(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンター等の画像形成装置の定着部(定着装置)には、電鋳(Ni(ニッケル)、Ni/Cu(銅)/Ni、PI(ポリイミド樹脂)、SUS(ステンレス鋼)等)、弾性層、離型層(フッ素樹脂チューブ)等で構成された定着ベルトや、芯金、弾性層、離型層等で構成された定着ロールや加圧ロール等が用いられている。
【0003】
例えば、
図1に示す定着装置100では、回転する加圧ロール101に従動され、内部102に配置された加熱手段103によって加熱された定着ベルト104(ベルト形状の定着部材)及び定着ロール(インナーロール105)が回転し、定着ベルト104と加圧ロール101との間を紙等の記録媒体106が通過する際に、熱と圧力によって未定着トナー107を定着させている。この定着装置100では、定着ベルト104は記録媒体106の未定着トナー107が吐出される側(トナー側)に配置されているので、未定着トナー107と直接接するようになっている。
【0004】
なお、定着装置100では、加熱手段103が加熱ロール108を介して定着ベルト104の内部に配置された構成が採用されているが、そのような装置構成の定着装置以外にも、例えば定着ベルトの外部に加熱手段が配置された装置や、ロール形状の定着部材が設けられた定着装置もある。また、定着部材の加熱手段にも様々な熱源があり、例えばハロゲンランプ、金属抵抗体、セラミックヒーター、カーボンヒーター等の抵抗発熱体、電磁誘導加熱(IH)、マイクロ波等が利用されている。
【0005】
ところが、一般的な定着装置では、通紙時に生じるトナー残り(オフセットトナー)が問題となっており、電気的要因による静電オフセット、熱的要因による高温オフセットや低温オフセット等のオフセットトナーが発生し難い定着条件が求められている。
【0006】
また、近年の高画質化に伴い、直接トナーが接する定着部材の表面には、高い離型性が必要とされており、表面エネルギーを小さくしてトナーや紙粉の付着量を低減させる必要がある。そこで、定着部材の表面エネルギーの低減化の観点から、少なくとも表面にPFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂を用いた定着部材が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0007】
ここで、画像形成装置に用いるトナーは装置毎に極性が異なり、プラス帯電のトナーを用いる場合には、静電オフセット対策を施す必要がある。例えば、定着部材である加熱定着ローラの表層に設けたフッ素系樹脂からなる耐熱オフセット防止被覆層に、グラファイト粉体を充填することにより、定着部材に静電オフセット対策を施す方法が開示されている(例えば特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を各実施形態に基づいて詳細に説明する。以下の説明は本発明の一態様を示すものであって、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更可能である。
【0017】
(実施形態1)
[1.定着ベルト及びその製造方法]
本発明に係る定着部材は、電子写真方式の複写機やプリンター等の画像形成装置の定着部(定着装置)に用いて好適なものであり、かかる定着装置において、未定着トナー像を熱と圧力で紙等の記録媒体に定着するために用いられるものである。実施形態1では、定着部材として、無端状の定着ベルト(エンドレスベルト又はエンドレスフィルム)を例示している。
【0018】
図2は、定着ベルト10の模式的断面図である。定着部材である定着ベルト10は、基体11と、基体11の内周面に形成された摺動層12と、基体11の外周面に形成された弾性層13と、弾性層13の外周面に形成された離型層14とを具備するものであり、内側から摺動層12、基体11、弾性層13及び離型層14が順に積層されたものである。
【0019】
基体11は、熱伝導性及び機械的強度に優れたSUS合金、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、鉄(Fe)、磁性ステンレス、コバルト−ニッケル(Co−Ni)合金等の金属層や、PI(ポリイミド樹脂)等の樹脂層を少なくとも一層有する。実施形態1では、基体11として、一層のニッケル電鋳からなるシームレス電鋳ベルトを用いた。シームレス電鋳ベルトは、ニッケル単体からなるニッケル電鋳だけでなく、リン(P)、鉄、コバルト及びマンガン(Mn)の1種又は複数種の元素を含むニッケル合金電鋳を含むものである。なお、基体11は、複数層のシームレス電鋳ベルトとしてもよく、例えば、ニッケル、銅、ニッケル(Ni/Cu/Ni)等の三層構造としてもよい。
