特許第6643169号(P6643169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643169
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】処理装置、検査装置および処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/02 20060101AFI20200130BHJP
   G01R 31/50 20200101ALI20200130BHJP
【FI】
   G01R27/02 R
   G01R31/02
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-77935(P2016-77935)
(22)【出願日】2016年4月8日
(65)【公開番号】特開2017-187439(P2017-187439A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 悟朗
【審査官】 小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−47960(JP,A)
【文献】 特開2001−4678(JP,A)
【文献】 特開昭57−40949(JP,A)
【文献】 特開2013−15474(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0303916(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00−27/32
G01R 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の2つの供給点の間に電流を供給している供給状態で当該測定対象の2つの検出点において検出される電圧値と当該電流の電流値とに基づく抵抗値についての基準値を算出する基準値算出処理を実行する処理部を備えた処理装置であって、
前記処理部は、前記基準値算出処理において、前記測定対象を複数の小片に分割すると共に前記各供給点の電位を異なる2つの電位に規定したときの当該各小片の電位をポアソン方程式から導かれる数式を用いて算出する第1処理と、
前記供給状態において前記電流のすべてが通過する前記測定対象内の通過面を特定する第2処理と、
前記通過面を挟んで隣接する前記各小片の間に流れる当該通過面に直交する向きの電流の合計値を前記各小片の電位に基づいて算出する第3処理と、
前記第1処理において求めた前記各小片の各電位を、前記電流の合計値が予め規定された規定値のときの各電位に変換する第4処理と、
前記第4処理において変換した前記各小片の電位の中から前記各検出点にそれぞれ位置する各小片の各電位を特定して当該各電位の電位差を前記規定値で除算した値を、前記各供給点の間に前記規定値の電流を供給している状態における前記基準値として算出する第5処理とを実行する処理装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記第2処理において、1つの平面を前記通過面として特定する請求項1記載の処理装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の処理装置と、前記抵抗値を測定する測定部と、当該抵抗値および前記基準値に基づいて前記測定対象を検査する検査部とを備えている検査装置。
【請求項4】
測定対象の2つの供給点の間に電流を供給している供給状態で当該測定対象の2つの検出点において検出される電圧値と当該電流の電流値とに基づく抵抗値についての基準値を算出する基準値算出処理を実行する処理方法であって、
前記基準値算出処理において、前記測定対象を複数の小片に分割すると共に前記各供給点の電位を異なる2つの電位に規定したときの当該各小片の電位をポアソン方程式から導かれる数式を用いて算出する第1処理と、
前記供給状態において前記電流のすべてが通過する前記測定対象内の通過面を特定する第2処理と、
前記通過面を挟んで隣接する前記各小片の間に流れる当該通過面に直交する向きの電流の合計値を前記各小片の電位に基づいて算出する第3処理と、
前記第1処理において求めた前記各小片の各電位を、前記電流の合計値が予め規定された規定値のときの各電位に変換する第4処理と、
