特許第6643029号(P6643029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643029単結晶炭化ケイ素基板の加熱処理容器及びエッチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643029
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】単結晶炭化ケイ素基板の加熱処理容器及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20200130BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20200130BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
   H01L21/302 101G
   H01L21/302 201A
   H01L21/302 105B
   H01L21/68 N
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-198143(P2015-198143)
(22)【出願日】2015年10月6日
(65)【公開番号】特開2018-195598(P2018-195598A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2018年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】鳥見 聡
(72)【発明者】
【氏名】篠原 正人
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 紀人
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−103180(JP,A)
【文献】 特開2015−177109(JP,A)
【文献】 特開2006−028625(JP,A)
【文献】 特開昭63−006858(JP,A)
【文献】 特開平02−139935(JP,A)
【文献】 特表2003−525524(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/124840(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
H01L 21/67−21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物である円板状のSiC基板をエッチング処理するときに当該SiC基板を支持する支持部材を備える加熱処理容器において、
前記支持部材は、前記SiC基板の下面の端を支持するための、下方に行くに従って当該SiC基板の中心線に近づくように傾く傾斜部を有し、
前記加熱処理容器の底部をなす底板を更に備え、
前記支持部材は前記底板上に着脱可能に取り付けられることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱処理容器であって、
前記傾斜部は、平面状、円柱面状、円錐面状、又は稜線状に形成されており、
前記傾斜部の上下中途部が前記SiC基板の下面の端に接触することを特徴とする加熱処理容器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加熱処理容器であって、
前記支持部材はタンタルカーバイド又はニオブカーバイドからなり、
前記底板の内底面及び前記加熱処理容器の内部空間に露出している表面は、タンタルシリサイドからなることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の加熱処理容器であって、
前記支持部材の下端部には軸状の差込部又は差込孔のうちの一方が形成され、
前記底板には、前記軸状の差込部又は差込孔のうちの一方に対応する差込孔又は軸状の差込部が形成されることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項5】
請求項に記載の加熱処理容器であって、
前記軸状の差込部にはオネジが形成され、
前記差込孔にはメネジが形成されることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の加熱処理容器であって、
前記支持部材は、クリアランスを有する取付構造を介して前記底板に取り付けられることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項7】
請求項に記載の加熱処理容器であって、
前記支持部材は、前記クリアランスによって前記傾斜部の傾きを変化させることが可能に構成されていることを特徴とする加熱処理容器。
【請求項8】
