(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
素線を編組して扁平筒状に形成された複数の平編組部を備えるとともに、前記複数の平編組部はある平編組部の筒内に他の平編組部を内包する多重構造に構成されている平編組線の製造方法であって、
前記素線を編組して前記他の平編組部を形成する工程と、
前記他の平編組部の周囲に前記素線を編組して前記ある平編組部を形成する工程と、
を備え、
前記他の平編組部を形成する工程に次いで前記ある平編組部を形成する工程を行うことで、屈曲させた場合に前記ある平編組部が前記他の平編組部の外方への広がりを規制するように構成された平編組線を得る
平編組線の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平編組線のサイズは、最大でも公称断面積300mm
2のもの(以下、このサイズを「300SQ」と称す。)が一般的である。そのため、それよりも大きいサイズの要求に対応する場合には、複数の平編組線を重ね合わせ、これにより要求サイズを満たすように構成することが考えられる。具体的には、例えば
図4に示すように、500SQのサイズの要求に対応する場合には、250SQの平編組線を二段に重ねて構成することが考えられる。また、1000SQのサイズの要求に対応する場合には、250SQの平編組線を二段×二列に重ねて構成することが考えられる。
【0006】
しかしながら、複数の平編組線を重ね合わせて構成したものでは、可撓性を考慮した場合に、以下のような難点が生じることが懸念される。
例えば、
図5に示すように、複数の平編組線21,22を重ね合わせて構成したものについて、その構成体をいずれかの方向に屈曲させた場合を考える。その場合には、屈曲の際に内側に位置する平編組線21をその長手方向に圧縮しようとする力が作用し、これに伴って内側の平編組線21に外方(長手方向の直交方向)へ広がろうとする力が作用する(図中矢印A参照)。
このことは、平編組線21,22の可撓性を阻害したり、内側の平編組線21への負荷が過大になったりすることを招き得る。また、内側の平編組線21が外方に向けて広がると、外観上好ましくなく、狭スペースへの配置を要する場合に他部材との干渉が起こるおそれもある。さらには、外周部分をシースと呼ばれる保護被膜で覆った場合に、そのシースに亀裂が生じ易くなるおそれもある。
以上のように、複数の平編組線を重ね合わせて構成したものは、可撓性という観点においては、必ずしも良好であるとはいえない。
【0007】
そこで、本発明は、複数を組み合わせて構成する場合であっても、良好な可撓性を得ることのできる平編組線およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、
素線を編組して扁平筒状に形成された複数の平編組部を備えるとともに、
前記複数の平編組部は、ある平編組部の筒内に他の平編組部を内包する多重構造に構成されている
平編組線が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の平編組部を組み合わせて平編組線を構成する場合であっても、各平編組部が多重構造に構成されるので、良好な可撓性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明に係る平編組線およびその製造方法について説明する。
【0012】
(1)平編組線の構成
先ず、本発明に係る平編組線について具体的に説明する。
【0013】
(平編組線の概要)
本実施形態で説明する平編組線は、可撓性を必要とする電気用導体として、例えば電気機器の接続部、アース線、その他の導電用途に用いられるもので、複数の平編組部を備えて構成されている。
【0014】
平編組線を構成する各平編組部は、それぞれが、素線を編組して扁平筒状に形成されたものである。
素線は、例えば、編組前において、JIS C 3152「すずめっき軟銅線」の規格に適合したものであればよい。
また、編組は、日本電線工業会の規格JCS1236に準拠して行うことが考えられる。つまり、編組は、規格JCS1236で規定された素線径(mm)、素線数(本)、構成持数(素線の一つの群の中の本数)×打数(素線の纏まりである群の数)等に準拠しつつ、素線を複数本束ねたものを網状にし、それを平らに成形することで扁平筒状に形成することによって行う。ただし、必ずしも厳密な意味での規格通りである必要はない。例えば、平編組規格サイズが300SQまでであっても、これに限られることはなく、300SQを超えるサイズに対応するように形成しても構わない。
つまり、各平編組部は、それぞれが、従来における平編組線と同様に構成されたものである。
【0015】
以上のように、本実施形態における平編組線は、複数の平編組部を備えて構成されている。したがって、各平編組部のサイズが最大でも300SQであっても、それよりも大きいサイズ(例えば500SQのサイズ)の要求に対応することが可能となる。ただし、各平編組部のサイズは、必ずしも300SQである必要はなく、それよりも小さいサイズのものであってもよい。つまり、各平編組部のサイズは、特に限定されるものではない。
【0016】
ところで、本実施形態における平編組線では、従来における平編組線とは異なり、当該平編組線を構成する複数の平編組部が、ある平編組部の筒内に他の平編組部を内包する多重構造に構成されている点に大きな特徴がある。
以下、各平編組部の多重構造について、具体例を挙げて詳しく説明する。
【0017】
(平編組線の具体的な構成)
図1は、本発明に係る平編組線の具体的な構成例を示す断面図である。
ここでは、
