特許第6642793号(P6642793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642793
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】電池パック
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20200130BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20200130BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   H02J7/00 302D
   H01M10/44 P
   H01M10/48 P
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-242501(P2015-242501)
(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公開番号】特開2017-108590(P2017-108590A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157912
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 健
(74)【代理人】
【識別番号】100074918
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬川 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
(72)【発明者】
【氏名】小林 建司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 泰成
【審査官】 田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−322513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00− 7/12
7/34− 7/36
H01M 10/42−10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式工具の動力源としての使用可能な電池パックであって、
所定の条件に達したとき、および、前記電池パックの出力電圧が電池セル固有の放電終止電圧を下回ったときに、放電の停止、または、放電を停止するための信号の出力を実行する放電停止手段を備え、
満充電状態の前記電池パックの出力電圧を100とし、0Vを0としたときの単位時間における前記電池パックの出力電圧の変化量をΔVP、前記電池パックが満充電状態から0Vとなるまでの時間を100としたときの前記単位時間における時間の変化量をΔTPとしたときに、
前記所定の条件として、ΔVP/ΔTPで求められる値が所定値以下であり、かつ、前記電池パックの出力電圧が予め定められた所定の出力電圧値以上ではないことを使用したことを特徴とする、電池パック。
【請求項2】
前記所定値は−1.5であることを特徴とする、請求項1記載の電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、充電式工具の動力源としての使用可能な電池パックに関し、特に、充電制御に特徴を有する電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、充電式工具の動力源として、充電式工具に着脱できる電池パックが使用されている。こうした電池パックは充放電を繰り返すうちに徐々に容量が減っていき、最終的に寿命に至る。
【0003】
ところで、こうした電池パックは、所定の放電終止電圧まで放電制御され、放電終止電圧になったときに放電を停止するように制御される。電池パックの容量と寿命とは、この放電終止電圧の設定値に大きく影響される。
【0004】
すなわち、放電終止電圧を高く設定した場合には、電池パックの容量を十分に使用することなく放電が停止してしまうため、一回の充電で使用可能な電池容量が低下することになる。一方で、放電終止電圧を予め低く設定すると、充放電サイクルが進行していない二次電池では過放電するおそれがある。
【0005】
こうした問題に関連して、例えば、特許文献1には、二次電池の充放電サイクルの進行に応じて、二次電池の放電を停止させる放電終止電圧を低く設定する構成が記載されている。この発明では、放電終止電圧を低く設定することで、二次電池の電池容量を有効に使い切ることができ、二次電池を効率よく使用できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−128052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した特許文献1記載の構成では、充放電サイクル(充電回数)によって放電終止電圧が決まるため、適切な放電終止電圧を設定できないおそれがあった。すなわち、放電終止電圧まで使用して充電した場合と、放電終止電圧まで使用せずに充電した場合とでは、電池の劣化の度合いに差が出てくるが、特許文献1記載の構成はこの差を考慮せずに放電終止電圧を設定しているため、過放電などの不都合が生じる可能性があった。