【0020】
ここで、基体11の総厚は、例えば、1μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上100μm以下であり、更に好ましくは25μm以上60μm以下である。基体11が1μmより薄いと、全体として強度が確保できず、また、剛性が低く多数枚通紙の耐久性に耐えることが困難となる。一方、基体11が300μmより厚いと、剛性が高くなりすぎ、また、曲げ応力が大きくなり、耐久性が低下する傾向となる。本実施形態では、基体11として、40μmの厚さを有するニッケル電鋳(φ40)からなるシームレス電鋳ベルトを用いた。
【0021】
摺動層12としては、例えばポリイミド樹脂(PI)やポリアミドイミド樹脂(PAI)等のような耐久性、耐熱性及び耐摩耗性に優れた樹脂が適しており、必要に応じてフッ素樹脂を含有させてもよい。
【0022】
含有可能なフッ素樹脂としては、例えば、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等を挙げることができ、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0023】
なお、本実施形態では、摺動層12を設けた例を挙げたが、必要に応じて摺動層12を設けない定着ベルトとしてもよい。
【0024】
基体11の外周には接着剤層(不図示)を介して弾性層13が設けられている。弾性層13の材料としては、公知の弾性材料を使用することができ、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等を用いることができる。
【0025】
弾性層13の厚さは、画像を印刷する場合に、紙等の記録媒体26(
図3参照)の凹凸或いはトナー層(不図示)の凹凸に定着ベルト10の加熱面が追従できないことによる光沢ムラを予防するために、100μm以上にすることが好ましい。
【0026】
弾性層13の厚さが100μm未満では、弾性層13が弾性部材としての機能を発揮し難く、未定着トナー27(
図3参照)の定着時における圧力分布が不均一となる。これにより、特にフルカラー画像における定着時に、二次色の未定着トナー27を十分に加熱定着することができず、定着画像のグロスにおいてムラを生じる。また、未定着トナー27の溶融が不十分であることによって混色性が低下し、高精細なフルカラー画像が得られず好ましくない。
【0027】
なお、本実施形態においては、弾性層13としてシリコーンゴムを用い、厚みは270μmとした。また、本実施形態では、弾性層13を塗工する際に、特許文献1に記載のリングコート法を用いたが塗工方法はこれに限定されず、必要に応じて適宜変更することが可能である。
【0028】
本実施形態では、このような弾性層13を設けることにより、定着ベルト10の柔軟性及びこれを用いた定着装置1(
図3参照)への熱効率を高めることができ、未定着トナー27像の記録媒体26への定着性を向上させ、画像の高画質化を図ることができる。なお、弾性層13は必要に応じて設ければよく、勿論、設けなくてもよい。
【0029】
離型層14としては、成形性やトナー離型性の観点から、押し出し成形によるフッ素樹脂チューブが適している。フッ素樹脂チューブを構成するフッ素樹脂としては、耐熱性に優れたテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA樹脂)が好適に用いられる。即ち、PFA樹脂からなるフッ素樹脂チューブ(PFAチューブ)は、押し出し成形により成形するものが好適に用いられる。
【0030】
原料となるPFA樹脂の共重合の形式は特に限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。また、原料となるPFA樹脂におけるテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)の含有モル比は、特に限定されず、例えばTFE/PAVEの含有モル比が、94/6〜99/1のものを好適に用いることができる。
【0031】
PFA樹脂以外のフッ素樹脂チューブを構成するフッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)が挙げられる。また、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。また、これらのフッ素樹脂を1種又は複数種組み合わせて用いることもできる。
【0032】
本実施形態では、離型層14を構成するフッ素樹脂チューブの導電性と高離型性の両立を達成する観点から、絶縁性のフッ素樹脂に少量のカーボン(C)を添加して押し出し成形により成形され、微導電化されたフッ素樹脂チューブ(以下、「微導電化チューブ」という。)が用いられる。