前記第4処理において変換した前記各小片の電位の中から前記各検出点にそれぞれ位置する各小片の各電位を特定して当該各電位の電位差を前記規定値で除算した値を、前記各供給点の間に前記規定値の電流を供給している状態における前記基準値として算出する第5処理とを実行する処理方法。
【請求項5】
前記第2処理において、1つの平面を前記通過面として特定する請求項4記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象の抵抗値についての基準値を算出する処理を実行する処理装置、その処理装置を備えた検査装置、および測定対象の抵抗値についての基準値を算出する処理を実行する処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の検査装置として、下記特許文献1において出願人が開示した基板検査装置が知られている。この基板検査装置は、回路基板における導体パターンの抵抗値を4端子法または2端子法で測定し、その抵抗値に基づいて導体パターンの良否を検査可能に構成されている。この場合、この基板検査装置では、測定した導体パターンの抵抗値と記憶部に記憶されている抵抗値の基準値とを比較して導体パターンの良否を検査する。
【0003】
この場合、一般的に、良品と考えられる回路基板(良品基板)の導体パターンを測定した抵抗値や、導体パターンの長さ(L)、幅(W)、厚み(d)、および導体パターンの抵抗率(ρ)を数式(抵抗率の定義に基づく数式:R=ρ×L/(d×W))に代入して求めた抵抗値(R)が基準値として採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−15474号公報(第6−8頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の基板検査装置には、改善すべき以下の課題がある。すなわち、上記の基板検査装置では、良品基板の導体パターンを測定した抵抗値や、抵抗率の定義に基づく数式から求めた抵抗値を基準値としている。しかしながら、基板が良品であるか否かの判断は、主として、外観上の欠陥が存在するか否かに基づいて行われるため、良品基板として選択した回路基板が真に良品である保証はなく、この結果、この基準値を用いた検査の信頼性の向上が困難となるおそれがある。一方、四端子法において2つのソース端子(電流供給プローブ)に供給した電流は、導体パターンの幅方向に均一には流れない(不均一に流れる)ため、2つのセンス端子(電圧検出プローブ)を介して検出されるセンス端子間の電圧がこの影響を受けることとなる。この場合、導体パターンの長さが長いときには、導体パターンの両端部にそれぞれプロービングさせる各ソース端子の間の距離(以下「ソース端子間距離」ともいう)が、各ソース端子のそれぞれの近傍にプロービングさせるセンス端子とソース端子との間の距離(以下「ソース・センス端子間距離」ともいう)よりも十分に長いため、電流が導体パターンの幅方向に均一には流れないことによる電圧検出への影響が少なく抑えられる。しかしながら、導体パターンの長さが短いときや導体パターンが小径の円形のときには、ソース端子間距離とソース・センス端子間距離との差が小さくなって、電流が導体パターンの幅方向に均一には流れないことによる電圧検出への影響が大きくなる。したがって、ソース端子を介して供給する電流の電流値とセンス端子を介して検出された電圧に基づいて測定される抵抗値がソース端子やセンス端子のプロービング位置、つまり導体パターンの形状によって異なることとなる。しかしながら、従来の基板検査装置において基準値として用いられている抵抗率の定義に基づく数式から求められる抵抗値は、ソース端子およびセンス端子のプロービング位置や電流の流れ方が反映されていない。このため、抵抗率の定義に基づく数式から求めた基準値を用いる場合においても、検査の信頼性の向上が困難となるおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、検査の信頼性を向上可能な基準値を算出し得る処理装置、検査装置および処理方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく請求項1記載の処理装置は、測定対象の2つの供給点の間に電流を供給している供給状態で当該測定対象の2つの検出点において検出される電圧値と当該電流の電流値とに基づく抵抗値についての基準値を算出する基準値算出処理を実行する処理部を備えた処理装置であって、前記処理部は、前記基準値算出処理において、前記測定対象を複数の小片に分割すると共に前記各供給点の電位を異なる2つの電位に規定したときの当該各小片の電位をポアソン方程式から導かれる数式を用いて算出する第1処理と、前記供給状態において前記電流のすべてが通過する前記測定対象内の通過面を特定する第2処理と、前記通過面を挟んで隣接する前記各小片の間に流れる当該通過面に直交する向きの電流の合計値を前記各小片の電位に基づいて算出する第3処理と、前記第1処理において求めた前記各小片の各電位を、前記電流の合計値が予め規定された規定値のときの各電位に変換する第4処理と、前記第4処理において変換した前記各小片の電位の中から前記各検出点にそれぞれ位置する各小片の各電位を特定して当該各電位の電位差を前記規定値で除算した値を、前記各供給点の間に前記規定値の電流を供給している状態における前記基準値として算出する第5処理とを実行する。
【0008】
また、請求項2記載の処理装置は、請求項1記載の処理装置において、前記処理部は、前記第2処理において、1つの平面を前記通過面として特定する。
【0009】
また、請求項3記載の検査装置は、請求項1または2記載の処理装置と、前記抵抗値を測定する測定部と、当該抵抗値および前記基準値に基づいて前記測定対象を検査する検査部とを備えている。
【0010】
また、請求項4記載の処理方法は、測定対象の2つの供給点の間に電流を供給している供給状態で当該測定対象の2つの検出点において検出される電圧値と当該電流の電流値とに基づく抵抗値についての基準値を算出する基準値算出処理を実行する処理方法であって、前記基準値算出処理において、前記測定対象を複数の小片に分割すると共に前記各供給点の電位を異なる2つの電位に規定したときの当該各小片の電位をポアソン方程式から導かれる数式を用いて算出する第1処理と、前記供給状態において前記電流のすべてが通過する前記測定対象内の通過面を特定する第2処理と、前記通過面を挟んで隣接する前記各小片の間に流れる当該通過面に直交する向きの電流の合計値を前記各小片の電位に基づいて算出する第3処理と、前記第1処理において求めた前記各小片の各電位を、前記電流の合計値が予め規定された規定値のときの各電位に変換する第4処理と、前記第4処理において変換した前記各小片の電位の中から前記各検出点にそれぞれ位置する各小片の各電位を特定して当該各電位の電位差を前記規定値で除算した値を、前記各供給点の間に前記規定値の電流を供給している状態における前記基準値として算出する第5処理とを実行する。
【0011】
また、請求項5記載の処理方法は、請求項4記載の処理方法において、前記第2処理において、1つの平面を前記通過面として特定する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の処理装置、請求項3記載の検査装置、および請求項4記載の処理方法では、各供給点を2つの電位に規定して測定対象を分割した各小片の電位を算出する第1処理と、測定対象内の通過面を特定する第2処理と、通過面を挟んで隣接する各小片間に流れる電流の合計値を各小片の電位に基づいて算出する第3処理と、各小片の電位を電流の合計値が規定値であるときの電位に変換する第4処理と、各検出点に位置する各小片の変換後の電位の電位差を規定値で除算した値を基準値として算出する第5処理とを実行する。このため、この処理装置、検査装置および処理方法によれば、真に良品であるとの保証がない回路基板(良品基板として選択した回路基板)を用いて測定した抵抗値を基準値とする従来の構成および方法や、供給点と検出点との位置関係および電流の流れ方が反映されていない抵抗率の定義に基づく数式から求めた抵抗値を基準値とする従来の構成および方法とは異なり、供給点と検出点との位置関係、供給点に実際に供給する電流の電流値、および電流の流れ方を反映させて、基準値を論理的に算出することができる。このため、この検査装置によれば、この基準値を用いて測定対象の検査を行うことで、検査の信頼性を十分に向上させることができる。
【0013】
また、請求項2記載の測定装置、請求項3記載の検査装置、および請求項5記載の処理方法によれば、第2処理において、1つ平面を通過面として特定することにより、その1つ平面に直交する方向に沿って各小片間に流れる電流だけを合計することで合計値を算出することができるため、例えば方向が異なる複数の平面を通過面として特定する構成および方法と比較して、合計値の算出を容易に行うことができる結果、基準値算出処理の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】基板検査装置1の構成を示す構成図である。
