(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643219
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】エレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20200130BHJP
H02P 6/16 20160101ALI20200130BHJP
【FI】
B66B5/02 U
H02P6/16
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-238516(P2016-238516)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2018-95329(P2018-95329A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】坂田 義喜
(72)【発明者】
【氏名】川崎 勝
【審査官】
羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−134976(JP,A)
【文献】
特開2001−309694(JP,A)
【文献】
特開2005−333746(JP,A)
【文献】
特開2009−280318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00− 5/28
B66B 1/00− 1/52
H02P 6/00− 6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーエンコーダによって検出される永久磁石同期電動機の磁極位置に応じた位相のモータ電流によって制御される前記永久磁石同期電動機によって駆動されるエレベーターに設けられ、前記磁極位置のずれを診断するエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記モータ電流の基準値となる前記モータ電流の設定値を保存し、所定のエレベーター運転状態において、前記モータ電流の設定値と、電流センサによって検出される前記モータ電流の計測値との比較に基づいて、前記磁極位置の異常の有無を診断する磁極異常診断部と、
前記磁極異常診断部が前記磁極位置の異常有りと診断すると、前記磁極位置を補正する磁極位置調整部と、
を備え、
前記磁極位置調整部は、前記磁極異常診断部が前記磁極位置の異常を検出すると、前記磁極位置を、所定量加算または減算して補正し、
前記磁極異常診断部は、補正された前記磁極位置に応じて計測される前記モータ電流の計測値と前記モータ電流の設定値の比較に基づいて、再度、前記磁極位置の異常の有無を診断することを特徴とするエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記磁極異常診断部は、再度、前記磁極位置の異常の有無を診断した結果、再度、前記磁極位置の異常有りと診断し、かつ補正された前記磁極位置に応じて計測される前記モータ電流の計測値が、補正する前の前記モータ電流の計測値以上である場合、前記磁極位置を補正前の前記磁極位置に戻すことを特徴とするエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【請求項3】
ロータリーエンコーダによって検出される永久磁石同期電動機の磁極位置に応じた位相のモータ電流によって制御される前記永久磁石同期電動機によって駆動されるエレベーターに設けられ、前記磁極位置のずれを診断するエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記モータ電流の基準値となる前記モータ電流の設定値を保存し、所定のエレベーター運転状態において、前記モータ電流の設定値と、電流センサによって検出される前記モータ電流の計測値との比較に基づいて、前記磁極位置の異常の有無を診断する磁極異常診断部と、
前記磁極異常診断部が前記磁極位置の異常有りと診断すると、前記磁極位置を補正する磁極位置調整部と、
を備え、
前記磁極位置調整部は、前記磁極異常診断部が前記磁極位置の異常を検出すると、前記磁極位置を、所定量の加算および減算の一方により補正し、
前記磁極異常診断部は、補正された前記磁極位置に応じて計測される前記モータ電流の計測値と前記モータ電流の設定値の比較に基づいて、再度、前記磁極位置の異常の有無を診断し、
前記磁極異常診断部が、再度、前記磁極位置の異常の有無を診断した結果、再度、前記磁極位置の異常有と診断し、かつ補正された前記磁極位置に応じて計測される前記モータ電流の計測値が、補正する前の前記モータ電流の計測値以上である場合、前記磁極位置調整部は、前記磁極位置を、前記所定量の加算および減算の他方により補正することを特徴とするエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【請求項4】
