(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲート電極の直下に酸化膜を有する窒化物半導体装置においては、酸化膜が作成しやすくなるという理由から、電子供給層としてAlN層が用いられることがある。しかしながら、電子供給層としてAlN層が用いられた場合には、電子走行層と電子供給層との格子不整合に起因する分極が強くなりすぎるために、電子走行層内に発生する2次元電子ガス濃度が過度に高くなるおそれがある。電子走行層内に発生する2次元電子ガス濃度が過度に高くなると、窒化物半導体装置の耐圧の低下、リーク電流の増加、容量の増加などの弊害を招くおそれがある。このような問題は、電子供給層としてAlN層が用いられた場合だけではなく、電子供給層としてAl組成の高い窒化物半導体層が用いられた場合にも起こりうる。
【0007】
この発明の目的は、電子供給層としてAl
xIn
yGa
1−x−yN(0.8≦x≦1.0,0≦x+y≦1)層が用いられる場合において、2次元電子ガス濃度を適切に低下させることができる、窒化物半導体装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明
の一実施形態は、GaNからなる電子走行層と、前記電子走行層上に形成され、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0.8≦x≦1.0,0≦x+y≦1)層からなり、前記電子走行層によって引っ張り歪が加えられている電子供給層と、前記電子供給層上に形成され、前記電子供給層に達する開口部を有する、SiNからなるパッシベーション膜と、前記電子供給層上に、前記開口部内に形成されたゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極を挟むように前記ゲート電極から離れて配置され、前記電子供給層に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極とを含み、前記パッシベーション膜の膜厚が10nm以上である
、窒化物半導体装置を提供する。
【0009】
電子走行層を構成するGaNとパッシベーション膜を構成するSiNの熱膨張係数はほぼ同じであるが、SiNの成膜温度はGaNの成膜温度よりも高い。このため、パッシベーション膜の成膜後に室温に戻したときに、パッシベーション膜を構成するSiNは、電子走行層を構成するGaNよりも収縮する。これにより、パッシベーション膜は、電子供給層および電子走行層に圧縮応力(圧縮歪)を加えることになる。この結果、電子供給層に生じるピエゾ分極が小さくなるから、電子走行層内に発生する2次元電子ガス濃度を適切に低下させることができる。
【0010】
この発明
の一実施形態は、GaNからなる電子走行層と、前記電子走行層上に形成され、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0.8≦x≦1.0,0≦x+y≦1)層からなり、前記電子走行層によって引っ張り歪が加えられている電子供給層と、前記電子供給層上に形成され、前記電子供給層に達する開口部を有する、SiNからなるパッシベーション膜と、前記電子供給層上に、前記開口部内に形成されたゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極を挟むように前記ゲート電極から離れて配置され、前記電子供給層に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と、前記ゲート電極への電界集中を緩和するためのフィールドプレートとを含み、ドレイン電圧が0V時の出力容量Cossを基準出力容量Cossoとすると、出力容量Cossが基準出力容量Cossoの1/2となるドレイン電圧が20V以下である
、窒化物半導体装置を提供する。
【0011】
電子走行層を構成するGaNとパッシベーション膜を構成するSiNの熱膨張係数はほぼ同じであるが、SiNの成膜温度はGaNの成膜温度よりも高い。このため、パッシベーション膜の成膜後に室温に戻したときに、パッシベーション膜を構成するSiNは、電子走行層を構成するGaNよりも収縮する。これにより、パッシベーション膜は、電子供給層および電子走行層に圧縮応力を加えることになる。この結果、電子供給層に生じるピエゾ分極が小さくなるから、電子走行層内に発生する2次元電子ガス濃度を適切に低下させることができる。
【0012】
