(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
無機材料と反応する第1官能基と有機材料と反応する第2官能基とを含む化合物からなるカップリング剤と、フッ素系エラストマーの架橋サイトと架橋可能な架橋剤と、を含み、
前記架橋剤は、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系およびイミダゾール架橋系の少なくともいずれかの系の架橋剤であり、
前記フッ素系エラストマーは、パーフルオロエラストマーであり、
前記パーフルオロエラストマーは、前記架橋サイトとしてニトリル基を含有する接着剤組成物。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造に用いられるプラズマエッチング装置、プラズマCVD(化学気相堆積)装置などにおいて、半導体ウエハが処理されるプロセスチャンバーを真空に保つためのシール材料として、エラストマーの中で耐熱性と耐プラズマ性に優れるフッ素系エラストマーが使用される。
【0003】
プラズマエッチング装置、プラズマCVD装置などのプロセスチャンバーとトランスファーチャンバーとを仕切るゲート部では、金属製支持体にシール材が装着されたシール構造体を有するゲートバルブが設けられ、かかるゲートバルブを開閉することにより半導体ウエハの搬送および処理が繰り返される。
【0004】
ゲートバルブには、アルミニウムなどの金属製支持体に溝を形成してその溝にシール材を嵌めるシール材嵌合タイプのゲートバルブがある。かかるシール材嵌合タイプのゲートバルブでは、シール材のねじれやシール材の溝からの脱落などの問題がある。このため、金属製支持体にシール材が接着されたシール材接着タイプのゲートバルブが好適に用いられる。かかるシール材接着タイプのゲートバルブにおいては、その開閉の繰り返しに耐え得るように、金属製支持体とシール材との接着性が高い接着剤組成物が必要とされる。
【0005】
特に、シール材として、フッ素系エラストマー中で最も高い耐熱性および耐プラズマ性を有するパーフルオロエラストマー(FFKM)が用いられる場合は、パーフルオロエラストマーは、それを構成する炭素原子側鎖が完全にフッ素化されているため、金属製支持体との接着性が乏しい。このため、金属製支持体とシール材であるパーフルオロエラストマーとの接着性が高い接着剤組成物が必要とされる。
【0006】
無機材料である金属製支持体と有機材料であるパーフルオロエラストマーとを接着させる接着剤組成物としては、シランカップリング剤のなどのカップリング剤が知られている。しかしながら、シランカップリング剤のみでは、金属製支持体とパーフルオロエラストマーとの接着性を高めることは困難である。
【0007】
そこで、特開2007−277340号公報(特許文献1)は、金属製支持体とパーフルオロエラストマーとの接着性が高い接着剤組成物として、フェノール樹脂100重量部当り、50〜400重量部のシランカップリング剤および50〜400重量部の有機金属化合物を含有せしめてなる加硫接着剤組成物を開示する。
【0008】
また、特表2013−513697号公報(特許文献2)は、金属製支持体とパーフルオロエラストマーとの接着性が高い接着剤組成物として、硬化剤と溶媒とエポキシ樹脂とを含むプライマー組成物であって、硬化剤がエポキシ樹脂と反応することができ、更に、(a)硬化剤が、少なくとも1つの硬化部位を有するパーフルオロエラストマー化合物と架橋剤または触媒とを硬化させることができるか、または、(b)硬化剤がパーフルオロエラストマー化合物を硬化させることができないときには、パーフルオロエラストマーがエポキシ樹脂を硬化させることができる架橋剤または触媒を含むプライマー組成物を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施形態1:接着剤組成物]
図1および
図2を参照して、本発明のある実施形態である接着剤組成物12は、無機材料と反応する第1官能基と有機材料と反応する第2官能基とを含む化合物からなるカップリング剤と、フッ素系エラストマー13の架橋サイトと架橋可能な架橋剤と、を含む。本実施形態の接着剤組成物12は、カップリング剤中の第1官能基が無機材料である金属製支持体11と反応して結合し第2官能基が有機材料であるフッ素系エラストマー13と反応して結合するとともに、架橋剤がフッ素系エラストマー13の架橋サイトと架橋して結合する。このため、本実施形態の接着剤組成物12は、有機金属化合物を含まず取り扱いが容易であり、焼付け処理が不要であり、かつ高い接着強度で金属製支持体11とフッ素系エラストマー13とを接着することができる。また、本実施形態の接着剤組成物12は、接着安定性を高める観点から、その他の添加剤を含んでいてもよい。さらに、本実施形態の接着剤組成物12は、施工性を高める観点から、カップリング剤、架橋剤および添加剤を溶解または分散させるための溶剤を含んでいてもよい。