請求項1に記載の加熱処理容器を用いて、前記SiC基板の被処理面を下方に向けた状態で、当該被処理面の端を前記支持部材により支持して、前記SiC基板に対してエッチング処理を行うことを特徴とするエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、単結晶炭化ケイ素(SiC)基板をエッチング処理するときに用いる加熱処理容器に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)に対しては、ケイ素(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の既存の半導体材料では実現できない、高温、高周波、耐電圧及び耐環境性を実現することが可能な次世代のパワーデバイス、高周波デバイス用半導体の材料として、大きな期待が寄せられている。
【0003】
特許文献1は、この種の円板状のSiC基板をエッチング処理する場合に用いられる加熱処理容器を開示する。この加熱処理容器では、円板状の単結晶SiC基板と加熱処理容器の内底面との間に複数個のスペーサが介在され、当該スペーサによりSiC基板が支持されている。このような構成により、SiC基板の主面の両方の面(上面と下面、Si面とC面)が、加熱処理容器の内部空間に対し十分露出し、Siの蒸気圧の下で加熱処理をすること等により両方の主面がエッチング処理されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−16691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、スペーサがSiC基板の一方の主面(下面)に小さくない面積で接触した状態でエッチング処理することにより、SiC基板側に跡が残ってしまう。具体的には、SiC基板の一方の主面(下面)に、マスキング効果による相対的な突起が形成される。この突起は、エッチング処理の後にSiC基板に対して行われるエピタキシャル層を成長させる処理や、プラズマドライエッチング処理において、サセプタとの密着性の低下を引き起こしたり、真空チャック不良を引き起こしたりする場合があった。そこで、特許文献1の構成では、スペーサが接触した主面と反対側の主面(即ち、上面)を被処理面(デバイス等を実装する面)としていた。
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成のようにスペーサと反対側の主面を被処理面とした場合、被処理面に塵埃等が付着し易くなり、SiC基板の品質が劣化してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、SiC基板を支持することによってSiC基板側に形成される跡がSiC基板の品質に及ぼす影響を無くし、また、被処理面に塵埃等が付着することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の加熱処理容器が提供される。即ち、この加熱処理容器は、対象物である円板状のSiC基板をエッチング処理するときに当該SiC基板を支持する支持部材を備える。前記支持部材は、前記SiC基板の下面の端を支持するための、下方に行くに従って当該SiC基板の中心線に近づくように傾く傾斜部を有する。前記加熱処理容器の底部をなす底板を更に備える。前記支持部材は前記底板上に着脱可能に取り付けられる。
【0010】
これにより、支持部材がSiC基板の下面の端のみに接触した状態で当該SiC基板を支持するので、支持部材に接触したときにSiC基板側にできる跡が、その後の処理により捨てられる端の領域以外の部分には残らない。そのため、被処理面が下向きとなるようにSiC基板を支持することができ、そうすることにより被処理面に塵埃が付着することを抑制できる。また、例えば、加熱処理容器内にSiを付与する処理を行う間は、支持部材を底板から取り外して加熱処理容器の外に出しておくことにより、支持部材の表面がSiの付与に伴って化学変化してエッチング処理時にSiC基板に固着することを防止することができる。よって、SiC基板が割れることを防止することができる。
【0011】
前記の加熱処理容器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記傾斜部は、平面状、円柱面状、円錐面状、又は稜線状に形成されている。前記傾斜部の上下中途部が前記SiC基板の下面の端に接触する。
【0012】
これにより、対象物であるSiC基板を、安定した状態で支持部材によって保持することができる。
【0015】
前記の加熱処理容器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記支持部材はタンタルカーバイド又はニオブカーバイドからなる。前記底板の内底面及び前記加熱処理容器の内部空間に露出している表面は、タンタルシリサイドからなる。
【0016】
これにより、支持部材がSiC基板に固着してしまうことを防止しつつ、底板の内底面及び加熱処理容器の内部空間に露出している表面をSi供給源として、加熱処理容器内にSiの雰囲気を効率良く形成し、SiC基板をエッチング処理することができる。
【0017】
前記の加熱処理容器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記支持部材の下端部には軸状の差込部又は差込孔のうちの一方が形成される。前記底板には、前記軸状の差込部又は差込孔のうちの一方に対応する差込孔又は軸状の差込部が形成される。