ドレイン電圧を印加すると、フィールドプレート直下の2次元電子ガス濃度が低減するので、出力容量Cossが低下する。電子走行層内に発生している二次元電子ガス濃度が高いほど、出力容量Cossは減少しにくい。したがって、電子走行層内に発生している2次元電子ガス濃度が高いほど、出力容量Cossが基準出力容量Cossoの1/2となるドレイン電圧が大きくなる。パッシベーション膜によって電子供給層に所定以上の圧縮歪が加えられていない場合には、2次元電子ガス濃度が過度に高くなるため、出力容量Cossが基準出力容量Cossoの1/2となるドレイン電圧が20Vよりも高くなる。この構成では、パッシベーション膜によって電子供給層に所定以上の圧縮歪が加えられており、2次元電子ガス濃度が適切に低下されているので、出力容量Cossが基準出力容量Cossoの1/2となるドレイン電圧が20V以下となる。
【0013】
この発明
の一実施形態は、GaNからなる電子走行層と、前記電子走行層上に形成され、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0.8≦x≦1.0,0≦x+y≦1)層からなり、前記電子走行層によって引っ張り歪が加えられている電子供給層と、前記電子供給層上に形成され、前記電子供給層に達する開口部を有する、SiNからなるパッシベーション膜と、前記電子供給層上に、前記開口部内に形成されたゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極を挟むように前記ゲート電極から離れて配置され、前記電子供給層に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極とを含み、ゲート長が1μm以下である
、窒化物半導体装置を提供する。
【0014】
電子走行層を構成するGaNとパッシベーション膜を構成するSiNの熱膨張係数はほぼ同じであるが、SiNの成膜温度はGaNの成膜温度よりも高い。このため、パッシベーション膜の成膜後に室温に戻したときに、パッシベーション膜を構成するSiNは、電子走行層を構成するGaNよりも収縮する。これにより、パッシベーション膜は、電子供給層および電子走行層に圧縮応力を加えることになる。この結果、電子供給層に生じるピエゾ分極が小さくなるから、電子走行層内に発生する2次元電子ガス濃度を適切に低下させることができる。
【0015】
パッシベーション膜によって電子供給層に所定以上の圧縮歪が加えられていない場合には、2次元電子ガス濃度が過度に高くなるので、耐圧を維持するために、ゲート長を1μmよりも大きくする必要がある。この構成では、パッシベーション膜によって電子供給層に所定以上の圧縮歪が加えられており、2次元電子ガス濃度が適切に低下されているので、ゲート長は1μm以下となる。
【0016】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層がAlN層からなる。
この発明の一実施形態では、前記電子走行層がGaN層からなる。
この発明の一実施形態では、前記パッシベーション膜は、熱CVD法で形成されている。
この発明の一実施形態では、前記電子供給層は、前記開口部の底部に、当該電子供給層の酸化によって形成された酸化膜を含む。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層の膜厚は1.5nm以上である。
この発明の一実施形態では、前記パッシベーション膜は、前記電子走行層を成膜するための成膜装置内で形成されている。
この発明の一実施形態では、前記パッシベーション膜上において、前記ゲート電極の近傍に配置され、前記ソース電極に電気的に接続されたソースフィールドプレートをさらに含む。
【0018】
この発明の一実施形態では、前記第2の窒化物半導体装置における前記フィールドプレートが、前記パッシベーション膜上において、前記ゲート電極の近傍に配置され、前記ソース電極に電気的に接続されたソースフィールドプレートである。
この発明による窒化物半導体装置の製造方法は、GaNからなる電子走行層を形成する工程と、前記電子走行層上に、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0.8≦x≦1.0,0≦x+y≦1)層からなり、前記電子走行層によって引っ張り歪が加えられる電子供給層を形成する工程と、前記電子供給層上に形成され、SiNからなるパッシベーション膜を熱CVD法によって形成する工程と、前記パッシベーション膜上に絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層および前記パッシベーション膜に、前記電子供給層に達するゲート開口部を形成する工程と、前記ゲート開口部の底部に、前記電子供給層を選択的に酸化することにより、酸化膜を形成する工程と、前記ゲート開口部の底部および側部を覆うようにゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート開口部内の前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程と、前記電子供給層上にドレイン電極を形成する工程と、前記ゲート電極に対して前記ドレイン電極とは反対側において、前記電子供給層上にソース電極を形成する工程とを含み、前記パッシベーション膜が10nm以上である。