【0008】
また、本発明者らは、放電終止電圧を低く設定した場合に、充放電による容量低下への影響が大きくなり、結果として電池寿命が短くなってしまうことに着目した。図4は、本発明者らが計測した放電終止電圧と容量低下の関係を示す図である。この図4に示すように、放電終止電圧を3.0Vに設定した場合、充放電回数が200回を超えても容量の低下は20%未満である。一方、放電終止電圧を1.0Vに設定した場合、充放電回数が150回未満の状態ですでに容量の低下が40%以上となっている(一般的な電池パックとしては寿命である)。このように、放電終止電圧を低くすると、少ない充放電回数で寿命を迎えてしまい、寿命までに使用できる電池の総容量が減少する点に着目した。寿命までに使用できる電池の総容量を考慮すれば、必ずしも特許文献1記載の構成のように放電終止電圧をできるだけ低く設定することが最適とは言えない。
【0009】
そこで、本発明は、電池パックにとって最適な放電終止電圧を設定でき、高容量と高寿命のバランスを最適化することができる電池パックを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、以下を特徴とする。
【0011】
請求項1記載の発明は、充電式工具の動力源としての使用可能な電池パックであって、所定の条件に達したとき、および、前記電池パックの出力電圧が電池セル固有の放電終止電圧を下回ったときに、放電の停止、または、放電を停止するための信号の出力を実行する放電停止手段を備え、満充電状態の前記電池パックの出力電圧を100とし、0Vを0としたときの単位時間における前記電池パックの出力電圧の変化量をΔVP、前記電池パックが満充電状態から0Vとなるまでの時間を100としたときの前記単位時間における時間の変化量をΔTPとしたときに、前記所定の条件として、ΔVP/ΔTPで求められる値が所定値以下であり、かつ、前記電池パックの出力電圧が予め定められた所定の出力電圧値以上ではないことを使用したことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、上記した請求項1に記載の発明の特徴点に加え、前記所定値は−1.5であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明は上記の通りであり、放電の停止、または、放電を停止するための信号の出力を実行する条件として、ΔVP/ΔTPで求められる値を使用した。このような構成によれば、傾きが急になったときに出力電圧が急激に下がったと判断し、そのタイミングで放電を停止できるので、最適な放電終止電圧を設定でき、高容量と高寿命のバランスを最適化することができる。
【0014】
また、出力電圧が急激に低下する状態では、充電式工具の能力を十分に発揮できず、場合によっては負荷が増大して危険である。この点、本発明によれば、出力電圧が急激に低下すると放電が停止するので、充電式工具に最適な管理を行うことができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は上記の通りであり、ΔVP/ΔTPで求められる値が−1.5以下となったときに放電を停止する。このような構成によれば、特に充電式工具にとって最適な放電終止電圧を設定でき、高容量と高寿命のバランスを最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】時間経過とともに推移する放電曲線を示す図である。
図2】単位時間当たりの出力電圧や傾きを示す表である。
図3】単位時間当たりの出力電圧や傾きを示す表(図2の続き)である。
図4】放電終止電圧と容量低下の関係を示す図である。
図5】放電の停止に係る制御フロー図である。
図6】(a)電池パックを取り付けた充電式工具の外観斜視図、(b)電池パックの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
【0018】
本実施形態に係る電池パック10は、充電式工具40の動力源としての使用可能なものであって、二次電池を内蔵して充放電可能に形成されている。この電池パック10は、図6に示すように、充電式工具40に形成された装着部41に対して着脱可能となっており、充電式工具40の動力源としての使用するときには、充電式工具40に取り付けて使用する。この電池パック10は、上面が充電式工具40への取り付け面となっている。電池パック10の取り付け面には、図1に示すように、端子部10aが設けられている。充電式工具40に電池パック10を取り付けると、この端子部10aが充電式工具40の端子と電気的に接続され、充電式工具40に対して放電可能となる。なお、この電池パック10は、充電器に取り付けて充電可能である。充電器に電池パック10を取り付けると、端子部10aが充電器の端子と電気的に接続され、充電器を使用して充電可能となる。
