(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記防水層用材料が、前記ポリアミド樹脂とアスファルトとを含むアスファルト混合物を含有し、前記ポリアミド樹脂とアスファルト混合物との合計質量基準において、前記ポリアミド樹脂の配合割合が5質量%以上である、請求項1又は2に記載の防水層用材料。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る防水層用材料について、以下、詳細に説明する。防水層とは、建物、橋等の構造物の屋根等に、外部から構造内部への水分の侵入を防ぐために、配置されるものである。防水層用材料とは、このような防水層を形成するために用いられる材料を指す。本実施形態においては、構造物が道路橋である場合について説明する。道路橋では、鋼鈑やコンクリート等で形成された床版の表面にアスファルト舗装が施工されており、床版とアスファルト舗装との間に防水層が形成されている。
【0009】
[防水層用材料]
本発明の実施形態に係る防水層用材料は、構造物の防水措置のために形成される防水層に用いられる防水層用材料であって、ポリアミド樹脂を含み、該ポリアミド樹脂の軟化点が70℃以上170℃以下であり、180℃における溶融粘度が100mPa・s以上9000mPa・s以下である。
このように特定の物性のポリアミド樹脂を用いることにより、低温から高温まで優れたせん断強度が得られるのは、ポリアミド樹脂が有するアミド結合が、鋼版、コンクリートで形成された床版、アスファルト舗装に含まれる骨材等に吸着し易く、これらを低温から高温まで強固に接着させることができるためと推定される。
【0010】
本明細書中、高温のせん断強度とは、後述する実施例に記載した試験用の供試体を用いて測定される60℃におけるせん断試験結果に基づくせん断応力のことである。また、低温のせん断強度とは、後述する実施例に記載した道路橋床版防水便覧に記載された方法に準拠して測定される−10℃におけるせん断試験結果に基づくせん断応力のことである。また、防水性とは、後述する実施例に記載した道路橋床版防水便覧に記載された方法に準拠して測定される防水性試験IIの結果をいう。
本発明の実施形態に係る防水層用材料の軟化点は、良好な高温のせん断強度が得られる観点から、70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは77℃以上であり、良好な低温のせん断強度が得られる観点から、170℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下、さらに好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
通常、防水層の上に施工されるアスファルト合材は、150℃程度の温度で施工されることから、防水層用材料の軟化点が170℃以下の場合に、アスファルト合材の熱でポリアミド樹脂が溶融し、接着力が発揮することができ、低温でのせん断強度に優れると推定される。
【0011】
本実施形態に係る防水層用材料は、更に、180℃における溶融粘度が、良好な低温のせん断強度が得られる観点から、100mPa・s以上、好ましくは200mPa・s以上、より好ましくは300mPa・s以上、さらに好ましくは500mPa・s以上、さらに好ましくは800mPa・s以上、さらに好ましくは1000mPa・s以上、さらに好ましくは1500mPa・s以上であり、良好なせん断強度、施工性、及び防水性が得られる観点から、9000mPa・s以下、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは4000mPa・s以下、さらに好ましくは2500mPa・s以下である。
本実施形態に係る防水層用材料は、ポリアミド樹脂を含み、更に、アスファルトを含んでいてもよい。また、通常のアスファルト混合物に含められるような樹脂、ゴム成分、添加剤等を含んでいてもよい。
【0012】
防水層用材料中、ポリアミド樹脂の含有量は、低温及び高温のせん断強度に優れる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、好ましくは100質量%以下、さらに好ましくは100質量%である。
防水層用材料が、更にアスファルトを含む場合、防水層用材料中、ポリアミド樹脂とアスファルトとを含むアスファルト混合物の含有量は、低温及び高温のせん断強度に優れる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上、好ましくは100質量%以下、さらに好ましくは100質量%である。
以下、本実施形態に係る防水層用材料を構成することのできるポリアミド樹脂、アスファルト混合物について詳細に説明する。
【0013】
[ポリアミド樹脂]
<ポリアミド樹脂の性状>
