【文献】
Chem. Commun.,2014年 4月 7日,Vol.50,p.5027-5030, S1-11
【文献】
Angew. Chem. Int. Ed.,2011年,Vol.50,p.5075-5080
【文献】
Chem. Commun.,2012年,Vol.48,p.1461-1463
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記大環状ペプチドミメティック分子が更に、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を共有結合によって含む、請求項1に記載の大環状ペプチドミメティック分子。
求核置換に対してC末端カルボン酸基を活性化するLG基が、酸塩化物、酸無水物、アシルアジド、O−アシルイソ尿素、ホスホニウム化合物、活性エステルまたはチオエステルである、請求項9に記載の方法。
求核置換に対してC末端カルボン酸基を活性化するLG基が、酸塩化物、酸無水物、アシルアジド、O−アシルイソ尿素、ホスホニウム化合物、活性エステルまたはチオエステルである、請求項27に記載の方法。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
式(I)の大環状ペプチドミメティック分子を提供する:
【化1】
(式中、
A、C及びDは、それぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸であり、
Bは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ基とカルボキシ基間に少なくとも1つの付加的なメチレン基を含むアミノ酸、二級アミンまたは三級アミンであるアミノ基を含むアミノ酸、エステルによって置換されたカルボキシ基を含むアミノ酸、[−NHN(R
3)C(O)−]、[−NH−L
3−CO−]、[−NH−L
3−SO
2−]または[−NH−L
3−]であり、
Yは、−NH−、−N(R
4)−、−NHN(R
4)−、−NH−O−、−O−または−S−であり、
Zは、−SCH(R
6)−、−CHR
6S−、−C=C−、−N(R
5)CO−、−CON(R
6)−、−C(R
5)=N(R
6)−、−CH(R
5)−NH(R
6)−、−C(R
5)=N−O−、−CH(R
5)−NH−O−、−C(R
5)=N−NH(R
6)−、−CH(R
5)−NH−NH(R
6)−またはトリアゾール基であり、
L
1、L
2及びL
3は、独立して、それぞれが非置換であるか、またはR
7で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基または置換ヘテロ原子を含むアリール基であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基であり、
R
7は、それぞれ独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基、置換アリール
基であり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
zは、0〜10の整数であり、
wは、1〜1000の整数であり、
x+y+zは、少なくとも3であり、
更にここで大環状ペプチドミメティック分子は、アルファヘリックスを含む)。
【0008】
一実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、[Z−L
2−Y]を欠く、対応する非大環状ポリペプチドと比較して増加した安定性を有する。
【0009】
別の実施形態では、末端Dはキャッピング基を含む。
【0010】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子の二次構造は、[Z−L
2−Y]を欠く、対応する非大環状ポリペプチドの二次構造よりも安定である。
【0011】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子の二次構造は、アルファヘリックスに対応する。
【0012】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、[Z−L
2−Y]を欠く、対応する非大環状ポリペプチドと比較して増加したタンパク分解安定性を有する。
【0013】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、[Z−L
2−Y]を欠く、対応する非大環状ポリペプチドと比較して増加した生物活性を有する。
【0014】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、[Z−L
2−Y]を欠く、対応する非大環状ポリペプチドと比較して生細胞の透過能力を有する。
【0015】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、アルファヘリックスは1ターン〜5ターンを含む。
【0016】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]は、1ターン〜5ターンのαヘリックスに及ぶ。
【0017】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、αヘリックスの1ターンにつき約4Å〜約12Åである。
【0018】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]は、約1ターンのアルファヘリックスに及ぶ。
【0019】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、約5個の炭素−炭素結合〜約11個の炭素−炭素結合の長さとほぼ等しい。
【0020】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大員環は、約15原子〜21原子の環を含む。
【0021】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]は、約2ターンのアルファヘリックスに及ぶ。
【0022】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、約7個の炭素−炭素結合〜約17個の炭素−炭素結合の長さとほぼ等しい。
【0023】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大員環は、約28原子〜38原子の環を含む。
【0024】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]は、約3ターンのアルファヘリックスに及ぶ。
【0025】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、約12個の炭素−炭素結合〜約22個の炭素−炭素結合の長さとほぼ等しい。
【0026】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大員環は、約43原子〜53原子の環を含む。
【0027】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]は、約4ターンのアルファヘリックスに及ぶ。
【0028】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、約17個の炭素−炭素結合〜約28個の炭素−炭素結合の長さとほぼ等しい。
【0029】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大員環は、約59原子〜70原子の環を含む。
【0030】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]は、約5ターンのアルファヘリックスに及ぶ。
【0031】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、約22個の炭素−炭素結合〜約35個の炭素−炭素結合の長さとほぼ等しい。
【0032】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大員環は、約75原子〜88原子の環を含む。
【0033】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、R
1はメチルである。
【0034】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は更に、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を含む。
【0035】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大員環形成リンカー[−L
1−Z−L
2−Y−]は、
【化2】
及び
【化3】
からなる大員環形成リンカーの群から選択され、
式中、
【化4】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、それぞれ独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3である。
【0036】
大環状ペプチドミメティック分子の合成方法も提供され、この方法には、式(IV)の前駆体ペプチドミメティック分子:
【化5】
を式(V):
Q
2−L
2−Y−H (V)
の化合物と接触させることを含む:
(式中、
A、C及びDは、それぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸であり、
Bは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ基とカルボキシ基間に少なくとも1つの付加的なメチレン基を含むアミノ酸、二級アミンまたは三級アミンであるアミノ基を含むアミノ酸、エステルによって置換されたカルボキシ基を含むアミノ酸、[−NHN(R
3)C(O)−]、[−NH−L
3−CO−]、[−NH−L
3−SO
2−]または[−NH−L
3−]であり、
Yは、−NH−、−N(R
4)−、−NHN(R
4)−、−O−NH−、−O−または−S−であり、
L
1、L
2及びL
3は、独立して、それぞれが非置換であるか、またはR
7で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基、置換ヘテロ原子を含むアリール基であり、
Q
1は、スルフヒドリル(−SH)基、アミノ(−NHR
5)基、アルケニル(−C=CH
2)基、アルキニル(−C≡CH)基、アジド(−N
3)基、ケト(−C(O)R
5)基及びカルボキシ(−C(O)OH)基からなる基から選択され、
Q
2は、XがF、Cl、BrまたはIである−CH(R
6)X、アミノ(−NHR
6)基、オキシアミノ(−ONH
2)基、ヒドラジノ(−NR
6NH
2)基、アルケニル(−C=CH
2)基、アルキニル(−C≡CH)基、アジド(−N
3)基、ケト(−C(O)R
6)基及びカルボキシ(−COOH)基からなる群から選択され、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基であり、
R
7は、それぞれ独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基、置換アリール基であり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
zは、0〜10の整数であり、
wは、1〜1000の整数であり、
x+y+zは、少なくとも3であり、
(LG)は、末端カルボン酸のカルボニル基を求核置換に対して活性化する基である)。ここでの接触の結果、リンカー部分を介して、式(IV)の化合物の側鎖基L
1とC末端カルボキシ基との間に共有結合が形成され、更に大環状ペプチドミメティック分子はαヘリックスを構成する。
【0037】
本方法の一実施形態では、求核置換に対してC末端カルボン酸基を活性化するLG基は、酸塩化物、酸無水物、アシルアジド、O−アシルイソ尿素、ホスホニウム化合物、活性エステルまたはチオエステルである。
【0038】
本方法の別の実施形態では、末端Dはキャッピング基を含む。
【0039】
別の実施形態では、方法は、接触の前に細胞内で前駆体ペプチドミメティック分子を発現することを含む。
【0040】
本方法の別の実施形態では、前駆体ペプチドミメティック分子のLG基はインテインである。
【0041】
本方法の別の実施形態では、方法は溶液中で実施される。
【0042】
本方法の別の実施形態では、方法は固体支持体上で実施される。
【0043】
別の実施形態では、方法は、大環状ペプチドミメティック分子のライブラリを合成することを含む。
【0044】
本方法の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、請求項1に記載の式(I)の化合物である。
【0045】
本方法の別の実施形態では、前駆体ペプチドミメティック分子は、
【化6】
からなる群から選択されるアミノ酸類似体を含み、式(V)の大員環形成リンカー試薬は、適合性のある大員環を形成するリンカー試薬からなる群から選択され、ここで、選択されたアミノ酸類似体及び大員環形成リンカー試薬において、
【化7】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、それぞれ独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R’は、−Hまたは−CH
3であり、
R″は、−H、−CH
3または−OHであり、Xは、−Cl、−Br、−I、−OTs、−OMsまたは−OTfである。
【0046】
提供される大環状ペプチドミメティック分子は、対象のp53/HDM2/HDMX関連疾患の治療に使用するためのものでもあり、この大環状ペプチドミメティックは、式(VII)の構造を有し、
【化8】
式中、
A、C及びDはそれぞれ独立して、天然または非天然アミノ酸であり、末端Dはキャッピング基を含む場合があり、
Bは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ基とカルボキシ基間に少なくとも1つの付加的なメチレン基を含むアミノ酸、二級アミンまたは三級アミンであるアミノ基を含むアミノ酸、エステルによって置換されたカルボキシ基を含むアミノ酸、[−NHN(R
3)C(O)−]、[−NH−L
3−CO−]、[−NH−L
3−SO
2−]または[−NH−L
3−]であり、
Yは、−NH−、−N(R
4)−、−NHN(R
4)−、−NH−O−、−O−または−S−であり、
Zは、−SCHR
6−、−CHR
6S−、−C=C−、−N(R
5)CO−、−CON(R
6)−、−C(R
5)=N(R
6)−、−CH(R
5)−NH(R
6)−、−C(R
5)=N−O−、−CH(R
5)−NH−O−、−C(R
5)=N−NH(R
6)−、−CH(R
5)−NH−NH(R
6)−またはトリアゾール基であり、
L
1、L
2及びL
3は、独立して、それぞれが非置換であるか、またはR
7で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基、置換ヘテロ原子を含むアリール基であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基であり、
R
7は、それぞれ独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基及び置換アリール基であり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
zは、0〜10の整数であり、
wは、1〜1000の整数であり、
x+y+zは、少なくとも3であり、
更に大環状ペプチドミメティック分子は、配列番号1〜37のアミノ酸配列からなる群か
ら選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0047】
大環状ペプチドミメティック分子の一実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列が、配列番号1〜38のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも80%、90%または95%同一である。
【0048】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列は、配列番号1〜38のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列である。
【0049】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、少なくとも1つのα,α−二置換アミノ酸を含む。
【0050】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、少なくとも1つのN−メチル化アミノ酸を含む。
【0051】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を含む。
【0052】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、大員環形成リンカー[−L
1−Z−L
2−Y−]は、
【化9】
及び
【化10】
からなる大員環形成リンカーの群から選択され、
式中、
【化11】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、それぞれ独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3である。
【0053】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列は、配列番号1〜37に対応するポリペプチド配列と少なくとも約50%同一であり、側鎖−C末端の大環状化は、
【化12】
からなるアミノ酸類似体の群から選択されるアミノ酸類似体によって、及び
【化13】
からなる大員環形成リンカー試薬の群から選択される適合性のある大員環形成リンカー試
薬によって媒介され、
ここで、選択されたアミノ酸類似体及び大員環形成リンカー試薬において、
【化14】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3であり、
R″は、−H、−CH
3または−OHであり、
Xは、−Cl、−Br、−I、−OTs、−OMsまたは−OTfである。
【0054】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、p53/HDM2/HDMX関連疾患は、癌または新生物疾患である。
【0055】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、p53/HDM2/HDMX関連疾患は、肉腫、胃癌、食道癌、直腸癌、膵癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、脳腫瘍、癌腫、子宮頸癌、精巣癌、肺癌、膀胱癌、白血病またはリンパ腫である。
【0056】
大環状ペプチドミメティック分子の別の実施形態では、p53/HDM2/HDMX関連疾患は、炎症性、神経変性または自己免疫性疾患である。
【0057】
対象のp53/HDM2/HDMX関連疾患を治療(または改善)するための方法も提供し、該方法は
式(VII):
【化15】
の構造を有する大環状ペプチドミメティック分子を治療すべき対象(p53/HDM2/HDMX関連疾患に罹患している)に投与することを含み、
式中、
A、C及びDはそれぞれ独立して、天然または非天然アミノ酸であり、末端Dはキャッピング基を含む場合があり、
Bは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ基とカルボキシ基間に少なくとも1つの付加的なメチレン基を含むアミノ酸、二級アミンまたは三級アミンであるアミノ基を含むアミノ酸、エステルによって置換されたカルボキシ基を含むアミノ酸、[−NHN(R
3)
C(O)−]、[−NH−L
3−CO−]、[−NH−L
3−SO
2−]または[−NH−L
3−]であり、
Yは、−NH−、−N(R
4)−、−NHN(R
4)−、−NH−O−、−O−または−S−であり、
Zは、−SCHR
6−、−CHR
6S−、−C=C−、−N(R
5)CO−、−CON(R
6)−、−C(R
5)=N(R
6)−、−CH(R
5)−NH(R
6)−、−C(R
5)=N−O−、−CH(R
5)−NH−O−、−C(R
5)=N−NH(R
6)−、−CH(R
5)−NH−NH(R
6)−またはトリアゾール基であり、
L
1、L
2及びL
3は、独立して、それぞれが非置換であるか、またはR
7で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基、置換ヘテロ原子を含むアリール基であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基であり、
R
7は、それぞれ独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基及び置換アリール基であり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
zは、0〜10の整数であり、
wは、1〜1000の整数であり、
x+y+zは、少なくとも3であり、
更に大環状ペプチドミメティック分子は、配列番号1〜37のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列と、少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0058】
