(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カップリング剤が修飾される前記薄膜の主表面は、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、またはケイ素酸窒化物により構成されることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の手法のように、レジスト膜を形成する面をHMDSにて表面処理した後にレジスト膜を形成すると、被処理面とレジスト膜との間の密着性は、表面処理前に比べると改善する。その一方で、本発明者らの調べによれば、上記の手法のみでは、本出願時における半導体回路パターンの微細化への要請、ひいては転写用マスクのマスクパターンの微細化への要請に十分に応えられなくなってきている。この微細化の要請の一例としては、hp30nm以下、アスペクト比2.5以上の凹凸パターンである。なお、hpとはハーフピッチのことであり周期的な凹凸パターンにおける一周期の凹凸の平面視での幅の半値である。
【0006】
マスクパターンの微細化が進行している中で、現像後のレジストパターンと薄膜の密着性を高水準に確保するのは困難である。パターン寸法の微細化によってレジストパターンと薄膜の接触面積が相乗して狭くなるからである。
【0007】
特に、露光箇所が硬化するネガ型のレジストを使用した場合、レジストパターンを形成した時にその狭小な接触面積で、レジストパターンを自立した状態に維持するためには、凹凸パターンにおける凸部の高さを低く(つまり、レジスト膜を薄く)しなければならない。このような状態でエッチングすると、レジストパターンがすぐに消失し、レジストパターンを金属の薄膜に転写できない問題もある。上記の問題は、マスクパターンの微細化を妨げる。
【0008】
本発明の目的は、マスクパターンの微細化を可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特許文献1に記載の手法について検討を加えた。その結果、特許文献1に記載の手法だと、HMDSにて表面処理された薄膜とレジスト膜との間の界面では密着性は確かに向上しているものの、その密着性は分子間力(ファンデルワールス力)のみの作用によってもたらされているということに着目した。
【0010】
この知見に基づき、本発明者らは、レジストパターンを形成後において、薄膜に表面修飾された表面処理剤からレジストパターンに至るまで、共有結合により分子鎖が連結されている状態とする、またはその状態を実現可能にし得る構成を想到した。
この知見に基づいて成された本発明の構成は、以下の通りである。
【0011】
<構成1>
本発明の第1の構成はマスクブランクであり、薄膜を有する基板と、当該薄膜の主表面に形成された下地膜とを備える。
そして、薄膜の主表面に修飾されたカップリング剤に対し、下地膜を構成する分子鎖が共有結合しており、当該分子鎖はフェノール性水酸基を有する。
本構成によれば、レジストパターンを形成する前の段階において、薄膜の主表面に修飾されたカップリング剤と下地膜を構成する分子鎖とを共有結合にて連結している。その後、フェノール性水酸基を有するレジスト膜が当該薄膜上に形成されレジストパターンが形成される際に、薄膜に表面修飾された表面処理剤からレジストパターンに至るまで、共有結合により分子鎖が連結されている状態とすることが、本構成ならば可能となる。
本構成により、最終的に薄膜とレジスト膜との間の密着性を著しく向上させることが可能となり、しかもこれはHMDSのような汎用性の高い従来のカップリング剤を使用したとしても達成可能となる。これにより、レジストパターンを強固に自立させることができるため、レジストパターンの倒れが効果的に抑制される。その結果、マスクパターンの微細化(例えばhp30nm以下、アスペクト比2.5以上の凹凸パターン)が可能となる。
【0012】
<構成2>
本発明の第2の構成は、第1に記載の構成において、下地膜の厚さは5nm未満である。
そもそも最終的にマスクパターンが形成されるのは薄膜(場合によっては基板そのもの)である。つまり、薄膜の上方に形成されている膜は薄い方が好ましい。最終的に薄膜に所望の凹凸パターンを転写しやすくなるためである。本構成の下地膜は、薄膜とレジスト膜との間を連結する分子鎖により構成されるため、下地膜の厚さを一分子鎖の長さ程度に抑えることが可能となる。その結果、構成1で述べた効果を確実に更に増幅させることになる。
【0013】
<構成3>
本発明の第3の構成は、第1または第2に記載のマスクブランクにおいて、カップリング剤が修飾される薄膜の主表面は、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、またはケイ素酸窒化物により構成される。
上記ケイ素化合物を最表面に有するマスクブランクは、一般的に、レジストとの密着性に乏しい。ところが本構成によれば、薄膜表面とレジストパターンを一連の共有結合によって連結でき、一般的にレジストとの親和性に乏しい薄膜であっても両者を確実かつ強固に連結できる。
【0014】
<構成4>
本発明の第4の構成は、第1〜第3のいずれかに記載のマスクブランクにおいて、カップリング剤はアルキルシラザン類により構成される。
本構成によれば、アルキルシラザン類のアミンが薄膜表面のOH基に作用し、表面がアルキル基で覆われる。例えばアルキル基の末端を過酸化物にした上でラジカルを生じさせ、下地膜に含まれるグラフト化に携わる分子の官能基とラジカル重合させることができる。
【0015】
<構成5>
本発明の第5の構成は、第1〜第4のいずれかに記載のマスクブランクの下地膜の主表面に形成されたネガ型のレジスト膜を備えるレジスト膜付きマスクブランクである。そして、当該レジスト膜はフェノール性水酸基を有する。
