶接を行い、上層である第2、3溶接層58、59の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量を多くして溶接時間を短縮している。さらに、第1溶接層形成工程及び第2溶接層形成工程では、固溶強化型の合金を含む、母材よりも靱性が高い固溶強化型の溶接材料を用いる一方、第3溶接層形成工程では、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用いることで、補修部位にかかる熱応力を緩和させて補修部位及びその周囲の補修時及び補修後における損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)防ぐと共に、母材を高温に強くし、耐摩耗性、耐食性を良好にすることができる。
このように、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法によれば、溶接材料の選択と、熱供給の態様とを適切に組み合わせることで、鋳造品を確実かつ効率的に補修することができる。
【0047】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、マイクロティグ溶接電流を50A以下とすることで、補修時及び補修後の補修部位及びその周囲の損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)を確実に防ぐことができる。
【0048】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、第1溶接層54の厚みを1mm以上としつつも、第1溶接層54の厚みを、溶接層全体の厚みの1/3以下とすることで、溶接作業を確実かつ迅速に完了することができる。例えば、損傷部位が大きい場合であっても、適切な時間内に補修を終えることができる。
【0049】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、析出強化型鋳造合品の損傷部の露出面を覆うように第1溶接層54を形成することで、補修時及び補修後において、母材の損傷部と溶接の境界において局所的な変形や損傷が発生して母材の再補修が必要となるような事態を防ぐことができる。
【0050】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態における析出強化型鋳造合品の溶接補修方法の手順の一例を示す図である。本実施形態では、第1実施形態と異なり、第1溶接層54及び第2溶接層58の双方に対してレーザー溶接を用いる(s21、s23)。
【0051】
図9は、第3実施形態における第1溶接層形成工程の一例を説明する図である。また、
図10は、第3実施形態における第2溶接層形成工程の一例を説明する図である。
【0052】
第1溶接層54の形成に使用する溶接材料は、第1実施形態と同様、固溶強化型の金属を含む、母材である動翼44の金属素材よりも靭性の高い合金である。また、第2溶接層58の形成に使用する溶接材料は、第1実施形態と同様、二重複相ナノ組織金属間化合物合金を含むニッケル基合金である。
【0053】
具体的な溶接方法については、第2溶接層58の形成における単位時間あたりの熱供給速度(レーザー62の出力)は、第1溶接層54の場合と比べて速くし、第2溶接層58の形成における溶接速度(レーザー装置60の移動速度)は、第1溶接層54の場合より速くする。また、第2溶接層58の形成における合金粉末56の供給速度は、第1溶接層54の場合より高くする。
【0054】
例えば、第1溶接層54の形成時のレーザー62の出力は1KW程度とし、第2溶接層58の形成時にはその数倍程度とする。また、第2溶接層58の形成時の溶接速度も、第1溶接層54の形成時(数mm/秒)の数倍程度とする。さらに、第2溶接層58の形成時における合金粉末56の供給速度は、第1溶接層54の形成時の数倍とする。なお、第1溶接層54と第2溶接層58の厚みは、第1実施形態と同様とする。
【0055】
以上のような溶接方法で第1溶接層54及び第2溶接層58を形成することにより、欠損部50に対応する形状(略同一の形状)の溶接層を形成し、動翼44の先端部48に生じた損傷部を補修する。
【0056】
以上のように、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、析出強化型鋳造合品の母材に対して、レーザー溶接により損傷部に第1溶接層54を形成し(第1溶接層形成工程)、さらに、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、先のレーザー溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により第1溶接層54の上に第2溶接層58を形成する(第2溶接層形成工程)ことで、母材に近い(又は隣接する)下層である第1溶接層54の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量は少なくしつつも溶接速度が抑えられることで確実な溶接を行い、上層である第2溶接層58の形成に際しては、単位時間あたりの入熱量を多くして溶接時間を短縮している。そして、第1溶接層形成工程では、母材よりも靱性が高い固溶強化型の溶接材料を用いる一方で第2溶接層形成工程では二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用いることで、補修部位にかかる熱応力を緩和させて補修時及び補修後において、補修部位及びその周囲の損傷(例えば、補修部位の割れや亀裂の再発生)防ぐと共に、母材を高温に強く、耐摩耗性、耐食性を良好にすることができる。
このように、本発明の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法によれば、溶接材料の選択と、熱供給の態様が異なる溶接方法とを適切に組み合わせることで、析出強化型鋳造合品を確実かつ効率的に補修することができる。
【0057】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、第1溶接層54の厚みを1mm以上としつつも、第1溶接層54の厚みを、溶接層全体の厚みの1/3以下とすることで、溶接作業を確実かつ迅速に完了することができる。例えば、損傷部位が大きい場合であっても、適切な時間内に補修を終えることができる。
【0058】
また、本実施形態の析出強化型鋳造合品の溶接補修方法では、析出強化型鋳造合品の損傷部の露出面を覆うように第1溶接層54を形成することで、補修時及び補修後において、母材の損傷部と溶接の境界において局所的な変形や損傷が発生して母材の再補修が必要となるような事態を防ぐことができる。
【0059】
以上の各実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。
【0060】
例えば、各実施形態の溶接方法を適宜組み合わせたり、一部を省略してもよい。
【0061】
また、各実施形態では、動翼44の先端部48に生じた損傷を溶接補修する方法について説明したが、各実施形態に係る溶接補修方法は、ガスタービン10の構成部品(燃焼器20、尾筒30、静翼42、動翼44)をはじめとする、耐熱合金部材の溶接補修一般に対して適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 ガスタービン、20 燃焼器、22 燃焼器副室、24 燃焼器主室、30 尾筒、40 タービン室、42 静翼、44 動翼、48 先端部、50 欠損部、52 溶接棒、54 第1溶接層、55 露出面、56 粉末、57 溶接トーチ、58 第2溶接層、59 第3溶接層、60 レーザー装置、62 レーザー
【要約】
析出強化型鋳造合品の損傷部を補修する方法であって、鋳造合品よりも靱性が高い固溶強化型溶接材料を用い、マイクロティグ溶接により損傷部の表面に第1溶接層54を形成する第1溶接層形成工程と、二重複相ナノ組織金属間化合物を溶接材料として用い、マイクロティグ溶接より熱供給速度の速いレーザー溶接により肉盛することで第1溶接層54の上に第2溶接層58を形成する第2溶接層形成工程とを有する。