【0019】
この方法では、電子走行層内に発生する2次元電子ガス濃度を適切に低下させることができる窒化物半導体装置が得られる。
この発明の一実施形態では、前記絶縁層の形成に先立って、前記パッシベーション膜上にプレート膜を形成する工程を含み、前記ゲート開口部を形成する工程は、前記プレート膜の少なくとも一部に対向する領域を含むエッチング領域から前記絶縁層および前記プレート膜をエッチングして第1開口部を形成する工程と、前記第1開口部の底部における前記パッシベーション膜を選択的に除去することにより、前記第1開口部に連通する第2開口部とを形成する工程とを含み、前記ドレイン電極を形成する工程は、前記ゲート電極との間に前記プレート膜を挟むように、前記電子供給層上にドレイン電極を形成する工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための断面図である。
窒化物半導体装置1は、基板2と、基板2の表面に形成されたバッファ層3と、バッファ層3上にエピタキシャル成長された電子走行層4と、電子走行層4上にエピタキシャル成長された電子供給層5とを含む。窒化物半導体装置1は、電子供給層5上に配置された、ソース電極6、ゲート電極7、ドレイン電極8、フローティングプレート9およびソースフィールドプレート10をさらに含む。フローティングプレート9は、ソース電極6とゲート電極7との間に配置されている。ソースフィールドプレート10は、ゲート電極7とドレイン電極8との間に配置されている。
【0022】
基板2は、たとえば、シリコン基板であってもよい。バッファ層3は、たとえば、AlNの単膜から構成されている。バッファ層3は、基板2の表面に接するAlN膜からなる第1バッファ層と、この第1バッファ層の表面(基板2とは反対側の表面)に積層されたAlGaN膜からなる第2バッファ層から構成されていてもよい。
電子走行層4および電子供給層5は、互いにAl組成の異なる窒化物半導体からなる。この実施形態では、電子走行層4は、GaN層からなり、その厚さは0.1μm〜3.0μm程度である。電子供給層5は、電子走行層4よりもAl組成の高い窒化物半導体からなっている。この実施形態では、電子供給層5は、AlN層からなり、その厚さは1.5nm〜7nm程度である。電子供給層5の膜厚は1.5nm以上であることが好ましい。電子供給層5は、AlN層に限らず、Al
xIn
yGa
1−x−yN(0.8≦x≦1.0,0≦x+y≦1)層から構成されていればよい。
【0023】
このように電子走行層4と電子供給層5とは、Al組成の異なる窒化物半導体からなっており、それらの間には格子不整合が生じている。具体的には、電子供給層5を構成しているAlNの格子定数は、電子走行層4を構成しているGaNの格子定数よりも小さい。このため、電子供給層5には、成長面に平行な方向に引っ張り歪が生じている。そして、電子走行層4および電子供給層5の自発分極ならびにそれらの間の格子不整合に起因するピエゾ分極によって、電子走行層4と電子供給層5との界面における電子走行層4の伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも低くなる。これにより、電子走行層4と電子供給層5との界面に近い位置(たとえば界面から数Å程度の距離)には、二次元電子ガス(2DEG)11が広がっている。
【0024】
電子供給層5には、その表面から電子走行層4に至るように、酸化膜12が選択的に形成されている。酸化膜12は、電子供給層5とほぼ等しい膜厚を有している。酸化膜12は、たとえば熱酸化膜である。電子供給層5がAlN層である場合、酸化膜12は、AlON膜からなっていてもよい。
窒化物半導体装置1は、電子供給層5上に形成された、パッシベーション膜13および絶縁層14をさらに含む。パッシベーション膜13は、SiN膜からなる。この実施形態では、パッシベーション膜13は、電子供給層5の酸化保護膜としての機能の他、電子供給層5の分極を弱める機能を有している。パッシベーション膜13の膜厚に電子供給層5の酸化保護膜としての機能のみを持たせる場合には、パッシベーション膜13の膜厚は2nm〜3nmで足りる。しかしながら、この実施形態のように、パッシベーション膜13に電子供給層5の分極を弱める機能を持たせるためには、パッシベーション膜13の膜厚は、10nm以上であることが好ましい。この実施形態では、パッシベーション膜13の膜厚は、10nm〜100nm程度である。
