(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643183
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】再充電可能な電池のための有機活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/60 20060101AFI20200130BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20200130BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20200130BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20200130BHJP
【FI】
H01M4/60
H01M10/36 A
H01M10/0568
H01M10/052
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-101631(P2016-101631)
(22)【出願日】2016年5月20日
(65)【公開番号】特開2016-219424(P2016-219424A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2019年4月3日
(31)【優先権主張番号】14/719,410
(32)【優先日】2015年5月22日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】武市 憲典
【審査官】
式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−123552(JP,A)
【文献】
特開2010−044938(JP,A)
【文献】
特開2010−009760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー半セルであって、
集電体;並びに
前記集電体と電気的な伝達をし合っている電解質組成物であって、
金属カチオン;
フルオロアルキルスルホニルアニオン;及び
置換又は非置換の2−アザノルアダマンタン−N−オキシル(nor−AZADO)からなる群から選択されている、ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子;
からなる溶媒和イオン液体を含んでいる、電解質組成物
を含み、
前記溶媒和イオン液体は、前記架橋環有機分子の酸化還元状態にかかわらず流体であり;前記架橋環有機分子は、前記フロー半セルの前記集電体が、その対になる半セルの集電体と電気的な伝達をし合うように設置されているときに、アミノキシアニオン、ニトロキシドラジカル、及びオキソアンモニウムカチオンを含む任意の酸化還元状態の間で可逆的に電気化学的還元/酸化を受ける、
フロー半セル。
【請求項2】
前記電解質組成物が、液体流動化剤をさらに含む、請求項1に記載のフロー半セル。
【請求項3】
前記溶媒和イオン液体に対する前記液体流動化剤の体積分率が、約10%又はそれ未満である、請求項2に記載のフロー半セル。
【請求項4】
前記液体流動化剤が、水を含む、請求項2に記載のフロー半セル。
【請求項5】
電気化学セルであって、
陽極半セル;
陰極集電体及び電解質組成物を有している陰極半セルであって、
前記電解質組成物が、
金属カチオン;
フルオロアルキルスルホニルアニオン;及び
置換又は非置換の2−アザノルアダマンタン−N−オキシル(nor−AZADO)からなる群から選択されている、ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子;
からなる溶媒和イオン液体を含んでいる、
陰極半セル;並びに
前記陽極半セルと前記陰極半セルの間に配置された半透過性セパレーター
を含む、
電気化学セル。
【請求項6】
前記フルオロアルキルスルホニル塩が、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムトリフルオロメチルスルホネート、ナトリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(NaTFSI)、マグネシウムビス(ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)(Mg(TFSI)2)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記電気化学セルがフローセルであり、かつ前記陽極半セルが、その酸化状態にかかわらず流体である陽極酸化還元活物質を有している陽極液を含む、請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記電解質組成物が、本質的に前記溶媒和イオン液体からなる、請求項5に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、従来の電池又はフロー電池で用いられる有機活物質、及びこの有機活物質を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セル、例えば電池は、無機の電気化学活物質(セルが稼動している最中に電気化学的な酸化及び/又は還元を受ける種)を、典型的に採用している。一般的な例としては、金属/金属カチオン系、例えばLi/Li