本発明の実施形態に係る防水層用材料に適用可能なポリアミド樹脂を説明する。ポリアミド樹脂の軟化点は、良好な高温のせん断強度が得られる観点から、70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは77℃以上であり、良好な低温のせん断強度が得られる観点から、170℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下、さらに好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
本実施形態に係る防水層用材料に適用可能なポリアミド樹脂は、更に、180℃における溶融粘度が、良好な低温のせん断強度が得られる観点から、100mPa・s以上、好ましくは200mPa・s以上、より好ましくは300mPa・s以上、さらに好ましくは500mPa・s以上、さらに好ましくは800mPa・s以上、さらに好ましくは1000mPa・s以上、さらに好ましくは1500mPa・s以上であり、良好なせん断強度、施工性、及び防水性が得られる観点から、9000mPa・s以下、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは4000mPa・s以下、さらに好ましくは2500mPa・s以下である。
ポリアミド樹脂の軟化点と溶融粘度は、後述するように、ポリアミド樹脂の原料であるカルボン酸組成やアミン組成により、調整することができる。
【0014】
<ポリアミド樹脂の構造>
アミド結合(−CONH−)を有する高分子化合物であれば、いかなる化学構造を有するポリアミド樹脂を使用することもできる。ポリアミド樹脂は、例えば、主として脂肪族骨格からなるナイロンであってもよいし、主として芳香族骨格をもつアラミドであってもよい。さらにはこの両者以外の骨格構造を有するものでもよい。一方で好適に用いられる構造体としては、ジアミンと、モノカルボン酸及びジカルボン酸乃至重合脂肪酸とからなるポリアミドが挙げられる。
【0015】
ポリアミド樹脂は、通常、環状ラクタムの開環重合反応や、アミノ酸やその誘導体の自己縮合反応、カルボン酸とアミン化合物との縮重合反応などにより得られる。カルボン酸とアミン化合物との縮重合反応によるポリアミド樹脂は、例えば、カルボン酸とアミン化合物とを縮合(縮重合)反応させて得ることができる。
縮重合反応の一方の原料であるカルボン酸においては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、重合脂肪酸を好適に用いることができる。
モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。また、不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルシン酸、天然油脂より得られる混合脂肪酸(トール油脂肪酸、米ヌカ脂肪酸、大豆油脂肪酸、牛脂脂肪酸等)などが挙げられ、これらは単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、及びアルケニルコハク酸が挙げられる。アルケニルコハク酸としては、好ましくは、アルケニル基が炭素数4〜20のものが好ましい。
【0016】
重合脂肪酸は、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステル化物を重合して得られる重合物である。重合脂肪酸としては、植物油脂由来のダイマー酸の脱水縮合反応により得られる構造物が挙げられる。
当該不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸としては、通常1〜3の不飽和結合を有する総炭素数が8〜24の不飽和脂肪酸が用いられる。これらの不飽和脂肪酸として、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、天然の乾性油脂肪酸、天然の半乾性油脂肪酸などが挙げられる。また、不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステルとしては、上記不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸と脂肪族アルコール、好ましくは、炭素数1〜3の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。前記不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸を重合して得られる重合物、または不飽和結合を有する一塩基性脂肪酸のエステル化物を重合して得られる重合物である重合脂肪酸は、二量体を主成分とするものが好ましい。例えば、炭素数18の不飽和脂肪酸の重合物として、その組成が、炭素数18の一塩基酸(単量体)0〜10質量%、炭素数36の二塩基酸(二量体)60〜99質量%、炭素数54の三塩基酸以上の酸(三量体以上)30質量%以下のものが市販品として入手できる。