【0025】
絶縁層14は、パッシベーション膜13を覆っており、第1層15および第1層15上の第2層16を含む。たとえば、第1層15および第2層16は、共にSiO
2膜からなっていてもよい。また、絶縁層14は、1.5μm〜2μmの厚さを有していてもよい。個別には、第1層15が500nm〜1000nmの厚さを有し、第2層16が500nm〜1000nmの厚さを有していてもよい。
【0026】
第1層15およびパッシベーション膜13には、電子供給層5(酸化膜12)に達するゲート開口部17が形成されている。ゲート開口部17は、第1層15に形成された第1開口部17aと、パッシベーション膜13に形成され、第1開口部17aに連通する第2開口部17bとを含む。第1ゲート開口部17の底部には、酸化膜12が露出している。ゲート開口部17の底部および側部を覆うようにゲート絶縁膜18が形成されている。ゲート絶縁膜18は、ゲート開口部17内に加えて、第1層15と第2層16との間にも形成されている。たとえば、ゲート絶縁膜18は、構成元素としてSi、AlおよびHfからなる群から選択される少なくとも一種の材料膜からなっていてもよい。具体的には、ゲート絶縁膜18は、SiN、SiO
2、SiON、Al
2O
3、AlN、AlON、HfSiOおよびHfO
2等からなる群から選択される少なくとも一種の材料膜からなっていてもよい。これらのうち、好ましくは、Al
2O
3膜が挙げられる。また、ゲート絶縁膜18は、10nm〜100nmの厚さを有していてもよい。
【0027】
ゲート開口部17内にはゲート電極7が埋め込まれている。この実施形態では、ゲート電極7は、ゲート開口部17の周縁でゲート絶縁膜18上に形成されたオーバーラップ部7aを含んでいる。たとえば、ゲート電極7は、Mo、Ni等の金属電極からなっていてもよいし、ドープトポリシリコン等の半導体電極からなっていてもよい。ゲート長(ゲート電極7の幅)は、1nm以下である。
【0028】
フローティングプレート9およびソースフィールドプレート10は、ゲート開口部17の側部を部分的に形成するように、ゲート電極7の側方に配置されている。具体的には、フローティングプレート9およびソースフィールドプレート10は、ゲート開口部17の側部の下側で露出するように、パッシベーション膜13上に形成されている。つまり、ゲート開口部17の側部は、下側がフローティングプレート9およびソースフィールドプレート10で形成され、上側が絶縁層14(第1層15)で形成されることによって、導電層/絶縁層の積層界面を有している。ソースフィールドプレート10は、ソース電極6に電気的に接続されている。ソースフィールドプレート10は、よく知られているように、ゲート電極7の端部への電界集中を緩和するために設けられている。
【0029】
フローティングプレート9およびソースフィールドプレート10に接するように、第1開口部17aの側部に絶縁性のサイドウォール19が形成されている。つまり、サイドウォール19は、第1開口部17aの側部とゲート絶縁膜18との間に配置されている。たとえば、サイドウォール19は、SiO
2、SiNおよびSiONからなる群から選択される少なくとも一種の材料膜からなっていてもよい。これらのうち、好ましくは、SiO
2膜が挙げられる。また、サイドウォール19は、10nm〜200nmの厚さを有していてもよい。
【0030】
フローティングプレート9およびソースフィールドプレート10は、サイドウォール19およびゲート絶縁膜18によって、ゲート電極7から絶縁されている。フローティングプレート9およびソースフィールドプレート10は、Mo膜からなっていてもよく、その厚さは、10nm〜200nmであってもよい。
絶縁層14およびパッシベーション膜13には、電子供給層5に達する、ソースコンタクトホール20およびドレインコンタクトホール21が形成されている。ソースコンタクトホール20およびドレインコンタクトホール21は、ゲート開口部17から横方向に離れた位置に形成されている。ソースコンタクトホール20およびドレインコンタクトホール21には、それぞれ、ソース電極6およびドレイン電極8が埋め込まれている。ソース電極6およびドレイン電極8は、それぞれ、ソースコンタクトホール20およびドレインコンタクトホール21内で、電子供給層5に電気的に接続されている。