+を、酸化又は還元の際に電極に挿入することができる錯無機イオンと並んで挙げることができる。
【0003】
有機活物質は、軽量、比較的安価、及び特定用途に好適な特性を発現するための化学的修飾/設計に対して適しているため、一般的に注目されている。しかしながら、適切な酸化還元電位、数多の放充電サイクル(二次電池の場合)にわたる高い安定性、及びその他の必要な特性を有している有機活物質を設計することは、困難であることがしばしば明らかにされている。
【0004】
また、有機活物質は、無機活物質と比較して、比較的低いエネルギー密度(単位質量又は単位体積あたりの電荷輸送能に相当)を、典型的に有している。これは、有機活物質の分子サイズが通常、大きいためである。この欠点を埋め合わせるための対策の一つは、分子が二電子(又は他の多数電子)還元/酸化を受ける有機活物質を設計することである。
【0005】
フローセル又はフロー電池は、固体電極を有することなく、代わりに、液体活物質、すなわち還元された状態及び酸化された両方の状態(あるいは全てが還元された状態、全てが酸化された状態)で液体である電気化学活物質を有している電気化学セルである。充電を介して再生されるべき固体電極がないため、放電した液体活物質を排出し、かつ充電された液体活物質で補給することによって、フロー電池を再充電することができる。補給することによって迅速に再充電することができるこの機能は、フロー電池の用途を、長い再充電時間が許されないようなほとんど常用に近い電力供給システムへの、例えば、電動の公営交通車両などへの、潜在的に価値のあるアプローチとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フロー電池は、固体アノードの形態の還元された活物質のプール、及び固体カソードの形態の酸化された活物質用のシンクを有していないため、低いエネルギー密度を、典型的に課せられている。この低いエネルギー密度は、補給を頻繁に必要とし、したがって補給によって迅速に再充電する能力から生じる価値を大きく相殺する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
仮にフローセルが有機活物質を有している場合には、有機活物質を、従来よりも高いエネルギー密度を有するように設計することが特に重要である。
【0008】
陰極液、及びこの陰極液を用いた電気化学セルを開示する。本開示の電気化学セルを用いた自動車車両も同様に開示する。
【0009】
一形態において、電解質、及びこの電解質に接触している固体電極を含む、電気化学半セルを提供する。固体電極は、アミノキシアニオン、ニトロキシドラジカル、及びオキソアンモニウムカチオンのいずれかとして存在しているニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む有機活物質を含有している。
【0010】
別の1つの形態において、集電体、及びこの集電体と電気的な伝達をし合う液体活物質を含む、フロー半セルを提供する。液体活物質は、アミノキシアニオン、ニトロキシドラジカル、及びオキソアンモニウムカチオンのいずれかとして存在しているニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む。この有機活物質は、その酸化還元状態にかかわらず流体であり;かつこの有機活物質は、フロー半セルの集電体を反対側の半セルの集電体と電気的な伝達をし合うように設置する場合には、アミノキシアニオン、ニトロキシドラジカル、及びオキソアンモニウムカチオンを含むいずれかの酸化還元状態の間で、可逆的に電気化学的還元/酸化を受けるように設計されている。
【0011】
別の1つの形態において、電気化学セルを提供する。この電気化学セルは、陽極半セル;陰極集電体及び電解質組成物を有している陰極半セル;並びに陽極半セル及び陰極半セルの間に配置された半透過性セパレーターを含む。電解質組成物は、フルオロアルキルスルホニル塩及びニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む溶媒和イオン液体を含む。
【0012】
発明の種々の形態及び利点が、添付の図面と併せて実施形態についての下記の記載から明らかになり、かつ容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、第一の典型的な有機活物質、9−アザビシクロ[3.3.1]ノナン−N−オキシル(ABNO)の線画である。
【
図1B】
図1Bは、第二の典型的な有機活物質、2−アザアダマンタン−N−オキシル(AZADO)の線画である。
【
図1C】
図1Cは、第三の典型的な有機活物質、2−アザノルアダマンタン−N−オキシル(nor−AZADO)の線画である。
【
図2A】
図2Aは、任意選択的に置換されたABNOのくさび形線画である。
【
図2B】
図2Bは、任意選択的に置換されたAZADOのくさび形線画である。
【
図2C】
図2Cは、任意選択的に置換されたnor−AZADOのくさび形線画である。
【
図3】
図3は、陽極半セル、及び本発明の有機活物質を含む陰極半セルを有している、電気化学セルの概略図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すタイプの、例示的な電気化学セルの第1回目のサイクルにおける放充電曲線(初期充電後)の図であり、この電気化学セルでは、陽極半セルがLi/Li