【0033】
添加するカーボンの態様としては、フッ素樹脂チューブを構成するフッ素樹脂に添加して微導電化することができれば特に限定されず、例えば粉末状、繊維状、糸状、針状、棒状等が挙げられる。このようなカーボンとしては、カーボンブラック、炭素繊維、炭素原子クラスター等又はこれらの混合物等が挙げられる。また、炭素繊維としては、アクリル繊維系炭素繊維(PAN)、ピッチ系炭素繊維(PITCH)、炭素繊維強化プラスチック(FRP)等又はこれらの混合物等が挙げられ、炭素原子クラスターとしては、カーボンナノチューブ等又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0034】
本実施形態では、微導電化チューブの比誘電率を微導電化の指標とする。即ち、比誘電率によりフッ素樹脂チューブに添加されたカーボン間の距離の良否について判断することができる。微導電化チューブの比誘電率は、2.15以上2.5以下とすることが好ましく、特に2.2以上2.4以下とすることが好ましい。微導電化チューブの比誘電率が2.15を下回ると、カーボン間の距離が遠くなり、フッ素樹脂チューブを微導電化できず、定着ベルト10の静電オフセットを防止できなくなるので好ましくない。一方、微導電化チューブの比誘電率が2.5を上回ると、カーボン間の距離が近くなり、フッ素樹脂チューブの表面エネルギーが大きくなることで、定着ベルト10の離型性が低下するので好ましくない。なお、カーボンは、比誘電率が上述の所定範囲内となるようにフッ素樹脂に添加すればよく、添加するカーボンの態様や種別等に応じて添加量を適宜変更することができる。
【0035】
一方、カーボンの添加量の良否は、下記式(1)及び(2)で表される光透過濃度を用いて判断することができる。即ち、本実施形態では、微導電化チューブの光透過濃度が1以上4以下であって適度な透過性を有しており、この状態であれば、微導電化チューブにおける導電性と高離型性の両立を達成することができる。
光透過率=透過光/投入光 ・・・ (1)
光透過濃度=Log
10(1/光透過率) ・・・ (2)
【0036】
比誘電率が上述の所定範囲内にある微導電化チューブは、好ましい電気特性を有している。即ち、本実施形態では、微導電化チューブの表面抵抗率が10
10Ω/□以上であるので、微導電化チューブの帯電をある程度防止できる程度の導電性を持ち、微導電化チューブの誘電緩和率が1.0%以上5.0%以下であるので、トナーの飛び散り(オフセット)を防止することができる。また、下記式(3)の通り、誘電緩和率は、4kVでチャージした直後から10秒間で表面電位が低下した割合(低下率)と定義される。即ち、下記式(3)における「10秒間の低下量」は、「初期帯電量−10秒後の帯電量」により算出される。
誘電緩和率=(10秒間の低下量/初期帯電量)×100 ・・・ (3)
【0037】
本実施形態においては、カーボンを添加して押し出し成形で得られたPFAチューブである微導電化チューブを使用し、チューブ厚みは30μmであった。チューブ内径は、弾性層13の外径よりも小さく、38mmであった。チューブ内面には、接着性を向上させるためにアンモニア処理を施した。
【0038】
また、本実施形態では、得られた微導電化チューブに研磨処理を施すことにより、その表面における中心線平均粗さ(Ra)を0.02μm以上0.06μm以下にする(JIS 94)。これにより、定着ベルト10を用いた定着装置1(
図3参照)において、未定着トナー27像の記録媒体26への定着性を向上させ、画像の高画質化を図ることができる。
【0039】
本実施形態では、定着ベルト10の表層としての離型層14を構成する微導電化チューブを外側から拡張し被覆する方法、即ち、微導電化チューブを接着剤層(不図示)が形成された弾性層13に被せる方法である拡張被覆法(例えば、特許文献1,2参照)を用いた。
【0040】
即ち、ここでは、外周面に弾性層13を形成した基体11の外周面(実際は弾性層13の外周面)に、接着剤層(不図示)を介して厚さ30μmの微導電化チューブを、拡張被覆法により被覆させる。その後、電気炉等の加熱手段(不図示)で加熱処理を行うことで、接着剤層の全体を硬化させる。これにより、微導電化チューブと弾性層13を全域に亘って固定させる。そして、加熱処理の後に、微導電化チューブ等を自然冷却し、基体11の両端側を、定着ベルト10が所定の長さとなるように、切断機構により切断する。その後、切断面を研磨機構により研磨する。このような一連の製造工程により、定着ベルト10の製造工程が終了する。
【0041】
なお、本実施形態では、基体11の弾性層13に被せた微導電化チューブの全長(自然長)を基準とした場合に、微導電化チューブの長手方向の伸張率は7%であった。微導電化チューブを長手方向に伸張することで、微導電化チューブに皺が発生しにくくなり、高耐久な定着ベルト10になる。