【0023】
(カップリング剤)
本実施形態の接着剤組成物12に含まれるカップリング剤は、無機材料と反応する第1官能基Xと、有機材料と反応する第2官能基Yと、を含む。第1官能基Xは、無機材料と反応する官能基であれば特に制限はなく、たとえば、水分により加水分解されて無機材料の表面のヒドロキシ基(OH基)と水素結合が形成され、乾燥処理により脱水縮合反応して無機材料と共有結合を形成する官能基として、メトキシ基(CH
3O基)、エトキシ基(C
2H
5O基)などのアルコキシ基、クロロ基(Cl基)、ブロム基(Br基)などのハロゲン基などが挙げられる。第2官能基Yは、有機材料と反応する官能基であれば特に制限はなく、たとえば、ビニル基(CH
2=CH基)、スチリル基(CH
2=CH−C
6H
5基)、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基(NH
2基)、ウレイド基、イソシアネート基(N=C=O基)、イソシアヌレート基、メルカプト基(SH基)、スルフィド基、およびこれらの官能基を含む炭素原子含有基などが挙げられる。
【0024】
また、上記カップリング剤は、特に制限はなく、上記第1官能基および第2官能基に加えて、さらにシリコン原子を含むシランカップリング剤、さらにチタン原子を含むチタネートカップリング剤、あるいは、さらにアルミニウム原子を含むアルミネートカップリング剤であってもよい。上記カップリング剤は、低コストでかつ接着強度が高い接着剤組成物12が得られる観点から、上記化合物がさらにシリコン原子を含むシランカップリング剤であることが好ましい。
【0025】
シランカップリング剤としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、トリクロロビニルシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどが挙げられる。
【0026】
ここで、接着剤組成物12中のカップリング剤の含有率は、カップリング剤の自己重合を防ぎかつ短時間で反応を完了させる観点から、接着剤組成物12の全体に対して、1質量%以上10質量%以下が好ましく、8質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0027】
本実施形態の接着剤組成物12に含まれる架橋剤は、カップリング剤の第2官能基と反応するとともに、フッ素系エラストマー13の架橋サイトと架橋可能なものであれば特に制限はないが、フッ素系エラストマー13の架橋サイトとの架橋による接着強度が高い接着性組成物が得られる観点から、また、特に、フッ素系エラストマー13がパーフルオロエラストマーであっても接着強度が高い接着性組成物が得られる観点から、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系およびイミダゾール架橋系の少なくともいずれかの系の架橋剤であることが好ましい。ここで、オキサゾール架橋系の架橋剤とは、フッ素系エラストマー13の架橋サイトがニトリル基である場合に、そのニトリル基と反応してオキサゾール環を形成することによりフッ素系エラストマー13を架橋する架橋剤をいう。また、チアゾール架橋系の架橋剤とは、フッ素系エラストマー13の架橋サイトがニトリル基である場合に、そのニトリル基と反応してチアゾール環を形成することによりフッ素系エラストマー
13を架橋する架橋剤をいう。また、イミダゾール架橋系の架橋剤とは、フッ素系エラストマー13の架橋サイトがニトリル基である場合に、そのニトリル基と反応してイミダゾール環を形成することによりフッ素系エラストマー
13を架橋する架橋剤をいう。
【0028】
上記のオキサゾール架橋系、チアゾール架橋系およびイミダゾール架橋系の少なくともいずれかの系の架橋剤は、たとえば、以下の式(I)のように記載することができる。
【0030】
式(I)において、R
3は、スルホニル基(SO
2基)、オキシ基(O基)、カルボニル基(C=O基)、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基、
または2つのベンゼン環を直接結合させる炭素−炭素結合である。さらに、R
1およびR
2の一方がアミノ基(NH
2基)であり他方がヒドロキシ基(OH基)である場合は、オキサゾール架橋系の架橋剤としてのビス(アミノフェノール)化合物である。また、R
1およびR
2の一方がアミノ基(NH2基)であり他方がメルカプト基(SH基)である場合は、チアゾール架橋系の架橋剤としてのビス(アミノチオフェノール)化合物である。また、R
1およびR
2の一方がアミノ基(NH
2基)であり他方がアミノ基(NH
2基)または置換アミノ基(NRH基、NR