ロータリーエンコーダによって検出される永久磁石同期電動機の磁極位置に応じた位相のモータ電流によって制御される前記永久磁石同期電動機によって駆動されるエレベーターに設けられ、前記磁極位置のずれを診断するエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記モータ電流の基準値となる前記モータ電流の設定値を保存し、所定のエレベーター運転状態において、前記モータ電流の設定値と、電流センサによって検出される前記モータ電流の計測値との比較に基づいて、前記磁極位置の異常の有無を診断する磁極異常診断部と、
前記磁極異常診断部が前記磁極位置の異常有りと診断すると、前記磁極位置を補正する磁極位置調整部と、
を備え、
前記磁極位置調整部は、前記磁極異常診断部が前記磁極位置の異常を検出すると、前記磁極位置を、所定量の加算および減算の一方により補正し、
前記磁極異常診断部は、補正された前記磁極位置に応じて計測される前記モータ電流の計測値と前記モータ電流の設定値の比較に基づいて、再度、前記磁極位置の異常の有無を診断し、
前記磁極異常診断部が、再度、前記磁極位置の異常の有無を診断した結果、再度、前記磁極位置の異常有と診断し、かつ補正された前記磁極位置に応じて計測される前記モータ電流の計測値が、補正する前の前記モータ電流の計測値よりも小さい場合、前記磁極位置調整部は、前記磁極位置を、前記所定量の加算および減算の前記一方により補正することを特徴とするエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【請求項5】
請求項3に記載のエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記磁極異常診断部が、前記所定量の加算および減算の前記他方により補正された前記磁極位置に応じて計測される前記モータ電流の計測値および前記モータ電流の設定値に基づいて、前記磁極位置の異常有りと診断すると、異常報知を発するとともに、走行速度、加速度および減速度を低減してエレベーターの運転を継続することを特徴とするエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【請求項6】
請求項1,3,4のいずれか1項に記載のエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記エレベーター運転状態は、かご内無負荷であることを特徴とするエレベーター永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【請求項7】
請求項1,3,4のいずれか1項に記載のエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記エレベーター運転状態は、かご内無負荷かつ下降運転であることを特徴とするエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【請求項8】
請求項1,3,4のいずれか1項に記載のエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置であって、
前記磁極位置調整部は、かご内無人の場合に、前記磁極位置を補正することを特徴とするエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターに用いられる永久磁石同期電動機の磁極ずれを診断する磁極診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレベーターにおいては、駆動用電動機として、低損失・高効率である永久磁石同期電動機が用いられる。ここで、永久磁石同期電動機は、回転速度と周波数指令が一致したときに安定した回転数で回る電動機である。
【0003】
永久磁石同期電動機では、最適なトルクを出力するために、磁極位置に合った位相でモータ電流を流す必要がある。従って、一般的には、磁極位置検出用のロータリーエンコーダをモータに設置し、ロータリーエンコーダのU,V,W相パルスを用いてモータの位相が設定される。
【0004】
ロータリーエンコーダを永久磁石同期電動機に取り付けた時、すなわち、エレベーター製造時・出荷検査時や、現地据付・立上げ時に、制御の基準となる磁極位置が、モータ電流が最小となる最適な磁極位置に初期設定される。
【0005】
しかしながら、一度最適な磁極位置を設定した場合であっても、その後、ロータリーエンコーダの軸が摩耗してガタツキが生じたり、ロータリーエンコーダの交換や脱着時に磁極ずれが生じたりすると、最適なモータ制御がむずかしくなる。また、この際、磁極ずれが大きくなると、モータは最適なトルクを出力することができず、エレベーターに振動が発生したり、エレベーターが停止したりする等、正常な運転が困難になる。