【0019】
この電池パック10は、二次電池を内蔵して充放電可能に形成されている。電池パック10の内部には、二次電池の充放電を制御する制御基板が内蔵されている。この制御基板は、所定の条件に達したときに、二次電池から充電式工具40への放電を停止する放電停止手段として機能する。
【0020】
ところで、こうした電池パック10に使用されるリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返すことにより劣化し、徐々に容量が低下することが知られている。そして、容量が所定のレベルまで低下したときに(例えば初期容量の60%以下まで低下したときに)、電池パック10の寿命に到達したと判断される。
【0021】
ここで、充放電による容量の低下は、図4に示すように、放電終止電圧を高く設定した方が緩やかとなる。例えば放電終止電圧を3.0Vに設定した場合、充放電回数が200回を超えても容量の低下は20%未満である。一方、放電終止電圧を1.0Vに設定した場合、充放電回数が150回未満の状態ですでに容量の低下が40%以上となっている。このように、放電終止電圧を高く設定した方が、電池寿命に至るまでの充放電回数を多くすることができる。
【0022】
一方で、放電終止電圧を高く設定すると、使用できる電池の容量が減少してしまう。このため、使用できる電池の容量と充放電による劣化防止とのバランスを考えて放電終止電圧を設定することが重要である。
【0023】
二次電池を製造する電池セルメーカは、上記バランスを考慮して正常動作領域を設定している。例えば、高電圧側(充電電圧)を4.0V、低電圧側(放電終止電圧)を2.0V程度に設定している。電池セルメーカは、この正常動作領域内で使用された場合の容量や充放電サイクル寿命を保証している。
【0024】
しかしながら、充電式工具40の動力源としてのこれらの二次電池を使用する場合、必ずしも電池セルメーカの設定した放電終止電圧が最適であるとは限らない。
【0025】
図1は、時間経過とともに推移する放電曲線を示す図である。なお、図1の縦軸は、無劣化かつ満充電状態の電池パック10の出力電圧を100としたときの電池パック10の出力電圧(%)を示している。また、図1の横軸は、電池パック10が満充電状態から完全放電状態となるまでの時間を100としたときの経過時間(%)を示している。この図1が示すように、時間が60%を超えたあたりから急激に電圧が低下していることが分かる。
【0026】
このように出力電圧が急激に低下する状態では、充電式工具40の能力を十分に発揮できず、場合によっては負荷が増大して危険である。このため、本実施形態においては、電池セルメーカの設定した放電終止電圧とは別に、所定の条件を設け、この所定の条件を満たしたときに、放電停止手段が放電を停止する制御を実行するようにしている。
【0027】
所定の条件としては、単位時間当たりの電池パック10の出力電圧の変化率を使用している。具体的には、単位時間における前記電池パック10の出力電圧の変化量をΔVP、電池パック10が満充電状態から完全放電状態となるまでの時間を100としたときの単位時間における時間の変化量をΔTPとしたときに、前記所定の条件として、ΔVP/ΔTPで求められる値が−1.5以下となることで放電を停止するようにしている。
【0028】
この点について、図2及び図3を参照しつつ詳しく説明する。図2及び図3は、図1の放電曲線の基となる単位時間当たりの出力電圧や傾きを示す表である。この表では、単位時間(例えば10T。Tは時間の単位)ごとに電圧を計測し、その変化率と、時間に対する傾きを算出している。
【0029】
すなわち、無劣化かつ満充電状態の電池パック10を10T使用すると、電圧が20.7Vから18.06Vまで低下する。20.7Vを100%としたとき、これに対する18.06Vの割合は87.25%である。よって、このときの単位時間当たりの電池パック10の出力電圧の変化量(ΔVP)は、「87.25−100=−12.75」である。また、無劣化かつ満充電状態から完全放電状態となるまでの時間は680Tであり、これを100としたときの単位時間における時間の変化量(ΔTP)は、「10/680×100」である。よって、ΔVP/ΔTPで求められる値(傾き)は、「−12.75÷(10/680×100)≒−8.67」である。
【0030】
同様に、次の10T(無劣化かつ満充電状態の電池パック10を10T使用後から20T使用するまでの時間)における、単位時間当たりの電池パック10の出力電圧の変化量(ΔVP)は、「85.12−87.25=−2.13」である。このときΔVP/ΔTPで求められる値(傾き)は、「−2.13÷(10/680×100)≒−1.45」である。
【0031】
なお、満充電状態から使用した場合には、使用直後に傾きが−1.5以下となることがある。しかしながら、この傾きは電圧が高いために無視することができる。言い換えると、放電停止手段は、電圧が所定値以上である場合には、傾き(ΔVP/ΔTP)を条件とした放電停止を行わないように構成されている。
【0032】