本構成によれば、構成1と同様、レジストパターンが形成される際に、薄膜に表面修飾された表面処理剤からレジストパターンに至るまで、共有結合により分子鎖が連結されている状態とすることが可能となる。それ以外は構成1と同様の効果を奏する。
なお、本明細書におけるフェノール性水酸基とは、フェニル基に水酸基(OH)が結合したものであって、フェノール基(−C
6H
4OH)またはフェノール基のHが少なくとも一部置換された変性フェノール基のことを指す。この変性フェノール基としては、例えば、ヒドロキシベンズアルデヒドやその誘導体が挙げられる。
【0016】
<構成6>
本発明の第6の構成は、第5に記載の構成であって、レジスト膜はノボラック型フェノール樹脂により構成される。
先に述べたように、レジストパターンが形成される際に、薄膜に表面修飾されたカップリング剤からレジストパターンに至るまで、共有結合により分子鎖が連結された状態とする。これを実現するために、レジスト膜はフェノール性水酸基を有している。このようなレジスト膜としてはノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。汎用性の高い当該樹脂を使用したとしても、さらに言うと汎用性の高いカップリング剤を使用するとしても、後述の実施例の項目にて示すように、非常に良好な密着性を獲得でき、ひいてはマスクパターンの微細化を達成できる。
【0017】
<構成7>
本発明の第7の構成は、第1〜第4のいずれかに記載のマスクブランクの下地膜の主表面に形成されたレジストパターンを備えるレジストパターン付きマスクブランクである。
そして、当該レジストパターンはフェノール性水酸基を有し、下地膜の分子鎖のフェノール性水酸基に対し、レジストパターンのフェノール性水酸基が共有結合している。
本構成によれば、先ほど述べたように、薄膜に表面修飾された表面処理剤からレジストパターンに至るまで、共有結合により分子鎖が連結されている状態とすることが、本構成ならば可能となる。
本構成により、最終的に薄膜とレジストパターンとの間の密着性を著しく向上させることが可能となり、しかもこれはHMDSのような従来のカップリング剤を使用したとしても達成可能となる。これにより、レジストパターンを強固に自立させることができるため、レジストパターンの倒れが効果的に抑制される。その結果、マスクパターンの微細化(例えばhp30nm以下、アスペクト比2.5以上の凹凸パターン)が可能となる。
【0018】
<構成8>
本発明の第8の構成は、第7に記載の構成であって、レジストパターンはノボラック型フェノール樹脂により構成される。
本構成によれば、構成6で述べたのと同様の効果を奏する。
【0019】
<構成9>
本発明の第9の構成は、薄膜を有する基板と、当該薄膜の主表面に形成された下地膜とを備えるマスクブランクの製造方法である。
当該製造方法は、薄膜を有する基板を準備する基板準備工程と、薄膜の主表面にシランカップリング剤を修飾する修飾工程と、薄膜の主表面に修飾されたカップリング剤に対し、下地膜を構成する分子鎖を共有結合させて下地膜を形成する下地膜形成工程と、を有している。そして、下地膜の分子鎖はフェノール性水酸基を有する。
本構成によれば、構成1で述べたのと同様の効果を奏する。なお、本構成における下地膜形成工程においてカップリング剤と共有結合させる際の分子鎖(または、その基となるモノマー)にフェノール性水酸基を備えさせておいてもよいし、カップリング剤と分子鎖とを共有結合させた後に当該分子鎖に対してフェノール性水酸基を備えさせてもよい。
【0020】
<構成10>
本発明の第10の構成は、第9に記載の構成において、下地膜の厚さは5nm未満である。
本構成によれば、構成2で述べたのと同様の効果を奏する。
【0021】
<構成11>
本発明の第11の構成は、第9または第10に記載のマスクブランクにおいて、カップリング剤が修飾される薄膜の主表面は、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、またはケイ素酸窒化物により構成される。
上記ケイ素化合物を最表面に有するマスクブランクは、一般的に、レジストとの密着性に乏しい。ところが本構成によれば、薄膜表面とレジストパターンを一連の共有結合によって連結でき、一般的にレジストとの親和性に乏しい薄膜であっても両者を確実かつ強固に連結できる。
【0022】
<構成12>
本発明の第12の構成は、第9〜第11のいずれかに記載のマスクブランクにおいて、カップリング剤はアルキルシラザン類により構成される。
本構成によれば、アルキルシラザン類のアミンが薄膜表面のOH基に作用し、表面がアルキル基で覆われる。例えばアルキル基の末端を過酸化物にした上でラジカルを生じさせ、下地膜に含まれるグラフト化に携わる分子の官能基とラジカル重合させることができる。
【0023】
<構成13>
本発明の第13の構成は、第9〜第12のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法により得られた下地膜の主表面にネガ型のレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程を有するレジスト膜付きマスクブランクの製造方法である。そして、下地膜の分子鎖はフェノール性水酸基を有し、レジスト膜はフェノール性水酸基を有する。
本構成によれば、構成5で述べたのと同様の効果を奏する。
【0024】
<構成14>
本発明の第14の構成は、第13に記載の構成であって、レジストパターンはノボラック型フェノール樹脂により構成される。
本構成によれば、構成6で述べたのと同様の効果を奏する。
【0025】
<構成15>
本発明の第15の構成は、第9〜第12のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法により得られたマスクブランクの製造方法により得られた下地膜の主表面にネガ型のレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、レジスト膜にパターンを形成するレジストパターン形成工程と、を有するレジストパターン付きマスクブランクの製造方法である。