図2】基準値算出処理50のフローチャートである。
図3】導体パターン101に規定された供給点Ps1,Ps2および検出点Pd1,Pd2の位置を示す導体パターン101の平面図である。
図4】導体パターン101における電位分布の状態を示す電位分布図である。
図5】通過面Fpの他の構成例を示す導体パターン101の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、処理装置、検査装置および処理方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
最初に、検査装置の一例としての基板検査装置1の構成について説明する。図1に示す基板検査装置1は、例えば、回路基板100に設けられている測定対象としての導体パターン101の抵抗値Rmを4端子法で測定し、その抵抗値Rmに基づいて導体パターン101の良否を検査可能に構成されている。具体的には、基板検査装置1は、基板保持部2、プロービング機構3、操作部4、測定部5、記憶部6および処理部7を備えて構成されている。この場合、記憶部6および処理部7によって処理装置が構成される。
【0017】
基板保持部2は、図外のクランプ等を備え、検査対象の回路基板100を保持可能に構成されている。
【0018】
プロービング機構3は、処理部7の制御に従い、回路基板100の導体パターン101における予め決められたプロービング位置に一対の電流プローブ31および一対の電圧プローブ32をプロービング(接触)させる。
【0019】
操作部4は、各種のスイッチやキーを備えて構成され、これらが操作されたときに操作信号を出力する。
【0020】
測定部5は、測定用電流(例えば、直流定電流)を出力する電源部と、電流プローブ31を介して導体パターン101に測定用電流を供給したときに電圧プローブ32を介して入力した電圧の電圧値を測定する電圧測定回路とを備え、処理部7の制御に従い、測定用電流の電流値と測定した電圧値とに基づいて抵抗値Rmを測定する測定処理を実行する。
【0021】
記憶部6は、各電流プローブ31をそれぞれプロービングさせる導体パターン101上のプロービング位置(以下、「供給点Ps1,Ps2」ともいい供給点Ps1,Ps2を区別しないときには「供給点Ps」ともいう:図3参照)、および各電圧プローブ32をプロービングさせる導体パターン101上のプロービング位置(以下、「検出点Pd1,Pd2」ともいい検出点Pd1,Pd2を区別しないときには「検出点Pd」ともいう:同図参照)を示すプロービング位置データDpを記憶する。また、記憶部6は、導体パターン101の形状を特定可能な導体パターンデータDcを記憶する。また、記憶部6は、処理部7が実行する基準値算出処理50(図2参照)によって算出される基準値Rsを記憶する。
【0022】
処理部7は、操作部4から出力される操作信号に従って基板検査装置1を構成する各部を制御すると共に、各種の処理を実行する。具体的には、処理部7は、後述する基準値算出処理50(処理方法に従った処理)を実行して基準値Rsを算出する。また、処理部7は、検査部として機能し、測定部5によって測定された抵抗値Rmおよび基準値Rsに基づいて導体パターン101の良否を検査する検査処理を実行する。
【0023】
次に、基板検査装置1を用いて、回路基板100の導体パターン101を検査する検査方法について説明する。
【0024】
導体パターン101の検査に先立ち、導体パターン101の良否を判定する際に導体パターン101の抵抗値Rmと比較する基準値Rsを基板検査装置1に算出させる。具体的には、操作部4を操作して基準値Rsの算出を指示する。この際に、操作部4が操作信号を出力し、処理部7が、図2に示す基準値算出処理50を実行する。
【0025】
この基準値算出処理50では、処理部7は、記憶部6から導体パターンデータDcを読み出して、導体パターンデータDcに基づいて導体パターン101の形状を特定する(ステップ51)。次いで、処理部7は、導体パターン101を3次元空間における予め決められたXYZ軸方向に沿って複数の微小な立方体(小片)に分割(3次元分割)する(ステップ52)。この場合、処理部7は、一例として、一辺が1μmの立方体の小片に導体パターン101を3次元分割する。