【0042】
また、図示されないが、離型層14は弾性層13の外周面に接着剤層を介して形成されている。接着剤層は、弾性層13の表面に所定の厚みで均一に塗布した。本実施形態において、接着剤層は付加硬化型シリコーンゴム接着剤の硬化物からなっている。付加硬化型シリコーンゴム接着剤は、自己接着成分が配合された付加硬化型シリコーンゴムを含む。
【0043】
具体的には、付加硬化型シリコーンゴム接着剤は、ビニル基に代表される不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサン及び架橋触媒としての白金化合物を含有する。そして、付加反応により硬化する。このような接着剤としては、既知のものを使用することができる。本実施形態においては、接着剤層を約30μmの厚みで均一に塗布した。
【0044】
[2.定着装置]
次に、本実施形態に係る定着装置について説明する。本発明に係る定着装置は、画像形成装置に搭載されるものであり、未定着トナー像を熱と圧力で記録媒体に定着させるものである。
【0045】
図3は、
図2に示した定着ベルト10を用いた定着装置1の模式的断面図である。
図3に示すように、定着装置1は、定着ベルト10(定着部材)と、定着ベルト10に対向して配置される加圧ロール20と、定着ベルト10を内側から加圧ロール20に対して押圧するインナーロール21と、定着ベルト10を所定温度までIH(電磁誘導加熱)によって発熱させるIHコイル22(加熱手段)とを具備するものである。定着ベルト10の内側にはインナーロール21が配置され、加圧ロール20の回転駆動により、インナーロール21と定着ベルト10を回転駆動するものである。なお、本実施形態において、実際に発熱する定着ベルト10の部位は、基体11を構成するニッケル電鋳(ニッケル部)である。
【0046】
加圧ロール20は、金属等からなる芯体23と、芯体23の周囲に形成されたゴム等からなる弾性層24とを具備する。芯体23の熱容量を小さくするため、形状は中空である方が好ましいが、中空でなくてもよい。また、弾性層24の表面には、必要に応じてPFA等のフッ素系樹脂やシリコーンゴム等からなるチューブやコーティング層を設けてもよい。本実施形態では、弾性層24として4mmの厚さを有するシリコーンゴムを用い、弾性層24の表面には50μmの厚さを有するPFAチューブ(不図示)を被覆した。
【0047】
また、定着装置1にはIHコイル22が設けられている。本実施形態では、定着ベルト10の加熱手段としてIHコイル22を設けたが、加熱手段は定着ベルト10を加熱できるものであればIHコイル22に限定されない。例えば、加熱手段を定着ベルトの外側や、加圧ロールの内方等に設けてもよい。また、加熱手段の熱源としては、ハロゲンヒーター、電熱線ヒーター、赤外線ヒーター、カーボンヒーター、マイクロ波等を挙げることができる。
【0048】
定着装置1は、上述した離型層14を構成する微導電化チューブの導電性と高離型性の両立を達成することができる定着ベルト10を具備するものである。これにより、プラス帯電のトナーを用いる場合でも、微導電化チューブの表面におけるトナーや紙粉の付着量を低下させ、オフセットトナーの発生を低減することができる。
【0049】
(実施形態2)
[1.定着ロール及びその製造方法]
実施形態2では、定着部材として、定着ロールを例示している。
図4は、定着ロール40の横断面図であり、
図5は、定着ロール40の縦断面図である。
図4,5に示すように、定着ロール40は、芯体41と、芯体41の周囲に設けられた弾性層42と、弾性層42の周囲に設けられた離型層43とを具備する。
【0050】
定着ロール40(定着部材)を構成する芯体41は、熱伝導性及び機械的強度に優れた金属又は樹脂材料からなる。金属又は樹脂材料は、定着ロール40の芯体として用いることができるものであれば、特に制限はない。例えば、実施形態1の定着ベルト10の基体11の素材を用いることができる。また、芯体41の形状についても制限はなく、中空であっても、中空でなくてもよい。本実施形態においては、芯体41としてパイプ芯金を用いた。
【0051】
芯体41の外周には接着剤層(不図示)を介して弾性層42が設けられている。弾性層42は、高熱伝導性のものであれば特に限定されず、例えば定着ベルト10の弾性層13の素材を用いることができる。弾性層42の形成方法は特に限定されないが、例えば、特開2015−031755号公報に記載の方法で形成することができる。本実施形態では、当該公報に記載の方法を参照して弾性層42を形成した。また、弾性層42の厚さは、高熱伝導性を維持する観点から、2mm以下とすることが好ましい。なお、弾性層42は必要に応じて設ければよく、勿論、設けなくてもよい。