【0031】
この窒化物半導体装置1では、電子走行層4上にAl組成の異なる電子供給層5が形成されてヘテロ接合が形成されている。これにより、電子走行層4と電子供給層5との界面付近の電子走行層4内に二次元電子ガス11が形成され、この二次元電子ガス11をチャネルとして利用したHEMTが形成されている。ゲート電極7は、酸化膜12およびゲート絶縁膜18の積層膜を挟んで電子走行層4に対向しており、ゲート電極7の直下には、電子供給層5は存在しない。したがって、ゲート電極7の直下では、電子供給層5と電子走行層4との格子不整合による分極に起因する二次元電子ガス11が形成されない。よって、ゲート電極7にバイアスを印加していないとき(ゼロバイアス時)には、二次元電子ガス11によるチャネルはゲート電極7の直下で遮断されている。こうして、ノーマリーオフ型のHEMTが実現されている。ゲート電極7に適切なオン電圧(たとえば5V)を印加すると、ゲート電極7の直下の電子走行層4内にチャネルが誘起され、ゲート電極7の両側の二次元電子ガス11が接続される。これにより、ソース−ドレイン間が導通する。
【0032】
使用に際しては、たとえば、ソース電極6とドレイン電極8との間に、ドレイン電極8側が正となる所定の電圧(たとえば200V〜400V)が印加される。その状態で、ゲート電極7に対して、ソース電極6を基準電位(0V)として、オフ電圧(0V)またはオン電圧(5V)が印加される。
酸化膜12と電子走行層4との界面は、電子供給層5と電子走行層4との界面に連続していて、ゲート電極7の直下における電子走行層4の界面の状態は、電子供給層5と電子走行層4との界面の状態と同等である。そのため、ゲート電極7の直下の電子走行層4における電子移動度は高い状態に保持されている。こうして、この実施形態は、ノーマリーオフ型のHEMT構造を有する窒化物半導体装置を提供する。
【0033】
図2A〜
図2Mは、前述の窒化物半導体装置1の製造工程の一例を説明するための断面図であり、製造工程における複数の段階における断面構造が示されている。
まず、
図2Aに示すように、基板2上に、バッファ層3および電子走行層4が順にエピタキシャル成長される。さらに、電子走行層4上に電子供給層5がエピタキシャル成長される。
【0034】
次に、
図2Bに示すように、電子供給層5上の全面を覆うように、たとえば、熱CVD法(熱化学的気相成長法)によって、パッシベーション膜13が形成される。この実施形態では、パッシベーション膜13は、バッファ層3、電子走行層4および電子供給層5が成膜された成膜装置内で成膜される。
次に、
図2Cに示すように、スパッタ法、蒸着法等によって、パッシベーション膜13上にプレート膜31が形成される。そして、
図2Dに示すように、たとえば、ドライエッチングによって、プレート膜31が選択的に除去される。これにより、ソース電極6の形成領域とドレイン電極8の形成領域との間に、プレート膜31が形成される。
【0035】
次に、
図2Eに示すように、電子供給層5上の全面を覆うように、たとえば、CVD法(化学的気相成長法)によって、絶縁層14の第1層15が形成される。これにより、プレート膜31は、第1層15内に埋め込まれる。
次に、
図2Fに示すように、プレート膜31に対向する領域を含むエッチング領域から第1層15およびプレート膜31をエッチングすることによって、第1開口部17a(ゲート開口部17)が形成される。これにより、プレート膜31は、第1開口部17aに対してソース側のフローティングプレート9と、第1開口部17aに対してドレイン側のソースフィールドプレート10とに分離される。したがって、フローティングプレート9およびソースフィールドプレート10は、この段階では、第1開口部17a(ゲート開口部17)の側部に露出することになる。
【0036】
次に、
図2Gに示すように、電子供給層5上の全面を覆うように、たとえば、CVD法(化学的気相成長法)によって、サイドウォール19を形成するための絶縁膜32が形成される。絶縁膜32を形成する工程は、第1層15(絶縁層14)に接する下層膜33を形成する工程と、絶縁膜32の最表面を形成する上層膜34を形成する工程とを含む。たとえば、下層膜33は、SiO
2膜からなっていてもよく、上層膜34は、Al
2O
3膜からなっていてもよい。第1層15(絶縁層14)および下層膜33が共にSiO
2膜である場合、第1層15に対する下層膜33の密着性を高めることができる。そのため、後の工程において、サイドウォール19の膜剥がれを防止することができる。
【0037】
次に、
