(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述のマスキングを用いずに、発光層たるドーパント材を基板上に形成する手法として、ドーパント材を、ホール輸送層上に積層されたホスト材料層に、熱を用いて拡散させる手法がある。当該手法は、ホスト材料層にドーパント材を接触させ、その状態で基板を温めることにより、ドーパント材を接触面からホスト材料層に拡散させるというものである(例えば、特許文献2)。
【0012】
当該手法は、ドーパント材の接触面積を限定することにより拡散領域を限定することができ、マスク材を使用しないことから、マスクの変形による基板上に構成されるドーパント材の歪みは発生しない。
【0013】
一方で、この手法を用いる場合には、接触面からドーパント材がホスト材料層に拡散していくため、ドーパント材が形成されるべき場所にのみ接触するようにドーパント材を構成する必要がある。しかしながら、接触すべき箇所のみを突出させるようにドーパント材を構成するのには、煩雑な手間を要する。
【0014】
これに対して、所望の場所で熱が発生するように、基板上にドーパント材を拡散させたい位置に配線を設けて電流を流し、ジュール熱を発生させる手法がある(例えば、特許文献3)。しかしながら、当該手法は、有機EL素子として機能させる場合に、必要のない配線が設けられることになり、コスト増を招く。
【0015】
そこで、発明者らはこの問題を解消すべく、基板上において所望の箇所に熱を発生させ、基板上に新たな配線を設けることなく、ドーパント材を拡散させる手法を想到するに至った。以下、その手法について、詳細に説明する。
【0016】
<実施の形態>
図1〜
図6は、有機EL素子の製造工程を示す、有機EL素子の断面図である。また、
図7は、本発明に係る有機EL素子の製造方法を示すフローチャートである。以下、
図7のフローチャートを用いて、
図1〜
図6に示す断面図を適宜参照しながら、有機EL素子の製造方法を説明する。
【0017】
図7に示すように、まず、ガラス基板上に、赤色発光層用電極101a、緑色発光層用電極101b、青色発光層用電極101c、隔壁102などを形成する(ステップS701)。これにより、TFT(Thin Film Transistor)基板を構成する(
図1(a)参照)。
【0018】
そして、構成されたTFT基板上に、
図1(b)に示すように、ホール注入層103を成膜する(ステップS702)。ホール注入層103は、銅フタロシアニン(CuPC)などにより実現される、その膜厚は、例えば、1〜100nm、より好ましくは1〜20nmとする。
【0019】
次に、
図1(b)に示すように、ホール注入層103が成膜されたTFT基板上に、ホール輸送層104を成膜する(ステップS703)。ホール輸送層104は、例えば、2-tert-ブチル-4-(ジシアノメチレン)-6-[2-(1,1,7,7テトラメチルジュロリジン-9-イル)ビニル]-4H-ピラン(以下、DCJTBと記載する)、2-フェニル-9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)-アントラセン(以下、C545Tと記載する)などにより実現され、その膜厚は、例えば、1〜100nm、より好ましくは1〜20nmとする。
【0020】
そして、
図1(c)に示すように、ホール輸送層104上に、ホスト材料層105を成膜する(ステップS704)。ホスト材料層105は、ドーパント材を、熱により拡散して浸透させるための層であり、N,N−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N'−ビス(フェニル)−ベンジジン(NPB)、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、2‐tert-ブチル-9, 10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン(TBADN)、[4,4'-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル](CBP)などにより実現され、例えば、1〜100nm、より好ましくは1〜20nmの膜厚とする。
【0021】
ここから、ステップS705〜ステップS707の処理を、各発光色について実行する。ここでは、赤、緑、青の3色の発光層を形成することとする。
【0022】