本方法の一実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列が、配列番号1〜38のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも80%、90%または95%同一である。
【0059】
本方法の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列は、配列番号1〜38のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列である。
【0060】
本方法の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、少なくとも1つのα,α−二置換アミノ酸を含む。
【0061】
本方法の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、少なくとも1つのN−メチル化アミノ酸を含む。
【0062】
本方法の別の実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を含む。
【0063】
本方法の別の実施形態では、大員環形成リンカー[−L
1−Z−L
2−Y−]は、
【化16】
及び
【化17】
からなる大員環形成リンカーの群から選択され、式中、
【化18】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、それぞれ独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3である。
【0064】
本方法の別の実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列は、配列番号1〜37に対応するポリペプチド配列と少なくとも約50%同一であり、側鎖−C末端の大環状化は、
【化19】
からなるアミノ酸類似体の群から選択されるアミノ酸類似体によって、及び
【化20】
からなる大員環形成リンカー試薬の群から選択される適合性のある大員環形成リンカー試
薬によって媒介され、
ここで、選択されたアミノ酸類似体及び大員環形成リンカー試薬において、
【化21】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3であり、
R″は、−H、−CH
3または−OHであり、
Xは、−Cl、−Br、−I、−OTs、−OMsまたは−OTfである。
【0065】
本方法の別の実施形態では、p53/HDM2/HDMX関連疾患は、癌または腫瘍性疾患である。
【0066】
本方法の別の実施形態では、p53/HDM2/HDMX関連疾患は、肉腫、胃癌、食道癌、直腸癌、膵癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮癌、皮膚癌、脳腫瘍、癌腫、子宮頸癌、精巣癌、肺癌、膀胱癌、白血病またはリンパ腫である。
【0067】
本方法の別の実施形態では、p53/HDM2/HDMX関連疾患は、炎症性、神経変性または自己免疫性疾患である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本開示は、配座安定性、生物活性、代謝安定性及び/または細胞透過性の増加を呈するαヘリックスペプチドミメティックの産生に関する。
【0070】
発明を実施するための形態は、限定目的としてではなく、開示を明確化するために、以下に定めるサブセクションに分類される。
【0072】
本明細書で別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的用語及び科学的用語は、本開示が属する分野の当業者に共通に理解されるものと同じ意味を有している。
【0073】
本明細書で使用される単数形「a」、「and」及び「the」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象物を包含する。
【0074】
用語「複数」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、2以上の指示対象を含む。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「官能基」は、特定の反応条件下で共に化学反応を受け得る隣接する原子団を指す。官能基の例は、多数ある中でも特に、−OH、−NH
2、−SH、−(C=O)−、−N
3、−C≡CHである。
【0076】
本明細書で使用される場合、用語「脂肪族」または「脂肪族基」は、完全に飽和された、若しくは1つ以上の(すなわち、少なくとも1単位)の不飽和単位を含有する、直鎖若しくは分枝鎖のC
1−15炭化水素鎖、または単環式C
3−8炭化水素、または完全に飽和された、若しくは1つ以上の不飽和単位を含有するが、それが芳香族(「シクロアルキル」とも称する)でない二環式C
8−12炭化水素を意味する。例えば、好適な脂肪族基として、直鎖または分枝鎖のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基またはそのハイブリッド、例えば(シクロアルキル)アルキル、(シクロアルケニル)アルキルまたは(シクロアルキニル)アルキルが挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、直鎖状でも分枝状でも環状でも良く、最大15、最大8、または最大5の炭素原子を含むことができる。アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基及びシクロペンチル基を含むが、これらに限定されない。アルケニル基は、プロペニル基、ブテニル基及びペンテニル基を含むが、これらに限定されない。アルキニル基は、プロピニル基、ブチニル基及びペンチニル基を含むが、これらに限定されない。
【0077】
本明細書で使用される場合、用語「アリール」及び「アリール基」は、共に融合される、直接的に結合される、または間接的に結合される(例えば、メチレン部分またはエチレン部分によって結合される)、単一の芳香族環または複数の芳香環を含有する芳香族置換基を指す。アリール基は、5〜24の炭素原子、5〜18の炭素原子または5〜14の炭素原子を含み得る。
【0078】
用語「ヘテロ原子」は、窒素、酸素または硫黄を意味し、窒素及び硫黄の何らかの酸化形態及び任意の塩基性窒素の四級化形態を含む。ヘテロ原子は更に、Se、Si及びPを含む。
【0079】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロアリール」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子と置換されたアリール基を指す。いくつかの実施形態では、ヘテロアリール基は、酸素、硫黄及び窒素原子を含むが、これらに限定されない群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有する、5〜18員、5〜14員、または5〜10員の芳香環系である。ヘテロアリール基は、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、イソインドリル基、インドリジニル基、イミダゾリル基、ピリドニル基、ピリミジル基、ピラジニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、プリニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾフラニル基及びベンゾオキサゾリル基を含むが、これらに限定されない。
【0080】
複素環基は、少なくとも1つのヘテロ原子を含有する単環式系または多環式系であって良く、不飽和であっても、または部分的若しくは完全に飽和されていても良い。したがって、用語「複素環式」には、上記のようなヘテロアリール基に加え、非芳香族複素環基も含む。いくつかの実施形態では、ヘテロアリール基は、酸素、硫黄及び窒素原子を含むが、これらに限定されない群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有する、3〜18員、3〜14員、または3〜10員の環系である。複素環基は、上記に挙げた具体的なヘテロアリール基に加えて、ピラニル基、ピペリジニル基、ピロリジニル基、ジオキサニル基、ピペラジニル基、マクロサイクロリニル(macrocyleolinyl)基、チオマクロサイクロリニル(thiomacrocyleolinyl)基、マクロサイクロリノスルフォニル(macrocyleolinosulfonyl)基、テトラヒドロイソキノリニ基及びテトラヒドロフラニル基を含むが、これらに限定されない。
【0081】
ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子であり得る。
【0082】
「場合により置換された」は、上記に挙げたいずれかの化学基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアルケニル基、ヘテロアルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、複素環基、トリアゾリル基)において、1つ以上の(すなわち、少なくとも1つの)水素原子が水素以外の原子または化学基で場合により置換されていることを意味する。このような置換基の具体例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ(−OH)基、スルフヒドリル(−SH)基、置換スルフヒドリル基、カルボニル(−CO−)基、カルボキシ(−COOH)基、アミノ(−NH
2)基、ニトロ(−NO
2)基、スルホ(−SO
2−OH)基、シアノ(−C≡N)基、チオシアネート(−S−C≡N)基、ホスホノ(−P(O)OH
2)基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキル基、ヘテロアルケニル基、ヘテロアルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、複素環基、アルキルチオール基、アルキルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールチオール基、アリールオキシ基またはアリールアミノ基が挙げられるが、これらに限定されない。「場合により置換された」が、読点で区切られた一連の群を修飾する場合(例えば、「場合により置換されたAA、BBまたはCC」、または「〜で、場合により置換されたAA、BBまたはCC」)、群のそれぞれ(例えば、AA、BBまたはCC)が場合により置換されることを意味する。
【0083】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ原子を含む脂肪族」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子、例えば、酸素、窒素、硫黄、セレニウム、リンまたはケイ素、通常は酸素、窒素または硫黄で置換される脂肪族部分を指す。
【0084】
本明細書で使用される場合、用語「アルキル」及び「アルキル基」は、通常1〜24の炭素原子または1〜12の炭素原子を含む直鎖状、分枝状または環状の飽和炭化水素、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、オクチル、デシルなどを指す。
【0085】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ原子を含むアルキル」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子、例えば、酸素、窒素、硫黄、リンまたはケイ素、通常は酸素、窒素または硫黄で置換されるアルキル部分を指す。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「アルケニル」及び「アルケニル基」は、2〜24の炭素原子または2〜12の炭素原子からなり、少なくとも1つの二重結合を含む直鎖状、分枝状または環状の炭化水素基、例えばエテニル、n−プロペニル、イソプロペニル、n−ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニルなどを指す。
【0087】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ原子を含むアルケニル」は、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されているアルケニル部分を指す。
【0088】
本明細書で使用される場合、用語「アルキニル」及び「アルキニル基」は、2〜24の炭素原子または2〜12の炭素原子からなり、少なくとも1つの三重結合を含む直鎖状、分枝状または環状の炭化水素基、例えばエチニル、n−プロピニルなどを指す。
【0089】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ原子を含むアルキニル」は、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されているアルキニル部分を指す。
【0090】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ原子を含むアリール」は、少なくとも一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されているアリール部分を指す。
【0091】
本明細書で使用される場合、用語「アルコキシ」及び「アルコキシ基」は、単一の末端エーテル結合によって結合された、脂肪族基またはヘテロ原子を含む脂肪族基を指す。いくつかの実施形態では、アリールアルコキシ基は1〜24の炭素原子を含み、他の実施例では、アルコキシ基は1〜14の炭素原子を含む。
【0092】
本明細書で使用される場合、用語「アリールオキシ」及び「アリールオキシ基」は、単一の末端エーテル結合によって結合された、アリール基またはヘテロ原子を含むアリール基を指す。いくつかの実施形態では、アリールオキシ基は5〜24の炭素原子を含み、他の実施例では、アリールオキシ基は5〜14の炭素原子を含む。
【0093】
用語「置換基」は、隣接する原子団を指す。「置換基」の例としては、アルコキシ、アリールオキシ、アルキル、ヘテロ原子を含むアルキル、アルケニル、ヘテロ原子を含むアルケニル、アルキニル、ヘテロ原子を含むアルキニル、アリール、ヘテロ原子を含むアリール、アルコキシ、ヘテロ原子を含むアルコキシ、アリールオキシ、ヘテロ原子を含むアリールオキシ、ハロ、ヒドロキシ(−OH)、スルフヒドリル(−SH)、置換スルフヒドリル、カルボニル(−CO−)、チオカルボニル(−CS−)、カルボキシ(−COOH)、アミノ(−NH
2)、置換アミノ、ニトロ(−NO
2)、ニトロソ(−NO)、スルホ(−SO
2−OH)、シアノ(−C≡N)、シアナト(−O−C≡N)、チオシアナト(−S−C≡N)、ホルミル(−CO−H)、チオホルミル(−CS−H)、ホスホノ(−P(O)OH
2)、置換ホスホノ及びホスホ(−PO
2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
本明細書中で使用される場合、用語「大員環」は、少なくとも9つの共有結合原子によって形成される環またはサイクルを含む化学構造を有する分子を指す。
【0095】
本明細書で使用される場合、用語「環状」及び「大環状」は、環を形成する構成原子を有することを指す。したがって、「大環状ペプチドを含む分子」は、分子に含まれる原子によって形成される1つ以上の環(すなわち、少なくとも1つの環)を含む、ペプチドを
含む分子である。本明細書中で使用される場合、「環化」または「大環状化」は、それによって環状分子が形成される、または形成されるべく作製されるプロセスまたは反応を指す。本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド主鎖」は、天然タンパク質の主鎖に相当する一連の原子を指す。本明細書で使用される場合、「非ペプチド主鎖」は、ペプチド主鎖に相当しない一連の原子を指す。
【0096】
本明細書で使用される場合、用語「大環状ペプチドミメティック」及び「大環状ペプチドミメティック分子」は、複数のペプチド結合及び少なくとも1つの大員環形成リンカーによって連結された複数のアミノ酸残基を含む化合物を指し、大員環形成リンカーは、1つの天然に存在するアミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基若しくはアミノ酸類似体残基の炭素と、別の天然に存在するアミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基若しくはアミノ酸類似体残基のC末端カルボニル基(−C(O)−)との間で大員環を形成する。大環状ペプチドミメティックは、1つ以上のアミノ酸残基間及び/またはアミノ酸類似体残基間に1つ以上の(すなわち、少なくとも1つの)非ペプチド結合を含む場合もあれば、大員環を形成するものに加えて、1つ以上の天然に存在しないアミノ酸残基またはアミノ酸類似体残基を含む場合もある。
【0097】
用語「α−アミノ酸」または単に「アミノ酸」は、α炭素と称される炭素と結合したアミノ基及びカルボキシ基の両方を含む分子を指す。好適なアミノ酸としては、天然に存在するアミノ酸のD型及びL型異性体の両方、ならびに有機合成または他の代謝経路によって調製される天然に存在しないアミノ酸が挙げられるが、これらに限定されない。文脈上、別途具体的な指示のない限り、本発明で使用される場合、用語「アミノ酸」は、アミノ酸類似体を含むことを意図する。
【0098】
用語「天然に存在するアミノ酸」は、自然合成されたペプチドに一般に見られ、1文字の略称、A、R、N、C、D、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y及びVによって知られている、20のアミノ酸のうちいずれか1つを指す。
【0099】
用語「アミノ酸類似体」は、アミノ酸と構造的に類似し、ペプチドまたは大環状ペプチドミメティック分子の形成時にアミノ酸と置換され得る分子を指す。アミノ酸類似体には、アミノ基とカルボキシ基との間に1つ以上の(すなわち、少なくとも1つの)追加のメチレン基を包含すること(例えばα−アミノβ−カルボキシ酸)を除いて、または類似した反応性基によってアミノ基若しくはカルボキシ基が置換されること(例えば第二級若しくは第三級アミンによる第一級アミンの置換またはエステルによるカルボキシ基の置換)を除いて、本明細書において規定されるアミノ酸と構造的に同一である化合物を含む。
【0100】
用語「キャッピング基」は、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるポリペプチド鎖のアミノ末端に存在する化学的部分を指す。アミノ末端のキャッピング基には、非修飾アミン(すなわち、−NH
2)または置換基を有するアミンが含まれる。例えば、アミノ末端をアシル基で置換して、N末端においてカルボキサミドを生成することができる。多様な置換基には、C
1〜C
6カルボニル、C
7〜C
30カルボニル、及びPEG化したカルバメートを含む、置換アシル基が含まれるが、これらに限定されない。N末端に対する代表的なキャッピング基には、アセチル基、プロピオニル基、tert−ブチルカルボニル基、アダマンチルカルボニル基、1−ナフチルメチルカルボニル基、イソニコチニルカルボニル基、デカノイルカルボニル基、パルミチルカルボニル基またはポリエチレングリコール−カルボニル基を含むが、これらに限定されない。
【0101】
本明細書で大員環または大員環形成リンカーと関連して使用される場合、用語「員」は、大員環を形成している、または形成することができる原子を指し、置換基または側鎖原子を除外する。類推から、シクロデカン、1,2−ジフルオロ−デカン及び1,3−ジメ
チルシクロデカンは、水素若しくはフルオロ置換基またはメチル側鎖が大員環の形成に関与していないため、全て10員の大員環と見なされる。
【0102】
用語「アミノ酸側鎖」は、アミノ酸中のα炭素に結合した部分を指す。例えば、アラニンの場合のアミノ酸側鎖はメチルであり、フェニルアラニンの場合のアミノ酸側鎖はフェニルメチルであり、システインの場合のアミノ酸側鎖はチオメチルであり、アスパラギン酸の場合のアミノ酸側鎖はカルボキシメチルであり、チロシンの場合のアミノ酸側鎖は4−ヒドロキシフェニルメチルであるなどである。他の天然に存在しないアミノ酸側鎖には、例えば自然に発生するもの(例えば、アミノ酸代謝産物)または合成により作製されるもの(例えば、α,α二置換アミノ酸)も含まれる。
【0103】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」及び「ポリペプチド」は、共有結合(例えば、アミド結合)により連結された2個以上の天然に存在するまたは存在しないアミノ酸からなる何らかの鎖を指す。本明細書で記載されるポリペプチドには、完全長タンパク質(例えば、完全にプロセシングされたタンパク質)ならびにより短いアミノ酸配列(例えば、天然に存在するタンパク質の断片または合成ポリペプチド断片)が含まれる。
【0104】
本明細書で使用される場合、用語「安定性」は、円二色性、NMRまたは別の生物物理学的な測定法により測定した際の、本明細書で開示するペプチドまたは大環状ペプチドミメティック分子による溶液中での規定の二次構造の維持、またはインビトロ若しくはインビボでのタンパク質分解性に対する耐性を指す。本開示で検討される二次構造の非限定的例は、αヘリックス、αターン、3
10ヘリックス及びπヘリックスである。
【0105】
本明細書で使用される場合、用語「ヘリックス安定性」は、円二色性、NMRまたは別の生物物理学的方法により測定した際の、本明細書で開示するペプチドまたは大環状ペプチドミメティック分子によるαヘリックス状構造の維持を指す。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書で開示する大環状ペプチドミメティック分子は、円二色性により決定した際に、対応する非大環状ポリペプチドと比較して、αヘリックス性が少なくとも1.25倍、1.5倍、1.75倍または2倍の増大を示す。