+であり、陰極半セルがABNO:LiTFSI:H
2Oを1:1:6のモル比で50μL含む。
【
図5】
図5は、
図3に示すタイプの、例示的な電気化学セルの第1回目のサイクルにおける放充電曲線(初期充電後)の図であり、この電気化学セルでは、陽極半セルがLi/Li
+であり、陰極半セルがAZADO:LiTFSI:H
2Oを1:1:6のモル比で50μL含む。
【
図6】
図6は、
図3に示すタイプの、例示的な電気化学セルの第1回目のサイクルにおける放充電曲線(初期充電後)の図であり、この電気化学セルでは、陽極半セルがLi/Li
+であり、陰極半セルが1−メチル−2−アザノルアダマンタン−N−オキシル:LiTFSI:H
2Oを1:1:6のモル比で50μL含む。
【
図7】
図7は、
図3に示すタイプの、例示的な電気化学セルの第1回目のサイクルにおける放充電曲線(初期充電後)の図であり、この電気化学セルでは、陽極半セルがLi/Li
+であり、陰極半セルがnor−AZADO:LiTFSI:H
2Oを1:1:6のモル比で50μL含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、電気化学セル用の有機活物質、及びかかる活物質を含有しているセルを記載しているものである。本開示の有機活物質は、高いクーロン効率に貢献し、かつ他の有機活物質と比較して、良好なエネルギー密度を生じる二電子相当酸化還元転移に貢献することができる。また、本開示の有機活物質は、フルオロアルキルスルホニル塩と共に、フローセル電池の陽極半セル又は陰極半セルのどちらかにおいて、液体活物質としてのその使用を可能とする溶媒和イオン液体を形成することができる。
【0015】
本開示の有機活物質は、ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む。ニトロキシ部分は、三つの酸化還元状態(完全還元、中間、又は完全酸化)のいずれかで存在することが可能であり、したがって、完全還元又は完全酸化の最中の電子数に相当する電子を受け又は授けることができる。架橋環構造は、不安定な他の完全還元種の安定性を実質的に向上させ、それによってクーロン効率及びエネルギー密度を最大化することを可能にする。有機活物質とフルオロアルキルスルホニル塩との組み合わせは、溶媒和イオン液体を形成することができ、それによってフローセル電池用の陰極液中において活物質の使用を可能とする。
【0016】
したがって、電気化学半セルを含む電気化学セルで使用する有機活物質を、本明細書で開示する。この有機活物質は、ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む。本明細書で用いられる場合、ニトロキシ部分という用語は、ニトロキシドラジカルを意味する。ニトロキシドラジカルは、スキームIに示すように、二つの可逆的酸化還元ペアを有していることを理解されたい:
【化1】
スキームI中、R及びR’は、有機架橋環構造を、共に形成している。
【0017】
ニトロキシドラジカルは、一電子酸化を介してオキソアンモニウムカチオンになり、このオキソアンモニウムカチオンが還元されてニトロキシドラジカルを再生成することができる。さらに、ニトロキシドラジカルは、一電子還元を介してアミノキシアニオンになり、このアミノキシアニオンが酸化されてニトロキシドラジカルを再生成することができる。したがって、用語「ニトロキシ部分」とは、ニトロキシドラジカル、アミノキシアニオン、及びオキソアンモニウムカチオンのいずれかを意味する。
【0018】
ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子の非制限的な例として、好適には、9−アザビシクロ[3.3.1]ノナン−N−オキシル(ABNO)、2−アザアダマンタン−N−オキシル(AZADO)、及び2−アザノルアダマンタン−N−オキシル(nor−AZADO)を挙げることができる。ABNO、AZADO、及びnor−AZADOの構造を、それぞれ、
図1A〜Cに示している。
【0019】
ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子は、
図2A〜Cに示すように、任意の2°又は3°の炭素で、任意選択的に置換することができる。
図2Aは、R1〜R14の各々が独立して、水素、アルキル、又はアルコキシである、ABNO分子を示し;
図2Bは、R1〜R14の各々が独立して、水素、アルキル、又はアルコキシである、AZADO分子を示し;かつ
図2Cは、R1〜R12の各々が独立して、水素、アルキル、又はアルコキシである、nor−AZADOを示している。
【0020】
種々の実施において、本開示の有機活物質を、これらに限定されないが、Liイオン、Mgイオン、及びNaイオンを含め、任意の好適なキャリアイオンと共に利用することができることを理解されたい。本開示の有機活物質を、任意の好適なカウンターイオンと共に用いることができることも理解されるだろう。いくつかの実施形態において、好適なカウンターイオンとして、下記でさらに説明するように、フルオロアルキルスルホニルアニオンを挙げることができる。
【0021】