【0018】
これにより、軸状の差込部を差込孔に差し込むだけで、支持部材を底板に対して装着したり取り外したりすることができ、支持部材を着脱する作業が簡単になる。
【0019】
前記の加熱処理容器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記軸状の差込部にはオネジが形成される。前記差込孔にはメネジが形成される。
【0020】
これにより、支持部材を回転させるだけで、支持部材を底板に対して装着したり取り外したりすることができ、支持部材を着脱する作業が簡単となる。
【0021】
前記の加熱処理容器においては、前記支持部材は、クリアランスを有する取付構造を介して前記底板に取り付けられることが好ましい。
【0022】
これにより、底板及び支持部材の寸法が熱膨張により変化しても、その寸法変化を吸収するように支持部材が底板に対して移動するので、SiC基板に応力が掛かることを抑制することができ、SiC基板が反ったり割れたりすることを防止することができる。
【0023】
前記の加熱処理容器においては、前記支持部材は、前記クリアランスによって前記傾斜部の傾きを変化させることが可能に構成されていることが好ましい。
【0024】
これにより、SiC基板が支持部材の傾斜部に接触するときの位置が上下方向に変化するので、底板及び支持部材の寸法が熱膨張により変化しても、SiC基板が反ったり割れたりすることなく、支持部材によって安定した状態で支持することができる。
【0025】
本発明の第2の観点によれば、前記の加熱処理容器を用いて、前記SiC基板の被処理面を下方に向けた状態で、当該被処理面の端を前記支持部材により支持して、前記SiC基板に対してエッチング処理を行うエッチング方法が提供される。
【0026】
これにより、被処理面が下向きとなるようにSiC基板を支持してエッチング処理がされるので、被処理面に塵埃が付着することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る加熱処理容器の分解斜視図。
図2】加熱処理容器に備えられる底板と支持部材の構成を示す斜視図。
図3】加熱処理容器の側面断面図。
図4】支持部材の傾斜面の傾きが変化する様子を示す側面断面図。
図5】本発明の別実施形態に係る加熱処理容器の側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る加熱処理容器1の分解斜視図である。図2は、加熱処理容器1に備えられる底板3と支持部材6の構成を示す斜視図である。図3は、加熱処理容器1の側面断面図である。図4は、支持部材6の傾斜面6Fの傾きが変化する様子を示す側面断面図である。
【0029】
図1及び図3に示す加熱処理容器1は、円板状のSiC基板2をエッチング処理するときに、対象物である当該SiC基板2を収容するために用いるものであり、外形が略円柱形状に形成されている。加熱処理容器1は、円板状の底板3と、円筒形状の胴部4と、蓋5と、を備える。加熱処理容器1は、底板3、胴部4及び蓋5を図1及び図3に示すように上下方向で重ね合わせることにより、内部空間が準密閉状態となるように構成されている。
【0030】
この加熱処理容器1の内部にSiC基板2を収容して、内部をSiの蒸気圧で満たした状態で、1500℃以上2200℃以下、望ましくは1600℃以上2000℃以下の環境で加熱処理(アニール処理)することで、SiC基板2の主面をエッチング処理することができる。なお、ここでいう「主面」とは、SiC基板2の側面以外の面(平面状の主たる1対の面)を指す。
【0031】
エッチング処理をしたSiC基板2はその後、エピタキシャル層を成長させる処理や、イオン注入処理がされて、イオン注入後の活性化により主面が十分な平坦度及び電気的活性を有する状態とされる。そして、円板状のSiC基板2の外周から数mm程度(例えば、SiC基板2の外径が100mmのときは3mm程度)の領域が捨て領域(edge excluion)とされ、残りの部分を利用して半導体素子が製造される。
【0032】
次に、加熱処理容器1の詳細な構成について、図1から図3を参照して説明する。前述したように、加熱処理容器1は、外形が略円柱形状の容器である。別の観点から見れば、底板3と、胴部4と、蓋5と、を合わせたものは、坩堝を構成している。加熱処理容器(坩堝)1は、図略の加熱炉が備える支持台等に載せられた状態で、上記の温度で加熱される。
【0033】
底板3、胴部4、及び蓋5のそれぞれにおいて、加熱処理容器1の内部に露出している表面には、タンタルシリサイド層(Ta5Si3)が形成されている。タンタルシリサイド層のすぐ外側にはタンタルカーバイド層(TaC及びTa2C)が形成されている。タンタルカーバイド層を挟んでタンタルシリサイド層と反対側にはタンタル層(Ta)が形成されている。
【0034】
図1及び図2に示すように、底板3の上面(即ち、加熱処理容器1の内底面)には、複数の支持部材6が配置される。SiC基板2は、支持部材6を介して底板3に支持される。本実施形態において底板3は、SiC基板2の外径よりも若干大きい外径の円板形状に形成されている。SiC基板2は、平面視でその中心の位置が底板3の中心と一致する状態で、底板3と間隔をあけて当該底板3の上方に配置される。