さらに、カルボン酸成分としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び重合脂肪酸のほか、舗装用混合物の物性を阻害しない範囲で、その他のカルボン酸を加えてもよい。
これらカルボン酸においては、モノカルボン酸と重合脂肪酸の組み合わせが特に好適に用いられる。なお、カルボン酸は、炭素数1〜3のアルコールとのエステルであってもよい。
【0017】
カルボン酸成分を構成するモノカルボン酸と、重合脂肪酸とを組み合わせて使用する場合には、その配合割合は、軟化点と180℃の溶融粘度を調整し、低温及び高温のせん断強度を高める観点から、カルボン酸成分全量基準で、モノカルボン酸が0モル当量%以上50モル当量%以下、重合脂肪酸が50モル当量%以上100モル当量%以下であることが好ましく、モノカルボン酸が0モル当量%以上35モル当量%以下、重合脂肪酸が65モル当量%以上100モル当量%以下であることがより好ましく、モノカルボン酸が0モル当量%以上20モル当量%以下、重合脂肪酸が80モル当量%以上100モル当量%以下であることがさらに好ましく、モノカルボン酸が5モル当量%以上18モル当量%以下、重合脂肪酸が82モル当量%以上95モル当量%以下であることがさらに好ましく、モノカルボン酸が6モル当量%以上15モル当量%以下、重合脂肪酸が80モル当量%以上100モル当量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
また、縮重合反応の他方の原料であるアミン化合物としては、ポリアミン、アミノカルボン酸、アミノアルコールなどが挙げられる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、ジエチレントリアミンなどの脂肪族トリアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなどの芳香族ジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。アミノカルボン酸としては、メチルグリシン、トリメチルグリシン、6−アミノカプロン酸δ−アミノカプリル酸、ε−カプロラクタムなどが挙げられる。アミノアルコールとしては、エタノールアミン、プロパノールアミンなどが挙げられる。
これら原料として使用される各化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
また、アミン化合物として、ポリアミンを含むアミン成分、特に好ましくは、前記アミン化合物として2種以上の脂肪族ジアミンを含むアミン成分を用いることができる。
【0019】
これらのカルボン酸成分とアミン成分とを縮合して得られるポリアミド樹脂であれば、本発明に用いるポリアミド樹脂に要求される分子量、分子量分布、軟化点や溶融粘度などの特性を満たすものを容易に見出すことができる。
ポリアミド樹脂の軟化点及び溶融粘度は、主にモノカルボン酸と重合脂肪酸を含むカルボン酸成分等それ以外のカルボン酸との仕込み比率により調整できる。前述に記載のとおり、モノカルボン酸の仕込み比率を減少させ、重合脂肪酸の仕込み比率を増加させることで軟化点が高くなり、溶融粘度も合わせて向上する傾向にある。
また、ポリアミド樹脂の軟化点、溶融粘度は、構造の異なるアミン成分を併用することでも調整できる。構造の異なるアミン成分を2種類以上併用して得られたポリアミドは、単一のアミンを使用して得られたポリアミドと比較して、溶融粘度を下げることが可能となる。この理由については、分子間のアミド結合力が低下するためだと考えられる。また単一のアミンを使用して得られたポリアミドは高い軟化点を示すが、構造の異なるアミン成分を2種類以上併用して得られたポリアミドは、軟化点も下げることが可能となる。
アミン化合物として2種以上の脂肪族ポリアミンを含むアミン成分、最も好ましくは2種以上の脂肪族ジアミンから選ばれるアミン成分を用いて得られたポリアミド樹脂が、上述の性能に特に優れる。
【0020】
次に、前記カルボン酸成分とともに用いるアミン成分に含まれるポリアミンとしては、脂肪族ジアミン及び芳香族ジアミンを用いることができる。とくにその他のアミン成分としては、好ましい180℃粘度と軟化点範囲に入る範囲で市販のモノアミンやトリアミン、テトラミン等のポリアミンをジアミンに併用することができる。
ポリアミド樹脂として好ましい180℃の溶融粘度と軟化点を得る観点から、アミン成分における前記各ポリアミンの配合割合が、アミン成分全量基準で、脂肪族ジアミンが0モル当量%以上100モル当量%以下、芳香族ジアミンが0モル当量%以上20モル当量%以下であることが好ましく、脂肪族ジアミンが50モル当量%以上100モル当量%以下、芳香族ジアミンが0モル当量%以上10モル当量%以下であることが好ましい。