そして、下地膜の分子鎖はフェノール性水酸基を有し、レジスト膜はフェノール性水酸基を有する。
その上で、レジストパターン形成工程においては、レジスト膜を電子線描画する描画工程と現像工程が含まれており、描画工程によって、下地膜の分子鎖のフェノール性水酸基に対し、レジストパターンのフェノール性水酸基を共有結合させる。
本構成によれば、構成7で述べたのと同様の効果を奏する。
【0026】
<構成16>
本発明の第16の構成は、第15に記載の構成であって、レジストパターンはノボラック型フェノール樹脂により構成される。
本構成によれば、構成6で述べたのと同様の効果を奏する。
【0027】
<構成17>
本発明の第17の構成は、第7または第8に記載のレジストパターン付きマスクブランクを用い、マスクブランクのうち少なくとも薄膜に対して凹凸パターンを形成するパターン形成工程と、を有する、転写用マスクの製造方法である。
本構成によれば、薄膜とレジスト膜との間の密着性を著しく向上させることが可能となる結果、マスクパターンの微細化(例えばhp30nm以下、アスペクト比2.5以上の凹凸パターン)が可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、マスクパターンの微細化を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.レジスト膜付きマスクブランク
1−1)薄膜付基板
1−2)下地膜
1−3)レジスト膜
2.レジストパターン付きマスクブランクの製造方法
2−1)基板準備工程
2−2)修飾工程
2−3)下地膜形成工程
2−4)レジスト膜形成工程
2−5)レジストパターン形成工程
3.転写用マスクの製造方法
3−1)エッチング工程
3−2)その他
4.変形例
本明細書においては「〜」は所定数値以上かつ所定数値以下を意味する。また、本明細書に列挙する化合物は単独で用いても構わないし、各化合物を組み合わせたものを用いても構わない。以下、本実施形態におけるレジストパターン付きマスクブランクの断面概略図である
図1を基に説明する。なお、
図1は、後述の位相シフト膜110を備えた場合を例示している。なお、レジストパターンのようにパターニングされた構成に関しては符号に「′」を付与する。
【0031】
<1.レジスト膜付きマスクブランク>
本実施形態におけるレジスト膜13付きマスクブランク5は、基板の主表面に薄膜が形成され、薄膜11の上にレジスト膜13が形成されている。以下、各構成について説明する。
【0032】
1−1)薄膜付基板
本実施形態における基板10としては、ガラス基板10を用いることができる。透過型マスクの場合、基板10は、ウェハ上にパターンを形成するときの露光光に対して高い透過率を有するガラス材のものが選択される。反射型マスクの場合、露光光のエネルギーに伴う基板10の熱膨張が最小限にできる低熱膨張ガラスが選択される。
具体的には、透過型マスク(例えば、バイナリマスク、位相シフトマスク及びグレートーンマスク)の場合、基板10の材質としては、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、無アルカリガラスなどが挙げられる。詳しい例として、波長193nmのArFエキシマレーザーや波長254nmのKrFエキシマレーザーを露光光として用いる転写型マスクの基板10には、波長300nm以下の光に対して高い透過率を有する合成石英ガラスを好ましく用いることができる。
また、反射型マスクであるEUVマスクの場合、基板10には、露光時の熱による被転写パターンの歪みを抑えるために、約0±1.0×10
−7/℃の範囲内、より好ましくは約0±0.3×10
−7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するガラス材料であるSiO
2−TiO
2系ガラスを好ましく用いることができる。
【0033】
次に、基板10の主表面に対して薄膜11が形成される。基板10の主表面に形成される薄膜11を構成する元素は、マスクブランク5から製造される転写用マスク50の用途に応じて選択される。
薄膜11の具体的な構成を列挙するならば、以下の(1)〜(5)が挙げられる。
【0034】
(1)バイナリマスクの薄膜
バイナリマスクブランク5を作製する場合、露光波長の光に対して透光性を有する基板10上に、遮光膜111を有する薄膜11が形成される。
この遮光膜111は、クロム、タンタル、ルテニウム、タングステン、チタン、ハフニウム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ロジウム等の遷移金属単体あるいはその化合物を含む材料からなる。例えば、クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したクロム化合物で構成した遮光膜111が挙げられる。また、例えば、タンタルに、酸素、窒素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したタンタル化合物で構成した遮光膜111が挙げられる。
また、薄膜11は、遮光膜111の構造が、遮光層と主表面反射防止層の2層構造や、さらに遮光層と基板10との間に裏面反射防止層を加えた3層構造としたものなどがある。また、遮光膜111の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
また、遮光膜111上にハードマスク膜112を有する薄膜11の構成としてもよい。このハードマスク膜112は、例えば遮光膜111がクロム化合物を含む場合にはクロム化合物のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)材料、特にケイ素酸化物、ケイ素窒化物、またはケイ素酸窒化物からなる材料で構成することが好ましい。このとき、ハードマスク膜112に反射防止機能を持たせることにより、遮光膜111上にハードマスク膜112を残した状態で転写用マスク50を作製してもよい。