いくつかの実施形態において、本開示の有機活物質は、有機活物質を適切な電極基材に取り付けた固相電極で用いることができる。例えば、有機活物質を、ポリマー基材に取り付けて、固相活物質を有している電極を形成することができる。
【0022】
他の実施形態において、有機活物質を、全ての酸化還元状態において完全に液体の形態である液体活物質として、用いることができる。かかる液体活物質は、フロー半セルで有用であり、それによって放電した有機活物質を物理的に除去して、充電された有機活物質に交換することによって迅速に補給することを可能にする。
【0023】
有機活物質を液体活物質として用いる実施形態において、全ての酸化還元状態における流動性を、有機活物質を適切な溶媒に溶解させることによって獲得することができる。あるいは、より高いエネルギー密度を達成するために、全ての酸化還元状態における有機活物質の流動性を、有機活物質を溶媒和イオン液体に組み込むことによって獲得することができる。いくつかの例において、有機活物質を有している溶媒和イオン液体は、有機活物質をフルオロアルキルスルホニルアニオンと組み合わせることによって形成することができる。かかるフルオロアルキルスルホニルアニオンの好適な例として、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(TFSI)、及びビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(BETI)を挙げることができる。
【0024】
例えば、溶媒和イオン液体は、有機活物質及び金属フルオロアルキルスルホニル塩を融解し、融解した有機活物質及び金属フルオロアルキルスルホニル塩を組み合わせ、そして、この組み合わせを成分の融解温度未満にまで素早く冷却することによって、形成することができる。これは、有機活物質、及び金属フルオロアルキルスルホニル塩由来の支持塩を有している、流体化した陰極液及び陽極液の組成物を生じる。後者の例として、任意の所望のキャリアイオン(例えば、Li
+、Na
+、Mg
2+)と、TFSI、BETI、又はトリフルオロメチルスルホネートとの塩を挙げることができる。
【0025】
有機活物質が溶媒和イオン液体に組み込まれているいくつかの実施形態において、液体流動化剤を液体活物質に組み込むことができる。本明細書で用いられる場合、「液体流動化剤」の表現は、存在する場合、溶媒和イオン液体の粘度を低減させることができる標準状態の温度及び圧力の下で液体である材料を意味する。好適な液体流動化剤の非制限的な例として、水、アセトニトリル、及びカルボネート部分を有している液体有機分子、例えば置換プロピオン酸塩などを挙げることができる。いくつかの実施形態において、液体流動化剤は、フルオロアルキルスルホニル塩に対して、20:1未満のモル比で存在することができる。いくつかの実施形態において、液体流動化剤は、溶媒和イオン液体の0〜10%(v/v)の範囲内で存在することができる。なんら特定の論理に縛られるものではないが、本明細書で用いられる用語「液体流動化剤」とは、用語「溶媒」と非常に類似しているが、液体流動化剤は、溶媒和イオン液体に含まれている場合には、溶媒として機能しないものと考えられる。これは、大抵の場合に、溶媒和イオン液体の他の成分を溶媒和するほどには十分に高くない濃度で、それが存在しているためと考えられる。
【0026】
また、開示されるのは、
図3に示すように、電気化学セル100である。電気化学セルは、二つの半セル110、120を含む。二つの半セル110、120は、相対する半セルとして言及することが可能であり、一方を陰極半セル110として言及することが可能であり、かつ他方を陽極半セル120として言及することが可能である。二つの半セル110、120の各々は、集電体と接触している電解質組成物を有している。陽極半セルの集電体を、陰極半セルの集電体と電気的な伝達をし合うように設置する場合には、電気化学セルを放電で稼動することができる。この場合には、陽極半セル中の活物質含有物が電気化学的に酸化し、かつ陰極半セル中の電気化学的活物質含有物が電気化学的に還元し、二つの半セル110、120の間で通電回路が形成される。一般的には、陰極半セル110及び陽極半セル120の少なくとも一つが、上記した有機活物質(すなわち、ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子)を含む活物質を有している。
【0027】
半セル110、120のどちらも、固体電極を有することができる。固体電極は、少なくとも一つの酸化還元状態において活物質が、集電体に直接的又は間接的に取り付けられ、これによって、拡散することが出来なくなっているものである。他の形態では、半セル110、120のどちらも、全ての酸化還元状態において、集電体に直接的に又は間接的に取り付けられることなく、かつ拡散することができる液体活物質を有することができる。液体活物質を有している半セルは、「フロー半セル」として言及することが可能である。
【0028】
図3の典型例の電気化学セル100において、陰極半セル110は、ニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む液体活物質を有しているフロー半セルである。特に、この陰極半セル110の例では、電解質組成物が、上記した溶媒和イオン液体を含む一方で、陽極半セル120が、標準的なLi/Li
+半セルである。