【0006】
これに対し、エレベーター用永久磁石同期電動機の磁極ずれを診断する従来技術として、特許文献1に記載の従来技術が知られている。本技術においては、永久磁石同期電動機の磁極位置に応じて磁極位置信号を出力する磁極位置検出器の信号の正誤を、モータに流れている電流値が、実際の負荷と所定値を超えてずれている場合に異常と判断してエレベーターを停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−134976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の従来技術においては、異常を検出した場合にはエレベーターを停止させるため、不稼働時間が長くなり、乗客の利便性が低下するという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、エレベーターの不稼働時間を低減することのできるエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明によるエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置は、ロータリーエンコーダによって検出される永久磁石同期電動機の磁極位置に応じた位相のモータ電流によって制御される前記永久磁石同期電動機によって駆動されるエレベーターに設けられ、磁極位置のずれを診断するものであって、
モータ電流の基準値となるモータ電流の設定値を保存し、所定のエレベーター運転状態において、モータ電流の設定値と、電流センサによって検出されるモータ電流の計測値との比較に基づいて、磁極位置の異常の有無を診断する磁極異常診断部と、磁極異常診断部が磁極位置の異常有りと診断すると、磁極位置を補正する磁極位置調整部と、を備え
、さらに次の第1〜3の手段のいずれかの手段を備える。
第1の手段では、磁極位置調整部は、磁極異常診断部が磁極位置の異常を検出すると、磁極位置を、所定量加算または減算して補正し、磁極異常診断部は、補正された磁極位置に応じて計測されるモータ電流の計測値とモータ電流の設定値の比較に基づいて、再度、磁極位置の異常の有無を診断する。
第2の手段では、磁極位置調整部は、磁極異常診断部が磁極位置の異常を検出すると、磁極位置を、所定量の加算および減算の一方により補正し、磁極異常診断部は、補正された磁極位置に応じて計測されるモータ電流の計測値とモータ電流の設定値の比較に基づいて、再度、磁極位置の異常の有無を診断し、磁極異常診断部が、再度、磁極位置の異常の有無を診断した結果、再度、磁極位置の異常有と診断し、かつ補正された磁極位置に応じて計測されるモータ電流の計測値が、補正する前のモータ電流の計測値以上である場合、磁極位置調整部は、磁極位置を、所定量の加算および減算の他方により補正する。
第3の手段では、磁極位置調整部は、磁極異常診断部が磁極位置の異常を検出すると、磁極位置を、所定量の加算および減算の一方により補正し、磁極異常診断部は、補正された磁極位置に応じて計測されるモータ電流の計測値とモータ電流の設定値の比較に基づいて、再度、磁極位置の異常の有無を診断し、磁極異常診断部が、再度、磁極位置の異常の有無を診断した結果、再度、磁極位置の異常有と診断し、かつ補正された磁極位置に応じて計測されるモータ電流の計測値が、補正する前のモータ電流の計測値よりも小さい場合、磁極位置調整部は、磁極位置を、所定量の加算および減算の一方により補正する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エレベーターの稼動時において磁極位置の診断および補正を自動的に行うことができる。したがって、磁極位置の診断にともなうエレベーターの不稼働時間を低減することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態であるエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置の構成図である。
【
図2】永久磁石同期電動機のモータ電流初期値の記録手段を示す処理フロー図である。
【
図3】永久磁石同期電動機の磁極異常診断および磁極補正に係る処理を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図に基づいて説明する。各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態であるエレベーター用永久磁石同期電動機の磁極診断装置の構成図である。
【0016】
図1において、1はエレベーターのかご、2はワイヤーロープからなる主ロープ、3は釣り合い錘(カウンタウェート)、4は永久磁石同期電動機(PM)によって駆動される巻上機、5は磁極位置検出器として永久磁石同期電動機に直結され、U,V,W相パルスを発生するロータリーエンコーダ(RE)である。また、6はかご1内の荷重を検出するかご内負荷検出器、7は三相電源、8はインバータ装置(INV)、9は永久磁石同期電動機の電流を検出する電流検出器(CT)である。