2基)である場合は、テトラアミン化合物である。なお、式(I)において、同一のベンゼン環上にあるR
1およびR
2は、互いに隣接しており、かつ、R
3に対してしてそのベンゼン環上のメタ位またはパラ位にある。
【0031】
架橋剤としては、たとえば、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BOAP)、4,4’−スルホニルビス(2−アミノフェノール)〔ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン〕、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノンなどが、好適に挙げられる。
【0032】
ここで、接着剤組成物12中の架橋剤の含有率は、接着力を高くしかつ過剰添加による脆化を防ぐ観点から、接着剤組成物12の全体に対して、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましい。また、接着剤組成物12において、カップリング剤100質量部に対して、架橋剤は0.1質量部以上50質量部以下が好ましく、1質量部以上10質量部以下がより好ましい。
【0033】
本実施形態の接着剤組成物12が用いられるフッ素系エラストマー13は、接着剤組成物12に含まれる架橋剤と架橋可能な架橋サイトを含むものであれば、特に制限はなく、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン(以下、VDF−HFPともいう)共重合エラストマー、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン(以下、VDF−HFP−TFEともいう)共重合エラストマー、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル(以下、VDF−TFE−PMVEともいう)共重合エラストマー、テトラフルオロエチレン−プロピレン(以下、TFE−PPともいう)共重合エラストマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、TFE−PAVEともいう)共重合エラストマーなどが挙げられる。
【0034】
また、本実施形態の接着剤組成物12が用いられるフッ素系エラストマー13は、耐熱性と耐プラズマ性に優れる観点から、パーフルオロエラストマーであるテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、TFE−PAVEともいう)共重合エラストマーが好ましい。
【0035】
さらに、本実施形態の接着剤組成物12が用いられるパーフルオロエラストマーは、金属製支持体11との接着強度を高める観点から、架橋サイトとして、ニトリル基(CN基)、ハロゲン基(たとえばブロム(Br)基、ヨード(I)基など)などを有することが好ましく、ニトリル基を有することがより好ましい。架橋サイトにニトリル基を含むパーフルオロエラストマーは、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系およびイミダゾール架橋系の架橋剤と、それぞれオキサゾール架橋、チアゾール架橋およびイミダゾール架橋をするため、これらの架橋剤と強い共有結合を形成することができる。
【0036】
ここで、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロエラストマーは、具体的には、テトラフルオロエチレン(以下、TFEともいう)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、PAVEともいう)、およびニトリル基含有パーフルオロモノマー(以下、NPMともいう)からなるパーフルオロエラストマーが挙げられる。
【0037】
(添加剤)
本実施形態の接着剤組成物12に含まれ得る添加剤は、接着剤組成物12の接着強度を低下させることなく、接着安定性を高める観点から、フェノール系樹脂などが好適に挙げられる。
【0038】
(溶剤)
本実施形態の接着剤組成物12に含まれ得る溶剤は、カップリング剤、架橋剤および添加剤を好適に溶解または分散させる観点から、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類、エチルセロソルブ、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどのエーテル類などが好適に挙げられる。
【0039】
ここで、接着剤組成物12に含まれ得る溶剤の量は、特に制限はなく、塗布方法に応じて増減できる。接着剤組成物12は、カップリング剤および架橋剤の全体である原液に対して、溶剤を加えることにより、質量割合で、原液から16倍希釈までが好ましく、原液から4倍希釈までがより好ましい。
【0040】