まず、赤色発光層用ドナー基板200aを用意する。赤色発光層用ドナー基板200aは、基板201上に、金属層202が成膜され、その上に、赤色発光層用ドーパント材料層203aが積層されて成る。
【0023】
基板201は、例えば、シリコンやガラスなどにより実現される。
【0024】
金属層202は、導電性が高くキャリア注入性の高い金属により構成されるのが望ましく、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、アルミニウム銀合金(Al:Ag)などにより実現される。
【0025】
赤色発光層用ドーパント材料層203aは、例えば、DCJTB、白金オクタエチルポルフィレン(PtOEP)などにより実現される。
【0026】
図2(a)に示すように、赤色発光層用ドナー基板200aを、ホスト材料層105が成膜されたTFT基板に接触させる(ステップS705)。
【0027】
そして、赤色発光層に対応する赤色発光層用電極101aと、赤色発光層用ドナー基板200aの金属層202との間に電圧を印加する。これにより、
図2(b)に示すように電流が矢印210に示すように、赤色発光層用電極101aから金属層202に向けて電流が印加される(流れる)。すなわち、有機EL素子の積層方向に電流を流すことになる。
【0028】
赤色発光層用電極101aと金属層202との間に電流が流れることにより、
図2(c)の円220で示される領域を中心に、ジュール熱が発生する(ステップS706)。赤色発光層の形成のためには、当該ジュール熱により発生する温度は、70℃〜140℃の範囲とし、80℃〜100℃の範囲に収まることが望ましい。
【0029】
すると、
図3(a)に示されるように、発生したジュール熱の影響を受け、赤色発光層用ドナー基板200aの赤色発光層用ドーパント材料層203aから、赤色発光層のためのドーパント材が、ホスト材料層105に拡散する。
ドーパント材は、一定温度以上の熱がある領域に拡散し、
図3(b)に示されるように、電流が流れた領域を中心に、赤色発光層300aが形成される。
【0030】
一定時間、電流を流し、十分にジュール熱を発生させた後に、通電を停止する。そして、基板が常温になると、赤色発光層用ドナー基板200aを、TFT基板から離間させる。
【0031】
次に、別の発光色のためのドナー基板を用意する。ここでは、緑色発光層用ドナー基板200bを用意する。緑色発光層用ドナー基板200bは、
図4(a)に示されるように、基板201の上に成膜された金属層202の上に形成された緑色発光層用ドーパント材料層203bが形成されて成る。
【0032】
赤色発光層300aが形成されているTFT基板に、緑色発光層用ドナー基板200bを、TFT基板のホスト材料層105と緑色発光層用ドナー基板200bの緑色発光層用ドーパント材料層203bが対向するように接触させる(ステップS705)。緑色発光層用ドーパント材料層203bは、例えば、C545T、トリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム(III)(以下、Ir(ppy)3と記載する)などにより実現される。
【0033】
そして、
図4(b)に示されるように、緑色発光層用電極101bから、緑色発光層用ドナー基板200bの金属層202に向けて電流を流してジュール熱を発生させる(ステップS706)。これにより、緑色発光層用ドーパント材が、ホスト材料層105に拡散する。緑色発光層用ドーパント材の拡散のために発生させるジュール熱は、70℃〜140℃の範囲とし、望ましくは、80℃〜100℃の範囲に収まることが望ましい。
【0034】
緑色発光層用ドーパント材を拡散させた後、
図4(c)に示すように、緑色発光層300bが形成されたTFT基板から、緑色発光層用ドナー基板200bを離間させる(ステップS707)。
【0035】
そして、最後に、
図5(a)に示すように、青色発光層用ドナー基板200cをTFT基板に接触させる。青色発光層用ドナー基板200cは、ドーパント材として、金属層202の上に、青色発光層用ドーパント材料層203cを有する。当該青色発光層用ドーパント材料層203cとTFT基板のホスト材料層105が対向するように、青色発光層用ドナー基板200cをTFT基板に接触させる(ステップS705)。青色発光層用ドーパント材料層203cは、例えば、ジスチルアリーレン(DSA)、ビス(3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジルフェニル)フェニル-(2-カルボキシピリジル)イリジウム III(FIrPic)などにより実現される。
【0036】
