特許第6643062号(P6643062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643062
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】電気車制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20160101AFI20200130BHJP
   H02P 27/04 20160101ALI20200130BHJP
   B60L 53/00 20190101ALI20200130BHJP
【FI】
   H02P21/00
   H02P27/04
   B60L53/00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-234983(P2015-234983)
(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公開番号】特開2017-103903(P2017-103903A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】高木 正志
【審査官】 安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−022096(JP,A)
【文献】 特開2009−273270(JP,A)
【文献】 特開2004−064926(JP,A)
【文献】 特開2002−272197(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/004294(WO,A1)
【文献】 特開2010−088232(JP,A)
【文献】 特開2005−012856(JP,A)
【文献】 特開平05−168274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00
B60L 53/00
H02P 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車を駆動する電動機を制御する電気車制御装置であって、
前記電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、
前記電流検出器により検出された電流と前記電動機への出力電圧を指示する電圧指令とに基づき前記電動機の回転速度を演算する速度演算部と、
前記電動機のすべり周波数指令を生成するすべり周波数指令生成部と、
前記速度演算部により演算された回転速度と前記すべり周波数指令生成部により生成されたすべり周波数指令とを加算した周波数指令を生成する加算器と、
前記電動機の回転方向に応じて、前記加算器により生成された周波数指令を周波数制限した制限周波数指令を生成する周波数制限部と、
磁束指令を減衰させた減衰磁束指令を生成する磁束指令減衰部と、
トルク指令と前記磁束指令減衰部により生成された減衰磁束指令とに基づき、磁束分電流指令およびトルク分電流指令を生成する電流指令生成部と、
前記電流検出器により検出された電流と、前記周波数制限部により生成された制限周波数指令と、前記電流指令生成部により生成された磁束分電流指令およびトルク分電流指令とに基づき、前記電圧指令を生成するトルク制御部と、
を備え
前記磁束指令減衰部は、前記制限周波数指令と前記トルク指令とに基づき、前記減衰磁束指令を生成することを特徴とする電気車制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気車制御装置において、
前記周波数制限部は、前記電動機の正転時には、前記周波数指令に示される周波数が正の第1の閾値以下である場合に、前記周波数指令を正値で下限制限し、前記電動機の逆転時には、前記周波数指令に示される周波数が負の第2の閾値以上である場合に、前記周波数指令を負値で上限制限して前記制限周波数指令を生成し、
前記磁束指令減衰部は、前記周波数制限部により前記周波数指令が周波数制限されている場合には、前記磁束指令を減衰させて前記減衰磁束指令を生成し、前記周波数指令が周波数制限されていない場合には、前記磁束指令を前記減衰磁束指令とすることを特徴とする電気車制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気車制御装置において、
前記減衰磁束指令をIfrDとし、前記電動機の二次抵抗をR2とし、前記トルク指令をTqrとし、前記制限周波数指令をωiLとすると、前記磁束指令減衰部は、以下の式
IfrD=√(R2*Tqr/ωiL)
に基づき、前記減衰磁束指令を生成することを特徴とする電気車制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車を駆動する電動機を制御する電気車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車(車両)を駆動する電動機を制御する電気車制御装置の一例として、演算により電動機の回転速度を求めて、電動機のトルク制御を行う電気車制御装置が特許文献1に開示されている。このような電気車制御装置によれば、速度センサを用いずに、トルク指令Tqrに従って電動機を制御することができる。電動機のトルクが車両の車輪軸に伝えられることにより、車両を加減速させることができる。
【0003】