[実施形態2:シール構造体]
図1および
図2を参照して、本発明の別の実施形態であるシール構造体10は、金属製支持体11と、フッ素系エラストマー13と、金属製支持体11とフッ素系エラストマー13とを接着する実施形態1の接着剤組成物12と、を含む。本実施形態のシール構造体10は、金属製支持体11とフッ素系エラストマー13とが実施形態1の接着剤組成物12により接着されているため、低コストでかつ接着強度が高く、耐熱性および耐プラズマ性が高い。
【0041】
本実施形態のシール構造体10は、
図1に示すように金属製支持体11の平坦な主面上に接着剤組成物12を介在させてフッ素系エラストマー13が接着されていてもよく、
図2に示すように金属製支持体11の主面に形成された溝11c上に接着剤組成物12を介在させてフッ素系エラストマー13が接着されていてもよい。
【0042】
(金属製支持体)
本実施形態のシール構造体10に含まれる金属製支持体11は、シール材であるフッ素系エラストマー13を保持することができ、耐熱性および耐プラズマ性が高いものであれば特に制限はなく、アルミニウム製支持体、ステンレス製支持体などが好適に挙げられる。なお、金属製支持体11の形状は、特に制限はなく、
図1および
図2に示すような板状であっても、その他も形状であってもよい。
【0043】
(フッ素系エラストマー)
本実施形態のシール構造体10に含まれるシール材であるフッ素系エラストマー13は、特に制限はなく、上記のVDF−HFP共重合エラストマー、VDF−HFP−TFE共重合エラストマー、VDF−TFE−PMVE共重合エラストマー、TFE−PP共重合エラストマー、TFE−PAVE共重合エラストマーなどが挙げられる。
【0044】
また、本実施形態の接着剤組成物12が用いられるフッ素系エラストマー13は、耐熱性と耐プラズマ性に優れる観点から、TFE−PAVE共重合エラストマーが好ましい。
【0045】
さらに、本実施形態のシール構造体10に含まれるパーフルオロエラストマーは、金属製支持体11との接着強度が高い観点から、架橋サイトとして、ニトリル基(CN基)、ハロゲン基(たとえばブロム(Br)基、ヨード(I)基など)などを有することが好ましく、ニトリル基を有することがより好ましい。架橋サイトにニトリル基を含むパーフルオロエラストマーは、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系およびイミダゾール架橋系の架橋剤と、それぞれオキサゾール架橋、チアゾール架橋およびイミダゾール架橋をするため、これらの架橋剤と強い共有結合を形成することができる。
【0046】
ここで、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロエラストマーは、具体的には、TFE、PAVE、およびNPMからなるパーフルオロエラストマーが挙げられる。
【0047】
ここで、フッ素系エラストマー13は、加工性を高めるためまたは物性を調整するために、必要に応じて、さらに、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、加工助剤(ステアリン酸など)、安定剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤などの添加剤を含むことができる。添加剤は、1種類のみであっても、2種類以上であってもよい。さらに、必要に応じて、フッ素樹脂、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉などの充填剤を含むこともできる。しかし、半導体デバイス用途においてはこれらの充填剤がパーティクルとなり、半導体デバイスの歩留を低下させる恐れがあることから、これらの充填剤はできる限り含有しないことが好ましい。
【0048】
なお、シール材であるフッ素系エラストマー13の形状は、特に制限はなく、
図1および
図2に示すような断面が半円状のリング形状であっても、その他の形状であってもよい。
【0049】
(接着剤組成物)
本実施形態のシール構造体10に含まれる接着剤組成物12は、実施形態1の接着剤組成物12と同様に、実施形態1のカップリング剤および架橋剤を含む。ここでは、それらの説明は繰り返さない。
【0050】
本実施形態のシール構造体10において、接着剤組成物12は、金属製支持体11とフッ素系エラストマー13とを接着している。接着剤組成物12に含まれるカップリング剤は、その第1官能基が無機材料である金属製支持体11と反応して結合し、かつ、その第2官能基が有機材料であるフッ素系エラストマー13と反応して結合している。また、接着剤組成物12に含まれる架橋剤は、フッ素系エラストマー13の架橋サイトと架橋することにより結合している。このようにして、本実施形態のシール構造体10は、金属製支持体11とフッ素系エラストマー13とが接着剤組成物12により高い接着強度で接着されている。