ポリアミド樹脂として好ましい180℃の溶融粘度と軟化点を得る観点から、アミン成分は脂肪族ジアミンとすることが好ましく、用いる脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミンとヘキサメチレンジアミンが好ましく、最適な軟化点を得る観点からアミン成分全量基準で、エチレンジアミンが30モル当量%以上70モル当量%以下、ヘキサメチレンジアミンが30モル当量%以上70モル当量%以下であることが好ましく、エチレンジアミンが40モル当量%以上60モル当量%以下、ヘキサメチレンジアミンが40モル当量%以上60モル当量%以下であることがより好ましい。
【0021】
前記脂肪族ジアミンとしては、炭素数2〜6の脂肪族ジアミンが好ましく、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが例示できる。また、芳香族ジアミンとしてはキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、メチレンビスクロロアニリン等を用いることができる。本発明においては特に2種以上の上述アミンを併用することが好ましく、これによってポリアミド分子同士のアミド基の配向性を調整することができ、これによって結晶性や分子間相互作用が低減できることから、軟化点や180℃溶融粘度の調製を容易に達成できる。中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びm−キシリレンジアミンから選ばれる2種以上を含むことが好ましい。
【0022】
ポリアミド樹脂は、前記各原料化合物を公知の反応条件下で縮合反応させることにより製造することができる。例えば、カルボン酸成分とポリアミン化合物などのアミン成分とをモル当量比(カルボン基/アミノ基)1.0/1.2〜1.2/1.0で混合、加熱し、例えば、180〜250℃で縮合反応させればよい。
【0023】
[アスファルト混合物]
本実施形態に係る防水層用材料がポリアミド樹脂とアスファルト混合物を含む場合において、使用可能なアスファルト混合物について、具体的に説明する。
本実施形態において使用可能なアスファルト混合物としては、舗装用石油アスファルトであるストレートアスファルトを主成分とするもの、或いは、該ストレートアスファルトに、スチレン・ブタジエン・ブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・ブロック共重合体(SIS)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)などの熱可塑性エラストマーを添加して改質した、改質アスファルトであってもよい。
アスファルトは、JIS K2207(1996)や、日本改質アスファルト協会規格に準拠するものであれば使用できる。また、既設のアスファルト舗装に含まれる舗装用バインダ、及び骨材から再生された再生アスファルトであってもよい。
本実施形態に係るアスファルト混合物には、通常のアスファルト混合物に含められるような樹脂及びゴム成分、その他添加剤等が含まれていてもよい。
アスファルト混合物中、熱可塑性エラストマーの含有量は、接着強度を高める観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、同様の観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0024】
<ポリアミド樹脂とアスファルト混合物とを併用する場合の配合割合>
本実施形態に係る防水層用材料がポリアミド樹脂とアスファルト混合物を含む場合においては、ポリアミド樹脂とアスファルト混合物との合計質量基準において、ポリアミド樹脂の配合割合が、良好な低温及び高温のせん断強度が得られる観点から、5質量%以上であることが好ましい。
すなわち、ポリアミド樹脂×100/(ポリアミド樹脂+アスファルト混合物)(質量%)は、良好な低温及び高温のせん断強度が得られる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0025】
[防水層用材料を用いて防水層を形成する方法]
次に、本実施形態に係る防水層用材料を用いて防水層を形成する方法について説明する。
防水層用材料が上述したポリアミド樹脂単体からなる場合には、上述のポリアミド樹脂は、工場等において予めブロック状、シート状、フレーク状或いはペレット状に加工して提供することができる。
本実施形態に係る防水層用材料を道路橋の床版に使用する場合には、フレーク状或いはペレット状のポリアミド樹脂単体からなる防水層用材料を、施工現場において、溶解釜に投入し、約180℃前後の温度に加熱して溶融させて、道路橋の床版表面に、レーキや刷毛等を用いて塗布する。