【0035】
前述の、加熱処理容器1の内部空間に露出している表面に形成されているタンタルシリサイド層は、加熱処理容器1の内部空間をSiの蒸気圧で満たすためのSi供給源として機能する。このタンタルシリサイド層は、溶解させたSiを、加熱処理容器1の底板3、胴部4、及び蓋5の内部空間に露出している面に接触させて、1800℃以上2000℃以下程度で加熱することで形成される。これにより、Ta5Si3から構成されるタンタルシリサイド層を実現できる。なお、本実施形態では、30μm以上50μm以下の厚みのタンタルシリサイド層が形成されているが、内部空間の体積等に応じて、例えば1μm以上300μm以下の厚みであっても良い。
【0036】
また、本実施形態ではタンタルシリサイドとしてTa5Si3が形成される構成であるが、他の化学式(例えば、TaSi2)で表されるタンタルシリサイドが形成されていても良い。また、複数のタンタルシリサイドが重ねて形成されていても良い。
【0037】
図2に示すように、底板3上には、複数(本実施形態では3個)の支持部材6が取り付けられている。支持部材6は、加熱処理容器1の一部を構成し、エッチング処理を行うときに、加熱処理容器1の底板3に対して間隔を空けてSiC基板2を支持するためのものである。支持部材6は、底板3に対して着脱可能に設けられている。
【0038】
支持部材6は、円板状のSiC基板2の下面の端を複数箇所で支持するように、平面視で底板3の中心を中心とする仮想円上に、等間隔に(本実施形態では120°おきに)並べて配置されている。それぞれの支持部材6は例えば円錐状に形成されており、下方に行くに従ってSiC基板2の中心線L(図2参照)に近づくように傾く傾斜面(傾斜部)6Fを有する。言い換えれば、支持部材6は、SiC基板2の中心から離れるほど高くなるように傾斜した傾斜面6Fを有する。
【0039】
ここで、支持部材6の下端は、平面視においてSiC基板2の外周よりも中心線L側に近づいた位置に配置されている。従って、図3に示すように、支持部材6は、この傾斜面6Fで、SiC基板2の下面の端2Eに接触してSiC基板2を支持することができる。即ち、支持部材6は、SiC基板2の下面の端2E(側面2Sと下面2Uとの境界部分)を支持する。
【0040】
より具体的には、本実施形態の支持部材6は、下方に行くに従って径が大きくなる円錐形状を有している。この支持部材6の外周面である円錐形状のテーパ面(円錐面)6Tが前記傾斜面6Fであり、この上下中途部がSiC基板2の下端の端2Eに接触することで、支持部材6によりSiC基板2を支持することができる。支持部材6をこのように上方に突出した円錐状とし、複数の傾斜面6F(テーパ面6T)の内側にSiC基板2を配置する構成とすることで、対象物であるSiC基板2を安定した状態で支持部材6によって保持することができる。
【0041】
このように、本実施形態に係る加熱処理容器1では、支持部材6がSiC基板2の下面の端2Eのみに接触した状態でSiC基板2を支持するので、支持部材6と接触した状態でエッチング処理されることでSiC基板2側にできる跡が、このSiC基板2の下端の端2Eの近傍以外には残らない。そして、この跡の位置は、半導体素子を製造する過程におけるSiC基板2の捨て領域に含まれるので、製品の品質に影響を及ぼすことがない。このように、本実施形態の構成では、従来のようにSiC基板2の下面にマスキング効果による大きな突起等が形成されないので、デバイス等を実装する被処理面が下向きとなるように(フェースダウン状態で)SiC基板2を支持することができる。この結果、被処理面に塵埃が付着することを抑制することができる。
【0042】
支持部材6は、タンタルカーバイド(TaC)からなる。このように、加熱処理容器1の内部空間に露出している部材のうち、支持部材6のみがタンタルカーバイドで構成されており、その他の部材の表面(内部空間に露出している表面)にはタンタルシリサイド層が形成されている。このように構成することで、支持部材6がタンタルシリサイド化してSiC基板2に固着してしまうことを確実に防止することができる。また、加熱処理容器1の内部空間に露出している広い面積にわたるタンタルシリサイド層をSi供給源として、加熱処理容器1の内部空間にSiの雰囲気を形成できるので、当該内部空間におけるSiの濃度を均一にすることができ、ひいてはSiC基板2の主面に対して均一にエッチング処理を施すことができる。
【0043】
更に、加熱処理容器1の内部空間の表面に、溶解したSiを接触させてSiを付与する処理(エッチング処理の前処理)を行う間は、支持部材6を底板3から取り外して加熱処理容器1の外部に出しておくことにより、支持部材6の表面にSiが付着してシリサイド化してしまうことを防止することができる。これにより、エッチング処理時に支持部材6がSiC基板2に固着することを確実に防止することができ、SiC基板2が割れてしまうことを防止することができる。
【0044】