【0051】
[実施形態3:シール構造体の製造方法]
図1および
図2を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるシール構造体10の製造方法は、金属製支持体11およびフッ素系エラストマー13を準備する工程と、実施形態1の接着剤組成物12を用いて、金属製支持体11にフッ素系エラストマー13を接着する工程と、を含む。本実施形態のシール構造体10の製造方法は、実施形態1の接着剤組成物12を用いて、上記金属製支持体11に上記フッ素系エラストマー13を接着することにより、接着剤組成物12が有機金属化合物を含まず取り扱いが容易であり、かつ、焼付け処理が不要であり、低コストで、金属製支持体11とフッ素系エラストマー13との接着強度が高いシール構造体10を製造できる。
【0052】
(金属製支持体およびフッ素系エラストマーを準備する工程)
金属製支持体11およびフッ素系エラストマー13を準備する工程において、準備される金属製支持体11およびフッ素系エラストマー13は、実施形態2のシール構造体10における金属製支持体11およびフッ素系エラストマー13とそれぞれ同じであるため、ここでは、それらの説明は繰り返さない。
【0053】
(接着剤組成物を用いて金属製支持体にフッ素系エラストマーを接着する工程)
金属製支持体11にフッ素系エラストマー13を接着する工程において用いられる接着剤組成物12は、実施形態1の接着剤組成物12と同じであるため、ここではその説明を繰り返さない。また、接着剤組成物12を用いて金属製支持体11にフッ素系エラストマー13を接着する工程には、特に制限はないが、金属製支持体11とフッ素系エラストマー13とを効率的かつ高い接着強度で接着する観点から、金属製支持体11に接着剤組成物12を塗布するサブ工程と、接着剤組成物12が塗布された金属製支持体11にフッ素系エラストマー13を貼り合わせるサブ工程と、フッ素系エラストマー13が貼り合わされた金属製支持体11をアニールするサブ工程と、を含むことが好ましい。
【0054】
金属製支持体11に接着剤組成物12を塗布する方法は、特に制限はなく、スプレー塗布、ハケ塗り、浸漬、スピンコートなどが好適に挙げられる。金属製支持体11に接着剤組成物12を塗布した後、焼き付けは不要であり、接着剤組成物12を室温(たとえば5℃〜35℃程度)で乾燥させれば足りる。
【0055】
接着剤組成物12が塗布された金属製支持体11にフッ素系エラストマー13を貼り合わせる方法は、たとえば、170℃〜190℃程度の温度で1MPa〜10MPa程度の圧力をかけて圧着させる。
【0056】
フッ素系エラストマー13が貼り合わされた金属製支持体11をアニールする方法は、特に制限はないが、接着性および成形性を高める観点から、真空雰囲気または大気雰囲気中で、150℃以上220℃以下に加熱することが好ましく、200℃以上220℃以下に加熱することがより好ましい。
【0057】
上記のアニールするサブ工程により、接着剤組成物12に含まれるカップリング剤は、その第1官能基が無機材料である金属製支持体11と反応して結合し、かつ、その第2官能基が有機材料であるフッ素系エラストマー13と反応して結合する。また、接着剤組成物12に含まれる架橋剤は、フッ素系エラストマー13の架橋サイトと架橋することにより結合する。このようにして、本実施形態のシール構造体10は、金属製支持体11とフッ素系エラストマー13とが接着剤組成物12により高い接着強度で接着される。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
1.接着剤組成物の調製
10質量%のシランカップリング剤を含有する東洋化学研究所社製メタロックS−7と、メタロックS−7の質量に対して0.01質量%の架橋剤である東京化成工業社製BOAP(2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)と、を均一に混合することにより接着剤組成物を調製した。
【0059】
2.シール構造体の作製
金属製支持体である25mm×60mm×厚さ1.5mmのアルミニウム板に、上記の接着剤組成物をハケ塗りし、大気雰囲気中20℃で20分間乾燥させた。次いで、接着剤組成物が塗布された金属製支持体上に、フッ素系エラストマーとして100質量部のダイニオン社製PFE133TBZと0.5質量部のBOAPとを混練して得られた25mm×60mm×厚さ2.3mmのパーフルオロエラストマーであるFFKM1を配置して、180℃で3MPaの圧力をかけて圧着させることにより、貼り合わせた。次いで、フッ素系エラストマーが貼り合わされた金属製支持体を大気雰囲気中220℃で加圧および加熱することによりアニールして、シール構造体を得た。
【0060】
3.シール構造体の接着強度の評価