【0026】
防水層用材料がポリアミド樹脂とアスファルト混合物とからなる場合には、該防水層用材料は、工場等において予め、ポリアミド樹脂及びアスファルト混合物を加熱混合した後、数kg〜10kg程度のブロック状或いはシート状に成型した後、冷却した状態で提供することができる。
本実施形態に係る防水層用材料を道路橋の床版に使用する場合には、数kg〜10kg程度のブロック状或いはシート状に成型された防水層用材料を、施工現場において、溶解釜に投入し、約200℃前後の温度に加熱して溶融させて、道路橋の床版表面に、レーキや刷毛等を用いて塗布する。
【0027】
ポリアミド樹脂は、石油系の溶剤に不要である。すなわち、アスファルトにも不溶である。このため、ポリアミド樹脂とアスファルト混合物とからなる防水層用材料では、ポリアミド樹脂の割合が50質量%を超える場合、ポリアミド樹脂中にアスファルト混合物が分散して存在する。一方、ポリアミド樹脂の配合割合が5質量%以上50質量%未満の場合には、アスファルト混合物中にポリアミド樹脂が分散して存在する。
このような分散状態は、防水層用材料が溶融した状態で無撹拌であっても、2〜3時間程度は維持できるため、ポリアミド樹脂とアスファルト混合物とが良好に分散した状態でブロック状或いはシート状に加工することができる。
【0028】
本実施形態に係る防水層用材料を道路橋の床版に使用する場合には、防水層用材料を床版に塗布する前に、床版の材質に応じたプライマー層を形成してもよい。プライマー層として適用可能な材料としては、アスファルト溶剤系、石油樹脂溶剤系、エポキシ樹脂やウレタン樹脂系、メタクリル樹脂系等が挙げられる。これらは、床版の種類、床版表面の状態、要求される防水条件等に応じて使い分けることができる。
防水層用材料が上述したポリアミド樹脂単体からなる場合、及びポリアミド樹脂とアスファルト混合物とからなる場合のいずれも、床版への塗布量は、0.5kg/m
2以上5.0kg/m
2以下であることが望ましい。塗布量が0.5kg/m
2以上であれば、床版に十分な防水性を付与することができ、5.0kg/m
2以下、より好ましくは3.0kg/m
2以下であれば、防水層の耐変形性及び床版とアスファルト舗装との界面における接着性を低下させることがない。
【0029】
本実施形態に係る防水層用材料を道路橋の床版に使用する場合には、防水層用材料の上には、通常、アスファルト舗装が施工されて交通に供される。アスファルト舗装に用いられる舗装用混合物は、施工工程において、150℃以上に加熱されて敷均される。このため、ポリアミド樹脂単体からなる防水層用材料、又はポリアミド樹脂とアスファルト混合物からなる防水層用材料に、加熱された舗装用混合物が接触すると、熱交換により防水層用材料が速やかに溶融する。これにより、施工時に舗装用混合物をローラで転圧した際に、床版と舗装用混合物との界面において、溶融した防水層用材料が床版と舗装用混合物とを結着することができる。すなわち、本実施形態に係る防水層用材料は、防水性能を有する接着層を形成する。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。本発明は、これらの例によって限定されない。
[ポリアミド樹脂の製造]
<ポリアミド樹脂A>
ポリアミド樹脂Aは、プロピオン酸及び重合脂肪酸(ハリマ化成社製、「ハリダイマー250」)を含むカルボン酸成分と、エチレンジアミン及びメタキシレンジアミンからなるアミン成分とを縮合させて得られたものである。ポリアミド樹脂Aは、特許第4580457号公報の[0032]に記載された製造方法に準拠して合成した。
すなわち、原料となる、プロピオン酸及び重合脂肪酸を含むカルボン酸成分と、アミン成分との混合物を温度計、撹拌系、脱水管及び窒素吹き込み管を備えた四つ口丸底フラスコに入れ、該混合物を撹拌し、着色防止のために僅かの窒素を流した後、210℃で3時間反応させた。さらに減圧下(13.3kPa)で2時間反応させた後、冷却し、粉砕してポリアミド樹脂Aを得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりプロピオン酸が0.20モル当量(全体原料に占める割合10モル当量%、括弧内、以下同じ)、重合脂肪酸が0.80モル当量(40モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.27モル当量(13モル当量%)、メタキシレンジアミンが0.73モル当量(37モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂Aの軟化点は68℃であり、180℃溶融粘度は300mPa・sであった。なおトール油脂肪酸や重合脂肪酸のモル当量については、以下同様にJIS常法の酸価の測定結果から算出した。