図5(b)に示すように、青色発光層用ドナー基板200cをTFT基板に接触させた後に、青色発光層用電極103cから、青色発光層用ドナー基板200cの金属層202に向けて電流を流す。これにより、電流が流れる箇所を中心にジュール熱が発生し、青色発光層用ドーパント材が、ホスト材料層105に拡散する(ステップS706)。青色発光層用ドーパント材の拡散のために発生させるジュール熱は、70℃〜140℃の範囲とし、望ましくは、80℃〜100℃の範囲に収まることが望ましい。
【0037】
そして、
図5(c)に示すように、ジュール熱により、青色発光層用ドーパント材がホスト材料層105に拡散し、青色発光層300cが形成されたTFT基板から、青色発光層用ドナー基板200cを離間させる(ステップS707)。
【0038】
これにより、TFT基板上に、赤、緑、青の3色の発光層が形成される。
【0039】
次に、
図6(a)に示すように、ドーパント材が拡散されたホスト材料層105上に、電子輸送層610を成膜する(ステップS708)。
【0040】
電子輸送層610が成膜されると、
図6(b)に示すように、電子輸送層610上に、電子注入層620を成膜する(ステップS709)。
【0041】
そして、電子注入層が成膜されると、
図6(c)に示すように、電子注入層上に電極630を形成する(ステップS710)。
【0042】
図7に示す製造工程を経ることにより、有機EL素子100が製造される。
【0043】
<まとめ>
上記実施の形態に示したように、本実施の形態に係る有機EL素子の製造方法においては、有機EL素子において元々発光のために用いる電極から、有機EL素子の各層の積層方向に電流を流すことにより、ジュール熱を発生させて、接触させたドーパント材を拡散させることができる。したがって、本発明に係る有機EL素子の製造方法は、発光のために用いる電極を用いることにより、余分な電極を基板上に形成する手間及びそのためのコスト増を回避することができる。さらには、各発光層用に設けられる電極を用いることにより、その電極から電流を流すことで、適切な個所にジュール熱を発生させて、必要な個所にドーパント材を拡散させることができるので、マスキングの必要性もない。
【0044】
<変形例>
上記実施の形態に本発明に係る発明の一実施態様を説明したが、本発明に係る思想がこれに限られないことは言うまでもない。以下、本発明に係る思想として含まれる各種変形例について説明する。
【0045】
(1)上記実施の形態においては、RGBの三色の発光層を設ける例を説明したが、発光層の発光色はこれらに限定されるものではない。それ以外の色の発光層を含んでよく、例えば、白色発光層が設けられることとしてもよい。
【0046】
(2)上記実施の形態においては、赤色発光層用ドナー基板200aは、基板201上に金属層202を成膜し、その上に赤色発光層用ドーパント材料層203aを設ける構成としていた。
【0047】
赤色発光層用ドナー基板200aは、
図8に示すように、金属層202と赤色発光層用ドーパント材料層203aとの間に、キャリアインジェクション層(電子注入層)を備える構成としてもよい。キャリアインジェクション層としては、例えば、フッ化リチウム(以下、LiFと記載する)により実現される。
【0048】
赤色発光層用ドナー基板200aを当該構成とすることにより、赤色発光層用電極101aから金属層202に向けて、電流が流れやすくなり、ジュール熱が発生しやすくなる。なお、緑色発光層用ドナー基板200b、青色発光層用ドナー基板200cにも同様の構成を設けてもよい。
【0049】
(3)上記実施の形態においては、特に記載していないが、有機EL素子の製造過程において、
図9に示すように、ホール輸送層104とホスト材料層105との間に、拡散防止層900を設ける工程を設けてもよい。拡散防止層900としては、例えば、酸化モリブデン(以下、MoO3と記載する)により実現される。また、拡散防止層900の膜厚は5〜50nmとするのが望ましい。
【0050】
また、当該拡散防止層900を設ける場合には、ホスト材料層105に、各色の発光層が設けられた後、または、各色の発光層を設けるごとに、基板全体を暖める工程を設けることとしてもよい。これにより、ジュール熱だけでは不十分だった可能性があるドーパント材の拡散を、ホール輸送層104に拡散させることなく、再加熱によりホスト材料層の必要箇所に十分に拡散させることができる。
【0051】