【0106】
本明細書で使用される場合、用語「タンパク分解安定性」は、1つ以上(すなわち、少なくとも1つの)プロテアーゼの存在下で、HPLCまたは別の分析法により測定した際の、本明細書で開示するペプチドまたは大環状ペプチドミメティック分子による完全体構造の維持を指す。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書で開示する大環状ペプチドミメティック分子は、HPLCによって測定した際の、1つ以上のプロテアーゼ存在下での半減期が、対応する非大環状ポリペプチドと比較して、少なくとも1.25倍、1.5倍、1.75倍または2倍の増大を示す。
【0107】
本明細書で使用される場合、化学的単位の相互作用に関する用語「接触」は、化学的単位の相互作用を支配する短距離の非共有相互作用(例えばファンデルワールス力、水素結合、疎水性相互作用、静電相互作用、双極子相互作用)が可能である距離に化学的単位があることを示す。例えば、タンパク質が化学種と「接触される」とき、タンパク質は化学種と相互作用することが可能になり、それによってタンパク質と化学種との間に反応が発生し得る。
【0108】
本発明で使用される場合、用語「親和性標識」または「親和性タグ」は、物理的な方法によって、それに共有結合した別の分子(例えば、標的ポリペプチド)の分離を可能にする分子を指す。親和性標識の非限定的例は、ビオチン及びグルタチオンである。親和性標識分子を分離するための有用な物理的方法の例として、アフィニティークロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、ゲルパーミエーションクロマト
グラフィ及び関連した技術を含むが、これらに限定されない。
【0109】
本発明で使用される場合、用語「蛍光分子」は、励起時に光子を放出し、それにより蛍光性となる分子を指す。蛍光分子の非限定的例として、クマリン、ナフタレン、ピレン、フルオレセイン、ローダミン、ナフトキサンテン、フェナントリジン、二フッ化ホウ素ジプロメテン(BODIPY)、シアニン、フタロシアニン、オキサジン及び種々に官能化されたそれらの誘導体が挙げられる。
【0110】
本発明で使用される場合、用語「放射性同位体標識」は、その原子核が、例えばアルファ若しくはベータ粒子またはガンマ放射線などの核放射線を自発的に放射する群を含む分子を指す。
【0111】
本発明で使用される場合、用語「標的薬剤」は、別の分子と、特定の生命体、組織、細胞または細胞内区画との共有性または非共有性の会合を誘導できる分子構造である。標的薬剤の非限定的例として、抗体、短ペプチド(例えば、Arg−Gly−Asp)及び葉酸などの小分子が挙げられる。
【0112】
本明細書中で使用される場合、用語「治療薬」は、ヒト疾患の治療への使用を法的に認可された何らかの分子を指す。
【0114】
式(I)の大環状ペプチドミメティックを提供する:
【化24】
(式中、
A、C及びDはそれぞれ独立して、天然または非天然アミノ酸であり、末端Dはキャッピング基を含む場合があり、
Bは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ基とカルボキシ基間に少なくとも1つの付加的なメチレン基を含むアミノ酸、二級アミンまたは三級アミンであるアミノ基を含むアミノ酸、エステルによって置換されたカルボキシ基を含むアミノ酸、[−NHN(R
3)C(O)−]、[−NH−L
3−CO−]、[−NH−L
3−SO
2−]または[−NH−L
3−]であり、
Yは、−NH−、−N(R
4)−、−NHN(R
4)−、−NH−O−、−O−または−S−であり、
Zは、−SCHR
6−、−CHR
6S−、−C=C−、−N(R
5)CO−、−CON(R
6)−、−C(R
5)=N(R
6)−、−CH(R
5)−NH(R
6)−、−C(R
5)=N−O−、−CH(R
5)−NH−O−、−C(R
5)=N−NH(R
6)−、−CH(R
5)−NH−NH(R
6)−またはトリアゾール基であり、
L
1、L
2及びL
3は、独立して、それぞれが非置換であるか、またはR
7で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基、置換ヘテロ原子を含むアリール基であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基であり、
R
7は、それぞれ独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基、置換アリール基であり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
zは、0〜10の整数であり、
wは、1〜1000の整数である)。
【0115】
いくつかの実施形態では、x+y+zは、少なくとも3である。他の実施形態では、x+y+zは、3、4、5、6、7、8、9または10である。大員環または大員環前駆体のA、B、CまたはDの存在はそれぞれ独立して選択される。例えば、式[A]
xで表される配列は、xが3であるとき、アミノ酸が同一でない実施形態、例えばAla−Gly−Asp、ならびにアミノ酸が同一である実施形態、例えばAla−Ala−Alaを包含する。これは、指定された範囲内であれば、x、y、zまたはwがどの値であっても当てはまる。
【0116】
いくつかの実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、二次構造状モチーフとしてαヘリックスを含む。一般に、αヘリックスは、ターン当たり3〜4のアミノ酸残基を含む。いくつかの実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるαヘリックスは、1〜5ターンを含み、その結果、3〜20のアミノ酸残基を含む。具体的な実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるαヘリックスは、1ターン、2ターン、3ターン、4ターンまたは5ターンを含む。
【0117】
いくつかの実施形態では、L
1と結合したアミノ酸α炭素からY基までを測定した際の、大員環形成リンカー[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、ポリペプチドまたはペプチドミメティック配列[A]
x−[B]
y−[C]
zに包含されるアミノ酸残基によって形成されるαヘリックスの安定性を増加するように選択される。いくつかの実施形態では、[−L
1−Z−L
2−Y−]として定義される大員環形成リンカーは、αヘリックスの1ターン〜5ターンに及ぶ。いくつかの実施形態では、大員環形成リンカーは、αヘリックスの約1ターン、2ターン、3ターン、4ターンまたは5ターンに及ぶ。
【0118】
いくつかの実施形態では、大員環形成リンカー[−L
1−Z−L
2−Y−]の長さは、αヘリックスの1ターンにつき4Å〜12Åである。他の実施形態では、大員環形成リンカーの長さは、αヘリックスの1ターンにつき5Å〜9Åである。
【0119】
いくつかの実施形態では、大員環形成リンカーは約1ターンのαヘリックスに及び、その長さは約5個の炭素−炭素結合〜約11個の炭素−炭素結合にほぼ等しく、リンカーは少なくとも4原子〜10原子を含む。この場合、得られる大員環は、15員〜21員を有する環を形成する。
【0120】
他の実施形態では、大員環形成リンカーは約2ターンのαヘリックスに及び、その長さは約7個の炭素−炭素結合〜約17個の炭素−炭素結合にほぼ等しく、リンカーは少なくとも6原子〜16原子を含む。この場合、得られる大員環は、28員〜38員を有する環を形成する。
【0121】
他の実施形態では、大員環形成リンカーは約3ターンのαヘリックスに及び、その長さは約12個の炭素−炭素結合〜約22個の炭素−炭素結合にほぼ等しく、リンカーは少なくとも11原子〜21原子を含む。この場合、得られる大員環は、43員〜53員を有する環を形成する。
【0122】
他の実施形態では、大員環形成リンカーは約4ターンのαヘリックスに及び、その長さは約17個の炭素−炭素結合〜約28個の炭素−炭素結合にほぼ等しく、リンカーは少なくとも16原子〜27原子を含む。この場合、得られる大員環は、59員〜70員を有する環を形成する。
【0123】
他の実施形態では、大員環形成リンカーは約5ターンのαヘリックスに及び、その長さは約22個の炭素−炭素結合〜約35個の炭素−炭素結合にほぼ等しく、リンカーは少なくとも21原子〜34原子を含む。この場合、得られる大員環は、75員〜88員を有する環を形成する。
【0124】
いくつかの実施形態では、式(I)の大環状ペプチドミメティック分子は、非大環状ポリペプチドまたはペプチドミメティック分子相対物と比較して、構造安定性の増加、標的に対する親和性の増加、タンパク質分解への耐性の増加及び/または細胞透過性の増加などの、改善された生物学的性質を呈する。一般式(I)の化合物に対する、基準となる非大環状相対物は一般式(II)の化合物である:
【化25】
(式中、A、B、C、D、R
1、R
2、L
1、x、y、z及びwは全て、上記の式(I)に定める通りである)。あるいは、一般式(I)の化合物に対する、基準となる非大環状相対物は一般式(III)の化合物である:
【化26】
(式中、A、B、C、D、R
1、R
2、x、y、z及びwは全て、上記の式(I)に定める通りである)。
【0125】
いくつかの実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は水溶液中でαヘリックスを含み、上記に定義される非大環状相対物と比較した場合に、αヘリックス性の程度の増加を呈する。いくつかの実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、円二色性により測定した際に、式(II)または(III)の基準となる非大環状相対物と比較して、αヘリックス性が少なくとも1.1倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2.0倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍または少なくとも4倍の増加を有する。
【0126】
いくつかの実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は一般式(I)の大環状ペプチドミメティック分子に対応し、この場合、ペプチドミメティック分子の主鎖及びカルボキシ末端に結合する大員環形成リンカー[−L
1−Z−L
2−Y−]は、
【化27】
及び
【化28】
を含むが、これらに限定されない:
(式中、
【化29】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、「m」及び「n」は、それぞれ独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3である)。
【0127】
いくつかの実施形態では、式(I)の大環状ペプチドミメティック分子は、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を含む。
【0128】
別の生体分子(すなわち、タンパク質、DNA、RNA、オリゴ糖、脂質)との相互作用を媒介し、それによりある種の生物学的活性を媒介すると考えられるαヘリックスを含む既知の一次アミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチドはいずれも、本開示の対象である。例えば、
図1に概略的に示すように、標的のαヘリックス状モチーフを包含するペプチド配列の分析によって、このようなモチーフを模倣するための適切な大環状ペプチドミメティック分子を、(a)標的のポリペプチド配列内の適切なアミノ酸残基を、側鎖基L
1を持つアミノ酸類似体で置換し、次に(b)Z−L
2−Yリンカー部分を介して、ポリペプチド配列のカルボキシ末端に、側鎖基L
1をテザリングすることにより生成
することができる。最も好都合には、L
1基とZ−L
2−Yリンカー部分との間の連結は、適切な反応条件下で互いに選択的、かつ効率的に反応する2つの官能基(例えば−Q
1及び−Q
2)によって達成される。最も好都合には、Z−L
2−Yリンカー部分とポリペプチドのカルボキシ末端との間の連結は、求核基−YH及び活性形態のC末端カルボキシ基によって達成される。
【0129】
この方法を使用して、
図2に構造を例示したような、種類の異なる側鎖−C末端の大環状αヘリックスペプチドミメティックを得ることができる。側鎖−C末端のテザリングに最適な位置は、生物活性に必要とされるαヘリックスの分子表面を確認し、それによって、生物活性に必要とされる表面を立体的にブロックすることなく、大環状分子を生成するために、大員環形成リンカーを導入できるそれ以外の表面を確認することにより決定される。
図9A〜9Bに例示したように、このような決定は、標的となるαヘリックス状モチーフまたは独立したαヘリックスを含むタンパク質と、天然の結合相手との間の複合体に関して、X線結晶学などの方法を使用して、活性化に関与するαヘリックスの残基及び表面を視覚化することにより行うことができる。あるいは、部位特異的突然変異を用いて、生物活性に関連するαヘリックス状モチーフの残基を特定することができる。この情報に基づいて、アミノ酸類似体及び大員環形成リンカーによって、標的のαヘリックス状モチーフを拘束するための適切な側鎖及びC末端結合部位を選択することができる。例えば、αヘリックス状二次構造では、生物活性のために、ヘリックスの一表面(例えば、ヘリックス軸に沿って長手方向に伸び、かつヘリックス軸周り45〜135°の半径方向に伸びる分子表面)が、別の生体分子とインビボまたはインビトロで接触することが必要となり得る。このような場合、大員環形成リンカーは、活性に直接必要でないその表面の一部のヘリックス表面に沿って長手方向に伸びつつ、ヘリックスのα炭素とカルボキシ末端を連結するように設計される。
【0131】
一般に、本明細書で開示する大環状ペプチドミメティック分子の合成は、(a)適切に官能化された側鎖基L
1及び活性化C末端カルボキシ基を含む前駆体ポリペプチドを合成すること、(b)次に前駆体ポリペプチドを、適切に官能化されたリンカー試薬と接触させ、側鎖基L
1がポリペプチドのC末端カルボキシ基に共有結合された大環状ペプチドミメティックを生成することを伴う。この一般的な方法により、前駆体ペプチドの側鎖−C末端の環状化が可能となり、構造安定性、標的に対する親和性、タンパク質分解に対する耐性、及び/または細胞透過性などの生物学的性質の改善を示す新規な化合物を生成する。更に、この一般的な方法により、大環状ペプチドミメティック分子への多種多用なリンカー部分の迅速かつ選択的な導入が可能となり、関連する大員環のライブラリを作製することが可能となる。この一般的な方法はまた、これらの大環状化合物への標識(例えば、放射性同位体標識、化学発光標識または蛍光標識)または治療薬の容易な導入も可能にする。
【0132】
したがって、大環状ペプチドミメティック分子の合成のための方法が提供され、本方法は、式(IV):
【化30】
の前駆体ペプチドミメティック分子を式(V):
Q
2−L
2−Y−H (V)
の化合物と接触させることを含む:
(式中、
A、B、C、D、R
1、R
2、L
1、L
2、Y、x、y、z及びwは全て、式(I)の化合物について上記に定めた通りであり、
x+y+zは、少なくとも3であり、
Q
1及びQ
2は、式(I)の化合物について上記に定めたようにZ基を形成する、互いに反応し得る2つの反応性官能基であり、
(LG)は、式(V)のリンカー試薬中の求核基−YHによって、末端カルボン酸のカルボニル基を求核置換に対して活性化し、それによって共有結合−C(O)−Y−を形成する基であり、
ここでの接触の結果、リンカー部分−Z−L
2−Y−を介して、側鎖基L
1とC末端カルボキシ基との間に共有結合が形成され、式(I)の化合物が得られる)。
【0133】
いくつかの実施形態では、官能基Q
1は、スルフヒドリル(−SH)基、アミノ(−NHR
5)基、アルケニル(−C=CH
2)基、アルキニル(−C≡CH)基、アジド(−N
3)基、ケト(−C(O)R
5−)基及びカルボキシ(−C(O)OH)基(式中、R
5は−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基)を含むが、これらに限定されない。
【0134】
それぞれの事例において、官能基Q
2は、共有結合を形成する反応がQ
1とQ
2との間に発生し得るように選択される。当業者であれば、特定のQ
1基の場合に、この目的に好適であるQ
2を容易に特定できるだろう。いくつかの実施形態では、官能基Q
2は、−CH(R
6)X(式中、Xは、F、Cl、BrまたはI)、アミノ(−NHR
6)基、オキシアミノ(−ONH
2)基、ヒドラジノ(−NR
6NH
2)基、アルケニル(−C=CH
2)基、アルキニル(−C≡CH)基、アジド(−N
3)基、ケト(−C(O)R
6−)基またはカルボキシ(−COOH)基(式中、R
6は−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基)を含むが、これらに限定されない。
【0135】
求核置換に対するC末端カルボン酸基の活性化は、当該技術分野で周知の方法によって実施できる。例えば、C末端カルボン酸基は、PCl
5またはSOCl
2を使用したアシルクロリドへの変換によって、保護されたアミノ酸またはペプチドエステルのヒドラジン分解に続く、水性酸中のNaNO
2での処理によるアシルアジドへの変換によって、ジシクロヘキシルカルボジイミドとの反応によるO−アシルイソ尿素への変換によって、カルボキシレートアニオンとホスホニウムまたはウロニウムカチオン(例えば、BOP、PyBOPまたはHBTU)との反応によるアシルオキシホスホニウムまたはウロニウム種への変換によって、または前述の活性化酸誘導体のいずれかとチオールまたはアルコールそ
れぞれとの反応による、チオエステル(例えばフェニルチオエステル)若しくは活性化エステル(例えば、ペンタフルオロフェノールエステル)への変換によって、それぞれに活性化することができる。いくつかの実施形態では、求核置換に対してC末端カルボン酸基を活性化する(LG)基は、酸塩化物、酸無水物、アシルアジド、O−アシルイソ尿素、ホスホニウム化合物、活性エステルまたはチオエステルである。具体的な実施形態では、活性化C末端カルボン酸はチオエステルの形態であり、このとき(LG)基はアリールメルカプタン(例えば、チオフェノール、ベンジルメルカプタンなど)、アルキルメルカプタン(例えば、β−メルカプトエタノール、MESNAなど)またはインテインタンパク質である。
【0136】
前駆体ペプチドミメティック分子及び大環状ペプチドミメティック分子は、液相法または固相法によって合成することができる。更に、前駆体ペプチドミメティック分子及び大環状ペプチドミメティック分子は、天然に存在する、天然に存在しないアミノ酸及び/またはアミノ酸類似体を含み得る。代替的であるが等価の保護基、脱離基または試薬は置き換え可能であり、合成工程によっては、所望の化合物を生成するために代替的なシーケンスまたは順序で実行できる。本明細書に記載された化合物の合成に有用な合成化学変換及び保護基方法論(保護及び脱保護)には、例えば、Larock,Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers (1989)、Greene and Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,2版,John Wiley and Sons (1991)、Fieser and Fieser,Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons (1994)、ならびにPaquette編,Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons (1995)及びその続版に記載されたようなものを含む。
【0137】
大環状ペプチドミメティック分子は、例えば、Fieldsら,Synthetic Peptides:A User’s Guide版の第3章.Grant,W.H.Freeman & Co.,New York,N.Y.,1992,p.77に記載の化学法によって作製することができる。したがって、例えば、ペプチドは、側鎖保護されたアミノ酸を用いるtBocまたはFmoc化学合成法のいずれかによって保護されたアミンを用いて、例えば自動ペプチド合成装置(例えば、Applied Biosystems(Foster City,Calif.)、Model430A,431または433)上で、メリフィールド自動固相合成技術を使用して合成される。
【0138】
本明細書に記載された前駆体ペプチド及びペプチドミメティックを生成する1つの様式は、固相ペプチド合成(SPPS)を使用する。C末端アミノ酸は、リンカー分子との酸不安定結合を介して架橋ポリスチレン樹脂に結合される。この樹脂は合成に用いる溶媒に不溶性であるため、比較的簡単かつ迅速に過剰剤及び副生成物を洗い流せる。N末端は、酸中では安定だが塩基によって除去可能なFmoc基で保護される。側鎖官能基は、必要に応じて塩基安定な酸不安定基で保護する。長い前駆体ペプチドは、例えば、ネイティブな化学ライゲーションを用いて個々の合成ペプチドを結合することによって生成される。
【0139】
前駆体ペプチド及びペプチドミメティックは、例えば、ハイスループットコンビナトリアル形式で、例えば、ハイスループット多チャンネルコンビナトリアル合成装置(例えば、AAPPTEC,Inc.,Louisville,KY製のModel Apex396多チャンネルペプチド合成装置)を使用して作製される。
【0140】
以下のセクションは、本明細書で開示する化合物の調製に使用される、利用可能な種々
の方法を例示するために示される。しかしながら、本開示は、本明細書で開示する化合物の調製に有用な反応または反応シーケンスの範囲を限定することを意図しない。