そして、充電式工具40を使用し続けると、使用開始から400T程度までは比較的安定した電圧となっているが、400Tを超えたあたりから電圧が急激に低下し始める。そして、図1及び図3の矢印が示すように、450〜460Tの期間における傾き(ΔVP
/ΔTP)が−1.5以下となる。放電停止手段は、このタイミングで放電を停止する制御を行う。
【0033】
すなわち、放電停止手段は、出力電圧を計測し、その計測値を基に傾き(ΔVP/ΔTP)を算出する。そして、この傾き(ΔVP/ΔTP)が−1.5以下となったことを検出したときに、放電を停止する制御を行う。
【0034】
なお、電池セルメーカが設定している放電終止電圧Vmは二次電池個々の特性によって設定されている。本実施形態に係る電池パック10が、仮にVm=2.0Vに設定された二次電池を使用している場合、図2及び図3において、この2.0Vに到達するのは使用開始から570Tが経過したあたりである。よって、放電停止手段は、電池セルメーカが設定した放電終止電圧Vmよりも早い段階で放電を停止するように制御する。このように、本実施形態においては、電池セルメーカが設定している放電終止電圧Vmよりも、あえて高い電圧で放電を停止するようにしている。
【0035】
なお、放電停止手段は、傾き(ΔVP/ΔTP)が−1.5以下となるよりも先に、電池セルメーカが設定した放電終止電圧Vmに到達した場合には、その時点で放電を停止するように制御する。つまり、本実施形態に係る放電停止手段は、充電式工具40にとって最適な放電終止電圧(ΔVP/ΔTPで求められる傾きを条件とした放電終止電圧)と、電池セルにとって最適な放電終止電圧(電池セルメーカが設定した放電終止電圧Vm)と、の2種類の閾値によって放電の停止を制御しており、いずれかの閾値に到達したときに放電が停止されるようになっている。
【0036】
具体的には、図5に示すように、まずステップS100において、ΔTPが算出される。そして、ステップS101に進む。
ステップS101では、単位時間(例えば10T)毎に出力電圧Vが計測される。そして、ステップS102に進む。
【0037】
ステップS102では、計測した出力電圧Vが電池セルメーカが設定した放電終止電圧Vm以下であるかがチェックされる。出力電圧Vが放電終止電圧Vmに到達している場合には、ステップS106へ進む。一方、出力電圧Vが放電終止電圧Vmに到達していない場合には、ステップS103に進む。
【0038】
ステップS103では、出力電圧Vを基に、ΔVPが算出される。そして、ステップS104に進む。
【0039】
ステップS104では、ΔVPを基に、傾き(ΔVP/ΔTP)が算出される。そして、ステップS105に進む。
【0040】
ステップS105では、傾き(ΔVP/ΔTP)が−1.5以下であるかがチェックされる。傾き(ΔVP/ΔTP)が−1.5以下である場合には、ステップS106へ進む。一方、傾き(ΔVP/ΔTP)が−1.5に到達していない場合には、ステップS101に戻る。
【0041】
ステップS106に進んだ場合、放電停止手段が二次電池から充電式工具40への放電を停止する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、放電を停止する条件として、単位時間当たりの電池パック10の出力電圧の低下率を使用した。このような構成によれば、放電終止電圧を出力電圧の変化率に応じて設定できるので、最適な放電終止電圧を設定でき、高容量と高寿命のバランスを最適化することができる。
【0043】
また、出力電圧が急激に低下する状態では、充電式工具40の能力を十分に発揮できず、場合によっては負荷が増大して危険である。この点、本発明によれば、出力電圧が急激に低下すると放電が停止するので、充電式工具40に最適な管理を行うことができる。
【0044】
また、前記所定の条件として、ΔVP/ΔTPで求められる傾きが−1.5以下となることを使用した。このような構成によれば、特に充電式工具40にとって最適な放電終止電圧を設定でき、高容量と高寿命のバランスを最適化することができる。
【0045】
なお、上記した実施形態においては、放電停止手段が、所定の条件に達したときに、二次電池から充電式工具40への放電を停止するようにしたが、これに限らず、放電の停止を充電式工具40側で実行するようにしてもよい。すなわち、所定の条件に達したときに、放電停止手段が放電を停止するための信号を充電式工具40へ出力し、当該信号を受信した充電式工具40が電池パック10からの送電を受け付けないように遮断する制御を行うようにしてもよい。
【0046】
また、上記した実施形態においては、放電停止手段が出力電圧を計測し、その計測値を基に放電を停止するようにしたが、本発明の実施形態としてはこれに限らない。例えば、予め測定した放電曲線から、ΔVP/ΔTPで求められる傾きが−1.5以下となるときの電圧値を算定し、この電圧値以下となったときに放電を停止するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 電池パック
10a 端子部
40 充電式工具
41 装着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6