【0031】
<ポリアミド樹脂B>
プロピオン酸の代わりにトール油脂肪酸を用いた以外は、ポリアミド樹脂Aと同様の方法により、ポリアミド樹脂Bを得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりトール油脂肪酸が0.03モル当量(1モル当量%)、重合脂肪酸が0.97モル当量(49モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)、ヘキサメチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂Bの軟化点は82℃であり、180℃溶融粘度は10000mPa・sであった。
【0032】
<ポリアミド樹脂C>
プロピオン酸の代わりにトール油脂肪酸を用いた以外は、ポリアミド樹脂Aと同様の方法により、ポリアミド樹脂Cを得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりトール油脂肪酸が0.05モル当量(3モル当量%)、重合脂肪酸が0.95モル当量(47モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)、ヘキサメチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂Cの軟化点は80℃であり、180℃溶融粘度は3300mPa・sであった。
【0033】
<ポリアミド樹脂D>
プロピオン酸とトール油脂肪酸とを併用した以外は、ポリアミド樹脂Aと同様の方法により、ポリアミド樹脂Dを得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりトール油脂肪酸が0.04モル当量(2モル当量%)、プロピオン酸が0.10モル当量(6モル当量%)、重合脂肪酸が0.86モル当量(42モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが1.00モル当量(50モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂Dの軟化点は125℃であり、180℃溶融粘度は1400mPa・sであった。
【0034】
<ポリアミド樹脂E>
トール油脂肪酸及び重合脂肪酸(ハリマ化成社製、「ハリダイマー250」)を含むカルボン酸成分と、エチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミンからなるアミン成分とを縮合させた以外は、ポリアミド樹脂Aと同様の方法によりポリアミド樹脂Dを得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりトール油脂肪酸が0.07モル当量(4モル当量%)、重合脂肪酸が0.93モル当量(46モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)、ヘキサメチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂Eの軟化点は82℃であり、180℃溶融粘度は1900mPa・sであった。
【0035】
<ポリアミド樹脂F>
ポリアミド樹脂Aと同様の方法によりポリアミド樹脂Fを得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりトール油脂肪酸が0.32モル当量(16モル当量%)、重合脂肪酸が0.68モル当量(34モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)、ヘキサメチレンジアミンが0.50モル当量(25モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂Fの軟化点は80℃であり、180℃溶融粘度は75mPa・sであった。
【0036】
<ポリアミド樹脂G>
トール油脂肪酸、アジピン酸及び重合脂肪酸(ハリマ化成社製、「ハリダイマー250」)を含むカルボン酸成分と、エチレンジアミン及びメタキシレンジアミンからなるアミン成分とを縮合させた以外は、ポリアミド樹脂Aと同様の方法によりポリアミド樹脂Gを得た。
それぞれの含有割合は、カルボン酸成分については、カルボン酸成分1モル当量あたりトール油脂肪酸が0.02モル当量(1モル当量%)、重合脂肪酸が0.78モル当量(39モル当量%)、アジピン酸が0.20モル当量(10モル当量%)であり、アミン成分については、アミン成分1モル当量あたりエチレンジアミンが0.87モル当量(43.5モル当量%)、メタキシレンジアミンが0.13モル当量(6.5モル当量%)である。また、カルボン酸成分とアミン成分の割合は、モル当量比(カルボン酸成分/アミン成分)で、1.0/1.0である。