【0141】
図3及び4の合成スキームは、一部の実施形態を例示するために提供され、本明細書で開示する化合物及び方法の範囲を限定することを意図しない。簡潔には、図示したスキームにおいて、(a)アミノ酸パラ−アセチル−フェニルアラニン(pAcF)は、官能化された側鎖基−L
1−Q
1を持つアミノ酸類似体の例として記述され、この場合のリンカー基L
1は−CH
2−C
6H
4−であり、反応性官能基Q
1は−C(O)−CH
3であり;また(b)化合物3−アミノ−N−(3−(アミノオキシ)プロピル)−4−(メルカプトメチル)ベンズアミド)(SP8)は一般式(V)Q
2−Z−L
2−YHの官能化されたリンカー試薬の例として記述され、この場合のQ
2基は−ONH
2であり、−YH基は−NH
2であり、L
2基は−(CH
2)
3−NHCO−(4−(CH
2SH))C
6H
3−である。記号「[−NHCH(R)CO]
n」は、一連のアミド結合で連結さされた部分、例えば天然または非天然のアミノ酸からなるポリペプチド配列を表す。前述したように、「[−NHCH(R)CO−]
n」のような式は、例えば、同一でないアミノ酸の配列ならびに同一のアミノ酸の配列を包含する。
【0142】
図3で例示された第1の一般的な方法では、前駆体ペプチドミメティック分子は、市販のN−α−Fmocアミノ酸及び安全キャッチリンカー樹脂を使用して、固相ペプチド合成(SPPS)(”Bioorganic Chemistry:Peptides and Proteins”,Oxford University Press,New
York:1998)により合成される。この例では、大環化を媒介するための適切に官能化された側鎖基−L
1−Q
1を持つアミノ酸類似体(例えばpAcF)は、パラ−アセチル−フェニルアラニン(pAcF)である。
図5A〜5Dに示したように、既知の方法(Frost,Vitaliら 2013)を使用したラセミ体の形成、続いて酵素分解及び適切に保護されたN−α−Fmoc−pAcFへの変換により、pAcFを合成することができる。SPPSによって非環式の前駆体ペプチドミメティック分子をアセンブリした後、ヨードアセトニトリルを有するスルホンアミドアンカー基のアルキル化により、側鎖保護された前駆体ペプチドミメティック分子を樹脂から切り出し、続いてチオールにより処理する。この工程により、前駆体ペプチドミメティック分子のC末端カルボキシ基も活性化され、チオエステル形態となる。次に、前駆体ペプチドミメティック分子を粗製混合物として、または精製後に、適切な大員環形成リンカー試薬(すなわち、この例のオキシアミノ/アミノチオール試薬SP8)と反応させ、部分的にまたは完全に保護された形態の大環状ペプチドミメティック分子を得る(溶液中環化、
図3)。次に、この生成物を標準条件(例えば、95%のTFAなどの強酸)によって脱保護し、所望の大環状ペプチドミメティック分子を得る。いくつかの実施形態では、環化反応は、pH8の水溶液中で実施される。他の実施形態では、アルキル化反応に使用する溶媒は、DMFまたはメタノールである。他の実施形態では、ヨードアセトニトリルにてスルホンアミドのアンカー基がアルキル化された後、樹脂と結合した前駆体ペプチドミメティック分子は、大員環形成リンカー試薬と直に反応を起こし、それにより部分的にまたは完全に保護された形態の大環状生成物が形成され、それに伴って樹脂から切り出される(樹脂上環化、
図3)。次に、切り出した生成物の脱保護により、所望の最終的な大環状生成物を得る。
【0143】
他の実施形態では、最初に非環式の前駆体ペプチドミメティックをSPPSによりアセンブリし、次に遊離C末端カルボキシ基(−COOH)を有する側鎖保護された形態で樹脂から切り出した後、C末端チオエステルへ(例えば、C末端カルボキシ基の活性化、続いてチオールとの反応により)変換する。次に、C末端チオエステル前駆体ペプチドミメティックを、適切な大員環形成リンカー試薬によって環化する。
【0144】
図4で例示された第2の一般的な方法では、前駆体ポリペプチドを生細胞の組換え発現
によって、または既知のインビトロ無細胞発現方法によって生成する。この場合、大環化を媒介するための適切に官能化された側鎖基−L
1−Q
1を持つアミノ酸類似体(例えばpAcF)を、当該技術分野で既知の方法、例えば、所望の非天然アミノ酸のリボソームを取り込むための操作されたアミノアシル−tRNAシンテターゼ/tRNAの存在下でのアンバー終止コドンの抑制(Frost,Vitaliら 2013)などによって組換えポリペプチドに導入する。更に、組換えポリペプチドをインテインタンパク質に遺伝子的に融合することで、ペプチドのC末端に反応性チオエステル基を生成でき、それによりポリペプチドのC末端と大員環形成リンカーとのライゲーションが可能になる。次に、大環状ペプチドミメティックを、組換え生成されたインテイン融合前駆体ポリペプチドと、大員環形成リンカー試薬(例えば、この例ではSP8)水溶液との反応により生成する。いくつかの実施形態では、チオール触媒(例えば、チオフェノールまたはMESNA)の添加によって大環化反応を促進する。
【0146】
本開示は、上記の大環状ペプチドミメティック分子の合成における天然に存在する及び天然に存在しないアミノ酸の両方ならびにアミノ酸類似体の使用を企図する。安定な側鎖−C末端架橋された大環状ペプチド及びペプチドミメティック分子の合成に用いられる合成方法に従った任意のアミノ酸またはアミノ酸類似体を使用することができる。使用時に特に有用なアミノ酸は、反応性側鎖官能基、例えば、スルフヒドリル(−SH)基、アミノ(−NH
2)基、アルケニル(−C=CH
2)基、アルキニル(−C≡CH)基、アジド(−N
3)基、ケト(−C(O)−)基またはカルボキシ(−COOH)基を含むアミノ酸であり、それにより側鎖とポリペプチドまたはペプチドミメティックのC末端との間の共有結合を、好適な反応条件下で適切なリンカー試薬との反応によって形成することができる。例えば、スルフヒドリル基を含むアミノ酸、例えば、システイン、ホモシステイン、o−、m−及びp−メルカプト−フェニルアラニン、o−、m−及びp−メルカプトメチル−フェニルアラニンは、本開示の有用なアミノ酸であると考えられる。同様に、アミノ基を含むアミノ酸、例えば、2,3−ジアミノプロパン酸、2,4−ジアミノブタン酸、オルニチン、リシン、o−、m−及びp−アミノ−フェニルアラニン、o−、m−及びp−アミノメチル−フェニルアラニン;ケト基を含むアミノ酸、例えば、o−、m−及びp−アセチル−フェニルアラニン、2−アミノ−5−オキソヘキサン酸、2−アミノ−6−オキソヘプタン酸、2−アミノ−7−オキソオクタン酸、2−アミノ−2−オキソプロパン酸、2−アミノ−8−オキソノナン酸;アルケニル基を含むアミノ酸、例えば、2−(2′−プロペニル)グリシン、2−(3′−ブテニル)グリシン、2−(4′−ペンテニル)グリシン、2−(5′−ヘキセニル)グリシン、2−(6′−ヘプテニル)グリシン、2−(7′−オクテニル)グリシン);アジド基を含むアミノ酸、例えば、o−、m−及びp−アジド−フェニルアラニン、2−アミノ−3−アジドプロパン酸、2−アミノ−4−アジドブタン酸、2−アミノ−5−アジドペンタン酸、2−アミノ−6−アジドヘキサン酸ならびにアルキニル基を含むアミノ酸、例えば、2−アミノペント−4−イン酸、2−アミノヘキス−5−イン酸、2−アミノヘプト−6−イン酸、2−アミノオクト−7−イン酸、2−アミノノン−8−イン酸、o−、m−及びp−プロパルギル−フェニルアラニン、o−、m−及びp−エチニル−フェニルアラニンは、本開示に有用なアミノ酸であると考えられる。
【0147】
いくつかの実施形態では、アミノ酸及びアミノ酸類似体のアルファ炭素の構成単位はSである。他の実施態様では、アミノ酸及びアミノ酸類似体のアルファ炭素の構成単位はRである。いくつかの実施形態では、ペプチドミメティックに含まれるアミノ酸及びアミノ酸類似体は、S構成単位にアルファ炭素原子を有するものもあれば、アミノ酸及びアミノ酸類似体によっては、R構成単位にアルファ炭素原子を有するものもある。いくつかの実施形態では、アミノ酸類似体はα,α二基置換、例えばα−メチル−(S)−システイン
及びα−メチル−(R)−システインである。いくつかの実施形態では、アミノ酸類似体はNアルキル化された、例えば、N−メチル−(S)−システイン及びN−メチル−(R)−システインである。
【0148】
本明細書で開示する大環状ペプチドミメティック分子の形成に有用な他のアミノ酸類似体は、式(VI)の化合物である:
【化31】
(式中、
L
1は、それぞれが非置換であるか、またはR
7で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基、置換ヘテロ原子を含むアリール基、アルコキシ基及びアリールオキシル基を含むが、これらに限定されないリンカー基であり、
R
1及びR
2は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基であり、
R
7は、それぞれ独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基及び置換アリール基であり、
Q
1は、スルフヒドリル(−SH)基、アミノ(−NHR
5)基、アルケニル(−C=CH
2)基、アルキニル(−C≡CH)基、アジド(−N
3)基、ケト(−C(O)R
5−)基及びカルボキシ(−COOH)基(式中、R
5は−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基)を含むが、これらに限定されない反応性官能基である)。
【0149】
いくつかの実施形態では、式(VI)のアミノ酸類似体のL
1は、C
1〜C
24アルキル基、C
1〜C
24置換アルキル基、C
1〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルキル基、C
1〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルキル基、C
2〜C
24アルケニル基、C
2〜C
24置換アルケニル基、C
2〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルケニル基、C
2〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルケニル基、C
5〜C
24アリール基、C
5〜C
24置換アルキル基、C
5〜C
24置換ヘテロ原子を含むアリール基、C
5〜C
24置換ヘテロ原子を含むアリール基、C
1〜C
24アルコキシ基及びC
5〜C
24アリールオキシ基を含むが、これらに限定されない。
【0150】
いくつかの実施形態では、式(VI)のアミノ酸類似体は、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を含む。
【0152】
前駆体ペプチドミメティック分子の側鎖とC末端とを連結して、本明細書で開示する大環状ペプチドミメティック分子を形成するために使用する大員環形成リンカー試薬を提供する。上記のように、大員環形成リンカーは、配座剛性、代謝安定性の増加及び/または
細胞浸透性の増加をもたらす。更に、いくつかの実施形態では、大員環を形成する連結は、大環状ペプチドミメティック分子のαヘリックス状二次構造を安定化させる。
【0153】
いくつかの実施形態では、大員環形成リンカー試薬は、式(V)の化合物である:
Q
2−L
2−Y−H (V)
(式中、
Yは、−NH−、−N(R
4)−、−NHN(R
4)−、−NH−O−、−O−または−S−(式中、R
4は−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基)であり、
L
2は、それぞれが非置換であるか、またはR
7(R
7は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基、置換アリール基)で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基、置換ヘテロ原子を含むアリール基であり、
Q
2は、−CH(R
6)X(式中、Xは、F、Cl、BrまたはI)、アミノ(−NHR
6)基、オキシアミノ(−ONH
2)基、ヒドラジノ(−NR
6NH
2)基、アルケニル(−C=CH
2)基、アルキニル(−C≡CH)基、アジド(−N
3)基、ケト(−C(O)R
6−)基及びカルボキシ(−COOH)基(式中、R
6は−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基)を含むが、これらに限定されない)。
【0154】
いくつかの実施形態では、L
2は、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を含む。
【0155】
上記のように、大員環形成リンカー試薬のQ
2の選択は、前駆体ペプチドミメティック分子に存在するQ
1基の選択に依存し、その選択によって当該技術分野で周知の手順に従った好適な反応条件下にて、これら2つの官能基間に結合を形成する反応が起こり得る。例えば、Q
1がアルキニル基(−C≡CH)である場合、Q
2はアジド基(−N
3)であり得、これら基間の結合を形成する反応は、触媒であるCu(I)の存在下でアジド−アルキンの1,3−双極子付加環化を経て、L
1とL
2との側鎖結合をトリアゾール基(Z=トリアゾール)の形態で得ることで実施できる。別の例として、Q
1がアルケニル基(−C=CH
2)である場合、Q
2はアルケニル基(−C=CH
2)であり得、これら基間の結合を形成する反応は、Ru触媒(例えば、Grubbs触媒)の存在下でオレフィンメタセシス反応を経て、L
1とL
2との側鎖結合をオレフィン基(Z=−CH=CH−)の形態で得ることで実施できる。別の例として、Q
1がケトン(−C(O)CH
3)である場合、Q
2はオキシアミノ基(−ONH
2)であり得、酸性条件(例えばpH5.0の水性溶媒中)でオキシムライゲーションを経て、L
1とL
2との側鎖結合をオキシム基(Z=−C(CH
3)=N−O−)の形態で得ることで実施できる。別の例として、Q
1がスルフヒドリル基(−SH)である場合、Q
2はアルキル臭化物(−CH
2Br)であり得、これらの基間の結合を形成する反応は、アルカリ条件(例えばpH8.0の水性溶媒中)下で求核置換を経て、L
1とL
2との側鎖結合をチオエーテル基(Z=−CH
2S)の形態で形成することで実施できる。別の例として、Q
1がカルボキシ基(−COOH)である場合、Q
2はアミノ基(−NH
2)であり得、これら基間の結合を形成する反応は、標準的なアミドカップリング条件下で(例えば、DMF中のカルボジイミドカップリング試薬を用いて)、L
1とL
2との側鎖結合をアミド基(Z=−C(O)NH−)の形態で形成することで実施できる。当業者は、Q
1及びQ
2の好適な組み合わせ、ならびにQ
1及びQ
2を共に反応させて側鎖共有結合を形成し、大環状ペプチドミメティックを形成するための好適な反応条件を容易に特定できるであろう。
【0156】
−YHは、前駆体ペプチドミメティック分子の活性化C末端カルボキシ基と反応し得る求核基であり、それによってY基とこのようなC末端カルボキシ基との間に共有結合が形成される。−YH基の性質に応じて、ペプチドミメティック分子のC末端と大員環形成リ
ンカーとの間の共有結合は、一級アミド(−C(=O)NH−)基、二級アミド(−C(=O)N(R)−)基、ヒドラジド(−C(=O)NHN(R)−)基、オキシアミド(−C(=O)NH−O−)基、エステル(−C(=O)O−)基またはチオエステル(−C(=O)S)基を含む。
【0157】
上記のように、活性化C末端カルボン酸基は、酸塩化物、酸無水物、アシルアジド、O−アシルイソ尿素、ホスホニウム化合物、活性エステルまたはチオエステルの形態であり得る。
【0158】
いくつかの実施形態では、「C末端カップリング反応」、すなわち前駆体ポリペプチドまたはペプチドミメティック分子での−YH基と活性化C末端カルボキシ基との結合を形成する反応は、「側鎖カップリング反応」、すなわち前駆体分子のQ
1と大員環形成リンカー試薬のQ
2基との結合を形成する反応の前に実施される。他の実施形態では、側鎖カップリング反応は、C末端カップリング反応の前に実施される。他の実施形態では、側鎖カップリング反応及びC末端カップリング反応は同時に、すなわち単独の反応で実施される。活性化C末端カルボキシ基、−YH基、Q
1基及びQ
2基の性質に応じて、当業者は、本明細書で開示する大環状分子の生成に最適な反応シーケンスを特定できるであろう。
【0159】
いくつかの実施形態では、大員環形成リンカー試薬の−YH基は、一級または二級アミノ基(−NH
2または−NHR)であり、L
2成分は、3個または4個の結合によって−YH基から切り離されるスルフヒドリル基(−SH)を含む。1,2−または1,3−アミノチオール部分は、活性化C末端カルボキシ基が、アルキル−、アリール−、またはインテイン−チオエステル形態である、C末端カップリング反応に特に有用である。特に、大員環形成リンカー試薬のチオール基は、ネイティブの化学ライゲーション様のチオエステル交換反応での、C末端アルキル−、アリール−、またはインテイン−チオエステルとの反応、それに続くS−Nアシル転位により、ペプチドミメティック分子のC末端と大員環形成リンカー試薬から誘導される部分との間で安定なアミド結合を得ることにより、C末端カップリング反応を促進することができる。
【0160】
いくつかの実施形態では、式(V)の大員環形成リンカーのL
2は、C
1〜C
24アルキル基、C
1〜C
24置換アルキル基、C
1〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルキル基、C
1〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルキル基、C
2〜C
24アルケニル基、C
2〜C
24置換アルケニル基、C
2〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルケニル基、C
2〜C
24置換ヘテロ原子を含むアルケニル基、C
5〜C
24アリール基、C
5〜C
24置換アリール基、C
5〜C
24置換ヘテロ原子を含むアリール基、C
5〜C
24置換ヘテロ原子を含むアリール基、C
1〜C
24アルコキシ基及びC
5〜C
24アリールオキシ基を含むが、これらに限定されない。
【0161】
大員環形成リンカー試薬、Q
2−L
2−YHのL
2成分は、特に、側鎖結合に使用さるアミノ酸類似体のアルファ炭素と、所望の大環状ペプチドミメティック分子に連結されるべきC末端カルボキシ基との間の距離に応じて、長さが変化し得る。更に、大員環形成リンカー試薬のL
2成分の長さの変化に応じて、L
1の長さも変化することにより、上記のような適切な全長のリンカーを作成することができる。例えば、追加のメチレン単位をL
1成分に付加することにより、使用するアミノ酸類似体が変化した場合、L
2の長さは、L
1の増加した長さを相殺するために、1つのメチレン単位分の長さが減少する。
【0162】
いくつかの実施形態では、大員環形成リンカー試薬のL
2は、式―(CH
2)
n−のアルキル基であり、この場合のnは1〜20の整数である。例えば、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15または20である。他の実施形態では、L
2は、アルケニル基、アリール基または1,2,3−トリアゾリル基である。
【0163】
いくつかの実施形態では、式(VI)のアミノ酸類似体は、以下を含むが、これらに限定されないアミノ酸類似体からなる群から選択される化合物である:
【化32】
(式中、「n」は1〜10の範囲の整数であり、「q」は0〜5の整数であり、「R′」は−Hまたは−CH
3であり、「R″」は−H、−CH
3または−OHである)。また、式(V)の大員環形成リンカー試薬は、以下を含むが、これらに限定されない適合性のある大員環形成リンカー試薬の群である:
【化33】
(式中、
【化34】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、それぞれ独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、−Hまたは−CH
3であり、
R″は、−H、−CH
3または−OHであり、
Xは、−Cl、−Br、−I、−OTs、−OMsまたは−OTfである)。
【0164】
図16は、本明細書で記載する方法に使用できる、式[−L
1−Z−L
2−Y−]の大員環形成リンカーの構造を示す。
【化35】
は、単結合または二重結合を示す。
【化36】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示す。R′は、−Hまたは−CH
3である。記号「m」及び「n」は1〜10の整数であり、「q」は0〜5の整数である。
【0165】
図17は、本明細書で記載する方法に使用できる、式[−L
1−Z−L
2−Y−]の追加の大員環形成リンカーの構造を示す。
【化37】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示す。記号「m」及び「n」は1〜10の整数であり、「q」は0〜5の整数である。
【0166】
図18は、本明細書で記載する方法に使用できる、アミノ酸類似体(左パネル)の構造及び適合性のある大員環形成リンカー試薬の構造(矢でつながれた右パネル)を示す。
【化38】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示す。記号「m」及び「n」は1〜10の整数であり、「q」は0〜5の整数である。R′は−Hまたは−CH
3であり、R″は、−H、−CH
3または−OHであり、Xは、−Cl、−Br、−I、−OTs、−OMsまたは−OTfである。
【0167】
図19は、本明細書で記載する方法に使用できる、追加のアミノ酸類似体(左パネル)の構造及び適合性のある大員環形成リンカー試薬の構造(矢でつながれた右パネル)を示す。