(4)上記実施の形態においては、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層をこの順で形成する例を示したが、この順序はこれに限定されるものではない。その他の順序で形成することとしてよく、例えば、緑色発光層、赤色発光層、青色発光層の順に形成することとしてもよい。当該順序は、各色のドーパント材の熱拡散のしにくさの高いものから低いものへの順序になっているのが望ましい。
【0052】
(5)上記実施の形態において、ステップS708、S709の工程は必須の工程ではない。当該工程を経ずに、電極を構成しても、有機EL素子は発光するが、発光効率が低下する。
【0053】
<補足>
ここに、本発明に係る有機EL素子の製造方法の一態様とその効果について説明する。
【0054】
(a)本発明の一実施態様に係る有機EL素子は、基板に、構成される画素の色に対応した第1の電極を設ける第1電極形成ステップと、基板の第1の電極が設けられている側に、ホール注入層を成膜するホール注入層成膜ステップと、基板のホール注入層が成膜されている側に、ホール輸送層を成膜するホール輸送層成膜ステップと、基板のホール輸送層が成膜されている側に、ドーパント材を拡散させるためのホスト材料層を成膜するホスト材料層成膜ステップと、金属層にドーパント材が成膜されたドナー基板のドーパント材側を、ホスト材料層に接触させる接触ステップと、ドーパント材に対応する色の画素に対応した電極と金属層との間に、積層方向に、電流を印加する電流印加ステップと、ドナー基板を基板から離間させる離間ステップと、ドーパント材が拡散されたホスト材料層が成膜されている側に、第2の電極を設ける第2電極形成ステップと、を含む。
【0055】
これにより、本発明に係る有機EL素子の製造方法では、積層方向に電流を流すことで、第1の電極と第2の電極との間にジュール熱を発生させることができる。したがって、そのジュール熱により、マスキングを行うことなく、ドーパント材をホスト材料層の適切な色の電極に対応する箇所に拡散させることができる。また、電流を印加する際には、発光素子として使用する電極を利用してジュール熱を発生させることができるので、基板側にジュール熱を発生させるための新たな電極を設ける必要がない。
【0056】
(b)上記(a)に係る有機EL素子の製造方法において、ドナー基板は、金属層と、ドーパント材の間に、電子注入層を備えることとしてもよい。
【0057】
これにより、ドーパント材をホスト材料層に拡散させるためであって、ジュール熱を発生させるための電流を、電子注入層を設けない場合よりも、流しやすくすることができる。したがって、有機EL素子の製造における高効率化を図ることができる。
【0058】
(c)上記(a)又は(b)に係る有機EL素子の製造方法において、有機EL素子の製造方法は、更に、離間ステップと電極形成ステップとの間に、基板のホスト材料層側に、電子輸送層を成膜する電子輸送層成膜ステップと、基板の電子輸送層が成膜されている側に、電子注入層を成膜する電子注入層成膜ステップとを含むこととしてもよい。
【0059】
これにより、基板に電子注入層、電子輸送層を設けることにより、電流の導通をしやすくすることができるので、製造される有機EL素子の発光効率を向上させることができる。
【0060】
(d)上記(a)〜(c)のいずれかに係る有機EL素子の製造方法において、有機EL素子の製造方法は、更に、ホール輸送層成膜ステップとホスト材料層成膜ステップとの間に、基板のホール輸送層が成膜されている側に、ドーパント材がホール輸送層に拡散することを防止する拡散防止層を成膜する拡散防止層成膜ステップを含むこととしてもよい。
【0061】
これにより、ジュール熱を発生させてドーパント材をホスト材料層に拡散させる際に、ホール輸送層にドーパント材が拡散するのを防止することができる。
【0062】
(e)上記(d)に係る有機EL素子の製造方法において、有機EL素子の製造方法は、更に、第2の電極が形成された後に、基板を加熱する加熱ステップを含むこととしてもよい。
【0063】
これにより、ジュール熱だけでは拡散が不十分だった箇所にもドーパント材を拡散させていきわたらせることができる。その際にも拡散防止層により、ドーパント材がホール輸送層に拡散することを防止できる。
【0064】
(f)上記(a)〜(e)のいずれかに係る有機EL素子の製造方法において、有機EL素子の製造方法は、更に、接触ステップと、電流印加ステップと、離間ステップとを、発光色に応じたドナー基板ごとに実行することとしてもよい。
【0065】
これにより、例えば、赤、緑、青の3色、及び白などの各色に対応した発光層を設けた発光素子たる有機EL素子を製造することができる。