【0026】
続いて、処理部7は、記憶部6からプロービング位置データDpを読み出して、プロービング位置データDpに基づいて供給点Ps1,Ps2(図3参照)を特定する(ステップ53)。次いで、処理部7は、供給点Ps1,Ps2を異なる2つの電位に規定したときの各小片の電位を算出する(ステップ54)。
【0027】
ここで、XYZ座標が(x,y,z)の位置に位置している小片の電位Φ(x,y,z)は、ポアソン方程式から導かれる次の数式(1)で表すことができる。
Φ(x,y,z)=1/6(Φ(x-1,y,z)+Φ(x+1,y,z)+Φ(x,y-1,z)+Φ(x,y+1,z)+Φ(x,y,z-1)+Φ(x,y,z+1))・・・数式(1)
なお、数式(1)において、Φ(x−1,y,z)およびΦ(x+1,y,z)は、X軸方向に沿って(x,y,z)に位置する小片の両側に隣接する2つの小片の電位を表し、Φ(x,y−1,z)およびΦ(x,y+1,z)は、Y軸方向に沿って(x,y,z)に位置する小片の両側に隣接する2つの小片の電位を表し、Φ(x,y,z−1)およびΦ(x,y,z+1)は、Z軸方向に沿って(x,y,z)に位置する小片の両側に隣接する2つの小片の電位を表している。また、小片が導体パターン101の端部(境界)に位置していないときには、隣接する小片が6個存在するが、小片が導体パターン101の端部(境界)に位置しているときには、隣接する小片が3個から5個となる。このため、導体パターン101の端部に位置している小片の電位Φ(x,y,z)については、数式(1)の右辺に含まれる6個の小片の各電位のうちの隣接する小片分の電位だけを合計し、その合計値を、隣接する小片の数で除算するものとする。
【0028】
処理部7は、ステップ54において、上記した数式(1)を用いた緩和法によって各小片の電位Φ(x,y,z)を算出する。具体的には、処理部7は、まず、供給点Ps1の電位(供給点Ps1に位置する各小片の電位)を例えば1Vに規定すると共に、供給点Ps2の電位(供給点Ps2に位置する各小片の電位)を例えば−1Vに規定する。続いて、処理部7は、供給点Ps1,Ps2に位置する各小片にそれぞれ隣接する小片の電位を数式(1)を用いて算出する(1回目の算出工程)。次いで、処理部7は、1回目の算出工程で電位を求めた各小片にそれぞれ隣接する小片の電位を数式(1)を用いて求める(2回目の算出工程)。続いて、処理部7は、2回目の算出工程で電位を求めた各小片にそれぞれ隣接する小片の電位を数式(1)を用いて求める(3回目の算出工程)。以下、処理部7は、同様の算出工程を予め決められた回数に達するまで繰り返して実行する。これにより、図4に示すように、各小片の電位が算出される。この場合、同図では、同電位の小片の位置を等電位線で示している。なお、上記したステップ51〜54の処理が第1処理に相当する。
【0029】
次いで、処理部7は、供給点Ps1,Ps2の間に測定用電流を供給している状態(以下、「供給状態」ともいう)において、供給した測定用電流のすべてが通過する導体パターン101内の通過面Fpを特定する(ステップ55)。この場合、処理部7は、一例として、図3に示すように、供給点Ps1,Ps2を結ぶ線に直交してY軸方向に沿った1つの平面を通過面Fpとして特定する。なお、このステップ55の処理が第2処理に相当する。
【0030】
続いて、処理部7は、通過面Fpを挟んで隣接する各小片の間に流れる通過面Fpに直交する向きの電流の合計値Itを各小片の電位に基づいて算出する(ステップ56)。この場合、隣接する2つの小片のうちの電流経路の上流側に位置する一方の小片のXYZ座標を(x,y,z)としたときに、その小片から電流経路の下流側に位置する他方の小片に流れる電流のX軸方向に沿った電流成分ix(x,y,z)、Y軸方向に沿った電流成分iy(x,y,z)、およびZ軸方向に沿った電流成分iz(x,y,z)は、それぞれ次の数式(2)〜(4)で表すことができる。
ix(x,y,z)=Φ(x+1,y,z)-Φ(x,y,z) ・・・数式(2)
iy(x,y,z)=Φ(x,y+1,z)-Φ(x,y,z) ・・・数式(3)
iz(x,y,z)=Φ(x,y,z+1)-Φ(x,y,z) ・・・数式(4)
【0031】