【0052】
離型層43は、成形性やトナー離型性の観点から、定着ベルト10の離型層14を構成する微導電化チューブと同様のものを適用することが好ましい。本実施形態においても、離型層43を構成する微導電化チューブの導電性と高離型性の両立を達成する観点から、少量のカーボン(C)を添加して微導電化された微導電化チューブが用いられる。
【0053】
離型層43の厚さは、定着ロール40に高い離型性を付与できる厚さであれば、特に制限はないが、10μm以上100μm以下であり、好ましくは、20μm以上50μm以下である。
【0054】
弾性層42の周囲に、離型層43を周囲に形成する場合には、定着ベルト10の離型層14と同様にして微導電化チューブを用いる。弾性層42と離型層43を一体成形せずに、別工程で製造しても、ロール硬度が低く且つ軸方向の硬度のばらつきが少ない高熱伝導性を有する定着ロール40を製造できることは言うまでもない。
【0055】
[2.定着装置]
次に、本実施形態に係る定着装置について説明する。
図6は、
図4,5に示した定着ロール40を用いた定着装置2の模式的断面図である。
図6に示すように、定着装置2は、実施形態1の定着装置1の定着ベルト10、インナーロール21及びIHコイル22を、定着ロール40(定着部材)及びハロゲンヒーター44(加熱手段)に置き換えたこと以外は定着装置1と同様の構成である。従って、実施形態1の定着装置1と同一部材には同一符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0056】
図6に示すように、定着装置2は、加圧ロール20と、加圧ロール20に対向して配置される定着ロール40とを具備するものである。定着ロール40には、ハロゲンヒーター44が内蔵されている。なお、本実施形態の定着ロール40は、
図6に示す定着ロール40としても、加圧ロール20としても使用することができる。また、本実施形態では、加熱手段としてハロゲンヒーター44を用いたが、これに限定されず、例えば電熱線ヒーター、赤外線ヒーター、カーボンヒーター、IHコイル、マイクロ波等を用いてもよい。
【0057】
(定着部材の変形例)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る定着部材は、上述したような定着ベルトや定着ロールに好適に用いられるものであるが、転写直後に定着を行う転写・定着ベルト等にも用いることができる。このように、定着ベルトの使用態様は特に限定されるものではない。また、本発明に係る定着部材を具備する定着装置は、複写機、ファクシミリ、レーザビームプリンター、その他のプリンター及びこれらの複合機等の各種の画像形成装置(特に電子写真方式)に搭載可能である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0059】
(実施例1)
実施例1では、
図2に示した定着ベルト10において、離型層14を構成するカーボン含有PFAチューブ(以下、単に「PFAチューブ」という。)の比誘電率が2.18及び光透過濃度が3.35であるものを用いて以下の試験を行い、その結果を表1にまとめた。また、定着ベルト10は、以下に示す手順で作製した。
【0060】
実施例1では、40μmの厚さを有するニッケル電鋳(φ40)からなるシームレス電鋳ベルト(基体11)の表面に、シランカップリング剤をスプレーで塗装し、150℃のシャフトヒーターで回転させながら1分間乾燥させた。その後、溶剤で希釈したシリコーンゴム(東レ製DY35−1114)を塗装し、70℃のシャフトヒーターで回転させながら5分間レベリングをした。そして、150℃で1.5分間、200℃で3分間一次硬化させ、厚さ270μmのシリコーンゴムからなる弾性層13を形成した。次に、シリコーンゴム系の接着剤を介して、弾性層13の外周面に厚さ30μmのPFAチューブ(離型層14)を被覆して定着ベルト10とした。
【0061】
(実施例2)
図2に示した定着ベルト10において、離型層14を構成するPFAチューブの比誘電率が2.27及び光透過濃度が3.8であるものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の試験を行った。
【0062】
(比較例1)
図2に示した定着ベルト10の離型層14を構成するPFAチューブの比誘電率が2.10及び光透過濃度が0.058であるものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の試験を行った。
【0063】
(比較例2)
図2に示した定着ベルト10の離型層14を構成するPFAチューブの比誘電率が2.58であり、光透過性を示さないものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の試験を行った。