【0035】
(2)他の構成を有するバイナリマスクの薄膜
また、バイナリマスクの薄膜11の他の例としては、遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる遮光膜111を有する構成も挙げることができる。
この遮光膜111は、遷移金属及びケイ素の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。また、遮光膜111は、遷移金属と、酸素、窒素及び/又はホウ素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
特に、遮光膜111をモリブデンシリサイドの化合物で形成する場合であって、遮光層(MoSi等)と主表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造や、さらに遮光層と基板10との間に裏面反射防止層(MoSiON等)を加えた3層構造がある。
また、遮光膜111の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
また、遮光膜111上にハードマスク膜112を有する薄膜11の構成としてもよい。このハードマスク膜112は、遷移金属シリサイドを含む遮光膜111のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物からなる材料で構成することが好ましい。このとき、ハードマスク膜112に反射防止機能を持たせることにより、遮光膜111上にハードマスク膜112を残した状態で転写用マスク50を作製してもよい。
【0036】
(3)ハーフトーン型位相シフトマスクの薄膜
ハーフトーン型位相シフトマスクを作製する場合、転写時に使用する露光光の波長に対して透光性を有する基板10上に遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる位相シフト膜110を有する薄膜11が形成される。
薄膜11に含まれる位相シフト膜110は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものである。なお、ハーフトーン型位相シフトマスクは、この位相シフト膜110をパターニングした光半透過部と、位相シフト膜110が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像度を向上させるものである。
この位相シフト膜110は、例えば遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイドを含む)の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
また、位相シフト膜110上に遮光膜111を有する形態の場合、上記位相シフト膜110の材料が遷移金属及びケイ素を含むので、遮光膜111の材料としては、位相シフト膜110に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物で構成することが好ましい。
【0037】
(4)多階調マスクの薄膜
多階調マスクの薄膜11は、1以上の半透過膜と遮光膜111との積層構造である。
半透過膜の材料については、ハーフトーン型位相シフトマスクブランク5の位相シフト膜110と同様の元素のほか、クロム、タンタル、チタン、アルミニウムなどの金属単体や合金あるいはそれらの化合物を含む材料も含まれる。
各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率となるように調整される。遮光膜111の材料についてもバイナリマスクブランク5の遮光膜111が適用可能であるが、半透過膜との積層構造で、所定の遮光性能(光学濃度)となるように、遮光膜111材料の組成や膜厚は調整される。
【0038】
(5)反射型マスクの薄膜
反射型マスクの薄膜11は、基板10上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成された構造を有する。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光(EUV光)は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射された光像が反射光学系を通して半導体用の基板上に転写される。
多層反射膜は、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層して形成される。多層反射膜の例としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などがある。露光波長により、材質を適宜選択することができる。
また、吸収体膜は、露光光である例えばEUV光を吸収する機能を有するもので、例えばタンタル(Ta)単体又はTaを主成分とする材料を好ましく用いることができる。このような吸収体膜の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。
【0039】
本実施形態においては、当該薄膜11の主表面に対し、カップリング剤を修飾する。ここで言うカップリング剤とは、無機材料と有機材料との間の仲立ちとなり得、両者を共有結合にて連結可能な薬剤のことを指す。この様子を示すのが
図2である。
図2は、
図1における鎖線部分の拡大概念図である。
【0040】
図2に示すように、カップリング剤によりハードマスク膜112(ケイ素酸化物)が修飾される。