図1に示すように、平編組線10が二つ平編組部11,12を備えて構成されており、これらの平編組部11,12による多重構造が二重構造である場合を例に挙げる。つまり、各平編組部11,12は、内層側に位置する平編組部(以下、単に「内層平編組部」という。)11と、その内層平編組部11を筒内に収容するように外層側に位置する平編組部(以下、単に「外層平編組部」という。)12とによって、二重構造に構成されている。
【0018】
内層平編組部11は、規格JCS1236に準拠しつつ、例えば250SQのサイズに対応するように形成されている。また、外層平編組部12についても同様に、例えば250SQのサイズに対応するように形成されている。したがって、これら二つ平編組部11,12を備えて構成された平編組線10は、例えば500SQのサイズに対応したものとなる。ただし、ここで例示したサイズは一具体例に過ぎない。つまり、各平編組部11,12のサイズは特に限定されるものではなく、例えば、それぞれが8SQのサイズに対応するように形成されており、合わせて16SQのサイズを実現するものであってもよいし、またそれぞれが22SQのサイズに対応するように形成されており、合わせて44SQのサイズを実現するものであってもよい。
【0019】
図2は、本発明に係る平編組線の要部構成例を模式的に示す説明図である。
各平編組部11,12の二重構造により構成された平編組線10においては、
図2に示すように、各平編組部11,12における素線11a,12aの編組角度が互いに異なるように形成されることになる。
【0020】
編組角度とは、各平編組部11,12の長手方向に沿った端縁と当該平編組部11,12を構成するそれぞれの素線11a,12aとがなす角度α1,β1、または、各平編組部11,12の短手方向(長手方向の直交方向)に沿った仮想線と当該平編組部11,12を構成するそれぞれの素線11a,12aとがなす角度α2,β2のいずれかをいう。編組角度は角度α1,β1と角度α2,β2のいずれであってもよいが、いずれの場合であっても、内層平編組部11における角度α1,α2と、外層平編組部12における角度β1,β2とは、互いに異なったものとなる。
具体的には、例えば角度α1,β1については、各平編組部11,12がどのようなサイズの場合であっても、内層平編組部11における角度α1の値よりも、外層平編組部12における角度β1の値のほうが大きくなる。また、例えば角度α2,β2については、各平編組部11,12がどのようなサイズの場合であっても、内層平編組部11における角度α2の値のほうが、外層平編組部12における角度β2の値よりも大きくなる。
このように、それぞれを構成する素線11a,12aの編組角度が互いに異なることで、各平編組部11,12が同サイズに対応したものであっても、内層平編組部11を外層平編組部12が内包する二重構造を実現することが可能となる。
【0021】
図3は、本発明に係る平編組線の外観構成例を示す斜視図である。
各平編組部11,12の二重構造によって構成された平編組線10は、
図3に示すように、その長手方向が要求仕様に対応した長さに切断され、その切断された両端縁に接続端子13が装着される。つまり、平編組線10は、二重構造の各平編組部11,12の端縁に装着された接続端子13を備える。
【0022】
接続端子13は、銅管の管内に平編組線10を挿入した状態で、その銅管を圧縮加工することによって、平板状に形成されたものである。このような接続端子13は、従来構成の平編組線に用いられていたものと同様のものを使用できる。なお、接続端子13には、電気機器の接続部等との接続のために、ネジ等の締結具が挿入される貫通穴が設けられていてもよい。
【0023】
ここで、端縁に接続端子13が装着されて構成された平編組線10について、その平編組線10をいずれかの方向に屈曲させた場合を考える。
平編組線10は、上述したように、内層平編組部11と外層平編組部12とを備えており、内層平編組部11を外層平編組部12が内包する二重構造によって構成されている。したがって、平編組線10を屈曲させることによって、例えば内層平編組部11に対して外方(長手方向の直交方向)へ広がろうとする力が作用しても、その内層平編組部11は外層平編組部12に内包されているため、外方への広がりが外層平編組部12によって規制され、その外層平編組部12の形状に倣うことになる。
つまり、内層平編組部11と外層平編組部12の二重構造である平編組線10によれば、これをいずれかの方向に屈曲させた場合であっても、各平編組部11,12のいずれかのみが外方に広がって飛び出してしまうといったことが生じずに、良好な可撓性を得ることができる。
【0024】
(2)平編組線の製造方法
次に、上述した構成の平編組線10を構成する場合の製造方法について簡単に説明する。
【0025】
一般に、平編組線は、ボビンから繰り出される素線を複数本集合して素線束とし、その素線束を複数本束ねたものを網状にし、これにより平編組線を構成する編組機を用いて製造される。上述した構成の平編組線10についても、その製造に用いられる編組機は、従来構成の平編組線を製造する場合と同様に構成されたもの(すなわち、公知技術を利用して構成されたもの)を用いればよく、ここではその詳細な構成についての説明を省略する。
【0026】
ところで、内層平編組部11と外層平編組部12の二重構造である平編組線10については、上述した編組機を用いつつ、少なくとも以下に述べる各工程を経て製造される。