【化39】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示す。記号「m」及び「n」は1〜10の整数であり、「q」は0〜5の整数である。R′は−Hまたは−CH
3であり、Xは、−Cl、−Br、−I、−OTs、−OMsまたは−OTfである。
【0169】
本明細書で開示する大環状ペプチドミメティックの特性は、例えば、以下に記載する方法を用いることによって分析される。いくつかの実施形態では、大員環は、対応する非大環状ポリペプチドと比較して特性が増強されている。対応する非大環状ポリペプチドは、例えば、大環状ペプチドミメティック分子の非環式の前駆体であり、式(II)または(III)の化合物などである。あるいは、対応する非大環状ポリペプチドは、大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列と実質的に配列が重複する天然ポリペプチド配列などのポリペプチド配列である。本明細書で開示する大環状ペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列と実質的に重複する非大環状ポリペプチドの例は、
図10のP1、P2、及びP10である。
【0170】
一般に、対応する非大環状ポリペプチドは、標識した天然ポリペプチドまたはペプチドミメティック前駆体であっても良い。例えば蛍光標識または放射性標識によるこのような標識化は、必要に応じて以下に記載するアッセイのいくつかにおいて使用される。このようなアッセイでは、大員環及び対応する非大環状ポリペプチドはいずれも、通常は、類似したまたは機能的に等価な方法によって標識される。
【0171】
αヘリックス性のアッセイ。本明細書で開示する大環状ペプチドミメティック分子及び基準となる非大環状化合物のアルファヘリックス含有量を円二色性(CD)分光法により測定することができる。CDスペクトルは、分光偏光計(例えば、JASCO J−710)上で、以下の標準的な測定パラメータを用いて20℃で記録される:波長195〜2
50nm;工程分解能0.5nm;速度10nm/秒;積算回数3;反応1秒;バンド幅2nm;経路長0.1cm。これらの分析では、大環状分子及び基準となる非大環状化合物は通常、5mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に溶解させ、20〜50μMの最終濃度を得る。平均残基楕円率は波長に対してプロットでき、各ペプチドのヘリックス含有量は以下の式に基づいて導出できる:nをペプチド結合数とした場合、[θ]
222/[40000x(n−4)/n](Johnson,W.C.及びTinoco,I.J Am Chem Soc,1972,94,4389)。
【0172】
タンパク分解安定性の分析。直鎖ペプチドはプロテアーゼによる加水分解に対して感受性があり、その結果、インビボで急速な分解を受けやすくなる。本明細書で開示される方法によるペプチド系分子の大環状化により、タンパク質分解性に対する耐性強化などの改善された特性の付与が期待される。この特性は、精製されたプロテアーゼ、または代わりにヒト血清の存在下で、大環状ペプチドミメティック分子及び対応する基準となる非大環状ポリペプチドを培養することによって評価することができる。次に、化合物のインビトロタンパク質分解性は、紫外線検出器を備えるHPLCによって経時的にモニターすることができる。結果として生じる時間依存的曲線から、化合物の半減期を測定できる。一例として、50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)中の化合物(10μM)を室温にてキモトリプシン(1.0μg/mL)の存在下で培養することにより、大員環のインビトロタンパク分解安定性を測定した。種々の時点(例えば、0、30、60、120、180、240分)で、反応混合物のアリコート(50μL)を除去し、TFA(5μL)を添加してクエンチした後、HPLC分析を行った。完全体のペプチドと比較したピーク面積の減少に基づいて、ペプチドの切断をモニターした。
【0173】
インビトロタンパク質結合アッセイ。本明細書で開示される大環状ペプチドミメティック分子の、目的タンパク質への結合能は、例えば、インビトロ蛍光偏光(FP)アッセイによって評価することができる。例えば、これらの化合物と、腫瘍性タンパク質HDM2及び/またはHDMXとの結合能は、大環状ペプチドミメティック分子の蛍光標識された(例えば、フルオレセインをコンジュゲートした)誘導体をタンパク質を増量しながら培養し、更に増加したタンパク質濃度での蛍光偏光の増加を測定することにより確定することができる。蛍光偏光法の原理は確立されており、このアッセイは蛍光標識したペプチドとタンパク質との間の複合体形成の結果として生じる蛍光偏光の増強を利用している。更に、タンパク質濃度に応じた分子のFP変化を分析して、平衡解離定数(K
D)を基準にして、タンパク質に対する化合物の結合親和性を測定することができる。
【0174】
インビトロ阻害アッセイ。大環状ペプチドミメティック分子の、目的タンパク質への結合能、及び標的タンパク質−タンパク質の相互作用の阻害能は、例えば、インビトロで表面プラズモン共鳴(SPR)による阻害アッセイによって評価することができる。例えば、p53と腫瘍性タンパク質HDM2及びHDMXとの相互作用に対する、これらの化合物の阻害能は、溶液中での阻害アッセイにより測定できる。このアッセイでは、ビオチン化p53から誘導したペプチド(例えば、ビオチン−SGSG−p53
15−29)が、ストレプトアビジンをコーティングしたバイオセンサーチップに最初に固定される。次に、可溶性HDM2(またはHDMX)を種々の濃度の大員環と共に培養し、次いでその混合物を官能化された表面に注入する。阻害剤の濃度の増加に応じて、HDM2(またはHDMX)と表面との結合が阻害され、それに伴いバイオセンサーでの反応は減少する。更に、濃度反応曲線を分析して、最大半数阻害濃度(IC
50)を基準にして、化合物の阻害能を測定することができる。
【0175】
細胞透過性の分析。いくつかの実施形態では、本明細書で記載する大環状ペプチドミメティックは、対応する非大環状相対物よりも細胞透過性が高い。最適化された側鎖−C末端テザーを有する大環状ペプチドミメティック分子は、対応する非大環状相対物よりも、
例えば、少なくとも1.1倍、1.5倍、2倍または3倍大きいまたはそれ以上の細胞透過性を有する。これらの化合物の細胞透過性を測定するためには、無傷の細胞を、蛍光標識した(例えばフルオレセインをコンジュゲートした)大環状ペプチドミメティック分子または対応する非大環状相対物(10μM)と共に、血清を含まない培地中で37℃にて4時間培養する。次に、細胞を培地で2回洗浄し、トリプシンで培養した後(例えば0.25%トリプシン、10分、37℃)、再度洗浄し、PBS中で再懸濁する。細胞蛍光は、例えば、FACSCaliburフローサイトメーターを使用することにより分析する。あるいは、蛍光標識した化合物の細胞透過能を、共焦点蛍光顕微鏡によって評価することができる。
【0176】
細胞有効性の分析。大環状ペプチドミメティック分子の細胞毒性活性は、例えば、腫瘍形成性及び非腫瘍形成性細胞株、ならびにヒトまたはマウスの細胞集団に由来する一次細胞を使用して、細胞ベースのアッセイにて測定する。細胞生存性は、例えば、大環状ペプチドミメティック分子(例えば0.1〜100μM)と共に培養する24〜96時間にわたってモニターし、100μM未満のEC
50で細胞生存性が減少するものを特定する。細胞生存性を測定するいくつかの標準的なアッセイ、例えば、MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイなどが市販されている。このようなアッセイを使用して、腫瘍形成性及び非腫瘍形成性の細胞の生存性を低減させる大環状ペプチドミメティック分子の有効性を評価することができる。加えて、場合により、アネシンV及びカスパーゼ活性化を測定するアッセイを使用して、大環状ペプチドミメティック分子の細胞毒性が、p53活性の再活性化に起因すると予測される、アポトーシス機構の活性化に依存するかどうかを評価することができる。
【0178】
いくつかの実施形態では、式(I)の大環状ペプチドミメティック分子に含まれるペプチド配列は、腫瘍抑制因子p53タンパク質のHDM2結合ドメインから誘導される。ヒト転写因子p53は、DNA損傷及び細胞ストレスに応答して細胞周期停止及びアポトーシスを誘発し、それにより細胞を悪性形質転換から保護する役割を果たす。E3ユビキチンリガーゼHDM2は、直接的な結合相互作用によって、p53依存的なトランス活性化活性の中和、核からのp53輸送の媒介、及びユビキチン−プロテアソーム経路による分解対象となるp53の標的化を行い、p53の機能を負に調節する。HDMX(HDM4とも称する)は、HMD2の構造同族体であり、これは主にp53トランス活性化因子ドメインとの結合によって、p53の負の調節因子としても作用する。HMD2またはHMDXいずれかの過剰発現は、いくつかの悪性腫瘍と関連付けられてきた(Marine,Dyerら.2007、Wahl及びWade 2009)。
【0179】
HDM2及びHDMXとの結合を担うp53の領域は、ヒトp53タンパク質(p53
15−29)のN末端トランス活性化ドメインに認められた。このドメインは、15残基配列(HDM2(またはHDMX)との結合時に、約2.5ターンの両親媒性αヘリックスを形成する、SQETFSDLWKLLPEN(配列番号1))を包含する(Kussie,Gorinaら 1996、Popowicz,Czarnaら 2008)。悪性腫瘍研究に基づいて立証されたように、このHDM2/Xと結合するp53のドメイン内の3つの残基、詳細には、F19、W23、及びL26は、HDM2及びHDMXとの相互作用に関わる(Kussie,Gorinaら 1996、Popowicz,Czarnaら 2008)。p53とHDM2/Xとの相互作用に関与することが知られている、対面型(cofacial)i/i+4/i+7アミノ酸残基のトライアドを持つ他の多数の直鎖p53関連ペプチドが、ファージディスプレイによって特定され、これには、Pazgierらが報告した、直鎖ペプチドPMI(T
1SFAEYWNLLSP
12、配列番号2)及び直鎖ペプチドPDI(L
1TFEHYWAQLTS
12、配列番号
3)が含まれる(Pazgier,Liuら 2009)。
【0180】
p53遺伝子の欠失若しくは変異、またはHDM2若しくはHMDXの過剰発現の結果として生じるp53活性の減少または喪失は、いくつかのヒト悪性腫瘍の発生及び進行の根源となる因子として特定された(Marine,Dyerら 2007、Wahl及びWade 2009)。野生型p53を発現する腫瘍は、活性なp53の濃度を安定化または増加させる薬理剤に対する感受性を存続する。したがって、p53−HDM2の相互作用の化学的阻害によるp53活性の再活性化は、インビトロ及びインビボの両方で、癌細胞のアポトーシスを促進する有効なアプローチと認められた(Marine,Dyerら 2007、Wahl及びWade 2009)。更に、HDM2及びHMDXはいずれもp53活性の負の調節に関与しているため、HDM2/Xの二重阻害は特に抗癌治療の魅力的な方法として注目されている(Hu,Gilkesら 2006、Wade,Wongら 2006)。更に、これらのタンパク質同族体のp53結合間隙には微細な差があるため、HDM2の小分子阻害剤の大半は、p53対HDMXの相互作用を強力に阻害できないことから(Popowicz,Czarnaら 2007)、HDM2/Xの二重阻害ができる化合物は有望な抗癌剤として非常に興味深い(Bernal,Wadeら 2010、Brown,Quahら 2013)。
【0181】
いくつかの実施形態では、新規の大環状αヘリックス状ペプチドミメティックは、p53−HDM2及びp53−HDMXのタンパク質−タンパク相互作用を効果的に阻害できる化合物を生成するために、本明細書で開示される方法に従って調製される。本明細書では、これらの化合物を「p53大環状ペプチドミメティック」と称する。これら新規のHDM2/X阻害剤は、多くの用途に有用であり、例えば、HDM2若しくはHDMXの過剰発現によって、またはp53活性の減少によって生じる悪性腫瘍の治療的処置を含むが、これに限定されない。
【0182】
一実施形態では、p53とHDM2間、p53とHDMX間、またはp53とHDM2及びHDMX両方のタンパク質とのタンパク質−タンパク相互作用を阻害できるp53大環状ペプチドミメティックを提供する。これらのp53大環状ペプチドミメティックを治療用途に使用すると、例えば、ヒト及びヒト以外の哺乳動物での癌及び他の疾患を治療することができ、ここでの癌及び他の疾患は、p53が不所望に低濃度または低活性であることを特徴とし、及び/またはHDM2またはHDMXの活性レベルが不所望に高いことを特徴とする癌及び他の疾患を治療することができる。これらのp53大環状ペプチドミメティックは、癌及び自己免疫などの過剰な細胞生存及び増殖の症状に加えて、神経変性及び免疫不全などの不適切な細胞周期停止及びアポトーシスの症状を引き起こす、p53転写経路の調節阻害と関連したヒトまたはヒト以外の哺乳動物でのいかなる疾患に対しても有用であり得る。いくつかの実施形態では、これらのp53大環状ペプチドミメティックは、HDM2(例えば、GenBank Accession番号:228952;GL228952)及び/またはHDMX(別称:HDM4;GenBank Accession番号:88702791;GL88702791)と結合する。
【0183】
本明細書で使用される場合、用語「p53/HDM2/HDMX関連の疾患」は、少なくとも部分的に、ヒトタンパク質p53、HDM2またはHMDXの異常な(すなわち、異常に高い、または異常に低い)活性または発現レベルによって引き起こされる、何らかのヒト疾患または障害を指す。
【0184】
本明細書で使用される場合、用語「治療」は、患者(ヒトまたはヒト以外の哺乳動物を含むが、これらに限定されない)に対する治療薬の適用または投与、あるいは、疾患、疾患の症状または疾患素因の治療、治癒、緩和、軽減、変化、回復、寛解、改善または作用を目的として、疾患、疾患の症状または疾患の素因を有する患者からの単離組織または細
胞株に対する治療薬の適用または投与と定義される。
【0185】
したがって、式(VII):
【化40】
のp53大環状ペプチドミメティックは、ヒト(またはヒト以外の哺乳動物)対象でのp53/HDM2/HDMX関連の疾患の治療に使用するために提供される
(式中、
A、C及びDはそれぞれ独立して、天然または非天然アミノ酸であり、末端Dはキャッピング基を含む場合があり、
Bは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ基とカルボキシ基間に少なくとも1つの付加的なメチレン基を含むアミノ酸、二級アミンまたは三級アミンであるアミノ基を含むアミノ酸、エステルによって置換されたカルボキシ基を含むアミノ酸、[−NHN(R
3)C(O)−]、[−NH−L
3−CO−]、[−NH−L
3−SO
2−]または[−NH−L
3−]であり、
Yは、−NH−、−N(R
4)−、−NHN(R
4)−、−NH−O−、−O−または−S−であり、
Zは、−SCHR
6−、−CHR
6S−、−C=C−、−N(R
5)CO−、−CON(R
6)−、−C(R
5)=N(R
6)−、−CH(R
5)−NH(R
6)−、−C(R
5)=N−O−、−CH(R
5)−NH−O−、−C(R
5)=N−NH(R
6)−、−CH(R
5)−NH−NH(R
6)−またはトリアゾール基であり、
L
1、L
2及びL
3は、独立して、それぞれが非置換であるか、またはR
7で置換された、脂肪族基、アリール基、置換脂肪族基、置換アリール基、ヘテロ原子を含む脂肪族基、ヘテロ原子を含むアリール基、置換ヘテロ原子を含む脂肪族基、置換ヘテロ原子を含むアリール基であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基または置換アリール基であり、
R
7は、それぞれ独立して、−H、脂肪族基、置換脂肪族基、アリール基及び置換アリール基であり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
zは、0〜10の整数であり、
wは、1〜1000の整数である)。
【0186】
いくつかの実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子に含まれるペプチド配列は、p53タンパク質のトランス活性化ドメイン(配列番号1)から誘導される。他の実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子に含まれるペプチド配列は、配列番号2及び配列番号3のp53関連ポリペプチドから誘導される。
【0187】
いくつかの実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子は、配列番号1、2及び3に対応するポリペプチド配列と、少なくとも約50%、60%、80%、90%または95%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0188】
いくつかの実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子は、表1、2、3及び/または4に記載されたアミノ酸配列を含む。
【0193】
いくつかの実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子は、配列番号4〜37のポリペプチド配列のいずれかと、少なくとも約50%、60%、80%、90%または95%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0194】
いくつかの実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子は、一般式(VII)の大環状ペプチドミメティック分子に対応する。この場合のアミノ酸配列は表1、2、3及び/または4に記載されるアミノ酸配列であり、これらのアミノ酸配列の残基
【化41】
とカルボキシ末端とを結合する大環状形成性リンカー[−L
1−Z−L
2−Y−]は、
【化42】
及び
【化43】
を含む大環状形成性リンカーの群から選択されるが、これらに限定されない(式中、
【化44】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、それぞれ独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3である)。
【0195】
いくつかの実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子は、一般式(VII)の化合物に対応し、この場合、
i)p53大環状のペプチドミメティック分子に含まれるアミノ酸配列は、配列番号1〜37に対応するポリペプチド配列と、少なくとも少なくとも約50%、60%、80%、90%または95%同一であり、
ii)側鎖−C末端の大環状化は、
【化45】
を含むがこれらに限定されない、アミノ酸類似体の群から選択されるアミノ酸類似体によって、及び
【化46】
を含むがこれらに限定されない、大員環形成リンカーの群から選択される、適合性のある大員環形成リンカーによって媒介され、
ここで、選択されたアミノ酸類似体及び大員環形成リンカー試薬において、
【化47】
は、オルト、メタ、またはパラ二置換フェニル環を示し、
「m」及び「n」は、独立して、1〜10の範囲内の整数であり、
「q」は、0〜5の整数であり、
R′は、それぞれ独立して、−Hまたは−CH
3であり、
R″は、−H、−CH
3または−OHであり、
Xは、−Cl、−Br、−I、−OTs、−OMsまたは−OTfである。
【0196】
いくつかの実施形態では、式(VII)のp53大環状ペプチドミメティック分子は、蛍光標識、親和性標識、放射性同位体標識、標的薬剤または治療薬を含む。
【0197】
いくつかの実施形態では、タンパク質p53、HMD2またはHDMXの異常な発現または活性と関連した障害に感受性である、または障害を有している対象の予防的または治療的両方の処置に使用できる、p53大環状ペプチドミメティック分子を提供する。いくつかの実施形態では、この障害は、少なくとも部分的に、p53またはHMD2またはHDMXの異常なレベル(例えば、過剰発現または過小発現)によって、あるいは異常な活性を有するp53またはHMD2またはHDMXの存在によって引き起こされる。したがって、p53大環状ペプチドミメティック分子によって引き起こされる、p53またはHDM2またはHDMXのレベル及び/若しくは活性の低減、またはp53またはHDM2またはHDMXのレベル及び/若しくは活性の増強は、障害の有害症状の改善または低減に有用であり得る。
【0198】
いくつかの実施形態では、p53大環状ペプチドミメティック分子は、癌及び腫瘍症状の治療、予防及び/または診断に使用される。本明細書で使用される場合、用語「癌」、「過剰増殖性」及び「腫瘍性」は、自律的増殖能、すなわち、細胞成長の急速な増殖を特徴とする異常な状態または症状を有する細胞を指す。過剰増殖性及び腫瘍性の疾患状態は、病理的異常、すなわち疾患状態の特徴または性質を有するものとして分類することも、非病理的異常、すなわち疾患状態を伴わないが正常からの逸脱として分類することもできる。この用語は、侵襲性の組織病理的なタイプまたはステージを問わず、全ての種類の癌性増殖または腫瘍形成のプロセス、転移性組織、または悪性形質転換性の細胞、組織若しくは器官を含むこと意味する。転移性腫瘍は、多数の原発腫瘍タイプから生じ得、胸部、肺、肝臓、結腸及び卵巣由来のものを含むが、これらに限定されない。「病理的過剰増殖性」細胞は、悪性腫瘍増殖を特徴とする疾患状態で発生する。非病理学過剰増殖性細胞の例は、損傷修復と関連した細胞増殖を含むが、これらに限定されない。細胞増殖及び/または分化障害の例は、癌、例えば、癌腫、肉腫または転移性の障害を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、大環状ペプチドミメティック分子は、乳癌、卵巣癌、大腸癌、肺癌、このような癌の転移などを抑制するための新規治療薬である。