図6は、上述したような、演算により電動機の回転速度を求めて電動機の制御を行う電気車制御装置の構成例を示す図である。
【0004】
図6に示す電気車制御装置10は、電力変換器11と、電流検出器12と、速度演算部13と、すべり周波数指令生成部14aと、加算器15と、電流指令生成部16aと、トルク制御部17aとを備える。
【0005】
トルク指令Tqrと磁束指令Ifrとが、すべり周波数指令生成部14aおよび電流指令生成部16aに入力される。
【0006】
電力変換器11は、トルク制御部17aから出力された、電動機1への出力電圧を指示する電圧指令V*を増幅し、増幅した電圧指令V*に応じた電圧vを電動機1に印加する。
【0007】
電流検出器12は、電動機1に流れる電流iを検出し、検出結果を速度演算部13およびトルク制御部17aに出力する。
【0008】
速度演算部13は、トルク制御部17aから出力された電圧指令V*と電流検出器12により検出された電流iとに基づき、以下の式(1)〜(5)を用いて、電動機1の回転速度(演算速度ωmc)を演算する。
【0009】
【数1】
【0010】
ここで、R1,R2はそれぞれ電動機1の一次抵抗、二次抵抗であり、L1,L2はそれぞれ電動機1の一次自己インダクタンス、二次自己インダクタンスである。また、FAおよびFBは、式(1)で求められる誘導機磁束φのa軸成分およびb軸成分である。なお、電圧指令V*の代わりに、電動機1に印加する電圧vを用いてもよい。
【0011】
速度演算部13は、演算した演算速度ωmcを加算器15に出力する。
【0012】
すべり周波数指令生成部14aは、トルク指令Tqrと磁束指令Ifrとに基づき、以下の式(6)を用いてすべり周波数指令ωsrを生成し、加算器15に出力する。
【0013】
【数2】
【0014】
加算器15は、速度演算部13から出力された演算速度ωmcとすべり周波数指令生成部14aから出力されたすべり周波数指令ωsrとを加算して、電動機1に印加する電圧の周波数を指示する周波数指令ωiを生成し、トルク制御部17aに出力する。
【0015】
電流指令生成部16aは、トルク指令Tqrと磁束指令Ifrとに基づき、以下の式(7)および式(8)を用いて、電動機1の磁束を磁束指令Ifrに従って制御するために電動機1に流す電流を指示する磁束分電流指令Id、および、電動機1のトルクをトルク指令Tqrに従って制御するために電動機1に流す電流を指示するトルク分電流指令Iqを生成し、トルク制御部17aに出力する。
【0016】
【数3】
【0017】
トルク制御部17aは、電流指令生成部16aから出力された磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqと、電流検出器12により検出された電流iと、加算器15から出力された周波数指令ωiとに基づき電圧指令V*を生成し、電力変換器11および速度演算部13に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平11−69895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
図6に示す電気車制御装置10においては、電動機1の温度変動により一次抵抗R1が変動すると、式(1)を用いて求められる誘導機磁束φの誤差が生じ、その結果、演算速度ωmcにも誤差が生じる。特に、低速走行時には、誘導機磁束φや演算速度ωmcに大きな誤差が生じやすい。演算速度ωmcに誤差が生じると、電動機1のトルクをトルク指令Tqrに従って制御することができなくなる。その結果、車両を想定通りに加減速させることができず、車両の低速走行時(停止時を含む)に、所望の進行方向に対して車両が逆方向に移動してしまうことがある。
【0020】
なお、電動機1の正転時には周波数指令ωiを正値で下限制限し、電動機1の逆転時には、周波数指令ωiを負値で上限制限した制限周波数指令ωiLを用いて電圧指令V*を生成することも考えられる。制限周波数指令ωiLを用いて電圧指令V*を生成することで、演算速度ωmcに誤差が生じても、電動機1の回転方向指令と逆方向のトルクを電動機1に出力させる電圧指令V*が生成されることが無くなるため、所望の進行方向に対して車両が逆方向に移動することを抑制することができる。
【0021】
しかしながら、周波数指令ωiの周波数制限を行った場合、電動機1を停止または極低速から起動した際、制限周波数指令ωiL分のすべりが電動機1に発生する。電動機1に発生したすべりがすべり周波数指令ωsrより大きいと、電動機1のトルクがトルク指令Tqrより低下してしまう。
【0022】
電動機1のトルクがトルク指令Tqrより低下すると、登り勾配で電動機1を駆動した際に、電動機1のトルクによる電気車の推進力が登り勾配による重力に負け、電気車が後退してしまうことがある。