この場合、この例では、図3に示すように、通過面Fpに直交する向きがX軸方向に沿った向きであるため、処理部7は、上記した数式(2)で表されるX軸方向に沿った各小片の電流成分ix(x,y,z) を通過面Fpに面する全ての小片について合計して合計値Itを算出する。この場合、各小片間に流れる電流は、実際には、導体パターン101の導電率ρおよび小片の寸法(長さ、幅および高さ)によって規定される係数βを用いて算出されるが、処理部7は、この時点での計算を簡略化するため、係数βを「1」として算出する。なお、このステップ56の処理が第3処理に相当する。
【0032】
次いで、処理部7は、第1処理(ステップ51〜54)において算出した各小片の電位を、ステップ56において算出した電流の合計値Itが予め規定された規定値のときの電位に変換する(ステップ57)。つまり、規定値の測定用電流を供給点Ps1,Ps2間に供給している供給状態における各小片の電位に変換する。具体的には、処理部7は、規定値が例えば1Aに規定されているときには、合計値Itに対する1Aの比率αと、導体パターン101の導電率ρおよび小片の寸法によって規定される係数βとを用いて(例えば、第1処理において算出した各小片の電位に比率αおよび係数βを乗算して)、第1処理において算出した各小片の電位を、合計値Itが1Aとなる電位に変換する。なお、このステップ57の処理が第4処理に相当する。
【0033】
続いて、処理部7は、第4処理(ステップ57)において変換した各小片の電位の中から検出点Pd1,Pd2にそれぞれ位置する各小片の各電位(検出点Pd1,Pd2の電位)を特定する(ステップ58)。次いで、処理部7は、特定した検出点Pd1,Pd2の各電位の電位差を算出し、続いて、その電位差を上記した規定値(この例では、1A)で除算して、その値を基準値Rsとして算出すると共に(ステップ59)、基準値Rsを記憶部6に記憶させて基準値算出処理50を終了する。なお、ステップ58,59の処理が第5処理に相当する。以上により、導体パターン101についての基準値Rsの算出が完了する。
【0034】
この場合、基準値Rsは、規定値の測定用電流を供給点Ps1,Ps2間に供給している供給状態において検出点Pd1,Pd2において検出されるべき電圧(検出点Pd1,Pd2における各電位の電位差)と規定値とに基づいて測定されるべき抵抗値Rmに相当する。
【0035】
ここで、上記の基準値算出処理50を実行することによって算出した基準値Rsは、真に良品であるとの保証がない回路基板(良品基板として選択した回路基板)を用いて測定した抵抗値Rmを基準値Rsとする従来の構成および方法や、供給点Psと検出点Pdとの位置関係および電流の流れ方が反映されていない抵抗率の定義に基づく数式から求めた抵抗値Rmを基準値Rsとする従来の構成および方法とは異なり、供給点Psと検出点Pdとの位置関係、供給点Psに実際に供給する測定用電流の電流値、および電流の流れ方を反映させて、論理的に算出されている。このため、この基準値Rsを用いて導体パターン101の検査を行うことで、検査の信頼性を十分に向上させることが可能となる。
【0036】
次に、導体パターン101の検査を行うときには、基板保持部2に回路基板100を保持させ、次いで、測定部5を操作して検査の開始を指示する。これに応じて、処理部7は、検査処理を実行する。
【0037】
この検査処理では、処理部7は、記憶部6からプロービング位置データDpを読み出す。続いて、処理部7は、プロービング位置データDpに基づいて導体パターン101における供給点Ps1,Ps2および検出点Pd1,Pd2を特定する。
【0038】
次いで、処理部7は、プロービング機構3を制御して、供給点Ps1,Ps2に電流プローブ31をそれぞれプロービングさせると共に、検出点Pd1,Pd2に電圧プローブ32をそれぞれプロービングさせる。
【0039】
続いて、処理部7は、測定部5を制御して測定処理を実行させる。この測定処理では、測定部5は、各電流プローブ31を介して測定用電流を供給点Ps1,Ps2に供給する。また、測定部5は、測定用電流を供給している供給状態において、各電圧プローブ32を介して入力した電圧の電圧値を測定する。次いで、測定部5は、測定用電流の電流値と測定した電圧値とに基づいて抵抗値Rmを測定する。
【0040】