図2Hに示すように、たとえば、エッチバックによって、絶縁膜32の第1層15上の部分が選択的に除去され、第1開口部17aの側部上に絶縁膜32が残る。上層膜34としてAl
2O
3膜を採用していると、エッチバック後に、エッチングされ難いAl
2O
3膜の一部が第1開口部17aから上方への突出部35として残ることがある。
次に、
図2Iに示すように、たとえば、ドライエッチングによって、第1開口部17aの底部におけるパッシベーション膜13が選択的に除去される。これにより、パッシベーション膜13に、第1開口部17aに連通する第2開口部17bが形成される。つまり、第1開口部17aと第2開口部17bとを含むゲート開口部17が形成される。これにより、ゲート開口部17の底部に電子供給層5が露出する。パッシベーション膜13がSiN膜であり、上層膜34がAl
2O
3膜である場合、パッシベーション膜13用のエッチャント(たとえば、CF
4ガス等)に対して上層膜34のエッチング選択比を小さくすることができる。したがって、パッシベーション膜13をエッチングする際に、下層膜33を上層膜34で保護できるので、下層膜33(サイドウォール19)がパッシベーション膜13と一緒にエッチングされて薄くなることを抑制することができる。そのため、パッシベーション膜13のエッチング後においても、設計値に近い厚さを有するサイドウォール19を維持することができる。
【0038】
次に、
図2Jに示すように、たとえば、ドライエッチングによって、サイドウォール19の表面部が選択的に除去される。この実施形態では、最表面を形成する上層膜34が選択的に除去されることによって、下層膜33がサイドウォール19として残ることとなる。上層膜34がAl
2O
3膜である場合、たとえば、BCl
3ガスがエッチャントとして使用されてもよい。その後、電子供給層5のゲート開口部17に露出した部分が選択的に酸化されることによって、電子供給層5の一部が酸化膜12となる。
【0039】
次に、
図2Kに示すように、電子供給層5上の全面を覆うように、たとえば、CVD法(化学的気相成長法)によって、ゲート絶縁膜18が形成され、さらにゲート絶縁膜18の内側にゲート電極7が埋め込まれる。前述したように、この実施形態では、ゲート電極7は、ゲート開口部17の周縁でゲート絶縁膜18上に形成されたオーバーラップ部7aを含む。ゲート電極7の形成後、電子供給層5上の全面を覆うように、たとえば、CVD法(化学的気相成長法)によって、絶縁層14の第2層16が形成される。
【0040】
次に、
図2Lに示すように、ソース電極6の形成領域およびドレイン電極8の形成領域において、第2層16、ゲート絶縁膜18および第1層15が、たとえば、ドライエッチングによって、選択的に除去される。これにより、ソースコンタクトホール20およびドレインコンタクトホール21が同時に形成される。
次に、
図2Mに示すように、電子供給層5上の全面を覆うように、たとえば、スパッタ法、蒸着法等によって、絶縁層14上に電極膜が形成され、この電極膜をパターニングすることによって、ソース電極6およびドレイン電極8が形成される。以上の工程を経て、
図1に示す窒化物半導体装置1が得られる。
【0041】
この窒化物半導体装置1では、電子走行層4がGaN層からなり、電子供給層5がAlN層からなる。電子供給層5を構成しているAlNの格子定数は、電子走行層4を構成しているGaNの格子定数よりも小さい。このため、電子供給層5には、電子走行層4によって、成長面に平行な方向に引っ張り歪が加えられている。電子供給層5に加えられている引っ張り歪が大きくなるほど、電子供給層5に生じるピエゾ分極が大きくなり、電子走行層4内に発生する2次元電子ガス濃度は高くなる。
【0042】
この実施形態では、電子供給層5としてAlN層が用いられているため、電子供給層5として、たとえば、Al
0.25Ga
0.75N層が用いられる場合に比べて、電子供給層5に加えられる引っ張り歪は大きくなる。このため、電子走行層4内に発生する2次元電子ガス濃度が過度に高くなるおそれがある。電子走行層4内に発生する2次元電子ガス濃度が過度に高くなると、窒化物半導体装置1の耐圧が低下する。
【0043】
そこで、この実施形態では、電子供給層5に生じるピエゾ分極を小さくするために、電子供給層5上に、SiN膜からなり、膜厚が10nm以上のパッシベーション膜13が形成されている。AlNからなる電子供給層5は、電子走行層4を構成するGaNの格子定数に合わせて成長する。電子走行層4を構成するGaNとパッシベーション膜13を構成するSiNの熱膨張係数はほぼ同じであるが、SiNの成膜温度はGaNの成膜温度よりも高い。具体的には、GaNの成膜温度が1000℃程度にあるのに対し、SiNの成膜温度は1150℃程度である。このため、パッシベーション膜13の成膜後に室温に戻したときに、パッシベーション膜13を構成するSiNは、電子走行層4を構成するGaNよりも収縮する。これにより、パッシベーション膜13は、電子供給層5および電子走行層4に圧縮応力を加えることになる。この結果、電子供給層5に生じるピエゾ分極が小さくなるから、電子走行層4内に発生する2次元電子ガス濃度を適切に低下させることができる。