ポリアミド樹脂Gの軟化点は172℃であり、180℃溶融粘度は1300mPa・sであった。
【0037】
[評価方法]
実施例と比較例の防水層用材料を下記の方法に従って評価した。評価方法の一部は、道路橋床版防水便覧(日本道路協会、平成19年3月発刊)のp.35に記載された基本照査試験に基づいて行った。
【0038】
<軟化点試験>
「JIS K2207:2006石油アスファルト」に示されている環球法によって測定した。
<溶融粘度>
ポリアミド樹脂単体および防水層用材料について「(公社)石油学会規格JPI−5s−54−99:アスファルト−回転粘度計による粘度試験方法」に準拠し、試験温度180℃で測定した。
【0039】
<防水層用材料のせん断試験>
幅5cm×長さ10cm×厚さ3mmのスレート板を2枚用意し、180℃の恒温室で1時間加熱した。一枚のスレート板を恒温室から取り出し、温度が低下しないうちに直ちにスレート板の面積の半分5cm×5cmに、180℃に加熱溶融した防水層用材料を1mmの厚さで塗布し、直ちにもう一枚のスレート板を高温槽から取り出して接着することで供試体を作製した。
供試体は一旦室温まで冷却後、60℃の恒温室で3時間養生した。その後、引張試験機のチャックでスレート板の防水層用材料で挟んでいない両サイドを挟み込み、10mm/minの速度で引っ張ることで防水層用材料をせん断し、得られた荷重変位曲線の荷重ピーク値をせん断面積(25cm
2)で割ることで最大せん断応力を算出した。このように算出される最大せん断応力を60℃のせん断強度とする。60℃のせん断強度が0.10MPa以上のものが好ましい。
【0040】
<施工性評価>
実施例及び比較例において防水層としての評価のための供試体を作製する際に、防水用材料を金属製のヘラで均しながら塗布する際の作業者の感覚について、次の基準で分類した。
良(Gで表す):均一な塗布が可能
否(Fで表す):均一な塗布が困難
【0041】
<防水性試験II>
道路橋床版防水便覧(日本道路協会、平成19年3月発刊)のp.117〜121に記載された方法に準拠して実施した。
【0042】
<せん断試験>
道路橋床版防水便覧(日本道路協会、平成19年3月発刊)のp.132〜134に記載された方法に準拠して実施した。試験温度は、当該便覧に記載されている−10℃で実施した。−10℃の強度が0.8MPa以上であることが好ましく、変位量が0.5mm以上であることが好ましい。
【0043】
[実施例及び比較例]
上述のようにして得られたポリアミド樹脂A〜D及びアスファルト混合物の種類を変えて、実施例及び比較例の防水層用材料を作製した。
すなわち、縦30cm×横30cm×厚さ6cmのコンクリート版にエポキシ系のプライマー(セメンダイン株式会社製、型番EP−29)を0.3kg/m
2塗布し、硬化する前に珪砂を1kg/m
2散布して硬化させた。その後、各防水層用材料を180℃に加熱したものを金属製のヘラで均しながら塗布(1.5kg/m
2)して防水層を形成し、常温になるまで放置した。
なお、防水層用材料として、ポリアミド樹脂とアスファルト混合物とを用いる場合、ポリアミド樹脂とアスファルト混合物を180℃でミキサーで混合したものを用いた。また、アスファルト混合物は、改質材としてSBS系の熱可塑性エラストマーがアスファルト混合物の全質量基準で12質量%配合された市販品(東亜道路株式会社製、「アスファルト系塗膜防水剤タフシール」)を用いた。
次に、防水層の上に、改質アスファルトII型をバインダとして用いた密粒度アスファルト合材を150℃の温度で敷均して4cmの厚みの層を形成した。
得られた各供試体を上述した評価方法により評価した。結果を第1表に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1、2及び6と、比較例1とを比較すると、軟化点が82℃であって、180℃の溶融粘度が1900mPa・sであるポリアミド樹脂を配合した防水層用材料である実施例2が、低温のせん断強度と高温のせん断強度のバランスに優れていることがわかる。
比較例2のように、軟化点が70℃未満のポリアミド樹脂を配合した防水層用材料は、高温のせん断強度が低下することがわかる。
比較例3のように、180℃の溶融粘度が9000mPa・sを超えるポリアミド樹脂を配合した防水層用材料は、施工性が低下し、漏水することがわかる。これは、舗設時に均一な防水層の被膜を形成できないためと推定される。
比較例4のように、180℃の溶融粘度が100mPa・s未満のポリアミド樹脂を配合した防水層用材料は、低温のせん断強度が低下することがわかる。
比較例5のように、軟化点が170℃を超えるポリアミド樹脂を配合した防水層用材料は、低温のせん断強度が低下することがわかる。これは、防水層の上に施工したアスファルト混合物の余熱で十分に溶融しないため接着力が不足したものと考えられる。