図2に示す例では、ハードマスク膜112(ケイ素酸化物)における水酸基(OH基)がカップリング剤と脱水縮合することにより共有結合を形成する。なお、カップリング剤を修飾しやすくすべく、ハードマスク膜112の主表面にOH基を多数結合させる処理を別途行っても構わない。
【0041】
また、本実施形態においては、上記の機能を奏する化合物であればカップリング剤に特に限定はない。具体例を挙げるとすれば、シラン基または変性シラン基((OR)
n−Si−)を含有するシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては有機ケイ素化合物((OR)
n−Si−X
(4−n))やヘキサメチルジシラザン(HMDS)に代表されるシリルアミン類等が挙げられる。
【0042】
また、無機材料と有機材料との間の仲立ちとなり得るためのシランカップリング剤の構成としては、例えば、薄膜11の主表面に存在する官能基(水酸基等)との間でシランカップリング反応により結合し得る官能基を少なくとも1つ有するものが挙げられる。結合し得る官能基の例としては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ハロゲン基等が挙げられ、好ましくは、アルコキシ基、アミノ基、イソシアネート基である。
【0043】
また、カップリング剤はアルキルシラザン類であるのが好ましい。アルキルシラザン類のアミンは薄膜11表面のOH基に作用し、当該薄膜11表面がアルキル基で覆われる。アルキル基の末端を過酸化物にすることにより、下地膜12に含まれるグラフト化に携わる分子の官能基とラジカル重合させることができる。
【0044】
なお、カップリング剤が修飾される薄膜11の主表面(本実施形態におけるハードマスク膜112)は、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、またはケイ素酸窒化物により構成されるのが好ましい。上記ケイ素化合物を最表面に有するマスクブランク5は、一般的に、レジストとの密着性に乏しい。ところが本構成によれば、薄膜11の主表面とレジストパターン13′を一連の共有結合によって連結でき、一般的にレジストとの親和性に乏しい薄膜11であっても両者を確実かつ強固に連結できる。なお、
図2〜
図4においては薄膜11の主表面をケイ素酸化物のハードマスク膜112とした場合を例示している。
【0045】
詳しくは<2.レジストパターン付きマスクブランクの製造方法>の2−3)下地膜形成工程にて述べるが、薄膜11の主表面に修飾されたシランカップリング剤と、後述の下地膜12を構成する分子鎖とを共有結合させる必要がある。そのため、シランカップリング剤を、薄膜11の主表面に修飾された状態で、当該分子鎖と共有結合可能な状態へと変化させる必要がある。
【0046】
そこで本実施形態におけるシランカップリング剤を構成する分子鎖における一端には、上記のシランカップリング反応により結合し得る官能基を有しつつ、もう一端には、下地膜12と共有結合可能な官能基Xを有させる。
具体例を挙げると、シランカップリング剤に対する加熱によって下地膜12と共有結合な状態となる官能基Xを設けてもよい。当該官能基Xとしてはビニル基、ベンゾフェノン基(メタ)アクリル基であるところのγ−メタクリロキシプロピル基、γ−アクリロキシプロピル基、γ−アクリロキシメチル基などが挙げられる。
また、シランカップリング剤に対するプラズマ処理等によってラジカルを発生させるアルキル基(例えば過酸化物)などの官能基Xを設けてもよい。
【0047】
1−2)下地膜
本実施形態における下地膜12としては、薄膜11の主表面に修飾されたカップリング剤に対し、下地膜12を構成する分子鎖が共有結合しており、最終的に当該分子鎖がフェノール性水酸基を有することになるのならば特に限定はない。先に述べたように、カップリング剤と共有結合させる際の分子鎖(さらに言うと分子鎖の基となるモノマー)に予めフェノール性水酸基を備えさせておいてもよいし(手法1)、カップリング剤と所定の分子鎖とを共有結合させた後に当該分子鎖に対してフェノール性水酸基を後付けで備えさせてもよい(手法2)。
【0048】
手法1の場合、
図3に示すように、下地膜12を構成する分子鎖を形成すべく、フェノール性水酸基を有し、かつ、グラフト化可能なモノマーを用意する。その上で、薄膜11に修飾されたシランカップリング剤をプラズマ処理して過酸化物をつくる。そして、光または熱を加えて過酸化物のラジカルを生じさせ、当該モノマーとラジカル重合させる。これにより、当該モノマーは、シランカップリング剤とラジカル重合してグラフト化し、しかもフェノール性水酸基を有する分子鎖となる。
【0049】
手法2の場合、
図4に示すように、予め高分子鎖を有するシランカップリング剤を薄膜11の主表面に修飾しておく。その上で、当該シランカップリング剤の官能基Xに対し、フェノール性水酸基を有する上記のモノマーを、ラジカル重合により共有結合させる。この共有結合は、例えば下地膜12に含有させておいた重合開始剤により生じさせる。そして、こうして得られた下地膜12を構成する分子鎖はフェノール性水酸基を有するようにしておく。また、このラジカル重合を効率的に行うべく、上記の手法1においても、下地膜12の形成に係る組成液にラジカル重合開始剤を添加していてもよい。
【0050】
上記の内容は、下地膜12を構成する分子鎖においてシランカップリング剤との共有結合に関するものである。
その一方、後述の<2.レジストパターン付きマスクブランクの製造方法>の2−5)レジストパターン形成工程での電子線による描画により、レジストパターン13′と下地膜12を構成する分子鎖との間で共有結合を生じさせる必要がある。
そのためにも、下地膜12を構成する分子鎖は、電子線(広く言うと活性エネルギー線)の照射により、レジストパターン13′を構成する分子鎖との間で共有結合可能なものとするのが好ましい。当該分子鎖は、フェノール性水酸基を有するものであるが、この分子鎖の基となるモノマーとしては、フェノール性水酸基を有し、かつアクリル基または(メタ)アクリル基すなわちアクリレート基を有するアクリレートが挙げられる。