【0017】
主ロープ2の両端部には、それぞれ、かご1および釣り合い錘3が接続される。巻上機4が備える綱車に主ロープ2が巻き掛けられることにより、かご1および釣り合い錘3は、図示しない昇降路内に吊られる。永久磁石同期電動機によって巻上機4が駆動されて綱車が回転すると、主ロープ2が綱車によって摩擦駆動される。これにより、かご1および釣り合い錘3は、昇降路内において昇降する。
【0018】
永久磁石同期電動機はインバータ装置8が出力する三相交流電力によって可変速駆動される。インバータ装置8は、三相電源7から入力する定電圧定周波数の三相交流電力を直流電力に変換し、さらに、この直流電力を可変電圧可変周波数の三相交流電力に変換して出力する。なお、インバータ装置8は、後述する制御装置(10)が備える速度制御部(図示せず)によって制御される。すなわち、インバータ装置8は、ロータリーエンコーダ5の信号に基づいて検出される永久磁石同期電動機の速度を速度指令に一致させるような三相交流電力を出力するように制御される。より具体的には、速度制御部は、検出速度を速度指令に一致させるような電流指令を作成し、電流検出器9によって検出される電流が電流指令に一致するように、インバータ装置8を制御する。このとき、速度制御部は、ロータリーエンコーダ5の信号に基づいて、永久磁石同期電動機の磁極位置に応じた位相で三相交流電力を出力するように、インバータ装置8を制御する。このような速度制御部は、周知であるため、さらなる詳細な説明は省略する。
【0019】
10は、磁極位置の診断および補正に係る一連の処理を実行する制御装置(CPU)である。11はロータリーエンコーダ5からの信号を検出する磁極位置検出部、12は電流検出器9からの信号を基に永久磁石同期電動機の電流を計測する電流検出部、13はかご内負荷検出器6からの信号でかご内負荷を検出するかご内負荷検出部である。14は磁極異常診断部であり、運転制御部16からの下降走行指令や電流検出部12からのモータ電流計測値、また、かご内負荷検出部13からのかご内無負荷(無人)信号を基に、磁極位置におけるずれ等の異常の有無を診断する。さらに、磁極異常診断部14は、異常を検出した場合に、電話もしくはインターネット等の通信回線21を介して、監視センター22に異常を報知する機能を持つ。また、15は磁極位置調整部であり、磁極異常診断部14にて磁極位置調整が必要と判断した場合に、磁極位置検出部11の信号を基に磁極位置調整を行う。そして、インバータ制御部17は、運転制御部16からの走行指令と、磁極位置調整部15からの磁極位置信号を基に、永久磁石同期電動機の磁極位置に合う位相でモータ電流を流すようにインバータ装置8を制御する。
【0020】
なお、本実施形態において、制御装置10は、演算処理装置から構成され、所定のプログラムを実行することにより、各部(11〜17)として機能する。
【0021】
以下、磁極位置の診断および補正について、
図1を参照しながら、さらに
図2および
図3を用いて説明する。
【0022】
図2は、永久磁石同期電動機のモータ電流初期値の記録手段を示す処理フロー図である。また、
図3は、永久磁石同期電動機の磁極異常診断および磁極補正に係る処理を示すフロー図である。
【0023】
まず、
図1を参照しながら、
図2を用いて、モータ電流初期値の設定手段を説明する。
【0024】
図2のステップS1において、エレベーター製造時・出荷検査時や、現地据付・立上げ時に、電動機制御において基準とする磁極位置データθを取得するために、制御装置10が備える図示されない周知のモータ磁極位置調整機能が使用される。次に、ステップS2で磁極位置データθがセットされたかを判定し、セットされたと判定されれば(S2のY)、磁極位置調整部15に磁極位置データθを保存して、ステップS3に進む。磁極位置データθが未セットの場合、すなわちステップS3で、磁極位置データθがセットされたと判定されない場合(S2のN)、ステップS1に戻って、モータ磁極位置調整機能が続けて使用される。
【0025】
ステップS3において、磁極異常診断部14では、運転制御部16からの運行データに基づいて、磁極位置データθがセットされた後エレベーターが所定の回数以上(例えば100回以上)走行したかが判定される。そして、所定回数以上走行したと判定されると(S3のY)、ステップS4に進む。所定回数以上走行したと判定されない場合(S3のN)、ステップS3が繰り返し実行される。
【0026】
ステップS4では、磁極位置データθが変更されていないかを判定する。変更されていないと判定される場合(S4のY)、磁極位置データθが正規にセットされたこと、すなわち磁極位置データθの調整が完了していることが検出される。そして、ステップS5に進む。なお、ステップS4で磁極位置データθが変更されていないと判定されない場合(S4のN)、すなわち磁極位置データθが再調整されて変更されている場合は、ステップS3に戻り、再度エレベーターが所定回数以上走行したかが判定される。