すなわち、二重構造の平編組線10にあたっては、先ず、編組機を用いつつ素線を編組して、内層平編組部11を形成する工程を実施する。そして、内層平編組部11を形成したら、次いで、その内層平編組部11を芯材として、その内層平編組部11の周囲に編組機を用いつつ素線を編組して、外層平編組部12を形成する工程を実施する。このとき、外層平編組部12の編組にあたっては、素線の編組角度を、内層平編組部11の場合とは異なるようにする。素線の編組角度は、編組機にて編組する際の送り速度を調整することによって制御することが可能である。
これらの各工程を順に経た後は、二重構造の各平編組部11,12を扁平状に成型する。これにより、内層平編組部11を外層平編組部12が内包する二重構造によって構成された平編組線10が製造される。
【0027】
なお、以上の各工程を経て製造された平編組線10は、その後、長手方向が要求仕様に対応した長さに切断され、その切断された両端縁を銅管の管内に挿入した状態で、その銅管を圧縮加工することによって、接続端子13が装着されることになる。
【0028】
(3)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0029】
(a)本実施形態においては、平編組線10が内層平編組部11と外層平編組部12とを備えており、内層平編組部11を外層平編組部12が内包する二重構造によって構成されている。そのため、平編組線10をいずれかの方向に屈曲させた場合であっても、内層平編組部11が外層平編組部12に内包されているため、内層平編組部11の外方への広がりが外層平編組部12によって規制され、その外層平編組部12の形状に倣うことになる。つまり、平編組線10を屈曲させても、各平編組部11,12のいずれかのみが外方に広がって飛び出してしまうといったことが生じることがない。
【0030】
したがって、本実施形態によれば、平編組線10を屈曲させても、その平編組線10を構成する各平編組部11,12の可撓性が阻害されてしまうようなことがなく、各平編組部11,12への負荷が過大になってしまうこともない。また、各平編組部11,12のいずれかのみが外方に広がるといったことも生じないので、外観上も好ましいものとなり、狭スペースへの配置を要する場合であっても他部材との干渉が起こるのを回避し得るようになる。さらには、外周部分をシースと呼ばれる保護被膜で覆った場合であっても、そのシースに亀裂が生じ易くなるといったことがなく、そのシースによる保護の有効化が図れる。
【0031】
以上のように、本実施形態においては、複数の平編組部11,12を組み合わせて平編組線10を構成する場合であっても、各平編組部11,12が二重構造に構成されるので、平編組線10をいずれかの方向に屈曲させた場合に良好な可撓性を得ることができる。
【0032】
(b)また、本実施形態においては、各平編組部11,12における素線11a,12aの編組角度が互いに異なるように形成されている。したがって、各平編組部11,12が同サイズに対応したものであっても、内層平編組部11を外層平編組部12が内包する二重構造を実現することが可能となる。しかも、それぞれにおける素線11a,12aの編組角度が互いに異なっていれば、各平編組部11,12が独自の編組角度、すなわち内層平編組部11であれば内層側に位置するのに適した編組角度を、また外層平編組部12であれば外層側に位置するのに適した編組角度を、それぞれが有することになる。そのため、各平編組部11,12がそれぞれの位置において適した可撓性を得ることができ、その結果として、各平編組部11,12を組み合わせて二重構造とした場合であっても、平編組線10の全体として良好な可撓性を実現し得るようになる。
【0033】
(c)また、本実施形態においては、平編組線10が、各平編組部11,12の端縁に装着された接続端子13を備えて構成されている。したがって、いずれかの方向に屈曲させた場合の良好な可撓性を確保しつつ、電気機器の接続部等との接続が容易となり、平編組線10としての汎用性等の向上が図れるようになる。
【0034】
(4)変形例等
以上に、本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。
【0035】
例えば、上述した実施形態では、主として、平編組線10が内層平編組部11と外層平編組部12との二重構造によって構成されている場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、本発明は、平編組線が複数の平編組部を備えており、各平編組部について、ある平編組部の筒内に他の平編組部を内包するように構成されたものであれば、二重構造のみならず、三重以上の多重構造を有するものであってもよい。多重構造を構成する平編組部の数が多ければ、サイズの大型化にも容易に対応し得るようになる。一方、多重構造を構成する平編組部の数が少なければ(例えば、二重構造)、良好な可撓性を得やすいものとなる。
【0036】
また、上述した実施形態では、主として、平編組線10を構成する各平編組部11,12のそれぞれが同サイズに対応したものである場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、本発明は、平編組線を構成する各平編組部が多重構造を有したものであれば、各平編組部が同サイズに対応したものではなく、それぞれが異なるサイズに対応したものであってもよい。
【0037】
また、上述した実施形態では、主として、各平編組部11,12の端縁に接続端子13が装着されてなる平編組線10を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、本発明における「平編組線」には、上述した実施形態のように接続端子13が装着されたものは勿論のこと、接続端子13が装着される前の段階のもの、すなわち複数の平編組部が多重構造に構成されたものについても含まれる。