【0044】
図3は、ゲート電極直下以外の領域におけるエネルギー分布を示すエネルギーバンド図である。
図3において、GaNは電子走行層4を示し、AlGaN(AlGaNの他、AlNを含む)は電子供給層5を示している。
図3において、EはAlGaNの内部電界を示している。
ゲート電極7の直下以外の領域においては、
図3に示すように、電子走行層4と電子供給層5との界面における電子走行層4の伝導帯のエネルギーレベルE
Cはフェルミ準位E
Fよりも低くなり、電子走行層4内に二次元電子ガスが発生する。
【0045】
この場合、表面ドナー順位E
DDは次式(1)で表されるので、シートキャリア密度(二次元電子ガス密度N
Sは次式(2)で表される。
【0047】
前記式(1)における各符号の定義は次の通りである。
q:素電荷量
N
S:シートキャリア密度(二次元電子ガス密度)
E
DD:表面ドナー順位
ΔE
C:AlNとGaNの伝導帯エネルギー差
d:AlGaNの膜厚
ε
0:真空の誘電率
ε
AlGaN:AlGaNの比誘電率
ε
GaN:GaNの比誘電率
N
T:GaNの深いアクセプタ密度
E
DA:GaNの深いアクセプタ準位
N
D:GaNのドナー密度
W:AlGaNの分極によってGaN中の深いアクセプタが正孔放出する幅
P:AlGaNとGaNの分極量の差(AlGaN/GaNの界面での総分極量)
P=P
sp(AlGaN)+P
pz(AlGaN)−P
sp(GaN)
P
sp(AlGaN):AlGaNの自発分極量
P
pz(AlGaN):AlGaNのピエゾ分極量
P
sp(GaN):GaNの自発分極量
前記式(2)から、電子走行層4と電子供給層5の分極量の差Pが大きいほど、かつ電子供給層5の膜厚dが大きいほど、シートキャリア密度N
Sが増加することがわかる。
【0048】
図1の窒化物半導体装置1に対して、電子供給層5としてAl
0.25Ga
0.75Nが用いられ、かつパッシベーション膜13の膜厚が3nmである構成の窒化物半導体装置を参考例ということにする。また、
図1の窒化物半導体装置1に対して、パッシベーション膜13の膜厚が3nmである構成の窒化物半導体装置を比較例ということにする。
図4は、表面ドナー順位E
DDをパラメータとして、参考例のゲート電極直下以外の領域での電子供給層の膜厚に対するシートキャリア密度N
Sの特性を示すグラフである。表面ドナー順位E
DDは、1.3eVから1.9eVまで0.1eVずつ変化させている。AlGaNとGaNの分極量の差Pは、P=2.06×10
−6[C/cm
2]とした。
【0049】
この実施形態では、シートキャリア密度N
Sは、たとえば1.0×10
3[/cm
2]がデバイスを設計する上での理想値であるとする。シートキャリア密度N
Sが理想値を超えると、耐圧が悪くなる。参考例では、シートキャリア密度N
Sが1.0×10
3[/cm
2]近辺の値となる電子供給層の膜厚の範囲は、15nm〜25nmとなる。そして、この範囲においては、電子供給層の膜厚の変化に対するシートキャリア密度の変動は小さい。このため、電子供給層5としてAl
0.25Ga
0.75Nが用いられている参考例においては、電子供給層の膜厚の誤差の許容範囲は大きい。
【0050】
図5は、表面ドナー順位E
DDをパラメータとして、比較例のゲート電極直下以外の領域での電子供給層の膜厚に対するシートキャリア密度N
Sの特性を示すグラフである。表面ドナー順位E
DDは、1.6eVから2.8eVまで0.2eVずつ変化させている。AlNとGaNの分極量の差Pは、P=7.53×10
−6[C/cm
2]とした。また、N
T−N
D=1.0×10
16[/cm
3]とした。また、比較例ではパッシベーション膜13の膜厚は薄いため、パッシベーション膜13によって電子供給層5に加えられる圧縮応力は零であるとした。
【0051】
比較例では、電子供給層5としてAlNが用いられているため、参考例に比べて、電子供給層5の膜厚に対するシートキャリア密度N
Sは大きい。また、比較例では、参考例に比べて、電子供給層5の膜厚に対するシートキャリア密度N
Sの変化率も大きい。比較例では、シートキャリア密度N
Sが1.0×10
3[/cm
2]近辺の値となる電子供給層の膜厚は、たとえば、E