ただし、支持部材6を構成する材料は上記のタンタルカーバイドに限るものではなく、これに代えてニオブカーバイドからなるものとしても良い。この場合にも、支持部材6の表面にSiが付着してシリサイド化してしまうことを防止することができ、支持部材6とSiC基板2との固着を防止することができる。
【0045】
次に、支持部材6が底板3に対して着脱可能となっている構成について、図3及び図4を参照して詳細に説明する。本実施形態において、支持部材6の下端部には、オネジが形成された軸6Sが下方に突出するように設けられている。また、上記のオネジに対応するメネジが形成された孔3Hが、底板3における前記仮想円に沿って等間隔(本実施形態では、3つ)で並べて設けられている。このメネジの孔3Hに支持部材6の下端部のオネジの軸6Sが捩じ込まれることにより、支持部材6を底板3に取り付けることができる。また、支持部材6を上記とは反対の方向に回すことにより、支持部材6を底板3から取り外すことができる。このように、支持部材6を回転させるだけで支持部材6を底板3に対して装着したり取り外したりすることができるので、着脱作業が簡単である。
【0046】
ここで、底板3に形成されたメネジの孔3Hの寸法は、オネジの軸6Sに対して、適宜のクリアランス(遊び)を有するように設定されている。そのため、支持部材6の下端部の軸6Sは、底板3に対してクリアランス(遊び)を有する状態で、底板3に取り付けられる。
【0047】
このようなクリアランスを有するネジ構造(取付構造)により、SiC基板2、底板3及び支持部材6の寸法が加熱処理等による熱膨張により変化しても、それを吸収するように支持部材6が底板3に対して動くので、SiC基板2に応力が掛かることを抑制することができる。これにより、熱膨張に伴ってSiC基板2が反ったり割れたりすることを防止することができる。
【0048】
また、図4に示すように、支持部材6は、メネジの孔3Hの軸6Sに対するクリアランスに相当する分だけ動くことにより、全体的に傾いて、傾斜面6Fの傾きを変化させることができるように構成される。これにより、底板3及び支持部材6の寸法が熱膨張により変化しても、SiC基板2が反ったり割れたりすることがないように傾斜面6Fの傾きを変化させることができる。
【0049】
なお、支持部材6が底板3に対して着脱可能とするために、上記の構成に代えて、図5に示すような構成とすることもできる。図5は、本発明の別実施形態に係る加熱処理容器の側面断面図である。
【0050】
図5の構成では、支持部材6の下端部にはメネジの孔6Xが形成されていて、これに対応するオネジを有する軸3Yが、底板3における前記仮想円に沿って等間隔(本実施形態では、3つ)で並べて設けられている。このように、支持部材6にメネジが、底板3にオネジが、それぞれ形成されている構成とすることもできる。
【0051】
以上で説明したように、本実施形態の加熱処理容器1は、対象物である円板状のSiC基板2をエッチング処理するときに当該SiC基板2を支持する支持部材6を備える。支持部材6は、SiC基板2の下面の端2Eを支持するための、下方に行くに従ってSiC基板2の中心線Lに近づくように傾く傾斜面6Fを有する。
【0052】
これにより、支持部材6がSiC基板2の下面の端2Eのみに接触した状態で当該SiC基板2を支持するので、支持部材6に接触したときにSiC基板2側にできる跡が、その後の処理により捨てられる端の領域(捨て領域)以外の部分には残らない。そのため、被処理面が下向きとなるようにSiC基板2を支持することができ、そうすることにより被処理面に塵埃が付着することを抑制できる。
【0053】
また、本実施形態の加熱処理容器1において、傾斜面6Fは、円錐面状に形成されている(テーパ面6T)。傾斜面6Fの上下中途部が前記SiC基板2の下端の端2Eに接触する。
【0054】
これにより、対象物であるSiC基板2を、安定した状態で支持部材6によって保持することができる。
【0055】
また、本実施形態の加熱処理容器1は、加熱処理容器1の底部をなす底板3を更に備える。支持部材6は底板3に着脱可能に取り付けられる。
【0056】
これにより、加熱処理容器1内にSiを付与する処理を行う間は、支持部材6を底板3から取り外して加熱処理容器1の外に出しておくことにより、支持部材6の表面がタンタルシリサイド化(シリサイド化)してエッチング処理時にSiC基板2に固着することを防止することができる。よって、SiC基板2が割れることを防止することができる。
【0057】
また、上記の加熱処理容器1において、支持部材6はタンタルカーバイド又はニオブカーバイドからなる。底板3の内底面及び加熱処理容器1の内部空間に露出している表面は、タンタルシリサイドからなる。
【0058】
これにより、支持部材6がSiC基板2に固着してしまうことを防止しつつ、底板3の内底面及び加熱処理容器1の内部空間に露出している表面をSi供給源として、加熱処理容器1内にSiの雰囲気を効率良く形成し、SiC基板2をエッチング処理することができる。
【0059】
また、上記の加熱処理容器1において、支持部材6の下端部には軸状の差込部(軸6S)が設けられ、底板3には、上記の軸6Sに対応する差込孔(孔3H)が設けられる。また、別の実施形態では、支持部材6の下端部に差込孔(孔6X)が設けられ、底板3には、上記の孔6Xに対応する軸状の差込部(軸3Y)が設けられる。