上記のようにして得られた4つのシール構造体の金属製支持体とフッ素系エラストマーとの間の接着強度は、JIS K6256−2:2013に従って、シール構造体の作製後大気中で25℃で1時間静置した後、Shimadzu社製AUTOGRAPH AGS−500Bを用いて、大気中25℃で、金属製支持体の主面に対して垂直方向にフッ素系エラストマーの未接着の端部を移動速度50mm/分で引き離したときの剥離強度を測定することにより評価した。結果を表1にまとめた。
【0061】
(実施例2)
接着剤組成物の調製において、架橋剤であるBOAPの量をメタロックS−7の質量に対して0.1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0062】
(実施例3)
接着剤組成物の調製において、架橋剤であるBOAPの量をメタロックS−7の質量に対して1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0063】
(実施例4)
接着剤組成物の調製において、架橋剤であるBOAPの量をメタロックS−7の質量に対して4質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0064】
(実施例5)
シール構造体の作製において、フッ素系エラストマーとして100質量部のダイニオン社製PFE133TBZと1.0質量部のダイニオン社製PFE300Cとを混練して得られた25mm×60mm×厚さ2.3mmのパーフルオロエラストマーであるFFKM2を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0065】
(比較例1)
接着剤組成物として東洋化学研究所社製メタロックS−7を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0066】
(比較例2)
接着剤組成物の調製において、ビスフェノールA/エピクロロヒドリンコポリマーが40質量%、フェノール樹脂が10−30質量%、合成ゴムが10-30質量%、エポキシ樹脂(CAS番号:28906−96−9)が5−10質量%、エポキシ樹脂(CAS番号:25036−25−3)が5−10質量%、エポキシスルフォンポリマーが1−5質量%、不揮発性アミドが1−5質量%、ジシアンジアミドが1−5質量
%を含有する接着剤成分をアセトンが80質量部でメタノールが20質量部の混合溶剤に溶解させて、上記接着剤成分が5質量%の接着剤溶液を調製したこと、シール構造体の作製において、金属製支持体である25mm×60mm×厚さ1.5mmのA5052アルミニウム板上にハケ塗りし、大気雰囲気中150℃で10分間焼き付けた後、貼り合わせおよびアニールしたこと以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0067】
(比較例3)
シール構造体の作製において、フッ素系エラストマーとして100質量部のダイニオン社製PFE133TBZと1.0質量部のダイニオン社製PFE300Cとを混練して得られた25mm×60mm×厚さ2.3mmのパーフルオロエラストマーであるFFKM2を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0068】
(比較例4)
シール構造体の作製において、フッ素系エラストマーとして100質量部のダイニオン社製PFE133TBZと1.0質量部のダイニオン社製PFE300Cとを混練して得られた25mm×60mm×厚さ2.3mmのパーフルオロエラストマーであるFFKM2を用いたこと以外は、比較例2と同様にして、接着剤組成物を調製し、シール構造体を作製しその接着強度を評価した。結果を表1にまとめた。
【0069】
【表1】
【0070】
表1を参照して、実施例1〜実施例4と比較例1との対比および実施例5と比較例3との対比から、本実施形態の接着剤組成物を用いて作製されたシール構造体の接着強度は、シランカップリング剤を含むが架橋剤を含まない接着剤組成物を用いて作製されたシール構造体の接着強度の1.48〜1.69倍および1.42倍であった。また、実施例1〜実施例4と比較例2との対比および実施例5と比較例4との対比から、本実施形態の接着剤組成物を用いて作製されたシール構造体の接着強度は、エポキシ樹脂を含む接着剤組成物を用いて作製されたシール構造体の接着強度の1.40〜1.60倍および1.81倍であった。このように、本実施形態の接着剤組成物を用いて作製されたシール構造体の接着強度は、シランカップリング剤を含むが架橋剤を含まない接着剤組成物を用いて作製されたシール構造体またはエポキシ樹脂を含む接着剤組成物を用いて作製されたシール構造体の接着強度に比べて1.40倍以上の高い接着強度を有することが分かった。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。