【0023】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、登り勾配での起動時にも、電気車の後退を防ぐことができる電気車制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置は、電気車を駆動する電動機を制御する電気車制御装置であって、前記電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、前記電流検出器により検出された電流と前記電動機への出力電圧を指示する電圧指令とに基づき前記電動機の回転速度を演算する速度演算部と、前記電動機のすべり周波数指令を生成するすべり周波数指令生成部と、前記速度演算部により演算された回転速度と前記すべり周波数指令生成部により生成されたすべり周波数指令とを加算した周波数指令を生成する加算器と、前記電動機の回転方向に応じて、前記加算器により生成された周波数指令を周波数制限した制限周波数指令を生成する周波数制限部と、磁束指令を減衰させた減衰磁束指令を生成する磁束指令減衰部と、トルク指令と前記磁束指令減衰部により生成された減衰磁束指令とに基づき、磁束分電流指令およびトルク分電流指令を生成する電流指令生成部と、前記電流検出器により検出された電流と、前記周波数制限部により生成された制限周波数指令と、前記電流指令生成部により生成された磁束分電流指令およびトルク分電流指令とに基づき、前記電圧指令を生成するトルク制御部と、を備え、前記磁束指令減衰部は、前記制限周波数指令と前記トルク指令とに基づき、前記減衰磁束指令を生成する。
【0025】
また、本発明に係る電気車制御装置において、前記周波数制限部は、前記電動機の正転時には、前記周波数指令に示される周波数が正の第1の閾値以下である場合に、前記周波数指令を正値で下限制限し、前記電動機の逆転時には、前記周波数指令に示される周波数が負の第2の閾値以上である場合に、前記周波数指令を負値で上限制限して前記制限周波数指令を生成し、前記磁束指令減衰部は、前記周波数制限部により前記周波数指令が周波数制限されている場合には、前記磁束指令を減衰させて前記減衰磁束指令を生成し、前記周波数指令が周波数制限されていない場合には、前記磁束指令を前記減衰磁束指令とすることが望ましい。
【0026】
また、本発明に係る電気車制御装置において、前記減衰磁束指令をIfrDとし、前記電動機の二次抵抗をR2とし、前記トルク指令をTqrとし、前記制限周波数指令をωiLとすると、前記磁束指令減衰部は、以下の式
IfrD=√(R2*Tqr/ωiL)
に基づき、前記減衰磁束指令を生成することが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る電気車制御装置によれば、登り勾配での起動時にも、電気車の後退を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気車制御装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す周波数制限部の構成例を示す図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る電気車制御装置の構成例を示す図である。
図4図3に示す周波数制限部の構成例を示す図である。
図5】本発明の第3の実施形態に係る電気車制御装置の構成例を示す図である。
図6】従来例に係る電気車制御装置の構成例を示す図である。
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電気車制御装置100の構成例を示す図である。図1において、図6と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0031】
図1に示す電気車制御装置100は、図6に示す電気車制御装置10と比較して、周波数制限部110および磁束指令減衰部120を追加した点と、すべり周波数指令生成部14a、電流指令生成部16a、トルク制御部17aをそれぞれ、すべり周波数指令生成部14、電流指令生成部16、トルク制御部17に変更した点とが異なる。
【0032】
トルク指令Tqrは、すべり周波数指令生成部14および電流指令生成部16に入力される。また、磁束指令Ifrは、磁束指令減衰部120に入力される。
【0033】
周波数制限部110は、電動機1の回転方向に応じて、加算器15から出力された周波数指令ωiを周波数制限した制限周波数指令ωiLを生成し、トルク制御部17に出力する。
【0034】
図2は、周波数制限部110の構成例を示す図である。
【0035】
図2に示す周波数制限部110は、下限制限部111と、上限制限部112と、切替器113とを備える。
【0036】
周波数指令ωiは、下限制限部111および上限制限部112に入力される。
【0037】
下限制限部111は、周波数指令ωiに示される周波数が所定の周波数ωi1(>0)以下である場合には、正値aを制限周波数ωiL_Fとして切替器113に出力し、周波数指令ωiに示される周波数が所定の周波数ωi1より大きい場合には、周波数指令ωiに示される周波数を制限周波数ωiL_Fとして切替器113出力する。すなわち、下限制限部111は、周波数指令ωiを正値aで下限制限して、制限周波数ωiL_Fとして切替器113に出力する。なお、周波数ωi1は、電動機1の正転時に車両が低速走行(停止を含む)するような値である。
【0038】
上限制限部112は、周波数指令ωiに示される周波数が所定の周波数ωi2(<0)より小さい場合には、周波数指令ωiに示される周波数を制限周波数ωiL_Rとして切替器113に出力し、周波数指令ωiに示される周波数が所定の周波数ωi2以上である場合には、負値bを制限周波数ωiL_Rとして切替器113に出力する。すなわち、上限制限部112は、周波数指令ωiを負値bで上限制限して、制限周波数ωiL_Rとして切替器113に出力する。なお、周波数ωi2は、電動機1の逆転時に車両が低速走行(停止を含む)するような値である。
【0039】