【0199】
癌または腫瘍性病状の例として、繊維肉腫、筋肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、胃癌、食道癌、直腸癌、膵臓癌、卵巣癌、前立
腺癌、子宮癌、頭頸部癌、皮膚癌、脳腫瘍、扁平上皮細胞癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、精巣癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、白血病、リンパ腫、またはカポジ肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0200】
増殖障害の例として、造血腫瘍性障害が挙げられるが、これに限定されない。本明細書で使用される場合、用語「造血腫瘍性障害」は、例えば骨髄、リンパ系統若しくは赤血球系統、またはその前駆細胞に起因する、造血系由来の過形成性/腫瘍性細胞を含む疾患を含むが、これらに限定されない。未分化型急性白血病から生じる疾患として、赤芽球性白血病及び急性巨核芽球性白血病が挙げられるが、これらに限定されない。追加の例示的な骨髄性障害には、急性前骨髄球性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)、及び慢性骨髄性白血病(CML)を含むが、これらに限定されず、リンパ性悪性腫瘍には、B系ALL及びT系ALLを含むが、これに限定されない急性リンパ芽球白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、毛様細胞白血病(HLL)、及びワルデンストロームマクログロブリン血症(WM)を含むが、これらに限定されない。悪性リンパ腫の追加の形態は、非ホジキンリンパ腫及びその変異体、末梢性T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、大顆粒リンパ球性白血病(LGF)、ホジキン病及びリード‐スタンバーグ病を含むが、これらに限定されない。
【0201】
乳房の細胞増殖性及び/または分化障害の例は、上皮過形成、硬化性腺症、及び小管乳頭腫を含む増殖性乳房疾患;腫瘍、例えば、線維腺腫、葉状腫瘍及び肉腫などの間質性腫瘍、ならびに大管乳頭腫などの上皮腫瘍;上皮内腺管癌(パジェット病を含む)及び上皮内小葉癌を含む上皮内(非侵襲性)癌などの乳癌、ならびに侵襲性腺管癌、侵襲性小葉癌、髄様癌、膠様(粘液)癌、管状癌、及び侵襲性乳頭癌を含むがこれらに限定されない侵襲性(浸潤性)癌、ならびに混合型悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない。男性乳房における障害は、女性化乳房及び癌を含むが、これらに限定されない。
【0202】
肺の細胞増殖及び/または分化障害の例は、腫瘍随伴症候群を含む気管支原性癌、細気管支肺胞上皮がん、気管支カルチノイドなどの神経内分泌腫瘍、混合型腫瘍、及び転移性腫瘍;炎症性胸水、非炎症性胸水、気胸を含む胸膜の病理的異常、ならびに単発性線維性腫瘍(胸膜線維腫)及び悪性中皮腫を含む胸膜腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0203】
結腸の細胞増殖及び/または分化障害の例は、非腫瘍性ポリープ、腺腫、家族性症候群、結腸直腸発癌、結腸直腸癌、及びカルチノイド腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0204】
肝臓の細胞増殖及び/または分化障害の例は、結節性過形成、腺腫、ならびに肝臓の原発性癌及び転移性腫瘍を含む悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0205】
卵巣の細胞増殖及び/または分化障害の例は、体腔上皮の腫瘍、漿液性腫瘍、粘液性腫瘍、子宮内膜性腫瘍、明細胞腺癌、嚢胞性線維腺腫、ブレンナー腫瘍、表層上皮腫瘍などの卵巣腫瘍;成熟型(良性)奇形腫、単胚葉性奇形腫、未熟悪性奇形腫、未分化胚細胞種、内胚葉洞腫瘍、絨毛癌などの胚細胞腫瘍;顆粒膜細胞腫瘍、莢膜細胞線維腫、男性ホルモン産生細胞腫、ヒル(hill)細胞腫瘍及び性腺芽腫などの性索間質腫瘍;ならびにクルケンベルグ腫瘍などの転移性腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0206】
他の実施形態では、本明細書に記載する大環状ペプチドミメティックは、過活性細胞死または生理的傷害などによる細胞死を特徴とする病状の治療、予防または診断に使用され
る。早発性若しくは望ましくない細胞死、またはその代わりに望ましくない若しくは過度の細胞増殖を特徴とする病状のいくつかの例は、細胞過少/低形成性、無細胞/無形成性、または細胞過多/過形成の病状を含むが、これらに限定されない。例の一部は、ファンコーニ貧血、再生不良性貧血、サラセミア、先天性好中球減少症及び骨髄形成異常を含むが、これらに限定されない血液疾患を含む。
【0207】
他の実施形態では、アポトーシスの減少に作用する本明細書で開示する大環状ペプチドミメティックを使用して、望ましくないレベルの細胞死を伴う障害を治療することができる。したがって、いくつかの実施形態では、抗アポトーシス大環状ペプチドミメティックを使用して、ウイルス感染症に伴う細胞死に至るもののような障害、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に伴う感染症、及び細胞アポトーシスに伴う神経疾患を治療することができる。このような障害として、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、色素性網膜炎、脊髄性筋萎縮症及び脳変性の種々の形態が挙げられる。これらの疾患における神経単位の漸進的喪失は、炎症反応を引き起こさず、アポトーシスレベルの異常な増加と関連して出現する。
【0208】
別の実施形態では、本明細書に記載するp53大環状ペプチドミメティックは、自動免疫疾患を含むがこれに限定されない炎症性障害の治療、予防または診断に使用される。本明細書に記載するp53ペプチドミメティック大員環を用いて治療される自己免疫疾患の例は、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)、自己免疫溶血性貧血、自己免疫肝炎、自己免疫内耳疾患、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、セリアック病、シャーガス病、チャーグ−ストラウス症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、クローン病、皮膚筋炎、I型真正糖尿病、子宮内膜症、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン−バレー症候群(GBS)、橋本病、化膿性汗腺炎、特発性血小板減少性紫斑病、炎症性腸炎(IBD)、間質性膀胱炎、紅班性狼瘡、限局性強皮症、多発性硬化症、重症筋無力症、ナルコレプシー、神経ミオトニー、尋常天疱瘡、悪性貧血、多発性筋炎、リウマチ性多発性筋痛、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、リウマチ様関節炎、統合失調症、強皮症、シェーグレン症候群、側頭動脈炎(別名「巨細胞性動脈炎」)、高安動脈炎、血管炎、白斑及びウェゲナー肉芽腫症を含むが、これらに限定されない。
【0209】
本明細書に記載するp53大環状ペプチドミメティックを用いて治療できる他の種類の炎症性疾患の例は、アレルギー性鼻炎/副鼻腔炎、皮膚アレルギー(蕁麻疹/発疹、血管性浮腫、アトピー性皮膚炎)、食物アレルギー、薬剤アレルギー、昆虫アレルギー、及び肥満細胞症、喘息を含む希少アレルギー傷害を含むアレルギー、骨関節炎、リウマチ様関節炎及び脊椎関節症を含む関節炎、中枢神経限局性血管炎、サルコイドーシス、臓器移植拒絶反応、線維筋痛、繊維症、膵炎及び骨盤炎症性疾患を含むが、これらに限定されない。
【0210】
本明細書に記載するp53大環状ペプチドミメティックを用いて治療または予防できる心臓血管系障害(例えば、炎症性障害)の例は、アテローム動脈硬化症、心筋梗塞、心臓発作、血栓症、動脈瘤、心不全、虚血性心疾患、狭心症、心臓突然死、高血圧性心疾患;細動脈硬化症、小血管疾患、腎臓病、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高脂血症、黄色腫症、喘息、高血圧、気腫及び慢性肺疾患などの非冠状動脈疾患;または、介入的手技を伴う心臓血管系の病状(「手技による血管外傷」)、例えば血管形成術後の、シャント、ステント、合成若しくは天然の切除移植片、留置カテーテル、バルブ若しくは他の埋込み可能な用具の留置後の再狭窄を含むが、これらに限定されるものではない。
【0211】
加えて、本明細書に記載するp53大環状ペプチドミメティック分子を対象に投与することを含む、対象におけるp53/HDM2/HDMX関連疾患の治療方法を提供する。
加えて、本明細書に記載するp53大環状ペプチドミメティック分子を対象に投与することを含む、対象における癌の治療方法を提供する。
【0212】
本明細書で提供される化合物は、1つ以上の(すなわち、少なくとも1つの)キラル中心を含み得る。したがって、化合物は、ラセミ混合物、ジアステレオマー、エナンチオマー、または1つ以上の立体異性体が豊富な混合物であり得る。本明細書で置換基群が開示される場合、その群の個々の構成要素の全て、及びいかなる異性体、エナンチオマー及びジアステレオマーを含む全てのサブグループも本開示に含まれることを意図する。加えて、本明細書で開示する化合物の全ての同位体的形態は、本開示に含まれることを意図する。例えば、本明細書で開示される分子内の1つ以上の水素を、いずれもジウテリウムまたはトリチウムと置換できることが理解されよう。
【0214】
本明細書で開示するp53大環状ペプチドミメティックはまた、薬学的に許容される誘導体またはそのプロドラックも含む。「薬学的に許容される誘導体」は、レシピエントへの投与時に、本明細書で開示する化合物を(直接的または間接的に)提供できるような、本明細書で開示する化合物の薬学的に許容される任意の塩、エステル、エステルの塩、プロドラッグまたは他の誘導体を意味する。特に好ましい薬学的に許容される誘導体は、哺乳動物に投与された場合に、本明細書で開示する化合物のバイオアベイラビリティを増大するもの(例えば、経口投与された化合物の血中への吸収を増大することによる)、または親種と比較して、活性化合物の生物学的区画(例えば、脳またはリンパ系)への送達を増強するものである。一部の薬学的に許容される誘導体は、水への溶解度または消化管膜を通る能動輸送を増強する化学基を含む。
【0215】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示するp53大環状ペプチドミメティックは、選択的な生物学的特性を増強する適切な官能基を共有結合または非共有結合することにより修飾されても良い。このような修飾は、所与の生物学的区画(例えば、血液、リンパ系、中枢神経系)への生物学的透過性を増加させるもの、経口有効性を増加させるもの、可溶性を増加させて注射による投与を可能にするもの、代謝を変化させるもの及び排泄率を変化させるものを含む。
【0216】
本化合物の薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される無機及び有機の酸及び塩基に由来するものを含むが、これらに限定されない。好適な酸性塩の例は、酢酸塩、アジピン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩及びウンデカン酸塩を含む。適切な塩基に由来する塩は、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)塩、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)塩、アンモニウム塩及びN−(アルキル)
4+塩を含む。
【0217】
本開示の化合物から医薬組成物を調製するための、薬学的に許容される担体は固体または液体いずれかの担体を含む。固体形態の製剤は、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤及び分散性粒剤を含む。固体担体は、希釈剤、着香剤、結合剤、防腐剤、錠剤崩壊剤またはカプセル化材料としても機能する1つ以上の物質であり得る。処方及び投与のための技術に関する詳細は、科学文献及び特許文献に十分に記述されており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Maack Publishing Co,Easton PAの最新版を参照されたい。
【0218】
粉末剤において、担体は、微粉化した活性成分と混合されている微粉化した固体である。錠剤において、活性成分は、必要な結合特性を有する担体と好適な割合で混合され、所望の形状及び大きさに圧縮される。
【0219】
好適な固体賦形剤は、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖;トウモロコシ、小麦、米、ジャガイモまたは別の植物のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;ならびにアラビアゴム及びトラガカントゴムを含むゴム;ならびにゼラチン及びコラーゲンなどのタンパク質を含むがこれらに限定されない炭水化物またはタンパク質充填剤である。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのこれらの塩などの崩壊剤または可溶化剤を添加する。
【0220】
液体形態の製剤は、液剤、懸濁剤及び乳剤、例えば、水または水/プロピレングリコール溶液を含む。非経口注射用に、液体製剤を水性ポリエチレングリコール溶液にて溶液に処方することができる。本明細書で使用される場合、用語「非経口」は、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内及び皮下を含む投与様式を指す。
【0221】
本明細書で開示される組成物が、大環状ペプチドミメティック分子と1つ以上の追加の治療薬または予防薬との組み合わせを含む場合、大環状ペプチドミメティック分子及び追加の薬剤はいずれも、約1〜100%の用量レベルで存在すべきであり、いくつかの実施形態では、単剤療法レジメンにおいて通常投与される約5〜95%または約10〜90%の用量で存在すべきである。いくつかの実施形態では、追加の薬剤は、複数回投与レジメンの一部として、本開示の化合物とは別に投与される。あるいは、これらの薬剤は1つの剤形の一部であり、本明細書で開示される化合物と共に1つの組成物中に混合される。
【0222】
本明細書で開示するp53大環状ペプチドミメティックの投与方法は、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、脳内、膣内、経皮、直腸、吸入による、または耳、鼻、目若しくは皮膚への局所塗布による投与を含むが、これらに限定されない。
【0223】
本明細書で用いられる用語及び表現は、限定のためではなく説明のための用語として使用され、このような用語及び表現の使用にあたり、記載及び説明される特徴及びその一部のいかなる等価物も排除することを意図しないが、本明細書で開示される及び/または特許請求の範囲に記載される主題の範囲内で、種々の改変が可能であることが理解される。したがって、実施形態及び任意の特徴を開示しているが、開示される概念の改変及び変形を当業者は用いることができ、このような改変及び変形は、本明細書で開示される及び/または特許請求の範囲に記載される主題の範囲内であると見なされることを理解すべきである。
【0224】
特段の記載のない限り、本開示は、具体的な分子構造、置換基、合成法、反応条件など、それ自体変化し得るものに限定されない。各実施形態は、当然変化し得る特定の組成物または生物系に限定されないことを理解すべきである。
【0225】
本明細書で開示される化合物及び方法の実施にあたり、具体的に例示されたもの以外の出発材料、生体物質、試薬、合成法、精製法、分析法、アッセイ法及び生物学的方法を使用できることを当業者であれば理解されよう。このような何らかの材料及び方法の当該分野で既知の機能的等価物は全て包含されることを意図する。
【実施例】
【0226】
実施例1.p53大環状ペプチドミメティックの設計。
【0227】
PMI(T
1SFAEYWNLLSP
12、配列番号2)と呼ばれる直鎖12−merペプチドが、近年、Pazgierら(Pazgier,Liuら 2009)によるバクテリオファージディスプレイによって単離された。PMIは、p53とHDM2/Xとの相互作用に関与することが知られている、対面型i/i+4/i+7アミノ酸残基のトライアド(Kussie,Gorinaら 1996、Popowicz,Czarnaら 2008)(すなわち、Phe
3、Trp
7及びLeu
10がそれぞれp53のPhe
19、Trp
23及びLeu
26に対応)を持つが、p53誘導ペプチドp53
(15−29)よりも大きな親和性で、HDM2及びHDMXのいずれとも結合する(それぞれ、IC
50は約30〜40nM対200〜300nM)(Pazgier,Liuら 2009)。PMI/HDM2複合体の入手可能な結晶構造を検証すると(Pazgier,Liuら 2009)(
図9A)、溶媒に露出する2つの残基、すなわち、Thr
1及びGlu
5は、本明細書で開示される一般的な方法(
図1)に従ってp53大環状ペプチドミメティック(
図9B)を生成するための2つの生存可能な側鎖結合点であると確認された。大環化方法に関しては、アミノ酸類似体パラ−アセチル−フェニルアラニン(pAcF)によって、及び
図8に提示されたもののようなオキシアミノ/アミノチオール大員環形成リンカーによって媒介される、側鎖−C末端の大環化手順を選択した。PMIペプチド内のPro
12はHDM2表面と有意な接触を確立しないと思われたため(Pazgier,Liuら 2009)、p53大環状ペプチドミメティックを構築するためのC末端結合部位をSer
11の次に置くことを選択し、ペプチドミメティック分子によるαヘリックス形成を更に促進するために、これをAlaに変更した。
【0228】
対応するThr1pAcF及びGlu5pAcFを含む前駆体ペプチドミメティック分子のモデル分析により、pAcFのβ炭素原子とi+6またはi/i+10のAla
11残基のカルボニル原子との間の距離はそれぞれ約13及び17Åであることが明らかになった。この距離は、pAcFと大員環形成リンカー試薬SP6及びSP8(
図8)との反応で生成される大員環形成リンカーにより得られる点間距離(約14〜17Å、
図11B〜11C)と一致する。このような理由から、i/i+6(CO)及びi/i+10(CO)で連結された、一連のp53大環状ペプチドミメティックを設計した。これには、SP6(化合物P3及びP7、
図10)またはSP8(化合物P4及びP8、
図10)のいずれかが、pAcFの側鎖とペプチド配列のC末端とを結合するリンカー部分の一部として組み込まれている。陰性対照として、同じアミノ配列を含むが、「距離不一致」のSP4ベースのリンカー(
図9Aの目標距離13〜17Åに対して、10Å(
図11A))を組み込んだ大員環も調製した。結果として生じるペプチドミメティックは、
図10の化合物P5及びP9に対応する。
【0229】
i/i+10(CO)で連結されたp53大環状ペプチドミティックP8を、p53−HMD2及びp53/HDMXの相互作用の最も有望な阻害剤であると特定するにあたって(実施例6を参照)、N末端のアセチル化(P8→P12、
図10)、ペプチド配列の短縮(P12→P13、
図10)、pAcFとメタ−アセチル−フェニルアラニンとの置換(P13→P14、
図10)、ならびにアミノ酸配列(P13→P15、
図10)及び大員環形成リンカーの変異(P13→P17、
図10)によって、この化合物の更なる最適化を追求した。これらの最適化努力の結果、HMD2及びHDMXに対してナノモル阻害活性を有するp53大環状ペプチドミメティック分子(P15、
図10)を得た。これは細胞による試験で抗癌活性も示した。
【0230】
本実施例では、本開示の方法をどのように適用すると、目的とする標的αヘリックス状タンパク質結合モチーフ(例えば、p53トランス活性化ドメイン)である大環状ペプチドミメティック分子の設計、開発及び最適化が可能であるかについても示す。
【0231】
実施例2.アミノ酸類似体の合成。
【0232】
本実施例は、大環状ペプチドミメティック分子の調製に使用する一般式(VI)のアミノ酸類似体の合成を示す。具体的には、本実施例は、
図3及び4に例示されているもののような大環状ペプチドミメティック分子の調製に有用である、パラ−アセチル−フェニルアラニン(pAcF)及びメタ−アセチル−フェニルアラニン(mAcF)などのラセミ体及び/またはエナンチオピュアのアミノ酸類似体を示す。加えて、本実施例は、側鎖アルキニル基(−C≡CH、例えばOpgY)または側鎖スルフヒドリル基(−SH、例えばAmmF及びMeaF)を含むアミノ酸類似体などの、他の種類のアミノ酸類似体の合成を示す。これは、本開示の各種実施形態に包含される代わりの種類のリンカーによって拘束される大環状ペプチドミメティック分子の調製に有用であり得る。更に本実施例は、これらの化合物(例えば、
図10の化合物P15〜P19)の特性を調節するために、大環状ペプチドミメティック分子のペプチド主鎖内に組み込むことができるアミノ酸類似体(例えば、6−クロロ−トリプトファン)の合成を示す。
【0233】
pAcF及びmAcFラセミ体の合成。pAcF形態の合成を、公開された手順(Frost,Vitaliら 2013)に従って実施した。mAcFラセミ体を、3−アセチル−トルエンを出発物質とする以外は同一のプロトコルを使用して調製した。
【0234】