【0064】
(比較例3)
図2に示した定着ベルト10の離型層14を構成するPFAチューブの比誘電率が2.87であり、光透過性を示さないものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の試験を行った。
【0065】
(比較例4)
図2に示した定着ベルト10の離型層14を構成するPFAチューブの比誘電率が3.43であり、光透過性を示さないものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の試験を行った。
【0066】
(比較例5)
図2に示した定着ベルト10の離型層14を構成するPFAチューブの比誘電率が5.25であり、光透過性を示さないものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、以下の試験を行った。
【0067】
(比誘電率の測定)
LCRメーター(ヒューレットパッカード社製、4284A)を用いて、実施例1,2及び比較例1〜5で得られたPFAチューブの比誘電率を測定した。なお、当該測定は、周波数300Hzで行った。
【0068】
(光透過濃度の測定)
透過・反射濃度計(エックスライト社製、Photographic Densitometer 310)を用いて、実施例1,2及び比較例1〜5で得られたPFAチューブの光透過濃度を測定した。なお、当該測定は、PFAチューブ単体での厚み方向について行った。
【0069】
(誘電緩和率の測定)
誘電緩和測定器を用いて、実施例1,2及び比較例1〜5で得られたPFAチューブの誘電緩和率を測定した。なお、当該測定は、PFAチューブの表面と電極との間に4kVを印加してアーク放電させた後に、表面電位計を用いて0.3秒後と10秒後の電位を測定した。
【0070】
(表面粗さの測定)
「JIS 94」の規定に基づき、実施例1,2及び比較例1〜5で得られたPFAチューブの表面における中心線平均粗さ(Ra)を測定した。なお、当該測定は、測定長0.4mm及びカットオフ0.08mmで行った。
【0071】
(表面抵抗率の測定)
抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ハイレスタUP、MCP−HT450型)及びプローブ(三菱化学アナリテック社製、UR−100、MCP−HTP16型)を用いて、実施例1,2及び比較例1〜5で得られたPFAチューブの表面抵抗率を測定した。なお、当該測定は、100V印加、10秒値の条件で、切り裂いたPFAチューブの表層面側について計測を行った。
【0072】
(離型性の評価)
実施例1,2及び比較例1〜5で得られた定着ベルト10を画像形成装置にセットして画像を印刷し、ホットオフセットの有無について確認を行い、離型性について評価した。なお、ホットオフセットあり(離型性に劣る)を×とし、ホットオフセットなし(離型性に優れる)を○とした。
【0073】
(静電オフセットの評価)
実施例1,2及び比較例1〜5で得られた定着ベルト10を画像形成装置にセットして画像を印刷して静電オフセットの有無について確認を行い評価した。なお、静電オフセットありの場合を×とし、静電オフセットなしの場合を○とした。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1,2では、表1に示す通り、比誘電率が2.15以上2.5以下であり、光透過濃度が1以上4以下のPFAチューブ(微導電化チューブ)を用いたことにより、誘電緩和率が1.0%以上5.0%以下、表面粗さ(Ra)が0.02μm以上0.06μm以下、及び表面抵抗率が10
10Ω/□以上となった。これにより、PFAチューブの導電性と高離型性の両立を達成し、定着ベルト10及び記録媒体26におけるオフセットトナーの付着を防止できることが明らかとなった。
【0076】
一方、比較例1では、表1に示す通り、比誘電率が2.15未満であり、光透過濃度が1未満のPFAチューブを用いたことにより、誘電緩和率、表面粗さ及び表面抵抗率が所定範囲から外れた。即ち、比較例1では、誘電緩和率が1.0%未満の微導電化されていないPFAチューブを用いたことから、記録媒体26における静電オフセットを防止できなくなったと考えられる。
【0077】
一方、比較例2〜5では、表1に示す通り、比誘電率が2.5超過であり、光透過性を示さなかった微導電化チューブを用いたことにより、誘電緩和率、表面粗さ及び表面抵抗率が所定範囲から外れた。即ち、比較例2〜5では、誘電緩和率が5.0%超過の導電性を有するPFAチューブを用いたことから、当該チューブの表面エネルギーが大きくなり、定着ベルト10の離型性が低下してホットオフセットを防止できなかったと考えられる。