【0051】
上記のアクリレートとしては、フェノール性水酸基を有するヒドロキシフェニルアクリルアクリレート類、ヒドロキシフェニルメタクリレート類が例示される。その場合、フェノール性水酸基が、後述の電子線露光によりレジスト膜13から生じる酸によってレジスト中の架橋剤成分と共有結合を形成し、下地膜12のフェノール性水酸基とレジスト膜13のフェノール性水酸基とが結合する。例えば、レジスト膜13のフェノール性水酸基がヒドロキシベンゾアルデヒドである場合、電子線の照射を受けた箇所において、レジスト膜13のヒドロキシベンゾアルデヒドが下地膜12のフェノール性水酸基と付加縮合することになり、共有結合が形成される。
【0052】
それに加え、当該アクリレートは、上記のシランカップリング剤を表面処理して生じたラジカルとも結合可能である。その結果、レジストパターン13′におけるライン部分(凸部)と薄膜11とが、下地膜12を介して強固に結合することができる。このような結合形態を採用することにより、シランカップリング剤を介して薄膜11とレジストパターン13′とを分子間力(ファンデルワールス力)のみにより結合させた状態に比べ、シランカップリング剤からレジストパターン13′に至るまで一連の共有結合により連結可能となる。しかも、薄膜11とレジストパターン13′との間の密着維持において、通常ならばシランカップリング剤にのみ密着維持を担わせていたところ、本実施形態の下地膜12を採用することにより、シランカップリング剤と下地膜12とでも密着維持を担わせることができ、ひいては薄膜11とレジストパターン13′との間の密着を良好に維持することができる。
【0053】
なお、下地膜12の厚さは5nm未満であるのが好ましく、さらには3nm以下であるのが非常に好ましい。そもそも最終的にマスクパターンが形成されるのは薄膜11(場合によっては基板10そのもの)である。つまり、薄膜11の上方に形成されている膜は薄い方が好ましい。最終的に薄膜11に所望の凹凸パターンを転写しやすくなるためである。また、本実施形態における下地膜12は、薄膜11とレジスト膜13との間を連結する分子鎖により構成されるため、下地膜12の厚さを1nm以下にすることが可能である。
【0054】
1−3)レジスト膜
本実施形態におけるレジスト膜13としてはネガ型のものであってフェノール性水酸基を有するものであれば特に制限はない。電子線を描画した箇所が硬化するネガ型のレジストを用いるからこそ、レジストパターン13′が有するフェノール性水酸基(例えばフェノールがホルムアルデヒドと反応することにより得られるヒドロキシベンゾアルデヒド)と、下地膜12を構成する分子鎖におけるフェノール性水酸基とが共有結合(付加縮合)にて連結されることになる。
【0055】
なお、レジスト膜13はノボラック型フェノール樹脂により構成されるのが好ましい。フェノール性水酸基を有するネガ型のレジストとしてはノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。このノボラック型フェノール樹脂は、モノマーをフェノールとアルデヒド類(例えばホルムアルデヒド)とし、両者が反応することにより得られるヒドロキシベンゾアルデヒドを採用しても構わない。このとき、汎用性の高い当該樹脂を使用したとしても、さらに言うと汎用性の高いカップリング剤を使用するとしても、後述の実施例の項目にて示すように、非常に良好な密着性を獲得でき、ひいてはマスクパターンの微細化を達成できる。
【0056】
なお、ノボラック型フェノール樹脂には光酸発生剤が含有され、この光酸発生剤がフェノール性水酸基を有しているのが好ましい。これにより、化学増幅型レジストの描画時に発生する酸を利用して、薄膜11表面からレジスト層に向けて一連の結合をもって連結させることが可能となる。もちろん、光酸発生剤のみならず架橋剤もフェノール性水酸基を有しているのが非常に好ましい。
【0057】
このとき、下地膜12が、エネルギー線の照射によってのみ重合反応が進行する物質であるのが好ましい。この構成を採用することにより、描画していない箇所の下地膜12とレジスト膜13の結合が抑制され、現像した後、描画部分と非描画部分とをより明瞭に分けられる。
【0058】
以上が本実施形態におけるレジスト膜13付きマスクブランク5の主な構成である。なお、上記の構成を有するのならば、その他の公知の層(膜)をマスクブランク5に設けても構わない。
【0059】
<2.レジストパターン付きマスクブランクの製造方法>
次に、本実施形態におけるレジストパターン付きマスクブランク1の製造方法について、
図5を用いて説明する。
図5は、本実施形態における転写用マスク50の製造方法を示す断面概略図である。なお、以下の工程の内容は、<1.レジスト膜付きマスクブランク>にて説明した内容と重複する部分もある。そのため、以下に記載が無い内容については、<1.レジスト膜付きマスクブランク>にて説明した通りである。
【0060】
なお、本実施形態では、以下の2−1)基板準備工程において、基板10を用意しその基板10の上に薄膜11を成膜する例を示すが、あらかじめ薄膜11が形成されているマスクブランク5を用意して、その上にレジスト膜13を形成する形態も、本実施形態に含まれる。
【0061】
2−1)基板準備工程
まず、基板10を準備する(
図5(a))。次に、基板10の主表面に対し、薄膜11を形成する(
図5(b))。具体的な構成や準備の手法は、公知の手法を用いても構わない。なお、本実施形態においては、石英ガラスからなる基板10の上に位相シフト膜110および遮光膜111を設けたものをマスクブランク5として用いた場合について述べる。
【0062】
2−2)修飾工程
本工程においては、薄膜11の主表面にカップリング剤を修飾する。具体的な修飾手法については特に限定はなく、公知の手法を用いても構わない。