エナンチオピュアなN−Fmoc pAcF(及びmAcF)の合成。この化合物は、
図5Aに記載されている手順に従って合成した。無水酢酸(4.52mL、mmol、10当量)を添加した酢酸(20mL)に、ラセミ体のp−アセチルフェニルアラニン(1g、4.83mmol、1当量)を溶解した。反応物質を室温で2時間、撹拌した後、蒸発により溶媒を除去した。1mMのCoCl
2・6H
2Oを含有するpH8.0のリン酸緩衝液(50mL)に粗生成物を再溶解させた後、アシラーゼI(500mg)を添加した。随時LiOHを用いてpHを8.0に調整しながら、反応物質を37℃で24時間、撹拌した。反応混合物を60℃で5分間加熱して、室温まで冷却し、セライトに通して濾過した。HClを使用して濾過液をpH約3まで酸性化した後、EtOAcにて抽出した。水性層を凍結乾燥し、次の反応のための粗生成物(410mgのL−エナンチオマー、収率約82%)として使用した。L−p−アセチル−フェニルアラニン(410mg、1.98mmol、1当量)を、NaHCO
3(332.6mg、3.96mmol、2当量)を添加した水/アセトン混合液(1:1、v/v)中に溶解させた。Fmoc−OSu(735.4mg、2.18mmol、1.1当量)をアセトン中で溶解し、3時間かけて反応混合物に部分添加した。反応が完了した時点で、アセトンを蒸発により除去し、酢酸を用いて水性層をpH約3まで酸性化させた後、EtOAcにより抽出した。有機層を混合して、硫酸ナトリウムに通して乾燥させ、蒸発させた。粗生成物を、フラッシュカラムクロマトグラフィ及びヘキサン:EtOAc:AcOH(10:9:1)の溶媒系を用いて精製し、純粋なFmoc−p−アセチル−L−フェニルアラニン(832.7mg、98%)を得た。
1H NMR (500 MHz, CD
3OD), δ2.57 (s,
3H), 3.22−3.41 (m, 2H), 4.45 (t, 1H), 7.3−7.55 (m, 8H), 7.88 (d, 2H), 7.98 (d, 2H).MS (ESI) C
26H
23NO
5[M+H]
+の計算値: m/z 429.16,実測値 429.4。同一の手順を適用して、Fmoc−m−アセチル−L−フェニルアラニンを得た。
【0235】
O−プロパルギル−チロシン(OpgY)の合成。この化合物は、
図5Bに記載されている手順に従って合成した。無水DMF(30mL)を入れた反応フラスコに、L−N−Boc−チロシン(6.0g、21.0mmol)及び炭酸カリウム(9.0g、63.0mmol)を添加した。臭化プロパルギル(6.3mL、63.0mmol)を添加し
て、反応混合物を室温で20時間、撹拌した。得られた二重アルキル化された生成物を、ジエチルエーテル(黄色油、6.8g、91%)を用いて抽出し、直ちに次の工程に使用した。この中間体(6.8g、19.04mmol)をメタノール(180mL)中の塩化アセチル混合物(21mL)に0℃で4時間かけて添加した。次に、得られた中間体(4.9g、19.04mmol)を2NのNaOH(42mL)とメタノール(30mL)との混合物に添加し、この混合物を室温で撹拌した。TLCによって加水分解の完了を確認し(2時間)、濃HClを用いてpHを7.0に調整して、この混合物を4℃で一晩撹拌した。析出沈殿を濾過して、冷水にて洗浄し、減圧下にて一晩乾燥させ、白色粉末として純度98%のOpgY(3.3g、80%)を得た。
1H NMR (400 MHz, D2O) δ 2.78 (s, 2H), 2.94 (dd, J = 6.8, 22.4 Hz, 1 H), 3.08 (dd, J = 9.6, 20 Hz, 1 H), 3.81 (dd, J = 2.0, 12.8 Hz, 1 H), 6.92 (d, J = 8.8 Hz, 2 H), 7.13 (d, J = 8.4 Hz, 2 H); 13C NMR (100 MHz, D2O) δ 35.4, 56.0, 76.6, 78.7, 115.6, 128.5, 130.6, 156.1, 173.9.MS (ESI) C
12H
13NO
3 [M+H]
+の計算値: m/z 220.1;実測値: 220.3。
【0236】
2−アミノ−3−(3−アミノ−4−(メルカプトメチル)フェニル)プロパン酸(AmmF)の合成。この化合物は、
図5Cに記載されている合成スキームに従って合成した。化合物1(Frost,Vitaliら 2013)を出発物質とするこの化合物(20.32g、1.48mmol)を無水THF(400mL)中に溶解させ、次いで溶液を0℃まで冷却した。THF中(1M、52.8mL、52.8mmol、1.1当量)に、LiAlH
4溶液を徐々に添加した。反応混合物をアルゴン下にて0℃で3時間撹拌し、低温のH
2O(3mL)及び4NのNaOH水溶液(1mL)を0℃でゆっくりと添加することにより反応物質をクエンチした後、混合物を室温で10分間、撹拌した。混合物を減圧下で濃縮し、EtOAc/飽和NaHCO
3(10:1、330mL)にて懸濁し、セライトに通して濾過した。濾過液を飽和NaHCO
3で1回、次にブラインで1回洗浄した。無水MgSO
4を用いて有機層を乾燥させ、揮発物を除去し、黄色固体を得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフィ(シリカゲル、7:3のヘキサン/EtOAc)によって精製し、黄色油(18g、95%収率)としてN−Boc−S−トリチル−3−アミノ−4−(メルカプトメチル)ベンジルアルコール(2)を得た。
1H NMR (CDCl
3, 500 MHz): δ 7.78 (s, 1H), 7.49 (d, J=7.3 Hz, 5H), 7.34 (t, J=7.7 Hz, 5H), 7.26 (t, J=3.0 Hz, 5H), 7.13 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.01 (d, J=7.8 Hz, 1H), 6.73 (s, 1H), 4.63 (s, 2H), 3.17 (s, 2H), 1.54 ppm (s, 9H); MS (ESI):C
32H
33NO
3Sの計算値: 534.68 [M+Na]
+;実測値: 535.64。2(9.3g、18.19mmol)を無水CH
2Cl
2(100mL)に溶解し、溶液を0℃まで冷却した。メタンスルホニルクロリド(1.8mL、23.66mmol、1.3当量)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA;4.2mL、23.66mmol、1.3当量)を添加し、反応混合物をアルゴン下にて0℃で2時間、撹拌した。次に混合物をCH
2Cl
2中に溶解させ、NaHCO
3飽和水溶液で2回、ブラインで1回洗浄した。有機層を無水MgSO
4上で乾燥させ、揮発物を除去し、黄色固体である化合物3(9.42g、88%収率)を得た。材料を更に精製することなく、次の工程を進めた。
1H NMR (CDCl
3, 500 MHz): δ 7.88 (s, 1H), 7.49 (d, J=7.3 Hz, 5H), 7.34 (t, J=7.7 Hz, 5H), 7.26 (d, J=14.6 Hz, 5H), 7.16 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.04 (d, J=9.5 Hz, 1H), 6.75 (s, 1H), 5.18 (s, 2H), 3.17 (s, 2H), 2.90 (s, 3H), 1.54 ppm (s, 9H); MS (ESI):C
33H
35NO
5S
2の計算値: 612.76 [M+Na]
+;実測値: 612.04。乾燥させるため、アルゴンを充填した丸底フラスコに化合物3(9.42g)及びジエチルアセトアミドマロネート(4.52g、20.8mmol、1.3当量)を添加した。この混合物を100mLの無水DMF中に溶解させた後、0℃まで冷却した。次に、NaH(60%鉱油分散物)(0.84g、20.8mmol、1.3当量)を添加し、反応混合物をアルゴン下にて0℃で15時間、撹拌した。完了した時点で、反応物質を10mLまで濃縮し、350mLのCH
2Cl
2によって抽出して、フラッシュクロマトグラフィ後に白色固体として化合物5を得た(5.4g、60%収率)。
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) δ= 7.52 (s, 1H), 7.48 (d, J= 8 Hz, 6H), 7.32 (t, J= 7.5 Hz, 6H), 7.23 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 7.01 (d, J= 8 Hz, 1H), 6.68 (s, 1H), 6.63 (d, J= 7.5 Hz, 1H), 6.57 (s, 1H), 4.26 (q, J= 7.5 Hz, 4H), 3.58 (s, 2H), 3.12 (s, 2H),
2.06 (s, 3H), 1.52 (s, 9H), 1.27 ppm (t, J =
7 Hz, 6H); MS (ESI):C
41H
46N
2O
7Sの計算値: 733.89 [M+Na]
+;実測値: 733.22。アルゴン充填した250mLの乾燥した丸底フラスコに化合物4(5.4g、7.6mmol、1当量)を添加し、70mLの無水ジクロロメタン中に溶解させた。この溶液に、トリイソプロピルシラン(3.88mL、19mmol、2.5当量)を添加し、反応混合物を氷浴にて冷却した。TFA(18mL)をシリンジによって徐々に添加し、アルゴン下にて0℃で30分間、反応物質の撹拌を続けた。完了した時点で、AmmFをフラッシュクロマトグラフィによって反応混合物から分離した(2.27g、100%)。
1H NMR (500 MHz, D
2O) δ 7.54 (d, J= 10 Hz, 1H), 7.41−7.30 (m, 2H), 4.31 (t, J= 5 Hz, 1H), 3.88 (s, 2H), 3.36−3.27 ppm (m, 2H);
13C NMR (126 MHz, D
2O) δ= 171.57, 135.46, 134.41, 131.42, 130.60, 128.73, 124.78, 54.29, 35.01, 23.12 ppm; MS (ESI):C
10H
14N
2O
2Sの計算値: 227.08 [M+H]
+;実測値: 226.98。
【0237】
2−アミノ−3−(3−((2−メルカプトエチル)アミノ)フェニル)プロパン酸(MeaF)の合成。この化合物は、
図5Dに記載されている合成スキームに従って合成した。中間体7を得るために、NaH(60%鉱油分散物)(1.11g、27.7mmol、1.2当量)を、アルゴン充填した乾燥した丸底フラスコに添加し、150mLの無水DMF中に溶解させた。フラスコを0℃まで冷却し、溶液にジエチルアセトアモミドマロネート(5.53g、25.5mmol、1.1当量)を添加した。5分後に、化合物6(5g、23.14mmol、1当量)を添加した。反応をアルゴン下にて0℃で16時間、続行した。抽出後、7を白色固体として得た(8g、98%収率)。
1H NMR (400MHz, CDCl
3) δ = 8.12 (d, J= 8 Hz, 1H), 7.90 (s, 1H), 7.46, (t, J= 7.6 Hz, 1H), 7.36 (d, J= 7.2 Hz, 1H), 6.61 (s, 1H), 4.27 (q, J= 8 Hz, 4H), 3.78 (s, 2H), 2.39 (s, 3H), 1.48 ppm (t, J= 6.8 Hz, 6H); MS (ESI):C
16H
20N
2O
7の計算値: 375.34 [M+Na]
+;実測値: 375.85。化合物7(5g、14.2mmol、1当量)に、1gのPd/Cをアルゴン充填したフラスコ及びフラスコ中で添加した。115mLの脱気したメタノールを添加して、反応混合物を室温にて3時間、H
2を用いてスパージングした。抽出後、化合物8をオフホワイト色の固体として得た(4.45g、97%収率)。
1H NMR (500MHz, CDCl
3) δ = 8.12 (d, J=8.5 Hz, 1H), 7.90 (s, 1H), 7.45 (t, J=7.5 Hz, 1H), 7.36 (d, J=7.5 Hz, 1H), 6.55
(s, 1H), 4.29 (q, J=7 Hz, 4H), 3.78 (s, 2H), 2.06 (s, 1H), 1.32 ppm (t, J=7 Hz, 6H); MS (ESI): C
16H
22N
2O
5の計算値: 345.36 [M+Na]
+; 実測値: 345.19。化合物8(4.5g、14mmol、1当量)を丸底フラスコに添加して、90mLのエタノール中に溶解させた。NaCNBH
3(0.97g、15.4mmol、1.1当量)を添加し、溶解性を補助するため混合物を超音波処理した。クロロアセトアルデヒド(2.7mL、15.4mmol、1.1当量)、続いて氷酢酸(0.81mL、14mmol、1当量)を添加した。反応は、アルゴン下にて室温で4時間、続行した。フラッシュクロマトグラフィによる精製後、黄色油として化合物9を得た(3.46g、9mmol、64.2%収率)。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ = 6.91 (t, J=8 Hz, 1H), 6.42 (d, J=8 Hz, 1H), 6.21 (d, J=7.6 Hz, 1H), 6.19 (s, 1H), 4.18 − 4.06 (m,4H), 3.52 (t, J= 6.4 Hz, 2H), 3.41 − 3.29 (m, 4H), 1.91 (s, 3H), 1.16 ppm (t, J=7.2 Hz, 6H); MS (ESI): C
18H
25ClN
2O
5の計算値: 407.86 [M+Na]
+;実測値: 407.33。化合物9(3.46g、9mmol、1当量)を85mLの無水DMF中に溶解させた。これに、トリフェニルメチルメルカプタン(2.73g、9.9mmol、1.1当量)、続いて炭酸カリウム(1.5g、10.8mmol、1.2当量)を添加し、50℃で12時間、撹拌した。フラッシュクロマトグラフィによりシリカゲル上で粗生成物を精製し、化合物10を黄色油として得た(3.38g、5.4mmol、60%収率)。
1H NMR (500MHz, CDCl
3) δ = 7.39 (d, J=7.5 Hz, 6H), 7.26 (t, J=7.2 Hz, 3H), 7.22 (d, J=7.1 Hz, 6H), 7.19 (s, 1H), 7.00 (t, J=7.8 Hz, 1H), 6.51 (s, 1H), 6.32 (d, J=7.1 Hz, 2H), 6.13 (s, 1H), 4.25 (p, J=7.2 Hz, 4H), 3.53 (s, 2H), 2.98 (t, J=6.6 Hz, 2H), 2.47 (t, J=6.5 Hz, 2H), 1.96 (s, 3H), 1.27 ppm (t, J=7.1 Hz, 6H); MS (ESI): C
37H
40N
2O
5Sの計算値: 647.80 [M+Na]
+; 実測値: 647.91。化合物10(3.38g、5.4mmol、1当量)を8mLのTFAにて0℃で20分間、脱保護した。乾燥した残基を35mLの4N HCl水溶液中に溶解させ、還流状態にて一晩加熱した。精製後、MeaFをモノマー及びダイマーの混合物(薄茶色固体;1.5g、5.4mmol、99.9%)として得た。
1H NMR (500 MHz, D
6−DMSO) δ= 8.69 (s, 1H), 7.41−7.2 (m, 3H), 4.16 (t, J= 10 Hz, 1H), 3.37 (t, J= 5 Hz, 2H), 3.18−3.10 (m, 2H), 2.79 (t, J= 10 Hz, 2H), 2.50 (s, 1H);
13C NMR (126 MHz, MeOD) δ= 170.86, 138.87, 136.78, 132.19, 132.13, 125.21, 123.43, 55.71, 54.77, 36.86, 20.72 ppm; MS (ESI): C
11H
16N
2O
2Sの計算値: 241.32 [M+H]
+; 実測値: 241.61。
【0238】
L−6−クロロ−トリプトファンの合成。この化合物は、
図6に記載されている合成スキームに従って合成した。酢酸(10mL)中の6−クロロインドール(500mg、3.31mmol、1当量)溶液に、L−セリン(695mg、6.62mmol、2当量)及び無水酢酸(3.1mL、33.1mmol、10当量)を添加し、混合物をアルゴン下にて73℃で4時間、撹拌した。反応混合物を半量まで濃縮し、水で希釈して、EtOAcを用いて抽出した。有機層を混合して硫酸ナトリウム上で乾燥させ、蒸発させて粗生成物N
α−アセチル−6−クロロ−D,L−トリプトファン(686mg、74%収率)を得た。
1H NMR (500 MHz, CD
3OD) δ1.91 (s, 3H),
3.15−3.31 (m, 2H), 4.67 (t, 1H), 6.97 (dd, 1H), 7.10 (s, 1H), 7.33 (d, 1H), 7.53 (d, 1H)。N
α−アセチル−6−クロロ−D,L−トリプトファン(686mg、2.45mmol)を、1mMのCoCl
2・6H
2Oを含有するpH8.0のリン酸緩衝液(50mL)中に溶解させた。反応混合物に、アシラーゼI(500mg)を添加し、随時LiOHを用いてpHを8.0に調整しながら、反応物質を37℃で24時間、撹拌した。反応混合物を60℃で5分間加熱して、室温まで冷却し、セライトに通して濾過した。HClを使用して濾過液をpH約3まで酸性化して、EtOAcにて抽出した。水性層を凍結乾燥し、次の反応のための粗生成物として使用した。(L−エナンチオマーに対する理論収率に基づいて)収率を43%、125.4mgと推定した。6−クロロ−L−トリプトファン(125.4mg、0.527mmol、1当量)を、NaHCO
3(88.5mg、1.05mmol、2当量)を添加した水/アセトン混合液(1:1、v/v)中に溶解させた。Fmoc−OSu(195.6mg、0.58mmol、1.1当量)をアセトン中で溶解し、3時間かけて反応混合物に部分添加した。反応の完了に続いて、アセトンを蒸発させ、酢酸を用いて水性層をpH約3まで酸性化させた後、EtOAcにより抽出した。有機層を混合して、硫酸ナトリウムに通して乾燥させ、蒸発させた。粗生成物を、フラッシュカラムクロマトグラフィ及びヘキサン:EtOAc:AcOH(10:9:1)の溶媒系を用いて精製し、純粋なFmoc−6−クロロ−L−トリプトファン(237mg、98%)を得た。
1H NMR (500 MHz, CD
3OD), δ3.16−3.32 (m, 2H), 4.65 (t, 1H), 6.98 (dd, 1H), 7.12 (s, 1H), 7.3−7.55 (m, 8H), 7.79 (d, 2H).
MS (ESI) C
26H
21ClN
2O
4[M+H]
+の計算値: m/z 460.12,実測値 460.4。
【0239】
実施例3.大員環形成リンカー試薬の合成。
【0240】
本実施例は、本明細書で提示される方法による大環状ペプチドミメティックの調製に有用であり得る種々の大員環形成リンカー試薬の合成を示す。特に、本実施例は、
図8に提示されたもののような、オキシアミノ/アミノチオール官能化された大員環形成リンカー試薬の合成について示す。これは
図3及び4に記載されている代表的な方法による大環状ペプチドミメティックの調製に有用であり得る。
【0241】
SP4、SP5、SP6及びSP7の合成。これらの化合物を、
図7に提示され、(Frost,Vitaliら 2013)に記載されたスキームに従って調製した。
【0242】
SP8及びSP9の合成。1(
図5C)を出発物質として、この化合物を、対応する遊離カルボン酸誘導体(=3−((tert−ブトキシカルボニル)アミノ)−4−((トリチルチオ)メチル)安息香酸)に加水分解した。0.677gのこの中間体(1.31mmol)をジクロロメタン(15mL)中に溶解させ、アルゴン下で溶液にtert−ブチル−3−アミノプロポキシカルバメート(0.25g、1.31mmol)、HBTU(0.745g、1.96mmol)及びDIPEA(0.55mL、3.15mmol)を添加した。フラッシュクロマトグラフィによる抽出及び精製後、tert−ブチル(5−((3−(((tert−ブトキシカルボニル)アミノ)オキシ)プロピル)カルバモイル)−2−((トリチルチオ)メチル)−フェニル)カルバメートを分離した(0.658g、72%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 1.45 (s, 9 H), 1.52 (s, 9 H), 1.85−1.90 (m, 2 H), 3.18 (s, 2 H), 3.56−3.61 (m, 2 H), 3.98 (t, 2
H, J = 5.6), 7.14 (d, 1 H, J = 8.0), 7.22−7.26 (m, 3 H), 7.30−7.34 (m, 6 H), 7.48−7.52 (m, 7 H), 8.18 (s, 1 H)。この中間体(0.48g、0.69mmol)
をアルゴン下にて0℃でジクロロメタン(7.5mL)中に溶解させた。トリイソプロピルシラン(0.36mL、1.75mmol)、続いてTFA(1.6mL、滴下)を添加した。反応物質を0℃で30分間、撹拌した。次に、揮発物を減圧下で除去し、黄色の残留物を高真空下に一晩配置した。氷冷ヘキサンを加えて生成物を粉砕し、減圧下で乾燥させ、SP8を固体で得た(0.18g、定量)。
1H NMR (500 MHz, d
4−MeOD): δ 1.95−2.01 (m, 2 H), 3.48 (t, J = 6.8, 2 H), 3.72 (s, 2 H), 4.11 (t, 2 H, J = 6.0), 7.09 (d, J = 8.0, 1 H), 7.13 (d, J = 8.0, 1 H), 7.23 (s, 1 H).