【0060】
これにより、軸6Sを孔3Hに(又は、軸3Yを孔6Xに)差し込むだけで、支持部材6を底板3に対して装着したり取り外したりすることができ、支持部材6を着脱する作業が簡単になる。
【0061】
また、上記の加熱処理容器1において、軸6S及び軸3Yにはオネジが形成され、孔3H及び孔6Xにはメネジが形成される。
【0062】
これにより、支持部材6を回転させるだけで、支持部材6を底板3に対して装着したり取り外したりすることができ、支持部材6を着脱する作業が簡単になる。
【0063】
また、上記の加熱処理容器1においては、支持部材6は、クリアランス(遊び)を有するネジ構造を介して底板3に取り付けられる。
【0064】
これにより、底板3及び支持部材6の寸法が熱膨張により変化しても、その寸法変化を吸収するように支持部材6が底板3に対して移動するので、SiC基板2に応力が掛かることを抑制することができ、SiC基板2が反ったり割れたりすることを防止することができる。
【0065】
また、上記の加熱処理容器1においては、支持部材6は、前記クリアランスによって傾斜面6Fの傾きを変化させることが可能である。
【0066】
これにより、SiC基板2が支持部材6の傾斜面6Fに接触するときの位置が上下方向に変化するので、底板3及び支持部材6の寸法が熱膨張により変化しても、SiC基板2が反ったり割れたりすることなく、支持部材6によって安定した状態で支持することができる。
【0067】
また、本実施形態では、上記の加熱処理容器1を用いて、SiC基板2の被処理面を下方に向けた状態で、当該被処理面(下面2U)の端2Eを支持部材6により支持して、SiC基板2に対してエッチング処理が行われる。
【0068】
これにより、被処理面が下向きとなるように(フェースダウン状態で)SiC基板2を支持してエッチング処理がされるので、被処理面に塵埃が付着することを抑制できる。
【0069】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0070】
上記の実施形態では、支持部材6は円錐形状の部材であるものとしたが、支持部材の形状はこれに限るものではない。即ち、支持部材は、下方に行くに従ってSiC基板の中心線に近づくように傾く傾斜部を有するものであれば良く、例えば垂直方向に対して適宜に傾斜させた細い円柱状のワイヤや、平板状の部材等により構成しても良い。また、支持部材を、傾斜させた丸棒状の部材で構成し、その円柱面状の周面でSiC基板を支持しても良い。あるいは、支持部材の形状を、テーパ面を有する円錐形状の上部と、円柱形状の下部と、を組み合わせた形状としても良い。また、支持部材の形状を、例えば三角錐、六角錘や十二角錘のような多角錘としても良い。この場合、多角錐が有する傾斜状の平面でSiC基板を支持しても良いし、傾斜した稜線状の部分(ナイフエッジ状の部分)でSiC基板を支持しても良い。
【0071】
上記の実施形態では、支持部材6の下端部のオネジの軸6Sと、底板3に形成されたメネジの孔3Hと、の間のクリアランス(遊び)によって支持部材6が若干動くものとしたが、クリアランスの形態はこれに限るものではない。即ち、例えばこれに代えて、ネジなしの軸状の差込部と差込孔からなる着脱可能な取付構造(ダボ構造)とし、軸状の差込部と差込孔との間にクリアランスを形成することもできる。また、底板3に、SiC基板2の中心線Lに対して径方向に延びた溝を設け、当該溝内を支持部材がスライドするものとすることもできる。あるいは、回動軸やカム機構等を利用して、支持部材が底板に対して動くように構成することもできる。
【0072】
上記の実施形態では、支持部材6は、底板3上の平面視でSiC基板2の外周に対応する位置に等間隔に3個設けられているものとしたが、支持部材6の個数はこれに限定するものではなく、例えば4個以上備えられるものとしても良い。また、支持部材6が不等の間隔で配置されても良い。
【0073】
支持部材6は、底板3に突出状に設けられる構成に限定されず、胴部4や蓋5に設けられる構成としても良い。また、支持部材6が底板3等に着脱不能に取り付けられても良い。
【0074】
上記の実施形態では胴部4と底板3が分割可能に構成されているが、胴部4と底板3が一体に形成されても良い。
【0075】
SiC基板2は、デバイス等を実装する面(被処理面)が上側となった状態で支持部材6によって支持されても良い。
【0076】
上記の実施形態では、支持部材6は、ネジにより底板3に直接取り付けられるものとしたが、これに限るものではなく、例えばこれに代えて、底板3の内底面上に台座を配置し、当該台座を介して支持部材が間接的に底板に取り付けられるものとしても良い。その場合、台座にネジ孔が形成される構成とすることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 加熱処理容器
2 SiC基板
2E (SiC基板の)下端の端
3 底板
3H 孔
6 支持部材
6F 傾斜面(傾斜部)
6S 軸
6T テーパ面
図1
図2
図3
図4
図5