【0063】
2−3)下地膜形成工程
本工程においては、薄膜11の主表面に修飾されたカップリング剤に対し、下地膜12を構成する分子鎖を共有結合させて下地膜12を形成する(
図5(c))。これを実施すべく、薄膜11の主表面に修飾されたカップリング剤に対し、予め表面処理を行う。
【0064】
その際、先に1−2)下地膜にて述べたように、カップリング剤と共有結合させる際の分子鎖に予めフェノール性水酸基を備えさせておく場合(手法1)、
図3に示すように、薄膜11の主表面に修飾されたカップリング剤に対してプラズマ処理を行い、カップリング剤におけるアルキル基の過酸化物をつくっておく。その上で、光または熱を加えることにより過酸化物のラジカルを発生させる。そして当該過酸化物のラジカルと、下地膜12を構成する分子鎖とをラジカル重合させ、下地膜12を形成する。
【0065】
その一方、カップリング剤と分子鎖とを共有結合させた後に当該分子鎖に対してフェノール性水酸基を後付けで備えさせておく場合(手法2)、
図4に示すように、予め高分子鎖を有するシランカップリング剤を薄膜11の主表面に修飾しておく。その上で、当該シランカップリング剤の官能基Xに対し、ラジカル重合等によって、下地膜12を構成する分子鎖を共有結合させる。
【0066】
2−4)レジスト膜形成工程
本工程においては、下地膜12の主表面に対し、化学増幅型レジスト(ネガ型のレジスト)によりレジスト膜13を形成する(
図5(d))。このときのレジストとしては、ノボラック型フェノール樹脂と架橋反応可能な化合物を含有していてもよい。具体的な手法は、公知の手法を用いても構わない。一例として挙げるとすれば、ネガ型のレジスト液をスピンコートにより下地膜12の主表面に塗布し、ベーク処理を行う。
【0067】
2−5)レジストパターン形成工程
次に、マスクブランク5上に形成されたレジスト膜13に対し、所定の形状の露光(電子線描画)を行う(
図5(e))。具体的な露光の手法については、電子線描画のような公知の手法を用いても構わない。
【0068】
本実施形態において本工程は、レジスト膜13に対する露光という役割に留まらない。つまり、レジスト膜13の露光箇所を硬化した後のレジストパターン13′(潜像)を形成する際に下地膜12を構成する分子鎖と共有結合させるという役割を果たす。
【0069】
次に、現像工程により、レジストパターン13′を形成する。
現像液には、水系現像液や有機溶媒現像液を使用することができる。
水系現像液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ化合物の水溶液、又は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等の四級アンモニウムヒドロキシドをはじめとする有機アルカリ性物質の水溶液が挙げられる。
有機溶媒現像液としては、エステル類、エーテル類、ケトン類、アルコール類等が挙げられ、レジストの組成に合わせて適宜選択して使用することができる。具体的な成分の例としては、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が挙げられる。
【0070】
以上により、本実施形態におけるレジストパターン付きマスクブランク1が作製される。もちろん、レジストパターン付きマスクブランク1の作製に必要な洗浄・乾燥工程等を適宜行っても構わない。
【0071】
<3.転写用マスクの製造方法>
次に、本実施形態における転写用マスク50の製造方法について説明する。
【0072】
3−1)エッチング工程
上記の工程を経て、レジストパターン13′を形成することが可能となる。レジストパターン13′を利用して、レジストパターン13′下の薄膜11に対して所定のパターンを形成する。現像工程によって、所定のレジストパターン13′が形成されたレジスト膜13をマスクとして薄膜11をエッチングする。エッチングにより、薄膜11に所定の転写パターンを形成する(
図5(f))。
【0073】
なお、エッチングの手法は、公知の手法を用いて構わない。好ましい例としては、薄膜11をエッチングする工程においては反応性ガスをエッチャントとしたドライエッチングである。本形態のレジストパターン13′を利用すれば、反応性ガスに等方性のエッチングガスが含まれていても、精度のよい転写パターンを形成することができる。
また、薄膜11の表層の組成にクロムが含まれ、その一方で反応性ガスは少なくとも酸素と塩素を含む混合ガスとするエッチング方法のものにも好ましく適用することができる。
【0074】
3−2)その他
そして、レジストパターン13′を除去し、洗浄などのその他の処理を適宜行うことにより、本実施形態における転写用マスク50は製造される(
図5(g))。これらの手法は、公知のものを用いればよい。
【0075】
<4.変形例>
本実施形態においては基板10に薄膜11を設けたものをマスクブランク5としたが、基板10そのものに対して凹凸パターンを形成する技術(例えばインプリントにおける原盤やコピーモールドなどインプリントモールドの作製)に本発明を適用しても構わない。
【0076】
また、本実施形態においては下地膜12とレジストパターン13′とを共有結合させるためにフェノール性水酸基を利用したが、フェノール性水酸基以外の官能基であって下地膜12とレジストパターン13′とを共有結合可能なものを使用しても構わない。また、この場合、共有結合に限らず、分子間力とは異なる結合態様(例えば配位結合)のような化学結合可能なものを官能基として下地膜12(さらにはレジストパターン13′)にて採用しても構わない。
【実施例】
【0077】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<実施例1>
[位相シフトマスクブランクおよびその作製]
2−1)基板準備工程
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.25mmの合成石英ガラスからなる透光性を有する基板10を準備した。