13C NMR (125 MHz, d4−MeOD): δ 29.14, 37.34, 40.14, 74.16, 116.3, 116.6, 117.8, 126.5, 132.7, 135.9, 170.5. MS (ESI) C
11H
17N
3O
2S [M+H]
+m/zの計算値: 256.34;実測値: 255.92。
【0243】
実施例4.p53大環状ペプチドミメティックの化学生合成による合成。
【0244】
本実施例は、
図4に例示している代表的な方法(実施形態)による、本開示の大環状ペプチドミメティックの調製を示す。
【0245】
大腸菌での生合成前駆体の合成。簡潔には、標的ペプチド配列(GTSFA(pAcF)YWNLLA)及び(G(pAcF)SFAEYWNLLA)の後ろにMxe GyrA(N198A)インテイン及びC末端Hisタグを含むタンパク質前駆体を以下の手順で調製した。最初に、GyrA遺伝子と融合された、これらのペプチド配列をコードする遺伝子(pAcFの組み込みには、アンバー終止コドンTAGが使用される)を、pET22bベースのプラスミドpMG−G8T(Frost,Vitaliら 2013)をテンプレートとして、フォワードプライマーのPMI_for1 5′−gcgattggaacctgctggcgtgcatcacgg−gagatgcactagt−3′及びPMI_for2 5′−ctagacatat−gggctagagcttcgcggaatattggaacctgctggcgtgcat−3′、ならびにリバースプライマーのT7ターミネーター5′−GCTAGTTATTGCTCAGCGGTGGC−3′を使用してPCRにより生成した。得られたPCR産物(約0.75Kbp)を、Nde I及びXho I制限酵素を使用して、pET22プラスミド(Novagen)にクローニングし、プラスミドpPMI−2−GyrA及びpPMI−3−GyrAを作製した。これらの構造物において、生合成前駆体タンパク質のための遺伝子コード化は、IPTG誘導可能なT7プロモーターの制御下にある。pPMI−2−GyrA(またはpPMI−3−GyrA)と、パラアセチルフェニルアラニン(pAcF)でアンバー終止コドンを抑制する報告済みのMj tRNA
CUA/アミノアシル−tRNAシンテターゼ対(Wang,Zhangら 2003)をコードするpEVOLベースのベクターとをBL21(DE3)大腸菌細胞に共形質転換し、前駆体タンパク質を発現させた。タンパク質の発現は記載(Frost,Vitaliら 2013)のように実施された。発現後、上記に記載したようにNiアフィニティークロマトグラフィでタンパク質を精製した。単離されたタンパク質の同一性をMALDI−TOF及びSDS−PAGEによって確認した。MS分析は、精製されたタンパク質において、最初のメチオニンが完全に切断されていることを示した。
【0246】
大環状ペプチドミメティックの合成及び単離。
図10の化合物P3〜P9を、前駆体タンパク質PMI−2−GyrA(またはPMI−3−GyrA)と適切な合成前駆体(SP6、SP8またはSP4)との間の大規模大環状化反応によって調製した。通常の反応では、タンパク質(200μM、リン酸カリウム50mM、NaCl 150mMの緩衝液(pH7.5)中)を10mMの合成前駆体及び10mMのTCEP(総量:6mL)
と混合した。30時間後、反応混合物のpHを8.5に調整し、ヨードアセトアミド(15mM)と共に1時間培養して遊離チオール基をキャップした。反応物質を4000xgで2分間、遠心分離し、その後上清(a)をペレットから分離した。ペレットを20%のアセトニトリル/H
2O中に再懸濁させ、数分間ボルテックスして大員環生成物を溶解させた後、4000xgで2分間、遠心分離して上清(b)を得た。上清(a及びb)を混合して、10カラムボリューム(CV)のMeOH、10CVのアセトニトリル及び10CVの水にて前洗浄した固相抽出C
18カラムに加えた。大員環生成物を10%〜80%のアセトニトリル水溶液の勾配を利用して溶出した。溶出した大員環を更に、25℃に維持したGraceSmart RP C18カラム(250x4.6mm、5μm)、流量0.9mL/分、A:水+0.1%TEA及びB:アセトニトリル+0.1%TFAからなる二成分移動相系、ならびに10%〜90%の溶媒Bによる直線的濃度勾配(12分)を用いてHPLCにより精製した。単離した大員環の同一性をLC−MS及びMS/MSによって確認した。全ての大員環生成物の質量を以下の表に列挙する。
【表4-1】
【0247】
実施例5.p53大環状ペプチドミメティックの固相合成。
【0248】
本実施例は、
図3に例示している代表的な方法(実施形態)による、本開示の大環状ペプチドミメティックの調製を示す。
【0249】
大環状ペプチドミメティックの合成及び単離。
図10のP12〜P19の大員環は、最初に安全キャッチ樹脂上での標準的なFmoc固相ペプチド合成によって、対応する非環式前駆体分子をアセンブリし、続いて対応する大員環形成リンカー試薬(すなわちSP8またはSP9、
図8)の存在下で、樹脂上または溶液中で環化することにより調製した。簡潔には、SPPS工程の全てのアミノ酸カップリングは、2当量のFmoc保護アミノ酸、カップリング試薬としてHBTU及びHOBt(それぞれ2当量)、ならびに0.4MのNMM/DMFを使用して1時間で実施した。アミノ酸類似体(すなわち、N−Fmoc保護されたpAcF、mAcFまたは6Cl−Trp)も全て同様に、同一条件を使用してカップリングした。Fmoc基の除去は、20%のピペリジン/DMFを使用して、20分間で実施した。ペプチドは全て、無水酢酸及びDIPEAを使用してN末端にアセチル化した。工程は全て、遊離アミン検出のためのKaiser標準プロトコルを使用してモニターした。直鎖前駆体分子の形成後、過剰(50当量)のヨードアセトニトリルを用いて、穏やかに振盪しながら一晩処理することによりスルホンアミドリンカーを活性化した。洗浄時に、適切な大員環形成リンカー試薬(すなわち、SP8、SP9またはSP4)単独で、または固体担体からのペプチド切り出し、それに続くS−Nアシル転位(THF、一晩)を促進するため、ベンジルメルカプタンを添加して樹脂に処理を施した。
反応は、ジスルフィド形成を阻止するためTCEPの存在下で行い、MALDI−TOF
MSによってモニターした。環化反応の完了後、TFA(TFA:トリイソプロピルシラン:水=95:2.5:2.5、v/v/v)を用いた処理をペプチドに施して、保護基の全てを除去し、冷ジエチルエーテル中で沈殿させた。粗生成物を引き続きヨードアセトアミド(1時間、20%のDMSO/水)で処理して、残留チオール基をアルキル化し、RP−HPLC及び5〜95%のアセトニトリル水溶液(0.1%のTFA添加)の勾配を使用して30分にわたり精製した。精製されたペプチドの同一性をMALDI−TOF MSを使用して確認した(表5)。
【0250】
フルオレセイン(FITC)で標識したペプチドの合成を、N末端β−Alaがアセチル化の代わりにN末端に付加されることを除いて同様に実施した。β−AlaからFmoc保護基を除去して、DMF中で2当量の過剰のDIPEAを使用してFITCをカップリングした。ペプチドを更に上記と同様に処理した。精製されたペプチドの同一性をMALDI−TOF MSを使用して確認した(表5)。
【0251】
【表5】
【0252】
実施例6.インビトロ阻害活性。
【0253】
本実施例は、p53とHDM2またはHDMXとの間のタンパク相互作用を阻害する、実施例1に記載したp53大環状ペプチドミメティック分子設計の機能を示す。
【0254】
p53とHDM2/Xとの相互作用を阻害するP1〜P19の化合物(
図10)の能力を、表面プラズモン共鳴(SPR)阻害アッセイを使用して評価した。簡潔には、最初にビオチンをコンジュゲートしたp53
(15−29)ペプチドをストレプトアビジンでコーティングしたバイオセンサーチップに固定し、一定濃度のHDM2またはHDMXに、阻害剤の濃度を増加させながら添加した。対応する用量反応曲線(
図12A〜12B)から、化合物の最大半数阻害濃度(IC
50)を決定し、
図10にまとめた。興味深いことに、これらの研究で、P3及びP4はいずれも非環式相対物P2と比較して、HDMX(P4)に対して、またはHMD2及びHDMX(P3)の両方に対して約2分の1のIC
50を示し、改善された阻害活性を有することが明らかになった。加えて、SP4をベースとする大員環P5が非常に弱い阻害(IC
50≒10μM)を示したことから、予測されたように合成リンカーの長さと標的の側鎖−C末端の架橋距離との間の不一致が有害な影響を及ぼすことが示された。
【0255】
i/i+10(CO)で連結された大員環P7及びP8は、P3及びP4と比較して、HMD2/Xとのp53相互作用を阻害する大幅に改善された能力を示した(
図10)。対応する大員環の結合特性に対する非ペプチド性リンカー型の顕著な効果も明らかだった。特に、SP4を含むP9は、HDM2またはHDMXに対してごくわずかな阻害活性しか所有しないことがわかった(IC
50>50μM)。これにより、「距離不一致」のSP4を介する環化は、組み込みPMI誘導ペプチド配列による生物活性のαヘリックス状配座との適合を強く妨げることが確認された。顕著な対照として、「距離一致」のSP6の存在下では、非常に高い阻害活性が観察され、両方のタンパク質同族体に対してマイクロモル以下のIC
50値を有する化合物をもたらした。興味深いことに、P7のトリアゾール単位をP8のアルキル鎖に置き換えるだけで、HDM2(IC
50:110対475nM)及びHDMX(IC
50:340対910nM、
図10)の両方に対する阻害活性が更に有意に(3倍〜4倍)改善された。興味深いことに、リンカーの性質は、2つのタンパク質同族体に対する化合物の選択性にも影響を及ぼすことがわかった。実際、拘束性のないペプチドP6は、HDMXよりもHDM2に対して強い選択性を有するが、大環状相対物及び特にP7は、むしろ等能性の二重阻害剤として挙動する(IC
50(HDMX)/IC
50(HDM2)=5.5対1.9)。
【0256】
最も有望な大員環P8を出発物質として、大員環に包含されるペプチド配列を更に短縮及び修飾することにより、この化合物のHDM2/X阻害活性の更なる最適化を達成した(例えば、P15のIC
50が2分の1に低下、
図10)。代わりのリンカー(例えば、SP9対SP8)ならびに側鎖テザリングのための代わりのアミノ酸類似体(例えば、mAcF対pAcF)を有する大員環でも、HDM2及びHDMXに対する強力な阻害剤が得られ(IC
50<200nM)、基準となる直鎖p53誘導ペプチドP1と比較して、これらのタンパク質に5倍〜10倍高い親和性を示した。概してこれらの結果は、標的αヘリックス媒介性のタンパク質−タンパク質相互作用の強力な阻害剤の開発に対する、本明細書に記載する方法の有用性及び多用性を示している。
【0257】
HMD2及びHMDXタンパク質のクローニング、発現及び精製。ヒトHDM2(残基1〜109)及びヒトHDMX(残基1〜109)のp53結合ドメインをコードする遺伝子を、pET22ベクター(Novagen)にクローニングした。HDM2遺伝子のPCR増幅用テンプレートは、プラスミドpGEX−4T MDM2 WT(AddGene#16237)であった(Zhou,Liaoら 2001)。最終的なプラスミド構造物(pET22−HDM2−YFP−His及びpET22−HDMX−YFP−H
is)では、C末端Hisタグを含む黄色蛍光タンパク質(YFP)にHDM2/Xタンパク質をC末端融合した。YFPタンパク質との融合は、タンパク質構造物の溶解性及び安定性を改善することがわかった。HDM2−YFP及びHDMX−YFP融合タンパクを単離するために、pET22−HDM2−YFP−His及びpET22−HDM2−YFP−HisプラスミドをそれぞれBL21(DE3)細胞に形質転換させ、続いてアンピシリン(50mgL
−1)を含有するLB培地にプレーティングし、一晩増殖させた。一晩培養物を用いて500mLのLB培土(50mgL
−1のアンピシリン)に播種し、これをOD
600値約0.6で0.5mMのIPTGを加えて誘導し、27℃で16時間培養した。細胞を遠心分離により採取し、音波処理により溶解させた。上清の溶解液をNi−NTAアフィニティーカラム上に充填し、タンパク質を50mMのトリス、150mMのNaCl、300mMのイミダゾール(pH7.4)を用いて溶出した。緩衝液をリン酸カリウム50mM、NaCl 150mMの緩衝液(pH7.5)に交換した後、タンパク質溶液のアリコートを−80℃で保存した。タンパク質濃度を、タンパク質の一次配列に基づいて算出された吸光係数280nm(ε
280)を使用して測定した。単離されたタンパク質の同一性をMALDI−TOF及びSDS−PAGEによって確認した。
【0258】
阻害アッセイ。表面プラズモン共鳴(SPR)による阻害アッセイを、BIAcore
T100測定器を使用して実施した。最初に、ストレプトアビジンをコーティングしたバイオセンサーチップ(SAチップ、GE Healthcare)上に、約500RUのビオチン化したp53ペプチド(ビオチン−SGSG−p53
15−29)を固定化することにより、HDM2/X結合表面を生成した。ランニングバッファー及びサンプルバッファーは、150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.05%v/vのTween 20を含む、10mMのHEPES緩衝液(pH7.4)を含有していた。阻害試験のために、一定濃度(150nM)の精製されたHDM2−YFPまたはHDMX−YFPに阻害剤の濃度を増加させながら添加し、その混合物を官能化表面上に注入した。阻害剤の濃度の増加に応じて、HDM2(またはHDMX)と表面との結合が阻害され、それに伴いバイオセンサーの反応は減少する。阻害剤サンプルを加えたHDM2/HDMXを、2分の解離期間及び10mMのHClを使用した10秒の再生工程ごとに、2分間隔で速度30uL/minで注入した。p53コーティング面での反応から基準面の反応を減算することにより、阻害剤の濃度ごとの特異的な結合曲線を得た。SigmaPlot 12.5ソフトウェアを用いてデータを分析し、ある部位の競合的結合についてシグモイドプロットとヒルの式との相関からIC
50値を導出した。
【0259】
実施例7.HDM2結合試験。
【0260】
HDM2結合試験。選択された大員環(例えば、P8)及び基準となる直鎖p53
(15−29)ペプチド(P1)のHDM2に対する直接結合について、蛍光偏光アッセイを使用して平衡解離定数(K
D)を測定した。結合試験のために、β−アラニンリンカーを介して大員環またはペプチドのN末端にフルオレセインを取り付けることによって(すなわちFITC−β−Ala−P8、FITC−β−Ala−P1)、各化合物の蛍光標識誘導体を調製した。このアッセイでは、25〜200nMのフルオレセイン標識化合物、及び10nM〜2μMの範囲で濃度変化するHDM2を試験した。実験は、1%のDMSOを添加した、最終容量75μLのPBS緩衝液を入れた96ウェル黒色プレートにて室温で実施した。470/520nmでの蛍光の励起/放出を検出し、変化するタンパク質濃度に対する蛍光偏光の変化をプロットした。これらの試験は、大環状ペプチドミメティックの多数が強力にHDM2と結合することを示した。例えば、P8は63nMの推定K
DでHMD2と結合すると判定され、これは直鎖p53
(15−29)ペプチドと比較して(K
D約550nM)、1桁高い親和性に相当する。
【0261】
実施例8.大環状ペプチドミメティックのαヘリックス。
【0262】
ペプチドの配座特性に対する大環化の影響を検討するために、円二色性(CD)分析を、代表的な大環状化合物(P7及びP8)に対して、ならびに対照としての直鎖ペプチドP6に対して実施した(
図13A)。ペプチドP6は、αヘリックス状配座の存在と一致する、222nm及び208nmで最低値を示すことを見出した。ペプチドのαヘリックス含有量は約31%であると推定された。SP6(P7)を有するこの配列の環化は、αヘリックス性の増加(40%)をもたらし、対してP8は、組み込みペプチド配列においてαヘリックス含有量のわずかな減少(21%)を示した。総合すると、これらの試験は、αヘリックス状モチーフに適応する大環状ペプチドミメティックの能力、及び特定の場合においてαヘリックス状モチーフを安定化させる大環状ペプチドミメティックの能力を示している。αヘリックス性とインビトロ阻害活性との間に厳密な相関関係がないことは驚くべきことではない。その理由は、HDM2/X結合分子の結合特性には、リンカー部分とタンパク質表面との潜在的相互作用(Brown,Quahら 2013)を含む、追加の要因が影響し得るためである(Bernal,Wadeら 2010、Muppidi,Wangら 2011)。
【0263】
円二色性試験。0.1cm経路長のキュベットを使用したJASCO J−710 CD分光偏光計を用いて、室温にてCDスペクトルを記録した。精製したペプチドを、40%トリフルオロエタノールを含有する5mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中に溶解させ、最終濃度を20〜50μMにした。195〜250nmの波長範囲で、速度10nm/分、応答時間1.0秒、及び解像度0.5nmにて記録された2スキャンのスペクトルを平均した。帯域幅は2.0nmに設定し、分光計の感度は100mdegに設定した。平均残基楕円率を波長に対してプロットし、各ペプチドのヘリックス含有量を以下の式に基づいて導出した:nをペプチド結合数とした場合、[θ]
222/[40000x(n−4)/n](Johnson及びTinoco 1972)。
【0264】
実施例9.大環状ペプチドミメティックのタンパク分解安定性。
【0265】
本明細書に記載する方法によるペプチドベースの分子の大環化から想定される潜在的利点は、タンパク分解安定性の増強である。直鎖ペプチドPMIは、インビトロでは力価が高いにも関わらず、急速なタンパク質分解に部分的に起因し、細胞によるアッセイで効果がないことが実際に見出された(Pazgier,Liuら 2009)。p53大環状ペプチドミメティックのタンパク分解安定性を評価するために、代表的な大員環P7及びP8を、基準となる直鎖ペプチドP6と共に、キモトリプシンの存在下で培養した(
図13B)。P6は急速なタンパク質分解を受け、元のペプチドはわずか30分後に検出不能になることがわかった。対照的に、大環状ペプチドP7及びP8は、プロテアーゼによる最大3及び4時間の培養にも生存し、それぞれ非環式相対物と比較して10倍〜15倍長い半減期を示した。これらのデータから、タンパク質分解に対する増加した耐性をこれらの化合物に与える、有益な分子内結合の効果が明示された。SP6ベースのリンカーがSP8ベースのリンカーと比較して、αヘリックスの安定化とタンパク質分解耐性の両方に関して良好なパフォーマンスをいかに提供するかも言及すべき興味深い点であった。これは、SP8よりもSP6の配座柔軟性が減少することと関連し得る。
【0266】
タンパク分解耐性の分析。150mMのNaCl及び10%のDMSOを含有する50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)中に、各ペプチド(10μM)を溶解させた。キモトリプシン(Sigma−Aldrich)を最終濃度1.0μg/mLとなるように添加して、室温で培養した。各時点で、混合物の50μLアリコートを除去し、TFA(5μL)を添加してクエンチした後、HPLC分析を行った。完全体のペプチドと比較したピーク面積の減少に基づいて、ペプチドの切断をモニターした。実験は、少なくと
も2回実施した。25℃に維持したGraceSmart RP C18カラム(250x4.6mm、5μm)、流量0.9mL/分、A:水+0.1%TFA及びB:アセトニトリル+0.1%TFAからなる二成分移動相系、ならびに10%〜90%の溶媒Bによる直線的濃度勾配(12分)を用いてHPLC分析を実施した。
【0267】
実施例10.大環状ペプチドミメティックの細胞透過特性。
【0268】
本明細書に記載する方法によるペプチドベースの分子の大環化から想定される別の潜在的利点は、細胞透過性の増強である。この態様を検討するために、代表的なp53大環状ペプチドミメティック(フルオレセインをコンジュゲートしたP8)及び対照のフルオレセインをコンジュゲートした直鎖ペプチドP10を、ヒト細胞(HEK−293)と共に培養し、続いて共焦点蛍光顕微鏡にて分析した。
図14A〜14Bに提示する画像が示すように、直鎖ペプチドは、検出可能なレベルの細胞取り込みを示さなかった。顕著な対照として、大環状化合物P8で処理した細胞は、細胞内レベルで拡散蛍光を示しており、それによって効率的に細胞をする大環状ペプチドミメティック分子の能力を示した。
図10に記載されている他のp53大環状ペプチドミメティック分子でも同様の結果を得た。
【0269】
細胞透過性アッセイ。大環状ペプチドミメティック及び参照の直鎖ペプチドの細胞透過性特性をHEK−293細胞株を使用して評価した。10%のウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM培地で、これらの細胞を培養した。細胞透過性評価のために、24ウェルの組織培養用処理済みガラス底プレートに細胞を一晩留置した(1×104細胞/ウェル)。PBS洗浄の後、20μM濃度のフルオレセインをコンジュゲートしたP8または対照のフルオレセインをコンジュゲートした直鎖ペプチドP10を含有する還元血清培地(DMEM−RS)を細胞に添加して、2時間培養した。共焦点撮影の前に、細胞をPBSにて洗浄し、PBS中の2%パラホルムアルデヒドで固定して、核染色DAPIで染色した。
【0270】
実施例11.大環状ペプチドミメティックの抗癌活性。
【0271】
ヒト癌細胞の生存性を低減するp53大環状ペプチドミメティック分子の能力を調査するために、HMD2の異常な過剰発現によりp53/HDM2/HDMX経路の調節不全を呈する、SJSA−1骨肉腫細胞を使用して更なる活性試験を実施した。
図15に提示された生存率曲線が示すように、SJSA−1細胞の生存性は、基準となる直鎖ペプチドP10による治療時には検出可能な減少を示さなかった。対照的に、p53大環状ペプチドミメティックP8によるこれらの細胞の治療時には、細胞生存性の減少をもたらした。このことは、この化合物のp53依存的なアポトーシス経路の再活性化による癌細胞殺傷能力を示している。
図10に記載されている他のp53大環状ペプチドミメティック分子でも同様の結果が得られ、LD
50は低マイクロモルの範囲内であった。p53−HDM2阻害に対する細胞応答性を、HDM2の既知の強力な、かつ細胞透過性の小分子阻害剤であるnutlin−3と平行した実験において確認した。
【0272】
細胞生存性アッセイ。10%のウシ胎児血清を補充したRPMI−1640培地中で、培養されたSJSA−1細胞を維持した。生存性評価のために、96ウェルの組織培養用処理済みプレート(2×104細胞/ウェル)に細胞を入れ、一晩培養した。PBS洗浄後に、様々な濃度のnutlin−3、大環状ペプチドミメティック化合物、または基準となる直鎖ペプチドのうちのいずれかを引き続き添加した。細胞を一晩処理し、標準的なMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイによって生存性を評価した。生存性は未処置の細胞の生存性との比率で表す。
【0273】
上記で開示された、ならびにそれ以外の特徴及び機能の変形またはそれらの代替を多くの他の異なるシステムまたは用途と組み合わせて良いことが理解されよう。現時点で予測または予期されない、本開示に関する種々の代替、改変、変形または改善を後に当業者によって行うことができるが、これらもまた以降の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0274】
本開示の実施形態を具体的に示し、特定の例及び特徴について説明したが、細部に対する種々の変更が、記載された説明及び図面によって立証できる特許請求の範囲によって規定される本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなくなされ得ることを当業者は理解されよう。更に、一定数の要素に関して例示的実施形態が記載されている場合、一定数未満または一定数超の要素いずれを利用しても例示的実施形態を実施できることが理解されよう。
【0275】
本明細書で引用される全ての参考文献は、個別の刊行物、特許または特許出願がそれぞれ具体的かつ個別にその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれた場合と同様に、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0276】
いかなる刊行物の引用も、提出日に先立つその開示のためであり、本発明が先行発明を理由としてこのような刊行物に先行する権利を与えられないことを容認するものとは見なされない。
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