【0027】
ステップS5では、磁極異常診断部14は、かご内負荷検出部13からの信号を基に、かご内が無負荷(無人、無荷物)であるかを判定するとともに、運転制御部16からの信号を基に下降(DN)走行指令が発せられたかを判定する。なお、下降(DN)走行指令は、利用者が乗り場呼びボタンでエレベーターを呼び寄せた場合に発せられても良い。また、磁極異常診断部14がかご内無負荷を検出した場合に、磁極異常診断部14から運転制御部16に対して下降走行指令を発しても良い。ステップS5にて、かご内無負荷でありかつ下降走行指令が発せられと判定されれば(S5のY)、ステップS6に進み、判定されなければ(S5のN)、ステップS5が繰り返し実行される。
【0028】
ステップS6では、電流検出器9の信号に基づいて電流検出部12によって検出される下降走行時のモータ電流値を初期値I
0として記録し、磁極異常診断部14に保存して、処理を終了する。その後、
図3示す磁極診断処理および磁極補正処理に移行する。
【0029】
次に、
図1を参照しながら、
図3を用いて、本実施形態における磁極診断処理および磁極補正処理について説明する。
【0030】
図3のステップS1において、
図2のステップS5と同様に磁極異常診断部14にてかご内無負荷かつ下降走行指令を検出すれば、ステップS2に進み、下降走行時のモータ電流値Inを電流検出部12で計測する。
【0031】
次にステップS3では、磁極異常診断部14にて下降走行時のモータ電流値Inとモータ電流初期値I
0とを比較し、所定範囲内の相違であり、略等しい場合(S3のY)、一連の処理を終了する。また、下降走行時のモータ電流値Inとモータ電流初期値I
0とが所定の範囲を超えて異なっている場合(S3のN)、異常有り、すなわち磁極位置にずれが生じていると判定し、磁極調整を実施するためにステップS4に進む。
【0032】
ステップS4では、ステップS1と同様、磁極異常診断部14にてかご内無負荷かつ下降走行指令を検出したらステップS5に進む(S4のY)。ステップS5では、磁極異常診断部14から磁極位置調整部15に指令を発し、磁極位置調整部15では保存されている磁極位置データθに所定量α°(例えば1°)だけ加算する。その後、ステップS6にて、磁極位置データθ調整後の下降走行時のモータ電流値Iaを電流検出部12で計測する。
【0033】
次にステップS7では、磁極異常診断部14にて、モータ電流値Iaとモータ電流初期値I
0とを比較する。ステップS7において、モータ電流値Iaとモータ電流初期値I
0とが所定の範囲を超えて異なっている場合(S7のN)、再度、異常有り、すなわち改善が完了していないものとしてステップS8に進む。なお、改善完了の場合(S7のY)については後述する。
【0034】
ステップS8では、モータ電流値Iaと、磁極位置データθ調整前のモータ電流値Inとを比較して、モータ電流値Iaの方が小さくなっていれば(S8のY)、少なからず改善が進んだものとしてステップS8Aに進む。ステップS8Aでは、モータ電流Inをモータ電流Iaに置き換えた後、ステップS4に戻って同様の処理を繰り返し、磁極位置データθの最適化を進める。一方で、モータ電流値Iaがモータ電流Inよりも小さくなっていない場合、すなわちIaがIn以上となっている場合(S8のN)、改善できなかったものとしてステップS9に進み、磁極位置データθを調整前(α°加算前)の元のデータに戻した後、ステップS10に進む。
【0035】
ステップS10では、ステップS4と同様、磁極異常診断部14にてかご内無負荷かつ下降走行指令を検出したらステップS11に進む(S10のY)。ステップS11では、磁極異常診断部14から磁極位置調整部15に指令を発し、磁極位置調整部15では磁極位置データθを所定量α°(例えば1°)だけ減算する。その後、ステップS12にて、磁極位置データθ調整後の下降走行時のモータ電流値Ibを電流検出部12で計測する。
【0036】
次にステップS13では、磁極異常診断部14にて、モータ電流値Ibとモータ電流初期値I
0とを比較する。ステップS13において、モータ電流値Ibとモータ電流初期値I
0とが所定の範囲を超えて異なっている場合(S13のN)、改善が完了していないものとしてステップS14に進む。なお、改善完了の場合(S13のY)については、後述する。
【0037】
ステップS14では、モータ電流値Ibと、磁極位置データθ調整前のモータ電流値Inとを比較して、モータ電流値Ibの方が小さくなっていれば、少なからず改善が進んだものとしてステップS14Aに進む。ステップS14Aでは、モータ電流Inをモータ電流Ibに置き換えた後、ステップS10に戻って同様の処理を繰り返し、磁極位置データθの最適化を進める。一方で、モータ電流値Ibが小さくなっていない場合、すなわちIaがIn以上となっている場合(S14のN)、改善できなかったものとしてステップS15に進み、磁極位置データθを調整前(α°減算前)の元のデータに戻した後、ステップS16に進む。