図3の典型例の電気化学セル100において、陽極半セル120及び陰極半セル110は、部分的な拡散で伝達し合っており、リチウムイオンが膜を通過して拡散することを可能にし、かつ他の種が膜を通過して拡散することを防止する半透過性の薄膜130によって隔てられている。
【0029】
種々の形態において、陰極セル110は、有機活物質が集電体に直接的又は間接的に取り付けられた固体電極を用いることができる。さらに他の形態において、陽極半セル120は、液体活物質として又は固体陽極の一部としてのどちらかで、有機活物質を用いることができる。すなわち、種々の形態において、陰極活物質として又は陽極活物質としてのどちらかで、及び、上記したように、流体又は固体(固定するあるいは取り付けることを含む)活物質としてのどちらかで、有機活物質を用いることができる。電気化学セル100は、これらに限定されないが、一次電池、二次電池、及び燃料セルを含む任意のタイプの電気化学セルを包含することを理解されたい。
【実施例】
【0030】
図4〜7を参照して、放充電曲線(初期充電後)を、本開示の電気化学セル100の4つの形態に関して示す。これらの例の構成の詳細を、以下の実施例のセクションにおいて、より詳細に記載するが、データを
図4〜7に示した各電気化学セルは、リチウム半透過性の膜によって陰極半セルから隔てられたLi/Li
+半セルを含む陽極半セル120を有している。各例の陰極半セル110は、カーボンペーパーから構成されている陰極集電体112、並びに支持塩としてのLiTFSI及び液体流動化剤としての水と組み合わせて活物質としての本開示の架橋環有機分子から構成されている50μLの陰極液114を含む。
【0031】
図4は、活物質としてのABNOを有している陰極液に関する放充電データを示している。
図2から分かるように、ABNO活物質は、かなりの容量と共に、優れた再充電性(この場合には、ほとんど100%に近いクーロン効率)に貢献している。
【0032】
図5は、流体陰極活物質としてのAZADOを有しているフロー陰極を有しているセルに関する相似放充電曲線を示している。また、AZADO活物質は、この場合には、約96%のクーロン効率に貢献している優れた再充電性を示している。また、AZADO活物質は、より明確に判明した二電子酸化還元の分析結果と共に、ABNO活物質と比較して容量の改善に貢献している。
図6は、有機活物質としての1−メチル−AZADO(Me−AZADO)を有している陰極液を含有している電気化学セル100に関して相似放充電の分析結果を示している。非置換AZADO(
図3)と比較して、Me−AZADOは、分析した電位の範囲内において僅かに低下した容量と共に、同等のクーロン効率を有している。
図7は、有機活物質としてのnor−AZADOを有している陰極半セルにおける相似放充電曲線を示している。示したこの4つの典型例の有機活物質の中で、nor−AZADO(
図7)は、この電位の範囲内において、良好な再充電性に伴う最良の成績、最も高いエネルギー密度、並びに最も完全かつ明確に判明した二電子酸化還元分析結果を示している。
【0033】
ABNO、AZADO、Me−AZADO、及びnor−AZADOを有している電解質組成物の体積エネルギー密度は、試験条件の下で、それぞれ、約61、109、106、及び133Ah・L
-1である。示された4つの有機活物質の相対的な性能を、ABNO<<Me−AZADO≦AZADO<nor−AZADOのように、定性的に記載することができる。この傾向は、有機活物質の電気化学的性能、及び架橋環構造によって課される立体構造的な制約の間で見込まれる正の相関と一致していることに留意されたい。なんら特定の論理に縛られるものではないが、架橋環構造によって課された高度の制約は、例えば、窒素酸化物の酸素と、隣接する脂肪族の領域との間の分子内距離を増大することによって、有機活物質の安定性を向上することができるためと考えられる。この考えによれば、非架橋環構造におけるアミノキシアニオンが、かなり不安定になることが判明したことを留意されたい。
【0034】
全ての場合において、電気化学セル100の容量は、酸化還元活物質の濃度がかなり高いことから、恩恵を受けている。例えば、
図5の電気化学セルのnor−AZADO活物質は、2.7Mの濃度で存在している。試験された他の典型例の電気化学セルは、似ているが、僅かに異なる濃度で存在している活物質を有している。
【0035】
下記の実施例に関して、本開示をさらに説明する。これらの実施例は、本開示の特定の例を説明するのに提供されるものであること、及び本開示の範囲を限定するのに提供するものとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0036】
実施例1〜4
下記の実施例は、本開示の電気化学セル100のものである。各実施例において、陽極半セル120は、炭酸プロピレン中において、1MのLiTFSIからなる溶解電解質124に接触している0.25mmのリチウム金属陽極122を含む。陰極半セル110は、カーボンペーパーから構成され、かつ架橋環有機分子:LiTFSI:H
2Oを1:1:6のモル比で含有している50μLの組成物に接触している陰極集電体112を含む。実施例1〜4の架橋環有機分子は、それぞれ、ABNO、AZADO、Me−AZADO、及びnor−AZADOである。陰極半セル110及び陽極半セル120は、1mmの厚さのLATP系固体状態リチウムイオン伝導体(オハラガラス)によって隔てられている。各例の電気化学セルの放充電サイクルを、25℃及び0.05mA・cm