DD=2.4[eV]の場合、1.25nm程度となる。このため、比較例においては、電子供給層5の膜厚を1.25nm前後で制御しなければならない。
【0052】
図6は、表面ドナー順位E
DDをパラメータとして、本実施形態のゲート電極直下以外の領域での電子供給層の膜厚に対するシートキャリア密度N
Sの特性を示すグラフである。表面ドナー順位E
DDは、1.6eVから2.8eVまで0.2eVずつ変化させている。AlNとGaNの分極量の差Pは、P=7.53×10
−6[C/cm
2]とした。また、N
T−N
D=1.0×10
16[/cm
3]とした。
【0053】
本実施形態では、比較例に比べてパッシベーション膜13の膜厚が厚いため、パッシベーション膜13によって電子供給層5に所定以上の圧縮歪が加えられている。このため、比較例に比べて、電子供給層5の膜厚に対するシートキャリア密度N
Sが低減している。本実施形態では、シートキャリア密度N
Sが1.0×10
3[/cm
2]近辺の値となる電子供給層5の膜厚の範囲は、たとえば、E
DD=2.4[eV]の場合、3.2nm程度となる。このため、本実施形態では、電子供給層5の膜厚を3.2nm前後で制御できるので、比較例に比べて膜厚誤差の許容範囲は広くなる。
【0054】
図7は、本実施形態のパッシベーション膜の膜厚に対するシートキャリア密度N
Sの特性を示すグラフである。
図7から、パッシベーション膜13の膜厚が大きくなるほど、シートキャリア密度N
Sが小さくなることがわかる。また、シートキャリア密度N
Sの理想値が1.0×10
3[/cm
2]程度であるとすると、パッシベーション膜13の膜厚が10nm以上であることが好ましいことがわかる。
【0055】
窒化物半導体装置1には、ソース、ゲート、ドレインの各端子間には、静電容量Cgs,Cgd、Cdsが存在する。Cgsはゲート電極7とソース電極6との間の静電容量であり、Cgdはゲート電極7とドレイン電極8との間の静電容量であり、Cdsはドレイン電極8とソース電極6との間の静電容量である。CdsとCgdとの和は、出力容量Cossと呼ばれる。つまり、出力容量Cossは、Coss=Cds+Cgdで表される。本実施形態および比較例のように、ソース電極6に電気的に接続されたソースフィールドプレート10が設けられている場合には、ドレイン・ソース間の容量Cdsが大きくなる。
【0056】
図8は、本実施形態および比較例におけるドレイン電圧V
Dに対する出力容量Cossの特性を示すグラフである。
図8に実線で示す曲線S1は本実施形態の特性を示し、
図8に破線で示す曲線S2は比較例の特性を示している。
ソース電極6を接地し、ゲート電圧(ゲート・ソース間電圧)を零とし、ドレイン電圧V
D(ドレイン・ソース間電圧)を大きくしてくと、ソースフィールドプレート10の直下の二次元電子ガスが減少するため、ドレイン−ソース間の容量Cdsが減少する。このため、出力容量Cossが低下する。電子走行層4内に発生している二次元電子ガス濃度が高い半導体装置ほど、出力容量Cossは減少しにくい。したがって、ドレイン電圧V
Dが0Vのときの出力容量を基準出力容量Cossoとすると、出力容量Cossが基準出力容量Cossoの1/2となるドレイン電圧は、二次元電子ガス濃度が大きい窒化物半導体装置ほど大きな値となる。
【0057】
図8に示すように、本実施形態では、出力容量Cossが基準出力容量Cossoの1/2となるドレイン電圧V
D1は、20V以下となる。一方、比較例では、出力容量Cossが基準出力容量Cossoの1/2となるドレイン電圧V
D2は、20Vよりも大きくなる。
前述の実施形態では、ゲート電極7への電界集中を緩和するためにソースフィールドプレート10が設けられているが、ソースフィールドプレート10の代わりに、ゲート電極と一体的なゲートフィールドプレートを設けてもよい。この場合には、ゲート−ドレイン間の容量Cgdが大きくなる。ドレイン電圧V
D(ドレイン・ソース間電圧)を大きくしてくと、ゲートフィールドプレートの直下の二次元電子ガスが減少するため、ゲート・ドレイン間の容量Cgdが減少する。このため、出力容量Cossが低下する。したがって、ゲートフィールドプレートが設けられている場合におけるドレイン電圧V
Dに対する出力容量Cossの特性は、ソースフィールドプレートが設けられている場合と同様な特性となる。
【0058】
前述の実施形態では、基板2の材料例としてシリコンを例示したが、ほかにも、サファイア基板やGaN基板などの任意の基板材料を適用できる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。