続いて、処理部7は、記憶部6から基準値Rsを読み出す。次いで、処理部7は、測定部5によって測定された抵抗値Rmと基準値Rsとを比較して導体パターン101の良否を判定する。この場合、処理部7は、例えば、抵抗値Rmが、基準値Rsに予め決められた値を加算した上限値と基準値Rsから予め決められた値を減算した下限値とで規定される基準範囲内のときには、導体パターン101が良好と判定し、抵抗値Rmが基準範囲外のときには、導体パターン101が不良(欠損や短絡が存在する)と判定する。この場合、この基板検査装置1では、上記した基準値算出処理50を実行することによって適正な基準値Rsを算出することが可能となっている。このため、この基板検査装置1では、検査の信頼性を十分に向上させることが可能となっている。
【0041】
このように、この処理装置、基板検査装置1および処理方法では、各供給点Psを2つの電位に規定して導体パターン101を分割した各小片の電位を算出する第1処理と、導体パターン101内の通過面Fpを特定する第2処理と、通過面Fpを挟んで隣接する各小片間に流れる電流の合計値Itを各小片の電位に基づいて算出する第3処理と、各小片の電位を電流の合計値Itが規定値であるときの電位に変換する第4処理と、各検出点Pdに位置する各小片の変換後の電位の電位差を規定値で除算した値を基準値として算出する第5処理とを実行する。このため、この処理装置、基板検査装置1および処理方法によれば、真に良品であるとの保証がない良品基板として選択した回路基板を用いて測定した抵抗値Rmを基準値Rsとする従来の構成および方法や、供給点Psと検出点Pdとの位置関係および電流の流れ方が反映されていない抵抗率の定義に基づく数式から求めた抵抗値Rmを基準値Rsとする従来の構成および方法とは異なり、供給点Psと検出点Pdとの位置関係、供給点Psに実際に供給する測定用電流の電流値、および測定用電流の流れ方を反映させて、基準値Rsを論理的に算出することができる。このため、この基板検査装置1によれば、この基準値Rsを用いて導体パターン101の検査を行うことで、検査の信頼性を十分に向上させることができる。
【0042】
また、この処理装置、基板検査装置1および処理方法によれば、第2処理において、1つ平面を通過面Fpとして特定することにより、その1つ平面に直交する方向に沿って各小片間に流れる電流だけを合計することで合計値Itを算出することができるため、例えば方向が異なる複数の平面を通過面Fpとして特定する構成および方法と比較して、合計値Itの算出を容易に行うことができる結果、基準値算出処理50の効率を向上させることができる。
【0043】
なお、処理装置、検査装置および処理方法は、上記の構成および方法に限定されない。例えば、供給点Ps1,Ps2を結ぶ線に直交してY軸方向に沿った1つの平面を通過面Fpとして特定する例について上記したが(図3参照)、図5に示すように、Y軸方向に沿った複数の平面とX軸方向に沿った複数の平面とを通過面Fpとして特定することもできる。この場合、このような通過面Fpを採用したときには、上記した数式(2)で表されるX軸方向に沿った各小片の電流成分ix(x,y,z)をY軸方向に沿った各平面に面する全ての小片について合計すると共に、上記した数式(3)で表されるY軸方向に沿った各小片の電流成分iy(x,y,z)をX軸方向に沿った各平面に面する全ての小片について合計し、各平面についての合計値をさらに合計して合計値Itを算出する。
【0044】
また、上記の例では、第3処理において、導体パターン101の導電率ρおよび小片の寸法によって規定される係数βを「1」として各小片間に流れる電流を算出し、第4処理において、導体パターン101の導電率ρおよび小片の寸法によって実際に規定される係数βを用いて電位の変換を行っているが、第3処理において、実際に規定される係数βを用いて各小片間に流れる電流を算出し、第4処理において、係数βを「1」として電位の変換を行う構成および方法を採用することもできる。
【0045】
また、基準値算出処理50のステップ54において、処理部7が、数式(1)を用いた緩和法によって各小片の電位Φ(x,y,z)を算出する際に、予め決められた回数に達するまで算出工程を繰り返す例について上記したが、隣接する各小片の各電位の比率や各電位の差が予め決められた値以下となるまで算出工程を繰り返す構成および方法を採用することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 基板検査装置
5 測定部
6 記憶部
7 処理部
50 基準値算出処理
101 導体パターン
Fp 通過面
It 合計値
Pd1,Pd2 検出点
Ps1,Ps2 供給点
Rm 抵抗値
Rs 基準値
図1
図2
図3
図4
図5