【0079】
そして、基板10上に、順に、位相シフト膜110、下遮光膜111a、上遮光膜111b、ハードマスク膜112を成膜した。具体的な成膜条件は以下の表に示す通りである。なお、原子%比はXPSにて求めている。
【表1】
【0080】
[シランカップリング剤の修飾からレジスト膜形成まで]
2−2)修飾工程
マスクブランク5のハードマスク膜112の主表面に、カップリング剤ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を窒素ガスで蒸散して、表面改質を行った。その後、ハードマスク膜112の主表面を大気圧プラズマで処理した。これにより、HMDS上に露出したメチル基に過酸化物を形成させた。
なお、ここでのプラズマ処理は、直流パルス電源を用い、プロセスガスとしてArガス流量を3slmで流し、投入電圧5kVp−v、プラズマ処理時間20分、電極と試料台のギャップ1.5mmの条件で行った
【0081】
2−3)下地膜形成工程
本工程の準備として、溶液PGME(1−メトキシ−2−プロパノール)50mlに、4−ヒドロキシフェニルメタクリレート2gを添加し、縦x横x高さ=160mmx160mmx10mmの容器に注いだ。
そして、上記の修飾工程を経た基板10を80℃に加熱したものの表面に、上記の溶液を接触させた。その後、当該基板10の表面を純水で洗浄し、膜厚1nmの下地膜12を作製した。
【0082】
2−4)レジスト膜形成工程
下地膜12を形成した膜の表面に化学増幅型のネガ型のレジスト(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 SNL−009、ノボラック型フェノール樹脂)をスピン塗布し、その後、乾燥処理することにより、膜厚120nmのレジスト膜13を形成した。
【0083】
[描画処理〜現像]
2−5)レジストパターン形成工程
続いて、レジスト膜13に対してエリオニクス社製の電子線描画装置を用いて所定のデバイスパターンを描画した。ここでは、デバイスパターンとして、薄膜11に形成すべき位相シフトパターンに対応するパターンであって、ラインアンドスペースを含むパターンを描画した。ここでの描画は、SRAFパターンのパターン寸法に対応するhp40nm幅のラインアンドスペース(ラインとスペースの比は1:1)の位相シフトパターンの形成を目的とした。
【0084】
描画に引き続き、レジスト膜13に対して、2.38%TMAH(テトラメチアンモニウムハイドライド)水溶液を現像液として現像処理を施した後、純水(イオン交換水)を用いたリンス処理を行った。
以上の手法を用いて、本実施例におけるレジストパターン付きマスクブランク1を作製した。
【0085】
[レジストパターン評価]
レジストパターン13′の形状を評価した様子を示すのが
図6である。
図6は、実施例1におけるレジストパターン付きマスクブランク1に対する光学顕微鏡観察を側面から行った結果を示す写真である。
図6が示すように、レジストパターン13′のボトム部分でやや広がる形状のパターンが形成されていた。これは、下地膜12がシランカップリング剤と結合が確立されたこととによる。また、下地膜12とレジストパターン13′との界面が明確に見られないことから、描画時のレジスト酸発生剤により描画領域にのみ下地膜12に含まれるヒドロキシフェニルアクリレートの重合が促進し、レジストパターン13′のボトム部分と確実に結合されたものと考察される。なお、スペース部分の下地膜12が形成されていないのは、アルカリ現像時の現像液によってレジストとともに4−ヒドロキシフェニルアクリレートが除去されたことによるものと考えられる。
なお、アスペクト比は、2.5であった。
【0086】
<実施例2>
本実施例においては、実施例1の修飾工程に使用したHMDSの代わりに、シランカップリング剤3−(トリメチキシシリル)プロピルアクリレートを用いた。修飾は、マスクブランク5のハードマスク膜の上に、3−(トリメチキシシリル)プロピルアクリレートをスピン塗布し、150℃で10分加熱する方法を用いた。
【0087】
また、実施例1の下地膜形成工程にて用いた4−ヒドロキシフェニルメタクリレートの代わりに、2−アリルフェノールを使用した。グラフト化の方法は以下に示す。
下地膜形成工程の準備として、溶液PGME(1−メトキシ−2−プロパノール)50mlに、2−アリルフェノール2gと2’−アゾビスイソブチロニトリルを添加し、縦x横x高さ=160mmx160mmx10mmの容器に注いだ。
そして、上記の修飾工程を経た基板10を80℃に加熱したものの表面に、上記の溶液を接触させた。その後、純水で当該基板10の表面を洗浄し、膜厚1nm以下の下地膜12を作製した。
【0088】
実施例2におけるレジストパターン13′の形状を評価した様子を示すのが
図7である。
図7は、実施例2におけるレジストパターン付きマスクブランク1に対する光学顕微鏡観察を側面から行った結果を示す写真である。
図7が示すように、実施例2においては、実施例1と同様にアスペクト比及び形状に優れたレジストパターン13′を形成することができた。
【0089】
<比較検討>
本発明者らは、従来の技術について以下のように比較検討を行った。レジストパターン13′形成工程において現像処理後の隣接する凸部同士の間隔が20nmであってレジストパターン13′のアスペクト比が4である場合、リンス液による洗浄の際に生じる表面張力は29.1MPaである。その一方、本実施例を用いない従来のレジストパターン13′とシランカップリング剤との間の接着力は1MPaであるという情報がある。
ところが本実施例ならば上述の通り良好な結果が得られており、薄膜11、カップリング剤、下地膜12、レジストパターン13′が一連の共有結合を有しているおかげで、上記のリンス液による洗浄の際に生じる表面張力を上回る接着力が得られているものと考えられる。