切替器113は、電動機1の回転方向を示す回転方向指令FRが入力され、入力された回転方向指令FRに基づき、電動機1の正転時には、下限制限部111から出力された制限周波数ωiL_Fを制限周波数指令ωiLとして出力し、電動機1の逆転時には、上限制限部112から出力された制限周波数ωiL_Rを制限周波数指令ωiLとしてトルク制御部17に出力する。なお、切替器113は、加速/減速指令とトルク指令Tqrの符号とを用いて切替を行ってもよい。
【0040】
したがって、周波数制限部110は、電動機1の正転時には、周波数指令ωiに示される周波数が正の周波数ωi1(第1の閾値)以上の場合に、周波数指令ωiを正値aで下限制限し、電動機1の逆転時には、周波数指令ωiに示される周波数が負の周波数ωi2以下の場合に、周波数指令ωiを負値bで上限制限した制限周波数指令ωiLを生成し、トルク制御部17に出力する。
【0041】
図1を再び参照すると、磁束指令減衰部120は、磁束指令Ifrを減衰させた(磁束指令Ifrに示される磁束よりも小さい磁束を示す)減衰磁束指令IfrDを生成し、すべり周波数指令生成部14および電流指令生成部16に出力する。
【0042】
すべり周波数指令生成部14は、トルク指令Tqrと磁束指令減衰部120から出力された減衰磁束指令IfrDとに基づき、以下の式(9)を用いて、すべり周波数指令ωsrを生成し、加算器15に出力する。
【0043】
【数4】
【0044】
電流指令生成部16は、トルク指令Tqrと磁束指令減衰部120から出力された減衰磁束指令IfrDとに基づき、以下の式(10)および式(11)を用いて磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqを生成する。
【0045】
【数5】
【0046】
上述したように、減衰磁束指令IfrDは磁束指令Ifrを減衰させたものである。したがって、減衰磁束指令IfrDに基づいて生成されるトルク分電流指令Iqは、磁束指令Ifrに基づいて生成されるトルク分電流指令Iq(図6)よりも大きい。
【0047】
トルク制御部17は、電流指令生成部16から出力された磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqと、電流検出器12により検出された電流iと、周波数制限部110から出力された制限周波数指令ωiLとに基づき電圧指令V*を生成し、電力変換器11および速度演算部13に出力する。
【0048】
上述したように、電動機1の正転時には、制限周波数指令ωiLに示される周波数は、正値a以上、すなわち、常に正値である。また、電動機1の逆転時には、制限周波数指令ωiLに示される周波数は、負値b以下、すなわち、常に負値となる。したがって、電動機1の回転方向が回転方向指令FRに示される方向と反対方向となることがない。そのため、演算速度ωmcに誤差が生じたとしても、回転方向指令FRと逆方向のトルクを電動機1に出力させる電圧指令V*が生成されることが無くなるので、所望の進行方向に対して車両が逆方向に移動することを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態においては、減衰磁束指令IfrDに基づいて生成されるトルク分電流指令Iqを生成し、そのトルク分電流指令Iqを用いて電圧指令V*を生成する。そのため、磁束指令Ifrをそのまま用いるよりも、電動機1に流れる電流は大きくなり、電動機1のトルクが増加する。したがって、周波数制限部110に起因するトルクの低下を緩和し、登り勾配での起動時にも、電気車の後退を防ぐことができる。
【0050】
このように本実施形態によれば、電気車制御装置100は、電動機1に流れる電流iを検出する電流検出器12と、検出された電流iと電圧指令V*とに基づき電動機1の演算速度ωmcを演算する速度演算部13と、すべり周波数指令ωsrを生成するすべり周波数指令生成部14と、演算速度ωmcと周波数指令ωsrとを加算した周波数指令ωiを生成する加算器15と、電動機1の回転方向に応じて、周波数指令ωiを周波数制限した制限周波数指令ωiLを生成する周波数制限部110と、磁束指令Ifrを減衰させた減衰磁束指令IfrDを生成する磁束指令減衰部120と、トルク指令Tqrと減衰磁束指令IfrDとに基づき、磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqを生成する電流指令生成部16と、検出された電流iと、制限周波数指令ωiLと、磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqとに基づき、電圧指令V*を生成するトルク制御部17と、を備える。
【0051】
磁束指令Ifrを減衰させた減衰磁束指令IfrDに基づきトルク分電流指令Iqを生成し、そのトルク分電流指令Iqを用いて電圧指令V*を生成することで、磁束指令Ifrをそのまま用いるよりも、電動機1に流れる電流は大きくなり、電動機1のトルクが増加する。したがって、周波数制限部110に起因するトルクの低下を緩和し、登り勾配での起動時にも、電気車の後退を防ぐことができる。
【0052】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る電気車制御装置100Aの構成例を示す図である。図3において、図1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0053】