−2の電流密度で測定した。実施例毎に、電気化学セル100を予め充電しておき、2.0〜4.5Vの電位範囲にわたって1回の放充電サイクルの測定を行った。
【0037】
上記の記載は、現在、最も実際的な実施形態であると考えられるものに関する。しかしながら、この開示が、これらの実施形態に限定されるものではなく、反対に、添付の特許請求の範囲の精神とその範囲の内に含まれる種々の変更及び等価な変換に及ぶこと、かつ、この範囲は、法で許容されるようなかかる変更及び等価な構造の全てを包含するように最大の範囲で解釈されるのが妥当であることを意図するものであることを理解されたい。
本明細書に開示される発明は以下の態様を含む。
[1]電解質;及び
前記電解質に接触している固体電極であって、かつアミノキシアニオン、ニトロキシドラジカル、及びオキソアンモニウムカチオンのいずれかとして存在しているニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む有機活物質を含有している固体電極を含む、
電気化学半セル。
[2]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換の2−アザアダマンタン−N−オキシル(AZADO)である、上記[1]に記載の電気化学半セル。
[3]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換の2−アザノルアダマンタン−N−オキシル(nor−AZADO)である、上記[1]に記載の電気化学半セル。
[4]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換の9−アザビシクロ[3.3.1]ノナン−N−オキシル(ABNO)である、上記[1]に記載の電気化学半セル。
[5]フロー半セルであって、
集電体;及び
前記集電体と電気的な伝達をし合っている電解質組成物であって、かつアミノキシアニオン、ニトロキシドラジカル、及びオキソアンモニウムカチオンのいずれかとして存在しているニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む流体有機活物質を含んでいる、電解質組成物
を含み、
前記フロー半セルの前記集電体が、その対になる半セルの集電体と電気的な伝達をし合うように設置されているときに、前記有機活物質が、その酸化還元状態がアミノキシアニオン、ニトロキシドラジカル、及びオキソアンモニウムカチオンを含む任意の酸化還元状態の間で可逆的に電気化学的還元/酸化を受けるかにかかわらず、流体である、
フロー半セル。
[6]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換のAZADOである、上記[5]に記載のフロー半セル。
[7]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換のnor−AZADOである、上記[5]に記載のフロー半セル。
[8]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換のABNOである、上記[5]に記載のフロー半セル。
[9]前記電解質組成物が、前記架橋環有機分子及びフルオロアルキルスルホニルアニオンを含む溶媒和イオン液体を、さらに含む、上記[5]に記載のフロー半セル。
[10]前記電解質組成物が、液体流動化剤をさらに含む、上記[9]に記載のフロー半セル。
[11]前記溶媒和イオン液体に対する前記液体流動化剤の体積分率が、約10%又はそれ未満である、上記[10]に記載のフロー半セル。
[12]前記液体流動化剤が、水を含む、上記[10]に記載のフロー半セル。
[13]電気化学セルであって、
陽極半セル;
陰極集電体及び電解質組成物を有している陰極半セル;並びに
前記陽極半セルと前記陰極半セルの間に配置された半透過性セパレーター
を含み、
前記電解質組成物が、フルオロアルキルスルホニル塩、及びニトロキシ部分を有している架橋環有機分子を含む溶媒和イオン液体を含む、
電気化学セル。
[14]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換のAZADOである、上記[13]に記載の電気化学セル。
[15]前記架橋環有機分子が、置換又は非置換のnor−AZADOである、上記[13]に記載の電気化学セル。
[16]前記フルオロアルキルスルホニル塩が、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムトリフルオロメチルスルホネート、ナトリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(NaTFSI)、マグネシウムビス(ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)(Mg(TFSI)2)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、上記[13]に記載の電気化学セル。
[17]前記電気化学セルがフローセルであり、かつ前記陽極半セルが、その酸化状態にかかわらず流体である陽極酸化還元活物質を有している陽極液を含む、上記[13]に記載の電気化学セル。