【0038】
ステップS16では、磁極位置データθを調整しても改善できなかったことを磁極異常診断部14から通信回線21を介して、監視センター22に異常報知する。次に、ステップS17に進んで、磁極異常診断部14から運転制御部16に対して、走行速度および加速度・減速度を通常運転よりも下げるように指令を発する。運転制御部16は指令を受けて、走行速度および加速度・減速度を低下させてインバータ制御部17を制御することで低トルク・低電流状態でのエレベーターの運転を継続可能とする。
【0039】
次に、ステップS18では、異常を受信した監視センター22から専門技術者に連絡し、現地に専門技術者を出動させる。そして、専門技術者はロータリーエンコーダ5の故障や断線等、磁極異常の要因を調査して対策を行う。
【0040】
一方、ステップS7並びにステップS13で、モータ電流値Iaとモータ電流初期値I
0とが所定の範囲内で一致した場合(S7のY、S13のY)、改善が完了したとしてステップS19に進む。
【0041】
ステップS19では、磁極異常診断部14から通信回線21を介して、監視センター22に磁極位置データθを更新した旨を報知する。そして、ステップS20において、エレベーターの通常運転を継続し、ステップS21において、次回点検日調査を計画する。専門技術者は、計画に従って次回点検日に、ロータリーエンコーダ軸に摩耗等によるガタツキが生じ始めていないか等、磁極位置データθの調整が必要となった要因を究明し、異常が発生する前に対策を行う。
【0042】
上述のように、
図2および
図3の処理においては、共に、同じ所定の運転条件、すなわち、かご内無負荷状態かつ下降運転時にモータ電流が計測される。従って、磁極異常診断部は、モータ電流の初期値と計測値を容易に比較演算できるので、診断の精度が向上する。さらに、かご内無負荷時にモータ電流を計測することにより、負荷の大きさや、かご内における負荷の移動に伴うモータ電流の変動の影響を受けずに計測することができる。このため、異常診断の精度および信頼性が向上する。また、かご内無負荷状態においてモータ電流が最大となる下降運転時にモータ電流を計測するので、異常診断の精度が向上する。
【0043】
なお、本実施形態においては、モータ電流の初期値を異常診断の基準として設定しているが、ロータリーエンコーダが適切に取付けられた状態における電流値であれば、初期値に限らず、基準となる設定値にすることができる。例えば、専門技術者による対策完了後(
図3のS18完了後)、
図2に示した処理動作を実行すれば、「初期値I
0」に代わる「設定値」を設定することができる。
【0044】
また、かご内負荷検出部13(
図1)が検出するかご内荷重に応じて電流計測値を、基準とする荷重(例えば、無負荷)における電流値に補正して、補正された電流値に基づいて異常診断を行っても良い。
【0045】
また、乗用のエレベーターならば、かご内無人の場合に磁極位置データが補正されるが、これにより、磁極位置の補正に伴う運転状態の急変が乗客の安心を損なうような不都合を避けることができる。
【0046】
上述のように、本実施形態によれば、エレベーターの所定の運転状態におけるモータ電流の設定値と計測値を比較する磁極異常診断部と、磁極異常診断部の比較結果に基づいて磁極位置データを調整する磁極位置調整部により、エレベーターの稼動時(サービス運転時)において、磁極位置の診断および補正を高精度で自動的に行うことができる。したがって、磁極位置の診断および補正にともなうエレベーターの不稼働時間を低減することができる。また、本実施形態によれば、磁極位置に異常が認められた場合でも、エレベーターの運転を継続することができる。さらに、磁極位置異常を早期に検出し、エレベーターが停止状態となる前に対処することが可能となる。
【0047】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0048】
例えば、
図1はエレベーターの基本的な構成を示しているにすぎず、上述した磁極診断装置は、様々なローピング構成を有するエレベーター、機械室レスエレベーター、機械室を備えるエレベーターなどに適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1…かご
2…主ロープ
3…釣り合い錘
4…巻上機
5…ロータリーエンコーダ
6…かご内負荷検出器
7…三相電源
8…インバータ装置
9…電流検出器
10…制御装置
11…磁極位置検出部
12…電流検出部
13…かご内負荷検出部
14…磁極異常診断部
15…磁極位置調整部
16…運転制御部
17…インバータ制御部
21…通信回線
22…監視センター