図3に示す電気車制御装置100Aは、図1に示す電気車制御装置100と比較して、周波数制限部110、磁束指令減衰部120をそれぞれ、周波数制限部110A、磁束指令減衰部120Aに変更した点が異なる。
【0054】
周波数制限部110Aは、周波数指令ωiの周波数制限(上限制限または下限制限)が行われているか否かを示す信号LmtStを磁束指令減衰部120Aに出力する。以下では、周波数制限部110Aは、周波数指令ωiの周波数制限が行われている状態(ωiL≠ωi)では、信号LmtSt=ONとし、周波数指令ωiの周波数制限が行われていない状態(ωiL=ωi)では、信号LmtSt=OFFとする。
【0055】
図4は、周波数制限部110Aの構成例を示す図である。図4において、図2と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0056】
図4に示す周波数制限部110Aは、図2に示す周波数制限部110と比較して、比較器114を追加した点が異なる。
【0057】
比較器114は、周波数指令ωiと制限周波数指令ωiLとが入力され、入力された周波数指令ωiと制限周波数指令ωiLとを比較する。そして、比較器114は、周波数指令ωiと制限周波数指令ωiLとが一致する場合には、周波数指令ωiの周波数制限が行われていない状態であると判定し、信号LmtSt=OFFとする。また、比較器114は、周波数指令ωiと制限周波数指令ωiLとが一致しない場合には、周波数指令ωiの周波数制限が行われている状態であると判定し、信号LmtSt=ONとする。
【0058】
図3を再び参照すると、磁束指令減衰部120Aは、信号LmtSt=ONである場合には、磁束指令Ifrを減衰させて減衰磁束指令IfrDを生成して出力する。一方、磁束指令減衰部120Aは、信号LmtSt=OFFである場合には、磁束指令Ifrをそのまま減衰磁束指令IfrDとして出力する。
【0059】
このように本実施形態によれば、電気車制御装置100Aは、周波数制限部110Aにより周波数指令ωiの周波数制限が行われている場合には、磁束指令Ifrを減衰させて減衰磁束指令IfrDを生成し、周波数制限部110Aにより周波数指令ωiの周波数制限が行われていない場合には、磁束指令Ifrを減衰磁束指令IfrDとする磁束指令減衰部120Aを備える。
【0060】
そのため、電動機1が加速して周波数指令ωiの制限が不要となると、減衰磁束指令IfrDが磁束指令Ifrと等しくなるので、トルク指令Tqrに従って電動機1のトルクを制御することができる。
【0061】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係る電気車制御装置100Bの構成例を示す図である。図5において、図3と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0062】
図5に示す電気車制御装置100Bは、図3に示す電気車制御装置100Aと比較して、周波数制限部110A、磁束指令減衰部120Aをそれぞれ、周波数制限部110B、磁束指令減衰部120Bに変更した点が異なる。
【0063】
周波数制限部110Bは、信号LmtStに加えて、制限周波数指令ωiLを磁束指令減衰部120Bに出力する。
【0064】
磁束指令減衰部120Bは、トルク指令Tqrが入力され、入力されたトルク指令Tqrと周波数制限部110Bから出力された制限周波数指令ωiLとに基づき、以下の式(12)を用いて、減衰磁束量IfrD0を演算する。
【0065】
【数6】
【0066】
磁束指令減衰部120Bは、信号LmtSt=ONである場合には、演算した減衰磁束量IfrD0を減衰磁束指令IfrDとして電流指令生成部16に出力する。一方、磁束指令減衰部120Bは、信号LmtSt=OFFである場合には、磁束指令Ifrをそのまま減衰磁束指令IfrDとする。
【0067】
このように本実施形態によれば、電気車制御装置100Bは、制限周波数指令ωiLとトルク指令Tqrとに基づき、減衰磁束指令IfrDを生成する磁束指令減衰部120Bを備える。
【0068】
そのため、すべり周波数指令ωsrを電動機1の実すべりに合わせ、トルク指令Tqrに近いトルクが出力されるような、磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqを生成することができる。
【0069】
なお、第1の実施形態において、磁束指令減衰部120が、式(12)を用いて減衰磁束量IfrD0を求め、求めた減衰磁束量IfrD0を減衰磁束指令IfrDとして電流指令生成部16に出力してもよい。
【0070】
本発明を図面および実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各ブロックなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数のブロックを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 電動機
11 電力変換器
12 電流検出器
13 速度演算部
14 すべり周波数指令生成部
15 加算器
16 電流指令生成部
17 トルク制御部
100,100A,110B 電気車制御装置
110,110A,110B 周波数制限部
111 下限制限部
112 上限制限部
113 切替器
114 比較器
120,120A,120B 磁束指令減衰部
図1
図2
図3
図4
図5
図6